もしも言峰が召喚したアサシンがあの戦闘員だったら   作:拙作製造機

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またもタイトルまま。読んでいただき感謝。短編日刊ランキング上位に載っててビックリ。本当にありがとうございます。


絶対悪もたまには役立つ事もある

「魔力を供給する量が少なすぎる気がする?」

「はい」

 

 遠坂邸のリビングに綺礼の姿があった。アサシンは彼の傍にいない。その理由はいくつかあるが、一番は護衛するべきアサシン自身が綺礼より弱いためである。故に綺礼はアサシンを護衛より諜報の方へ回し、自分の身は自分で守るを地で行こうとしていた。

 

「どうしてそう思うのかね?」

「その、アサシンが言うには奴らは倒される度に補充が常にされるらしいのです」

「……俄かには信じられない内容だな。それではアサシンは決して敗退しない事となる」

「はい。唯一の方法はマスターである私を殺すだけです」

「ふむ、それでそれがどう関係してくるのだ?」

「…………その補充があっても私の体には何の負担もかかっていないのです」

 

 その一言が時臣にも衝撃を与えた。サーヴァントであるアサシンがある種の永久不滅である事もさることながら、一番はその再生などが起きてもマスターである綺礼が感知出来ない事の意味する事に。

 つまり、アサシンはその存在を維持するための魔力をマスターではないところから得ている。そこまでくれば心当たりはそう多くはない。

 

「まさか、アサシンはこの聖杯戦争の根幹からその存在を作り出しているとでも言うのか……」

「私は詳しくは知らないのですが、この聖杯戦争は英霊の域にまで達した死者を一時的に甦らせるようなものだと聞いています。であれば、アレは一体どういう英霊と思われますか?」

「綺礼、反英雄の話を覚えているかね。私はアサシンは間違いなくそれだと思っている。彼らは暗殺を生業としていたはずだ。つまり、悪行を知らしめる事で善行をはっきりと分からせた。故にサーヴァントとなれたのだろう」

 

 その推測は正しかった。アサシンはとある世界で恐れられた組織の構成員の主だった姿であったのだから。反英雄と言えばそうかもしれないが、事実としてはこの上ない英雄と敵対していたからこそのサーヴァント抜擢と言える。即ち、この世絶対の悪。

 まぁ、かのヒーローと激戦を繰り広げた存在達は多種多様にいるため、名もなく同様の存在が無数にいる彼らこそがアサシンのクラスに該当したのも大きいが。

 

 もし仮に死神の名を持つキャスターや、大佐との称号を有したバーサーカーなどが召喚されていたら、それこそこの世全ての悪と同様かもしくはそれ以上に厄介な事態を招いていただろう。……きっと誰もが予想する正しい意味で。

 

 と、その時綺礼にアサシンからの報告が入る。

 

(イーッ、綺礼様、大変です。とんでもないものを見つけてしまいました)

(どうした?)

(イーッ、補充として合流した者達が出てくる洞窟があるのですが、何となしにそこを調べてみた結果、恐ろしい程の魔力を感じるのです。至急、ご確認をお願いします)

(分かった。では、案内役を遠坂……いや深山町のバス停付近へ寄越せ)

(イーッ!)

 

 最後の締め括りにも慣れた綺礼は、それでも小さくため息を吐いた。

 

「どうかしたのか?」

「アサシンが何やら見つけたようです。おそらくですが、聖杯戦争に大きく関わるものかと」

「ほう、それは興味深いな。少し待ってくれ」

「はい」

 

 そう告げると時臣は少しだけ意識を集中するように目を閉じる。アーチャーへ今の事を報告しているのだろう。そしてその返事はすぐに出たようだ。

 

「アーチャーも行くと言っている。どうやら探検という行動に感じるものがあるようだ」

「英雄王、ですからね。未知の場所などへ足を踏み入れる事は嫌いではないのでしょう」

「だろうな。そうだ。分かっていると思うが」

「案内をさせたらアサシンは下がらせますのでご心配なく」

「うむ、すまないがそうしてくれ」

 

 こうして綺礼達はアサシンの案内により柳洞寺へと向かう。そこで二人はある予感を感じていた。ただ、その内容が綺礼と時臣でまったく違うものではあったが。

 

(まさか……アサシンは柳洞寺の霊脈を大発見と勘違いしてはいないだろうか?)

