全地球防衛戦争―EDF戦記―   作:スピオトフォズ

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寒くなってきましたねぇ。
それで思い出したんですけど、今までロシア……特に北極圏の話とかでまったく季節感なかったなと思い、反省……するけど今更書き直すのはめんどいので今回から申し訳程度の季節感を出しました、ホントに少しだけ。


幕間2 東欧戦線②:ヴォルゴグラード攻防戦

 

 ――2022年11月9日。

 東欧戦線第二防衛線の戦いが幕を開けた。

 各地ZE-GUN(セントリーガン)陣地で迎撃弾幕での掃射と足止め、そして後続を砲兵部隊の砲撃で少ない砲弾で最良の戦果を叩きだす。

 全巨大生物群の二割ほどを削るが、ZE-GUN陣地は一日と持たずに壊滅し、巨大生物群は防衛戦を構築する各拠点に雪崩れ込んだ。

 特に『トゥーラ州ボゴロジツク』南方70kmの都市『トゥーラ州イェフレーモフ』周辺では激しい防衛戦が繰り広げられた。

 旧首都『モスクワ』・100万人級の大都市『ヴォロネジ』・ロシア陸軍-南部軍管区司令部のある『ロストフ・ナ・ドヌ』の三都市結ぶM4幹線道路沿いを進撃する巨大生物群に対し、両脇から『L203自走重砲ベテルギウス』、『L185自走榴弾砲プロテウス』、『L155自走榴弾砲ブラッカー』、それに『L227自走ロケット砲ネグリング』などのEDF砲兵旅団が幹線道路の跡形もなくなる勢いで面制圧を敢行。

 しかし、その更に両脇から回り込んだ巨大生物群を抑えきれず、至近集団戦へ巻き込まれる。

 砲兵隊はレーザー測量範囲を極近距離に絞り、常識外れな直接照準による迎撃を行う他なかった。

 当然護衛歩兵小隊や汎用戦闘車輛も迎撃を行ったが、中でも『L155自走榴弾砲ブラッカー』は直接照準砲撃戦に於いて活躍が顕著だった。

 前線での使用を想定し、戦車並みの機動力と装甲を与えられたブラッカーは、特に乗り手の練度によっては獅子奮迅の活躍をし、『イェフレーモフ』の住民の避難に一役買った――かに思われた。

 

 ――しかし、11月11日深夜。

 M4幹線道路からふと南の方を向くと、夥しい量の火炎と黒煙が上がっている事に、部隊は気付く。

 調子の悪い無線機で交信を試みると、そこからは悲鳴と怒号しか聞き取れなかった。

 ほんの2時間ほど前、西方よりEDF警戒網を突破して侵入した少数の巨大生物群が、『イェフレーモフ』の街を食い荒らしたのだ。

 『イェフレーモフ』は、人口五万人ほどの小さな都市だが、街には化学工場が多く立ち並ぶ工業都市だった。

 合成ゴム工場や樹脂系の他、火薬の原料ともなる硝酸アンモニウムも多く製造している。

 そして、それらの製造に欠かせない多くの燃料や引火性化学物質のタンク、製造工程そのものを巨大生物は食い荒らし、爆発に巻き込まれて数体が吹き飛ぶ。

 しかしそれらを全く気にせず、『イェフレーモフ』内の工場施設は瞬く間に蹂躙された。

 街は火の海となり、大気と土壌は拡散した有害物質に塗れ、人々は恐ろしい程死にゆくのみだった。

 炎に巻かれるか、毒を吸い込むか、酸で溶かされるか、巨大生物の餌食となるか。

 あらゆる死の可能性が平等にばら撒かれる地獄が、そこにはあった。

 

 戦域の指揮権を持っていたEDF欧州第四軍団-第五機甲師団は、巨大生物が集った『イェフレーモフ』への全力砲撃を命じた。

 しかし、命令を受けた師団付き砲兵旅団は、砲弾の残弾微少を理由に命令を拒否。

 そして独断で『イェフレーモフ』に残る民間人を救出に、指揮下の第622陸戦歩兵連隊を中心に、少数の先進歩兵部隊とブラッカー中隊・その他支援部隊を臨時編成し、投入した。

