全地球防衛戦争―EDF戦記―   作:スピオトフォズ

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間もなく今年も終わりますね。
その前にアイアンウォール編終わらせたいと思います!




第六十六話 奈落の王(Ⅵ)

――2023年4月1日 2:00 京都府亀岡市 バゥ・ロード正面――

 

 

「はぁ、はぁッ……! ぬぅッ!!」

 

 バゥ・ロードに張り付いたβ型の糸の迎撃を回避し、巨大な脚にガバナーの一撃。

 肉が抉れ、絶命したβ型の周囲のβ型が体毛に潜むのをやめ、地上に降り立つ。

 その数三体。

 だが、降り立った瞬間にストリンガーで真正面から射貫する。

 すぐに弾を込め、跳び上がったβ型を狙撃。

 一体が糸を放つがローリングで回避し、射撃、撃破。

 だが、これでストリンガーは弾切れ。

 ガバナーも、最後の一発を残すのみとなってしまった。

 

「ふん、ここまでか……。時間は、稼げたのだろうか……」

 

 さすがの私も、弾丸が無ければどうしようもない。

 

 付近には、目で確認できるだけであと5体のβ型がいる。

 一発で五体撃破しなければ逃げるしかなくなる。

 だが、先ほどまで周囲のβ型の掃討に追われ、殆ど攻撃出来ていなかったにもかかわらず、奴は私の事を執拗に狙っていた。

 巨大生物に、フォーリナーに人間や、真っ当な生物の常識が通用するとは思えないが、奴は私を滅するまでは決して止まらぬだろうと、そんな確信があった。

 

 正面の四つの目玉のうち一つを潰したが、残り三つの目玉から感情が読み取れるはずもない。

 だがなぜだか、奴が怒りに震えているのを手に取るように分かった気がした。

 こんなものは、ただの気のせいに過ぎないだろうが。

 

「どうした? 殆ど丸腰の相手に何をビビっている? 撃ってこないのか! 臆病者め!!」

 

 私の言葉に触発された訳では決してないだろうが、バゥ・ロードは一度跳躍した後、再び糸を放射した。

 だが。

 

「ぬぁははは! ぬるいッ! その程度、幾度となく見切ってきたわ!」

 

 尊大な仮面を貼りつけ、私は己の体に限界が近づきつつあるのを意識的に隠す。

 視界は徐々に歪み、徐々に肩で息をするようになる。

 が、例え強がりや見栄であっても、それが自身へ向けてのものであっても、決して絶望に折れたりはしない。

 故に、尚も余裕である演技を続ける。

 

 空中で迫る幾十本の糸の軌道を瞬時に予測し、避けられると思う場所に体を滑り込ませる。 

 直後、背後にβ型の気配を感じる。

 

「ちっ! 連携を取っているつもりかッ!」

 

 迷わずガバナー最後の一発を叩き込む。

 これで本当に丸腰になってしまった。

 直後、糸の砲撃が降り注ぐ。

 幾度となくこの地に起こった凄まじい衝撃で、建物や、人の営みのあった人工物は細かく砕かれ、文字通りの更地と化していた。

 その間私は常に動き続け、迫りくる連続の糸を紙一重で躱し続ける。

 砲撃は土砂を巻き上げ、視界を悪くするが、全ての糸が落下を終えた後でも、生憎と私は無事だ。

 

「ぐッ! 酸が入り込んだか……! なる程、直撃しなくともこれを続ければ私を亡き者に出来ると、そう踏んだか?」

 

 鈍い痛みに左手を押さえる。

 着弾時や飛翔時に飛散した少量の酸が体を蝕んでいる。

 

 構うものか、もはや手に握る武器など無くなってしまった。

 さあ、ここからは文字通り丸腰で逃げ回る事になる。

 

「だがなぁ。私は葛木に、市原にも命を救われ、瀬川や細海を始め皆に生還を誓ったのだ。貴様なんぞにくれてやる命など、ただの一つも持ち合わせていないと知れッ!」

 

