そうやって黒鉄さんとご飯を食べながら、取るに足らない話をして、約一時間が経った頃。
……雰囲気が少しだけ変わった。
先ほどの緩やかな雰囲気はどこにもなく、ピリピリと肌が痛むような空気が流れていた。
俺は黒鉄さんに聞きたいことがあったのだ。本当は会ってすぐに聞きたかったが、あの緩やかな雰囲気がそれを許さなかった。
けれど、今なら聞ける。
俺は黒鉄さんと簡単に触れられる距離まで近付いた。
「お、沖田さん⁉ 」
黒鉄さんが何か赤面しているようだが、それは無視して、黒鉄さんの胸をポンッと叩く。
「痛っ……! 」
黒鉄さんが小さく呻いた。
……やっぱり。
「……黒鉄さん。あなたは私に隠しているものがありますね。私もあなたの疑問に何でも答えてあげますから、黒鉄さん――あなたも何があったのか教えてください」
「……バレてたんだ」
それは、当たり前だ。
まだ会って一年も経っていないが、黒鉄さん――俺は君を、大切な友達だと思っているんだよ?
大切な友達が困っているなら、そりゃ気付くさ。
俺はそういう意思を沢山詰め込んで、黒鉄さんを見つめる。
「……分かった、話すよ」
そうして黒鉄さんが話した内容は、とても胸糞悪いと言えるものであった。
1ヶ月前から黒鉄さんは、桐原さんを筆頭に不特定多数の人間に虐められていた。ご丁寧なことに、俺にバレないように……気づいていたけどね、俺は。
て言うか、やっぱりあの作戦では止められなかったか……。
最初は、靴に画鋲が仕込まれていたり、靴箱にゴミを詰め込まれていたりと、間接的な精神的に虐めるものであったらしい。
それでも、かなり酷い。中学生時代に虐められてきた俺だから分かる。
たとえ、肉体的には何とも無くても、虐めというモノはそれだけ精神を削られるものだ。
それで終わるのなら、まだ良かった。良くはないけど、最悪な状況ではなかったから。
しかし――
――黒鉄さんへの虐めがつい最近、暴力的なものに発展した。
黒鉄さんが寮に帰る途中、急に桐原さん――胸糞悪いから呼び捨てで良いや――桐原がイチャモンを付けてきたらしい。
そのイチャモンはあまりに意味不明だったので、内容は置いておく。
そして、桐原は黒鉄さんに決闘を申し込んだ。
勿論、黒鉄さんは断った。霊装の無許可の使用は罰則ものだからだ。
更に黒鉄さんが罰則を犯した途端に、その罰則を理由に退学させられるのは目に見えている。
そんな黒鉄さんに、桐原は霊装を出現させて攻撃。ふざけたことに、幻想形態ではなく、実体化させているので、当然傷が出来てしまう。
先ほど黒鉄さんが痛がったのは、俺がその傷を触ったからだ。
黒鉄さんは戦闘の意思が無いことを証明するために、霊装を出さずにひたすら回避に徹した。
すると、桐原以外にも霊装を出す者が現れ出て、黒鉄さんに攻撃を開始した。
最終的に、黒鉄さんはボロ雑巾のように気絶したらしい。
らしいと言うのは、黒鉄さん自身も気を失っていたものだから、状況を確認して気づいたのだと言う。
そこまで黒鉄さんが負傷したと言うのに、下手人である桐原とその腰巾着たちは、厳重注意で済まされたらしい。
明らかに学園側が仕組んでいた。
――ギリッ、知らぬ間に歯を強く噛み締めていた。
「……何で、何でそれを言わなかったんですか⁉ 」
教えてさえくれれば、それがたとえどんな状況であろうとも、俺の持てる力全てを使って、助けようとしたのに!
「……言いたくなかった」
「言いたくなかったって……そんな理由で……?
「……あ、もしかして、私があなたを見捨てるとでも思ったのですか? ……い、嫌だな~、そんなことはしませんよ。ちゃんと助けますから、安心してください! 」
「……そんなことは思ってないさ」
「……だったら、どうして……? 」
俺が君を見捨てる――そう思っていないなら、何故、君は黙っていたんだ? どうして?
「君は僕を助けてくれるんだろう。それも無償で」
「当たり前じゃないですか」
何でわざわざ金を貰って、友達を助けるんだよ。
「君には色々と助けられてきた。まだその借りも返せていないのに、また助けられる訳にはいかないよ」
「……それは、男のプライドと言うモノですか? 」
か? 」
「……うん、そうかもしれない」
俺も元男だから、その気持ちは分かる気がする。だけど、それは分かるだけだ。納得はしていない。
「……プライド云々で傷付いてちゃ、意味無いでしょうに」
助けを求めれるなら、求めるべきだ。下らないプライドなんかで、自身を傷つける必要なんて――どこにも無い。
「……その意思を撤回する気は無いんですね」
「うん」
「……分かりました」
黒鉄さんの気持ちは良く分かった。
「……出てってください」
「……え? 」
「今日はもうあなたの顔を見たくありません。私の部屋から――出てってください」
自分でも驚くような低い声で、黒鉄さんを拒絶した。
それに黒鉄さんが傷ついたような表情をして……
「……分かった」
黒鉄さんはドアを開いて。
「……ごめんね」
出ていった。そして、ドアが閉まった。
――静かになったな。
俺は寝転がり、天井を見上げる。
……黒鉄さん、君の気持ちは良く分かるよ。俺だって男だったら、そうしていたかもしれない。
辛いときでも、一人で抱え込んでいたかもしれない。
だけど、それでも俺は相談して欲しかったんだ。君に一人で抱え込んで欲しくなかった。
悲しいときに、一緒に悲しめないで、苦しいときに、一緒に苦しめないで――何が友達だ……。
まあ、良いさ。黒鉄さんは、俺に黙っているのを良しとしたのだ。
「だから、私も黒鉄さんに黙って――好き勝手させて貰いましょうか」
続きは、次回に書かせて貰います。
感想も、ご指摘も、ドシドシお願いします。