全地球防衛戦争―EDF戦記―   作:スピオトフォズ

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なんとか終わりました。



第六十九話 奈落の王(Ⅸ)

――2023年4月1日 02:50 E-651重戦車タイタン――

 

 

「レクイエム砲迎撃されました! 糸による砲撃来ます!」

 

「回避は間に合わん。このまま前進せよ!!」

 

「了解ッ!!」

 

 重戦車タイタンに極太の糸が数本命中する。

 その衝撃だけで、戦車内が激しく揺れる……が、タイタンの高出力エンジンは、糸の重量をものともせず前進を止めない。

 

「被害状況!」

 

「はっ! 前部装甲、第二副砲、側面上部装甲に被弾しました。表層の対光学物理装甲溶解! 第二層対強酸化学装甲にて酸を食い止めています! 戦闘続行に支障なし!」

 

 タイタン車長、権藤少佐に対し、副車長の山波大尉が車体ダメージを報告する。

 

「次弾装填完了!」

 

 砲手が自動装填装置の状態を報告。

 

「撃ち続けろ! てぇーーーッ!!」

 

「発射!!」

 

 権藤少佐の声に、砲手が引き金を引く。

 

 またも迎撃、先ほどよりも更に多くの糸が車体に被弾する。

 

《こちら本部、タイタン! 何をしている!! 砲撃開始地点が遠すぎるぞ!》

 

 そう、作戦で決められた砲撃開始位置よりも、ここは明らかに後方だった。

 ルアルディ中尉の計算した、確実に砲弾を撃ち込める位置ではない。

 この場所での砲撃は、一方的にやられるだけというのは、皆分かっていたのだ。 

 

「こちらタイタン車長、権藤。申し訳ありません榊中将。ですが、彼らをここで失う訳には、参りませんのです。その為ならばこの重戦車タイタン、彼らの盾となる所存です。たとえ砲撃が当たらなくとも、奴の攻撃を引き付ける事は可能です!」

 

 通信応答中、副車長の判断でまた砲撃を行う。

 まだ砲弾は届かない、音速の数倍は出る砲弾を、超鋭敏な反応で空中迎撃し、それ以外の糸が車体を傷つける。

 

 対強酸化学装甲は酸に対してはかなりの耐性を持つが、その糸の質量と運動エネルギーにより、装甲が軋み、そこから強酸が染み出、車体内部に侵入しつつあった。

 

《……そうか。ならば、貴官の判断に異は唱えない。ただし、覚悟を示せ! たとえここで、どのような犠牲を出そうとも、必ずバゥ・ロードを葬るのだッ!! いいな!?》

 

「了解! ……ふん、装甲がいくらか破られたか。構わん、前進だ。そろそろ副砲の射程に入る。第一、第二副砲、撃て!」

 

「第一副砲、射撃開始!」

 

「第二副砲、発射ぁ!!」

 

 タイタンの両脇にある二つの120mm砲が火を噴いた。

 今だ有効射程圏外ではあるが、届きさえすればいい。

 バゥ・ロードはそれに反応し、糸を発射。

 

「い、糸が来ます!」

 

「レクイエム砲射撃用意!」

 

「了解! レクイエム砲装填完了! いつでも!」

 

「強酸糸複数直撃! 装甲破損! 内部に酸が!」

 

「応急班対応急げ! 内部機構をやられる前にリペアスプレーで破損個所を塞ぐんだ!」

 

「バゥ・ロード、目視にて視認! こちらへの砲撃体勢を取っています」

 

「させん! レクイエム砲、てぇーーーッ!!」

 

 何度目かのレクイエム砲。

 それはついにバゥ・ロードに届き、その正面で砲弾が巨大な炎を巻き上げる。

 電子励起爆薬”セレウコス”を使用した砲弾が、バゥ・ロードを焼き尽くす――かと思われたが、その身を焦がしつつ、まだ活動を停止していない。

 

「レクイエム砲直撃! しかし目標健在! 砲口上げました! こちらへ砲撃!!」

 

 今度は、正真正銘、タイタンを狙っての砲撃だ。

 今までは、砲弾迎撃のついでだったが、今度は糸の密度が違う。

 

「怯むなッ! 更に前進! 全砲門開け! 一斉射! ってぇぇーーー!!」

 

 320mmレクイエム砲一門、120mm副砲二門が一斉に火を噴く。

 わずかに早く放たれた糸がタイタンを襲い、それに交差してタイタンの各種砲弾がバゥ・ロードに当たり肉を貫き、爆炎を巻き上げる。

 

