――2023年2月6日。
太平洋日本近海にて停泊したマザーシップは、艦載機を発艦させ、EDF極東軍を攻撃した。
それ以前、イギリスで侵略性巨大外来生物β、アメリカで多脚歩行戦車ダロガが新たに確認されていた。
更に、一度大気圏外まで上昇したマザーシップは間を置かず再突入を開始。
日本へ上陸し四足歩行要塞エレフォートを投下した。
投下後、マザーシップは再び大気圏外、衛星軌道上の地球侵略艦隊へ合流し、世界各地にレイドアンカーの投下とダロガ揚陸艇の発艦を始めた。
また、跳躍で移動し糸を出す蜘蛛型の怪物がβと呼称されたことにより、従来の甲殻を持ち、酸を発する蟻型の怪物はαと呼称された。
――2月10日。
旧モスクワ・インセクトハイヴ上空から百隻余りの揚陸艇とレイドシップが降下したのを、ロシアの監視衛星が捉えた。
不思議な事に、EDFの攻撃衛星を含む、人類の所有する人工衛星の全ては、フォーリナーの攻撃対象になっておらず、開戦から半年近くたった今でも健在であった。
理由は諸説あるが、アメリカで攻撃衛星ノートゥングの一基を使用し、敵に損害を与えた直後、マザーシップのジェノサイドキャノンによって破壊されている事から、宇宙空間に限り攻撃した対象のみを破壊する思考回路を持っていると考えられている。
したがって、フォーリナーの思考回路、戦略、或いは上級存在からの指令に変わりがない限り、攻撃・監視を含む軍事衛星、通信や気象、撮影を行う民間衛星などが失われる事は無いだろう。
ただし前述の通り、それはフォーリナー側の胸先三寸で簡単に覆ってしまう危うい理論であった。
しかし、攻撃衛星だけで宇宙戦を起こせるほど人類に戦力は在らず、それ以前に地上が制圧される瀬戸際の為、この問題に関しては殆ど対策は打てない。
少なくとも分かっている事は、攻撃衛星の使用は強力であると同時、一度使用すればその攻撃衛星は確実に破壊されるという事だ。
宇宙空間では、防御も回避も、まして反撃もままならないのだから。
話を戻す。
モスクワから降下し百隻規模の揚陸艇とレイドシップの船団は、それぞれ北上、東進、南下を始め、各戦線に散り、ロシアを追い詰めた。
南下したレイドシップは約1日かけてロシアの都市『ヴォルゴグラード』方面、『スモレンスク』方面、ウクライナの都市『ハルキウ』方面、『ルハンシク』方面に到着、侵攻を開始した。
揚陸艇からは、一隻に付き六機の多脚歩行戦車『ダロガ』が、そしてレイドシップからは浮遊艦載機『ガンシップ』、侵略性巨大外来生物βが現れ、苛烈な戦闘が幕を開けた。
従来の対巨大生物戦術から大きな戦術転換を求められ、余剰兵器や砲弾が多くあり、重要拠点という事で上級司令部が存在するヴォルゴグラードは致命的な結果になる前に対応が間に合ったが、スモレンスク、ルハンシク、ハルキウの三つの戦線は瓦解した。
スモレンスクはモスクワから最も近いが主流の船団ではなく、最大規模の船団はハルキウに送り込まれ続けていた。
更にヴォルゴグラード方面へ向かう船団が分裂し途中からルハンシク方面へ向かった事により、ルハンシクも最大規模の戦場となる。
ウクライナ東部は地獄に包まれた。
一発一発が戦車を破壊するほどのエーテル粒子砲弾が、ダロガ上面触角部から、十数機分並んで機銃掃射のような勢いで大量にばら撒かれる。
その地域は例えどんな兵器だろうと瞬く間に駆逐され、後に残るのは廃墟と燎原のみだった。
建物は一つ残らず崩れ、炎上し、運良く生き残った僅かな兵士や民間人でさえも後に来るβ型とガンシップに捕捉され、生存者が逃れる術はない。
そして、仇討ちとばかりに投入された空軍でさえも、ダロガの対空レーザー砲と不可思議な機動を行うガンシップによって大きな損害を被った。
