全地球防衛戦争―EDF戦記―   作:スピオトフォズ

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現在switch版地球防衛軍3をプレイしてます。
いや~やっぱ面白いですね~
マザーシップとかヘクトルとかガンシップとか四つ足とか結構この小説も3準拠な所もあるんで、いろいろ勉強になりますね。
バゥ・ロード(3だと普通に大蜘蛛?)の所まで行ってちょっと大きさとか調べてから次の話に行きたいですね。



第六十二話 奈落の王(Ⅱ)

――2023年 4月1日 1:00 旗艦リヴァイアサン 戦闘指揮所内(C.I.C)EDF極東方面第11軍仮設司令部――

 

 

「砲撃第一射、約八割迎撃されました!」

 

「対地攻撃機DE-202(ホエール)一機、戦闘爆撃機KM-6E(カムイ)二機の応答がありません! 射線上で巻き込まれた模様!」

 

「砲撃第二射……駄目です! 砲弾到達前、大部分が空中で迎撃されています!」

 

「観測班から映像来ました! これは……糸です! 極太の糸数十本が広範囲にわたって塊のように飛び、砲弾を迎撃している模様です!」

 

「偵察ドローンの空中映像受信! 周囲の地形は、落下した糸の質量と染み出た強酸によって壊滅的な被害が出ています!」

 

 オペレーターからの報告が次々と上がる。

 バゥロードに向けた戦艦群の砲撃は、糸による迎撃によってほとんど効果を出せないままであった。

 

「くっ……なんという事だ。止むを得ん、砲撃第三射中止! このままでは(いたずら)に砲弾を消費する一方だ!」

 

「最悪だな。ただでさえ戦艦群の砲弾類は温存しておきたいというのに……。この調子じゃ次の作戦にはスッカラカンになっちまうぞ」

 

 榊中将と秋元准将は揃って苦い顔をする。

 

「だが、これで注意は引けたはずだ。あとはこの怪物をどうするかだが……」

 

「――いや! なんでだ……おかしいぞ。バゥロード、進路を変更! 大阪方面へ向かっています!」

 

 柊中尉の報告に、本部要員全員に動揺が走る。

 

「馬鹿な……! 今までの巨大生物の傾向から、攻撃すればこちらに向かうはずだというのに!」

 

「フン、デカい分頭も良いと来たか? 司令、どうします?」

 

「付近に戦闘可能な部隊は!?」

 

「いません! アンカーから逃れた演習場の生存者が散り散りになって逃げてはいますが……!」

 

 オペレーターを代表して柊中尉が答える。

 

 ”幸い”と言っていいのか、バゥ・ロードの付近には目立った部隊は無く今のところ直ちに被害が出る事は無さそうだった。

 糸と考えれば長射程な放射も、ギリギリ主戦闘区域である京都南ICに直撃を受けない程度だ。

 

 尤も、今のは飽くまで迎撃に放射しただけで本気で狙えばどの程度の射程なのかは判断できないが。

 それより重要なのは、やはり大阪方面へ向かった事だ。

 

 そちらにはほとんど戦力を置いていない為(通常用意するべき重要拠点の防衛戦力や予備戦力を全て投入して今回の作戦は行われている)どうにかして足を止めるか注意を引かなければ、例え京都防衛に成功したとしても遠からず日本戦線は崩壊する。

 

「ならば空だ! 空母航空部隊を編成し爆撃を行う! 提督、爆撃可能な艦載機はまだ残っているな?」

 

 榊司令の声に、艦橋で艦隊の指揮を執る大城提督が答える。

 

『はい。敵航空攻撃の脅威が粗方排除されたので、今はEJ-24C(シリウス)に爆装を行い待機させています。事前の作戦通り艦上用に換装したKM-6E(カムイ)も発艦を待っております』

 

 戦艦や空母の対空砲の支援として発進していた艦上機シリウスを爆撃装備にして待機させていたのは大城提督の判断だった。

 そろそろ出番が来る頃だと読んでいたのだとしたら、さすがの判断だ。

 

「よし、助かる。永崎中佐! ルアルディ中尉と協力し、今の糸の放射から予測できる最適爆撃コースを算出しろ!」

 

 本来は海軍航空隊の隊長が決める事項だが、敵の情報を事細かに説明している時間も情報の確度も不安だ。

 

