もしも言峰が召喚したアサシンがあの戦闘員だったら 作:拙作製造機
「これで終わりだ、雑種」
アーチャーの一撃が呆気なく黒ずくめのアサシンを貫きその存在を消滅させようと迫る。その攻撃を防ぐ事も避ける事も出来ず、ただアサシンはその場に立ち尽くす。そして、その胴体を一本の剣が貫いた瞬間……
「イィィィィィィッ!」
爆ぜた。断末魔と共に。それはもう見事な爆発を遂げた。あまりの事に予想外だったのか、アーチャーさえ呆気に取られていた。が、そんな時アーチャーは何か自身の中に湧き上がるものを感じていた。
「……何だ? この、妙な感覚は? 哀しみ……とでも言うのか」
本来であれば何も感じる事のない雑種と呼ぶ者達を倒す事。なのに、何故か妙に切ない気持ちがアーチャーにこみ上げる。戦う事の虚しさを噛み締めるような、そんな生前には覚えた事のない感覚を。
一方でマスターである遠坂時臣もそのアーチャーの感覚に気付いたが、今は計画を進める方が先と判断。霊体化するよう呼びかけたのだが、それに対するアーチャーの反応は予想外のものだった。
(分かっておる。だが、しばし我の好きにさせよ。今は、何故か風を感じていたいのだ)
(……分かりました。王のお好きなように)
(うむ)
初めて聞くような静かな声でアーチャーは時臣の呼びかけに返事をしたのである。これがアサシンの最初の一体目の犠牲の結果。そして、誰も知らなかったがその宝具の初使用でもあった。
アサシンを召喚したのは時臣の弟子である言峰綺礼。教会の代行者でもあった彼は、自分の前に現れたアサシンを見てしばし言葉を失った。
―――イーッ!
見事な整列をし、一斉に胸に当てた右手を上げて声を上げる姿にだ。そう、それはもっとも有名なやられ役であり、雑魚中の雑魚と名高い存在。ショッカー戦闘員であった。しかもマスクをする様になったタイプである。
―――……アサシン、でいいのか?
―――イーッ、そうであります。
―――…………喋れるのか?
―――イーッ、必要とあれば。
実は普通の会話が可能な事に綺礼は驚きを隠せなかった。開いた間はその驚きを処理するための時間である。元々アサシンを捨て駒に使うつもりであった綺礼達としては、数が無限のようにいるアサシン達を歓迎した。情報収集にも使えるとして、かなりの数を放つ事も出来たためだ。
が、肝心の宝具についてはアサシン達も知らないと返してきた。曰く、自分達は常に情報を統制されてきた。その能力なども特筆するものはなく、強みなどありもしない。宝具と呼べるものがあるとすれば、瞬時の変装能力ぐらいだと。その便利な能力に綺礼達は納得し、ならばとそれを踏まえた作戦を立て始めたのだ。
だが、彼らにも宝具はあったのだ。ちゃんとした宝具。その名も
サーヴァントやマスターが倒せばお互いに影響し合い、競争心や闘争心を失っていく。しかも弱い上に本来であればもっと数がいるため、この効果は一気に出る。一体でさえアーチャーが虚しさを感じる程なのだ。これを善性の人間が倒せばどうなるかは言うまでもない。
さて、時間は流れセイバーとランサーが相対し、ライダーがそこへ乱入する場面となった。アサシンもその場で監視を命じられていたのだが、上空よりライダーが現れた事でその動きに変化が生じた。
(マスター、ライダーが、ライダーが現れましたっ!)
(そうか。引き続き監視を)
続けろ。そう命じようとした時だった。監視していたアサシンから信じられない言葉が返ってきたのだ。
(た、助けてくれっ! まだ死にたくないっ!)
(……アサシン? どうした?)
(ライダーが……ライダーが来る……しかも今度のライダーは空が飛べるなんて……)
(アサシン? どうしたのだ? 何故そこまでライダーを恐怖する?)
綺礼は知らなかった。彼らアサシンにとってライダーとは天敵であり、彼らの全てが通用しない唯一の存在であると。それは、例え生身の人間であっても同じ事だ。アサシン達にとって、ライダーとの響きは死神も同様である。聖杯戦争とは別の宿命がそこにはあった。
そんな風に狼狽えたアサシンの気配を一斉にサーヴァント達が察知する。これもおかしな話であった。アサシンのクラスは本来気配遮断や察知に優れたクラスであるためだ。これもライダーという存在によってアサシンの持つ一切の能力が無力化されてしまった結果である。
「あれは!?」
「アサシンか。やはり死んではいなかったようだな」
「ふむ、何故だろうか。余はこう言わなければならん気がしてきた」
「「は?」」
驚くセイバーと警戒するランサーとは違い、首を傾げながらライダーは二人の間を割る様に足を踏み出した。
「出たなショッカーっ!」
「おのれライダー! こうなっては仕方がない。せめて情報の一つでも手に入れてやるっ! 行くぞ!」
お約束である。世界の強制力の前にはサーヴァントも敵わないのだ。突然のやり取りについていけないセイバーとランサー。そして、そのマスター達と仲間達。そんな彼らを余所に、気付けば周囲には大勢のアサシン達が出現していた。そこで誰もが気付く。アサシンは一人ではなく大量にいるのだと。
これに頭を抱えたのは綺礼達だ。アサシンを使った工作がバレただけでなく、今後やろうとしていた各陣営の監視や工作もアサシンを警戒されて成功率が落ちるだろうと分かってしまったのだ。
まさしく、アサシンとそれを使う者達らしい流れである。そう、アサシン達はある意味で約束された壊滅の証でもあるのだ。これはアーチャーの黄金律を以ってしても変えられない絶対敗北の掟。悪は必ず最後に滅びる。そういうお約束をアサシンは背負っているのだから。
―――イーッ!
