もしも言峰が召喚したアサシンがあの戦闘員だったら   作:拙作製造機

4 / 5
タイトルままな内容。これで終わり。読んでいただきありがとうございます。


絶対悪が導く結末

「「「「「イーッ!」」」」」

「くっ、どうやら本当のようだな」

「ええ、柳洞寺へ向かうにつれアサシンの数が増えている。やはりアサシンのマスターはそこにいる!」

 

 時刻は深夜。ランサーの訪問を受けたセイバー陣営はその申し出を結果的に受諾した。しかも、ゲイ・ボウを折る必要はないとまで告げたのだ。これにはランサーも、そしてケイネス達も驚きを隠せなかった。ただし、それにはある切嗣なりの考えがあった。

 

―――代わりにアサシン退治にはランサーの手も貸して欲しい。

 

 そう、ケイネスが考えている事など誰にでも分かるもの。ゲイ・ボウを折らせない代わりに自分達と同じリスクを負えと迫ったのだ。これにケイネスは少し思案し、何とソラウとランサーへ意見を求めたのだ。

 

―――ランサー、お前はどうするべきだと思う? ソラウ、君も意見を聞かせてくれ。

 

 こうしてランサーとソラウが一致した意見を出した。それは、セイバーとランサーを臣下にと誘ったライダーを巻き込む事。何故なら、彼だけはアサシンを倒しても何の影響も受けていなかったように見えたためだ。

 

 それを受け、ケイネスが切嗣へライダーを巻き込む事を提案。その狙いをセイバーだけでなくアイリも理解し切嗣へ同調するように意見し、ならばと両者のサーヴァントが揃ってライダーの拠点を訪れる事になった。

 

―――我らを臣下にと言うのであれば、まずその力を見せてもらおう。

―――征服王よ、この聖杯戦争にはびこるアサシンの黒い影、見事制圧してみせろ。

―――ふむ、そうくるか。よかろう。

 

 ライダーのマスターである少年―――ウェイバー・ベルベットは突然の事に理解が追いつかない……とはならず、二陣営がアサシンを警戒しているのを察した。

 

―――魔術師殺しにあのケイネスまでアサシンを? つまり、あいつって見た目以上にヤバイって事か……。

 

 自分よりも実戦経験が多い切嗣や魔術師として研鑚を積んでいるケイネスが揃って共闘を選んでいる事実。それをウェイバーは素直に受け止める事が出来る柔軟性と冷静さを持っていた。彼は、即座にライダーへ二陣営と共闘する事を認めたのだ。

 

 この動きは、当然アサシン陣営へ伝わる。

 

―――イーッ、綺礼様、大変です! ライダーがセイバーとランサーと手を組みましたっ!

―――……是非も無し、か。

 

 既にどこか諦めムードな綺礼は、残る気力を振り絞るように立ち上がるやアサシンへこう指示を出した。それは、何があっても大聖杯を守れ。そこへ誰一人として近付けるなというもの。それを令呪を以って命じた事でアサシンにも綺礼の覚悟が伝わったのだろう。

 

―――イーッ、お任せください綺礼様。必ずやその命令、果たしてみせます。

―――ああ、頼んだぞアサシン。

 

 そして綺礼は一人狙いを付けていた相手である切嗣と戦うべく、アインツベルンの拠点へと向かうのだった。その姿にアサシンはサーヴァントとなる前のどんな幹部達よりも優しく、そして立派な上司へ最敬礼とも呼べる動きを見せた。

 

―――イーッ!

 

 右手を高く掲げて声を上げるアサシンに見送られ、綺礼は一人アジトを出る。が、すぐに隣の住人である五十代の婦人に掴まり、先程のアサシンの声を理由に注意を受ける事となったが。

 

 そんなこんなで唐突に始まるアサシン討伐戦。彼らの誰一人として知らないが、これは聖杯戦争最後の戦いとなる。何せアサシンが守るは大聖杯。そこでサーヴァントが全力を出し合えばどうなるか想像に難くない。

 

「はぁっ!」

「イィィィィッ!」

 

 セイバーの剣閃があっさりとアサシンの一体を宙に巻き上げ爆散させる。その瞬間、セイバーの胸に去来する戦いへの虚無感。それでも彼女は首を振って剣を握る手に力を込める。

 

「セイバー、無理に自分で倒すな。ライダーへ任せろ」

「分かっているのですが……」

 

 アサシンの一体をランサーがライダーのいる前へ蹴り飛ばしながらアドバイスを送る。ライダーは戦車でアサシン達を文字通り弾き飛ばしていた。ウェイバーもその隣で蹴散らされるアサシン達を眺め、どこか噛み締めるように呟く。

 

「こいつら、ほんっ…………きで弱いんだな」

「まったくだ。手応えのない」

「だけど、そんなこいつらをセイバーもランサーも警戒してる。どういう事だ?」

「宝具、ではないか? 先程から倒す度に一瞬ではあるが妙な感覚を覚えるぞ」

「……真名解放をしないで使える宝具。倒しても倒しても現れるアサシン。まさか、こいつらの戦法って自爆か?」

「ほう、よくぞ気付いた。余もそうだと思っておる。でなければ、ここまで弱くはない」

「弱いのを逆手にとって、倒させるだけ倒させて自動発動の宝具で苦しめるのか。何て戦い方だよ。負けて勝ちを取るって、聞いた事もない」

 

