「…………」
シャワーを浴びて、血に濡れた身体を清める。
まあ、清めるとは俺の気分的な言葉で、実際は体を洗うだけだし、……清めれるレベルはもうとっくに超えている。
新選組副長さんの言葉じゃないが、俺の身体はもう、斬ってきた者たちの怨念でいっぱいだ。
清めれるモノではないし、清めて良いモノじゃない。
「……かなり斬っちゃいましたからね」
それこそ自分の醜いエゴで、裁かれるべきとは言え、沢山の人間の命を刈ってきた。
後悔はないが、やはり違う道はあったのではないかと、たまにそう考える。
無いモノねだりだけどさぁ……。
鏡で自分の体を見る。
未だ血で濡れた白髪、傷だらけの体。
ていうか、血で髪が物凄いパサパサになってる。体の方の血はもう現地で落としてきたが、髪の方はそうはいかない。
何度落とそうとしても落ちないから、寮にある自分の部屋に帰って、その風呂でゆっくり落とすつもりだ。
……しかし。
俺のこの体は自分でもかなりスタイルは良いんじゃないかと常々思う。まあ、沖田さんの体だから当たり前なのだが……すごい巨乳だ。
正直に言うと、何回か揉んだ。
……めっちゃ柔らかかった。
今は黄金比を維持しているが、普段サラシで巻いているから、変な形にならないか心配だ。うん、俺もかなり女性らしい悩みを持つようになったな。
という風に、かなり俺の体は普通にスタイルが良いと思う。
故に残念だ。
この体はもう斬り傷でいっぱいだ。
戦に出ているなら、傷が沢山出来るのは当たり前だし、正直治そうと思えば治せるのだが……。
自分で言うのは何だが、俺は可愛い――すごい可愛い。沖田さんの体なんだから、当たり前だが、
当然、告白される。
それは、もうバンバンと告白された。やべーよ、物凄いやべーよ、俺の魅了スキルがやべーよ。
――ってな感じだった。
そんなことが起きたもんだから、当然、女子達に嫉妬された。
好きな人を取られた。私のことを虐めてそんなに楽しいの⁉
知らねーよ。まったく持って知らねーよ。
俺がいつお前の好きな人を取ったよ? いつお前のことを虐めたよ? ていうかお前のことを知らないんだけど……。
しかし、女子達は俺の話を聞かない。別に真偽のほどなんて関係ない。鬱憤さえ晴らせば、それで良かったのだ。つまり、俺が虐められた。
いや、良いよ。それであんた等の気が済むなら、それで良いよ。好きに虐めろよ――いや、Mじゃないよ?
まあ、そんな訳で、モテ過ぎて大変だった。
スゴいよね。人生でそんなことを言える機会は中々無いよ?
……しかし、嬉しくない。
いや、男にモテても……ねぇ?
かと言って、俺は女が好きなのかと言えば、そうではない。
いや、女はもう良いです。お腹いっぱいです。ちょっとしたトラウマが出来たくらいです。
前世ではこんなに女が腹黒いとは思わなかった……。
まあ、そんな訳だから、俺は斬り傷を治すことを辞めた。
ips再生槽(アイピーエスカプセル)。
四肢の切断や臓器の損失程度であれば、たちどころに治せる治療施設。その性質から一般には普及していないのだが、騎士はその責務故に気軽に使用出来る。
だから、俺も使おうと思えばいつでも使用可能だ。当然、斬り傷くらいなら、いくらでも治療出来る。
しかし、この沖田さんのぱーふぇくとぼでぃに魅了される者は多い。
そんな奴に好かれるのはただ迷惑なだけだ。
だから、よっぽどの重傷でない限り、ips再生槽を使用するのを辞めた。
当たり前だが、身体中が傷でいっぱいになった――最近では傷を作ることは滅多に無いが――傷を作るに反比例して、告白する男も減った。こんな傷だらけの女――好く方が変わっているだろう。
いや、清々したよ。
男はもう告白なんてまるでしてこないし、女の方も気味悪がって近付かない。
友達が出来ないのが悲しかったが、面倒事はもうごめんだ。
いや、ホント清々したよ。
――ピンポーン
「……ん? 」
誰だろうか?
あー、そう言えば、今日は黒鉄さんを食事に誘っていたんだっけ。団子を作ってあげるって言ってたな。
「……着替えた方が良いのでしょうか? 」
しかし、それでは黒鉄さんを待たせてしまうだろう。俺にとって、それはあまり本意ではない。
もう、このままでも良いかな? 一応サラシ巻いてタオルも巻いとけば、大丈夫だろう。
黒鉄さんも、こんな俺の傷だらけの体を見ても、そんな興奮なんてしないだろうし。
何より、彼はステラさん一筋だからな。今は、まだ違うけど……それだけは確実だ。
そうと決まれば、
「今行きますよー」
多分聞こえていないが、声に出して応えた。
● ● ●
インターホンを鳴らしたが、誰も出なかった。けれど、まだ少し用事はあるのだろう。もう少しすれば出てくれる――そう思って五分くらい待っていた……が、沖田さんの出る気配はなかった。
そのことに僕は、嫌な予感がした……。
今日僕は、沖田さんに食事に呼ばれた。
最初は僕も恐れ多いと思い遠慮したが、沖田さんは止まってくれなかった。
曰く――どうせ一人分を作るのも二人分を作るのも一緒だ。
曰く――自分の物だけ作るより誰かのために作る方がよっぽどの精が出る。
それに話したいこともあった。……もしかして、黒鉄さんは私のご飯を食べたくないのですか?
