全地球防衛戦争―EDF戦記―   作:スピオトフォズ

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なんかちょうどよく切るところが無かったんで結構長くなりました。
疲れるかも知れませんがご容赦を。

ちなみにこのバゥ・ロード、ゲーム中より結構巨大になってるイメージですね。
書いてたらなんかそういう感じになってしまいました……。



第六十三話 奈落の王(Ⅲ)

――2023年4月1日 1:20 京都府亀岡市住宅街――

  

 

「あれがバゥ・ロードか……! 生身で見るとなんて怪物なんだ……!」

 

 楠木曹長が敵を見上げて驚嘆を口にする。

 

 ――バゥ・ロード。

 侵略性巨大外来生物β――蜘蛛型巨大生物は大抵の人間の身長を上回る全高2m以上であるが、眼前の超巨大生物はそれを更に上回る。

 遠目で見て、その10倍はあり、その威容はまさに”奈落の王”と形容するに相応しい。

 

 暗闇に赤く光る大小六つの目玉と、爆撃によって起きた火災が闇夜を照らし、今まさに死地へ向かおうという我々の意識を更に際立てた。

 

「奴はまだ我々には気づいていない。このまま接近するぞ! 楠木曹長、市原少尉、気圧されるなよ? なに、サイズ差を有利に生かせば勝機はある!」

 

 私はまだ過酷な状況に慣れていないだろう二人を気遣ってかそんなことを言った。

 それは二人に向けての言葉だったのか、もしくは自分に向けて言い聞かせたのか。

 

 いくら何でもあのような巨大な敵に数人で立ち向かった経験など私にも無い。

 いや、レイドシップを墜とした時なども絶体絶命ではあったが、あのような空中浮遊物にはない威圧感が目の前の超巨大生物にはあった。

 だが、今の言葉は気休めでも何でもない。

 

 遠目で見たあの糸の極大放射は、範囲こそ広いが速度はそう速くはない。

 あのような初速でよく音速を超える砲弾類を迎撃したものだと関心を覚えるほどに。

 であれば、恐らく距離を取っていれば躱すことは可能だ。

 むろん、人間を直接狙ってくるのか、その際の初速はどの程度か、そもそも興味を引けるのかなどの懸念点はあるが、考えても分からない問題に不安を感じて先に進めぬなど愚か者のする事だ。

 私は愚か者ではない。

 ならば、するべきことは一つである。

 

「サー! イエッサー! 全力で行きます!」

 

 市原少尉には、背面の跳躍装置(ジャンプユニット)を使用しない通常歩行で追従して貰っている。

 跳躍装置(ジャンプユニット)を使えばより早く辿り着いてバゥ・ロードの気を引いて足止めを行えるが、一人で突撃するにはあまりにも危険な相手なのでその手は取らない。

 三人でもさして変わらないが、細海に全員の生還を誓った以上、二人の生存に関して妥協はしない。

 そして無論、奴の大阪侵攻も食い止めて見せる。

 

 あの場所には日本戦線の生命線である極東第一工廠やそれを支える市民はもとより、大林中尉や桜達を始めとしたレンジャー2の負傷者たちや、様々な理由で国外へ避難もままならなかった国民たちが残っているのだ。

 その中には、かつて横浜で出会った村井茉奈君も残っている。

 

 彼女とはレイドシップを墜として入院して以来会っていないのだが、あれ以来少しづつメールのやり取りを行っている。

 そのお陰で彼女は今も大阪の避難所にいる事が分かっていた。

 内容は、何故かとても事務的であり、とても14歳の女の子とやり取りをしているようには思えない。

 慣れていないのだろうか? 私もだが。

 

 ちなみにあまりゆっくりと話す機会も無かったので瀬川には伝えていないのだが、お、怒るだろうか?

 さすがの私もちょっと怖い。

 

 と、そんな事を考えている場合ではない!