(聖杯の降臨場所の一つでの発見、か。もしや先んじて聖杯を押さえる事が出来るかもしれない)

 

 アサシンをある意味で信頼していない綺礼と、柳洞寺についての情報が彼よりも多い時臣ではそもそものベクトルからして違っていた。嫌な予感と思う綺礼と朗報と取る時臣という具合に。だが、もう一人の存在はそのどちらでもなかった。

 

(雑種、そこは本当に人を寄せ付けぬ結界が施されていたのだな?)

(イーッ、間違いありません。ナチスの遺産などが隠されていてもおかしくない雰囲気もありました)

(なちす? ……ほう、様々な美術品などをな。この世にある全ての財は我の物だ。ならばそれも我が取り戻さねばならんか)

 

 分からない事はすぐに教えてくれる聖杯戦争のシステムを使い、アーチャーは少しだけ愉しそうに笑う。勘違いしてはならないのは、アーチャーがアサシンを嫌っているのは共闘関係という状況だからであり、見るのも嫌だとまでは考えていない事である。

 何せアサシンは根っからの下っ端思考。初対面時から威厳や強者感が凄まじいアーチャー相手に媚びへつらうかのような立ち振る舞いをしたのだ。それが臣下というよりは奴隷のように思え、アーチャーとしてはそれならそれでと受け入れ扱っている。奴隷を毛嫌いするというのは彼の価値観にはない。奴隷は人ではなく物であり、そこへ感情を向けるなど有り得ないからだ。

 

 そうしてやってきた柳洞寺。彼らは参拝客のように装いながら墓地の方へと足を進める。やがてそこから少し逸れた道へとアサシンが向かい、その後を綺礼達が追う。すると、たしかに若干の抵抗感のようなものを感じたのだ。

 

「師父、これは……」

「ああ、人払いの結界に間違いないだろう。綺礼、これはもしかすると本当に大手柄かもしれない」

 

 期待に満ちた表情を浮かべる時臣とは逆に、不安が増したような顔をする綺礼。そう、綺礼は何となくだが気付き出していた。アサシンに期待すればするほど、もたらされる結果は逆になると。

 道と呼べないような道を歩く事数分。綺礼達の目の前に洞窟が姿を見せた。そこから漂ってくる魔力は確かにその洞窟がただの洞窟ではないと二人へ告げていた。

 

「綺礼、これはもしかするともしかするかもしれない」

「と言うと?」

「聖杯だ。聖杯の出現する場所は実は決まっていてね。その候補は四つ。一つが君達親子が暮らす言峰教会。二つ目は我が家。三つ目は間桐家。そして四つ目が」

「ここ、柳洞寺」

「そういう事だ。アサシンが見つけたものは、完成前の聖杯かもしれない」

 

 ここにきて、やっと綺礼も不安を払拭した。何せ時臣から有力な根拠を提示されたからだ。人払いの結界も聖杯を持ち込むアインツベルンが施したとすれば納得がいく。と、そこで綺礼は気付いた。

 

「では師父は、ここにアインツベルンが訪れたと?」

「もしくは、あの魔術師殺しに運ばせたのかもしれない。我々は聖杯がどういうものか知らないが、セイバーの剣を覚えているだろう」

「……不可視化の魔術」

「そうだ。それを聖杯に施し、我々の目をセイバー達へ向けておいてここへ来たとも考えられる」

「たしかにそう考えれば目立つ行動を奴らはしていました」

 

 無駄に頭が回ると色んな事を考えるもの。それと、遠坂家伝統の能力が合わさり、今盛大に二人は勘違いを始めていた。ここで面倒なのはその中に事実が混ざっている事である。衆目を引くためにセイバーとアイリは行動していたのだから。

 

 このまま思考に没頭しそうな二人を見て、アーチャーは霊体化したまま呆れるように息を吐いた。

 

(時臣、いつまで我を待たせるつもりだ)

「はっ、これは失礼を。では、王よ。どうされますか?」

 

 先頭に立つか後ろからついてくるか。これはアーチャーの事を考えての時臣なりの心配りだった。王とすれば後ろから。だが、歴史に残る冒険家だった彼ならば人より後に未知の場所へは入りたくないだろうと。

 

(無論我が先だ。そちらは我の後をついてこい)

「御意」

 

 頭を垂れる時臣と合わせるように綺礼も頭を下げる。それへ目もくれずアーチャーは実体化するや洞窟の中へと入っていく。自分の足で地を踏みしめて行きたいのだ。かつて友と共に世界を旅して回った頃のように。

 その背をある程度見送り、時臣たちも中へと足を踏み入れていく。彼らの前にはアサシンの一人が現れて先導を務めていた。勿論アーチャーの前にもアサシンがいる。

 