――と強硬に主張してきたので、断り切れなかった。
……この押しの弱いところが、僕の短所だと思う。
そんな訳で、僕は沖田さんに食事に招待されて来たのだが……沖田さんが現れる気配が無い。
チラリと時計を見て時間を確認したが、別に間違っている訳ではなかった。
……何か、あったのだろうか?
沖田さんのことだ。誰かに襲われて……と言うのは想像し辛い。
もしかして、……喉に団子が詰まった、とか?
それなら、あの沖田さんがインターホンに出ないと言うのも頷ける。
――た、大変じゃないかっ⁉ 早く助けないと!
「ごめん沖田さん、勝手に入らせて貰う……! 」
ドアに鍵が掛かっていないのはもう分かっている。正直無用心だと眉をひそめてしまうが、今は好都合!
ごめんね、沖田さん。
――ガチャリ。
ドアを開いた。
しかし――
「――っ⁉ 」
僕は驚愕で声が出なかった。
今までの人生でこれほど驚いたことは一度も無かったかもしれない。それは、あの試合も含めてだ。
何故なら、あの沖田さんが――服を着ていなかったから。
バスタオルと、包帯――サラシ? だろうか――だけを巻いている沖田さん。
今まで気づかなかったが、彼女は、その、む、胸が大きいのに気付いてしまった。
何故、何で、どうして?
え、だって、沖田さんは喉に団子を詰まらせた筈で、玄関で服を着ずに、タオル姿のある訳がない筈で、いえ、勿論嬉しいですけど、それとこれとは話が別でして……けど、どうして⁉
そんな疑問が僕を襲った。
しかし、そんな僕の疑問は、より大きな感情に流される。
顔に血が集まっている。沖田さんの裸を見たことで(タオルを巻いているとは言え)、自分の顔がこれ以上ないくらいに赤くなっているのが、鏡を見なくても分かった。
だけど、僕にはもっと気になるモノがあった。
沖田さんの体は、その良家のお嬢様のような見た目に反して、全身が――傷だらけだった。
……これほどの量の傷、僕でさえ作っていない
見た限り、新しい傷は見当たらない。全て、過去に負った傷が残ったものだろう。
中には、重傷を無理やり糸で縫ったかのような、不細工なミミズ腫れさえあった。
それはつまり、彼女が幾つもの修羅場に足を踏み入れた――その証拠になるということだ。
それこそ、数え切れないくらいの……。
他の誰かであれば、彼女のことを痛々しく思うのだろう。それとも、勿体ないと思うかもしれない。
彼女のような美しい身体を、傷が汚していると、そう思う人がいるかもしれない。
――だけど、僕は違った。
「――綺麗だ」
口から溢れた言葉は、僕の感情の発露だろう。
陶器のようになめらかな白い肌に、刻み込まれている傷の数々。数えるのも馬鹿らしくらいだ。
まるで、価値ある芸術品を自ら壊し、ガラクタにしたように思える。まさに、芸術への冒涜だ。
だけど、美しいと思った。
ボロボロに傷つけられながらも、毅然と立つ彼女。
僕はそのヒトに、僕の理想を見た気がした。
「……え? 綺麗……? 」
今まで澄ました表情だった沖田さんの顔色が急に変わった。
――ボン! と音を立ててリンゴのように顔が赤くなったのが分かった。
「……そんな反応、沖田さん予想外です……! え、嘘でしょう? この体を綺麗? ……いえいえいえ、節穴にも程があるでしょう……⁉ 」
……節穴。
それは、沖田さんの勘違いだ。僕はこんな綺麗な芸術品。今まで見たことが無い。
――綺麗だ。
こんな綺麗な女性、見たことが無い。
「……落ち着くのですよ沖田さん。えぇ、えぇ、いつも通り容姿を褒められただけじゃないですか。ていうか、何でこの人は、人の裸を見てこんな澄んだ瞳をしているんですかー⁉ 」
「はっ……! 」
辛うじて、踏み止まれた。……もう、手遅れな気はするけど……、考えないでおこう。
いや、その前にこの混沌とした状況をどうにかしないと!
「いや、沖田さん、少し落ち着こう⁉ うん、裸を見たのは悪かったけど、お願いだから落ち着こう……! 」
そんなことを言っている自分だけど、多分僕も相当ヤバい。
さっきまでの僕の思考は少しおかしかった。裸の人を見て綺麗って……下手したら不審者じゃないか⁉
「これが落ち着いていられますかー⁉ ……いえ、確かに私も考えが足りなかった節もありますが、あんな言葉は予想外でゴニョゴニョ……」
「よし! 分かった! 」
――この時の僕を、僕は全力でぶん殴りたい。
「僕も脱ごう! それでおあいこだ!
そして、上の服を脱いだ。
「……な、な、な……! バカなんですかぁあああああああっ‼ 」
――何故だろう?
この行動に、どこかデジャブがあった気がした。
そんな疑問を持ちながら、僕は沖田さんに気を飛ばされたのだった。
沖田さんは、男に裸を見られることを、何とも思っていません。元男だから、当たり前ですよね(笑)。
まあ、劣情の目線で見られることには、不快感を持つようですが……。
そんな沖田さんが赤面したのは、当たり前ですが、黒鉄さんのせいです。
黒鉄さんの劣情を一切含まない純粋な瞳で、綺麗だと傷だらけの体を褒められたものですから、沖田さんは思わず赤面してしまいました。
黒鉄さんの勝利と言って良いでしょう。