 意思の疎通など不可能と知りながら、それでも己を振るいだたせるためにただ一人で吠える。

 

 直後、上空から空を裂く飛翔音が聞こえた。

 

「砲撃!? いや……!?」

 

 バゥ・ロードは無反応だ。

 それは自分を標的としていない上に、砲弾ですらなかったからなのか。

 とにかく、脅威と認識されなかったためかそれは、仙崎の周囲に等間隔で降り注いだ。

 

「補給コンテナ……! ありがたい!!」

 

 戦場にばら撒かれる補給コンテナ。

 スチールレイン作戦の教訓を元に、戦場に迅速に届くことを目的とした補給コンテナは、パラシュートではなく直接地面に落下する。

 燃料や弾薬までこのような乱暴な方法で投下して良いのかと思うが、EDFの謎技術により中身に影響はないそうだ。

 

 とにかく、これが降ってくるという事は、少なくとも本部はこの場所で孤軍奮闘している誰かがいると認識してくれたのだろう。

 

 瀬川達かもしくは、偵察任務に就いているスカウトチームの報告か。

 兵站本部であった402火力演習場は文字通り壊滅したので、恐らく補給艦の電磁カタパルトで打ち出したのだろう。

 

 なんにせよ本当にありがたい。

 早速一つ目を開封する。

 

「セントリーガンだと!? いきなり工兵隊の物を寄こすとは! だがまあ助かった!」

 

 コンテナの中には更にコンテナが入っていた。

 簡易防衛線構築用の携行式自動捕捉型機関銃(セントリーガン)ZER-GUN二つを即座に展開。

 近づくβ型巨大生物を自動で射撃する。

 そしてもう一つコンテナに入っていたのは。

 

「アーマースーツと……、これは? C24爆弾か? なぜこのようなものを!?」

 

 C型爆弾は、EDFの運用する遠隔起爆型汎用爆弾だ。

 通常、工兵が地面に設置し(フォーリナーは、この爆弾に対し警戒を持たないので、地面に埋め込む必要はない)敵の進撃に合わせて起爆する地雷のような運用をするのだが、まったくどう使えというのだ。

 

 そう考えているうちに、バゥ・ロードがこちらに跳躍してきた。

 

「くっ、仕掛けてくるか! いや、ならばッ!!」

 

 先ほどいた場所に、轟音を立てて着地する。

 足元にあったはずのセントリーガンも破壊されているだろう。

 私は紙一重の差で踏みつぶされることを回避するが、側面に潜むβ型から糸の斉射を浴びる。

 

「ぬおおおぉぉ!!」

 

 新品のアーマースーツを盾にする。

 おのれ、せっかく満足な服になるところだったのに!

 

「だが! 隙は作らせてもらうぞッ!!」

 

 起爆スイッチを押す。

 瞬間、バゥ・ロードの真下で爆炎が上がる。

 逃げる前にC24爆弾を設置してきたのだ。

 

「こんな使い道があったとは! 今のうちに!」

 

 新たなコンテナを開ける。

 

「同じかっ!!」

 

 ラインナップは同じ。

 新品のアーマースーツと、セントリーガン二基にC24爆弾。

 

 だがやはりアーマースーツがあるのは嬉しい。

 私は爆炎に体を燃え上がらせるバゥ・ロードの隙を見て瞬時に着替え、セントリーガン二基を起動する。

 

 だがこのZER-GUNとやらは弾幕重視の砲台だ。

 大物であるバゥ・ロードに対し効果は薄いだろう。

 

「ちっ、これはこれで非常に助かったが、他の武器はないのか!?」

 

 恐らく、セントリーガンで隙を作っているうちに着替えろという気遣いなのだろうが、C24爆弾はこういう使い方でよかったのか?

 分からん!

 単に工兵用のコンテナを射出しただけかも知れん!