「了解ぃ。航空機三機が落とされたのは、まぁ砲弾のついでと言えなくもないですが、どのみち高い迎撃性能を持っている事は間違いないでしょうからねぇ」

 

 間髪入れずに放った第二射も問題なく迎撃している事から、信じ難い事だがそれなりの速射性もあると考えるべきだ。

 

「ですが、あの構造上放射出来るのは前方だけだと思います。部隊の展開位置から砲撃は一方向からしかできませんが、全方位からの航空攻撃ならあるいは……!」

 

 ルアルディ中尉が偵察部隊(スカウトチーム)が撮影した映像を見て判断する。

 第二射の時の映像だが、問題なく撮影できているとは、さすがの練度だ。

 

 だが、裏を返せばどれかの方位から侵入する爆撃機は迎撃されるという事だ。

 

「犠牲前提の作戦は許容できんな……! 司令、ごく少数の砲撃で奴の迎撃を誘発させて隙を生み出すのはどうでしょう?」

 

 秋元副司令が渋る。

 なんだかんだで彼は司令部トップの中の良心だ。

 

「陽動砲撃か……、いいだろう許可する!」

 

 陽動であるなら、発射数は最小限でいい。

 消費する砲弾も少なく見積もっての判断だ。

 

「私もそれには賛成です。奴がどの程度の知能を持っているかの指標にもなりますしねぇ」

 

 永崎中佐がうすら笑う。

 陽動と分かって迎撃を止めるか、反射的に迎撃するか回避するか。

 バゥ・ロードがどう行動しようともデータは取れるという事だ。

 そして、行動パターンが分かればより対処はしやすくなる。

 

「空母オケアノスより入電! シリウス、カムイ共に発艦準備が整いました!」

 

「突入コース、作成終わりました! まだデータが少ないですが、行けると思います!」

 

 通信オペレーターの鹿島中尉とルアルディ中尉から同時に報告があがった。

 

「よし、空母オケアノス級オケアノス並びにエレクトラに艦載機発艦命令! 攻撃目標、β型超抜級個体バゥ・ロード! ただし撃破しようと思うな、飽くまで敵の注意を引き、足止めに徹するんだ!」

 

 榊司令が声を上げて命令を下す。 

 

 

――1:10 EDF太平洋連合艦隊 第一艦隊空母打撃群 オケアノス級EDF原子力空母 一番艦(ネームシップ)オケアノス 第一戦闘飛行中隊”ラタトスク”――

 

 

 琵琶湖沖合に佇む空母オケアノス級一番艦オケアノス、二番艦エレクトラからそれぞれ、艦上汎用戦闘機シリウス、戦闘爆撃機カムイが発艦してゆく。

 カムイに関しては、元々空軍の爆撃機ではあるが、今作戦に於いて空爆等の制圧力が不足する懸念を感じて、榊司令が空母搭載を指示したのだ。

 かなり無茶な命令ではあったが、EDF兵器特有の拡張性の高さ、元々の小型軽量さなどがマッチし想定より容易に搭載可能になった。

 

 そんな経緯で乗せられた艦載機たちが、電磁カタパルトで次々射出、発艦してゆく。

 

『ラタトスク1より全機、編隊を傘一型(ウェッジワン)で維持。標的(ターゲット)接近まで崩すな!』

 

『了解! しかし今回の作戦、ウチの航空隊長殿も殆どノータッチだったんでしょ? 大丈夫なんですかね?』

 

『あの感じだと、提督ですらほぼ作戦に口を挟む余裕はないまま速攻で考えられたらしいぞ? 本部の奴の中で海軍の事分かってるやつと言えば……』

 

『統合参謀本部長の永崎中佐がいるだろう。あの人は元海軍の出だし、ちょっと胡散臭い所はあるがまあ仕事に関しては信頼できるさ』

 

『尤も、第11軍の統合参謀本部自体はもう施設も残ってなくて、生き残りも十数名とか聞いてますが……』

 

『それに、事態は緊急を要する。指揮官級を集めて悠長に作戦会議などしておけんさ。人数が集まる程、決定には時間が掛かるものだしな』

 

 自艦の航空隊長や大城提督ではなく、海軍ですらないEDF極東本部からの作戦である事に不満を覚えるものも少なくなかったが、海軍航空隊末端部に詳細情報を共有する時間も余裕もない緊急性の作戦である事は皆が分かっていた。