 奥へ進めば進む程魔力の質が濃くなるような感覚を覚えながら、三人はその足を進めていく。やがて、その視界の先がぼんやりと明るくなり始めた。最初こそヒカリゴケでもあるのかと思った綺礼達だったが、それが魔力の光だと気付いた時には、その眼前にとある物が見えていた。

 

「これは……」

「何と、魔法陣か。それも……」

「何だつまらん。これが聖杯とやらならば我の知る物とは異なるようだな」

「いえ、王よ。これはある意味では聖杯を超えています。これは、大聖杯とでも呼べばよいでしょうか。この聖杯戦争を支える根幹の部分です」

 

 落ち着いて話してはいるが、今にも時臣は叫び出したい程の興奮を覚えていた。彼はすぐにその魔法陣がサーヴァント召喚用の物に酷似している事に気付き、綺礼から聞いたアサシンの補充がここから出てくるという事実から察したのだ。ここが、聖杯戦争の大元を支える場所であると。

 

「綺礼、アサシンを褒めてやるといい。これはたしかに大発見だ。上手くすれば今後の戦いにも有利に働く」

「それほどですか?」

「うむ、おそらくだがここを知る者はいないと言っていい。いや、アインツベルンと間桐の老人は知っているかもしれないか。とにかく、ここはアサシンを配置し常に監視下に置くべきだ。ここに数人、出入口に一人ないし二人がいいか。綺礼、頼めるか」

「はい。聞いたなアサシン。そのように配置せよ」

「「「「「イーッ!」」」」」

 

 いつの間にか複数現れるアサシン達に驚く事なく、綺礼達は少しだけその場で話し合い、そして大聖杯を後にする。しかし、アーチャーは何故かその場に残っていた。その眼差しはアサシンへと向けられている。

 

「雑種よ、一つ答えよ。ここから貴様は補充がかかると言っていたが、どうしてだ?」

「イーッ、それは我々が絶対悪だからです」

「絶対悪? どういう意味だ。それで何故ここから補充される事となる?」

「イーッ、我々はいわばここから召喚されたようなモノだからです。マスターは綺礼様ですが、我々の触媒はこの場所に巣食う何かだと思われます」

「……この場所に巣食う何か、だと?」

 

 アーチャーの目がアサシンから大聖杯へと向けられる。淡い光を放つそれは、どこか神秘的な印象を受ける。が、アーチャーは微かに気付いた。その漂う魔力の中にわずかではあるが重く嫌悪感を抱くような何かが混ざっている事を。

 

「…………これは、面白い事になるかもしれんな」

 

 愉しそうに笑うアーチャー。だが、それもすぐに消して彼はアサシンへと視線を向ける。

 

「雑種、貴様の知っている事を全て話せ。ここに関係する事は全てだ」

「イーッ、分かりました」

 

 こうして語られる内容を聞いてアーチャーは思わず息を呑む事となる。目の前の取るに足らんと思った存在が、実は”生まれ方だけ見ればどんなサーヴァントよりも異質”であると痛感したために。そして、同時に理解するのだ。何故アサシンと共闘してはならないと感じたのかを。

 

―――貴様は中々愉しませてくれるかもしれんな、アサシン。

―――イーッ、ありがとうございます。

 

 暗闇の中、淡い光を浴びながら話す二人の姿は、見る者が見ればまさしくそういう物のワンシーンだったろう。悪の怪人とその手下による悪巧みの光景に……。

 

 

 

 時臣が忘れられていた大発見に浮かれている頃、ある陣営に大きな変化が起きていた。

 

「セイバー、君はアサシンと直接対峙した。そこから何でもいい。分かった事を教えてくれ。あのアサシンは危険だ。対応策を練るにも情報が無さ過ぎる」

 

 やっと虚無感から脱した切嗣がセイバーへ自ら会話を求めたのだ。これにセイバーだけでなくアイリや舞弥も驚きを見せ、しばらくその場に沈黙が流れた程だ。が、セイバーはすぐに意識を切り替え、どこか嬉しそうな雰囲気を漂わせながらアサシンとの戦闘を思い出す。

 

「そうですね……最初は気のせいだと思いました。アサシンを一人倒した瞬間、私の胸の内に今まで感じた事のない虚しさが去来したのです。それはアサシンを倒せば倒すだけ大きくなり、途中からは……」