 

 とにかく手当たり次第に次のコンテナを開ける。

 

「これは……プロミネンス対戦車ミサイル!? ミサイルは今は――いや、使える!」

 

 私は上方に向けてプロミネンスを放つ。

 ミサイルは既に高高度強襲(トップダウン)モードに設定してある。

 引き鉄を引くと派手な発射炎を上げてプロミネンスは上空まで昇り、そして急降下を始める。

 だが、それに反応したバゥ・ロードは対空迎撃を行う。

 

「今だッ! くたばるが良い!」

 

 プロミネンスミサイル発射器を放棄し、すぐに別の武器に持ち替え接近する。

 鈴城軍曹に倣い、私はスパローショットを二丁持ちし、全弾バゥ・ロードの右前脚付け根に叩き込む。

 

「うおおおぉぉぉッ!!」

 

 β型から放たれる糸の弾幕、体毛、潜むβ型そのものを貫通し、バゥ・ロード本体にダメージを与える。

 体液が噴出し、体毛のまざった肉片が飛び散る様は耐性のない者が見れば吐き気を催すグロテスクさだが、我々EDF隊員にそんな軟弱な者はいな――いや細海だったら凄いしかめっ面をしそうだ。

 

 体毛からの定点迎撃に効果なしと判断してか、周囲のβ型が飛び出すが、それは設置しておいたセントリーガンが片付ける。

 やがて上空を迎撃した極太の糸が自由落下するが、そんなものを回避するのは造作もない。

 セントリーガンで作られた陣地を放棄し、次のコンテナに向かう。

 両腕が埋まっているとリロード出来ないので一丁を破棄し、腰の弾薬袋からマガジンを装填する。

 

 バゥ・ロードが堪らず距離を取り、今度はこちらに砲撃する。

 

「ふん!」

 

 もう何度目か分らぬ、慣れた感覚で私は糸の隙間を縫うように回避する。

 そして降り注ぐコンテナの一つを開け、ゴリアスRを手に取る。

 

 EDF制式ロケットランチャー・ゴリアスシリーズのRモデルだ。

 ゴリアスシリーズや、他の次世代型ロケットランチャーの大半は、従来の一発毎の装填式から弾倉式に変わり、従来の物より弾頭がサイズダウンの傾向にある。

 ゴリアスRのロケットはそれよりも更に小さく、ロケット弾を一個の弾倉に15発も装填可能であり、それを5秒足らずで撃ちきってしまう程の連射機構を持っている。

 

 さすがに一発の威力は小規模のものだが、まとめて叩き込めば爆発で抉られた装甲や甲殻を更に掘るように内部へ抉る事が出来るので大型装甲目標にも効果的だ。

 

 そして本来なら迎撃の可能性のある初速の遅い兵器は通用しないが。

 

「さぁ、殆ど丸裸にしてやったぞ! どうだッ!」

 

 右側面にゴリアスRをフルオートで叩き込む。

 15発のロケット弾は、複数の弾幕によって何発か撃ち落とされたが、弾幕の厚さは比べるべくもなく、その大半が狙い通り右前脚付け根に直撃した。

 

 地球上のどの生物にもかけ離れた奇妙な咆哮を上げ、怯みだす。

 

「……! き、効いてる! 行けるぞッ!」

 

 カートリッジを再装填。

 再び狙うが、奴は大きく跳躍。

 

「またか! これだけ撃っているのに、まったく落ち着きのない!!」

 

 反射で引き金を引きかけるが、予想以上にこちらに近づいていた為射撃を中断し、逃げに入る。

 

「くッ! また近距離放射かッ!!」

 

 私にとっては、やはり近づかれる方が脅威だ。

 それを理解しているのか――いや、そのような習性なのだろうか。

 このバゥ・ロードは近づいたり遠ざかったり、周囲を回り込んだり不規則な動きを繰り返す。

 一定の戦術が無いのは、それはそれでやり辛いものだ。

 

