殺戮の凶王が竃を前に安らぐのは間違っているだろうか   作:くるりくる

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彼を取り巻く色々な状況

 オラリオ、数多くの種族が集う場所。中心には天に向かってそびえ立つバベルの塔。円状に石の塀で囲まれ、塔の存在する街の中心に向かってメインストリートは8本伸びている。ダンジョンに赴くには入り口の都合上、どうしてもバベルの塔に向かわなければならない。

 

 クーフーリンは道ゆく人々からの視線とひそひそ話にうんざりしながらも慣れた道行を歩いていた。その手に赤黒く鋭く禍々しい棘が生えている槍を右に、左にはパンパンに魔石が詰まった皮袋を手に持って帰還の道行に身を費やしていたクーフーリンは向かいから多数の種族を伴った集団が歩いて来るのが視界に映る。

 

 その集団の顔ぶれの中には知っている顔が何人かいたが、別に知り合いという訳でもなかった。

 

 数々の種族、数々の武装を携えた集団はこのオラリオにおいて著名な人物たちばかり。ダンジョンに赴いてモンスターを倒し、魔石を収集して日々の糧を稼ぐ冒険者や商売人が集団を指差し、ロキ・ファミリアと噂する。

 

 ロキ・ファミリアはオラリオにおいて二大派閥と呼ばれる内の片割れ。強力な力を備えた冒険者を何人も抱え、最前線を戦う者には及ばないまでもそんな彼らを支える多くの者たち、そして何十人の下級冒険者を抱える大派閥のファミリア。

 

 クーフーリンが所属するヘスティア・ファミリアは彼しか存在しない零細ファミリアであり、ロキ・ファミリアのような大手と比べる事がおこがましい。

 

 クーフーリンは近づく集団のことなど考慮せず、そして瑣末な問題と判断して前へと進む。メインストリートに緊張が走った中、ついにロキ・ファミリアの集団とクーフーリンがかち合った。

 

 先じて声をかけたのはロキファミリアの集団の中で背が低く子供と言っても差し支えないような金髪の男だった。上等な戦闘衣を身に纏い、腕には小手をはめ両手に槍を持ったその金髪の少年はにこやかな笑顔を浮かべている。

 

「やぁ、クーフーリン。もう帰るのかい?」

「それがどうした。てめぇに関係があるのか」

「そう言われたら参ってしまうね。君は別のファミリアだし、僕たちにダンジョンでの成果を報告する必要はないさ」

「それが分かってるなら一々話しかけて来るんじゃねえ。邪魔だ小僧」

 

 クーフーリンの素っ気なさはいまに始まったものではない。そのため彼に話しかけた金髪の小人族、フィン・ディムナは変わらない微笑みを浮かべたままで特に反応を示さなかったが、彼はロキ・ファミリアの団長である。そんな団長が適当にあしらわれれば怒りや不快感を抱く団員が出るのは道理であった。

 

「テメェ……クーフーリン! 団長になんて口聞いてんだ、アァ!?」

「女、雑魚がいくら吠えたところで何も変わらんぞ」

「あんだとっ……!!」

 

 露出過多といっても良い褐色の少女が目を見開き、激しい剣幕でクーフーリンに恫喝するも彼の恐怖を引き出す事は一切ない。レベル5の第一級冒険者であるアマゾネスの少女、ティオネ・ヒリュテの本気の恫喝は周りの住人や冒険者を凄ませる覇気に満ちていると言うのに。

 

「それとも何だ。俺の邪魔しようってのか?」

 

 そう言ったクーフーリンは視線をティオネに向けて固定する。彼女に戦闘の意志があると判断すればクーフーリンは右手に持つ槍でその柔らかな肉体を貫くだろう。その瞳はティオネという存在を確かに認識しておらず、明確な敵対者としてさえも認識していない。ただ口煩い女程度にしか思っていなかった。

 

 それが分かるからこそ、ティオネの頭に血が上ってしまう。彼女は数多の修羅場をかいくぐって、誰とも知れない屍を乗り越えて、そして姉とも思えた存在を殺してまでいまある場所にたどり着いている。そうだと言うのに無価値なものを見る目で見られるなど、彼女には耐え難かった。