 とにかく、それらの多くの守るべきものの為に、我々は脅威に立ち向かわなくてはならないのだ。

 

「楠木曹長、普段の任務と違い、慣れぬことと思いますが、本当によろしかったので?」

 

 私は、楠木曹長に意思の確認を行う。

 彼には、直前に手前での狙撃をお願いしたのだが、あっさりと断られてしまった。

 

「こんな状況、普通に考えて一人でいる方が怖いだろ……。それに、実を言うと、俺はこの状況にちょっと感謝してるんだぜ?」

 

 楠木曹長が妙な事を言う。

 

「感謝?」

 

「ああ。……俺は元々、レンジャーになりたくてEDFに入ったんだ」

 

 バゥ・ロードへ駆けながら、楠木曹長は短く語る。

 レンジャー志願の訓練兵としてEDFに入った彼は、訓練中の事故で共に志願した友人の死を目の当たりにしたそうだ。

 そのショックから立ち直れず、しかし病に倒れた父親を、家族を養う為、高給取りと言われていたEDFから去る事も出来ず、結果彼は警備兵としてEDFの門を潜った。

 

 ちょうどその頃、ディラッカ事変を始めとする紛争・内乱が多発し、EDFも海外派兵に動き出す。

 その事を知って、レンジャーにならなくてよかったとひどく安堵する楠木だった。

 

「でもその結果、フォーリナーが攻めてきて、厚木市の市民病院に取り残されていた親父は多分……奴らに殺された。だから、今、レンジャーとして奴らに一発ブチ込めるだけでも誇らしいんだ」

 

 楠木曹長の今の装備は、簡易的だった警備兵着用の汎用戦闘服に、対F用の高性能アーマーを追加した、いわゆる広義のアーマースーツを着用し、簡易レーダーを表示するバイザーと無線機の付いたヘルメットを被り、手にはEDF製対F用狙撃銃を装備している。

 どこをどう見ても、立派な陸戦歩兵(レンジャー)だ。

 

「……そうか。ならば! 一発と言わず、何発でも奴らにくれてやれ! 狙うは脚だ! スナイパー、射撃用ォォー意!」 

 

「「イエッサー!!」」

 

 今回、キャリバンに積み込んであった武器の中から選んだのは、迎撃されにくいだろうと踏んだ高初速の武器類だ。

 

 私が、貫通性能を重視した、対巨大生物用狙撃銃”ストリンガーJ1”

 楠木曹長が扱いやすさを重視して、フルオート性能のある”ドゥンケルN202”

 市原少尉の兵装は、ガリア重キャノン砲を両肩部に二門、右腕にガリオン軽量機関砲一門、そして左腕にディフレクションシールドというものだ。

 

 バゥ・ロードは、我々に対しちょうど側面を向いている。

 脚を狙う事は事前に話していた。

 あの巨体を支えるのに重要なはずだ。

 そして、その重要な個所に攻撃を喰らえば無視は出来ないはずだ。

 

「撃てぇぇーーッ!!」

 

「「EDF! EDF!!」」

 

 狙撃銃の空を割く発砲音が響く。

 ひと際大きいのが、私の撃ったストリンガーJ1の発砲音だ。

 

 貫通力を高めた高威力の12.7mm特殊弾(12.7mm弾を発射する狙撃銃は、通常対物狙撃銃として扱われる。がEDF内に於いては、対物狙撃銃カテゴリは対ダロガ等重装甲目標用に作られたライサンダーを指すものであり、ストリンガーは飽くまで対生物狙撃銃として扱われる)が、狙撃銃としても優れた初速と精度を誇り、容赦なくバゥ・ロードの関節部と思わしき部位に突き刺さる。

 

 その周囲を、ドゥンケルN202の数発の7.62mm弾丸が連続してヒットする。

 私の使うストリンガーJ1は特殊機構の為、弾丸を一発づつ装填する仕様になっている。

 その為ストリンガーは威力の代償として取り回しは悪いが、ドゥンケルは弾倉ごとに16発の装填が可能である上、狙撃銃としては破格の連射性能を誇っているので非常に扱いやすく出来ている。

 

 そして、最後に直撃するのが両肩部から放たれたガリア重キャノン砲の30mm徹甲榴弾だ。

 歩兵が扱う口径としては破格の重砲弾が足の付け根に直撃・爆発を起こす。

 が、効果があったかと判断する前に動きを見せる。

 

「や、奴がこっちを向いたぞ!」

 

「と、跳んだ!?」

 

 バゥ・ロードはこちらを振り向くと、大阪へ向かうのを中断し、こちらに向かって跳躍する。

 少なくとも気を引くという目的は達成した訳だが、後はどれだけ稼げるかだ!