 

『お前ら! 無駄口を叩くな! まもなく目標(ターゲット)が有視界に入る! 気を抜くなよ!? 奴は高度な対空迎撃性能を持っていると本部の判断だ!』

 

『『了解ッ!!』』

 

 やがてシリウスのコックピットからでも、大阪に向かって前進する超大型巨大生物の姿が見える。

 

『あれが、バゥ・ロードとかいう……』

 

『なんてデカさだ……! あんなのに空爆が効くのか……?』

 

《本部より各航空隊! これより陽動砲撃を行う! バゥ・ロードの予測射線上には絶対に出るな!》

 

《ポセイドンより全航空隊へ! 発射時刻合わせ! 5、4、3、2、1、砲撃開始!》

 

 水平線の向こうより、数発の砲弾がバゥ・ロード目掛けて極超音速で飛んでくる。

 バゥ・ロードはいかなる器官でもってかそれを察知し、再び糸の極大放射を行う。

 

『今だッ! 全機突入! 爆撃アプローチを行うッ!!』

 

『ラタトスク1了解!』

 

『アルバトロス1了解!!』

 

『ガルー1了解』 

 

 各チームが同時に爆撃を開始する為、バゥ・ロードに近づく。

 

『待てッ! なんだ!? あの挙動は!?』

 

 だが、バゥ・ロードは砲弾に向けて放射した糸をそのままに、跳躍して体を振り回した。

 同時に、まだ繋がっていた糸も同じく振り回される。

 その糸は慣性をもって空中で振り回され、接近した航空隊を襲う。

 

『な、なんだ!? うわああぁぁぁッ!!』

 

 一機が横から襲う糸に直撃し、爆散した。

 

『糸が! 糸が、襲って――うわぁぁぁぁ!!』

 

『どうなってる!? どうしてこんな――ぎゃああぁぁぁ!!』

 

 糸は鞭のように自在に操られ、まとめて叩き落される。

 それでも、約半数は爆撃に成功し、バゥ・ロードに爆弾を叩き落した――そう思っていた。

 

『こちらラタトスク1! ちくしょう、三機がやられた!!』

 

『ガルー1、こちらも同じだ! どうする!? アルバトロス?』

 

『こちらアルバトロス2! 隊長機が撃墜されたため指揮を預かりました! ――ッ! みなさん、敵が!!』

 

 バゥ・ロードの体表は、爆弾着弾時の煙に包まれていたが、徐々にそれが晴れると――

 

『無傷、だと!?』

 

 バゥ・ロードは、全く意に介さない様子で再び大阪方面へ歩き始めた。

 

『怯むな! 爆弾を全て叩き落してやる! 全機続け! うおおおぉぉ!!』

 

『まてガルー1ッ!!』

 

 カムイで構成されたガルー隊は、シリウスの1.5倍も搭載された誘導爆弾を全て叩き込むべく再度突入を図るが、同時にバゥ・ロードも上空の飛行隊を察知し、その巨体に似合わぬ俊敏さで立ち位置を変え、腹部を持ち上げる。

 

『やれるもんならやってみろッ! 全機爆撃ッ! 糸の放射口を狙えッ!!』

 

 カムイは一斉に大量の誘導爆弾と対地ミサイルを投下したが、同時にバゥ・ロードは糸を放射。

 

『EDFを舐めるなッ!! 下等生物共ォーーッ!!』

 

 その言葉を最後に、カムイで構成されたガルー隊は、糸の直撃を受けて全機が撃墜された。

 その様子は、まるで糸の壁に当たって砕けたかのようだった。

 

 だが、爆弾とミサイルは殆どがバゥ・ロードに直撃し、地上を派手な爆炎が覆う。

 

『クソッ! 彼らの犠牲を無駄にするなッ! この機を逃すな、全機続け――』

 

『――待て! 貴隊の即時離脱を進言する!』

 

 ラタトスク1の声を遮り、航空隊にとっては馴染み深い声が無線に割り込む。

 

『っ!? その声は!?』

 

『隊長! 見てください! 地上で数人の歩兵が、バゥ・ロードの足止めを行っていますッ!!』

 

『なんだと!? 無茶だ! たった歩兵数人で……!?』

 