 地獄の炎が渦巻く『イェフレーモフ』に突入した臨時編成部隊は敵殲滅より人命救助を全力で行うが、何を思ったか巨大生物群はその大半が市街への興味を失い、北上し師団砲兵旅団の本隊を襲った。

 直掩の護衛部隊を『イェフレーモフ』に送っていた師団砲兵旅団は壊滅。

 貴重な砲兵戦力が失われるばかりか、『ボゴロジツク』から南下していた巨大生物群とも合流。

 一大勢力を気付き上げ、津波のような勢いで『イェフレーモフ』に再び襲来した。

 救助活動は既に終え、僅かながら確かな命を救った第622陸戦歩兵連隊だったが、師団司令部に早急な帰還命令を喰らった彼らは、のちに厳罰を負う事となる。

 

 なぜなら、この『イェフレーモフ』の一件が、第二防衛線の崩壊のみならず、最終防衛線、ひいてはロシア国境の突破を引き起こしたのだから。

 

 ――11月16日。

 『トゥーラ州イェフレーモフ』を蹂躙した巨大生物群は『リペツク州』の州境を越え、『リペツク州エレツ』、『リペツク州サドンスク』といった都市を破壊し、第二防衛線を突破。

 最終防衛線・南部拠点都市『州都ヴォロネジ』を目指して突き進んでいた。

 第二防衛線は事実上崩壊、それどころか『イェフレーモフ』周辺を制圧されたことにより、最終防衛線中央部拠点『州都オリョール』への攻勢も激しさを増し、突破の危機が高まった。

 

 東欧戦線北部でも激戦が繰り広げられ、第二防衛線『スモレンスク州サフォノヴォ』が陥落。

 戦力は一気に『州都スモレンスク』まで後退し、迎撃の構えを取った。

 しかし巨大生物群は細かく小規模集団に分散し、『州都スモレンスク』を包囲するかのような動きを見せた。

 

 ――そして、11月30日。

 東欧戦線南部・最終防衛線『州都ヴォロネジ』周辺での戦闘部隊が壊滅し、都市内での市街戦が始まった。

 ここまで主力を務め、そして戦力の過半数を失いつつあったEDF欧州第四軍団に代わり、黒海方面を含む北カフカース地方への侵攻を本格的に警戒し始めたロシア連邦軍南部軍管区が、第58諸兵科連合軍を『州都ヴォロネジ』防衛に向かわせ、主力を担った。

 

 『ヴォロネジ』は、広大なロシアでも20位以内に入る程の大都市であり、人口は100万人を超える。

 ヴォロネジ川の両岸に大都市が広がり、軍用機を扱う軍需工場や掘削機・プレス機と言った機械産業に欠かせない工場、そして今や現代兵器に欠かせなくなったソフトウェア産業も盛んな都市だ。

 更に大学や教育機関なども充実しており、若者が多く住む煌びやかな街であった。

 

 大戦以降、モスクワ壊滅を受けて避難拠点となった都市の一つでもあり、避難の際人口の爆発的増加も起こっていた。

 むろん、戦況悪化に伴って避難は順次行われていたものの、市街には未だ30万人を超える民間人が残っており、市内は阿鼻叫喚に包まれた。

 

 しかし、そんな中最悪の情報が、ロシア陸軍南部軍管区司令部や、EDF欧州第四軍団司令部を震わせた。

 西露戦線で激戦の最中にある『州都ニジニ・ノヴゴロド』や壊滅した『州都ウラジーミル』から、数十隻のレイドシップが一斉に南下したとの報告が入ったのだ。

 

 全く不明の行動原理に、司令部級は事態の深刻さと相まって吐き気を覚えた。

 

 ――12月4日。

 南下した総数43隻のレイドシップは巨大生物を大量に投下し、既に放棄されたリャザン州を黒い影で埋め尽くした。

 それだけで終わるはずは無く、投下された巨大生物は陥落したばかりのリペツク州に侵入、更に南下を進め、『ヴォロネジ』まで進撃した。

 のみならず、ヴォロネジより北東に位置する最終防衛拠点『ブリャンスク』や『オリョール』にも数隻のレイドシップが分散し、東欧最終防衛線は陥落間近となった。

 

