全地球防衛戦争―EDF戦記―   作:スピオトフォズ

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読んでくれてありがとうございます。

ちょっと注意書きを。
この小説では、side:〇〇のように表示される場所から、人物の視点が変更する描写が多々あります。
また視点が三人称になる場合はside:nonと書きます。
なんとなく方向性が固まってきたら統一するかも知れませんが、それまでは色々入り乱れるかと思います。



第二話 異邦人来たる

――2022年7月11日 第228駐屯基地 地上第一演習場

『第45レンジャー中隊第二小隊”レンジャー2”』

 side:大林浩二中尉――

 

「なんだアレは……」

 

 突然現れた幾十もの飛び去る巨大飛行物体を見て、俺は思わず火を点けたばかりの煙草を落としてしまった。

 

「中尉! 大林中尉! なんなんですか、あれ!? まさか今回の火力演習の標的はあれだって言うんじゃないでしょうね!?」

 

 部下の一人が駆け寄ってくる。

「そんなふざけた事があってたまるか! まさかこいつ等が、人類がかつて熱狂したあのフォーリナーだというのか?」

「この数……、もし攻撃されでもしたら、いくら228とは言え一瞬で滅びますぜ? どうせやるならこっちから……」

 

 別の部下がアサルトライフルを構える。

 火力演習用にその中身には実弾が装填されているが、むろん安全装置は解除されていない。

 

「やめておけ。まだ奴ら……いや彼らが敵対的である可能性は少ない。EDFが引き金を引く時は、地球を護るためであるということを忘れるな」

「サー! イエッサー!」

 

 そう口に出しつつ、心のどこかで友好的な異星生物など存在するものかと思っていた。

 しかし、まさかピンポイントでここへやって来るとは……。

 

《こちら基地司令官の興田だ! 地上展開中の各チームへ! 聞こえるか!?》

 228駐屯基地の司令官、興田准将から広域通信が入った。

 だがこの距離にしてはえらくノイズ交じりの通信だ。

 まさかあの飛行物体が関係しているのか?

 

「第45レンジャー中隊レンジャー2、多少不鮮明だが聞こえている!」

 

 同時に各チームからも応答が入る。

 

《現在、原因不明の通信障害により長距離通信及び本基地地下施設との通信が完全に途絶している。よって我々は国連安全保障理事会、日本国政府及びEDF総司令部との通信が復旧するまで、基地の警戒を任務とする。また当然の事ながら火力演習は中止とする。なお、彼らがフォーリナーであるか否かは、国連の発表をもって判断する。以上の理由により、我々からの発砲はいかなる理由があろうと認めない。繰り返す、我々からは決して攻撃するな! 以上だ! 全チーム警戒に当たれ!》

 

 興田准将からの通信は終わる。

 まったく、興田准将は相変わらず頭のカタイ人だ。

 おそらくあの飛行物体から妨害電波が発生しているというのに、通信の復旧など見込める筈がない。

 

「……やれやれ、攻撃されるまで待てという事か? 性に合わんな」

 

 重機の起動音のような音を出して、パワードスケルトンを装備した兵士が近づいてきた。

 彼らは二刀装甲兵フェンサーと呼ばれている。

 

 そのうちの一人、深みのある低音で呟いたのは、第106機械化歩兵連隊第一中隊。

 通称グリムリーパー。

 それの指揮官である岩淵大尉だ。

 

「そう言うな。部下にも言ったが、彼らが友好的である可能性はゼロじゃない」

「ふっ……、同期の仲だ、建前はやめろ。大艦隊で周辺を威圧して、妨害電波で指揮系統を混乱させる。これが友好的だと?」

 

 ……わかっている。

 さっき俺が無意識に思ったのはそういうことだ。

 

「ふん。だがあんたの言う通りだとしても、上はこっちから攻撃しろなんて言えんだろう。飽くまでEDFに許されるのは地球防衛なんだからな」

「ああ。命令には従ってやるさ。だが、黙ってやられる気も無い」

 

 そんな会話から、少なくとも岩淵は、既に戦う気だったと分かった。

 だが俺は、心の何処かでは、まだ彼らが友好的で、妨害電波は意図せず干渉してしまったもので、大艦隊はただの大規模な移民船だと、そんな結末だったら一番いいと願っていた。

 

 そんな事を思っていたら、突然上空から何かが落下してきた。

 

「何か降って来るぞ!! 身を屈めろ!!」

 

 俺は部下に叫ぶと、片膝を付いて落下の衝撃に耐える体制をとる。

 落下物は連続して高速で地表に墜落し、凄まじい揺れが周囲を襲った。

 