『私は、第4エアレイダー小隊の門倉大尉だ!』

 

――1:10(数分前) 地上 国道477号線――

 

 キャリバンは現在、バゥ・ロードに並走するように曲がりくねった国道を時折外れつつ南下していた。

 そのバゥ・ロードに対し、航空爆撃が始まったようだった。

 数発の陽動用砲撃を合図に始まったそれは、あまりに一方的で救いが無かった。

 

 その光景の衝撃に私は思わず声を漏らす。

 

「茨城少佐、あれはいったい……!?」

 

 我々が見たものは、バゥ・ロード体表からの迎撃によって、航空爆撃が無力化されている光景だった。

 

「……なるほど、考えたね。あれは、巨大生物なりの近接対空防御ってところかい。ふーっ。厄介さね」

 

 紫煙を吐き出しながら、茨城少佐が目を細める。

 

「恐らく奴は、体毛の中にβ型通常種を大量に棲ませているんだろう。彼らの糸の放射により、直撃する筈の航空爆弾は迎撃されたって訳さね。もちろん糸の質量はバゥ・ロードに比べるべくも無いが、染み出た強酸液に信管や爆薬を溶かされたり、溶解時の化学反応の発熱で誘爆して爆弾は使い物にならないだろうさね」

 

 少佐の解説通り、航空機部隊は再三の爆撃飛行を行っているが、いずれも効果を発揮していなかった。

 むろん、破片などによる二次被害もいずれは期待できるはずだが、それも体毛に潜むβ型や、体毛そのものによって阻まれ、本体に有効打を与えられないだろう。

 

「β型巨大生物に、あのような習性があったなど初耳ですが……」

 

 β型通常種は、あのように向かってくる爆弾やミサイルを迎撃したという前例はなかったはずだ。

 

「まさか、人類の兵器を参考に、フォーリナーが作り上げたのか……? あのデカさ、砲撃能力、近接防御力……まるで、戦艦じゃないか……!」

 

 楠木曹長が改めてバゥ・ロードの威容に戦慄する。

 

「ふん、それがどうした? 奴らが何を真似ようと、俺たちは戦うだけだろう? なぁに、爆弾やミサイルが迎撃されると分かったならやりようはある。だろう、仙崎よ」

 

 同じことを考えていたのか。

 見抜かれたようでさすがと思うが、もはやこの戦場にある手はこれしか残されていないだろう。

 

「ふっ、その通りでしょう。奴にぶつけるべきは地上の切り札、即ち──」

 

「――我がガプス・ダイナミクス社が誇る超重戦車!! タイタンだっ!!」

 

 私と門倉大尉の声にオストヴァルト博士が入って叫ぶ。

 

「タイタンって、演習場で見たドでかい戦車か! でも、向こうの方が数倍大きいぞ!? そんなので何とかなるのか!?」

 

 ”そんなの”呼ばわりした楠木曹長に、オストヴァルト博士は怒るかと思いきや、何やら得意げだ。

 

「何とかなるようにこの私が設計したのですよ! いいですか? 琵琶湖からの艦砲射撃はバゥ・ロードとやらの超長距離酸糸放射によって空中迎撃される! 航空隊による全方位爆撃は体毛の中に棲むβ型の近接対空防御によって無力化だ! では! 残る手段はなんだ!? 地上至近距離からの極超音速射撃だ!! それはしかるに、戦車部隊による直接照準射撃である!!」 

 

 オストヴァルト博士の言う通り、誘導爆弾やミサイルに比べ、戦車砲の初速は段違いだ。

 糸による溶解は、砲弾の速度があればあるほど困難になるだろう。

 戦艦の主砲の様な大型の砲であっても、曲射させる用途の為や、砲弾自体の重量の為、戦車砲以上の初速は出せない。

 以上の事から、高初速の戦車砲のであれば迎撃は困難になるはずだ。

 

「そして、バゥ・ロードの砲撃に耐え、あの巨体を粉砕するに足る火力を叩き込める兵器は、この戦場でタイタンを置いて他にいないッ!! まさに!! 今この時の為に、私はタイタンを造り上げたのだろう!!」

 

 キャリバンのステアリングから手を放して声高々に宣言する。

 ちゃんと運転しろとの恨み言が細海から言われるが、聞こえないだろう。

 