 そんなウェイバーの言葉にライダーは小さく笑う。それは自嘲の笑み。彼は召喚されて知ってしまったのだ。自分が築いた大帝国は、その死後後継者争いで揉めに揉めて複数に分裂してしまった事を。まさに、ウェイバーの言った事の逆になった訳だ。勝って負けるという結末に。

 

「そんな事もないぞ。今はどうか知らんが、余の時代では血や名を遺せば勝ちだった。故に男も女も様々な家へ嫁がせ、血が絶えぬようにしていた。例え弱小国であろうと、その王家の血を絶やす事なく勝利した国の王家へ入れ、その血を持った子が王になれば負けて勝ったと言えなくもない」

「……要するに目先の勝利じゃなく最終的な勝利さえ得られればいいって?」

「そうだ。このアサシンはそういうために戦っておったのだろう。その身が取るに足らぬ扱いだとしても、な」

「目先じゃなく最終的な勝利……」

 

 それは、どこか自分へも通じる考えだった。今まで彼は目先の事に囚われていた。優秀な者であれば、何代も続いたような家柄の者よりも上になれる。そうであるべきだと思って彼はこの聖杯戦争へ参加した。己の優秀さを証明するために。

 だが、それは目先の勝利を求めた結果だ。最終的な勝利を収めるためには少々浅慮だったと痛感している。入念な準備もしなければ、戦う相手の情報なども不足しているために。

 

(どうすれば良かったんだ。これに参加した事は……間違いじゃない。家柄や歴史を跳び越えるには、実力を示すしかないのは事実だ。だけど、僕はそれを突発的にやり過ぎた。せめて、事前に聖杯戦争で実力を示すとして計画するべきだったのかもしれない)

 

 ウェイバーは魔術師としては新興の者だ。故にまだその考え方や在り方が旧態依然の魔術師とは違っていた。だから、彼は反省し、先を見る事が出来る。魔術は万能ではないし未来が明るいはずもないと。

 

「ライダー、僕達は先行してアサシンを蹴散らすぞ」

「その理由は?」

「簡単だ。アサシンを見てると妙にこっちへ突っかかってくる。あの初めての戦闘でも思ったけど、こいつらはお前に、もっと言えばライダーってクラスに過剰反応してるんだ。なら、こちらでアサシンを引き付けてセイバー達をマスターのいる場所まで行かせよう」

「……よし、大局を見れるようになってきたな。やはり、一角の将となれる器があるやもしれん」

「言ってろ。セイバー! ランサー! 今からこっちでアサシンを引き付けて道を作る! マスターはそっちに任せるぞ!」

「成程、了解したっ!」

「ライダー、そのマスターも武運を祈る!」

 

 駆け抜けていく戦車。それにアサシンが跳ね飛ばされて巻き起こる爆発を追い駆けるようにセイバーとランサーも走り出す。彼らは着実に大聖杯へと近付いていた。

 

 さて、深夜の田舎町とはいえ、ひっきりなしに起きる爆発音などあれば当然警察や消防へ連絡が入る。その対応に追われているのは聖杯戦争の監督役である言峰璃正だ。もう高齢となり始めているにも関わらず、深夜にあちこちへ電話をし、根回しやもみ消しにと忙しく動き回っていた。

 

「ええ、そうです。……はい、よろしく頼みますよ」

 

 寝ているところを叩き起こされたのか、その格好は神父のものではなく寝間着であった。受話器を置いて、すぐに彼はまたどこかの電話番号を入力していく。

 

「あー、夜分遅くにすみません」

 

 関係各所へ連絡しながら璃正は思うのだ。もうこのご時世に聖杯戦争は厳しいのかもしれない、と。秘匿するのが難しい時代となってきたからである。まあ、今回に限って言えばアサシンの宝具のせいでより一層その傾向は強いのだが。

 

「申し訳ないがよろしくお願いします。では……」

 

 この璃正の地味な戦いは結局朝まで続く事になるのだが、今はまだそれを誰も知らない……。

 

 

 

「一体何の用かな? まさか私と戦おうというのかね?」

「……前まではそのつもりだった。だが、今はそれよりもやらなきゃならない事がある」

 

 セイバー達が柳洞寺へ向かっている。それをアサシンの一体から報告され、時臣は大聖杯へと向かおうとしていた。が、家を出て少し歩いたところで雁夜と遭遇したのだ。余裕を見せるように話す時臣と不気味な落ち着きを見せる雁夜。実は、今の二人にはある共通点があった。

 

((よりにもよってこんな時に……))

 

 二人してサーヴァントと別行動を取っていたのである。時臣は勝手にアーチャーが動き、雁夜はアサシンを倒すために分散行動中だった。ここでもアサシンのせいで面倒な事になっていたのだ。

 互いに相手のサーヴァントを警戒し、それでも出来るだけ穏便にその場を切り抜けようと頭を動かす。普段であれば、時臣は雁夜と戦う事を選んでいただろう。だが、今は大聖杯の危機である。出来るだけ素早く現場へ向かいたいと思っていた。雁夜は雁夜で一番最後にしたい相手をどう戦わずに回避するかと考える。そう、夢にも思うまい。今、自分達の思考が一致しているとは。

 

「遠坂時臣、お前は今桜ちゃんがどうなっているか知っているか」

「桜? ……成程、君が間桐のマスターか」

「ああ、そうだ。それで答えろ。桜ちゃんの現状を知っているのか。または知ろうとしていたか」

「知るも何も、桜は次期間桐の後継者として育てられている。魔術師としてこれ程有難い事はない」

「…………その全身を醜くおぞましい蟲に這いずり回られてもか?」

「何……?」

 