 両者共に直撃。

 しかし健在であり、いささかもその闘志を消せてはいない。

 

 違うのは、ここまでに負ったダメージだ。

 タイタンの方は度重なる糸の打撃によって内部装甲までダメージが侵攻しているものの深刻ではない。

 移動・攻撃共に全力を出せる状態だ。

 

 しかしバゥ・ロードの方はそうではない。

 脚の一本を歩兵部隊に捥ぎ取られ、今は五本の足で立っている。

 攻撃能力に一切の減衰は見られないが、一本失ったことで本来のバランスから大きく外れ、最初期のような軽快な跳躍も旋回能力もなくなっている。

 

 一方機動力に関していえばタイタンも高くはない。

 その大重量を問題なく動かすエンジンは優れたものだが、やはり瞬時に距離を詰めて背後を取るなど出来るものではない。

 

 つまり、両者真正面から撃ち合い、最後まで残った方が勝ちという訳だ。

 

「撃て! 進め!! 歩を止めず撃ち続けろ! 機動力を削いだ歩兵部隊の努力を、無駄にするなッ!」

 

 前進しながら、砲撃を続ける。

 更にバゥ・ロードも前進を続けたが、短いサイクルで容赦なく飛ぶ砲弾に、徐々に後退をしていった。

 

 既にバゥ・ロードの前面は抉れ、肉は炎上を続け見るも絶えない姿になっていた。

 しかしどういう生命力をしているのか、それでも糸は飛んでくる。

 

「第一副砲、自動装填装置故障! 手動での装填に切り替えます!」

 

「ぐあああぁぁぁぁッ! 酸、酸がッ、車体に、侵入し――」

 

「くそ、第二副砲砲手戦死! 私が変わります!」

 

「こちら機関室! エンジントラブル発生! 出力大幅に低下します!」

 

「爆発だけは阻止しろ! 第二副砲、まだ撃てるな!?」

 

「撃てますが、基部が溶解! 砲塔旋回できません!」

 

「かまうな! どうせ正面にしか撃たない! 砲撃を絶やすな! 機銃全銃座開け! 一斉掃射ッ!!」

 

「了解ッ!」

 

 距離を詰めながら、二門で絶え間ない砲撃。

 更に合計四門のドーントレス重機関銃、二門のUT機関銃が正面のバゥ・ロードに弾幕を集中させる。

 圧倒的な銃撃のシャワーにバゥ・ロードの肉体が穴だらけになり、細切れになった肉片が毒々しい色の体液と共に周囲に飛び散る。

 

 やや長いインターバルを経てレクイエム砲が再び砲撃。

 バゥ・ロードの持ち上げた腹部にで砲弾が炸裂し、あれだけ歩兵で苦労した内部の粘膜を一撃で破壊する。

 しかし、発射機構は損なわれない。

 既にほぼ全身が炎上し、肉体が崩壊する炎の怪物に成り果てたバゥ・ロードの一撃が、再び放たれる。

 

 糸はタイタンの脆くなった車体のあらゆる場所をついに貫通し、走行機能もキャタピラも粉砕された。

 

「ぐあああぁぁぁっ!!」

 

「い、糸が、ぐはぁ……」

 

「走行装置……、沈黙、負傷者多数……! ですが、まだ、レクイエム砲は……!」

 

 糸の重量にっよって車体表面は見るも無残に破損し、二門の副砲が大破した。

 だが、何の因果かタイタンの本体ともいえるレクイエム砲だけは、まだ発射機構は動く。

 

 それはバゥ・ロードも同じだ。

 ぐずぐずに崩壊した肉体にありながら、その腹部の発射機構は、幾度の砲撃を受けつつも生きていた。

 

「……最後だ、撃て」

 

「ですが、この距離では……!」

 

 バゥ・ロードはもう目の前にまで接近している。

 そして向こうも腹部を持ち上げ、接射の構えを取っている。

 

「撃つんだ! レクイエム砲、ってぇぇーーーッ!!」

 

 権藤少佐は、戸惑う砲手に腹の底から号令を出す。

 

「ッ!!」

 

 砲手は、少佐の声に覚悟を決め、レクイエム砲の引き鉄を引いた。

 

 砲弾は、ちょうどバゥ・ロードの持ち上げた腹部中央に直撃。

 両者を巻き込んで、凄絶な爆炎と衝撃が上がる。

 バゥ・ロードの腹部は完全に破裂焼却され、糸の発射機構が完全になくなったことは誰の目にも明らかだった。

 