「タイタンならあのデカブツとも渡り合えるのか! でもどうやって? あんなデカい戦車、こっちまで走って来れるのか!? 結構な山道だろ!」

 

 楠木曹長の言う事も尤もだ。

 同じことを思ったようで、オストヴァルト博士が図星の顔をする。

 

「ぬうぅ、確かに……! タイタンは自走での移動は”それなり”のレベルです。長距離の自走は想定していませんね……。したがって空路が常識ではありますが、さて……」

 

「それは厳しいだろうさね」

 

 茨城少佐が即座に否定する。

 

「この空を見なよ。そこら中に、やれγ型だやれガンシップだなんて言ってる始末さね。どデカい荷物をひっさげた輸送機が、無事に辿り着けるとは思えないね。ふーっ。……状況見る限り、陸路一択さね」

 

「では私が行くしかありませんな。タイタンのいる京都南インターから、ここ亀岡市まで、起伏の激しい山道を凡そ30km。200tを超える重戦車が急行するには、臨機応変な整備が不可欠ですので。……しかし、これはこれで良い経験だ。やはり固定砲台・要塞砲の様な運用に限定するのは無理があったか。今後は更に改良し、自走性能も不安がない物にしなければ……!」

 

 タイタン開発主任であるオストヴァルト博士なら、走りながらの整備も可能という訳か。

マニュアルにない特殊な状況だ、対応出来る人間が必要だろう。

 

 茨城少佐は次の問題に切り込む。

 

「それにしたって到着まで時間が掛かるのには変わりないさね。その辺り、考えはあるのかい?」

 

 ようやく私の出番のようだ。

 

「ご安心ください、奴の足止めは、この私が引き受けましょう! 奴の注意を引く自信はあります!」

 

 私は胸にドンと手を当て宣言する。

 正直、奴を始めて目にした時から、こういう展開になりそうな予感はしていた。

 負傷者を乗せたキャリバン、到着まで時間が掛かるタイタン、大阪へ向かうバゥ・ロード。

 誰かが、奴をここに縫い留めなくてはならない。

 

「仙崎!?」

 

「……ほう?」

 

「あの化け物に一人で時間稼ぎを挑むと? 余りにも無謀すぎはせんか?」

 

 門倉大尉、茨城少佐、オストヴァルト博士が声を出す。

 

「いいえ、時間稼ぎのみならば十分可能と考えます」

 

 私の言葉に、茨城少佐が顎に手を当て考え出す。

 

「……確かに。あのデカブツはさっきキャリバンを執拗に追っていった。空中からの攻撃に興味を示さず、地上の獲物を狙う習性があるとしたら、あるいは」

 

「でも、歩兵一人の攻撃で気を引けるのか? キャリバンとは違うだろ」

 

 楠木曹長の尤もな疑問に、私は自信を持って返す。

 

「ちっぽけな歩兵一人の攻撃など大したこと無いと? 否、我々EDF歩兵は、常に自身より巨大な敵と戦ってきた。他より少し大きくなったところで、無視などさせぬさ。なんなら脚の1本でも手土産にするつもりだが?」

 

 確かに、巨大ではある。

 だが、肉薄してしまえば勝機を見いだせるはずだ。

 むしろ、あれだけ巨大なら、その分隙も大きいだろう。

 火力の面から言って、私ひとりで倒してしまうのは不可能だが、足止めくらいなら充分務まるはずだ。

 

 私の言葉にうんうんと頷いていた市原が続く。

 

「その通りです! ……若輩者ですが、戦闘なら僕も役に立てるはずです! 同行させてください!」

 

 やはり戦闘経験がある者は肝の坐り方が違う。

 歴が短いとはいえ、決して楽な戦場では無かったのだろう。

 物怖じせずに言い切った。

 まだ震えが残る楠木も、常識を捨てて表明する。

 

「体なら俺も万全だ! そういう事なら俺も手伝うぜ。正直無謀だとは思うが、俺だってEDF、命賭けて戦ってこそだ。それにもう門倉のオッサンに、腰抜けと言われるのはゴメンだからな」

 

 照れが出たのか、最後の言葉が照れ隠しなのは直ぐにわかった。

 

「別にそんなつもりではないんだが、あまりにもいちいち煩いモンでなぁ。だが、その心意気は買おう! 伊勢原少佐、そういう訳で、我々無傷の四人でバゥ・ロードの足止めを行います!」

