全地球防衛戦争―EDF戦記―   作:スピオトフォズ

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第六十一話 奈落の王(Ⅰ)

――4月1日 0:30(超大型巨大生物出現20分前) 旗艦リヴァイアサン CIC(戦闘指揮所)内EDF極東方面第11軍仮設司令部――

 

「大阪・神戸に向かっていたレイドアンカー、全基迎撃成功を確認!」

 

「都市の状況はどうなっている!?」

 

「直前の迎撃であったため、一部破片が降り注ぎ破壊や火災が発生していますが大きな混乱には至ってないそうです! 現在死者負傷者は確認中!」

 

「EDF極東第一工廠から入電! 破片による多数の損害が報告されましたが、稼働に大きな影響はないそうです!」

 

「京都南ICの部隊から再三の応援要請! 戦闘区域内にレイドアンカーが9基! 現在3基を撃破したが、戦場は混乱状態だそうです!」

 

「この場に出せる戦力はもうないぞ……! 九州方面からの応援部隊はどうなっている!?」

 

「はっ、アンカー落下の影響で小規模な戦闘状態に突入したとの事です! 到着は早くてあと一日はかかるそうです!」

 

「1日だと……! ここは持つのか!?」

 

「第402火力演習場、完全に放棄されました。大部分の部隊の撤退を確認! ベテルギウス重砲、プロテウス自走砲を除く砲兵部隊は7割の撤退成功を報告しています! 現在南丹市市街地に向け移動中!」

 

「その場所にカムイとホエールを数機送った。撤退部隊に入っているエアレイダー、スピカに働いてもらってアンカーと巨大生物を掃除させる。演習場の残された生存者はまだ無事か?」

 

「は、はい! 現在建物や車輛の中に隠れて巨大生物を刺激しないよう息をひそめている状態です! ですが、いつまで持つ事やら……!」

 

「榊中将からまだ救援部隊の編成は命令されていない……。戦局が優勢に推移するまで待つしかない。砲兵部隊だって七割撤退成功とはいえ多くの弾薬を置いてきたままだからな。いずれ奪い返す事にはなるだろう」

 

 リヴァイアサンCIC内の第11軍仮設司令部内では、オペレーターたちとその指揮官が混乱する状況を必死に纏めようと躍起になっている。

 

「……一気に傾きましたな。砲撃部隊を失った今、この戦域で砲戦力は我々だけとなりましたが」

 

 秋元副司令が渋い顔で呟く。

 レイドアンカー落下のせいで優勢に推移していた戦況が一気に悪く傾いた。

 副司令は暗に陸戦部隊への支援砲撃を促すが。

 

「まだだ。今のような乱戦状態では効果的な支援砲撃は行えない。もう少し、状況が整うのを待つんだ。ただでさえ砲弾の消費は今後に差し支える」

 

 榊司令も苦い顔で答える。

 助けてやりたいのは山々だが、その方法はかなり限定されてしまっている。

 

 現地には複数名のエアレイダーやDE-202(対地攻撃機ホエール)が支援を行っているが、潰せた二基のアンカー以外はダロガのレーザー照射圏内に入ってしまう為攻めあぐねている。

 

 数機程度なら回避機動で対処する事も可能だが照射される本数が多い程被撃墜の可能性は高まる。

 だがアンカーを破壊しない事には状況は打破できない。

 

『榊司令、提案があります』

 

艦内通信で聞こえてくる声は艦橋にいる大城艦長のものだ。

 

『状況は把握しています。確かに戦艦の大味な砲撃では、誘導兵の支援無くして味方に損害を出しかねません。ですが、駆逐艦の精密速射砲であれば直撃が期待できます』

 

 リヴァイアサンの520mm三連装砲は巨砲故の器用さが無いが、アーレイ・バーク級駆逐艦やアクティウム級対地戦闘艦の127mm精密速射砲システムであれば、対地目標への精密砲撃が可能だ。

 

「だが、127mmの射程は確か15km程のはずだ。琵琶湖から砲撃するとして、沿岸部ギリギリまで接近する事になる。ダロガやヘクトルの砲撃を受けることになるぞ」

 

『ふふ、よくご存じで』

 

 大城提督が珍しく口角を上げる。

 