 静かな怒りと共に放たれた言葉は時臣の心へ波を起こした。雁夜はアサシンによってその憎しみにも似た闘争心を薄められ、桜の本音を聞いた事で一人の人として彼女の幸せを守りたいと思えるようになっていた。故に時臣へ感情に任せた言葉ではなく、それこそ魔術師のように冷静に事実だけを告げていく。

 

「まだ十歳にもならない少女が、魔術の練習という名目で刻印蟲と呼ばれる不気味な物に体を蹂躙される。あの子は、今もそれに耐えている。小さな体で、弱音を隠して」

「どういう事だ? 桜は間桐の後継者として丁重に扱われているのでは」

「んな訳あるかっ! あの臓硯だぞ? いつから生きてるか分からないような化物が、自分の子孫さえも駒のように見ている奴が、血の繋がらない優秀な魔術師をどう扱うかなんて考えるまでもないだろ! あの子はな! アサシンに襲撃されるより魔術の練習の方が嫌だと呟いたんだ! 分かるか? 死ぬよりも嫌な事があるってあの歳で知ってるんだよ!」

 

 時臣は後頭部を鈍器で痛烈に殴られた気分になっていた。たしかに魔術の研鑚や訓練には命の危機と隣り合わせなものもある。だが、それはいつもの事ではない。魔術師とて命は一つである。ならば、出来るだけ危険を排し、安全に心がけて修練に臨むものだ。しかし、雁夜の言葉はそれを否定していた。更に時臣の考えを甘いと断言したのである。

 

 衝撃を受けている時臣へ、雁夜は一度深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。今の彼は嫉妬で動いている男ではない。幼い少女を助けるために動く男なのだ。だからこそ、自分の惚れた女を妻にし、可愛い姉妹を引き離した男相手にも感情だけで動く事はなかった。

 

「臓硯は、俺が聖杯戦争の勝者になったら桜ちゃんを解放すると言った」

「……何?」

「正直あの化物がどこまで約束を守るか分からない。最悪、俺が勝っても桜ちゃんを解放しないだろう。だからこそ、お前に、桜ちゃんの父親に頼みたい。もし俺が敗退したり、あるいは勝者になっても桜ちゃんが解放されない時は、俺の代わりにあの子を助けてやって欲しい」

「私が? だが、君が勝者になった時に私が」

「俺はお前を殺さない。何があってもだ。俺は桜ちゃんを助けるためにこの戦いに身を投じた。なら、あの子を哀しませていい訳ないからな」

 

 それだけ告げ、雁夜は時臣へ背を向ける。言いたい事は告げたとばかりに。そのまま歩き出す雁夜の背中を時臣は見送る事しか出来なかった。と、何故かその背が止まる。

 

「まだ何かあるのか?」

「……奥さんを大切にな」

 

 それが最後だった。今度こそ雁夜は、一度も振り向く事も足を止める事もなく夜の街へ消えていく。それを見届け、時臣はすぐに動き出す事が出来なかった。常に優雅たれが家訓の彼が、である。

 それほどまでに桜の身に起きていた事実は衝撃だった。遠坂と間桐は不可侵という決まりも、もしかするとこれをどこかで予測していた先祖の警告だったのではとさえ思う程に。

 

「桜は、桜は請われて間桐へ養子に行った。だが、それは魔術師としてではなく、ただの繋ぎでしかないと、そういう事か」

 

 さすがに血を残すためだけの存在とは言えなかった。だが時臣とて魔術師の端くれである。雁夜の言っていた魔術の練習がどういう意味合いかは理解していた。

 

「……聖杯に願う事が出来てしまったな」

 

 自嘲するような笑みを浮かべ、時臣は小さく呟く。魔術師としてではなく父として望む事だ。

 

―――今は一刻も早く大聖杯へ向かわなければならんな。

 

 

 

 セイバー達が柳洞寺へ到着しようとしている頃、アインツベルンの城では、ちょっとした騒動が起こっていた。

 

「侵入者?」

「ええ。それも一人」

「サーヴァントですか、マダム」

「いえ、マスターよ。それも、おそらくアサシンの」

「裏をかかれたか……っ!」

 

 アイリの言葉に切嗣は表情を引き締めると銃火器へ手を伸ばして部屋を出ていく。舞弥もそれに倣い、銃火器を手にし彼を追い駆けようとして、その彼から止められた。

 

「舞弥、君はここでアイリの護衛を頼む。ないと思いたいが、ランサーのマスターが攻めてこないとも限らない」

「分かりました」

「切嗣……」

「心配いらないよアイリ。今の僕には君からもらった物があるからね」

 

 最後に軽く笑みを浮かべ、切嗣は外へと向かって走り出す。一方の綺礼と言えばアインツベルンのテリトリーへ入り、ある程度視界が開ける場所まで移動していた。そこで切嗣を待つつもり―――だった。

 

(イーッ、綺礼様、大変です!)

 

 最近アサシンからの連絡は、半分以上が「綺礼様、大変です」で始まるなと思いながら、彼は内心ため息を吐いた。

 

(どうした? またお前の一人がキャスターと鉢合わせでもしたか? あるいはバーサーカーに出会いがしらに殴り飛ばされたか?)