「ぐおおおぉぉぉッ!」

 

 至近距離で糸の放射。

 地面はめくりあがり、夜空に土砂と酸が舞う。

 余波を受け、吹き飛ばされ転がる。

 直撃こそ幾度となく回避しているものの、これを連発されれば私は今頃生きていなかっただろう。

 何故バゥ・ロードがそれを繰り返さないのか理解に苦しむが、そこまでの知能は有していないと見て良いのだろうか。

 

 もしくは、この期に及んでまだ舐められているのか。

 

「お互い……、満身創痍と思っているが、それは私の思い違いか? どうなのだ、おい!!」

 

 ゴリアスRを叩き込む。

 少なくない数が直撃し、余波で周囲のβ型が排出される。

 その数はもはや少ない。

 側面や正面の体毛に潜む取り巻きの数はわずかとみて良いだろう。

 先の爆撃であればもう有効かもしれんが、上面など私が攻撃出来ない位置にあるβ型は健在である可能性が高い上、本体の迎撃能力は失われていないので、少なくない犠牲が出るだろう。

 

 やはり奴は、陸上戦闘で仕留めるべきだ。

 

 

 その後も武装を変えつつ、地道な戦闘が続いた。

 確実にダメージを与えている筈なのに、奴が倒れる気配はまるでない。

 やはり歩兵一人で倒れるものではないらしい。

 

 その上、奴にダメージを与えることを優先して周囲の掃討を疎かにしていたので、新品になったヘルメットのレーダーを覗くと、結構な数のβ型が周囲に潜んでいる事が分かった。

 

 これではバゥ・ロードへの攻撃も回避も集中して行えない。

 完全に作戦ミスである。

 

 気力と弾薬はまだあるが、思考と体力が限界に近付いている。

 すなわち、普段起こさないようなミスを起こすという事だ。

 

「しまった!」

 

 周囲にいたβ型を屠ろうとしたが、手持ちのガバナーの弾丸を装填していなかった。

 

「ちっ!」

 

 何とか糸を躱すも、完全にペースを乱された。

 危機を感じたその時――狙う三体のβ型が、急に爆散した。

 

「はッ!?」

 

 私以外の攻撃で、敵が倒されたという事は……!

 

「よぉー! にーちゃん!! しっかり生きてたな、よかったぜ! 今度こそデカ蜘蛛野郎をぶっ倒しに来たぜぃ!!」

 

 そこには、背面の跳躍装置を吹かして急接近する御子柴と、

 

「てやぁぁぁぁぁッ!」

 

 上空を飛行し、通り際に別のβ型を雷撃していく瀬川の姿があった。

 

「御子柴少尉! 瀬川少尉! よく来てくれた! 本当に助かったぞ! あと私は兄上ではないと何度言ったら分かる!」

 

「あんたこそ何度律儀につっこむ気なの!? そういう意味じゃないから!!」

 

 瀬川の子気味良い反応に、私は、本当に心の底から安堵した。

 一人が三人になっただけだが、この二人の助力は頼もしかった。

 なんせ、彼らはこう見えてEDF歩兵部隊の精鋭部隊に引けを取らない猛者たちだ。

 ”じゃじゃ馬娘”と”スティングレイの狂犬”。

 どちらも破天荒な人柄ではあるが、こと戦闘技能に関しては、間違いなく信頼できる。

 

――同時刻 京都府南丹市 市街地 第402火力演習場残存砲兵戦力集結地――

 

 ネグリング自走ロケット砲が、ロケットコンテナを水平に向けて汎用小型ミサイルエメロードを連続で射出する。

 その数20。

 迫りくる巨大生物群に対し盛大な爆発が振る舞われるが、難を逃れたのはβ型だ。

 跳躍するβ型は建物などの上に乗り距離を詰め、ネグリングに接近する。

 