 琵琶湖から激戦区の京都南ICまではちょうどその程度の距離だ。

 有効射程ギリギリまで接近する事になるが、沿岸部や大津市の辺りでも、レイドシップや揚陸艇が無秩序にばら撒いたダロガやヘクトルなどの砲戦力やガンシップが待機状態のまま放置されている。

 その場にいた巨大生物は殆ど市内中心部に向かった為、機械兵器と生物兵器の顕著な違いが表れているところだが、重要なのは多くの砲戦力・航空戦力が無傷のまま各所に点在しているという事だ。

 防衛の為か、単に索敵に引っかからなかっただけなのかは不明だが。

 

『それは我々が引き受けましょう!!』

 

 景気のいい声で割り込んだのは、戦艦ポセイドン艦長の河辺少将だ。

 

『琵琶湖運河を進撃し、駆逐艦の盾のなりつつ、艦砲射撃で地上の砲戦力を一掃します! ついでに周辺のアンカーも落として見せましょう!』

 

 河辺少将は、暴れられる機会を発見し少し高揚気味だ。

 通信越しに聞こえる声から、艦内クルーたちも浮足立っているのが分かる。

 

「……いえ。その提案は認められませんねぇ」

 

「なぬっ!?」

 

 河辺少将を困らせたのは、EDF第11軍作戦参謀長の永崎学(ながさき まなぶ)中佐だ。

 

「旗艦のポセイドンを含む、戦艦群は今後の作戦に必要不可欠です。万が一にも、ここで失う危険は冒せませんねぇ。危険というのは、まあ私がいちいち説明しなくても分かるでしょうがね」

 

 永崎中佐は、独特の気怠い口調で淡々と告げる。

 しかし眼鏡の奥から覗く瞳には、有無を言わせぬ説得力があった。

 

 確かに、運河を使っての内陸部への侵攻は敵の集中攻撃を意味する。

 ポセイドンを超える超弩級戦艦であるリヴァイアサンの通行前提に作られた運河とはいえ、運河内で戦闘・回避行動は取れないに等しい。

 まして跳躍能力のあるβ型や群れで飛行するγ型の艦上侵入を許すことになり兼ねない。

 余りに危険な行為ともいえる。

 

『だが……、これ以上、座して見ていろというのか!? 陸戦部隊はどうする!?』

 

「……榊司令、戦線の立て直しを進言します。レイドアンカーの広域落下によって、作戦遂行はもはや困難となりました」

 

 食って掛かる河辺少将を意図的に無視し、永崎中佐は榊司令に向き直る。

 

「京都から全部隊を撤収させ、大阪で直ちに迎え撃つ準備をしましょう。ここから部隊が引けば、河辺艦長たちも安全に琵琶湖から砲撃出来るでしょう? ご命令下されば、詳細な計画を10分以内に纏めて差し上げますが? この場合、地上兵士と砲弾の損耗は痛い所ですが、まぁ背に腹は代えられぬという事で」

 

 一刻も早くアンカーを破壊しなければ、戦域は巨大生物で埋め尽くされる事になる。

 撤退か、継戦か――通常であれば判断が分かれる所だが、榊司令の決断は始めから決まっていた。

 

「撤退はない。ここで全ての巨大生物を打ち倒し、敵勢力の進撃を食い止める。何が起ころうと、その前提は揺るがない。永崎中佐、そう作戦前に確認したはずだ」

 

「やれやれ、決意は固いようで……。この状況でもそんなことが言えるなんて、よほどの智将かただのバカかどちらかですなぁ……」

 

 榊司令の答えが分かっていたようで、永崎中佐は深いため息を吐く。

 そんな永崎の肩を秋元が慰めるように叩くが、永崎は露骨に嫌がった。

 

『すると……?』

 

 成り行きを聞いていた河辺艦長が催促する。

 

「河辺艦長、大城提督。――頼むッ!」

 

 その一言で、二人は全てを理解し、心強く頷いて、敬礼と共に通信を切った。

 ポセイドン級戦艦一番艦、二番艦が運河に侵入し、その後ろでアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦、アクティウム級対地戦闘駆逐艦が京都南IC付近のレイドアンカーに砲撃を行う。

 

 だが司令達のそんなやり取りの裏で、驚くべき事実が解明されていく。

 

 

――0:40(超大型巨大生物出現10分前)――

 

 

「ッ! また来ました! 振動を検知! なんだこれ、大きい……しかも地表じゃない、大深度地下だぞ!?」

 

