沖田さんと一輝が互いに得物を持ち、向かい合う。
模擬戦。
気が向いたら、と承諾したのだが、こんなに早くなるとは思わなかった。
その理由を簡単に説明するなら……。
● ● ●
破軍学園に入学して、一週間が経った。
初日に、団子をご馳走して、少しだけ黒鉄さんの力になれたと思ったが、根本的な解決にはなっていなかった。
黒鉄さんを取り巻く環境は、相変わらず過酷で、俺に出来る事と言えば、団子を食べる約束を取り付ける事くらいだった。
正直、悔しかった。
黒鉄さんはとても良い人だ。人格者で一緒にいて楽しい。その実力だって生半可な実力の持ち主なら瞬殺に出来るのに、黒鉄さんより実力の低い人達が侮蔑の視線を彼に投げ掛ける。
オマケに、実技の授業も受ける事は出来ず、その高い実力を知らしめる事も叶わない、終いには、桐原さんを筆頭にイジメを受けている。
……俺には何も出来なかった。
黒鉄ならイジメても良い。そんな風潮を俺一人では止める事は不可能だった……。
魔導騎士制度の一つに、ランクと言われる物がある。
攻撃力、防御力、魔力量、魔力制御、身体能力、運――魔導騎士になる者はこの三つのステータスをF~Aの六つのランクで判断される。
その中でも、特に魔力量が高く評価されていて、多くの場合、魔力量は攻撃力と防御力に直結している。
魔力が高ければ高いほど、攻撃力と防御力は上がり、魔力量Aともなれば、地面を打ち砕き、銃弾なんて防御もせず生身で簡単に防ぐ事が出来る。
反面、魔力量が低い者は、攻撃力も防御力も低く、本気で攻撃しても、相手の伐刀者に傷一つ付ける事さえも儘ならない。
つまり、魔力量が高い人ほど優秀で、魔力量が低い人ほど落ちこぼれ。
そう世間では思われている。
そして、黒鉄さんの魔力量は文句無しにFランク。平均の伐刀者の十分の一の魔力量しか無い。
魔導騎士の素質はまるで無い。
故に――落第騎士。
黒鉄さんは、そのせいで他の魔導騎士の誰よりも過酷な道を歩んでいる。
俺は、黒鉄さんの力になりたかった。
だけど――ッ‼
俺は何も出来ないッ‼
友を助ける事が、こんなにも難しいとは思わなかった……!
敵が暴力を振ってくるなら、此方も暴力で返せば良い。
人を斬るのは得意だ。
だけど、それ以外に何も出来ない。人を斬るだけの俺では何も出来ない。
その無力感が嫌いだった。何か黒鉄さんの為にしたかった……!
だから、俺は――
いつも通りのある日、僕は沖田さんにある提案をされた。
それは、僕と沖田さんの模擬戦。
しかし、出来るだけ人を集めた状態でするとの事。
僕は即座に沖田さんの考えを理解した。
つまり、僕と沖田さんの模擬戦で、僕の実力を知らしめようとしたのだ。そうする事で、僕への侮りを解消しようと思ったのだろう。
僕は沖田さんの提案を承諾した。元々、沖田さんと模擬戦はしたかった。僕に人に誇れるような力があるのか少し不安だが、あちらの方から誘ってくれるのは、こちらとしても望む所だ。
更衣室を出る。
第七訓練場所に歩み出た。
印象は、現代的なコロシアム。円形のフィールドで、階段兼観客席にはチラホラと人が見える。
大方、沖田さんを見に来たのだろう。沖田さんは凄い美人さんだから、気になる人は気になるだろうし。
そして、コロシアムの中心に彼女は立っていた。
その顔は普段の沖田さんからは想像出来ないほどに……冷たかった。
――ゾッと背筋が冷える。
まるで身動きのしない沖田さんは、美しい彫像のように見えた。
その存在感に蹴落とされながらも、足を進める。
ふと、沖田さんの口が開く。
「……申し訳ないと思います。ここで周りにバレないように黒鉄さんに負けるなんて器用な真似は出来ません。私が出来る事は――ただ斬る事のみ」
最後の言葉には、蹴落とされそうな力強さと僕では想像も出来ないほどの重みが含まれていた。
「むしろ望む所さ、沖田さん――」
僕は自分の固有霊装、陰鉄を水平に構え。
ある言葉を口に出す。
「僕の最弱を以て、君の剣を打ち破ろう――
《一刀修羅》! 」
その言葉と共に、戦いが始まった。
先手は沖田。
一瞬で、一輝の懐に潜り込む。
――Fateの沖田総司の代名詞に『縮地』という技術がある。
瞬時に相手との間合いを詰める技術。それは、多くの武芸者、武道が求まる歩法の極み。
単純な素早さだけでは無く、歩法、体捌き、呼吸、死角など幾多の現象が絡まり合い完成する武道の結晶。
故に沖田さんは、人が求める事が出来る最高のレベルまで――加速する。
反応することすら出来ない一輝。当たり前だろう、一輝の剣の才も努力も並大抵の物ではないだろう。しかし、沖田さんとは才能のベクトルが違う。
沖田さんは純粋に剣を扱って戦う才能、一輝はどんな剣術も自分の剣に取り込む器用さと、それを見抜く洞察力の才能。
共に剣の高みを目指しながらも、二人は剣への取り組み方が違う。
更に沖田総司は剣の技術だけで時空間を歪め、大英雄である織田信長に勝利したのだから――紛い物だとは言え、まだ発展途上の一輝に負ける筈が無い!