 それを付近の随伴歩兵、護衛小隊、そして負傷兵として治療を受けていた兵士たちが残さず迎撃する。

 ネグリング数輌はミサイルを撃ち尽くし、代わりにアンモナイト自走対空砲が出張る。

 ネグリングのミサイル水平射撃によって更地溶かした住宅街を、今度はアンモナイトの水平射撃が薙ぎ払うように掃射する。

 

 近接信管を搭載した対空砲弾は、10m超も跳ぶβ型とも相性はいいが、今度は固い甲殻を持ったα型亜種に接近を許す。

 

 抜けてきた大量のα型亜種に歩兵部隊も手を焼いているが、

 

『レーザー誘導器オン! UT45オートキャノン、リンク接続完了! 誤射の心配はゼロよ! 撃ちなさい!!』

 

『スコール1了解ぃ!! 支援射撃、開始ッ! おらぁァッ!』

 

 戦場に似つかないような甘ったるい声で、しかし凛々しく言い放つ。

 その声に応じて、厳つい濁声が無線を通ると、EF-31対地攻撃ヘリ”ネレイド”の機体下部対地45mm機関砲が火を噴く。

 

 武装名、UT45オートキャノン。

 第三エアレイダー小隊の空爆誘導兵(エアレイダー)牧野深雪(まきの みゆき)大尉の持つ、レーザー誘導器とリンクし、レーザー照射地点に45mm砲弾が次々と着弾し、α型亜種の悲鳴と体液の噴出、そして土煙があたりを覆う。

 

「まだまだーッ!」

 

 牧野大尉は薙ぎ払うように誘導器を照射すると、それに沿い、45mm砲弾が一面の巨大生物を一掃していく。

 ヘリ単体でも直接照準で射撃する事はもちろん可能だが、ここは友軍の目の前だ。

 逆に言えば、エアレイダーが一歩間違って味方に照準を当てれば、その味方は瞬時にミンチになるのだが、そんなヘマをするようではエアレイダーの訓練課程で叩き落されている。

 

 そして突破してきたα型亜種が全て穴だらけの死骸と化す。

 

『こんなところかしら! んー? なにぼーっとしてんの! 蜘蛛野郎が来るんだから、とっとと行きなさいってば!』

 

 地平線の奥から、β型が群れを成してやってくるのが見える。

 他の巨大生物もいるのだろうが、β型は跳ねるので特によく見える。

 そして、巨大生物の移動速度なら、地平線に見えたと思えばすぐにこちらへ辿り着く。

 

『そういう訳にもいかねぇさ! あのクソ蜘蛛共には部下も世話になってな! あそこにゃ友軍はいねぇだろ! ならブチのめす! スコール3、8、あの群れを片付ける!』

 

『スコール3了解! 派手にやりましょう!』

 

『スコール8あいつの仇だ!!』

 

『ありったけブチ込んでやれッ! いけぇーー!!』

 

 三機のネレイドは、主翼下ハードポイントに据え付けたカスケードロケットと、両主翼先端の多連装小型自動追尾弾発射器(MLRA)を一斉に放つ。

 

 無誘導のカスケードロケット弾が連続して巨大生物群を吹き飛ばし、跳躍でそれを逃れたβ型にも、MLRAの自動追尾弾が逃さず炸裂する。

 

 MLRAとは、乱戦時の航空支援でも使えるよう調整されたミサイルランチャーで、大雑把な方向を合わせて引き金を引く打だけでミサイルが自動で敵個体をロックオンし、撃破する仕組みだ。

 爆破範囲は狭いため一帯の制圧には向かないが、歩兵の隣で使っても誘爆の危険が少ない上、指向性爆薬を使っているのでα型亜種を除く巨大生物には効果的を発揮する。

 

『ったくもう好き放題やるんじゃないわよ! ブラッカー! もっと後ろに下がんなさいよ!? 砲撃出来ないでしょ!』

 