 その間に、タイタンが到着するか、他の何かしらかの対策が取られることを期待する!

 

「着地の瞬間を狙え! 体を屈めつつ撃ち続けろッ!!」

 

 バゥ・ロードは、一気に100m程距離を詰め、着地する。

 着地で辺りに衝撃が走るが、体を屈めたおかげで転倒には至らない。

 

 着地の瞬間、再びスナイパー弾がバゥ・ロードに着弾。

 今度は真正面に当たるが、目玉に当たろうと気にすることなく、”腹部”を上に持ち上げる。

 糸の発射態勢だ。

 

「右に走れッ! 市原ッ、先行して横から攻撃を逸らせッ!」

 

「イエッサー!!」

 

 私と楠木曹長は、ダッシュで距離を稼ぐ。

 フェンサーである市原少尉は、背面の跳躍装置(ジャンプユニット)を瞬間的に吹かし一瞬で距離を稼ぎ、反転して三つの銃器を構える。

 

「いっけぇーーッ!!」

 

 両肩部のガリア重キャノン砲、右腕のガリオン軽量機関砲の一斉射撃を行う。

 30mm徹甲榴弾と20mm徹甲弾が、バゥ・ロードの持ち上げた腹部に全弾命中する。

 腹部の体毛の中に棲んでいると思われるβ型の迎撃は、やはり近距離高初速の砲弾に対しては発揮されず次々当たってゆく。

 

 だが動きを止めるには至らず、それと同時に腹部の噴射口から糸が放射される。

 

「緊急回避ッ!!」

 

 私はそれを見て、躱せると確信した後、楠木曹長と共に右にローリングを行った。

 放射される糸の直径は一本一本が2mくらいはある。

 要するに人間一人飲み込むくらいの大きさだ。

 それが空中を何十本も飛翔してくる様は、まるで白い壁が迫るようだったが、一方で速度は銃弾砲弾のそれと比べて低速で、私ならば目で見て捉える事が出来た。

 

 市原少尉の射撃の成果もあって多少照準がブレていたのか、こちらに飛んでくるはぐれの数本を回避するだけでよさそうだ。

 私は楠木曹長の背を押しつつローリングを行い、糸の隙間を縫うようにして回避した。

 

「今だ! あの巨体では、近づけばあの規模の攻撃はそう行えまい! 行くぞッ!」

 

 躱した後もじっとしている暇はない。

 

 私は駆けながらストリンガーの弾丸を装填し、楠木曹長が慌てて立ち上がり、私のカバーとしてドゥンケルを連発する。

 だがバゥ・ロードは、まだ先ほど発射した糸が残ったまま跳躍した。

 

「飛び上がったぞ! こっちに来る!」

 

「ちぃ! 潰されるぞ! 避けるのだ!!」

 

 全高およそ20m、体長に至っては100mくらいあるのではないかと思われる超巨大生物が、民家や雑居ビルを通り越す我々の頭上はるか上まで跳躍する。 その様は地球の物理法則を疑うレベルだが、そんな超巨大生物が月夜を遮り影を作り、自由落下に任せて我々を踏みつぶさんとしている。

 

 遠距離の糸の放射を警戒して接近したことが仇となったか。

 あの長射程を持っていれば、普通は距離を取って戦うだろうが、フォーリナーに人類の常識や戦訓は通用しない。

 

 フォーリナーによくある事なのだが。

 奴らはダロガやヘクトルなど遠距離戦が得意な相手だろうととりあえず我々に接近する傾向がある。

 巨大生物も酸や糸を飛ばしてくるが、陣地を組んで中距離から射撃するなどの戦術を取ってくる事は無い。

 ヘクトルは砲兵型などは、その傾向が薄いが、おおむねこちらに歩を進めながら撃ってくる場合が多い。

 本来は距離を取った方が有利なはずが、なぜだが奴らはそうした行動を取るのだ。

 