 ――12月5日。

 東欧最終防衛線の危機により、ウクライナ軍は東部作戦軍管区の第17独立戦車旅団、第51独立機械化旅団をロシア国内に派遣。

 しかし、同時にロシア南部軍管区はヴォロネジからの撤退を決定。

 またレイドシップの出現により、戦略を拠点防衛から漸減作戦に転換せざるを得なかった。

 人類に出来得るのは、未だ時間稼ぎ以外にあり得ない。

 

 ――12月16日。

 『州都ブリャンスク』で戦闘中だったEDF欧州第四軍団第28歩兵連隊を含む三個連隊は、突如巨大生物の大幅な減少を確認した。

 その結果、なんと彼らはブリャンスク市街の完全奪還を達成し、当該戦力は周辺都市スモレンスクやオリョールの援軍に向かった。

 そのことは国境を接するベラルーシやウクライナにも即座に伝わり、国境沿いで厳重警戒を行っていた部隊はひとまずの安堵を得た。

 とはいえ警戒は緩めず、常に厳戒態勢と周辺地域の偵察を厳としていた。

 

 ――12月20日。

 戦力の一極集中により粘り強さを見せる西露戦線『ニジニ・ノヴゴロド』だったが、そこから溢れたように更に20隻のレイドシップ艦隊が南方『州都サラトフ』に向かって飛行する姿が観測された。

 『サラトフ』はサラトフ州の州都であり、人口85万人ほどの大都市だ。

 ヴォルガ河有数の河港をもち、沿ヴォルガ鉄道支社の本部があるなど交通の要衝として知られ、旧ソ連時代から工業、文化、教育の中心地として栄えてきたロシアの代表的な街のひとつである。

 

 故に、当然ながら軍事戦略的な面でも要衝として扱われており、多くの天然資源がある事から軍需産業や継戦能力という点でも失いたくない都市だった。

 地理の面でも、西から東へヴォロネジ=サラトフと並び、サラトフから南西にヴォルゴグラード、ヴォルゴグラードから北西にヴォロネジという三角形のような位置関係で結ばれており、ヴォロネジが陥落した今、サラトフとヴォルゴグラードの二大都市は南部軍管区管轄外ではあるものの、南部軍管区ロストフ・ナ・ドヌから近い事もあって絶対に失いたくない重要都市であった。

 

 ――12月21日。

 サラトフ州の北部『ペンザ州』にて、大規模な漸減作戦が行われた。

 主力はロシア軍南部軍管区が務めたが、『ヴォルゴグラード』にある『EDFロシア第一工廠』の危機を排除する為、都市に駐屯していたEDF西露第67機甲師団も参戦した。

 『EDFロシア第一工廠』はEDF総司令部が掲げる全地球防衛戦略にも欠かせないものとなっている為、防衛にいよいよEDF総司令部も注視し始めた。

 

 ――12月22日。

 ヴォロネジ陥落後、もはや常套戦術と化した都市への砲撃を行い、ヴォロネジを捕食する巨大生物の漸減に成功した南部軍管区だったが、しかしもはや砲弾の消費に補給が追い付かず、戦果はそれほど挙げられなかった。

 更にレイドシップの登場もあり、もはや撃破数そのものが意味をなさなくなり、士気は低下の一途を辿った。

 ヴォロネジの捕食を終え散った巨大生物は、ウクライナと国境を接するベルゴロド州の都市『ヴァルイキ』、『アレクセーフカ』やヴォロネジ州の『ロッソシ』、『パヴロフスク』、『ボグチャル』といった都市に広く分散した。

 戦力を集中できないEDFとロシア軍は劣勢を覆せず、もはやウクライナ国境に達するのは時間の問題となった。

 

 ――12月29日。

 厳寒期に突入したウクライナ北部の都市『州都チェルニヒウ』だったが、ロシアとの国境が比較的近いという事で警戒を厳にしていた。

 しかし、特にその日は強烈なブリザードが吹雪き、レーダーも観測も碌に出来ない状態だった。

 そんな気候を利用する知能は無いと考えられていたが、最悪のタイミングでそれは起こった。

 