 戦術オペレーターの柊中尉が波形を見て動揺する。

 

「見せてみろ! これは……間違いない、三日前から続いている奴だ。しかもこっちを見てみろ。東京のインセクトハイヴから、日数を置いて転々としながら反応がある。振動観測機の精度から、あまりハッキリとした事は言えんが――」

 

 過去のデータを引っ張り出して戦術分析官の高畑大尉が冷汗を流しながら続ける。

 

「――間違いなく何か向かって来ている……!」

 

 妙な波形を発見したのは4時間ほど前。

 最初は四足歩行要塞の足音かと疑ったが、調べていくうちに振動は大深度地下からの物であることが分かったのだ。

 高畑大尉はすぐに榊司令に報告。

 今はその正体を見極めている所だった。

 

「波形データ照合……駄目です、該当ありません! 進路予測も困難です」

 

 高畑大尉の部下、松永少尉がキーボードを叩くも、過去のデータからは一致が見られなかった。

 

「該当なし……つまり新種の巨大生物か。この状況で厄介な事だ……!」

 

 榊司令も苦い顔をする。

 海軍の協力でようやく京都南ICの戦闘が好転しそうなのだ。

 

「正直言ってもう勘弁してほしいですな……。せめて出現場所を特定できないのか?」

 

「データがありませんので、なんとも……」

 

 秋元副司令の問いに高畑大尉が申し訳なさそうに答える。

 

「データ、データ……? あっ、ちょっと待ってください! さっきハッキングした時に総司令部のデータリンクと一瞬同期しましたが、もしかしたらその時のデータに入ってるかも!!」

 

「バカ! ハッキングとか大声で言うんじゃねぇ!!」

 

 ルアルディ中尉の声に秋元副司令が慌てて反応する。

 秋元副司令の声の方が大きくて、本部要員のみならずリヴァイアサンCIC要員まで振り向く羽目になったが、突っ込む間もなく衝撃の事実が発覚する。

 

「あ、ありました! 該当波形3件! いずれもある大型個体を指しています!」

 

 ルアルディ中尉の一瞬の検索で、ようやく正体が判明した。

 

「暫定個体名β(バゥ)・ロード。β型巨大生物の超大型亜種です! 分類カテゴリ――戦略級巨大外来生物……!!」

 

 ルアルディ中尉の言葉に、司令部要員がどよめく。

 戦略級巨大外来生物……それは、2月22日に佐渡島を単体で陥落せしめた、あの蟲の女王(バグ・クイーン)と同様のカテゴリだった。

 

「バゥ・ロード…… ”奈落の王”ってか? ふん、”蟲の女王”に匹敵する、憎らしい名前じゃねぇか」

 

 秋元副司令が皮肉を込めて吐き捨てる。

 ルアルディ中尉が報告を続ける。

 

「初観測は欧州戦線イギリス・ロンドン。起死回生を狙ったインセクトハイヴ攻略戦に於いて、南部メードストンで地中より出現、王立海軍を壊滅させたのち、地上部隊を蹂躙しイギリス陥落の決定打を作りました。イギリス陥落後はドーバー海峡を渡りフランスに上陸、撃破報告は確認できず、現在も欧州戦線を蹂躙しているそうです」

 

 その報告に、司令部要員は戦慄した。

 

「まだ、倒されていないのか……」

 

「そんなバケモノがココに……?」

 

「そいつのせいでイギリスが陥落したってのか? って事は日本も……!?」

 

「ただでさえクイーンがいるってのに」

 

「どこまで日本を追い詰めれば気が済むんだ……クソッ!」

 

「狼狽えるなッ!! EDFの誇りにかけて、絶対にこの状況を打破するッ! 戦場で戦う兵士たちより先に、我々が諦めてどうする!?」

 

 CIC内に響き渡る声で榊司令が一喝する。

 その一声で、要員に再び士気が戻りつつあった。

 

「ルアルディ、奴の出現位置は予測できるか?」

 

 それを尻目に、秋元副司令は位置を探ろうとする。

 

「はい! 少ないですが、データから5パターンの出現位置を予測しました。直近の振動波形から推測すると、半径20km圏内の出現が濃厚ですが……ああもう、もっとデータが欲しいですっ!!」

 

 キーボードを超高速で叩きながら癇癪を起しかけるルアルディ中尉。

 

