全地球防衛戦争―EDF戦記―   作:スピオトフォズ

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EDF設立と立場、フォーリナーという呼称、先進技術の導入などの流れを纏めました。



第一章 開戦の狼煙
前史


 ──西暦1968年。

 ソビエト連邦の南極探検家・地球物理学者チームが、南極ボストーク湖付近に異常な電磁波反応を検知。

 未知の金属鉱床であると仮定したソビエト連邦は、冷戦期における南極開拓のアドバンテージを得ようと、本格的に調査隊を編成し、仮称”オブイェークト68”発見の為、南極氷床やボストーク湖底部を再度調査した。

 

 調査の結果、南極氷床下にはボストーク湖全域を占める巨大な未知の金属鉱床がある事が判明。

 ただ、ボストーク湖は厚さ約4000mの氷で覆われた水深800mの巨大湖であり、十分な研究の為には更にその地下1200mを掘削して採掘するという事になり、資源として採掘するにはとても採算がとれる状態ではなかった。

 

 しかし、異常な電磁波反応を分析していたソビエト連邦の宇宙物理学者、アゾロフ・セルゲーヴィチ・ニコラヴィエナ博士は、この信号は極めて高度な情報密度で構成されており、少なくとも太陽系外まで照射されていると計算し、オブイェークト68は地球外文明の構造物である可能性が極めて高い、と学会と軍部に緊急報告した。

 

 実際に、ボストーク氷床下の金属構造が人工物であると仮定した場合、100万年前に出来上がった氷床の地下、地層年代測定の概算で、おおよそ150万年より以前には、金属構造が存在した事になる。

 現人類に近い人類の誕生が20万年前であるとされている事や、高度な電磁波を送信している推測から、古代高度文明や、地球外の生命体……所謂宇宙人の物ではないかと学者の間で議論された。

 

 事態を重く見たアゾロフは、冷戦対立の垣根を越えた国際協調が必要と考え、6000m超の無人穿孔探査シャフト建造による、オブイェークト68の本格調査の必要性をソビエト指導部に訴えた。

 

 ソビエト指導部は冷戦の勝者になる以上の重要な意味があると紆余曲折の末に決断し、国際連合による正式な議題として大いに議論され、最終的に正式な国連直下の調査計画として承認される。

 

 1972年、国連外来構造物調査機構――UNESIA(ユネシア)が組織され、調査対象を国際呼称”OVUM-68”(Object of Vostok Unknown Material-1968)とした。

 米国・ソ連・イギリス・フランス・中国の冷戦陣営を含む五ヶ国の他、カナダ・西ドイツ・日本・スウェーデン・オーストラリアなど中立国の、計15ヶ国が調査機構に参加・出資した。

 

 建造から5年後、1978年には6000m超の無人穿孔探査シャフトが完成し、無人機による本格探査が開始される。

 調査の結果、OVUM-68の構造・物質は分析不可能な未知の元素で構成されており、人類にとって全くの未開領域の開拓になると同時に、地球外文明の存在がほぼ確定的に明らかとなった。

 

 超高度な非人類文明の存在に科学者・数学者・天文学者・地球学者は狂ったように南極に集結し、南極には極地ながら研究所が乱立する形となった。

 環境保護の観点を無視する形となったが、人類の熱狂の前には些細な問題であった。

 

 人類最高峰とも言われる天才科学者・アゾロフはOVUM-68の研究者として最前線で活動していたが、同時に極度の人間不信と名高く、実績と比例し、その名は世間には深く知られてはいない。

 そんな彼が、研究の最中突如発狂し、直ちに人類の恒久的統一軍事組織が必要だと訴え、その根拠を一冊の文書にまとめた。

 

 後に”アゾロフ文書”と言われるそれだが、その内容は精神性・予言・超常的存在などを含む荒唐無稽な怪文書であり、精査するまでも無く棄却された。

 その後も彼は”全地球防衛構想”の必要性を熱烈に説いたが、晩年で頭が狂ったと思われた彼に耳を傾ける者はいなかった。

 

 その後、数年間にかけてOVUM-68の調査が進む。

 全く未知の分野である為、調査・解析は遅々として進まなかったが、それが故に世間には輝かしい無数の希望として受け取られていた。

 

 特に、大規模な資金を必要とするこの一大プロジェクトを成果あるものにするため、国連や政府上層部はメディアを通して都合のいい印象操作を行った。

 

 メディアは不明遺物構造体・OVUM-68を親しみやすく”プライマー”と呼称し、さも夢と希望に溢れる宝の箱だと喧伝し、全人類がSF的な技術の急速発展に心をときめかせた。

 (名称は放送関係者が親しみやすさ・言いやすさを考えて名付けた特に理由のない言葉だが、後付けで「人類発展の下地となるもの」「次世代文明への起爆剤」などの意味が込められた)

 