 それは、この極大射程を誇るバゥ・ロードすら例外ではないらしい。

 

「二人とも! 掴まって!」

 

 市原少尉が推進剤を吹かせて通り過ぎる。

 私と楠木曹長は咄嗟につかまり、市原少尉はそのまま噴射して飛び上がる。 

 

 バゥ・ロードは着地し、隙を見せる。

 

「今だッ! 一斉射撃!」

 

「「うおおおぉぉぉーーーッ!!」」 

 

 空中で、それぞれの火器が一斉に火を噴いた。

 バゥ・ロードの頭上から狙撃銃弾と歩兵砲弾が降り注ぐ。

 

 片腕でつかまりながら大型狙撃銃の使用など、常識で考えれば当たるはずもないが、相手が超大型なら関係はない。

 そのまま市原少尉は着陸し、我々も離れて大地を踏む。

 敵は目の前だ。

 

「ショットガン、射撃用意ッ!」

 

「イエッサー!」

 

 地上に降りてから私は武器を広角式ショットガン”ガバナー”に、楠木曹長は連射式ショットガン”スパローショット”に武器を切り替え、バゥ・ロードの側面に接近する。

 

「撃てぇッ!!」

 

「うおおおぉぉ! 死ね、死ねぇッ!!」

 

 圧倒的な量と速度で、散弾が叩き込まれる。

 ガバナーの至近での必中は、戦車砲弾の直撃にも匹敵する火力を叩きだす。

 通常のβ型に撃てば、肉は抉られ内部まで貫通するはずだったが。

 

「ッ!? 効いたか!?」

 

 バゥ・ロードの表皮を抉り取り、紫色の体液が噴き出るが、その瞬間、私は絶句した。

 

 バゥ・ロードの体毛が蠢いたのを見た瞬間、中から一斉に無数の赤い目玉が現れた。

 体毛の中に棲んでいたβ型が、一斉にこちらを視認したのだ。

 闇に浮かぶ無数の赤い光点に、生理的嫌悪感と論理的危機感を感じ、私は声すら発する前に行動を取る。

 近づきすぎた。

 単純な距離を取っての回避は間に合わないだろう。

 

「な、なんだ!?」

 

「楠木ッ! 直ちに離れろッ! 奴らは――」

 

 先の航空爆撃を無力化した巨大生物式近接防御システム。

 それは糸放射口のある腹部のみならず、全身を覆うように存在していたのだ。

 

 私より後方にいた楠木曹長に離脱を指示しつつ、自身の単純な回避は間に合わぬと悟り、ショットガン・ガバナーを構える。

 

 バゥ・ロードの体毛に潜んでいたβ型が、一斉に糸を放射してきた。

 私は同時にガバナーの引き鉄を引き、散弾を発射する。

 25発もの散弾に拡散したガバナーは私に届くはずだった糸を迎撃する形で勢いを削ぐ。

 完全に撃ち落とす形にはならないが、私にとってはそれで十分だ。

 

 運動エネルギーの多くを失ったそれらの糸の間を縫うように躱し、事なきを得る。

 だが、背後にいた楠木曹長はそうはいかない。 

 

「うわぁぁぁ!! い、糸が!! ちくしょう! 放せッ!!」

 

 多数の糸に絡めとられた楠木曹長は慌てて藻掻く。

 とはいえ、EDFのアーマースーツは多少は酸に耐える。

 耐えるが、それだけだ。

 アーマー表層は酸を含んだ糸によって溶かされ、白い煙を上げてジュウジュウと音を立てる。

 

「落ち着け! 下手に暴れるよりまず撃つのだッ!」

 

 β型の糸に絡まった時は、まず落ち着くことだ。

 パニックを起こして無駄に藻掻き、糸が絡まってしまえばより多く酸を浴びることになるし、動きも取れなくなる。

 可能な場合はとにかく距離を取るか、或いは反撃する事。

 攻撃は最大の防御、という言葉があるが、防御が自身の身でどうにもできない以上、脅威を排除してしまうのが手っ取り早い。

 ただし、どちらにせよその場にとどまるのは殆どの場合悪手だ。

 巨大生物の作戦あるいは習性によって、囲まれてしまえばより状況は悪くなる。

 