 

 もう慣れたものである。いや、正確には荒んだと言うべきか。普段の彼らしさはどこへやら。どこか投げやりな口調でアサシンへ綺礼は問いかける。すると、返って来た言葉は想像を超えていた。

 

(イーッ、違います! バーサーカーがいきなり洞窟前に出現しました! 今もこちらを目指して見張りを倒しながら暴れていますっ!)

「何だとっ!?」

 

 そう、雁夜は勝負に出たのだ。令呪を使いバーサーカーにアサシンの本体がいる場所へ行けと願い、洞窟前まで瞬間移動させたのである。ここに来て大聖杯をアサシンに監視させていた事が裏目に出た。ここで綺礼がアサシンを令呪で逃がそうにも、そうすれば今度は大聖杯が狙われる。そうなれば結局アサシンは存在を維持できない。

 更に不味い事は、そこへ現在セイバー達三騎のサーヴァントが向かっている事。もっと言えばキャスターを除いた全てのサーヴァントがそこへ集結しようとしているのだ。

 

「……これは不味い。師父も柳洞寺へ向かっているだろうし、私もその護衛として行かねば」

 

 優先順位を組み替え、即座に踵を返そうする綺礼だが、その体が突然横へ跳ぶ。すると、先程まで綺礼がいた場所へ銃弾が降り注いだのだ。

 

「ただで逃げようなんてさせないよ、アサシンのマスター」

「……衛宮切嗣、か」

 

 銃口を綺礼へ向け、切嗣はその眼光鋭く彼を射抜かんとする。本来ならば緊迫感漂うはずの二人だが、今回ばかりはそうはいかなかった。綺礼はアサシンの報告を受け、一刻も早く大聖杯へ向かわなければならない。切嗣は切嗣でアサシンの宝具による効果は未だに影を落としているため、相手を殺す事へ躊躇いを抱いていた。故にこうなる。

 

(何とか隙を見て逃げなくては……一戦交えてダメージを与えて撤退させるか)

(先程の行動はまるで撤退をしようとしていたように見えた。あれは……こちらを油断させるための策か何かか? とにかく手傷を負わせてさっさとお帰り願おう)

 

 正直に互いの気持ちを伝えれば叶うと知らず、二人はヒリつくような空気の中、相手の隙を見出そうと睨み合う。

 

 その頃、アサシンは寸でのところで頼もしい援軍を得ていた。

 

「失せよ雑種。ここは我の愉しみが眠る場所だ。貴様のような下賤な輩の来てよい場所ではないわ!」

「くっ……」

 

 アーチャーが背後からバーサーカーを強襲したのである。バーサーカーもどうしてもそちらに意識を向けざるを得ないため、アサシンからアーチャーへと目標を変更、現在大聖杯近くの場所で激しい戦闘を開始していた。

 アーチャーの放つ幾多もの宝具の原典がバーサーカーを襲うも、それらを何とか回避し、彼は逆に手にして振るい始める。それはバーサーカーの宝具である騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)の効果。

 

「何っ!? 我の財を自分の物とするとは……無礼者めっ!」

「マスターと……幼い命のため……この身を賭せん……っ!」

 

 この対決、実はアーチャーにとって分が悪いと言えた。場所もさることながら、バーサーカーは武器とみなす物を自分の宝具と化してしまえるのだ。対するアーチャーは、主な攻撃が様々な宝具の原典を射出するというもの。まさしく相性が最悪である。それと、もう一つアーチャーにとって不利なのは……

 

「イーッ!」

 

 アサシンが彼の援護をしている事。つまり、共闘してしまっているのだ。絶対悪は敗北が必定。その法則もあり、バーサーカーは絶対正義となっている。

 場所は聖杯戦争の根源である大聖杯付近。そこで己が命を賭けて少女のために戦うマスターに使役されるかつての狂戦士。これ以上ない程の最終決戦であった。もう、誰がどう見ても負けなければならないのはアサシンとアーチャーであり、勝って欲しいのはバーサーカーである。

 

「これは、そういう……事か」

「イ?」

「むっ……まさか!?」

 

 手にした槍を見て、バーサーカーはその真名に気付く。今、その真紅の魔槍は彼の宝具となっている。故に、使おうと思えば使えるのだ。本来ならば出来ないはずの、真名解放が。

 

刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)っ!」

「ぐぬっ!」

 

 アーチャーへと突き出された真紅の魔槍は、その心臓を捉える事は叶わなかった。だが、しっかりとその体を貫く事は成功する。黄金律によって凄まじい強運を持つアーチャーであっても、アサシンというこの世絶対の悪であり負けフラグを味方にした以上、死の因果を持つ攻撃を避ける事は出来なかったのである。

 

「イィィィッ!? あ、アーチャー様が……」

「狼狽えるなっ! 我はこの程度で倒れぬっ!」

「……ならば、倒すまで」

 

 ゆらりと魔槍を携え、ゆっくりアーチャーへと近付いて行くバーサーカー。アサシンは何も出来ず、ただただナイフを投げ続ける事しか出来ない。それを避けるも見る事さえなく、バーサーカーは手にした槍で防ぐ。そして、腹部を押さえるように蹲るアーチャーへ、その穂先を突き付けようとした瞬間だった。

 

「いたぞっ! アサシンだっ!」

「待てランサー! 他のサーヴァントもいるようだ!」

 

 遂にセイバーとランサーがそこへ到着したのだ。その声に弾かれるように三人が視線を動かす。と、そこでバーサーカーに異変が起きる。

 

