蛇の元夫   作:病んでるくらいが一番

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遅れました。


第42話:死武専の盾VS死武専の矛

 今現在の死武専には三星職人の中でも最上位とランク付け出来る職人は殆ど居ない。

 スピリット以外のデスサイズは各地に散らばっていて、そのデスサイズを操る職人は上位の職人の中でも上位ではあるが、最上位の職人とは呼ばれていない。今の最上位の職人にはルビで狂人とも付けられるほどの異常者たちだからだ。

 

 元々の死武専には最上位の職人は今の倍以上は居た。しかしホワイト☆スター等を滅し続けた動乱期において、強いものほど精神を病み、優しき者ほど先頭に立って死んだり負傷故の引退が起きた。

 

 シドはいい意味でも悪い意味でも真面目過ぎるため、自分達の粛清について色々と悩んだが、同期のシュタインやハヤテという異常者のおかげで思考することを停止したおかげで狂わなかった。

 ハヤテとシュタインは精神的な性質が常人とはかけ離れていて、その時に活躍したことでシュタインは死武専の盾、ハヤテは死武専の矛と呼ばれるようになった。

 

 

 

 ハヤテは死神様から多大なる譲歩をして頂き、とりあえずBREWを渡すことで一旦はメデューサ陣営のやった事を保留するという約束を取り付けた。

 死神様もメデューサの言っていることは理解出来る。理解出来ても普通は鬼神を解放なんてしないため、理解はできても同意をすることは出来ない。だが、メデューサが提示したアラクノフォビアの殲滅計画、鬼神の完全な滅殺に関する方針は死神様も考慮しないといけないほどであった。

 

 あの場にいたもう一人のメデューサ陣営であるフリーは、メデューサが用意していた死武専内の拠点へ向かい、ハヤテとメデューサは三船邸に向かう。

 今三船邸には戦いを終えて疲れて休んでいるはずのクロナとラグナロク、それにキムとジャクリーンがいる。シュタインとマリーも居るはずだが、特に問題は起こらないとハヤテも、魔女であるメデューサも思っていた。

 

「明後日に魔女界へBREWを取りに行くのだけど、ハヤテさんも来てもらえるかしら?」

「それは戦力的に?」

「ただ一緒に行って欲しいだけなのだけど……難しいですか?」

「そんなことは無いさ。スピリット先輩に一限くらいはお願いすれば行けるはず。それにメデューサを敵視している魔女と遭遇した時、その場にいなかったら護れないしね」

「ハヤテさん……!!」

 

 偽名を名乗っていたナザールの時と同じような丁寧な口調でメデューサは話しているが、これは別に猫を被っている訳では無い。最初は猫を被っていたが、今ではこの丁寧言葉で話すのはハヤテだけであり、ハヤテ専用の話し方であるが故に普段とは切り替えている。

 そんな風に限定的だが、死神様にすら認められた二人は未来に目を向けて自宅へと戻ってきた。

 

「……え?」

「なんだこれ」

 

 三船邸の大きな扉を開けた瞬間に二人が感じたのは血の匂いだった。シュタインのツギハギ研究所ではないので、扉を開けたら血の匂いを感じるような場所ではない。

 ハヤテは黒い瞳を真っ赤(狂気)に染め上げ、腰に下げていた刀を構える。メデューサも同じように魔法の準備をしようとしたが、今のメデューサの首にはある首輪が付けられている。

 

 その首輪は魔女の魔法に反応して爆発するという物である。何かあって魔女を滅する訳ではなく、死武専に連行することになった際に使用する目的で作られた魔道具である。有事の際はハヤテ以外の三星職人や武器なら外せるようになっているのだが、今はちょうどハヤテしか居ないため、メデューサは魔法を封じられてしまっている。それでも多少ならメデューサも戦える……マカ程の肉体年齢じゃなければ。今の体では舐めプしているキッドくらいにしか引き分けに持ち込めない。

 

「……誰かいるか。シュタイン、マリー? クロナ? キム?」

「早かったじゃないですか。無事メデューサとは合流出来たようですね」

 

 正面の階段上から聞こえてくるシュタインの声。ちょうど彼は二階に居るようで、出迎える気なのかこちらに近づいてきている。

 常人や並の職人よりも五感の鋭いハヤテはその時点で気がついてしまう。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。その匂いが自分やメデューサのような、だが確実に別の人に感じる……最近感じたことのある息子達の血の匂いであることを。

