もしも言峰が召喚したアサシンがあの戦闘員だったら 作:拙作製造機
「さぁ、お逃げなさい」
どこにでもあるはずの団欒の象徴、リビング。そこが血生臭い色と雰囲気で塗り替えられていた。そこにいるのは、一人の青年と一人の少年。そして、この世ならざるものであるキャスターであった。そんなキャスターの言葉に少年は戸惑いつつも我が家からの脱出を試みる。
「ちょ、逃がすのかよ」
青年―――雨竜龍之介はあからさまにがっかりした。彼は普通の人々とは違う感性の人間である。そのため、凄惨な事件を何度となく起こしていた。先程の少年もその手で人生を摘み取ろうとしていたぐらいに。そこへ突如キャスターが出現したのだ。突然の乱入者に龍之介は驚きこそしたが、彼が自分の感性に近いものを持っていると感じ取り、獲物であった少年を委ねたという訳である。
さて、少年は血塗られたリビングから廊下を走り、玄関まであと少しというところまで来ていた。そのドアを開ければ外だ。その希望を胸にドアへ近付こうとして、その体は何者かに抱き抱えられた。
「え……?」
何もいなかったはずの廊下。なのに今、自分はたしかに誰かに抱き抱えられている。そう思って少年は顔を動かした。するとそこには……
「イーッ」
「うわぁぁぁぁっ!」
黒ずくめの覆面男がいたのだ。アサシンの姿に絶叫する少年。キャスターの魔力反応を察知し侵入したアサシンは、情報だけでなく魂食いも兼ねて少年を連れ去ろうとする。が、意気揚々と玄関を開けた瞬間、今度はアサシンが絶叫する番であった。
「イィィィィィィッ?!」
「か、怪物だぁぁぁぁっ!」
そこには海魔と呼ばれるモンスターがいたのだ。そう、少年を殺すためにキャスターが呼び出していたために。その理由は、希望を与えた後で再度絶望へ叩き落として殺すため。恐怖には鮮度があるというのがキャスターの持論だからだ。が、それが失敗した事を察知し玄関口へ龍之介とキャスターが現れた。そこで彼らは少年を抱えるアサシンを見つける。
「あ? 何だ、こいつ?」
「アサシン、のようですねぇ。どうやら私達の愉しみを邪魔してくれたようです」
「チッ! なら取り返すまでだ!」
「あっ、お待ちなさい」
まったく強そうな感じのしないアサシンへ龍之介はナイフを手に向かっていく。それを止めようとするキャスターだが、当然といえば当然だ。サーヴァントは基本人間が勝てる相手ではない。それに、今の状況で下手に龍之介が突っ込むと海魔が攻撃出来なくなるのだ。
仕方なくキャスターは海魔を除去し、龍之介の好きにさせようとした。それと同時に龍之介のナイフがアサシンへ突き立てられる。
「どうだ!」
「……イ?」
「あれ?」
手に感じる感触はまったくといっていい程ない。どういう事だと思って刺したはずのナイフへ目をやる龍之介とアサシン。それと少年。すると、ナイフはアサシンの体に刺さる事なく刃が折れていた。神秘のない武器ではサーヴァントへ傷付ける事が出来ない。その法則が辛うじてアサシンを守ったのだ。
「嘘だろ? こいつ、意外と強いのかよ」
「魔力のない攻撃ではサーヴァントは倒せませんよ。ここは私にお任せを」
警戒するように距離を取る龍之介へキャスターのアドバイスが飛ぶ。一方アサシンはこのままでは逃げられないと察し、足手まといを手放す事にした。少年をその場へ下ろしたのである。
「え……?」
「イッ!」
邪魔だと言わんばかりに手を動かして少年を外へ追い立てるアサシン。よく分からないがそれが少年には逃がしてくれると取れた。なので当然こうなる。
「ありがと! 変なおじちゃん!」
「イ?」
笑顔で走り去っていく少年。何か自分はしただろうかと首を傾げるアサシンだが、その次の瞬間には彼の命運は尽きた。再度召喚された海魔によりあっさりと殺されたのである。が、今回のそれは場所が不味かった。狭い場所で起きる爆発。その音で他の住人達が騒ぎ出し、外へと流れる煙や炎を見て誰もが警察や消防へ連絡を入れ始めたのだ。龍之介は幸いにしてキャスターによって守られ怪我こそなかったが、このままでは捕まってしまうと判断。