「っ?! あ、アル……トリア……?」

「なっ!? どうしてその名を!?」

「セイバー、アルトリアがお前の真名か?」

「……ああ」

 

 ランサーの問いかけに苦い顔で頷くセイバー。誤魔化せないと悟ったのだ。何とも言えない空気になる場で、唯一彼だけが動く事が出来た。

 

「無礼であろうっ! いつまで我に刃を向けるつもりだっ!」

 

 アーチャーによる一撃がバーサーカーを襲い、不意打ち気味だったそれを彼は辛うじてかわす事に成功する。だが、その攻撃がバーサーカーの兜を掠めて破壊した。そこから現れた顔にセイバーが思わず息を呑んだ。

 

「ら、ランスロット……」

「……王よ、お久し……ぶりです。戦場故、不作法……お許しください」

 

 臣下の礼を取らない事を指していると察し、セイバーは無言で首を横に振る。気にするなと、そう言おうとしたが出来なかった。騎士の中の騎士として名高いランスロットがバーサーカーへ身をやつしていた。その意味する事を考えて。

 

「セイバー、積もる話もあるかもしれんが今は」

「っ! そうだ。ランスロット、手を貸して欲しい。我らはアサシンのマスターを討ち取りに来た」

「イーッ、残念だったなセイバー。綺礼様はここにはいない」

「「何っ!?」」

「どこに……いる?」

「イーッ、教えるはずがないだろう。それに、教えたところで意味はない。お前達はここで死ぬのだからなっ!」

 

 そう言うやアサシンは姿を消し、代わりに大勢のアサシンが出現する。それらはセイバー達を囲むようにしながらじりじりと迫った。

 

「くっ、そうくるか……」

「っ! ランサー、アーチャーがいない!」

「なっ……」

 

 アサシンの大群に気を取られていた間に、アーチャーが霊体化してその場から撤退していたのだ。それもアサシンの意図した事だとすれば。そう思いセイバーとランサーは唇を噛んだ。

 

「とんだ道化だな。弱いなりに知恵は回ると見える」

「そのようだ。仕方がない。ランサー、ここは」

「私が、引き受けます」

 

 手にした魔槍を振るい、元々アサシンがいた方への道を切り開くバーサーカー。その意味が、意図が分かり、セイバーはバーサーカーの顔を見る。バーサーカーは穏やかな顔を向け、無言で頷いたのだ。

 

「……行こうランサー。ここは我が円卓最強の騎士が引き受けてくれる」

「分かった。バーサーカー、いや、ランスロット殿。出来れば、貴公とも手合せしたかった」

「私も、だ。……王を、頼む」

 

 迫りくるアサシンを槍で薙ぎ払いながら、バーサーカーはセイバーとランサーを見送る。セイバーは一度として振り返る事なく先を目指して進む。その背を守れる事。更にセイバーが自身を円卓最強の騎士と評した事。それらが狂気を失い騎士としての己を取り戻しつつあったバーサーカーを、湖の騎士たるランスロットへと完全に戻した。

 

「っ!」

「「「「「イィィィィィィッ!」」」」」

 

 五体まとめて薙ぎ払い、ランスロットはその目を見開く。周囲を覆っていた黒い霧は完全に晴れ、そこには一人の円卓の騎士が立っていた。

 

「これより先は何人たりとも通さん。例え十重二十重と襲い掛かろうと、だ!」

 

 

 

 大聖杯へ続く洞窟で様々な出来事が起きる中、ライダーとウェイバーは思わぬ相手と出くわしていた。

 

「これはこれは、ウェイバー・ベルベットではないか」

「……ケイネス・エルメロイ・アーチボルト」

「そちらはライダーか。成程。先程の爆発音はアサシンのもので間違ってなかったようだ」

「と言う事は、お主が本来ならばマスターだったという男か」

「いかにも。まぁ、まさか触媒を盗られてしまうとは思わなかったがね」

 

 やや呆れるようにウェイバーを見つめるケイネス。その眼差しに以前までの見下す色が無い事に気付き、ウェイバーは内心疑問符を浮かべた。

 

(何だ? 何かが前と違う。この聖杯戦争で何かあったのか?)

 

 思いもしないだろう。アサシンの宝具によってケイネスの性格に変化が起きているなどと。何しろ、柳洞寺までの道のりでランサーも数体ではあるがアサシンを再度撃破している。今のケイネスはそういう意味で闘争心や競争心という物が以前程強くなかった。

 

「そ、それで僕を責めに来たのかよ!」

「冗談ではない。私はそこまで器量の狭い男ではないつもりだ。まぁ、たしかに当初は憤りもしたが、目の前に転がったチャンスを掴み、こうして形にするという点に関しては見事だと思っているよウェイバー君。ただ、どうやら君が出来たのは形にするまでが限度だったようだが」

 

 ケイネスの言い方でウェイバーも理解した。ケイネスは詰めが甘いと言っていると。それは、聖杯戦争に参加するのはいいが、異国で行われる事や現地での補給や住居の確保など、重視しなければならない部分をおざなりにした事を指摘していた。

 

「戦いにおいて、兵站というのは重要だ。君はそこを見落とした。おそらくだが資金にも乏しかったのではないかね? 結果、神秘の秘匿という点でギリギリの綱渡りをしたのではないだろうか? 例えば、一般人への魔術行使」