 この場合であっても――

 

「動けるか、楠木! 動けるならその場から――ちぃッ!!」

 

 楠木がスパローショットを撃ちながら離れていくのを横目に見るが、私の元に絶え間ない糸のシャワーが降り注ぐ。

 

「その程度でッ!」

 

 再びガバナーを撃つ。

 糸は何とか軌道を変える程度には出来るが、逆に言うならガバナーの散弾は殆どが相殺されてしまってバゥ・ロード本体には届いていないという事だ。

 

「仙崎さん! 脚が!!」

 

 後方で砲撃をしていた市原少尉の声が聞こえた。

 

 脚だと?

 楠木曹長の足がやられたのかと思ったが、鋭敏な殺気を感じて一瞬上を見ると、バゥ・ロードの巨大な足が頭上から迫っていた。

 

「なんと!! ぬぉぉぉぉぉッ!」

 

 片面三本あるうちの前足が迫るが、寸前で回避。

 大柄な人間の胴ほどもある足が衝撃と共に振り下ろされた。

 が、安堵する暇はない。

 その足にもβ型が赤い目を光らせていた。

 この距離で糸の放射を受ければEDF製アーマースーツと言えども致命傷は免れないが――

 

「――それは向こうとて同じ事! 舐めるなッ!!」

 

 私はほぼゼロ距離でガバナーの引き鉄を引いた。

 25発の散弾がほぼ全てバゥ・ロードの足に直撃し、体毛に隠れていた個体ごと貫通して撃ち抜いた。

 紫色の毒々しい体液を吹き出すが、同時にその足にいた他三体のβ型が体毛から飛び出してきた。

 

「なに!?」

 

 私は先ほどのでガバナーを撃ちきってしまったので少しまずい状態だ。

 武器をストリンガーに変えるが、蜘蛛の相手は狙撃銃では多少きびしい。

 私は射撃も普通以上にこなす方だが、水原や二ノ宮軍曹には到底及ぶまい。

 特に二ノ宮軍曹の移動中射撃の腕は素晴らしい。

 

「まず一体! だが!」

 

 着地の瞬間を狙い、一体を撃ち殺す。

 しかし失念していたが、そもそもストリンガーは『貫通力を高める特殊な機構云々』のせいで単発装填式だ。

 乱戦にはまるで向かない。

 あまり狙撃銃を触ってこなかったせいで迂闊な真似をしてしまった。

 

「援護します!! 楠木さん、行ってください!」

 

「イエッサー! この野郎ォォ! さっきは良くもやりやがったな!!」

 

 糸の拘束から復帰した楠木が援護しに戻ってきた。

 スパローショットで一体をハチの巣にする。

 同時に市原少尉の放ったガリオン軽量機関砲の砲弾がβ型を粉砕する。

 

「二人とも、助かっ――ちっ、避けろッ!!」

 

 援護に感謝する間もなく、バゥ・ロードは跳躍で距離を取り、巨大な腹部を持ち上げて糸を放射する。

 

「あんたみたいに避けられるかっ!」

 

「まて、離れるな!」

 

 私の静止を無視し、楠木は逃げるように四階建てくらいのマンションを盾にする。

 市原はフェンサーらしく盾を構え、私は通りに出て巨大な糸の隙間を見つけ、回避する。

 

 糸は辺りをまるで爆撃かと思うくらいに破壊し、しみ出した酸によって更に周囲を壊滅的に破壊する。

 酸の化学反応で民家や木々が燃え、放棄されていた自動車に引火して爆発が起きる。

 

 楠木は無事だろうか?