 そのようにして人類はまだ見ぬ非人類文明=外来異星文明の存在に輝かしいロマンを見い出し、いつしか宇宙人の存在は来訪者・異邦人・隣人として”フォーリナー”の呼び名で定着。

 人々は、いずれ訪れるかも知れない存在に、期待と僅かな不安を籠めてそう呼んだ。

 

 そんな宇宙のロマンに溢れた80年代だったが、それは衝撃的な事件によって突如終わりを迎える。

 1989年。世界各地の通信・深宇宙探査用の巨大パラボラアンテナが、超強力な指向性電波をキャッチした。

 その出力は異常値で、中にはアンテナそのものが受信に耐えきれず破損した事例もあり、被害総額は数十億ドルにも達した。

 電波照射は数日に渡って一定周期で続き、自然現象とはとても考えづらい規模と法則性があり、科学界が震撼するに至った。

 

 明確な根拠はないが、それは”フォーリナー侵略の警告か”という噂が広がり”OVUM-68という禁忌に手を染めてしまった人類への最後通牒である”という考え方が一般にも広がり、大きなパニックを引き起こす社会現象にまでなった。

 また、OVUM-68の調査が進むにつれ、その人類への脅威度が明らかとなる。

 南極の調査機構であるUNESIAや、外部の協力科学者、軍事評論家や政府要人の中にも、軍事的防衛の必要性を強く主張する者が現れる。

 

 そこでUNESIAは、棄却されていたアゾロフ文書の復元と、その内容の精査を行うと決定した。

 この時既にアゾロフは死亡していたが、これが世界の指導者層の意思を決定的に固める契機となった。

 

 指向性電波の受信から3年後――1991年12月1日。

 従来の国連外来構造物調査機構(UNESIA)は解体され、新たな組織が誕生する。

 国連直下の、超法規的国際活動軍事組織。

 

 全地球防衛構想に則り、国家や国民ではなく人類そのものを守護する人類存続の為の唯一の防衛機関。

 

 その名は、全地球防衛機構軍(Earth Defence Force)──EDFである。

 

 フォーリナーの軍事的脅威は国家間で共有される事となり、各国はフォーリナーに対するあらゆるコミュニケーション方法や戦争の意思がない事の伝達方法を模索した。

 OVUM-68から得られた文明情報は、人類が推察できるだけでも相当に高度であり、それゆえに不要な争いを好まない可能性や、こちらとの対話を試みてくれる可能性があった。

 

 一方で、EDFは軍事的脅威の可能性のみを危惧し、人類全体、全国家統一指揮系統の元で軍事力を増強する事のみを組織理念とした。

 その”全地球防衛”の崇高な目的に従って、EDFは世界各国から莫大な軍事費を徴収、際限ない軍拡の道を歩むことになる。

 

 各国政府首脳もフォーリナーの襲来を真剣に”人類滅亡の危機”という可能性で真面目に考えており、初めは資金の提供は惜しみなく行われた。

 

 またOVUM-68周辺の研究施設や実験場をEDFが接収し、EDF総司令部もそこに置かれた。

 南極大陸は、どの国家にも属さない人類平等の大地。

 全地球を防衛する軍の総司令部となるに相応しかった。

 

 EDF総司令部は司令部機能のみならず、軍事基地や研究所も兼ね、全軍の編成とフォーリナー技術の解析・兵器転用・実験・配備を同時に行った。

 (この時点で不明遺物構造体OVUM-68と超大出力電波照射の主が同一である根拠は存在しないが、飽くまでEDFと敵対する仮想敵という意味で、OVUM-68由来技術もフォーリナー技術と大雑把に呼ばれている)

 

 新技術の兵器転用は各国から引き抜いた天才科学者たちによって進められたが、開発設計量産に至るまでの設備も人員も圧倒的に足りないと判明した為、非常に制約の厳しい条件の元、民間軍需企業と契約を結び、限定的なフォーリナー技術の提供と、その見返りとして新兵器・新装備開発や量産を要請した。

 

 この頃のEDF及び各国軍部には、いつフォーリナーが攻めてきて戦争になるか分からない、という強い危機感があった。

 

 契約を結んだ民間軍需企業は、原則としてEDF以外の顧客を認めない事になるが、国家とEDF双方から研究開発用の資金の援助を受けられ、更にEDFへ採用されれば全世界で運用を認められることになるので莫大な儲けを得られた。

 ガプス・ダイナミクス、S&Sマテリアルズ、カーン-ワン、D.R.O.Sアームズ、FUJIインダストリーズなど、営利目的で多くのEDF専属軍需企業が立ち上げられ、各社がEDFの銃器・装備研究開発や一部生産ラインを確保した。

 

 またEDF内部の、先端技術開発研究所は民間には許されない高度なフォーリナー技術の転用を行い、半永久機関である疑似プラズマエネルギーを始め、多くの超技術を扱っている。

 