「っ!?」

「……その顔は当たりのようだ。まぁ、ギアスの類とは思うが、ここにも君は見落としをしている」

「み、見落とし?」

「そうだ。魔術に対する抵抗力は、魔力を持たぬ者にはほとんどない。だが、時折魔術を使えぬでも魔力を持つ者もいる。しかも、君のように強大な魔力を持つ訳ではない者の魔術は、時に一般人さえも撥ね退けてしまう事もある。君はそこを考慮した上で魔術を行使したかね?」

 

 ウェイバーへ問いかける姿はまさしく教師だった。以前のような高圧的なものではなく、相手の問題点などを指摘し考えさせるという、以前からは考えられないケイネスの姿にウェイバーは反骨心も忘れて背を丸めていた。ライダーは聞いていた印象と違うケイネスにふむと息を吐き、顎に手をやっていた。

 

「とにかく、君は自分の功を焦り、魔術師としてのルールを破りかけた。いくら努力を重ね才能があっても、神秘の秘匿を忘れては意味がない」

「……すみません」

「分かればいい。それに、私も結果的に己の至らぬ点を見つめる事になった。もう一つ言わせてもらえば」

「ん? 余がどうした?」

 

 ケイネスの視線に気付いたライダーが不思議そうに尋ねると、その視線を向けられたケイネスは複雑そうな表情を見せる。

 

「私ではライダーと上手くやれた気がしない。そういう意味でもよかったよ」

「奇遇だな。余もそちらよりこちらの方が良いと思うぞ」

「僕はランサーの方が良かったよっ!」

 

 やけっぱちで叫ぶウェイバー。それにライダーが豪快に笑い、ケイネスは呆れるように息を吐いた。そしてケイネスはその場から歩き出して柳洞寺へと向かう。

 

「どこへ行くん……ですか」

「ランサーがセイバーと共にアサシンを追い詰めている。どうやらそこに何か凄まじい魔力を放つものがあるらしい。それを見に行く」

「一人でか?」

「いかにも。あのアサシンは倒すと厄介な能力を発揮するが、逆に言えば私でも倒せる程弱い。ならば倒し切らぬよう適度にあしらえばいい」

 

 その答えを聞いてウェイバーは確信する。セイバー達がライダーを頼ったのはその能力が何故か効かないからだと。ならばと考え、彼はケイネスへこう持ちかけた。

 

「もし良かったら、これで近くまで送りますよ。何ならその後の護衛役もライダーにしてもらいます」

「……いいのかね?」

「さっきの授業料代わりです。後で命を請求されたらたまったもんじゃないんで」

 

 冗談半分本音半分の声に、ケイネスだけでなくライダーまでもが小さく笑みを浮かべた。絶対悪がいる事で、アサシンへ対抗する者達は絶対正義として休戦状態となっている。誰もがどこかで思っているのだ。一番先に倒さなければならないのはアサシンだと。

 だからこそ、そんなアサシン側についてしまった彼らはとことんついていなかった。時臣は深夜に柳洞寺まで徒歩で向かう事になり、綺礼は切嗣から逃亡するために戦闘。どちらも内心でこう思っていた。

 

―――こんなはずではなかったのに……。

 

 両方共に拠点にこもり、サーヴァントを暗躍させたり静観したりで時間稼ぎと漁夫の利を狙う作戦だった。それがアサシンのせいで早々にご破算になり、そこからはもう彼らの思い描いた流れにはならなかった。

 そして、大聖杯を発見した事で傾いた流れが上向いたかと思えば、むしろそれこそが終わりの始まりに過ぎなかったと誰が思おうか。第四次聖杯戦争は、本格的な戦いの様相を呈した瞬間、終わりを迎えようとしているのだから。

 

 さて、唯一この騒ぎに参加していない者達がいる。キャスター陣営だ。彼らはどうしているかといえば……

 

「な、旦那。なぁんで俺ってあんな事してたんだろ?」

(分かりません。私も、何故ジャンヌを捜していただけなのにあのような事を……)

 

 新都にある警察署内の留置場。そこの一角に彼らはいた。何も捕まったのではない。自首したのである。アサシンと絶えず遭遇しては倒すものの、肝心の子供には逃げられるを繰り返した結果、その常軌を逸した性格や思考さえも失われ、聖杯戦争からの逃避ではなく彼らの中で生きがいともいえたモノに嫌気が差し、現状となっていた。

 

「俺、昔は虫とか殺すの好きでさ~、よくアリとか踏み潰してたんだ」

(弱い者を痛めつけて愉しんでいたんですねぇ)

「そ。だけどさ、それって俺がそういう目に遭わなかったから続けてられたんだと思うんだよ」

(龍之介は自分が痛めつけられる事は経験していないのですか?)