 確認する間に、はたと気付く。

 

「っ、気を付けろ! 簡易レーダーに反応! 小さいのが何体か闊歩している!」

 

 恐らくあのバゥ・ロード(でかいの)から現れた個体だろうか。

 火災によってさらに見通しが悪くなったところに奇襲を受ければ厄介だ。

 

「と、言っている傍から!」

 

 炎上するアパートの壁面にβ型一体。

 問題なくガバナーで撃破する。

 

「仙崎さん! また奴が近づいてきます! なんとか時間稼ぎは出来てるみたいですが、このままでは……!」

 

 背面のユニットを吹かして跳んできた市原が合流する。

 時間稼ぎという意味では成功しているが、離れての攻撃は正直効いている気がしない。

 唯一の有効打らしきものは、やはり先ほどのガバナーの至近での一撃であるが、あの糸の弾幕に何度も飛び込むのはさすがに勘弁願いたいものだ。

 

 それ以前に、このまま逃げ回るのも辛うじて上手くは言っているが、そう何度も凌げるものでもないだろう。

 

「市原っ、後ろだっ!」

 

 市原の背後に炎に紛れる二体のβ型。

 しかし、私の武装はガバナー。

 今撃てば市原にもあたってしまう。

 

 そしてフェンサーの動作、特に旋回性は、生身の人間程俊敏ではない。

 

「ぐああぁぁ!」

 

「市原! おのれぇっ!」

 

 私は倒れた市原を飛び越し、空中でガバナーを撃つ。

 一体は倒したが、レーダーを見ると集まってきているのが分かる。

 

 民家の陰から、公園の端から、畑を踏み荒らして、おおよそ10体前後にあっという間に囲まれた。

 

「ふん、呼びもしないのにぞろぞろと! 市原! とにかく盾を構えろ! 出来るなら反撃するのだ!」

 

「い、イエッサー!! ……フェンサーのパワードスケルトンなら、この程度で!!」

 

 飛んでくる糸を盾で防ぎ、ガリオンをとにかく撃つ。

 

「くそ、くそ! ちょこまかと……!」

 

 だが、焦りがあるのと、武器のせいであまり当たっていない。

 ガリオン軽量機関砲は、機関砲と言っているがマシンガンやアサルトライフルのように連射できるわけではない。

 歩兵にしては巨大な20mm砲弾を発射する為、弾幕を張るというよりは狙って撃つ仕様になっている。

 その為、縦方向に飛ぶβ型には相性が悪かったのだ。

 

 むろん私はフェンサーではないが、傍から見て言えばこの程度の特徴は見て取れる。

 だからこそ、武装を選ぶ際に一声かけるべきだったか。

 

 いや。

 あの巨大なバゥ・ロードから、子蜘蛛が出現し独立して活動する事を端から考慮していなかった。

 対大物用かつ高火力、そして迎撃されにくい高初速を持つ武器としか、頭になかったのだ。

 

「落ち着け! よく狙うのだ! ……そうだ、楠木、楠木は無事か!?」

 

 この場にいない楠木の事を思い出す。

 彼は先の巨大糸放射の時から見ていない。

 短距離通信で呼びかける。

 

「今んとこ無事だ! だけどβ型が何体か……。くそ! でかいのも迫ってる! た、助けてくれ! このままじゃ!」

 

 どうやら状況は良くないようだ。

 だがこちらも……!

 

「ここは大丈夫! 行ってください! 後で追い付きます!」

 

 糸の拘束から解かれ、立ち上がった市原は言う。

 一見無事に見えるが、私はパワードスケルトンのスーツ部分からにじみ出る出血を見逃さなかった。

 

「馬鹿を言うな! 先ほどの至近からの直撃、フェンサーと言えど無事では済むまい」

 

「治癒剤は打ちました。行ってあげてください。さっきの楠木さんの話、なんだか他人事に聞こえなくて」

 

「まさか、君も家族を? ……姉がいると伺っていたが」

 

「ええ。姉は名古屋で。両親は東京でマザーシップに殺されました。自分にはもう、守るものはないんです。だから! せめて仲間くらい、自分に守らせてくださいッ!!」

 

 そう啖呵を切った彼の背中は、先ほどまでの礼儀正しそうな好青年ではなく、立派なEDF兵士だった。

 

「分かった! 死ぬなよ!!」

 

「イエッサー!!」

 