《今の揺れはなんだ!?》

 

 興田准将から通信が来る。

 

『こちらレンジャー4! 空から落下物が墜落しました! 第二演習場の方です!』

《こちら司令部。レンジャー4、投下された物体を確認しろ。レンジャー1、2、3小隊及びギガンテス第二小隊“ガルム”は前進してレンジャー4を援護しろ。ただしこちらから物体への攻撃は厳禁とする》

 

「了解! 各員、第二演習場でレンジャー4を援護する! 訓練じゃないぞ、続け!」

「「サー! イエッサー!!」」

 

 レンジャー達歩兵部隊、E551ギガンテスが前進する。

 

 まもなくして、レンジャー4からの通信が聞こえた。

 

《こちらレンジャー4。きょ、巨大生物です! 巨大生物を発見!》

《レンジャー4、巨大生物とは何か?》

 

《昆虫です、大きな昆虫です! ――ッ! こっちへ来ます!》

《総司令部から許可は出ていない! 勝手に攻撃するなよ!?》

 

《仲間が食われた!! やめろ! 勝手に撃つな!!》

《う、腕がっ! 助けてくれぇぇーー!!》

 

 銃声と悲鳴が聞こえた。

 くそっ、恐れていたことが!!

 

《レンジャー4! 何があった! 応答しろ!!》

《こちらレンジャー4! 巨大生物に仲間が殺されました! 駄目ですッ、交戦を開始します!! 撃て、撃てぇー!!》

 

《クソォ!! やむを得ん! 交戦を許可する! レンジャーチームへ。レンジャー4が巨大生物と交戦中だ! ただちに救援に向かえ》

 

「レンジャー2了解! 安全装置を解除しろ! 未知の敵との交戦になる、覚悟を決めろォ!」

「「サー! イエッサー!!」」

 

 俺たちは第二演習場へと駆け抜けた。

 

 

――第二演習場――

 

 

「ぐっ! 巨大生物だ! なんて数だ!! うわぁぁぁぁ!!」

「譲二が、譲二が食われたァァ!!」

「撃てぇ、撃てぇぇーー!! ぎゃぁあぁぁぁぁ!!」

 

 ……なんだあれは!?

 第二演習場で俺達を迎えたのは、地面に突き刺さる異質な塔と、その周りに大量にいる見上げるほど大きな巨大蟻と、それに襲われるレンジャー4の姿だった。

 馬鹿げた光景だが、とにかく敵が何であれ倒す他はない。

 部下を鼓舞しつつ命令を下す。

 

「交戦の許可は下りた!! EDFの勇猛さを見せる時だ!! 野郎共、かかれェェェーー!!」

「「うおおおぉぉぉぉぉ!!」」

 

「レンジャー2に後れを取るな!! 各員射撃開始!!」

 

『ガルム1より各車! これだけデカければ狙うのは簡単だ! 歩兵に当てるなよ!? 各車輛斉射! ッてぇぇ!!』

 

 レンジャー、ギガンテス隊が一斉に攻撃を始める。

 アサルトライフルの弾幕が広がり、後方から強力な戦車の徹甲弾が巨大生物を貫いた。

 

 俺達は仲間を咥えていた巨大生物に射線を集中し、一体を撃破。

 黄色い体液を噴出して倒れた。

 どうやら巨大生物は硬い甲殻に守られているようだが、アサルトライフルの連射なら甲殻を破れるようだ。

 

 勝てない相手ではない。続けて他を狙う。

 

「コイツ! デカい割に素早いぞ!?」

「甲殻も厚い! なんとか倒せるが、とても生物の耐久力じゃないぞ!?」

 同感だ。

 素早い動きで翻弄しつつ、一気に近づいてきて食い殺そうとして来る。

 

「くそ! ちょこまかと……うわああぁぁぁ!!」

「杉田ァ!!」

 部下が食われた。

 とっさに射撃を集中して巨大生物を殺すが、部下はもう無残な姿になっていた。

 

 俺の部下以外でも被害が増え始めている。

 

「くっそォ!! とにかく撃ち続けろ!! レンジャー4! 早く脱出しろ!!」

 この謎の巨大生物の殲滅も重要だが、それ以上に仲間の救出が先だ。

 俺は武器を携行式対戦車ロケットランチャーに切り替えて発射する。

 これなら確実に一体は仕留められる。 

 

「救援感謝する! だがここにいる奴らを倒しても無駄だ、あれを見ろ!」

 レンジャー4隊長は巨大な塔を指さす。

 恐らくあれが先程投下された物体なのだろうが……、ん!?