そして、ライダーだけでなくセイバー達、いわば滝やおやっさんなどの協力者がいればアサシンの勝率などあるはずもない。ものの数分で片付けられ、派手な爆発を起こして消えていった。ただ、セイバーとランサーに今までにない虚しさを与えて。
「……セイバー、この場は引く。機会があればまた相見えよう」
「ああ……」
「何だ? 急に大人しくなったな。というか、余の臣下になる話はどうした?」
「お前、この状況でもまだそんな事言ってんのかよ! てか、さっきのアレは何だ? ショッカーって、アサシンの真名か?」
「……そうかもしれんな。何故か勝手に口から出てきおった」
「え、えっと……セイバー、私達も引きましょう?」
「……はい、アイリスフィール」
火の消えたロウソクのようなセイバーに内心疑問符を浮かべつつ、アイリは彼女に抱き抱えられてその場から去っていく。それを見送り、ライダー達もならばと戦車へ乗り込んでいった。それらをスコープで覗きながら、舞弥は一向に指示を出さない切嗣へ声を掛ける。
「切嗣、いいのですか?」
「……ああ、今日のところはもういい。何故か今は誰も撃てる気がしないんだ」
「切嗣……?」
返事の内容に違和感を覚えた舞弥が視線を切嗣へ向けると、彼はどこか遠い目で夜空を見上げていた。持っていたスナイパーライフルは近くへ無造作に置かれている。彼は元々争いに対して否定的な人間であった。そのため、より一層アサシンの宝具が効いたのだ。
「……舞弥、撤収だ。今日はもう帰ろう」
その絞り出すような声は、舞弥が初めて聞く切嗣の声だった。
同じ頃、ランサーのマスターであるケイネス・エルメロイ・アーチボルトもアサシンの宝具による影響を受けていた。そしてその婚約者でもあるソラウ・ヌァザレ・ソフィアリも、魔力供給の影響により多少ではあるが効果を受けていたのだ。
「け、ケイネス……これは……?」
「……分からない。だが、おそらく魔術ではないだろう。呪いの類か……? いや、だとしても……」
「ランサーは何て?」
「アサシンの能力ではないかと言っている。私も同意見だ。……しかしこの虚無感は何だ……?」
共に程度の差はあれ、脱力感などに苛まれる二人。更に別の場所でもアサシンによる宝具が炸裂しようとしていた。
「アサシンっ! 桜ちゃんを離せっ!」
間桐家の地下で繰り広げられる光景。それは、黒ずくめのアサシンに抱き抱えられるか弱い少女とそれを睨み付ける男性の姿。まるでヒーロー物のお約束である。ただ、違う事があるとすれば、男性がヒーローではなくダークヒーロー系である事だろうか。
「イーッ! それは出来ん。このガキはかなりの魔力を持っている。この娘の魂を食えばどれだけの強化が出来るか……」
「貴様ぁ……桜ちゃんへ手出しはさせんっ!」
「ふんっ、見るからに死にぞこないが何をするつもりだ?」
「おじさん……逃げて。私は、大丈夫だから」
「っ?!」
儚い声で告げられる幼子の強がり。それに彼は、間桐雁夜は目を見開き拳を握りしめた。バーサーカーを呼んで戦わせようにも、下手な事をすれば桜までも傷付けてしまう。ならば、選べる手段はたった一つだった。
「桜ちゃんを……」
「イ?」
「離せぇぇぇぇぇぇっ!」
「イーッ!?」
繰り出された拳を避ける事が出来ず、アサシンの顔がマスクの中でゆがむ。そのまま雁夜は、桜を自らの腕へ引き寄せるやバーサーカーを呼び出した。
「やれっ! バーサーカーっ!」
まるで少女を人質にした事へ激怒するようにバーサーカーがアサシンへ襲い掛かる。そして、それは呆気なく片付いた。大きな爆発音と共に。
「……おじさん」
「怪我はないか桜ちゃん」
「うん。その……ありがとう」
その時、雁夜は確かに見た。微かにだが笑う桜の顔を。それに言葉を一瞬詰まらせるも、彼は優しくその体を抱き締める。その様を静かにバーサーカーが見つめていた。
「……アル……トリ……ア……」
アサシンの宝具の効果で僅かではあるが狂気が薄れ、騎士としての顔を覗かせながら……。
笑ってもらえたらこれに勝る喜びは……感想もらうぐらいしかありません。読んでいただき本当に感謝です。