――2022年12月1日。
人類初となる、インセクトハイヴ攻略作戦『オペレーション・イモータルパトリオット』の激戦から二ヶ月。
巨大生物及びレイドシップの活動は沈静化していたが、人類側も戦力の立て直しを図り、攻防は一進一退が続いていた。
その間、レイドシップの撃墜を目的とする新型兵器が幾つか開発・実戦投入された。
天文学的な予算と希少資源の惜しみない使用、以前までは考えられない程の研究速度と、それを可能にした非人道的なまでの人員の酷使。
それらを以てしても効果的な兵器の製造には至らず、未だレイドシップは無敵艦として健在していた。
白銀装甲貫通弾の製造には装甲素材やレイドシップ自体の構造を解明する必要があり、それらの解明にはレイドシップの撃墜が必要である、というジレンマに研究者たちは頭を抱えた。
一方軍人たちも、総力を挙げて以前のようなインセクトハイヴ自体を損壊または完全な破壊を行う事は可能ではあるが、やはり領土の奪還にはレイドシップを排除せねばならない、という絶望感に支配されつつあった。
他国に目を向けると、領土の侵攻から一人でも多くの国民を護る事で精いっぱいだが、アメリカは戦局を優勢に維持し、以前のような攻勢作戦に転じる余裕を持ちながら、本格的な領土の奪還に至らない事が、猶更”人類の勝利”という概念を遠いものにしていた。
――12月11日。
マサチューセッツ州スプリングフィールドで、攻略作戦後初の大規模地中侵攻が観測された。
スプリングフィールドで巨大生物の漸減に勤めていたEDF部隊は壊滅し、米軍戦車部隊が矢面に立たされながら必死に侵攻を押さえる。
――12月12日。
スプリングフィールドでの大規模侵攻に呼応するように、レイドシップ船団がロードアイランド州プロビデンスを強襲。
戦線を支えていたEDFの努力を嘲笑うかのような物量の巨大生物を投下し、EDF部隊を、そして街を食い荒らす。
――12月13日。
EDF北米軍並びにアメリカ軍は、スプリングフィールドとプロビデンスの放棄を決定。
二都市は陥落し、防衛戦力は二都市の北東に位置するマサチューセッツ州の巨大都市ボストンへと移動し、防衛体制に移った。
ボストンは、アメリカ合衆国の都市の中でも歴史上もっとも古い都市のひとつであり、建国時代から常にアメリカを支えてきた、代表の都市の一つに数えられる。
今でも経済・交通・文化そして教育の中心として栄えているが、特に世界有数の大学都市として知られ、あの有名なハーバード大学もボストンのごく近郊ケンブリッジに位置している。
スプリングフィールドとプロビデンスが戦場になって早々に住民の避難や施設、教育機関などの移設が急ぎ執り行われ、主要な機関や人員の避難は進められていた。
しかし、ボストン都市圏凡そ500万人が僅か4か月間で全て避難する事は叶わず、未だ50万人近い市民が取り残されていた。
また一時的な避難を行ったものの、都市圏近郊で待機させられている者や、書面上動向が掴めなくなったもの、そもそも住民票に登録されていない者たちも多く存在し、正しく全てを把握する事は不可能だった。
――12月16日。
ボストン都市圏郊外のアトルボロ、フォックスボロ、トーントンなどの都市や、プロビデンス=ボストン都市圏間の平原で大規模な戦闘が起こる。
撃沈不可能な無敵艦レイドシップが存在する限り勝利は起こりえない為、50万人近く残ったボストン都市圏の民間人や資材を逃す為の時間稼ぎの戦いである。
――12月18日。
スプリングフィールド=ボストンの間に位置するウースターで大規模な戦闘が発生。
ウースターには戦線を支え続けたEDFの基地である北米第119駐屯基地が存在し、防衛の拠点として活躍した。
ベース119は機甲部隊を中心に運用する基地であり、前線で消費された今でも、ギガンテス35輌、コンバットフレーム21機が残っており、これらが基地防衛の為に一斉に出撃し、激しい戦闘が辺りを覆った。
――12月21日。
プロビデンス方面の防衛線が破られ、ボストン都市圏は南部から激しい攻撃を受け、ついに都市圏内が戦場と化した。
多くの市民が残る中、アメリカ特殊作戦コマンド傘下の第一特殊部隊デルタ作戦分遣隊――通称デルタフォースが要人を含む市民の救助と、巨大生物への妨害工作――建物の爆破や障害物の設置、簡易地雷や自動砲台の設置などを行った。
――12月24日。
ウースター陥落。
ベース119も細部まで巨大生物の侵入を許しついに壊滅した。