「剣を捨てたくなった。そうだな?」

「……はい。騎士としてあるまじき事ですが、あの時の私は剣を捨てその場からも逃げ出したかった。それをせずに済んだのは、アイリスフィール、貴方がいたからだ」

「私?」

「ええ。貴方を置いて逃げるなどは騎士としてだけでなく私自身が許せなかった。だから、最後まで踏み止まれた」

 

 柔らかい笑みを浮かべるセイバーだが、すぐにそれが曇る。

 

「セイバー?」

「……マスター、あのアサシンは危険だと言いましたね。私も同意見です。しかも、おそらくですがアサシンは未だに大勢存在するでしょう。私がこうなったと言う事はランサーも似た状態のはず。これは、もしかすると我々の戦闘意欲を奪い、仲間割れを起こす策では?」

「……たしかに僕と君ではアサシンの影響に差が多少あった。聖杯戦争に参加するマスター達は基本的にその願いがある。だが、サーヴァントにしてみれば所詮一時の事。それも自分よりも劣る可能性が高い相手に使役される訳だ。そこにあのアサシンの能力が干渉する事で……」

「はい、継戦を望むマスターと望まぬサーヴァントという構図が出来上がるかもしれません。あるいは、場合によっては逆もありえます」

「……アイリ、魔術でそういう事は可能かい?」

「…………出来ない事はないけど、それならセイバーに通用しないわ。三騎士と呼ばれるクラスは魔力に対する対抗力が強いの」

「では、魔術ではないと?」

「おそらく。アサシンの宝具かもしれないわ。真名解放を必要としないものもあるから」

「呪いの類、という可能性は? 暗殺者であるのならそういう方向の者がいてもおかしくない」

 

 舞弥の言葉に切嗣はふむと手を顎に当て考え始める。こうしてセイバー陣営が対アサシンで協調を見せ始めた頃、ランサー陣営では信じられない事をケイネスが提案していた。

 

「「同盟を組む?」」

「ああ、そうだ。あのアサシンと事を構え続ければこちらは勝利しながら敗北する事になる。ランサー、主に忠を尽くして戦うと思うお前でさえ、槍を握り続ける事に躊躇いを覚えたのだ。おそらく、アサシンを倒した者へ戦いへの拒否感を与える何かがあるのだ。魔術か呪術かは分からないが、魔力供給をしているだけのソラウでさえ影響を受けた事を考えると、アサシンの狙いはこちらの無力化だ。戦闘意欲を失わせ、継戦意欲を削ぐ。そしてそうなったと思われた陣営から物量を以って仕留めると、こういう事だろう」

 

 ケイネスの考えはある意味で間違っていない。ただし、それはアサシン陣営がその能力を正確に把握して運用していればの話である。綺礼どころかアサシン本人さえ宝具の効果もその存在も知らない以上、それはまったくの考え過ぎというもの。ただ、この聖杯戦争で宝具の事を理解していないサーヴァントなどいるはずもないと思うのが普通なので、彼がこういう結論になるのも無理からぬ事ではあるのだが。

 

「それは分かったわ。でも、同盟と言っても」

「あのアサシンの能力を危険視しているのはセイバーも同じはず。なら、同盟とはいかずともアサシン陣営を撃破するまで休戦ぐらいは応じるだろう。今、あの能力を知る者が恐れるのは、アサシンの能力で戦闘力が落ちた瞬間を他の陣営に狙われる事だ」

「……応じるとは思えませんが」

「それならばそれでいい。こちらには向こうに応じさせる材料がある」

「材料?」

「ランサーの付けた傷だ。あれがある限り、セイバーは全力を出せん。アサシンを討ってくれればそれを消してやると言えばいい」

「まさか、それで向こうが応じると?」

「セイバーの全力とアサシンの能力。どちらが厄介かは言うまでもない」

 

 その言い方は本当にセイバーの傷を治せるようにすると言っていた。ケイネスなりにアサシンの事を警戒しているのがよく分かる事と言える。これに感動したのはランサーだ。彼はケイネスの在り方や考え方に僅かではあるが不満を持っていた。そこにきてのこの提案である。この裏には、ランサーであれば全力のセイバー相手に槍が一本でも勝てると思っていると彼には伝わったのだ。

 

「マスター、このランサー、例え槍が一つになろうと必ずやセイバーだけでなく他のサーヴァント達をも討ち取ってみせましょう」

「そうでなくては困る。だが、分かっていると思うが……」

「はっ、アサシンとの交戦は極力避けます」

 