「とりあえず逃げるぞ!」
「その方が良さそうですね」
玄関から慌てて逃げ出す龍之介と霊体化してそれを追うキャスター。その後、逃げた少年の証言により龍之介の犯行と決定づけられ、玄関での爆発は証拠を隠滅するための行動かもしれないと判断される事となる。一方で少年はどうやって逃げ出せたかとの問いにアサシンの事を話し、こう証言した。
―――お面をした正義の味方が助けてくれた、と。
こうして龍之介には別の罪状も加わる事となる。爆弾魔、という呼び名と共に。その裏には、一人の少年を期せずして助けてしまったアサシンの犠牲があった……。
七騎全てが出揃い、聖杯戦争は完全に幕を開けていた―――のだが、どの陣営も動きがないといってよかった。全てはアサシンのおかげというかせいである。
ライダー以外はあの宝具の影響を受けてしまうため、セイバー陣営とランサー陣営はマスター共々強烈な虚無感に苛まれ続け、アーチャー陣営とバーサーカー陣営はそもそも打って出るつもりはなかった上、後者は拠点への襲撃を許してしまったためにより防衛に力を入れていた。
そしてキャスター陣営もまた、何故か子供を狙うと高確率でアサシンと遭遇してしまい、その常軌を逸した感性さえも緩々と弱められていたのである。ちなみに、子供を狙うから遭遇するのであり、これが女性ならば60%程度まで遭遇率は落ちる。アサシンも自己の強化のために確実性を取って子供ばかりを狙っていたのだ。
それと、もう一つ小さいが大事な動きがあった。
「それではな」
「……はい」
言峰教会から綺礼が出たのである。アサシンが存在していると他のマスターに知られてしまった以上、教会にかくまう事は出来ない。更に元々監督役の璃正と親子であったため、綺礼は聖杯戦争中は二度と連絡や接触を取るなと厳命されたのである。
新都の街を歩きながら綺礼は一度だけ立ち止まる。行くあてがない訳ではない。住まいは手配されているし短期間であれば貯えで生活も問題ない。ただ、アサシンのマスターである以上今後は狙われ続ける。しかも、悲しいかな。アサシンは完全に綺礼よりも弱く、また数も無限に近い程いるため楽にドロップアウト出来ないのだ。
「……主よ、これが試練だと言うのですか」
時臣からもアーチャーがアサシンを毛嫌いしているので来るなと言われている。既に当初の共闘などなくなっていた。アーチャーは気付いたのだ。アサシンと手を組む事は結果的に自分の損にしかならないと。ここが彼の凄いところであるが、残念な部分でもある。何故なら、アサシンはいるだけで意味を発揮してしまうのであり、近くにいるかいないかは被害の大小の差でしかないのだから。
(イーッ、綺礼様、アジトを変えるというのは本当ですか?)
(本当だ。今後は今まで以上に厳しい状況となる。アサシン、分かっているだろうな?)
(イーッ、勿論です。必ずやライダー共の息の根を止められるよう、動いてみせます)
(うむ。それと、何故そこまでライダーにこだわる? あと、拠点をアジトと表現するのは何故だ?)
(イーッ、我らの宿敵だからです。それと、アジトをアジトと呼ぶのは普通では?)
(…………そうか。もういい。引き続き監視等を続けろ)
(イーッ!)
アサシンの声が聞こえなくなったのを合図に、綺礼は大きく深いため息を吐いた。最初は最低限だったイーッと言う声も、倒されていく毎に必須レベルにまで変わり、今や絶対に言うようになっていたのだ。
「私は……ハズレを引いたのだろうな」
心の底から噛み締めるように呟き、綺礼は重い足取りで歩き出す。今日から住まう新しい部屋へ、アジトへ向かって……。
サーヴァントになると従来の能力が十倍になるらしいですが、今作のアサシンである戦闘員は既に生前に改造手術という形で人間として死んでから強化されているため、その恩恵に与れません。なので対マスターでも最弱です。
スペックは常人の十倍? 昭和ライダーではスペックなどは意味を成しません。意味があるのは特殊能力ぐらいで、身体能力系はただの目安。だから戦闘員は少年ライダー隊どころか犬にさえ勝てないのです。合掌。