 まるで、チェルニヒウ近郊を半包囲するような形で、軍団規模の巨大生物群が地鳴りや地震と共に地中から現れた。

 『ブリャンスク』で消えた巨大生物群は、その数をさらに増やし、ここまで地中侵攻を行ったのだ。

 その振動だけでも多くの被害が出る程な規模で、チェルニヒウに駐屯していたウクライナ軍どころか、都市そのものが半日と持たず全滅した。

 巨大生物は猛烈な吹雪の中でも全く活動を緩めず、チェルニヒウを蹂躙すると南下。

 ウクライナの首都であるキーウを目指し、軍団規模――数にして、10万以上の黒い絨毯が一斉に大挙した。

 

 ――年は明け、2023年1月1日。

 タイミングを計ったかのように、『州都ベルゴロド』が陥落。

 ウクライナ軍の『第108独立領土防衛旅団』や多数の防衛戦力と巨大生物群がついに国境で激突した。

 ウクライナ北部『州都ハルキウ』では大規模な避難が始まると同時に、ウクライナ陸軍東部作戦管区司令部は、国境沿いに集中した防衛戦力に可能な限りの防衛戦を命じた。

 また国内では理不尽な侵略から国土を護る為、志願兵が急速に増加し、国家総動員体制が確立しつつあった。

 しかし国土防衛の総指揮を執るはずの首都キーウでは、ついに10万以上の巨大生物群がついに市街へ侵入し、首都では大激戦が繰り広げられた。

 

 ――1月4日。

 ついに『ベルゴロド州』、『ヴォロネジ州』の二つが陥落、ロシア軍南部軍管区は自国重要拠点である『サラトフ』やEDF戦略拠点『ヴォルゴグラード』を護る為に全面撤退し、ウクライナ東部『ドンバス地方』北部国境沿いでEDFとウクライナ軍そして巨大生物群が大激突した。

 An-70を改造した簡易爆撃機と、旧ソ連時代から眠っていた戦略爆撃機Tu-95を引っ張り出し、面制圧を行った。

 EDFは黒海沿岸陥落の危機を受け更に追加のEDF欧州第五軍団を派遣し、ウクライナ本土の防衛を命じた。

 国境沿いの広範囲爆撃と大規模砲撃。

 そして地上部隊による迎撃を行うも、レイドシップによる物量は覆せない。

 

 ――1月8日。

 ヴォロネジ東方約450kmに位置する要衝『州都サラトフ』が陥落。

 サラトフに集っていた巨大生物群とレイドシップは南下し、ロシア南部最大の工業都市『ヴォルゴグラード』に殺到。

 同時に、『ヴォロネジ』を陥落せしめた一群もヴォルゴグラードを目指す。

 EDFは道中平原や小都市を拠点に漸減作戦を行ったが、動かせる戦力は僅かで、効果は薄かった。

 それでも、被害と引き換えに足止めの任務は果たし、『ヴォルゴグラード』では着々と防衛体制と非戦闘員の避難が行われた。

 しかし、巨大施設である『EDFロシア第一工廠』を移転するのは難しく、工場員は例えどんな状態になっても生産を続ける覚悟を決めていた。

 生産された武器や弾薬、そして戦車や航空機などは、即座に激戦が予想されるウクライナ東部や南部軍管区に輸送され、そして人員の足る限りここヴォルゴグラードにも即時配備された。

 

 ――1月13日。

 首都キーウでの激戦は続き、燃え盛る市街を闊歩する巨大生物を迎撃するのは、EDFやウクライナ軍だけではなく、武器を支給された警察や公務員たち、そして覚悟を決めた民間人たちだった。

 既にキーウは巨大生物に完全包囲され、もはや逃げる事すら出来なくなった市民たちは、酸の一発でも喰らえば手足が溶け落ちるような貧弱な装備で、それでも武器を手に取り戦った。

 巨大生物の甲殻は装甲車並みの強度を誇るが、銃弾が効かない訳ではない。

 また、巨大生物は非常に怯みやすく、貧弱な武装でも集団で銃撃を浴びせれば撃破は可能だった。

 更に僥倖な事に、キーウは国境防衛の為の後方補給基地としての役割も想定されていた為、武器弾薬や燃料食料も国内からかき集められており、継戦能力は十分にあった。

 特にトラック十数台分に敷き詰められた低コストなRPG-7を持った市民たちが、次々と巨大生物を撃破していく様は、EDFやウクライナ軍にとっても非常に頼もしく映った。

 