 ランサーの言葉に満足そうに頷き、ケイネスはランサーへセイバー陣営を訪れ、先程の提案をするよう指示を出す。更に手紙を持たせ、ある助言までしたのだ。その様子を見つめ、ソラウは意外そうに目を見開く。

 

(あのケイネスにも男らしいところがあるのね……)

 

 ランサーへ指示を出し、先の事を考える横顔はまさに出来る男の顔である。今まで気付かなかったケイネスの一面にソラウは微かな好意を抱いた。それもまたアサシンの宝具による影響。ランサーの能力がアサシンにより弱体化し、加えてソラウもアサシンの宝具による影響を受けたからこその結果だった。そして、それはランサーとは違い本当に自然な好意。故に、ソラウからすれば小さく笑みを浮かべてしまう程の可愛らしい感情の波だった。

 

「ケイネス、私には何かないかしら?」

「ソラウに? ……なら、すまないが自分の身を守る事を今まで以上に考えて欲しい。アサシンというのは対マスターに特化している。ないと思うが、ここへ息を潜めてやってこないとも限らない。勿論私やランサーで守るが、いざという時は君自身が頼りだ」

「分かったわ。私も魔術師の家に生まれた者、色々な意味で覚悟は出来てるから」

「頼む。よし、ランサーよ、この手紙を持ってアインツベルンへ接触せよ。もしセイバーの事を持ち出しても頷かぬ時は、分かっているな?」

「はっ、必ずやマスターの意に沿うような結果を持ち帰ってみせましょう!」

「当然だ。では行け、ランサー」

 

 その言葉を合図にランサーがその場から立ち去って行く。その背を見送り、ソラウはケイネスへ視線を向けた。

 

「何をランサーへ言い含めたの?」

「なぁに、大した事ではないよ。もし奴らがセイバーの傷を条件にする話で頷かぬ場合、その場でゲイ・ボウを折ってやれと言っただけさ」

「……いいの?」

「もしそれでも頷かないのならば仕方ない。が、あの騎士然としたセイバーがそこまでされて頷かぬマスターと折り合えるかな? もしかすれば、セイバーが単身アサシンを討ちに行くかもしれない。どちらにせよ、最優のサーヴァントは弱体化するのさ。そして、アサシンの目もそちらへ向くのなら好都合だ。精々派手に動いてもらおう。私達はその間に漁夫の利を狙う」

「というと……まさか」

 

 ケイネスの考えを察してソラウが妖艶な笑みを浮かべる。それに彼も口の端を吊り上げてみせた。

 

―――アサシンと戦い、あの能力で戦う意思を無くしたところを討たせてもらおう。

 

 

 

 さて、セイバー・ランサー両陣営が次の動きを見せ出した頃、ここ間桐邸でもある変化が起きていた。

 

「イィィィィィッ!」

「……これで何度目だ?」

「五度目……です、マスター」

「ああ、だったか。くそっ、何でアサシンはいつもいつも蟲蔵に現れるっ!? しかも桜ちゃんがいる時に限って!」

 

 何と、防衛に力を入れているにも関わらず、アサシンは雁夜の目を掻い潜るように侵入を果たしていたのだ。そしてその度に撃退され、雁夜の闘争心が弱体化していた。そう、時臣への憎しみにも似た競争心が。

 更にバーサーカーもその狂気を薄れてさせていき、既に会話が可能となり始めている。だがスタータスが下がる訳ではないので思わぬ効果をこの二人へ与えていた。それと……

 

「お疲れ様、おじさん。バーサーカーもありがとう」

 

 何度もやってくるアサシンから守ってもらう内、桜も度胸がついてきたのか少しだけ笑う事が増えてきたのだ。桜の労いに雁夜は小さく笑みを返し、バーサーカーはその場に臣下の礼を取るようにしゃがんだ。バーサーカーにとって、桜は守るべき姫である。マスターである雁夜が命懸けで守ろうとしているためだ。

 

「桜ちゃん、怪我はなかったかい?」

「うん。でも、また……」

 

 そう言って桜は後ろを振り返る。そこには間桐の象徴とも言うべきおぞましい蟲の死骸が転がっていた。アサシンの爆発で絶命したのだ。

 

「いいんだ。蟲なんていくらでもいる。桜ちゃんには代えられないよ」

「おじさん……」

「それにしても、臓硯の奴最近姿を見せなくなったな。どうしてだ?」

 

 アサシンによる襲撃があった次の日から、この家の主である臓硯は姿を見せなくなっていた。雁夜が最後に会ったのはまさしく襲撃のあった日である。きっとどこか安全な場所で自分の身を守っているのだろう。そう考える雁夜へ桜が小首を傾げて告げた。