神速の抜刀術が一輝に首に迫る!
「ッ! 」
しかし、この一輝も並大抵の物では無いのだ。たとえ動作は見えなくとも、その筋肉の配置から沖田の剣がスピードタイプであることを見抜き、予めその速度を予想する。
――だが、それでも、沖田の縮地は一輝の想像を超えている。
しかしそれも、一輝は見抜いていた。……いや、正確には見抜けないことを見抜いていた――沖田の剣の技術が一輝の遥か上にあることを見抜いていた。
だから、一輝は自身の全力である《一刀修羅》を使用したのだ。
これは、一分間に自分の全力を使い尽くす異能。
肉体に多大な負荷が掛かるので、治療しても一日は寝込んでしまうが、その力は絶大――故に、一分間だけなら一輝は恐ろしい鬼になれる。
一輝は辛うじて――本当に辛うじて沖田の抜刀術に反応し、回避する。
回避方法も後ろに倒れると言う不恰好な姿だが、それでも一輝は反応した。
後ろに転げ回りながり、一輝は剣が振るわれた位置を視界に入れる。
しかし、それはもう遅い。
――ゾクッ!
背後から強烈な殺気を感じた。一輝は即座に前に転がり逃げる。
その瞬間、一輝の首があった箇所に刀が通り過ぎた。
「チッ」
沖田は舌を打つ。……完全に目的を忘れていた。
一輝は隙を作らないように体を起こし、沖田を見やる。
「…………」
ユラリ――沖田の体が揺れる。
すると、いつの間にか一輝の後ろにいた。
「――ッ! 」
二回の失敗を活かしたのか、胴体を狙った一撃を、一輝は体を無理矢理捻り損傷を可能な限り防ぎ、その勢いで刀を振るう。
だが、沖田はその一寸後ろにいた。
何もない空間を虚しく通る刀。そして、余裕を持った沖田の一閃が黒鉄の体を引き裂いた――と誰もが思った。
「…………」
カタカタ――震えながらも、刀の柄で沖田の刀を抑える一輝。
「……少しだけ慣れた」
一輝はそう言った。
そして、それは何ら嘘でも無かった。
背後からの首狩り、右からの袈裟斬り、左からの逆袈裟斬り、地面にくっつく程下からの突き――縦横無尽に迫る沖田の刀。
全てが命を刈り取るであろう一閃を。
一輝は数々の傷を負い、荒く息を吐きながらも、その致命的な傷を避けている。それは、端から見れば――とても不恰好だったが、しかし、一輝はそんなことを気にする余裕も、必要性も感じない。
何故なら、自分が成長出来ている実感を得られるから。
沖田の移動術が、特別な異能でも何でも無い――ただの剣の技術であることを一輝の眼はとっくに見抜いていた。
特別な力じゃない。ただの技術だけで人はここまで速く動けるのだと!
異能なんて無くても、人はどこまでも強くなれるのだと!
それが解ったのだ!
だから、一輝はとても嬉しかった。まるで、今までの自分を肯定してくれている、そう思えたから――この闘争が永遠に続けば良いと思った。
しかし、タイムリミットの時間が刻一刻と近づいていく。
カクリと不意に体が傾き、地面に膝がついた。
「……え? 」
一輝の口から困惑とした声が出た。
無理も無い。一刀修羅の負荷に、幻想形態である『乞食清光』の斬撃で一輝の体はもう限界だった。
それが今、結果となって現れたのだ。
(クソッ! 何で⁉ 僕はもっと動ける! もっと戦える! 動けよ!動け動け動け! 動かないと――戦えないだろう‼ )
一瞬の隙。
しかし、達人同士ではそれが命取りとなる。
沖田はその隙を見逃さず、一輝の喉を突きで狙う。一輝は打開策を脳裏で必死に考えるが――何も無かった。
高速で迫る刀の切っ先を恨むように睨む
そして遂に――
「こふっ⁉ 」
――その前に、沖田はギャグ風に血を吐き倒れてしまった。
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それを見て一輝は。
「…………はい? 」
困惑することしか出来なかった。