「痛い目ぐらいは遭ってるって。でも、死ぬほど痛いとかはないなぁ。きっと、ガキの頃からそうやって痛めつけられたらこうなれなかったと思うよ、マジで」

 

 共に楽しげに話しているが、当然キャスターは霊体化しているので見えていない。だからか、龍之介は警察からこう思われていた。精神異常者の猟奇殺人犯。近く精神鑑定が行われ、おそらく二度と塀の外へは出て来れないだろう。

 いくら精神異常が認められようと、彼がやってきた事は重罪であり、尚且つまだ彼が彼らしくあった頃の犯行は子供ではあるがしっかりとした目撃者が複数いるのだから。全て、覆面男によって結果的に助けられた子供達である。

 

(龍之介、最後に頼みがあるのですが)

「ん、いいぜ。俺に出来る事なら」

(願って欲しいのです。私自身に己の罪を清算せよ、と。強く願うだけでいいので)

「OK、分かった。んじゃ、旦那、自分の罪を清算してくれ」

(……ありがとう、龍之介)

 

 それを最後にキャスターの声は龍之介に聞こえなくなった。キャスターは令呪によって自害したのである。こうして龍之介は最後まで聖杯戦争の事も、令呪の事も知らないままその舞台から降りる事となる。

 誰に知られる事なくキャスター陣営がドロップアウトする一方で、他の者達はその戦いを激化させていく。アインツベルンの森では、綺礼と切嗣が人知を超えた戦いを繰り広げていた。

 

「はぁぁぁぁぁっ!」

「っ! time alter double accel!」

「なっ?!」

 

 繰り出された拳は本来ならば必殺の一撃。それを切嗣は事もあろうにかわして見せる。綺礼が退却のために仕掛けた戦闘で、切嗣は何度も理解不能な動きを見せていた。それは、代行者であった綺礼でさえ驚きを禁じ得ないもの。格闘戦の達人でもない限り出来ないような、そんな理不尽な動きを見せていたのだ。

 

「……それが貴様の魔術か」

「さてね。観客に食い扶持を種明かしする魔術師(マジシャン)がいると思うか?」

「ふっ、一理ある……っ!」

「time alter triple accel!」

「っ! これさえ避けるかっ!」

 

 切嗣は接近戦のプロフェッショナルではない。だからこそ綺礼もそこへ持ち込めば勝てると踏んでいた。だが、そこにこそ切嗣の策がある。彼は、簡単に言えば瞬間加速と瞬間減速が可能なのだ。しかもその倍率も変化可能であり、それを駆使して綺礼の目や感覚を狂わせている。

 

(思った通りだ。アイリから貸してもらったアレのおかげで、まったくと言っていい程負荷がなくなる)

 

 勿論代償に彼への負担が凄まじいのだが、それさえも今の切嗣は解消出来るため、実質切り札が使い放題であった。切嗣の銃口が綺礼を捉える。それでも綺礼は慌てない。何度となく銃撃を防ぎ、あるいは避けてきているのだ。

 

「無駄だ。私に銃は通用せん」

「time alter double stagnate……」

「っ?! 馬鹿な!?」

 

 今度は銃の引き金を引く瞬間、その動きを遅くする。それが引き金を引く指の動きで回避していた綺礼のリズムを狂わせた。放たれた銃弾を無理矢理な上体そらしで避け、綺礼はその場から後方へ下がる。

 

「……動作の速度を自在に操作出来るようだな」

「随分喋るな。そんなにアサシンの元へ行きたいのか」

「そちらこそ、セイバーと合流しないでいいのか? アサシンは数だけはいる。しかも、アサシンが言うには決してその数は減らんそうだ」

「貴重な情報だな。何が目的だ」

「ほう、今のを真実と捉えるのか。意外と素直なところがあると見える」

「……情報戦をしたいのか。この期に及んで」

「さてな。標的に親切な始末屋(スイーパー)などいると思うか?」

「違いない」

 

 互いに一歩も譲らず戦い続ける二人。その本来ならば因縁の戦いとなるものへ乱入する者がいた。

 

「イーッ!」

「っ!? アサシンっ!」

「どうした? 何故ここに」

「イーッ、綺礼様、ここは私が引き受けます。早く大聖杯へ」

「大聖杯!?」

「チッ! アサシン、後は頼んだぞ!」

 

 さらりと重大情報を漏らすアサシンに内心で頭を抱えつつ、綺礼は切嗣の隙を見てその場から走り去る。切嗣はその後を追う事もせず、アサシンへ銃口を向けた。

 

「大聖杯と言ったな。どういう事だ」

「イーッ、誰がお前などに、と言いたいところだが冥土の土産に教えてやる。柳洞寺の外れに隠された洞窟には、この聖杯戦争を支える大聖杯と呼ばれる物が存在するのだ。そこを我々は押さえている」

 

 まさか素直に喋るとは思っていなかったのか、切嗣はその場で何度も瞬きをした。一瞬嘘を言っているのかと思ったが、それにしてはアサシンは自慢するように胸を張っていた。そこで彼は確信する。アサシンには情報漏洩という事の重大さが分かっていないのだと。

 

「…………つまり、そこにセイバー達も向かっているのか?」

「イーッ、そうだ。そして、そこがセイバー達の墓場となるのだっ!」

「えっと……令呪でここへ戻せるのにかい?」

「イ?」

 

 切嗣が見せた令呪にアサシンの視線と動きが止まる。そして、その瞬間にその頭部が銀の弾丸によって撃ち抜かれた。即座に起こる爆発。それをやってのけたのは舞弥だった。彼女はアイリの魔術で常に戦場の様子を監視しており、綺礼が撤退したのを受けて切嗣のフォローに入っていたのだ。

 

「……さすが舞弥。正確だ」

 

 安堵するように息を吐き、切嗣は一旦城へと戻る。勿論セイバーへ連絡を入れるのも忘れない。

 

(セイバー、そちらはどうなっている? こちらはアサシンのマスターの襲撃を受けて撃退した)

(……そうですか。こちらは厄介な事になっています)

 

