だって、代わりに全部機械がやってくれるから。
2099年。二二世紀を直前に控えたこの年。百年前には考えられなかったほど科学は発展し、遂に全ての人類は労働から解放された。
働く機械達が全ての労働を人間から肩代わりし、人間達は働くこと無く、衣食住に不自由すること無く暮らしていくことが出来た。
空前のユートピアの到来であると言えよう。
働く機械達が食材を育て、食材を調理して人間に出し、使い終わった食器を洗う。
働く機械達が材料を用意し、家を建てて、中の清掃も行う。
働く機械達がお風呂を沸かして、マッサージを仕り、浴槽の清掃も欠かさない。
まさに黄金時代。
まさに約束された千年王国の誕生。
ある人間の家族の一日を例にとって見てみよう。
「義龍様、お目覚めの時間です」
機械の声で義龍少年が起こされると、機械はカーテンを開き、窓を開ける。
気持ちよい風を受けて少年がベッドから身を起こし立ち上がると、機械は外へ出た。
この後、別の機械が作った料理が食卓に並ぶので義龍が食堂へ足を運んでいるうちに、
先程の機械がベッドシーツを回収し、布団を干して部屋の清掃を行うのだ。
前日に朝風呂好きな義龍の姉が告げてあるので、機械は朝風呂も用意しておく必要もある。
機械は百年前と違って、様々なことを行うようになっている。
時折、機械は故障するが、ある程度の傷なら自動修復機能も付いている。
しかし、壊れすぎた場合は新しい機械を調達する必要がある。
食事を終えた義龍は学校へ行く。
今時の学校は全てバーチャルで自宅で授業を受けられるものも多いが、義龍の通っている場所は、建物に通う必要がある古いタイプの学校だ。
通学路では幾つかの機械達が交通誘導や清掃を行っている。
途中で義龍のクラスメイトで乱暴者の弘就が清掃中の機械を蹴飛ばしていた。
以前は機械を道路に突き飛ばして車に接触させて怒られたことがあるというのに懲りないものだ。
義龍は家から出て二つ目の交差点の所まで来ると、5分ほど立ち止まることにした。
クラスメイトの
近家と義龍の家は昔からの付き合いであり、2073年の急激な社会情勢の変化で上手く勝ち組にのし上がった頃からの付き合いがあった。
弘就は違い、江は仕草や性根が綺麗なので義龍は仲良くしている。
義龍の学校の授業は珍しいことに人間が行っている。
勿論機械の補助もあるが、授業のベースを人間が行っているあたり、この時代ではかなり学費が高いことが解る。
生徒達の授業態度は極めて良好である。機械には乱暴に扱う弘就でさえ、クラスメートに乱暴を働くことは無い。
基本的に人間同士で傷つけ合うことはあり得ない。そんな社会なのだから当たり前だ。
また、冷暖房は当然のように完備で、清掃も機械が担うために生徒が手を汚す機会は無い。
その日の授業が全て終わり、義龍は江と共に学校から帰る。
道中にあるソフトクリーム屋でアイスを二つ買った。
食べ終わった後のゴミは、近くにある清掃用の機械の前に落とすと、機械がゴミを片付けてくれる。
「機械が何でもやってくれて便利な世の中よね」
江の発言に義龍も同意する。
「全くだよ。自分で雑務をするなんて考えられないな」
ペットの糞の片付けも、柵に絡みついたツタや桜に付いた害虫の駆除も何でも機械達がやってくれる。
人間に生まれたならとても幸せに生きられる。
普段二人が分れる交差点の誘導機械はバイクと衝突していた為に、代わりが来るまでは誘導機械を清掃機械が代行していた。
不慣れそうだが、問題はなさそうだ。
交差点を曲がって直ぐの江の家に少女が義龍に手を振りながら帰るのを見送って、義龍は再び帰宅を始めた。
義龍が家に着いた頃、壊れた機械を回収する車がやってきた。
その車に運ばれながら、機械は音声を繰り返し発していた。
「痛いよ。つらいよ。……人間扱いされたいよ」
そう。この時代、貧困層の人間は人間としての権利と尊厳と自由を失い、機械として生きていた。
2072年以降、不労所得を確立した富裕層の人間だけが人間として、衣食住の不自由なくユートピアを過ごしていたのだった。
今日も
そして人間達は不自由なく幸せに生き続けるのだ。
ここは、そんな人間がしあわせなミライ。
はっぴーえんど()