 そしてその爆発はタイタンにも甚大な被害をもたらした。

 車体の各所は炎上し、車体中央制御室にも炎が侵入し、内部から外が見えるほどだった。

 

 権藤少佐、山波大尉の両名も、爆風と炎、そして糸による酸で重傷を負っていた。

 

「く……、深手を、負ったな……。無事な者は負傷者を救助し、外へ脱出しろ! 山波大尉、傷は」

 

「権藤少佐……ッ! そ、外を……! 奴は、まだ……!」

 

 だが山波大尉の指す外には、車体を踏みつけるようにして乗り上げ、信じられない事にまだ形を成していた口元の牙によってタイタンの装甲を噛み砕く様子があった。

 金属が金属によって引き裂かれる破壊的で不快な音が響き、

 

「さ、さがれッ!!」

 

 権藤少佐が負傷しながらも、部下を下がらせると、操縦制御室の天井が牙によって大きく破壊され、その正面に砲撃によってぐずぐずの焼けこげた肉塊と化した、恐らく顔であっただろう部分が見えた。

 既に四つの目は消滅しており、半分崩壊している口元の牙と、その内部の捕食を行う為であろう触手のような長い毛が体液を滴らせており、掴まればどうなるか想像に難くない。

 

「くッ、ここで、終わり、なのか……!?」

 

 志半ばで、バゥ・ロードを仕留めきれないままに終わってしまうのか。

 本部の作戦を無視し、貴重なタイタンを叩き潰されて得る結果が、これなのか。

 

「終わりでは、ないッ!!」

 

 しかし、声がした。

 凛々しく、頼もしく、運命に抗う意思を表した声の主は、タイタンの車体を乗り越え、無防備に口元を晒すバゥ・ロードの真正面に来た。

 

「終わらせるものか! 私の! 目の前で!」

 

 言葉ごとにガバナーを撃つ。

 生身の歩兵などあっという間に捕食されてもおかしくない至近距離で、臆せず、更に接近しながらショットガンを撃ち続ける。

 引き金を引き、銃身下のハンドグリップをスライドする。

 金属音が鳴り、空薬莢が排出され、再び引き金を引く。

 弾倉内の散弾をすべて撃ち尽くすまで、それを繰り返す。

 

 散弾はバゥ・ロードの口元の触手と口内部を傷つけ、そのたびに体液が噴出し、触手が千切れる。

 

 が、千切れる前に伸びた触手が、彼を捕食しようと体に接触し、糸に含まれているものよりも強力な酸でアーマースーツを溶かす。

 それは瞬時に肉体まで達し、腕や腹部、そして頭部を溶かす。

 常人ならのた打ち回る激痛に悶えながら、それでも男は銃をバゥ・ロードの口内に向け続ける。

 

「ぐッ! この程度で……ッ! 人類を! EDFを! 舐めるなァァーーッ!!」

 

 弾切れになっただろうショットガンを躊躇いなく破棄し、手榴弾、HG-14Aのピンを抜いて、バゥ・ロードの口内部に投げ入れる。

 

 本来なら口元の触手が防いだであろうそれは、しかしショットガンによってズタズタにされた前では意味をなさなかった。

 

 叩き込むように投げ入れられたそれは一定時間後、バゥ・ロードの内部まで侵入した後大爆発を起こした。

 肉体が内部から弾け飛び、バゥ・ロードの中から形容しがたい奇怪な音が周囲の空気を震わせた。

 或いはそれは、奴の最後の断末魔だったのか。

 

 それを最後に、バゥ・ロードはタイタンに乗せていた体を崩し、地面に倒れた。

 いや、もはや崩壊したといった方が適切かもしれない。

 土煙を上げてその崩壊は起こり、その場所にはもはや端々が炎上する巨大すぎる肉塊があるだけとなった。

 

「終わっ、た……、の、か」

 

 そうして、この大蜘蛛狩りを成し遂げた英雄の一人も、気が抜けたように倒れた。

 

 この一人の英雄によって、京都防衛戦の戦況は一気に好転の兆しを見せ、彼らにとっての京都防衛戦は、ここで幕を下ろした。

 

 そして彼が病院で意識不明となっている間、この話は語り継がれる事となる。

 

 

 日本防衛の最難関局面を成功に導いた、その偉大なる人物の名は――

 

 ――仙崎誠。

 

 

――2023年4月1日 03:00 京都府京都南IC付近――

 

 