「よし、5パターンの出現予測地点を戦艦打撃群に転送、出現直後に全力砲撃を行いこれを叩く! 詳細は不明だが、相手が巨大生物なら砲撃で効果は出る筈だ!」

 

 榊司令の命令を、各オペレーターが部隊に伝える。

 

「……憶測に過ぎないと思いますけどねぇ。現に雷獣エルギヌスのような、砲撃の類に効果が見られない怪物もいる事ですし」

 

 永崎中佐が難癖をつけるように呟く。

  

「その可能性は否定できんな……。砲撃を限定的に変えるべきだと思うか?」

 

「……、……いえ。本来なら様子見または偵察を挟んで慎重に行きたいところですが、状況が状況です。相手に隙を与えたくありませんし、初手で出来るだけ打撃は与えておきたいですねぇ」

 

 榊司令の相談に、永崎中佐が少し考え込んでから答える。

 

「だが戦艦群の想定砲弾消費量は確実に超えるぞ。他の方法が無いとはいえ、痛いもんですな……。永崎、今後の作戦計画、また練り直す事になりそうだぞ? それと、砲撃が失敗したときの予備策も考えておけ」

 

 秋元副司令がぼやきつつ、永崎中佐に指示を出す。

 

「了解ぃ。ロクな情報もないとはいえ、これでも全く情報が無い時よりはマシなんですがねぇ……。倉田、タイタンのスペックデータ、西内は全部隊の簡易リスト。ああ、もちろん今のね。手持ちで何とかするしかないからさぁ」

 

 永崎中佐は、作戦参謀部の部下たちを使って作戦を練り直す。

 そしてついに――第402火力演習場直下から、噴火のように土砂を巻き上げ、バゥ・ロードが地上に現れる。

 

 

――0:55(バゥ・ロード出現から五分後) 第402演習場近郊――

  

 

《こちら本部! 欧州戦線のデータ照合確認! 以後超大型個体を、戦略級巨大外来生物β、通称奈落の王(バゥ・ロード)と呼称する! 奴をこのまま野放しには出来ない! 戦域に集めた可能な限りの砲戦力で、奴を徹底的に砲撃する! 付近の部隊は出来るだけ距離を取れ!!》

 

 キャリバン救護車輛で走りながら本部の通信を聞く。

 

 本部、榊中将の声の通り、出現した戦略級巨大生物β――奈落の王(バゥ・ロード)とやらはどう見ても歩兵戦力で倒せるようには見えない。

 

 まだ何の動きも見せていないが、踏みつぶされただけでひとたまりもないだろう。

 そして奴がβ型の形をしているという事は――

 

「と、跳んだぞ!!」

 

 楠木曹長が叫ぶ。

 バゥ・ロードは遠目から見える八本の太脚を動かして高く跳躍する。

 あの巨体が脚力だけで飛び上がる光景は圧巻だが、その着地地点は、

 

「まずい! ここへ落ちてくるぞ!! 躱すのだッ!!」

 

 巨体は月を遮り、辺りを深淵に変える。

 そのまま巨体は我々目掛けて自由落下してゆく。

 その速度は一見ゆっくりに見えるが、それは巨体故の錯覚であり、もはや猶予は残されていない。

 

「オストヴァルト博士ッ!! あちらの高架橋です!」

 

 私は嫌な予感を感じ、回避するための方法を咄嗟に提示する。

 

「橋は寸断しているようですが!?」

 

 瞬時にマップを参照して判断する。優秀だ。

 

「だから()いのだ! 説明している暇はない! 跳ぶのだッ!!」

 

「なる程読めたぞ! ふはははは、面白いッ!!」

 

 私の意図が伝わり、オストヴァルト博士は寸断した高架橋へ一直線にフルスロットルで向かう。

 

「無茶なっ! 全員掴まれっ!!」

 

 伊勢原少佐が警告する。

 30t超の重量級車輛が、履帯から砂煙を上げて疾走し、アスファルトを破壊しながら移動する。

 何をするか理解した楠木と細海は戦慄する。

 

「マジかよ……ッ!!」

 

「ばかなのっ!?」

 

 数秒後には、キャリバンは寸断された高架橋の先へ飛び出し、私を含めた車内の人間は独特の浮遊感を味わう。

 