人類も黙って見ている訳ではない。
侵攻する敵兵器、特にダロガ群に有効なのは、対巨大生物戦でも主力として活躍した陸の王者、戦車と思われた。
――2月12日。
ウクライナ軍の虎の子『T-90A』、『レオパルト2A4』、『PT-91』の各戦車や、EDFのおなじみ『E551戦車ギガンテス』が集結し、ルハシンク州全域で大規模な戦車戦が始まった。
しかしEDF以外の戦車に搭載されている、タングステンや劣化ウランを用いた砲弾では装甲貫通力が足りず、集中砲火や一点連続射撃でしか撃破は難しく、触覚や脚部基部などの部位破壊が限界だった。
それすらも連携と高度な操縦技術が求められる行為であり、大量に迫りくるダロガを撃滅するには到底至らない。
一方EDF製戦車ギガンテスに搭載されるのは、劣化ウランを中心に、希少金属である重金属タンタルの他、数種類の重金属を合わせた素材――名称は無く、単にレアメタル砲弾と呼ばれているものである。
配合比率は公開されずEDFの機密事項となっており、人類間紛争では使用が禁止されてる程、従来砲弾と比較して強力かつ希少・高価である。
その為、対巨大生物戦では敢えてタングステン砲弾を使用していたEDFだが、すぐにレアメタル砲弾に切り替えての出撃を行った。
EDFはフォーリナー大戦以前に紛争の根絶に努めていたが、その目的の一つがレアメタル鉱山の掌握であった。
特にアフリカではレアメタル鉱山が集中しているが、政情不安定地域の為採掘が安定して行われていないという問題があった。
レアメタルは希少かつ生産地が限られている為、利権や物理的奪い合いなどで政情不安定な地域が多く、アフリカ以外にもあった大小さまざまな問題がEDFの軍拡を阻んでいた。
EDFは武力によってこれを解決し、いくつかの鉱山を掌握、EDF独自技術で採掘の効率化を行い、その資源を軍隊の強化に充てた。
また、EDF総司令部のある南極大陸やその他の地域に眠る希少金属も発見・開拓し、そしてその採掘権の殆どを独占・軍事利用を行った。
そうして作られた人類の叡智とも言える大量のEDF製レアメタル砲弾だったが、しかしそれでもダロガに対し十分な威力を発揮したとは言い難かった。
それでも従来型砲弾よりは多くダロガに打撃を与え、戦車一個小隊が揃えば多数のダロガを撃破する事も可能だった。
しかし、その前提を相手の”数”の概念が崩壊させる。
衛星軌道上のマザーシップから送り込まれた揚陸艇は次々とダロガを投下し、ウクライナ軍はおろか、EDFでさえついに戦線を維持できなくなった。
大量のダロガが横並びになって、一斉にエーテル粒子砲弾を放ち一帯を火の海にする様は、撤退するウクライナ軍に絶望を与えた。
EDFですら、あの奇怪な直立歩行兵器に歯が立たないという事実に。
――2月14日。
『ルハンシク州』は完全制圧され、『州都ドネツク』や沿岸都市『ドネツク州マリウポリ』にまでダロガが侵攻した。
また同日、マザーシップによる東欧戦線全域へのレイドアンカーの降下があり、前線も後方も関係なく、全域がα型、β型巨大生物の散発的な強襲に脅えた。
――2月16日。
ハルキウ州ではガンシップによる空襲と、β型巨大生物による虐殺が行われていた。
長らく出番の無かったウクライナ空軍は、『ドニプロペトロウシク州ドニプロ』に司令部を置く『東部航空管区』の『第288戦術航空旅団』を中心とする三個航空旅団を全力で出撃させ、EDF空軍と連携しハルキウ上空の迎撃任務に当たらせていた。
『MiG-29ラーストチカ』や『Su-27ジュラーヴリク』などで構成されたウクライナ空軍の他に、『EF-24Aレイヴン』、『KM-6Eカムイ』などEDF空軍『欧州第三空軍-第195戦闘航空団』を中心とする二個EDF航空団が参加した。