 

「塔から巨大生物が!? あの塔、中に巨大生物を収容しているのか!?」

 塔の上部が発光し、そこから巨大生物が現れた。

 

 目の前の巨大生物が突進してきたのでローリングで躱し、距離を測ってロケットランチャーを叩きこむ。

 巨大生物は爆散した。

 さすがに戦車ほどの甲殻ではないようだ。

 

《こちら基地司令部! そちらの状況はどうなっている!?》

『こちらレンジャー1結城! 現在巨大生物の群れと交戦中! 巨大生物は、空から降ってきた巨大な塔から出現しています!』

 

 部下に向かう巨大生物に対戦車ロケット砲を叩きこむ。

 だが、ロケットランチャーはこれで店仕舞いだ。

 武器をアサルトライフルに切り返る。

 

《了解した! ならば速やかに塔の破壊と巨大生物とやらの殲滅をし、こちらへ戻ってこい。出来ればその巨大生物の死骸を持ってきてくれ。直で確認したい》

『了解! まずは敵を殲滅します!』

 

 妙にうろちょろする蟻をアサルトライフルで仕留める。

 少し下がり、リロードする。

 

「中尉ッ! コイツら素早いです! そのうえすぐ回り込もうとして!!」

「まずいぞ! 奴ら戦車の方に行った!」

 

『安心しろ! いくらデカい牙を持っているからって、そう簡単に食い破れる訳が……ぐぅぅ!!』

「ガルム隊! 大丈夫か!?」

 

『無事のようだ! ただ戦車自体が軽々と横転させられてしまった! 奴ら凄い力だ! すまんが救援を寄こしてくれ! こちらも車載機銃で対処する!』

 なるほど、いくら頑丈でもひっくり返ってしまえば使い物にならない。

 乗員は助かっても戦力としては失ってしまうという訳か。

 

「了解!! 我々が行くぞ。レンジャー2、ついてこい!」

「「サー! イエッサー!!」」 

 

「ガルム隊! あの塔を砲撃で壊す事は可能か!?」

『ガルム1よりレンジャー2、了解した! 各車目標変更! 正面の塔に斉射二連! ブチ込んだら後退して巨大生物の群れを引き剥がす!』

『『イエッサー!!』』

 

「俺達も一旦後退する! レンジャー4は救出した! この場所で粘る意味はない!!」

「「イエッサー!!」」

 

「中尉!! 塔から巨大生物が出現しています!」

「なんて数だ!! あの塔のドコにこんな数が潜んでやがった!!」

 塔から出てきた数は優に10を超えている。

 だが、巨大生物は字のごとく巨大であるのに、塔自体は細長く、それほど収容体積があるとは思えない。

 

『心配するな! 今破壊してやる!! 一発たりとも外すなよ!? ってぇぇ!!』

 後方から振動と重低音が響き、高速で砲弾が塔に着弾する。

 EDF戦車小隊は4輛編成。

 一輛は横転しているから3輛×二回斉射で6発の徹甲弾が命中した。

 

 だが……。

 

「レンジャー2よりガルム1! 塔は健在! 繰り返す、塔は健在!!」

『ちっ……、各車移動開始! レンジャー2! 付いてきてくれ! 演習場西側で再度砲撃を加える! それと目標を塔上部の発光部に変える! あそこから巨大生物は出現している。構造的に弱い部分があるとすればそこしかない!!』

 

 一方こちらには生み出された巨大生物が殺到していた。

 それまでに出ていた巨大生物は粗方片付けたが、これではキリがない。

 

「くそっ、大量に来るぞ!!」

「なんて数だ! 俺達だけでどうにかなるのかよ!?」

「戦車隊が塔を破壊する。それまで撃ち続けろォォーー!!」

「「うおおおおぉぉぉぉ!! EDF!! EDF!!」」

 

 向かってくる巨大生物にEDF統一規格弾を発射する。

 アサルトライフルでは巨大生物を仕留めるのに時間がかかるが、これだけの弾幕があれば巨大生物は怯み、近づくことは出来ない。

 

「いいぞ! リロードの隙を各自カバーして、弾幕を絶やすな! 奴らの牙は脅威だが、近づかなければどうということはない!! 分かったかァ!?」

「「サー! イエッサー!!」」 

 

『こちらガルム! 砲撃を再開する! てぇぇ!!』

 再び徹甲弾が放たれた。

 だが今度は塔は上部が大きく爆発し、そのまま全体が崩壊して崩れ去った。

 