 

「まったく、私一人で十分だというのに……。私が言えた事ではないが、貴様ら命が惜しくはないのか?」

 

「戦うべき時を逃してしまう方が、EDF隊員としては心苦しいです!」

 

「まったくだ。俺だってEDFの一員なんだぜ? いい恰好させてくれよ。ホントはクソ怖ぇけど、あんたとなら生きて帰れそうな気がするよ、仙崎伍長殿」

 

「調子のいいことを……」

 

「ふむ……、本当に許可しがたい無謀な作戦ではある。本来なら一蹴する所だが、他に手立てはない、か……。……よろしい。お前たちの勇気に敬意を表す。仙崎伍長、楠木曹長、市原少尉、宜しく頼む。ただし門倉、貴様はキャリバンに残れ」

 

 伊勢原少佐の最後の一言に、門倉大尉が食って掛かるように異を唱える。

 

「ッ!? なぜです少佐!! 陽動に一人でも多くの人員は必要でしょう! こちらに残っても何の利にもなりません!」

 

「敢えて言うが、貴重な戦力であるエアレイダーを、こんな危険な任務には同行させられない」

 

「危険な任務だからこそ!!」

 

「――そもそも、航空爆撃や砲撃の効果がない以上、エアレイダーである貴様を同行させるメリットはデメリットを超えない。貴様たちをここで足止めの為に置いてゆくのは断腸の思いで許可するにせよ、私はともかく重傷者の細海兵長や石田少尉、タイタン整備の要であるオストヴァルト博士、天才科学者の茨城少佐は絶対に守らねばならん。綺麗事は言わないぞ。より価値ある命の為に、貴様はキャリバンに残り我々を護衛しろ」

 

「ぐッ……!」

 

 伊勢原少佐の言葉は正鵠を射ている。

 上の立場にある人間らしい視野の広さは、人情派の門倉大尉の痛い所を突いただろう。

 だが、伊勢原少佐が敢えて嫌味な言葉を選んで話しているのは、私にも門倉大尉にも分かっていた。

 

 エアレイダーとは、航空爆撃や支援砲撃を誘導する戦場の管制塔的存在だ。

 故に数が必要とは考えられてこなかったが、ここにきて戦争による死傷者が増え始め、相対的にその戦術的価値は上昇している。

 フォーリナーは碌な戦術的行動をとらず、突撃を繰り返すが、それが却って敵味方複雑に入り乱れる戦場を作り出し、大規模な支援砲撃・航空爆撃の難しさを作っている。

 フォーリナーとの戦場には、エアレイダーによる支援管制と精密砲爆撃が必要不可欠なのだ。

 

 エアレイダーを欠いた戦場では、詳細な情報無しに砲爆撃が敢行され、友軍誤爆によって少なくない死者も出ている。

 対人類間戦争では起こりえない程の大規模混戦はそういった問題も引き起こし、前線の将校たちは歩兵の命と敵の漸減を常に天秤に掛けているのだと聞く。

 

「門倉大尉に残って欲しい理由が、もう一つ」

 

 オストヴァルト博士付け加える。

 

「私が車を降りた後、他に運転できそうなものがおらん。伊勢原少佐、細海兵長、石田少尉の三名は、重傷でとても運転は無理そうに見えるが?」

 

「何言ってる? ワタシがいるだろう。怪我はそんな酷くないさね」

 

「貴様にハンドルを握らせる訳があるか!! 私の愛車をボッコボコにした事を忘れたのか!? アメリカで何度命の危機を察した事か! スピード違反、信号無視、逆走! 警察に追われギャングに追われ……、擦り傷ヘコミ、弾痕が何個出来た事か! 廃車も同然だ!」

 

「ちゃんと弁償したじゃないか。まぁ、この車頑丈そうだしちょっとぶつけたり、横転するくらいならきっと大丈夫さね。公道は10年ぶりくらいだが車もいないし」

 

「「絶対にやめてください!!」」

 

 私、楠木曹長、門倉大尉の声が揃った。

 

「い、命の危険を感じるわ……」

 

「本当に免許持ってんのか……」

 

 負傷した細海兵長と石田少尉が青ざめているのは、怪我のせいではなさそうだ。

 