 国家のいや人類の危機に立ち上がった市民たちを激励し、そして正確な指揮を執る為ウクライナ大統領府もその場に留まり、それだけに留まらず大統領は自ら前線に赴き市民や兵士たちを激励し、時には銃を手に取り戦った。

 その甲斐あってか、首都キーウは完全に包囲された状態で街を火の海にしながらも、10日以上持ちこたえていた。

 

 ――1月15日。

 首都キーウに勝るとも劣らない壮絶な戦いを繰り広げた北部国境だったが、レイドシップからの降下による無限の物量により、抵抗むなしく瓦解した。

 巨大生物群とレイドシップ船団は南下を続け、EDFとウクライナ軍はウクライナ第二の大都市『州都ハルキウ』、ドンバス地方の玄関口ともいわれる小都市『ハルキウ州イジューム』、東部ドンバス地方最大の都市のひとつである『州都ルハンシク』を含む、複数の都市を拠点とし、国境から該当都市までの雪原に砲撃戦を仕掛け漸減に努めると同時に、都市での防御を固めた。

 その苛烈さは、たった一日でウクライナ軍の砲弾備蓄総量の三割を消耗し、EDFから消耗許容限界を超えていると警告があるくらいだった。

 EDF総司令部そして戦略情報部には、各国家の対フォーリナー戦略を指導し、新型砲弾開発まで少しでも生き長らせる責任があり、時間稼ぎ以上の砲弾を使う訳にはいかなかった。

 しかし、国土蹂躙を許す訳にはいかないウクライナ軍も必死で、都市への侵入を許す訳にはいかず、徹底抗戦の構えを解かなかった。

 

 ――1月16日。

 ロシア南部の大都市『ヴォルゴグラード』近郊での戦闘がついに始まった。

 今まで温存していたEDFの精鋭戦車部隊『第119戦車連隊』と、ロシア軍の精鋭『第20独立親衛自動車化狙撃旅団』を含む、6個師団相当の戦力が迎撃に参加した。

 それに加え、EDFは温存していた『EDF地球規模戦略軍-全地球攻撃航空軍-第二戦略空軍』を解放。

 戦略爆撃機『EB-32F フォボス』108機による超規模絨毯爆撃に加え、36機もの大型対地攻撃機『DE-202 ホエール』による空からの支援砲撃で、ヴォルゴグラード近郊は焼け野原の荒野と化した。

 しかしそんな地獄にあっても銀色の浮遊船レイドシップは傷一つなく、分かっていた事だが悠々と飛行するその姿に兵士たちは絶望を隠せなかった。

 それでも彼らは戦った。

 湧いて来るのであれば、何度でも殲滅してやる、と。

 そんな思いを胸に秘めて。

 

 やがてヴォルゴグラード市内に敵が侵入する。

 漸減されたとはいえ、常にレイドシップから投下されるその数は計測不能で、倒しても倒してもキリがない。

 しかし、少ない期間ではあったが他戦線での情報を収集し対巨大生物戦に特化した『EDF第119戦車連隊』は投下直後の巨大生物に集中砲撃し、市街地での戦闘でありながら優勢を保った。

 更に遊撃専用にカスタムされた最新鋭の『コンバットフレーム・ニクスC』や、拠点防衛用に特化した『コンバットフレーム・ベガルタM2』を複数投入し、徹底抗戦が行われた。

 

 ここに、かの『スターリングラード攻防戦』に勝るとも劣らない壮絶な戦い『ヴォルゴグラード攻防戦』が幕を開けた。

 

 ――1月17日。

 ハルキウでの市街戦が始まった。

 レイドシップは市街に無秩序に巨大生物をばら撒き、市街地は炎と廃墟に作り替えられた。

 例の如く市民の避難は完全ではなく、少なくない数の市民が犠牲になる中、EDFを中心としたウクライナ軍は必死に抗戦を行った。

  

 ――1月18日。

 抵抗を続けていたウクライナ首都キーウだったが、ついにレイドシップが現れた。

 首都内部の巨大生物総数は爆発的に膨れ上がり、首都は全域が瓦礫と火災に覆われた死の街となった。

 だがウクライナ大統領を含め、多くの政府高官や兵士、そして市民は未だ激しい抵抗を続けており、急速に消耗した武器弾薬や補給物資をかき集め、地位や身分、あらゆる立場の人間が協力して立ち向かっていた。