 背後を任せて、私は先ほど楠木が逃げ込んだあたりの建物に走るが見当たらない。

 だが銃声を頼りに団地に入ると、楠木はすぐに見つかった。

 

「ぐああぁぁッ! この野郎ッ!」

 

「楠木曹長ッ!!」

 

 楠木の背後にいた三体を纏めて仕留める。

 

「はぁ、はぁ、せ、仙崎か……。へっ、悪ぃな、あんたのそばを離れたらこのザマだ」

 

 そういった楠木の体は、既に糸に塗れていた。

 

「そんな体でよく戦ったものだ。貴方は既に立派なレンジャーだ」

 

 まだ残っているβ型の数が少なくなっていく。

 それ以上に、楠木は一人で多くのβ型を倒したのだろう。

 だがそんな彼は、もはや満身創痍だ。

 糸から染み出た酸で、アーマーの各所は溶け落ち、多数の出血と火傷も見える。

 通常なら、もう戦える状態ではない。

 

「へっ、レンジャーも辛いもんだ……。ま、何とかなったのはコイツのおかげだぜ」

 

 楠木はふらつきながらも、また一体を仕留める。

 手に持つのは、狙撃銃ドゥンケルだ。

 

「連射が効くから、結構適当に撃っても当たるのな。スパローショットも扱いやすいし、あんたの選んだ武器は正解だったよ。だが……ごほっ! さすがに、やられすぎたな……」

 

「楠木!」

 

 楠木は吐血して、地面に倒れた。

 

 同時に、妙な静寂を感じた。

 私の中の危険信号が鳴り響き、楠木を乱暴に背負う。

 同時にバゥ・ロードが糸の放射を行い、巨大な糸が十数本飛んでくる。

 

「また背負うのか!? それじゃ避けられないだろ!」

 

「黙っていろッ!」

 

 糸の軌道を予測し、安全な地点を見つける。

 ほぼ転ぶような形でその場所に体を収めると、糸の直撃による破壊的な連続音が鳴り響く。

 

 私の真横に着弾した糸は、直径だけで人の身長程もあり、直撃を受ければその質量だけで肉体が弾けかねない極太だ。

 

 それが数十本ほど、辺りに一斉に、無差別に降り注ぐ。

 まだ形の残っていた建物が次々と崩壊し、にじみ出た酸があたりを溶かし、炎上させる。

 このフォーリナー戦争に於いて、何度も廃墟や凄惨な戦場を見てきたが、光景だけで言うならその中でもかなり絶望的だ。

 

 救いなのは、この場所で悲鳴を上げる人間が兵士三人しかいない事くらいだ。

 

 そしてその炎上した後継の先、炎と煙の中に巨大な蜘蛛のシルエットが浮かぶ。

 不気味に、赤い目だけを光らせて。

 

 そこに佇むだけなら無害なものだが、バゥ・ロードはまだ放射した糸を繋げたまま飛び上がった。

 

「ちっ! まだ来るかっ!!」

 

 先ほど爆撃隊にやっていたのと同じ動きだ。

 極太の糸が軽々しく振り回され、無秩序に暴れる。

 が、どうやらそれは狙ってやっているわけではないらしく、人ひとり背負いながらでも私なら軽く回避できた。

 

「……あんた、すげぇな。背中に乗ってると、なんかアトラクションでもやってる気分だ」

 

「ぬぁははは! あのような大雑把な動き、避けるのは造作もないわ! ……と! 高笑いする余裕も無くなりそうだ!」

 

 バゥ・ロードは巨大だ。

 故に、一歩や一跳躍が感覚が狂いそうなほど大きい。

 遠くで跳ねてると思った次の一跳躍で、あっという間に真横に跳んできた。

 

 真横、脚の付け根や脚そのものの体毛の中に棲むβ型が、糸の発射態勢を取る。

 

「楠木! そのまま撃て!!」

 

「イエッサー! うおおおぉぉ!!」

 

 ガバナーとスパローショットの連射。

 糸の発射より前に撃った弾丸は、中のβ型にヒットし、紫色の体液を噴出してそのまま絶命する個体もでた。

 すると、それに反応して周囲の個体は外に現れた。

 