『無茶言わんでくださいスピカの姐さん! 敵は前だけじゃないんですよ!? 前線支援なら迫撃砲連中に頼んでくださいって!』

 

『迫撃砲? ……ああ、グレイプの連中は生き残ってたんだっけ? ああもう、頭回ってないわねあたし!  悪かったわよ! 手が空いてるグレイプの連中! 一括で座標送信したからそこに砲撃して!』

 

 ブラッカー自走榴弾砲の声で自分に苛つきながら、迫撃砲装備のグレイプ装甲車に呼びかける。

 

『了解! 120mm迫撃砲、発射!!』

 

 一輌のグレイプが、上部迫撃砲を何発か放つと、目前に迫っていたα型亜種が激しく吹き飛ぶ。

 中には、爆風を受けて吹っ飛んだものの無事だった個体もいるが。

 

「往生際が悪いっ!」

 

 牧野大尉がリムペットチェーンガンで辺りに粘着起爆弾を薙ぐように連射、起爆すると、起き上がった数体のα型亜種は複数の爆弾によって息の根を止めた。

 

「はぁ、はぁ、もうっ、疲れるわね……」

 

 頭を押さえて、誰にも聞こえぬよう本音を吐く。

 彼女は戦域を見渡せる”目”を持つ事もあって、南丹市市街地南東側防衛の指揮を執っていた。

 だが彼女自身も負傷して運ばれていた身であり、体調は万全とは程遠い。

 

 南丹市山中を切り開いて作られた第402火力演習場は、レイドアンカーの集中落下とバゥ・ロード出現のあおりを喰らったことによって放棄された。

 撤退した砲兵部隊、補給部隊、そして僅かの護衛部隊と収容されてた負傷兵たちは、散り散りに逃げながらもアンカー落下の少ないと目論んだここ南丹市市街地に再集結した。

 

 だが、道中引き連れた巨大生物や、それに反応した巨大生物が予想以上に多く、今も必死に迎撃を行うくらいは状況がひっ迫していた。

 他の戦場もバゥ・ロードとの戦闘だったり、それに向けてタイタンが移動したことの穴埋めに必死だったりでとても援軍を寄こせる余裕はない。

 

『くそっ! しまった! 近づかれすぎた! うわぁーー!!』

 

『グレイプがやられたぞ!』

 

『ブラッカー何してる! 下がれ下がれ!』

 

『ちくしょぉぉぉ! この下等生物如きがぁぁーー!』

 

『γ型が出て来たわ! ミサイル――はぁ? 全部使ったぁ!? もう何やってんのよバカ! とにかく下がりなさい! 針鼠にされるわよ!』

 

『ちっくしょう! MLRAを使い切った瞬間にこれかよ!』

 

『隊長が全部使えっていうから!!』

 

『俺のせいかよ!? いや俺のせいだな! すまん!!』

 

『γ型は対空砲に任せろ! やっと本来の出番だ!』

 

『馬鹿!! 射撃を急にやめるな! 巨大生物が――うわぁぁぁぁ!!』

 

『くそっ! 歩兵隊、グレイプ! 弾幕を張れ! ジャガーとギガンテスも車載機銃でなんとかしろ!』

 

『迫撃砲小隊! 1km向こうの駐車場まで後退しなさい! あそこに敵が居ないのは確認したわ! あんたた達がやられたら支援を失うのよ!? いいから早くして!』

 

『γ型が撃ってくるぞ! くそ! なんてでかい針なんだ! うわああぁぁぁ!!』

 

『くそっ! また一人死んだ……!』

 

『そこのギガンテス! 後ろだ! 機銃を使え!!』

 

『ぐああぁぁーー!!』

 

『敵、第六派確認! くそっ、キリがねぇぞ!!』

 

『ぼやくな! カスケードロケット! まだ残りはあるな!? とにかく撃ちまくれ!』

 