しかしガンシップの不可思議な機動に翻弄され、苦戦を強いられ、戦闘に参加した総戦力の半数を失い、航空迎撃は失敗に終わった。
α型の襲撃を凌ぎ切った『州都ハルキウ』は、新種の巨大生物に抗えず、都市部は糸に覆われ、『州都ハルキウ』は陥落した。
高い跳躍力による三次元機動力と、酸以上に広範囲に飛び、しばらくその場に残り獲物を絡め取る酸の糸はEDFとウクライナ軍を苦しめ、多くの犠牲者を出す。
更に、逃げ延びた兵士や車輛は、空から襲撃するガンシップ編隊に捕捉され、その数を更に減らす。
この戦闘での唯一の成果は、ガンシップに対し、地上からの対空迎撃が思った以上に有効であったことくらいであろう。
多くのガンシップを地上から叩き落すことに成功したEDFウクライナ連合軍だったが、数の暴力は覆せず、ハルキウ撤退戦では多くの戦力を失った。
特にウクライナ空軍の『東部航空管区』は、戦術航空旅団所有の戦闘機の八割を失い、殆ど戦闘力を持たなくなった。
――2月28日。
ハルキウから撤退した戦力は『ドニプロペトロウシク州都ドニプロ』や『州都ポルタバ』にて防衛線を構築し、フォーリナー群に徹底抗戦を行っていいた。
しかし同日、『州都ドネツク』がダロガとガンシップによって崩壊し、フォーリナー群は『ドニプロ』・『ザポリージャ』方面と、『マリウポリ』・『アゾフ海』方面に二分した。
また『ドニプロ』方面へは『ハルキウ』方面から雪崩れ込むフォーリナー群も存在した為、圧倒的に不利な二正面作戦を強いられた。
しかし、EDFはドニエプル川西岸に大規模な戦力を移動し、徹底砲撃を行った。
ウクライナ軍には巨大生物の掃討を任せ、EDFは戦車を駆使してダロガと苛烈な砲撃戦を行う。
『ドニプロペトロウシク州都ドニプロ』は、従来は州都も州名と同様に『ドニプロペトロウシク』という名であったが、反ロシア感情のあった国民が、ロシアの共産主義者にちなんだ名を嫌い、『ペトロウシク』のみが排除された『ドニプロ』と呼ぶことを選んだという歴史がある。
なお、州名の変更には憲法改正がいる為進んでおらず、州名のみが残されている。
そんな『州都ドニプロ』は、ウクライナ国内でも有数の工業地域であり、重工業やエネルギー産業の他に、兵器産業も充実しており、国内の防衛産業の維持には欠かせない都市の一つだった。
のみならず、EDFが地球防衛戦略の要と考える工廠のひとつ、『EDF欧州第五工廠』も稼働していた。
また、南部の『州都ザポリージャ』には欧州最大、世界でも日本の『柏崎刈羽原発』、カナダの『ブルース原発』に続く総出力世界第三位の『ザポリージャ原発』が存在していた。
ここを奪われると欧州の電力事情に影響が出るばかりか、大規模な被爆の恐れがある為、絶対に死守しなければならなかった。
ウクライナ軍は当然、東欧諸国やEDF総司令部もこの場所の重要性は熟知していたので、再びEDF欧州方面第三軍が本腰を入れて動くことになった。
一方アゾフ海沿岸の港湾都市『マリウポリ』でも大規模な市街戦が行われていた。
港湾都市として海路での重要性はもちろんの事、こちらもウクライナ有数の工業都市として存在しており、当然ながら奪われる訳にはいかなかった。
『マリウポリ』は都市内での激しい市街戦の他に、ウクライナ海軍-東部海軍基地指揮下の『第9水上艦艇師団』がアゾフ海に展開し、主力艦艇である『ギュルザ-M型砲艇』が海上から支援砲撃を行った。
小型艦艇である『ギュルザ-M型砲艇』の武装は、『KAU-30M』と呼ばれる複合砲塔が二門あり、一門に付き30mm自動砲、30mmグレネードガン、7.62mm機関銃、バリア対戦車ミサイルシステムを備えている。