 ──しかし、人の作った組織に完璧はあり得ない。

 

 発展した新たな技術は人類同士の新たなる対立を呼び覚ました。

 EDFの強引ともいえる資金徴収や、技術の独占、際限のない軍拡や、”地球を護る軍隊”というプライドが生み出した横暴な態度と、貴重な人材の強制的な引き抜き、更に噂で囁かれる人体実験の陰……。

 

 これらが”反EDF思想”として世界中に蔓延し、水面下で蔓延っていた各地の反政府軍やゲリラ活動部隊、独裁政権と連動し始める。

 更にそれらの勢力はEDFの技術や装備を盗むようになり、その責を負う形でEDFは守護する筈の人類に銃口を向け始めた。

 

 紛争地域や政情不安定地域に赴くEDFは、いつしか国連傘下の便利な火消し軍隊としてそのあり方を変え始め、各国の緊張は一層高まった。

 

 そして、EDF設立から30年後──西暦2022年。

 もはや熱狂も危機感も薄れてしまった時代に、彼らはついに姿を現したのだった。

 

──2022年7月11日 地表より約400㎞地点”熱圏” 国際宇宙ステーション 外部観測望遠レンズ──

 

「ん?」

 

 外部観測望遠レンズの映像を観測をしていた観測員が奇妙に思って手を止める。

 この望遠レンズは国際宇宙ステーション(I S S)に衝突する恐れのあるスペースデブリを発見するための設備であるが、そんなもの最近の高性能なレーダーならたとえ10㎝のゴミだろうと逃すことはない。

 だから何もない事を確認していつも通りの作業を終えるはずだったが、視界の端に明らかに異質な物体を捉えた。

 

「なんだありゃァ……、おいマイケル! デブリレーダーで何か拾ってないか?」

 

「レーダーはクリアですよ。どうしたんです?」

 

「……そんな馬鹿な。くそ、ここからじゃステーションの陰になってよく見えん。おい! 23番望遠鏡! 100倍で映し出してくれ! 貨物モジュールから85度東!」

 

「はい!」

 

 観測員の映像が切り替わる。

 

「なッ……!!」

 

 そこには、デブリにしてはあまりに巨大な、銀色の球体があった。

 しかもその周囲には、太陽の逆光でよく確認できないが、数百を超える小さな物体もあった。

 

「う、嘘だろ……! 本当にレーダーには何も映っていないのか!?」

 

「本当です! あのあたりなら完全にレーダーの範囲内なのに!!」

 

「なんてこった……、まさかあいつらが、地球にとっての異邦人──”フォーリナー”だっていうのか……? 馬鹿な!? 自動警戒衛星からは何の反応も無かった筈だろ!?」

 

 超文明の遺物──南極のOVUM-68の発見及び電波受信から30年以上が経った。

 人々の興味が架空の異星文明フォーリナーから他所に移った今でも、突然来訪する可能性を考えて人類は数十の自動警戒衛星を打ち上げ、地球圏内に侵入する異邦人を探索し続けていた。

 

 それが全く機能していないという、恐ろしい事態だった。

 

「と、とにかくジョンソン宇宙センター(ヒューストン)に連絡を入れろ! 幸い俺たちは発見できたんだ!」

 

「それが……、先程から強力な電波障害が発生して、どことも通信がつながりません!!」

 

「なんだと!? まさか……ジャミングでも仕掛けてるっていうのか……?」

 

 観測員は、青ざめた様子で言った。

 

 本来宇宙からの脅威に真っ先に対応するはずの自分たちがこの様だ。

 ならばおそらく、地上のレーダー設備でも彼らを感知することは叶わないだろう。

 

「くそッ! 見えているのに……何も出来ないってのかッ!?」

 

 観測員はやり切れない思いをコンソールパネルにぶつける。

 

「フォーリナー……、友好的な異邦人であってくれよ……。でなければ人類は――」

 

 ──恒星間航行技術を持ち、人類の持つ一切のレーダーに探知されず、通信すら遮断する技術を持つ超文明が侵略を始めれば、果たして人類に抗う術は残されているのか?

 或いは、彼らが侵略者ではなく、地球に和平と交流を求めに来た友好的な存在である可能性はまだ残されている。

 

 レーダーに映らず、通信を遮断したのは意図的なものではなく、彼らが友好的である可能性──だがそれを目にした彼は、その白銀の船から無意識的に脅威を本能的に感じ、彼の中の何かが警鐘を鳴らしている事に気付いた。

 

「……いや。奴らは、そんな存在じゃない。地球が、燃えるぞ」

 

 別の観測員がつぶやいた。

 果たしてそれは、人類の戦いに塗れた歴史が作り上げた外敵への恐れか、或いは脅威的な存在を本能的に感じたのか……。

 

 答えは、地上の人類が証明するだろう。

 

──Earth Defense Force " Alternative War History" begins now──

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