巨大生物群は都市を荒らし、レイドシップはボストンに向けて巨大生物を投下しながら飛行した。
――12月25日。
ボストン西部からレイドシップ船団が侵入し、巨大生物を都市内中心部に至るまで埋め尽くすように投下。
住民の虐殺と、激しい市街戦が始まる。
――12月26日。
都市圏戦域に戦火が広がり、都市部は衛星写真で観測可能なほど広範囲が炎上した。
そんな炎の地獄の中、ボストンの市民を救出する為、そして少しでもフォーリナーに打撃を与える為、EDF海兵隊が
また、同時にEDF特殊空挺軍と、アメリカ陸軍特殊作戦航空コマンド傘下の第160特殊作戦航空連隊――通称ナイトストーカーズが空挺作戦・航空救助作戦を行い、巨大生物の隙を作り、輸送ヘリにより多数の市民を救助した。
――12月31日。
ボストン総戦闘部隊の損耗が75%を上回る。
直接戦闘部隊のみならず、輸送・指揮・衛生部隊にも甚大な損害を被り、戦闘継続が困難になった。
これを受け、EDF北米軍並びにアメリカ軍はボストンからの撤退を決定した。
一方で特殊部隊の活躍により残存市民の四割の救出に成功した。
少なく思えるかもしれないが、全域が戦場であったことを考えれば十分な数字と言える。
しかし、その代償は大きく、戦闘に参加した部隊はほぼ例外なく壊滅判定を受けるほどの被害を被った。
通常の人類間戦争であれば人員の損耗が三割を超えた時点で作戦継続困難と判断し撤退するのが常識である。
軍隊とは、直接戦闘部隊以外に輸送・指揮・衛生などあらゆる部隊が相互に活躍し、十全な機能を発揮できるのだ。
三割を失った時点でそのどれかの能力が絶対的に欠けるため、部隊として十分に機能できないまま戦闘を強行すれば、無駄な犠牲を増やすばかりか目的達成も難しい事は、士官学校で習う基礎中の基礎である。
しかし、有史以来積み重ねられた戦争の常識は、対フォーリナー戦争に於いては少なからず通用しない。
国家規模を超える世界規模で展開し続ける戦線は人類全体の物資・人員的余裕を無くし、侵攻の速さは展開能力が追い付かない程だ。
人口は減少を続け、人類一人一人の犠牲を可能な限り減らす事に全力を注がねばならない事態が既に起こっていた。
こうした状況の上で、フォーリナーと戦う力を持った軍隊は、例え損耗が増えようが壊滅して散り散りになろうが、後方で軍隊を支える市民たちの盾となり、一人の兵士の命でその10人、20人の市民を守って散っていくしかなかった。
しかし逆に、一人の命で救える市民が少なくなった場合は……無慈悲にも切り捨てる事がもはや常識となっていた。
対フォーリナー戦争に於いては、より大局的・戦略的観点にて、いつ都市を、地域を放棄するかが非常に重要な要素となった。
以上の事を踏まえ、一つの都市でどこまで抗戦し、何割の市民を救い、どこまで部隊の損耗を許容し、援軍を投入するか、撤退させるか……その戦略的判断が地球防衛の鍵を握っていた。
しかし、それらは人類の大量絶滅を遅らせるだけの要素であり、勝利への鍵は、未だ不透明なままだ。
――年が明け、2023年1月1日。
新国連が世界総人口の激減を警告した。
フォーリナ襲撃から半年に満たない間に、世界人口が少なくとも三割減少した可能性があると新国連は発表。
少なからず曖昧な表現になるのは、激減地域は未だ戦乱状態であり、正しく統計を取れていないからだ。
が、多少の誤差は在れど、少なくとも三割……約20億人がフォーリナーの餌食になったと考えて間違いない。
地球史的に考えれば、もはや大絶滅の始まりと言っても過言ではないだろう。
そして、このままの加速度で人口減少が続けば、来年の今頃には人類は滅亡する計算になる。
フォーリナーの襲撃は、紛れもなく人類滅亡の危機と言えるだろう。
EDF総司令部や各国首脳部、ニューヨークで消滅した国連に代わる新国連(と言えば聞こえはいいが、実態は急遽寄せ集めで作った間に合わせのような組織)は、一致して人口激減に歯止めを行うよう声明を出した。
今や一人ひとりを救う事が、人類滅亡を少しでも先延ばしにする現実的な手段なのだ。
フォーリナーと戦うには当然EDFの兵士たちも重要だが、それらを含めた人類全体の生活を支えるのもまた同じ人類であり、人口の激減によって維持する力が無くなれば、幾ら戦う力が残っていたとしても人類は滅亡する。
今の人類に出来るのは、一人でも多く生き延び、そして反撃の希望を手に入れる事だった。