巨大生物との戦闘には火力を発揮したが、ダロガとの砲撃戦はとても行えない小型艦艇であり、岸に近づいた瞬間多くがエーテル粒子砲弾の斉射を受け、爆沈するに至った。
そんな防衛戦闘により都市機能は徹底的に破壊され、脱出の遅れた市民たちが多く犠牲になった。
都市の細部まで入り込んだ巨大生物に対し、ここ『マリウポリ』を拠点とする『アゾフ連隊』が迎撃と民間人の救助を犠牲を覚悟で行った。
アゾフ連隊――厳密な軍隊ではなく、内務省管轄に当たるウクライナ国家警備隊の指揮下であり、『東部作戦地域司令部-第12特務旅団-アゾフ特殊作戦分遣隊』が正式名称である。
対テロや重要施設防護などの任務に就く任務の性格上、真っ向からの正面戦闘には向かないが、それでも小銃を用いての対巨大生物戦闘では活躍し、『マリウポリ』から多くの民間人を救出した。
だが、ダロガやガンシップの攻撃には太刀打ちできず、また対巨大生物戦であっても囲まれたりまともに酸や噛み付きを喰らえば死は到底免れず、『アゾフ連隊』は都市『マリウポリ』と運命を共にした。
これにより、ウクライナ東部『ドンバス地域』は、その全域が敵の支配下に堕ちた。
――3月13日。
EDFとウクライナ軍の必死の抵抗により、この日まで『ドニプロ』、『ザポリージャ』方面の防衛には成功していた。
しかし、『マリウポリ』陥落の影響を殺しきれず、戦力を『ドニプロ』方面へ集中していたEDFは侵攻を止められず、ウクライナ東部海軍基地のある『ザポリージャ州ベルジャンシク』、第25輸送航空旅団の空軍基地のある『ザポリージャ州メリトポリ』と言ったザポリージャ州南部の都市を立て続けに奪われ、現在は『ヘルソン州』侵入を防ぐために平原での大規模な迎撃戦が繰り広げられていた。
ヘルソンを失えば、クリミア半島との連結が断たれ、アゾフ海全域を失う事になり、ひいては黒海沿岸地域の維持も難しくなり要因の一端になる。
そのことを危惧し、『クリミア半島セヴァストポリ』に拠点を置くロシア海軍黒海艦隊もヘルソン州に積極的にミサイルなどでの支援攻撃を行っており、ヘルソン州東部では全域が戦場と化していた。
――3月16日。
戦線は半ば膠着状態に陥り、人類・フォーリナー両軍共に激しい戦力のすり減らし合いが続いたが、フォーリナー支配地域の拡大は防いでいた。
ウクライナ軍、及びEDF欧州第五軍団は、首都『キーウ』・『ドニプロ』・『ザポリージャ』・『ヘルソン』を結ぶ『ドニエプル川』をウクライナ東部絶対防衛線とし、防衛に徹していた。
首都『キーウ』では大統領の脱出とレイドシップの撃沈で上げた戦果以降、以外にも目立った動きは無く、以前占領されたままではあるものの、『ドニエプル川』西岸の都市は未だ健在であった。
ウクライナ西部にも降り注いだレイドアンカーの排除も順調に進み、EDFは戦力を整えて反抗作戦を画策していた。
その手始めとして、フォーリナー戦力が薄い、旧首都キーウの奪還作戦が計画された。
『オデーサ』と『リヴィウ』に二分割された首都機能のうち、『オデーサ』に移管したウクライナ軍参謀本部と、EDF欧州第五軍団司令部が作戦立案を行い、『リヴィウ』に移管した大統領府・国防省及び、『EDF欧州南北複合要塞線』の中央に位置するEDF欧州方面軍司令部が承認を行った。
――3月20日。
ウクライナ軍および主力のEDF欧州第五軍団は、首都キーウ奪還作戦を開始した。
またこの作戦は、フォーリナー大戦前中期における数少ない明確な目的を持った攻勢作戦でもあった。
キーウには数隻のレイドシップやレイドアンカー、それとダロガや巨大生物など一般的な構成のフォーリナー群が居たが、大半が激戦区であるドニプロ方面へ流れていた為、そちらに比べると大人しめの敵構成ではあった。