「うむ。運転は門倉大尉に任せよう。まあ気にするな、何事にも向き不向きはある」

 

 伊勢原少佐が纏める。

 この人はなんだ、さすがに少佐ともなると器が広いな。

 

「そうかい。残念だ。オストヴァルト、帰ったら後で車貸してくれるかい?」

 

「貸す訳がないが!?」

 

 二人のやりとりはさておき、これでだいたいの流れが決まった。

 

「そういう訳だ、オストヴァルト博士、引き続き運転を頼む。京都都市部へ向かい、こちらへ移動中のタイタンの整備をお願いする。門倉大尉、キャリバンに同乗し、護衛と博士下車の後運転をやってくれ」

 

「ッ……、……了解、しました……。すまんな仙崎。言い出しっぺの俺が逃げる形になってしまった」

 

 門倉大尉にしては珍しく、意気消沈した形で申し訳なさそうに頭を掻いた。

 

「いえ、大尉がいてくれれば、安心して細海たちを任せられます。楠木曹長と市原少尉は、本当によろしいので?」

 

 キャリバンにも護衛が必要だという話は、素直に頷ける。

 いくら何でも我々が去った後に巨大生物に襲われて全滅でもしたら後味が悪すぎる。

 その点、門倉大尉ならば信頼できる。

 

「正気かと思うような作戦だが、ま、乗り掛かった舟だ。」

 

「自分も、これが日本を守る一手になるのなら、喜んで!」

 

 市原少尉は見た目通りまだ実戦経験も少なそうであるし、楠木曹長に至っては基地の警備兵だ。

 本来、このような決死の陽動に参加していいものではない。

 

 だが、その目は決意に満ちていた。

 死して目的を果たさんとする決意ではない。

 共に生きて帰る決意を宿した目だった。

 ならば、私からは何もいう事は無い。 

 

「……その意気に感謝する。ところで市原、お前、部隊指揮の経験はあるか?」

 

「いえ。少尉になってまだ一年と経ってませんので……」

 

 門倉大尉が経験を聞くと、市原少尉は恥ずかしそうに照れ笑いで答えた。

 フェンサーはレンジャーと違い、任官時既に少尉から始まる。

 少尉任官時の座学で軽く最低限の部隊指揮は教わるが、それだけで何とかなる程実戦は甘くはない。

 

「……そうか。なら、暫定陽動小隊の指揮は仙崎伍長に一任する。異存はないか?」

 

 逆に私は、過去の最終階級で、訳あって少尉まで昇っていたので部隊指揮に関しては一通りかじっている。

 他の二人よりは上手くやれるだろう。

 

「指揮権、拝命しました!」

 

「まぁ、階級は上だが俺は警備兵だからな……」

 

「自分も若輩者なので異存ありません! 会って間もない間柄ですが、仙崎さんが指揮を執ってくれるならなんとなく安心できます」

 

 楠木曹長や市原少尉を差し置いて、この場の最下級である伍長が指揮権を得るというのも傍から見れば変な話だが、任された以上は最善を尽くすまでだ。

 

「すまんな、仙崎伍長、楠木曹長、市原少尉。君たちには困難な任務を押し付ける羽目になってしまった。だがバゥ・ロードが大阪市街地に侵攻すれば、日本の滅亡は避けられない。……頼んだぞ」

 

 伊勢原少佐は、不甲斐なさそうにしながらも、我々に全てを託す。

 

「……仙崎君」

 

 茨城少佐が見つめる。

 

「私の見立てでは、君はやはり英雄の器さね。君ならきっと成せるはずさ。……ただ、過信や慢心も君からは見て取れる。それも自分でも分かっているだろうが、運命とは足元を掬う瞬間を虎視眈々と狙っているもんさね。十分気を付けるんだね」

 

 期待や忠告が混じった言葉だが、まあ彼女なりの激励だろう。

 

「――はッ! 肝に銘じます!!」

 

 言われるまでも無いが、それでも言葉というのは言われれば脳に刻まれるものだ。

 

「仙崎! バゥ・ロード攻撃の作戦や本部とのすり合わせはこちらでやっておく。俺も負傷者(コイツら)の護衛が終わり次第そちらに合流する。それまで全員、死ぬんじゃないぞ?」

 

 門倉大尉は、最後まで不思議な自信を感じる笑みを残す。

 