以上の使命を全うし、ボストンで戦い散った兵士たちは、その命と引き換えに何倍も多くの同胞たちを見事救ったのだった。
これが、壊滅判定を越え、組織として崩壊しながらも彼らが戦った理由である。
――1月2日。
大気圏外から100隻規模のレイドシップ船団が北米インセクトハイヴに向けて降下、集結した。
対レイドシップ用の装甲貫通弾の研究は万策尽きかけ、現在日本で試験配備が進められる”フーリガンブラスター”に期待が寄せられる。
一方で痺れを切らしたEDF陸軍は独自でレイドシップ撃墜の研究を進め、降下ハッチを下部から攻撃する専用の兵器を開発、投入を続けていた。
しかしそのどれもが少なくない犠牲と共に失敗に終わっており、雲行きは怪しい。
――1月4日。
ボストンの陥落により、マサチューセッツ州全域が制圧された。
巨大生物群とレイドシップ船団は北上し、ニューハンプシャー州マンチェスター、バーモント州グリーンマウンテン国有林に侵攻を開始した。
また、降下したレイドシップ船団の一部が、フィラデルフィアに殺到。
フィラデルフィアや、そのあおりを受けたデラウェア半島での戦いが激化する。
――1月6日。
フィラデルフィアでレイドシップ撃墜作戦が決行される。
アメリカ陸軍第八機甲師団を中心に、EDF特殊作戦軍とEDF北米軍が垂直発射型自動砲台でレイドシップ降下ハッチを狙い撃つ作戦だったが、レイドシップの誘導と砲台の配置がかみ合わず、作戦は失敗した。
その後の米軍突撃部隊による対戦車ミサイル攻撃も失敗に終わり、戦果を出せないままフィラデルフィアでの戦いは泥沼化していった。
――1月10日。
デラウェア州ミドルタウンが陥落する。
これにより、フィラデルフィアは背後を押さえられた形となり、背後の補給線が危機に曝される。
――1月15日。
フィラデルフィアの七割が敵の支配下に落ちる。
EDF北米軍は更なる戦力投入を行った。
本来であれば戦力の逐次投入を避け戦線を後退させるべきだったが、しかし強国アメリカの心臓部であるワシントンDCを含む、アメリカ東海岸を易々と明け渡すことは、人類全体にとって大きなマイナスになり得る。
今後、新型砲弾の実用化により攻勢に転じる事が出来たとしても、今に東海岸を押さえられるのは避けねばならなかった。
近々、EDF極東軍で試験運用される新型砲弾の結果に期待が寄せられる。
――1月18日。
EDF極東方面第11軍司令部は、航空機搭載型装甲貫通弾”フーリガンブラスター”の運用失敗を発表した。
そして同時に、EDF先進歩兵四兵科による突撃作戦にて世界で初めてレイドシップ撃墜に成功したとも発表した。
その戦術は
特に、EDF北米軍やアメリカ軍の掲げる”アウトレンジ・ドクトリン”――酸の射程外から一方的に攻撃し、犠牲を減らす戦術と真っ向からぶつかるものであり、部隊単位とは言え戦術の転換に大きな労力を要すことになった。
――1月25日。
EDF北米軍は、フィラデルフィアでのレイドシップ撃墜作戦を準備していた。
複数個の先進歩兵部隊を小隊規模で数個用意し、更にその支援部隊としてEDF空軍と海軍、支援砲兵隊を一纏めにした撃墜作戦任務部隊”タスクフォースG”を編成。
短期間で作戦の立案と訓練を行った。
――2月3日。
フィラデルフィアでレイドシップ撃墜作戦『オペレーション・ユナイテッドストーム』を決行。
タスクフォースG、16チームが作戦に従事し、ついにアメリカ初のレイドシップ撃墜を成し遂げる。
無謀とも言える突撃戦術によって16チーム中7チームが壊滅したが、初日で2隻、2月4日には8隻を撃墜する事に成功した。
それに伴い、その他の戦力も勢いを取り戻し、八割を占領されていたフィラデルフィアの市街を六割にまで減少させた。
――2月5日。
2月2日にイギリス・オックスフォードで観測されていたフォーリナー新戦力・β型巨大生物に続き、アメリカでも新戦力が確認された。
奪還に向けて加速するフィラデルフィアに現れたのは、三本の円柱を縦二列に連結した浮遊船。
浮遊船は円柱の下部を開き、もはや廃墟となったフィラデルフィア市街中心部に物体を新戦力を投下した。
新戦力は、後に多脚歩行戦車ダロガの名で呼ばれる、初の敵機甲戦力であった。
多脚歩行戦車ダロガに対し、EDF北米軍第16機甲師団の戦車連隊が応戦に移ったが、次々と増すダロガの増援に対し、抗しきれず壊滅に至った。
ただし、数機の撃破に成功しており、決して人類の戦力で勝てない相手ではないという事も分かった。