 

 二階の階段前で止まったのか、足音が消える。

 

「この匂いはなんだ? 何故クロナやラグナロクの血の匂いが漂っているんだ? シュタインッ!!」

「ケラケラケラケラ。プレゼントをあげるよ」

 

 上階から何かが落とされる。ドシャリと肉と血が地面に落ちる音がする。

 腕や足が曲がってはいけない方向に曲がっていて、口はシュタインの技で縫合されているため声が全く出ないようだ。それ以外に痛めつけられた所はないように見えるが、それでも十分ハヤテの怒りを買うには十分な所業、彼の息子であるクロナを痛めつけ、それを彼の前に晒したのだ。

 

 知らなかった時、敵だと思っていた時は殴りつけてしまったが、今は息子だと分かり、愛する努力をしようとしている。息子なため、きっと愛し方がブラック☆スターにやる方法と同じようなことが起きるかもしれないが、それでも彼はクロナとラグナロクを愛することが出来たはずだ。彼の強さの源は愛であるが故に、ハヤテの意識は戦いに向けて意識を切り替える。

 

「狂気に堕ちたか。お前なら堕ちないと思っていたんだがな。悲しいことだよ。死神様、見ているのでしょう? 今の俺とシュタインを貴方が放置するわけが無い。俺は今からシュタインを殺します」

『…………許可するよ。ごめんね』

「ケラケラ。君の娘がどうなってもいいなら動いてもいいんじゃない? 君が階段に踏み入れた瞬間、的確に腹を解体する」

 

 その言葉とともに二階の床に縫い付けられているジャクリーンとキムの内、前者の口の縫合が解かれた。

 

「ハヤテ先生助け、待って、私が受ける! だからキムの腕を折ろうと、いやあああああああ!!」

「…………助けてぇ」

 

 上階からボキリッと骨が折れる音、ジャクリーンの悲鳴、そして義理でも娘であるキムの嘆き。

 

 ハヤテはスピリットのおかげで紳士的? な態度を取るようになった訳だが、それよりも更に前、彼が日本の三船にある屋敷から姿を消した数年で学んだ二つの大きな約束を彼は思い出していた。

 メデューサを一度殺してしまい、魂が暴走して破裂寸前まで行ったおかげで、彼の魂に施されていたソウルプロテクトが剥がれ、それに付随していた記憶処置が解け始めている。

 

『常に女性には優しくあれ。紳士として当然であろう』

『魔女にはいい魔女もいます。そんな魔女は助けてあげて』

 

 この約束が彼の原点にして、彼の強さを支えているもの。忘れ去らないと彼の人格に多大な影響を及ぼすので、今までは忘れさせられていた。否、本来ならこの記憶は生涯忘れていて欲しかったもの。だってそのままだと彼があの聖……。

 

「お前は俺を本気にさせた」

「それを待っていたんだよ、ハヤテッ!!」

 

 家族に手を出す。女性に手を出す。そして良い魔女に手を出す。シュタインはハヤテが本気でキレる点をよく理解している。

 シュタインはきっとメデューサ以上、ハヤテ自身以上にハヤテのことを理解している。唯一の同族にして、人と関わることを選んだ自分とすら思っている。

 

 ハヤテは階段を使わず、狂気で身体能力をバグらせて、そのまま床を切り裂きながら上階へと侵入する。床を切り裂くのと同時にシュタインも切り裂くはずだったが、読まれていたのかすぐに後ろに飛んでいる。

 濁った瞳、引きつっている表情、いつも以上に乱れている服装。直接シュタインを見て、魂をその目で見たからこそわかる。

 

「お前はもう手遅れだ。死神様の名のもとに、貴様に死をくれてやろう」

「僕達が本気で仕合をしなくなったのはいつだったか覚えているかい?」

「……」

「ホワイト☆スターを殺した後から僕達には多大な責任がついてまわるようになった。安易に互いが死ぬかもしれない本気の仕合をしないようにと死神様は僕達に命令した」

「……」

「僕はハヤテと切磋琢磨して実力を伸ばしていたあの時は楽しかったよ。今思えばあの時以上に解剖以外に興味を示したことは無い。あの時の僕達は輝いていた」

「歳をとったんだよ。俺たちはもう青春なんて送っていられない」

「家族が出来たから?」

「俺にとってはそれが一番の理由だな。俺は家族がいるからこそ、愛する者たちがいるからこそ、正常を保っていられる」

 