 ここから更に南東、亀岡市方面に突き刺さるアンカーから無尽蔵の物量で、巨大生物が出現する

 EDFに反応し、こちらへ向かう敵を出現するアンカーを今まで砲兵によって叩いていたが、ここにきて接近する敵への対処で追い付かなくなっていた。

 

『ブラッカー!! 埒が明かないわ! 一旦支援砲撃中止して、向こうのアンカー撃つのよ! 今までの出現パターンでだいたいの位置は掴んだから、多分何とかなるはず! 何とかしなさい!』

 

『りょうか――くそ! いつの間にこんな近くに!? ぎっ、ぎゃああぁぁぁぁ!!』

 

『ちょっとブラッカー!? うそでしょ!? あっちの歩兵隊は何してんのよ!!』

 

『こちらスコール11! 急に別方向から敵が! 歩兵部隊は既に――がっ!? やばい、糸が、糸が絡みついて!! つ、墜落する! うわああぁぁぁッ!!』

 

『おい! スコール11! クソッ! あの馬鹿!!』

 

『結構まずいわね……。このまま耐久って訳にもいかないし……。もう玉砕覚悟で突入隊を編成するしか――』

 

 155mm自走榴弾砲であるブラッカーを失ったことにより、アンカー撃破が難しくなった。

 牧野大尉は必死に頭を悩ませるが、突如無線が入る。

 

『エアレイダー”アルデバラン”より”スピカ”へ! 待たせたな! 苦労して引っ張ってきたDE-202(ホエール)EA-20(アルテミス)だ! 持っていけ!』

 

 負傷者を載せたキャリバンから、門倉大尉が無線を送る。

 

『遅いわよ!!! こっちはもうちょっとで玉砕覚悟で突撃する所だったんだけど!! 今更そいつらなんていらないから、それより怪我人だけ置いてどっかにあるアンカー破壊してきてちょーだい! 位置はだいたい掴んだから今転送したわ!!』

 

『んん? この位置にあるアンカーなら全部破壊したぞ? ちょうど通り道だったもんでなぁ。じゃまだったから彼らに頼んでやってもらった』

 

『えぇ!? そ、そう、もうやったのね、ちょっとはやるじゃない!』

 

 なんという事もないように彼は言うが、アンカーが近くにあったという事は、巨大生物の群れを突破してきたという事だ。

 その渦中を抜けながら、空軍の支援のおかげとはいえ複数のアンカーを処理する事は簡単ではない。

 

 普段は棘のある牧野大尉の口調も勢いをひそめている当たり、その戦果は素直に驚いたのだろう。

 

《DE-202よりエアレイダー。支援可能領域に到達した。指示を請う》

 

《こちらアルテミス! まもなく戦域上空を通過する! 誤爆のないよう、座標の指示を頼む!》

 

 大型攻撃機ホエール、制圧攻撃機アルテミスの無線が届く。

 ホエールは空の要塞と呼ばれ、装甲付きの大型機体を四基のジェットエンジンが飛ばす。

 機体左側には40mm機関砲や105mm速射砲を始め、多種多様な武装を換装で取り付け可能だ。

 機体は遥か雲の上を旋回しつつ、機体左側に取り付けられた砲門から地上を狙撃する。

 

 一方アルテミスは地上低空を飛行する制圧攻撃機。

 垂直に伸びた長い翼と、機首後方に取り付けられた二基の大型ジェットエンジンが特徴的なシルエットを浮かばせる。

 機首の30mmガトリング砲と75mm対戦車ロケット砲を装備している。

 

『んじゃあ遠慮無く使うわね! それとアルデバラン! 重傷者用ブルートは公民館の駐車場に待機させておいたから、早く運んできなさい! それが終わったらあんたは北の方の援護をお願い! 手が足りなくて困ってんのよ!』

 