また、その内の二機は先進歩兵の対戦車火器によるもので、犠牲に目を瞑れば歩兵による攻撃も不可能ではなかった。
しかし、ダロガの未知の粒子砲弾による広範囲砲撃は圧倒的殲滅力を有し、フィラデルフィアの戦力は瞬く間に駆逐され、翌日にはEDF北米軍司令部が完全放棄を認めるに至った。
――2月7日。
極東戦線にてガンシップが確認された翌日。
アメリカ東海岸にもレイドシップ船団より、浮遊艦載機ガンシップの発艦が確認された。
洋上で発艦したガンシップはアメリカ海軍大西洋艦隊第二艦隊を始め、多くの艦艇に空襲を仕掛ける。
アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦、タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦のイージスシステムや、アイオワ級のキャンベル=アルバート式艦隊防御システムの対空砲火や迎撃ミサイルが、接近するガンシップを、まさに”飛ぶ鳥を落とす勢い”で次々と撃墜していく。
ガンシップの唯一の攻撃方法は機体中央部から繰り出されるレーザー照射であるが、これは航空兵器としては理解不能なほど射程距離が短く、第二艦隊は”無双”という言葉が当てはまる程多くを撃墜していた。
しかし、レイドシップから発艦するガンシップは対応力を上回る数で飛来し、迎撃能力の隙間を縫って艦体にダメージを与え始めた。
更に迎撃ミサイルや対空機銃弾が無くなり始め、強力なレーザー照射により撃沈・或いは轟沈する艦も増えて来た。
水上艦艇による突撃戦術でのレイドシップ撃墜も試みられたが、真下に付けば巨大生物の投下も行われ、即時対応は困難であった。
ジェラルド・R・フォード級空母、ニミッツ級空母から発艦したアメリカ海軍航空戦闘団の海軍戦闘機、F/A-18E/FスーパーホーネットやF-35CライトニングⅡが迎撃に出撃したが、ガンシップの奇怪な機動により、その多くが撃墜されてしまった。
――2月11日。
ガンシップは、成長を続ける旧ニューヨーク・インセクトハイヴを中心に東海岸全域に広く拡散し、無秩序に沿岸部を空襲しつつ、内陸部へ侵攻を始めた。
ガンシップに続き、ダロガ揚陸艦と名付けられた浮遊船が数多と現れ、一隻に付き六機のダロガを投下していった。
陸軍機甲部隊、砲兵部隊に続き、今まで活躍の場が少なかったEDF・アメリカ両空軍や、陸軍防空部隊がアメリカ全土から結集した。
その一部はついにワシントンDCと隣接するメリーランド州沿岸に接近し、アメリカ東海岸で最も大規模な戦闘が巻き起こった。
対空弾幕、爆炎黒煙、敵機や味方機の機影により、快晴の空が殆ど覆われ、日が遮られるほどの激しい戦闘がワシントンDCに黒い影を落とす。
その影を切り裂くように、ガンシップの短射程レーザーやダロガ上面の対空レーザー照射が輝き、その度にEDF空軍のEJ-24Aレイヴンや、アメリカ空軍のF-15Eストライクイーグルなどの戦闘機が撃ち落とされていった。
コロンビア特別区・ワシントンDC及び、ポトマック川東岸メリーランド州・西岸バージニア州の一部を含む人口600万人超のアメリカ首都圏は、フィラデルフィアでの時間稼ぎによって大半の市民の避難及び都市機能の移転は完了しており、世界の中心地はEDF北米軍とアメリカ軍によって決戦都市へと改造されていた。
無数のEDF
――2月14日。
決戦都市と化したアメリカ首都圏に、レイドシップ120隻以上、ガンシップ1000機以上、ダロガ揚陸艇80隻以上から成る軍団規模に匹敵する大部隊がついに上陸する。
この日、後に”ワシントン決戦”と言われる大規模迎撃戦闘が幕を開けた。
と、いう訳で、4月15日がゴールなんですが、2月14日までしか進みませんでしたとさ←他人事
いやぁこの書きながら歴史を作っていく感がたまらんのよ
なお、このままいくとあと二話分か三話分ぐらいはかかりそう……。
一番書きたいとこまだかけてないんだよね。
いやーーやっぱアメリカ書くのは楽しいわ!
ちなみに、予定では本編に向かう前に、大変申し訳ないんですが一旦過去話の矛盾点の変更や加筆、そして気に入らないところの改変などを考えておりました。
それを考えると……本編の本格更新は……六月ぐらいになりそうかも?(テキトー)
(さ……さすがに六月って言っとけば間に合うかな? ……間に合うかな……?)
そう言えば、完全余計なんですが今回の世界の戦況で出た用語とかも後で纏めたり設定練ったりしたいかなぁ?