「やったぞォォォ!!」

「ざまぁ見やがれ!!」

 部下からも歓声が上がる。

 

《こちらガルム! そのまま蟻共を砲撃する! 十字砲火を形成して敵を一気に蹴散らすぞ!》

「レンジャー2了ォ解!! このまま一気に決めるぞ!!」

「「うおおおぉぉぉぉ!!」」

 

 その後は早かった。

 アサルトライフルの弾幕で巨大生物を足止めし、俺達から見て右側面から戦車砲の斉射で撃破する。

 そんな戦法で、ほぼ一方的なくらいの勢いで巨大生物を殲滅した。

 

「……終わったな。結城、司令部へ報告を頼む。俺は興田准将への手土産を選んでくる」

「了解しました。《司令部へ。こちらレンジャー1結城。巨大生物の殲滅に成功》」

 その無線を聞き流し、俺達は状態の良さそうな巨大生物を探すことにした。

 

「しかし、こうして落ち着いてみてみると本当に蟻ですね……」

「こいつらって、本当にフォーリナーなのか?」

「さあな。どう見ても知的生命体には見えないが……。中尉。アレいいんじゃないですか?」

 部下の一人が状態のいい巨大生物を発見する。

 

 ――その後、巨大生物の死骸をワイヤーで結び、戦車に牽引してもらい、演習場から基地敷地内まで移動した。

 

「これが、大きな昆虫、巨大生物か……。なんという大きさだ」

 興田准将はこの目で巨大生物を見て戦慄していた。

 いや、准将だけでなく、他の兵士やその場にいた人間すべてだ。

 

 結局、レンジャー4は10名中半数の5名が戦死。

 他の兵士は4名戦死、2名が突き飛ばされて負傷。

 戦車一輛は横転して戦車回収車でなければ戻せないので放棄したが乗員は無事なので人的損害無し。

 

 という結果に終わった。

 くそ、最初から戦車隊との十字砲火という作戦をとっていれば俺の部下も死なずに死んだかもしれない。

 だが、死人は戻らない。

 この戦訓を次に生かすしか、報いる方法は、ない。

 




あとがきのような人物紹介

大林浩二(おおばやしこうじ)中尉(37)
 第45レンジャー中隊 レンジャー2小隊指揮官。
 まずい、気付いたらノリで下の名前まで考えてしまった。
 今更だが、特に細かなプロットを練っていないので彼を今後活躍させるかは気分次第。

岩淵(いわぶち)大尉(41)
 第106機械化歩兵連隊第一中隊”グリムリーパー”指揮官。
 大林中尉の同期。
 ちなみに機械化歩兵とは現実では機甲部隊(戦車とか)に随伴する移動手段を組み込んだ歩兵であってSF世界のロボ歩兵ではない。
 が、ここはSFの世界なので機械化歩兵という単語をフェンサーとして使わせてもらいます。


興田(おきた)准将(60)
 第228駐屯基地司令官。
 大林中尉から「頭のカタイ人」との評価の司令官。



部隊編成解説

自分でも混乱しそうなんで簡単に解説します。

まずこの世界のEDFにおいては”陸戦歩兵”というカテゴリが普通の歩兵です。
レンジャーというのは飽くまで一部隊の愛称です。

軍曹チームを例に挙げると、
第一陸戦歩兵大隊
という数百人規模の大部隊がいて、

その下に
第44レンジャー中隊
があります。
隊長はだいたい中尉から大尉くらい。

中隊はレンジャー以外にも多数の愛称を持つ部隊があり、精鋭部隊であるストームチームは作中ではまだ編成されていません。

そしてその下に
レンジャー8
があります。

これは通常の軍隊では”小隊”に当たります。
隊長は少尉から中尉くらい。

その下にレンジャー81
という隊があり、これは分隊相当です。
隊長の階級は軍曹から曹長。

小隊は、複数の分隊からなっていて、
レンジャー82
だとレンジャー中隊第8小隊第2分隊
という意味になります。

……え? 荒瀬軍曹は軍曹なのにレンジャー8小隊の指揮官だった?
実は、軍曹の所属するレンジャー8は巨大生物の襲撃を受け、小隊長以下数名を失い、小隊の指揮を荒瀬軍曹が預かったのでした!

ごめんなさい!
ぶっちゃけツメが甘かったので後出し設定です!
後で編集して加筆するかもしれませんごめんなさい。

さて長くなってすみません。
ここまで読んでくれてありがとうございました。

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