しかし、当然激しい戦闘が起こり、人類側にも少なくない損害が出始める。
戦車部隊はもちろんの事、ドニエプル川から小型戦闘用舟艇が大量に支援砲撃を行い、一気に市街に切り込む。
上空で制空権を取るガンシップは、EDF対空車輛『KG-6ケプラー』や『AN-11アンモナイト』が次々に叩き落し、EDF機甲部隊をさんざん苦しめたダロガは、EDF戦車連隊の精鋭である『第115戦車連隊』や、機動遊撃戦を得意とする『コンバットフレーム・ニクスC』で追い詰める。
更にEDFの誇る”空の要塞”、『DE-202ホエール』数機が編隊を組み、対空レーザー照射を行うダロガと互いに攻撃を交差させ、陸と空で激しい攻撃の応酬が繰り広げられた。
またEDF先進歩兵の突撃による攻撃も有効で、数の差さえ覆してしまえば十分対処可能な敵である事が知らされた。
その数の差を埋めるべく、多方面からダロガ揚陸艇が飛来するが、白銀の装甲を纏っていないそれは、後方のEDF多連装ロケットシステム『L227ネグリング自走ロケット砲』によって捕捉され、多数のロケット弾攻撃を受けて次々に沈んでいった。
それでも揚陸艇の瓦礫から脱出するダロガに向けて、『E551ギガンテス』のレアメタル製徹甲榴弾が叩き込まれ、あの強敵ダロガが一方的に撃破されていった。
敵巨大生物に関しては、EDF先進歩兵四兵科が独自に対処しつつ、それを武装高機動車『M31ジャガー』、歩兵戦闘車『キャリバン』、装甲戦闘車『グレイプ』などの戦闘車輛や、攻撃ヘリ『EF-22バゼラート』や対地攻撃ヘリ『EF-31ネレイド』が援護射撃を行い、優勢に駆逐していった。
――3月21日。
こうして、ウクライナ首都キーウは、フォーリナー大戦始まって以来の明確な大勝利という形で、大きな損害を出しながらも奪還に成功した。
前線は気を緩ませないまま、静かな喜びと希望に満ち溢れていた。
彼我の戦力差を考えれば当然の勝利とも言えるが、それでもEDFそしてウクライナに与えた喜びは大きい。
しかし、その勝利に隠れ、脅威的な存在が地表に現れていた。
同日、衛星画像が捉えたのは、旧モスクワ・インセクトハイヴから出現する超大型巨大生物だった。
3月上旬にイギリスを陥落判定に追いやった存在と同等レベルのそれは、即座に超抜級戦略個体の認定を受けた。
女王蟻と見紛うその風体と威容はそのままEDF総司令部により個体名として登録された。
それは、
超抜級戦略個体α――
――3月22日。
バグ・クイーンは上空を飛行し、一直線に、奪還して勝利を噛みしめるキーウへと到着した。
キーウの部隊は一瞬で絶望に襲われ、一時の勝利など、この大戦において何の意味もない事を思い知らされた。
EDFは全力を以て飛来するバグ・クイーンを迎撃した。
ネグリング自走ロケット砲や各種対空砲、それだけでなく、ロシア海軍黒海艦隊やEDF艦隊のミサイル攻撃を徹底的に叩き込んだ。
その甲斐あってか、バグ・クイーンは地表に落下し飛行をやめた。
攻撃が効いたと錯覚するEDFだったが、直後に、酸の大放射を受けて、範囲内の地上部隊は全滅した。
それは、まるで酸の津波であった。
もはや瓦礫となって久しい街並みも、兵器も人も、あっという間に呑み込まれ、そして溶かされていった。
それ自体が高温の酸は、化学反応によってあらゆる物体を溶解し、視界すら困難にする猛毒の霧を撒き散らす。
たった数度の酸の放射で、キーウの街並みは瓦礫すら残らぬ更地となり、あらゆる人工物はおろか、地形さえすべて平坦にしてしまった。
ウクライナ首都キーウは、消滅した。
――3月31日。
再び数多のミサイル・砲弾を叩き込み、地に墜としたが、しかしそれがただの着陸であることを、EDFは知っている。