 シュタインは内心でお前は生徒とさほど変わらない程度の年齢にしか見えないけどと、狂気で湯だった頭ではあるがツッコミを入れた。

 背後では床を切り裂いた時、キム達の縫合の糸も同時に切り裂いていた。メデューサは阿吽の呼吸の如く、ハヤテの意志通りにキムとジャクリーンを回収している。

 

 キムにもジャクリーンにも目立った傷はなく、唯一キムの腕が変な方向に折れてしまっている。あと何故かお腹がモロ出ていて、線や丸、解剖するためのラインが書かれている。

 

 ヘラヘラと笑い続けるがその瞳はハヤテに集中しているのか、濁っているのに彼を真っ直ぐ見ている。

 手首を切り裂き、刀に血液を纏わせ、更には彼の周りにいくつもの血の塊が浮遊している。その瞳には強い悲しみと怒りが宿っている。

 

「最後に教えてよ」

「なんだ?」

「ハヤテは僕と本気で殺し合いをするの、楽しみだって内心思ってないかい? 僕は君を解剖できるのがとても、とてもとてもとても楽しみだァ」

「俺が唯一負け越している相手に勝てるんだと思うと笑みがこぼれるさ」

「ヘラヘラヘラヘラ」

「あははははははは」

「「……死ねッ!!」」

 

 二人の間にあった間は一瞬にして消え去り、ハヤテの刀とシュタインの魂威の乗った掌底がぶつかり合った。

 

 

 シュタインは思う。やはりハヤテとは戦いづらいと。

 彼の武器なしの戦い方は魂威で自分の魂の波長を相手に打ち込み、その波長によって相手をいつの間にか縫い付ける縫合を行う。少しずつ相手に魂の波長を打ち込み、いざという時に縫合で敵の動きを阻害して必殺を放つ。

 しかしハヤテはそれがわかっているので、避けるか必ず血液を纏わせた刀で受け流す。

 あの血は魂の波長と同質である狂気を纏わせたものだ。どちらも精神的な力を込めたものであり、いくら血を纏った刀に魂の波長を打ち込んでも浸透しないのだ。

 

 ハヤテは思う。やはりシュタインとは戦いづらいと。

 一撃でもその身に攻撃を受ければ戦いながらでは解除不可能な縫合を受けてしまう。ひたすらに避け、刀で弾いてはいるが、振るう刀に対してシュタインの柔軟な両腕から繰り出される攻撃に攻め気を出すことが出来ない。

 

「もっと殺す気で斬りかかってはどうですか?」

「……黙れ。武器もなしにフルスロットルで魂威を放っていたらガス欠するぞ?」

「ヘラヘラヘラ」

 

 二人は傷を負っていないが、彼らの攻撃には明確な殺意と本気と覚悟が乗っている。されど場面は他の要因が無ければ動くことは無い。

 そんな膠着した状況を動かしたのはやはり他者の介入だった。

 

「もうすぐシド先生や弓梓が来るから頑張って!」

「……僕を殺す気はなかったのか」

「お前の強さを知っているからこそ、俺は囲んで叩く方法を取る。当然だろ? 死武専の盾」

 

 信じていたハヤテがまさか他人に頼るなんて方法で二人の逢瀬を終わらせようとしていることに、シュタインは心が冷め、彼も戦い方を選ばなくなる。故にこの戦いはハヤテが負けることになる。

 

「ハ、ハヤテ。シュタインがッ!」

「マリー!」

「チッ!」

 

 シュタインを挟むように、ハヤテとは反対側にある部屋から血だらけのマリーが足を引き摺って出てきた。お腹を押え、苦しげにしているマリーがハヤテの視界に入る。

 しかし声を上げても戦いで不利になるような隙は晒さない。隙を晒しそうになった心を押さえつけ、一度体勢を立て直そうと一歩後ろに下がる。

 ちなみに舌打ちしたのはハヤテの奥さんだ。マリーのはだけている胸に視線が行っているが、まさかこの場面で胸部の豊かさで負けたからと舌打ちする奴がいるわけが無い……。

 

「……は? やめろッ!!」

 

 一歩下がった瞬間、ハヤテは己の失策に気がついた。シュタインの顔が嫌らしく歪んでいたのだ。狙いは自分やメデューサではなく、マリーであることにその表情で気がつく。

 ハヤテのことを無視して、一目散にマリーに向かってシュタインは駆け出したのだ。

 