 同時に、バゥ・ロードの巨体が上から迫る。

 この場所目掛けて落下していた巨体は、感覚的には掠れるほどの至近距離で通過し、反射的に私はドーントレス重機関銃の引き鉄を引いた。

 効いたのか不明であるが、巨体は我々のすぐ後ろで着地する。

 地上は凄まじい振動を受け、轟音と共に衝撃で地形が変わる程の被害を受けた。

 

 が、空中にいた我々に影響はない。

 キャリバンはうまい具合に対岸の土手へ着地し、そのまま走行を続行した。

 

「なんとかなったか……! ぬぁははさすが私!」

 

「一回だけはな! 仙崎と言ったか、無茶だが良い判断だった! だがまだ危機は脱していないぞ!」

 

 胸をなでおろす私に忠告を入れる伊勢原少佐。

 反応する前に、市原がハッチから背後を見て叫ぶ。

 

「そんな! 化け物が追って来てる!?」

 

「すまぬ! 反射的に引き金を引いてしまった! 我々に反撃するつもりらしい! 効いたのか不明だがな!」

 

「ば、ばかなの!? ちょっかい出しただけって事……!?」

 

 私の行いを細海が非難する。

 言う通り、バゥ・ロードは小刻みな跳躍をしながら追ってくる。 

 

「いや仙崎! このまま引き付けておく方が都合がいい!」

 

 門倉大尉が手元のコンソールを操作しながら声を上げる。

 

「なにか策があるな?」

 

 伊勢原少佐の言葉に、門倉大尉は頷き、説明する。

 

「たった今本部に通信を送り、ビーコン経由での艦砲射撃を提案・承認されました! オストヴァルト博士! 危険ですが、奴に近づいてください! 生憎ビーコンガンが無くてですね! 幸いビーコンそのものはあるようなので、投擲するしか!」

 

「ビーコンガン……クッ! キャリバンの改造よりそちらを作るべきだったか! Scheisse!(くそう!) 即席で作れなくはないが、時間が惜しい! ……ならば、近づくしかありませんねぇ。遠ければ近づく。単純明快でよろしいッ!!」

 

 やたらと声に力を入れた独り言をひとしきり言い放った後に、了解を表明し、オストヴァルト博士は後方のバゥ・ロードとの距離を確認する。

 しかし常識人枠の楠木曹長は一言言わざるを得ない展開だろう。

 

「ほ、正気ですか門倉大尉!? 奴に近づく!? 自殺行為だ!! あんなデカい奴、逃げるしかないでしょう!!」

 

 楠木曹長の言葉に、珍しく門倉大尉は彼の胸倉を乱暴に掴み、言葉を強めに言い放つ。

 

「逃げてどうなる!? 距離を離せばまた大跳躍で潰されるだけかも知れんぞ!? 先ほどの手は何度も使えんしな! それに奴を野放しには出来んだろう! 砲撃で片を付けるにせよ、戦艦群や砲兵隊は、観測座標を元にする砲撃だけじゃ大雑把なモンでな! 俺達まで巻き添え喰らうかも知れんし、あの怪物を倒しきれるかも怪しい! 総合的に言って、今奴に近づくのが一番生き残れる方法だぞ!? いい加減いちいち怯えるな!! 例え警備兵だろうと、お前もEDFの一員なら、腹をくくって見せろッ!! ここはそういう局面だ!!」

 

門倉大尉の珍しい剣幕に、思わず楠木もだじろぎ、そして理解した。

 

「っ……! 悪かった……です。不本意ですが、分かりました。確かに今まで大尉の言葉は全部正しかったですからね。……こっちにも意地ってモンがある。ここまで言われちゃ、”その気”になるしかありませんよ。もう何も言いませんからね!」

 

「がっはっは! その意気だ坊主!!」

 

 半ばやけくそ感のある対応だったが、まあ上出来だろう。

 そんな楠木の反応に、細海が切なげに肩を叩く。

 

「あんたの反応、常識人なら当然の価値観だから、あんま気に病むんじゃないわよ。コイツらがオカシイのよ。元気なら私が真っ先に騒ぎ立てるわ」

 

「は、はぁ……」

 

慰める細海に、楠木はなんとも言えない反応をするしか無かった。

 

 門倉大尉は、上面の機関銃に取り付いている私へ声をかける。

 