地上に降り立った途端、更に苛烈な砲爆撃と、地上部隊の射撃をありったけ叩き込む。
バグ・クイーンは怯む様子を見せ、攻撃が有効だと気付いたEDFは更に射撃を継続する。
が、戦域にはもちろんバグ・クイーン以外のフォーリナー戦力が常に攻勢を続け、EDFを追い詰めて行く。
今やドニプロは、東欧戦線一の大激戦区になっていた。
しかし、僅かな隙を突かれ、バグ・クイーンは酸の大放射をついに行った。
主力だった戦車連隊の一部が一度の放射で溶かされ、砲撃が弱まる。
バグ・クイーンは更に二三度放射を続け、街並みと共にEDFの戦力が消え去ってゆく。
拮抗は崩れ、もはやフォーリナーの勢いを削ぐ事は出来なくなった。
――4月1日。
ウクライナ最大の工業都市『ドニプロ』は陥落――いや、跡形も無く更地になった。
EDF欧州第五工廠も、すっかり消えてなくなった。
超抜級戦略個体α、
しかし、このまま『ザポリージャ』に侵攻するものと思われたバグ・クイーンは寸前で反転、ドネツク方面へと飛び去って行った。
――4月2日。
『ザポリージャ』にて、先日のドニプロ陥落の残党が襲い掛かってきた。
EDFは欧州最大の『ザポリージャ原発』を防衛する為、残り少ない戦力を派遣し、数日間防衛戦闘が続けられた。
――4月5日。
『ザポリージャ』での戦闘がある程度小康状態に落ち着く。
EDF戦略情報部はバグ・クイーンの動向を追い、驚くべき事実を突き止めた。
バグ・クイーンは、旧都市ドネツクで穴を掘り、地中に潜ったのだ。
そして周囲の巨大生物は都市の残骸や廃材、出自不明の物質を集めて何らかの構造物を作っていた。
そう、それは――大戦初期に巨大生物が建造したインセクトハイヴそのものだった。
日本の佐渡島で2月25日に建造されたインセクトハイヴや、その他世界各地で新たに建造されるきっかけは不明であったが、ここでバグ・クイーンの移動による物だと判明した。
ウクライナの都市『ドネツク』は、世界的にみれば黒海・アゾフ海沿岸地域に位置していて、EDFが重要視する工業都市『ロシア連邦ヴォルゴグラード』に大変近い。
周辺一帯を制圧されれば、ロシア地域・東欧地域の海路が大幅に制限され、兵站物資の移動が限定されてしまう。
人体の血管が止まればいずれ壊死するように、それはロシア・東欧地域の死を意味する。
そして破滅的な流れは、簡単には止まらないものだ。
EDF総司令部、並びに戦略情報部は非常にそれを懸念し、ドネツクにて建造されるインセクトハイヴの阻止及び破壊と、地中に潜った超抜級戦略個体α・
――4月15日。
作戦の為、ロシア・ウクライナ、そして東欧地域全域から戦力がかき集められていた。
後に『ドンバス決戦』とも呼ばれる、ドンバス地域解放作戦決行の日は近い。
ドンバス決戦。
それが言いたかっただけ(おい
しっかしあれだな、続ければ続けるほど文章肥大化していくのなんなんだ……
最初のイギリス・欧州なんて一話で収まってるのに!
と思ったけど調べたらアレ1万3千字なんだ……
いやでも東欧戦線だけで多分3万字近く割いてるからやっぱバカ多いよ!!
うーむ、戦況的にあと中国戦線、オーストラリア戦線、北米戦線までは描写しようと思ったけど、どうすっかな、さすがにそろそろ本編も進めたいんだよな……
最悪中国とオーストラリアは抜いても支障ないけど、北米は結構がっつり本筋に関わって来るので描写は逃したくない。
という訳で最低でもあと一、二話程度は会話の一切ない戦況の話が続くと思います。
なんという地獄に足を踏み入れてしまったんだ俺は……いや書いてて楽しくはあるんだけど
中国とオーストラリアには申し訳ないけども、一旦抜いてアメリカに入ろうかなぁ~~
来年には本編の話に戻る……目標……