 牧野大尉が腕のコンソールを操作して座標を指示する。

 ホエールは105mm速射砲で巨大生物を爆撃し、40mm機関砲を雨のように降らせ、巨大生物を駆逐する。

 アルテミスは低空をフライパスし、通り際に味方を襲いつつあった巨大生物を薙いでゆく。

 30mmガトリング砲と75mm対戦車ロケット砲が通った後は、死骸しか残されていない。

 

「いやぁそれがな? ちょいと野暮用があって、俺は向こうに戻らにゃいかんのだ」

 

 牧野大尉が戦場を見渡していると、ふと生身の門倉大尉が話しかけてきた。

 

「うわっ! なんで無線じゃなくて直接いうのよ! あっ……、さてはあんた、”やらかす”気ね?」

 

 驚くが、門倉大尉の人の悪そうな笑みを見て察した牧野大尉。

 

「うわっはっは! ……どうしても果たすべき心残りがあってな。ここには残れん。すまんな」

 

 豪快に笑った後、顔を引き締めて話す。

 

「命令違反……、はぁー、ホンット男ってバカらし。ま、しょうがないわね! こっちは何とかしたげるから、とっとと行きなさい!」

 

 わざとらしくため息と気持ちばかりの罵りを入れた後、手をひらひらさせて門倉大尉を追い返す。

 

「すまんなぁ。今度手に入ったらE型レーションのプリンやるから、何とか誤魔化しといてくれ」

 

「ホント!? じゃなくって!! ふん! 別にあんたの為でもプリンの為でもないわ! どーせあのクソデカ大蜘蛛ぶっころしに行くんでしょ? あんたの事だからもう航空部隊でも向かわせてる所でしょうし、遅れないうちにさっさと行きなさい! はぁ!? 車輛が欲しい!? バカじゃないの貸せるわけないでしょ! ばれないようにその……あの辺の軽でも使ってなさい! ほら! さっさと! 行く!!」

 

 ぐいぐいと背中を押され、無理やり民間の軽自動車に乗せられる。

 非常時の法律通り、鍵は指しっぱなしだ。

 

「……何も、言ってないんだがなぁ……」

 

 牧野大尉のあまりの察しの良さに苦笑いしつつ、最大限の感謝を胸に門倉大尉は、仙崎達の居る亀岡市へと向かう。




久々の新規登場人物!!

牧野深雪(まきの みゆき)(29)
 第三エアレイダー小隊の空爆誘導兵(エアレイダー)
 戦場に似つかわしくない甘ったるい声と、棘のある辛辣な性格が同居した性格。
 童顔で背も低いため若く見られがちだが実は三十路手前。
 的確な洞察力と判断力に加え、状況から相手の考えを読むことが得意。
 つまり甘い声で辛辣に罵られながら望む通りに尽くしてくれるというよく分からない事になる。
 保坂少佐が誤爆を絶妙に見極めた至近距離爆撃、天才的な計算と奇抜な戦法、門倉大尉が精密な射出からの正確なホエール要請や近接航空支援と、経験によって裏付けされた大胆かつ堅実な戦法が得意なのに対し、
 牧野大尉はレーザー誘導器とネレイドの連携による近接機銃掃射とミサイル支援を好んで用い、天性の勘と部隊間の動きを予測した柔軟な戦法が得意。
 ただし、三名ともエアレイダーに選ばれるだけあって大抵の事は何でもできる。



はぁー。
ヒントは牧野大尉のシーン無かったんだけど夜中のテンションで加筆したらこんな長くなってしまった。
仙崎の所より長いかもしれない。
いやぁー、牧野大尉ただのテンプレツンデレキャラにしようと思ったんだけどなんか変な感じになりましたね。
いや~難しいもんだ……。
なんか戦場が苛烈すぎてツンデレとかやってる余裕がないというか……。

でもこれはこれでなんか気に入ったのでまた出せる時に出してあげたいですね。
問題は口調が若干瀬川と被ってるとこか……(大問題だよ!!)
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