「仙崎! 悪いが距離を詰めてビーコンを投げる事になった! ギリギリまで近づくから牽制の為の攻撃を頼む!」

 

「なんと! あいわかった! そのまま踏み抜かれれば事だ、奴に攻撃をさせぬようにという事ですな!?」

 

 弾倉をセットし、レバーを引くと、金属音を立てて弾丸が装填される。

 バゥ・ロードの小刻みな跳躍でも、直径3mはありそうな太脚で踏まれれば重装甲のキャリバンであろうとただでは済まない。

 

「その通りだ! 楠木! お前も上からダレイオスをお見舞いしてやれ! 牽制を絶やすなよ!? オストヴァルト博士! 徐々に減速を頼みます!」

 

 門倉大尉が指示を飛ばすと、楠木曹長とオストヴァルト博士がそれぞれ行動を起こす。

 

「こうなりゃ自棄だ! やってやりますよこんちくしょう!!」

 

 楠木曹長が車内の武器箱からロケット弾を装填し、博士がミラー越しの横目で私に目を合わせる。

 

「キャリバンの神髄を見せる時だな! 仙崎とやら、危機を感じたら私に合図をくれ! 分かっていれば踏みつけを躱すくらいの事は造作もない!!」

 

「イエッサー! 任務全う致します!」

 

 私に声をかけるとは、なかなかの慧眼と見受けたぞ、オストヴァルト博士!

 しかし、若干口調が被っているのが気になるところだ!

 思いながら、私はドーントレス重機関銃を、楠木がダレイオスⅠを放つ。

 

「くそ、くそっ! なんて怪物なんだ! ダレイオスの爆発にビクともしない!! 牽制くらいにはなってると良いけどな!!」

 

 楠木曹長の持つダレイオスの火力も、なんら効いていないように見える。

 バゥ・ロードは相変わらず我々目掛けて移動し、八本の太足を動かして周囲の地形を破壊しながら進んでいる。

 

「同感だな!! 楠木! せめて口内を狙え! いかに分厚い皮膚だろうと、口の中は無防備な筈だ!」

 

「狙ってんだよこれでも!! 揺れない車内と精度の高いロケランがあれば当たるかもな!! あと、せめて3時間くらいは練習させてくれ!!」

 

「そう言えば初心者であったか!! それはすまぬな!」

 

「……仙崎くん。君が先ほど当てた眼球、どうやらヒビが入っているようだが」

 

 スコープ単体で敵を除いていた茨城少佐が声をかける。

 

「”それ”で狙えそうかい?」

 

「ドーントレスの精度では狙撃は無理です! まぐれ当たりに期待するしかないかと」

 

「だろうね。君の運じゃあ無理そうだ」

 

「ぐっ、好き放題言ってくれる……!」

 

 表情は気だるげなものから変わらないが、何故か鼻で笑われたような気がして腹が立つ。

 おっと、そんな事に気を向けている場合ではない。

 

 とにかく、弱点と思われた大きな眼球は、まるで強化ガラスのように堅牢で、12.7mm弾の至近弾に匹敵する火力を出さないと傷つける事も叶わぬらしい。

 口元も、銃撃は何度も浴びせているが、巨大な牙で遮られて決定打を与えられない。

 今のところ糸を吐くような行為はしてこないが、至近の相手には体の構造的に出来ないというだけであろう。

 

 その間キャリバンは徐々に減速、踏み砕かれる大地の震動が伝わるようになったところで、バゥ・ロードが大きく前脚を上げる。

 

「来ますッ!」

 

「待って居たぞこの時を!!」

 

 どこかで聞いたような台詞を言いながら、オストヴァルト博士はブレーキペダルとスロットル、ステアリングを乱暴に急操作。

 体は大きく揺さぶられ、気が付くとキャリバンは左方向にドリフトし、バゥ・ロードの踏みつけを回避する。

 同時に、キャリバンは大きく回転し、バゥ・ロードの進行方向から見て90度真横を向き、視界正面にその横腹至近を捉える。

 

「仙崎、どけ!」

 

 私は門倉大尉と入れ替わり、彼は振りかぶって、思いきりビーコンを投擲した。

 同時に、キャリバンはいかなる原理か、横滑りするようなドリフトでバゥ・ロードの横腹を駆け抜け、再びステアリングの華麗な操作で、砕けたアスファルトの砂塵を巻き上げてバゥ・ロードの進行方向と逆に舵を切り、反転離脱した。