 ウクライナ大統領は拠点を大統領府地下の非常指令センターに移し、重要機密の揃うそこをあろうことか一般開放し、要塞化して抵抗を続けた。

 そんな折、その地下指令センターに日本から全世界へ向けた通信が届いた。

 そう、レイドシップ撃墜成功の吉報である。

 歓喜に沸く地下指令センターだったが、しかしここに残る戦力では到底レイドシップ撃破に向かう力は残されておらず、地下を掘り進む巨大生物によって、逃げ道も無く、全滅は時間の問題だった。

 ウクライナ大統領は通信設備が生きている限り、全国民に不屈の意思を語り続け、国民に勇気を与え続けた。

 

 ――1月19日。

 レイドシップの撃墜方法が解明された事により、即座にロシア軍が動いた。

 危機に瀕する盟友ウクライナと、その大統領を救う為、ロシア空挺軍-第45独立親衛特殊任務連隊――通称スペツナズの投入を決定した。

 本来ならばそのような余裕はロシアにも無いが、しかしかつては同じ国家として存在し、近しい人種と言語で構成される国家ならば、とても他人事とは思えなかった。

 確かに、近年両国の関係は冷え切っていたが、その政策を執っていたロシア連邦首脳部は、ジェノサイドキャノンの炎で焼き尽くされた。

 今サンクトペテルブルクにいる臨時政府や参謀本部に、ウクライナをよく思っていない人物はいなかった。

 この戦乱の時代にロシアと共にあるのは、ウクライナやベラルーシ、そして旧ソ連社会主義圏であり、その盟主たるロシアには、それらの国を支える役目があるのだと。

 いや、そんなものは所詮建前に過ぎない。

 隣国の友人を救うのに、理由など必要だろうか?

 

 そんなロシアの勇気ある決断に続き、EDFもEDF特殊空挺軍-独立先進歩兵空挺任務群を直ちに編成し、ウクライナ首都キーウへ向かわせた。

 作戦目的は、ウクライナの心の支えとなっているウクライナ大統領の保護と、首都キーウのレイドシップ撃沈。

 ロシア連邦は、旧ソ連の同胞と言えるウクライナの危機を決して見捨てはしなかった。

 

 ――1月20日。

 ウクライナ軍は、大統領の不屈の意思と日本のレイドシップ撃破により士気を最骨頂に震え上げ、ウクライナ東部ドンバス戦線、ハルキウ市街戦にてついにレイドシップ撃破を成し遂げた。

 現地のEDFが、直ちに先進歩兵四兵科による小隊を組んで突撃を行ったのだ。

 壮絶な犠牲を強いられる戦術ではあったが、それでも不可能ではないという事が人々の心に火を灯した。

 次いで『イジューム』、『ルハンシク』近郊でも戦果が上がり、フォーリナーに抗する兆しが見えて来た。

 

 ――1月21日。

 ついに首都キーウにて、ついに救出作戦が決行された。

 ロシア軍第45独立親衛特殊任務連隊――スペツナズと、EDF独立先進歩兵空挺任務群――エアード1がキーウ上空より降下した。

 先陣は、スラスターの逆噴射で強襲降下したフェンサーが務め、酸の対空砲火から盾で皆を護った。

 エアレイダーは降下中も共にやってきたDE-202ホエールへ指示を出し、降下地点を制圧。

 続きレンジャーやスペツナズ達が降下し、最後に滞空時間の長いウイングダイバーが彼らを援護しつつ降下する。

 エアード1とスペツナズが降下地点を完全確保すると、上空に旋回待機してたロシア軍輸送機『Il-76』と、ホバリングしていたEDFティルトジェット輸送機『ノーブル』が戦車などの戦闘車輛や補給物資を各自投下した。

 EDFエアード1はレイドシップの撃墜に向かい、スペツナズはウクライナ大統領の救出に向かった。

 レイドシップ撃墜はもちろんの事、大統領救出の任務も簡単なものではなかった。

 降下地点から大統領府までの僅かな道中にも巨大生物は多く存在し、その道を切り拓くのに、スペツナズも少なくない犠牲者が現れた。

 