 

「おじい様なら会ったよ」

「え? 本当かい?」

「うん。だって、魔術の練習をしなさいって言ってくるから」

「……そうか」

 

 考えてみればそうだった。そう思って雁夜は拳を握り締める。と、そんな時だ。バーサーカーが何かに気付いて立ち上がった。そのまま彼は蟲の死骸へと近付いていく。やがてその場へしゃがむと、その手に何かを掴んで立ち上がる。

 

「どうした、バーサーカー」

「……これ、を……」

「何だ、それは?」

 

 それは、大鷲のレリーフだった。アサシンの腹部にある物だ。

 

「それ、たしかあの黒い人の物だよ」

「……言われてみればベルトの中央にあった奴か。だが、何故それが?」

「僅かに、魔力を……感じます」

「魔力を? ……まさかっ!? それを目印にここへ現れてるのか!?」

 

 これまでアサシンを撃退した後、蟲の死骸などへ意識を向ける事はなかった。それに、バーサーカーも蟲の死骸に紛れているアサシンの魔力を感じ取れる程の理性がなかったのもある。こうしてアサシンの侵入経路は潰された。

 ちなみに、実際は倒された一人があそこで再生していただけである。まさしくゴキブリのような状態だった。アサシンを一度相手したら何度も戦うと思え。そう出来たのは、やはり間桐邸が魔術師の工房だったからだろう。邪悪な魔力に満ち、アサシンの魔力を感知しにくくなる場所だったためだ。

 

 雁夜はレリーフを手にしたバーサーカーへ小さく頷く。それを見てバーサーカーがレリーフを上へ投げ放ち、その拳で打ち砕いた。

 

「これでいいだろう。もうアサシンが現れる事はないはずだ」

「……そっか。もう出てこないんだ、あの人」

「桜ちゃん?」

「……あの人が来ると、練習、しなくてよかったのに」

「っ!?」

 

 ぽつりと呟かれた言葉の重みに雁夜は何も言えなくなった。桜はアサシンに襲撃されるよりも、魔術の練習の方が怖く嫌だったと痛感させられたのである。それ程までに辛い事を強いる間桐の家。それに雁夜は激しい怒りと強い無力感を抱く。自分さえ逃げなければこの幼い少女は今も姉や母と一緒に居られたはずなのにと、そう思って。

 

「バーサーカー、打って出るぞ」

「……いいの、ですか?」

「ああ。ここにこもっていても桜ちゃんを苦しめるだけだ。なら、俺達が他のサーヴァントを倒してこの子を今の状況から救い出す。あの爺は俺が聖杯戦争の勝者となったら桜ちゃんを解放すると言った」

 

 その言葉に桜が目を見開く。雁夜はそんな彼女に優しくも強い笑顔を浮かべてしゃがみこんだ。

 

「桜ちゃん、もう少しだけ一緒に戦ってくれるかい?」

「一緒に……たたかう?」

「ああ。俺達がアサシン達を倒すまで、蟲やあの爺と戦って欲しいんだ。必ず桜ちゃんをこんな場所から助け出してみせるから」

「…………うん」

「ありがとう」

 

 一度だけ優しく桜の頭を撫で、雁夜は立ち上がる。そして屋敷中に聞こえる程の声を出した。

 

「臓硯、聞いていたなっ! 俺は必ず約束を果たす! だから必ずお前も約束を果たしてもらうぞっ!」

「おじさん……」

 

 たった一人の少女のために血塗られた道を行く男、間桐雁夜。本来そこにあるはずの嫉妬や憎悪は薄れていた。アサシンの宝具の効果は、こんなところにも影響を与えていた。

 彼はバーサーカーの狂気が薄れた事により、その制御などからも解放されつつあり、蟲の方もアサシンの襲撃による爆発などで臓硯が隠れているためか大人しくなっていた。それは、彼の命の炎が燃え尽きるまでの猶予が伸びたという事。

 

―――待ってろ、アサシン。まずはお前から倒してやる……っ!

 

 今、闇に潜むアサシンを狙い、影の男(ダークヒーロー)が動き出そうとしていた……。




絶対悪であるアサシンは、基本みんなの嫌われ者。セイバーもランサーもバーサーカーさえもその首を狙い出す。つまり、一番危ないのはそのマスターです。言峰、強く生きろ。キャスターがなるはずの討伐対象になりつつあるけど。
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