《本部より戦域全部隊へ!! タイタンを中心とする極少数歩兵部隊は、大阪へ進撃を行っていた超大型個体バゥ・ロードを、完全撃破した!! これで大阪の安全は守られた! 我々の勝利まであと少し。総員! 彼らの奮戦に敬意を表し、残る敵群を全力で押し返せぇッ!!》

 

「うおおおぉぉぉぉ!!」

 

「ハハッ! あいつら本当にやりやがった!!」

 

「欧州軍総攻撃を以って倒せなかったバケモノを、本当に!」

 

「「EDF!! EDF!!」」

 

 士気は最骨頂に達し、体力も装備も満身創痍でありながら、EDFは一時的に勢いを取り戻す。

 

 4月1日、04:00。

 戦力移動を行っていた香川県の第八機甲師団がいち早く到着。

 レイドアンカーの直撃を受け部隊は一部損耗していたが、全体的にみればほぼ無傷の状態で多くの戦力が援軍に駆けつけた。

 戦車部隊の苛烈な射撃と、砲兵部隊の圧倒的な面制圧で戦況は一気に好転。

 同日、07:30には最も戦闘の激しかった京都南ICの敵戦力を撃滅。

 

 主戦場は第一師団の管轄する奈良へ移った。

 京都の主力部隊第三師団は、攻撃発起地点でもあった京都府山科区のレイドアンカー群撃破と制圧に向け進軍。

 

 同日12:00、援軍第二陣広島の第五師団が到着。

 奈良、京都へ部隊を分け進軍。

 数の打撃力を得たEDFは更に優勢を取り戻した。

 だが京都府以東へのレイドアンカーから出現した巨大生物が梯団を形成、こちらも打撃力を伴い、山科区へ押し寄せる。 

 

 翌4月2日、05:50。

 奈良での戦闘はほぼ終結し、第一師団は実にその半数を消耗させながら戦闘の大半を第五師団に引継ぎ、山科区へ向かう。

 

 同4月2日、09:30。

 止めとばかりに撃ち込まれた第八機甲師団砲兵旅団の徹底砲撃と、援軍に到着した第五師団と第一師団残存戦力により、巨大生物群を撃滅。

 周辺のアンカーも、空軍や対空砲部隊がガンシップを墜とし制空権を確保後、複数のDE-202ホエール大型攻撃機を使って狙撃、破壊に成功している。

 

 同4月2日、10:00。

 付近て梯団形成報告なし、機械兵器群の集結も確認されず、極東本部から正式にアイアンウォール作戦の終結が宣言された。

 

 作戦開始からおよそ三日。

 EDFは、京都防衛に成功し、際限なく進撃するフォーリナーの大侵攻を真っ向から受け止め、この全てを殲滅せしめたのだ。

 

 その後、九州方面の第14師団、第15師団が遅れて到着。

 

 EDF極東方面第11軍。

 総師団数16個うち、半数の八個師団が京都を中心に終結した。

 

 京都防衛作戦は成功した。

 だがまだ日本には、四足歩行要塞エレフォート、雷獣エルギヌス、そして二つのインセクトハイヴ、それらを囲う巨大生物群が残っている。

 

 以降も極東日本戦線は、休まる事のない激戦を繰り広げていく事となる。

 

 

 

 ――日本国本土奪還作戦、オペレーション・ブルートフォース発動の日は近い。

 




はぁー、終わった!
以上をもって、京都防衛戦編、オペレーション・アイアンウォールを終了します!

途中もそうでしたが、バゥ・ロードとの戦闘も長かったですね。
ゲーム中ではそんなに強くないコイツとの死闘に意外性を感じた人もいるんじゃないでしょうか?

そもそも、アイアンウォールにバゥ・ロードを登場させる予定は無かったんですが、主人公やその仲間に箔をつける意味合いで登場させました。
尤も、重戦車タイタンにも活躍の機会を与えたいのと、歩兵一人で相手をする困難さを描写したくてタイタンにも出張ってきてもらいました。

これでゲーム中でも描かれてたストーム1に少し近づいたかなと思います。

来年からは、ちょい出となってしまった安藤少年の話や、作戦終盤の京都南ICの小話、世界情勢や北米でのインセクトハイヴ攻略作戦などの幕間を挟んでから、
四足歩行要塞攻略などの本編を進めていく予定です。
(飽くまで予定なので変わる可能性はありますが!)

最後に。
今年もここまで読んでくれた方、本当にありがとうございました。
来年からも、どうかこの拙い小説をよろしくお願いします!

では、良いお年を!!



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