「……ん、っ」
白い微かな光が、僕の視界にはしり、その覚醒を促した。
目に映るのは、ずいぶんと低い見慣れたような屋根。
「目を覚ましましたか、黒鉄さん」
ひょっこりと沖田さんが僕の顔を覗き込む。
「うわぁ! 」
その事実に驚いて、バッと後ろに逃げようとしてから、僕は今ベッドに寝ていることに気づいた。
……に、逃げれない。
そんな僕の奇行を見て、彼女は不思議そうな表情になる。
勘弁して欲しい。彼女は只でさえ魅力的な美少女なのだ。そんな存在が、目の前に近付かれるのは、酷く心臓に悪い。
「いや、ごめんね。ちょっと驚いて」
「……そうだったんですか」
沖田さんは、納得したようなしていないような微妙な表情だ。
あれ? そう言えば、何で沖田さんが居るんだ? そもそもここは……?
周りを見渡すと、僕の部屋であることが分かった。
……あ、そう言えば、僕は試合が終わった後、沖田さんを治療室に連れて行ってから、最後の気力を振り絞って自分の部屋に戻ったんだっけ?
って、そうだ! 沖田さんのことだ‼
「お、沖田さん! 体調は大丈夫なの⁉ 」
物凄い量の血を吐いていたけど……?
「あー、心配はいりません。持病の発作です、今の沖田さんはピンピンですよ! 」
「……そう、だったんだ。それは安心した」
本当に安心した。
吐血しているのが妙にコミカルだったけど、血を口から吐き出すのを見るのは、さっきの出来事より断然、心臓に悪かった。もう、出来れば見たくない。
「私は昔から病弱で、あまり激しい運動は出来ないと言われているんです。あー、さっきのはその発作ですね。ショックな事があると吐血しちゃうんですよ~」
「大丈夫なのかい⁉ それ! 」
沖田さんは何でも無い風に言っているけど、それって結構ヤバいんじゃ……?
え、本当に大丈夫なのかな?
「大丈夫ですよ。慣れていますから」
そう言う沖田さんは、本当に慣れているようだった。そんなトラブルは日常茶飯事なのかもしれない。
そんな風に気丈に笑う沖田さんに、一つ――疑問を持った。
「……沖田さん、君は何でそんなに頑張れるんだい? 」
「何で……とは? 」
「君は医者に激しい運動を止められているんだよね。それなのに、どうして魔導騎士を目指すのか疑問に思って……、さっきみたいに戦闘中に病で倒れるのは致命的な隙が出来ると思うんだけど……」
そこに疑問を思った。
病で激しい運動は止められている――そんなハンディキャップを持ちながら、彼女はどうしてそんなに自分を磨けられるんだろう?
挫折はしなかったのか?
「なるほど。つまり、黒鉄さん、あなたは私がどうしてそんなに自分を信じられるのか、それを聞きたいんですね」
「……うん」
「……なるほどなるほど。今の黒鉄さんはまだ完成していないから、精神もまた未熟なんですか……」
「え? 」
沖田さんは何を小声で呟いているんだ?
声が小さ過ぎて、上手く聞こえなかった。
「いえ、こちらの話です。先ほどの答えですが、私には夢があります。その夢を叶えるためには、自分に言い訳なんてする暇なんて無いのです。
病のせい、環境のせい……。
目指さない理由は幾らでもありましょう。しかし、諦める理由にはなりません。私は『誠』の文字に勝手ながら誓わせて貰いました。その誓いに恥じないように、生きる――それだけのことです。黒鉄さん、あなたもそうなんじゃないですか? 」
……そう、かもしれない。
僕には魔導騎士の才能がこれっぽちも無くて、誰にも期待されないで……でも諦めたくなくて。
そんな時に、あの人が言ってくれた言葉に、ひどく感銘を受けたんだ。
あの日、雪の降った日、あの人に会った日を思い出す。
……確か、彼はこう言ってくれた。
『いいか小僧。今はまだ小さな小僧。お前が大人になったとき、連中みたいな才能なんてちっぽけなもんで満足する小せぇ大人になるな。分不相応なんて聞こえのいい諦めで大人ぶるつまらねぇ大人になるな。そんなもん歯牙にも掛けないでっかい大人になれ。――諦めない気持ちさえあれば人間なんだってできる。なにしろ人間ってやつは翼もないのに月まで行った生き物なんだからな』
――その言葉に救われた。
自分は頑張って良いんだと、そう言ってくれた気がした。
それが、ただの言葉であるのことも、彼が何の保証もしてくれないのも分かっていた。
それでも、あの日、彼に救って貰ったことだけは確かだから――僕はあの人に憧れた。
「私もあなたに聞きましょう。あなたは何故そんなに頑張れるのですか? 」
――そんなの決まってる。
「――憧れたからだよ。あの人のようにでっかい大人に――才能なんてちっぽけなもので満足するような大人じゃない。そんな小さなものを歯牙にも掛けないでっかい大人になりたいんだ」
そう言って、沖田さんを見る。
沖田さんは――笑っていた。飛びっきりに嬉しいことがあったと、そう言っているような、もしくは団子を食べている時と同じように、嬉しそうに笑っていた。
「ええ。やっぱり、黒鉄さん、私には難しいことは分からないのですが、迷っているあなたより、今のあなたの方が素敵だと思いますよ」
「――⁉ 」
こ、この人は一体何を言っているのか⁉
いきなり、す、素敵とか、そんな、一体どういう意味なんだ⁉
「……沖田さん、その……素敵ってどういう……? 」
「え? 素敵って、あれ? 私が言ったんですか? ……無意識に……? 」
沖田さんは、徐々に顔を赤くして……
「……………………………………。こふっ⁉ 」
「沖田さん⁉ 」
た、大変だ! 沖田さんが吐血した‼
どうすれば良いんだ⁉
「……こ、この私が、あろうことか、殿方に、す、素敵と……一体何故そのような言葉を……?
………………。こふっ⁉ 」
「沖田さぁあああああああああああんっ⁉ 」
更に吐血しちゃった⁉
うわー! 床が血に染まってる!
本当に、どうすれば良いんだ⁉
今の沖田さんは、一輝君に恋愛感情を持っていません。
無意識に男に素敵と言ってしまった自分に羞恥心を持ってしまったから、顔が赤くなってしまったのです。
恥ずかしがってからの吐血をやりたかった……!