 連隊が徐々に瓦解する中、スペツナズはついに大統領府地下の非常指令センターへ辿り着き、ウクライナ大統領に脱出を促した。

 大統領は最後まで脱出を拒否したが、EDF戦略情報部が直接交信を行い、大統領の脱出後、キーウ近郊に展開したEDF砲兵戦力で都市ごと面制圧する事を明かした。

 もはや、レイドシップを撃墜したとしても歩兵戦闘では巨大生物を殲滅し、首都を奪還する事は叶わない。

 今ですら、孤立した大統領たちの為に多くの兵士が犠牲になっている。

 これ以上の犠牲は望ましくないと考え、大統領は忸怩たる思いでありながら、ここまで辿り着いたスペツナズや他の兵士の犠牲に敬意を表し、その場にいる生存者を優先する事を条件とし、脱出を決断した。

 

 ――明けて、1月22日。

 キーウから大統領を含む市民と兵士1400人は撤退し、EDFはキーウに砲爆撃を徹底的に叩き込んだ。

 エアード1の活躍によりレイドシップ十数隻を撃沈した事で、その場の巨大生物は増加する事は無く、砲爆撃によって首都内巨大生物の半数にあたる6万体超を撃破することが出来た。

 この戦果は、キーウ内に大統領達が長くとどまった事により巨大生物が密集していたことが大きく、また彼らの奮戦により10万体もの巨大生物を長く足止め出来ていた事は、東欧戦線では非常に大きな意味を持った。

 

 ――1月25日。

 激戦が繰り広げられていた『ヴォルゴグラード攻防戦』でも、十数隻ものレイドシップの撃沈に成功。

 壮絶な市街戦だったが、EDFがかなりの戦力を投入したことにより、なんとか状況は優勢に推移しているといってよかった。

 しかし、あまりにも人類側の抵抗が激しかったのが原因なのか、ヴォルゴグラード近郊にいた巨大生物群・レイドシップ船団の一部が諦めたように転進を開始、ウクライナ東部『ルハンシク』、ロシア黒海沿岸都市『ロストフ・ナ・ドヌ』に向かったのだ。

 道中で漸減するだけの余剰戦力は既に無く、都市近郊での迎撃が計画された。

 

 ――1月27日。

 『ルハンシク』、『ロストフ・ナ・ドヌ』の二都市近郊にて新たに戦火が巻き起こった。

 向かった巨大生物群はそれほどの規模ではなく、レイドシップも撃墜可能な事が分かった今、それほど恐れる敵ではない。

 EDFとロシア軍、そしてウクライナ軍は、出せる戦力がもはや少ないながらも、人類の意地を見せ、戦局はこちらも優勢に推移していた。

 

 しかし、人類は未だ、フォーリナーの戦力の一片しか見えていなかったことを思い知る。

 

 ――2月10日。

 東欧戦線に、侵略性巨大外来生物β、浮遊艦載機『ガンシップ』、多脚歩行戦車『ダロガ』が出現。

 

 そして――。

 

 戦略級巨大外来生物α――通称、蟲の女王(バグ・クイーン)が旧モスクワ・インセクトハイヴより、飛び立った。

 




作中で出てくるあらゆる用語・事象は虚実を織り交ぜて書いているので鵜呑みにせず気になったらちゃんと裏を取る事!
この世界はEDFが存在する世界なので、都市の歴史や軍事関係も色々変わってたりするんですよー、全てはフィクションです!

ちなみに今回知ったんですけど、スペツナズって特定の部隊を指してるわけじゃなくてロシアの特殊部隊全般を指す言葉なんすね……。
一番有名……というかイメージ的にしっくりくるのはGRU(連邦軍参謀本部情報総局)のスペツナズだけど、それ以外にもスペツナズっていっぱいいるのね……なるほど。

そう言えば、去年は年末に怒涛の連続更新やったけど、今年は無理そうだわ……。
年末予定あるし、戦況の話ってマジで執筆コスト高いんだわ……。
東欧方面もギリギリ収まらなかったし、ベラルーシやポーランド方面の話全然触れられなかったけどどうすっかな……、マジで終わらんなこれ。

なにやら泥沼化してしまった本小説ですが、いつか絶対本編に返り咲いて見せますので、来年ももう少々お付き合いください(気が早い)

ではでは~~
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