 

 ブチ殺す、ティオネは腰元のククリナイフの柄に手をかけて——それを叱責する声に我を取り戻す。

 

「やめるんだティオネ! 悔しいが君ではクーフーリンに勝てないよ」

「っ!……はい……」

 

 無意識に一歩前に出ていたティオネの行動をたしなめるように、手に持つ槍で彼女の行動を制したフィンであったが不満を持つものは多くいた。特にティオネと肩を並べて戦って来た幹部陣にとっては戦友に唾を吐かれたに等しいのである。フィンはなぜ平気なのかと、不満を持って彼に厳しい視線を向ける者もいたが、彼も厳しい表情を浮かべている事を察して、彼も自分たちと同じであると感じた仲間達はその敵意をクーフーリンのみに注いだ。

 

「俺を殺したいならそうすればいい。もっとも……その時は俺もお前たちを殺すがな」

「そうだろうね『凶王(ジェノサイダー)』クーフーリン。君は敵対者に容赦しない。その事を、このオラリオに住む冒険者は良く知ってるよ」

「なら俺の前から失せろ。てめぇらを全員殺したところで俺には何の足しにもならん」

 

 クーフーリンは左手に持った皮袋を肩に担ぎ直し、ロキ・ファミリアの横を通り過ぎる。立ち止まっているロキ・ファミリア20名以上から敵視されるクーフーリンであったが突如立ち止まり、舌打ちをした。

 

「あ! クーフーリ〜ン!」

 

 声を張り上げ駆け寄ってくる少女。メインストリートの人の群れをかき分けて走り寄ってくるその少女の姿を見てクーフーリンは思わず舌打ちをしてしまったのだ。

 

 そんな事も知らずに少女は笑みを浮かべて彼の元まで走り寄ってくる。肩がむき出しですその短い白いワンピースを着た黒髪青目の幼い少女はクーフーリンの前で立ち止まるとその体にギュッと抱きついた。

 

 だがそれは、他の者からしたら自殺行為にしか見えなかった。

 

「もう! 君はほっといたらいっつもどっか勝手に行っちゃうんだから! 少しくらい僕のことを考えてくれたってバチは当たらないぜ!」

「うるせぇ。俺がどこに行こうが勝手だろうが。魔石は取ってきた。これで金は十分だ」

「そう言う事じゃないって何度も言ってるだろ〜! 僕は神様なんだよ? 確かに神の力は封じられているとはいえもうちょっと敬ってくれてもいいはずだよ!」

「……行くぞヘスティア」

 

 クーフーリンは己の主神であるヘスティアにそう言って今度こそロキ・ファミリアの横を通り過ぎた。ヘスティアも彼の後について行くも疑問を浮かべながら後ろを振り返る。その先にはロキ・ファミリアのメンバーがおり、鳩が豆鉄砲を食ったように目をまん丸にしてクーフーリンとヘスティアを見ていた。

 

「君の知り合いかい?」

「俺に知り合いがいると思うか? ただの有象無象だ」

「む! いくら何でもそう言う言い方はダメだよクーフーリン。君ただでさえ無愛想なんだから少しは愛想良くしないと!」

「それが何か役に立つのか? 役にも立たんならその辺の物乞いにでも食わせておけ」

「だからそう言った言い方はダメだって!」

 

 メインストリートを行く二人であったが突然クーフーリンが立ち止まり、石レンガの建物と建物の間にうっとおしそうに視線を向け、右手に持った槍の穂先を轟音と共に突き出した。

 

 しかしその槍の刺突は何か硬い物に防がれる。硬質なもの同士がぶつかった甲高い音がストリートに響く中、クーフーリンは油断なく建築物の間に向けている。敵意ではなく、うっとおしいものを見る彼であったが、衝撃が発生した瞬間ヘスティアが吹き飛ばないようにその体を左腕で抱き込んでいた。

 

 ヘスティアはクーフーリンの腕に抱き込まれ、何が起きたのか動転していたが彼が自分を守るためにこうしたのだろうと思い、その胸の奥にほっこりとした気持ちを抱いた。

 