 

「よし! 信号確認、成功だ! 『こちらアルデバラン! ビーコン設置完了した! 全力砲撃を要請する!』博士、砲撃が来ます! 巻き込まれないよう退避を願います!」

 

「分かっていますとも!!」

 

 キャリバンは更に加速し、バゥ・ロードを引き離す。

 バゥ・ロードは、キャリバンの機敏な機動に一瞬後れを取るが、小刻みな跳躍で向きを反転し、既に追って来ている。

 

《こちら本部、ビーコン信号を受信した。全砲撃部隊を連動して一斉砲撃を行う! 予定数を大幅に超えた最後の砲撃だ! この一撃で決めるぞッ!! 全部隊、砲撃を許可する!!》

 

 榊中将の声を合図とし、琵琶湖に佇むリヴァイアサンを含む戦艦群と、地上の可能な限りの砲兵隊の一斉砲撃が開始された。

 

「門倉大尉! バゥ・ロードが!!」

 

「なんだっ!?」

 

 市原少尉が後部ハッチからみたバゥ・ロードは、昆虫の部位的に言う”腹部”を上げ、強酸糸の発射態勢に移っていた。

 その発射口は我々に向けてはいない。

 

 何かと思ったその瞬間、糸の発射とは思えない風圧が発生し、糸のシャワーが放たれた。

 

 

――――

 

 

 それは、糸とはもはや言えない程の質量と強靭さを持っていた。

 放たれた大質量かつ無数の糸は、バゥ・ロード目掛けて放たれた砲弾を絡めとり、爆破し空中迎撃を行った。

 

 むろん、全てとはいかないが八割方の砲弾は迎撃され上、糸の密度は中心程高くなっているので、迎撃を逃れた砲弾は外れたり掠ったりして有効打にはならない。

 

 更に上空を飛行し地上部隊へ航空支援を行っていたホエール対地攻撃機一機とカムイ戦闘爆撃機二機が射線上の糸に巻き込まれて撃墜された。

 

 それにとどまらず、放った糸は広範囲の地上に着弾し、約40km離れた京都南ICの戦場にも数本が落下した。

 落下地点では、十数mが純粋な重量によって陥没。

 そこに兵士がいた場合、間違いなく圧死するほどの衝撃が加わる。

 その後、糸は重力に従ってバゥ・ロードから一直線になって落下。

 更に極太の糸が強酸によって分解し、周囲に強酸を染み割ったらせる。

 もし周囲に歩兵や車輛があった場合には助からないだろう。

 

 幸い、着弾地点の殆どは主戦場から離れていた上、戦艦群まではさすがに届かなかったようで大きな被害にはならなかったが、戦艦群による砲撃は、ほとんど無力化されたといっていい結果になった。

 




地球防衛軍2より、バゥ・ロード登場しました。
結構強化されましたね、はい。
原作程度の性能だと普通に砲撃と爆撃に晒されて終わるのでマブラヴの光線属種並み……とまではいかない程度に迎撃性能を持たせました。
これで歩兵や地上部隊での攻撃に筋が通るはずだ……。

でもそれはそれとしてもっと空軍と海軍にも活躍してほしいのが悩みどころ。
琵琶湖運河に進撃する戦艦とアンカーを狙撃する駆逐艦の戦いも書きたかったけど、ちょっと長くなりそうなので割愛。
いい加減進めないとマジで終わらないので別の機会に活躍を用意したいですね。

でも我ながら射程40kmってやばいな(汗

バゥ・ロードについてなんですが、今までEDF2のバゥの事β型ってしか呼んでなかったから凄い唐突感ありますね。
なんかバウから始まるそれっぽい意味ないかなーと思ったんですが特に無かったですね。

一応作中では奈落の王とも記されていたのでバゥ=奈落に相当する何かがあれば完ぺきだったんですけどなかったんで無理やりそういう事にしました。
適当でサーセン……。

ちなみにEDF5だと奴の呼称はキングなんですが、なんか、ダサいよね……。
クイーンは女王蟻から来てるだろうし別に気にならないんだけど。
ってことで個人的に気に入っていた呼称バゥ・ロードを使う事にしました。

しかもいろんな理由でクイーンより先に登場してしまったんですが、まあしょうがない。

色々許してくれ……。
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