「「「サー! イエッサーッ!」」」

 

「バゥ・ロードにようやく追いつきました!! 目算距離500! 相変わらず無駄な空爆を続けているようですが、やはり効果はありませんねぇ! 大阪方面へ向かう足も止まっていないようで!」

 

 オストヴァルト博士が状況を説明する。

 私もキャリバンの後部ハッチから覗き、外を見る。

 現在は402火力演習場から15km程南下し、京都府亀岡市周辺まで来ていた。

 日本戦線の生命線であるEDF極東第一工廠までには直線距離にして50kmもない。

 

 バゥ・ロードは無人となった亀岡市住宅街を踏み荒らし、時折跳躍し、上空から降り注ぐ爆撃を気にせず進んでいた。

 

「よしオストヴァルト博士、ここで下ろしてください」

 

「……了解。停車します。仙崎とやら。なかなか破天荒で刺激的な男ですねぇ。気に入った! いずれ我がガプス・ダイナミクス社に入るつもりはないかね? とびっきりの好待遇を約束しますが」

 

「ぬぁはははははは!! 分かってて聞いているとしか思えませんな! 買っていただけるのはありがたいですが――」

 

 私は背後を振り返る。

 月明かりと航空爆撃の爆炎に照らされた、巨大な威容が伺える。

 

「――侵略者共を全て撃退したら、考えてみますとも。楠木曹長、市原少尉、準備は……よいな?」

 

 にやりと笑ったオストヴァルト博士の返事を受け取り、私は二人に改めて伺う。

 

「ったくみんなクドいぜ? ここまで来たんだ。やるだけやってやるさ」

 

「あの怪物を……ここで食い止めて見せます!」

 

 たった三人しかいないが、それぞれの意気込みを見て、我々はやれると確信に至った。

 

「せ、仙崎」

 

 最後に、細海兵長が呼び止める。

 

「アイツは、助けられなかった。だから、せめてアンタは、アンタ達は無事で帰ってきなさい。勝手に先に、会いに行ったら許さないわよ」

 

 悔いるような、惜しむような、祈るような、釘を刺すような。

 そんな複雑な目線で、細海は我々を送り出す。

 

「……承知した。態々言うまでもないが、必ず生きて帰ると約束しよう。では皆、()くぞッ!! 続けぇぇーぃ!!」

 

「「うおおぉぉぉぉーーッ!!」」

 

 我々は、ついにキャリバンから飛び出し、あの怪物の足止めに向かった。

 

「……仙崎。頼んだぞ」

 

 門倉大尉はそう言い残して、キャリバンは去った。

 

「さて。”英雄”のお手並み拝見さね」

 

 走り出す車内で、茨城少佐がうすら笑う。

 




簡易登場兵器解説

▼EJ-24C”シリウス”
 EDF海軍航空隊の艦上汎用戦闘機。
 EDF空軍のEJ-24A”レイヴン”を艦載機向けに改造した機体。
 EDF兵器特有の拡張性の高さにより無理なく高性能な艦載機になっている。
 (EDF兵器全般は、未知の脅威に即時対応できるように改修・改造・換装を前提に設計されている)

▼KM-6E”カムイ”
 EDF空軍の戦闘爆撃機。
 空軍にはレイヴンが主力戦闘機とした位置づけになっているが、一世代前のカムイは戦闘爆撃機として多任務に従事できる万能機。
 エアレイダーの誘導の下航空支援任務も限定的ながら可能。
 搭載爆薬量はレイヴンの1.3倍、シリウスの1.5倍でありながら高機動を誇る。

▼オケアノス級原子力空母
 EDF海軍が誇る新造原子力空母。
 空母の新造には非常にあらゆるコストが掛かる上、EDFは弩級戦艦リヴァイアサンや、戦艦ポセイドンの他、数々の新造艦を世界中の造船所で発注製造していたので、EDFの保有する八割の空母は米海軍からライセンス生産を行ったニミッツ級空母を運用している。
 これはその中でも数少ないEDF新造空母の一つ。
 EDF太平洋連合艦隊にはオケアノス級の四番艦までが運用されているが、そのうちの半分を投入する事からも力の入れようが分かる。


今度隙を見てEDFの兵器・戦闘車両設定集も投稿したいと思います。
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