「わわっ!? 一体どうしたのさ!」

「あらヘスティア。こんな所で会うなんて奇遇ね」

「げっ!? この声は……」

 

 甘ったるく、蠱惑的な声。声を聞いただけでその女神の魅了が漂ってくる。子供も神も骨抜きにして魅了する存在をヘスティアは知っていた。美の女神と呼ばれる生まれながら完璧な美しさを備えた存在である。

 

 そしてこの声の持ち主はヘスティアが一等に苦手で、敵視している女神のものであった。

 

「フレイヤ!」

「御機嫌ようヘスティア。それに……クーフーリン。今日もいい天気ね」

「君、こんな所で何してるのさ」

「ヘスティア、言わなくても分かるでしょう? 彼を迎えに来たのよ」

 

 

 

 美の女神フレイヤはそう言ってクーフーリンに目を向ける。彼女のそばには鋼のような肉体の大男が控えているが、彼女は既に従者を映しておらず、その目には尽きても消えぬような炎の情欲を宿し、恍惚の表情を浮かべてゆっくりとした動きで歩み寄ってくるがクーフーリンにはうっとしい程度のものにしか見えなかった。

 

 美の女神であるフレイヤがただ動くだけで道行く人々は魅了され彼女に惹きつけられる。彼女が甘く囁けば、それだけで老若男女問わず彼女の奴隷となる。そんな彼女が恍惚の表情でクーフーリンを求めているにも関わらず、クーフーリンには何の影響も与えていない。

 

「失せろ、女」

「つれないわね。私は貴方をこんなにも求めているのに……私に求められるなんて他の男が知ったら羨ましがるのよ?」

「知らん。男が欲しければそこらの男でも買って腰でも振ってろ。俺の邪魔さえしなければてめぇの事などどうでもいい」

「そんなこと言わないで。私は貴方が欲しいの。貴方の身も心も……そして魂さえも」

 

 フレイヤの吐息は甘ったるくその身を犯すようで、神であるヘスティアもその身を思わず震えさせてしまった。神ではない純粋なヒューマンであることを知っているヘスティアは恐る恐るクーフーリンの顔を見上げた。

 

 もしかしたら、彼が自分の元から去ってしまうかもしれないと言う恐怖を感じてしまったが故に。

 

「何度も言わせるな女。失せろ」

 

 だがクーフーリンはヘスティアの不安をかき消すかのように彼女の体を一瞬だけ強く抱き寄せて、彼女を伴ってフレイヤと鋼の従者に背を向けて去って行った。

 

 

 

 

 

 

 フレイヤと鋼の従者『猛者(おうじゃ)』オッタルは去りゆくクーフーリンとヘスティアの後ろ姿を見送った。だがフレイヤはこらえきれないと言うかのようにその体を己の体で抱きしめて、熱のこもった息を何度も何度も吐き出した。

 

「あぁ! クーフーリン! なんて純粋な色の魂なのかしら! たった一人で二大派閥に匹敵すると言われるその力……貪欲なまでに求める智。ただ一つの己の目的の為に狂ってしまったその純粋さ! あぁ……彼が欲しい! 他の何よりも!」

 

 その情熱的な求愛が、去り行くクーフーリンに届くことはない。

 




クーフーリン レベル1

力:EX 測定不能 耐久:EX 測定不能 器用:EX 測定不能 俊敏:EX 測定不能 魔力:EX 測定不能

《魔法》

 ルーン魔術
 
《スキル》

 【狂化】
 ????
 
 【矢避けの加護】
 低位階の魔法、遠距離攻撃を自身から逸らす

 【戦闘続行】
 致命傷を負ってもなお、戦闘行為が可能になる
 戦闘状況下に限り、戦闘行動に不要な物が不必要になる

《宝具》

 【抉り穿つ鏖殺の槍(ゲイ・ボルグ)】
 対軍宝具
 
 【噛み砕く死牙の獣(クリード・コインヘン)】
 対人宝具(自身)

 【貪り食らう復讐譚(グラトニー・ヴェンデッタ)】
 対神宝具
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