 それに追いつくためにハヤテは壁を走る。

 シュタインが通った場所には彼の魂の波長が埋め込まれていて、縫合によるトラップが仕掛けられているかもしれない。実際に仕掛けられているのだが、そんな走り方をしていれば真っ直ぐに彼女へ向かうシュタインに離されてしまう。

 

「君はまた後で解体するって言ったのに、なんで出てくるのかな? そんなに僕に解体されたいなら、ここで解体してあげるよ」

 

 白衣の中から取り出したメスを片手に腰の抜けてしまったマリーに向けて振り下ろす。

 幸いだったのはシュタインがマリーの目の前で止まって話したおかげで、ギリギリハヤテは介入できそうだということ。

 

「待って、ハヤテさんそれは罠ッ!?」

 

 遠くからその情景を見ていたメデューサだから気がつけたのだろう。マリーの瞳はハヤテに向いているのに、その瞳にはハヤテは写っておらず、まるでシュタインのように濁っていた。

 そして気がつく。自分のいる地面と足が縫合糸によって縫いつけられていることに。クロナやキム、ジャクリーンを避難させた時、シュタインの魂の波長が侵食していて、今このタイミングで縫合されてしまったと気がついた。

 

「え?」

 

 ハヤテはシュタインのメスを確かに浮遊する血液を硬質化させて受け止めた。なのに何故その間にマリーが武器化して、シュタインの掌に納まっているのか。

 

「ミョルニル」

 

 何故マリーからシュタインに似た、狂気に堕ちた時特有の魂の波長を感じ取るのか。

 

「大好きでした」

 

 何故マリーはそう言いながら雷鳴を轟かせているのか。

 

「僕の最高傑作に手を加えた魔女は死ね」

 

 一瞬にしてマリーによって練り上げられたシュタインの魂の波長を稲妻に変貌させて、ハヤテを無視して、遠方にいるメデューサ(魔女)に向けてマリーを投擲しようとしているのか、腕を振り下ろしている。

 

 極限の集中状態だからか、世界が遅くなっているかのような感覚を覚えながら、ハヤテは全身の血液、肉体、その全てに命令を下す。肉が裂け、血が飛び散り、刀を手放してシュタインには隙しか晒していないが、それでも無防備になっているメデューサ()を護るために射線に入り込もうと飛び込んだ。

 

ミョルニル(雷神の投槌)ッ!」

「間に合えッ!!」

 

 雷綱(いずな)という職人の運動神経に電気を送り運動能力を飛躍的に高める超神経を利用し、更に()()()()()()()()()()()()()を利用したその攻撃は空間が爆ぜたような音が響き、そしてギリギリ間に合ったハヤテとぶつかり、ハヤテは屋敷の奥に吹き飛んで行った。

 

 ハヤテにぶつかったことで完全に勢いを失ったマリー(雷槌)は人の姿に戻り、その瞳から零れる一筋の雫を指で拭って床に捨て去る。その光景を雷光によって目が眩んでいたシュタインは見えていない。

 

「行こう」

「ええ」

 

 愛しの人に、最愛の親友に必殺技、必ず殺す技を放ったのにも関わらず、二人はハヤテに見向きもせず、割れた窓ガラスから屋敷を後にした。

 

「いやああああ!! ハヤテさん、ハヤテさんっ!!」

 

 まるで狙っていたかのようにハヤテが吹き飛んだ瞬間に縫合が解けたメデューサはハヤテを何とかキャッチしたが、ハヤテには意識がなく、利き手の右腕の肘から先が消滅していた。

 上半身の骨はボキボキに折れていて、火傷もあまりに酷い。幸い? 火傷のおかげで出血は止まっているが、彼の鼓動の音は少しずつ弱まっているのが少し触れているだけでわかる。

 

 彼は最高の親友とメデューサ以外に一番愛した女性との縁を失った。既に彼の武器との縁も切れてしまったのに、更に彼は失った。

 そして彼が目覚めた時、彼を慕う後輩デスサイズも死武専から居なくなってしまったことが告げられる。




遅くなった原因としてシュタインとマリーにどこまでやらせるか、まずシュタインとハヤテの戦いをどちらの勝利で終わらせるか考えていたので遅れました。
結果的にまたハヤテは負けてるし……武器があればー。
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