 一見、周囲を小型の敵に覆われて窮地であるが、その反面――

 

「奴らが出て行った場所は、ガラ空きだなッ!!」

 

 私は更に距離を詰め、ガバナーの引き鉄を引く。

 散弾は全弾命中し、その場所に大きな穴を穿った。

 バゥ・ロードが、形容しがたい嘶きを上げる。

 

「効いてる……が! 深追いは出来んな! 楠木!」

 

「イエッサー!!」

 楠木が、文字通り背中をカバーする。

 それはありがたいが、さすがにこの状況も私の消耗が激しい。

 なんとかしなければ。

 そう考えつつ、その場から撤退しようと足を踏み出すと、その足を迂闊にも糸で絡めとられてしまう。

 

「ぐあ! 足がっ!?」

 

「仙崎!」

 

 回避だけが取り柄の私がこんなつまらんミスをしてどうする!?

 瞬間、間の悪い事にバゥ・ロードが、今まで見たこともないような至近距離で糸の放射体勢に入る。

 糸は、距離が近ければ近い程収束する。

 すなわち、糸の密度的に回避は困難になる。

 角度的に放射範囲外への回避は容易になるが、これほど大きい場合はそれも絶望的だ。

 

 糸が、放射される。

 




いやぁボス戦みたいで書いててワクワクしますね!
こういうのは筆が進みます!楽しい!
と書いてる本人はノリノリですが、どうでしょうか……?


※最近忘れてた新規登場人物


永崎学(ながさき まなぶ)(40)
 階級は中佐。
 EDF極東方面第11軍司令部の作戦参謀長。
 本来、横須賀の極東本部基地の周辺にある統合参謀本部の海軍参謀長であったが、マザーシップの攻撃によって要員の大半が死亡。
 生き残った一部の要員が極東本部に流れ込み、更に極東本部を失い、今は本部の作戦アドバイザー的立ち位置にいる。
 独特の気怠い口調で冷徹ともとれる判断を下す。
 だが、それは榊中将や秋元准将が、司令部としてはやや人情寄りの判断を取る事が多いが故のカウンターとしてよいバランスになっている。
 気怠い態度とは裏腹に、軍人らしい思考の持ち主。

楠木雄一郎(くすのき ゆういちろう)(33)
 第402火力演習場を警備する、第4021警備中隊の曹長。
 本来レンジャー志望であったが、訳あって警備兵として任務についた。
 フォーリナー襲撃以前は、反EDF派武装勢力(日本国内では活発ではなかったが)や市民団体、少数のデモ活動などが行われていたので、それらから基地を守る為積極的に警備兵として採用も行われていた。
 戦闘を目的としない為装備は簡素、訓練はレンジャー部隊に言わせれば生ぬるい、一方で俸給はEDF準拠など、警備兵を馬鹿にしたり逆に羨むするものなどがEDF内にも一定数存在した。
 が、実際には基地内に押し寄せる大規模デモ活動が起こる事が少なくなく、かといって危害をむやみに加えるわけにもいかず基地への侵入や損害を押さえねばならないので皆が想像するほど楽な仕事ではないと、本人は言う。
 兵士としての能力は平均的で、故に常に全力で事に当たる為余裕が無いように見える。
 非常識的な事にいちいち反応してしまうタチで、投げやりな態度に見えるかも知れないが、根は素直なので、文句を言いつつ一度決めたらとことんまでやり込む。

市原一馬(いちはら かずま)(22)
 第202機械化歩兵連隊-第一中隊”ジャガーノート”第一小隊の少尉。
 第三中隊”ランドガルド”と同じ連隊で、横浜救助作戦にも参加していた。
 仙崎からは礼儀正しく、頑張り屋の印象を持たれる。
 巨大生物襲撃の際に友人を、マザーシップ砲撃の際に両親を、名古屋市の攻防の際に衛生兵だった姉を亡くしており、守るべきものを失った彼は日本の為、地球の為、人類の為、そして隣で戦う仲間を護るため、今もEDFで懸命に戦っている。
 
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