 切嗣の言葉に答えながら、セイバーは眼前の光景に冷や汗を流していた。大聖杯に辿り着いたセイバーとランサーを待っていたのは、百を超えるアサシンの軍団だったのだ。それを撃退してもすぐに補充が入ると二人は察し、打開策が思いつかないままジリジリと追い詰められていた。

 

「イーッ、どうやらここまでのようだな、セイバー、ランサー」

「イーッ、お前達がいかに強くとも、永遠に現れる我々を倒し続ける事は出来まい」

「イーッ、観念して死ね、ダブルサーヴァント!」

「くっ、やるしか……ないのか……」

「どうするつもりだ、セイバー」

「私の宝具を使う。そうすれば、この場一帯を吹き飛ばせるはずだ」

「その一撃でアサシンの本体諸共攻撃すると、そういう事か」

「ああ。ランサー、巻き込まれるなよ?」

「言ってくれる。ああ、お前との決着をつけるまでは消滅する訳にはいかんからな」

 

 全方位をアサシンに囲まれ、その中心で背中を合わせるセイバーとランサー。共に覚悟を決め、セイバーが宝具を使おうとしたその時だった。

 

―――待ていっ!

―――っ?!

 

 突如として響き渡る野太い声。それに全員の視線が動き、一人の男を捉えた。

 

「お、お前は……」

「ライダー! 来てくれたのか!」

「うむ、遅くなったな。ショッカー、もう貴様らの好きにはさせんぞっ!」

「イーッ! おのれ忌々しいライダーめっ! どこまでも我々の邪魔をするのだな!」

「行くぞ!」

 

 威風堂々と構えるライダーへアサシンの大群が向かっていく。それらを千切っては投げ千切っては投げと、無双の強さを見せつけるライダー。その光景をセイバー達だけでなくどこか呆れるようにウェイバーとケイネスも見つめていた。

 

「……何か、アサシンと対峙するとあいつもおかしいよなぁ。格闘戦しかしなくなるし」

「そのようだ。アサシンはイスカンダルと同年代の存在なのか? ショッカーなどという暗殺者など聞いた覚えもないが……? まぁいい。我らはあの奥の物を調べるぞ」

「は、はいっ!」

 

 すっかり学生に戻ってしまったウェイバーであったが、今の妙に出来る男のように思えるケイネスならば仕方ないとも言えた。時計塔コンビが静かに大聖杯へと接近する中、ライダー無双は続いていた。アサシン達は為す術なく殴られ、蹴られ、投げ飛ばされて爆ぜて死ぬ。それを繰り返すだけであった。

 

「イィィィィッ!」

「これで打ち止めか?」

 

 最後の一体を倒し終え、ライダーは周囲を確認する。あれ程いたアサシンも既に残っておらず、セイバーとランサーも確認するように気配を探りつつ目視でも確かめ、その全滅を確信した。

 

「そのようだ」

「すまないライダー。結局そちらを頼り切ってしまった」

「なぁに、お前達二人を臣下に出来るのであればこの程度」

 

 笑みさえ見せて答えるライダーだったが、ふと風が流れた事に気付いて視線を動かす。何故なら、その風は出口からではなく前から吹いていたのだ。

 

「……どういう事だ?」

 

 様子を窺うライダー達の目の前で大聖杯が活性化し、その中心からアサシンが出現した。それも一体ではなく先程と同じかそれ以上の数で。

 

「「なっ!?」」

「どうやら、それをどうにかせん事にはアサシンを止める事は出来ぬようだな……っ!」

「その通り。我らは大聖杯ある限り不滅。この世全ての悪から呼び出される我らこそ、この聖杯戦争の勝者たりえるのだっ!」

 

 胸を張って告げるアサシンだが、その内容にライダー達が一様に息を呑み、すぐさま聖杯へとそのこの世全ての悪を尋ねて答えを得た。アンリマユ。ゾロアスター教の神の名で、その名の通り悪神である。だが、この聖杯戦争では神を召喚する事は不可能であるため、おかしな話ではあった。

 

「小僧、どういう事か分かるか?」

「知るか! そもそもそんなものを誰が呼び出そうとしたんだよ!」

「ふむ、今回ではないとすれば前回以前となるか」

「だとすれば、知り得るのは遠坂やアインツベルンの者達だ。彼らはこの儀式の発案者の子孫なのだからな」

「セイバー、どうだ?」

 

 ケイネスの問いかけにセイバーは即座に切嗣を通じてアイリへと尋ねていた。そして、その解答は歓迎出来ないものだった。

 

「……前回の時にアインツベルンが召喚したのがそれだそうです。そして、四日目にて敗退し、マスターは自国へと逃げ帰ったそうです」

「待て。だとしても、何故その時のサーヴァントが」

「ショッカー、どういう事か説明しろ!」

「よかろう。どうせ貴様らはここで死ぬのだ。敗退したアンリマユは座と呼ばれる場所へ戻ろうとした。そのため、まずは来た道を逆に通る事になる訳だが、ここで問題が起きた」

「問題?」

「そうだ。召喚される時は人としての形を得るが、戻る際は魂として座へ戻される。その際、一旦そのアンリマユの魂は聖杯へと宿ったのだ」

「「……まさかっ!?」」

 

 魔術師コンビがアサシンの言いたい事を理解し顔面蒼白となった。セイバー達はまだ理解が追いつかないが、二人の反応で不味い事だけは理解したのだろう。それでも視線はアサシンへ向けられていたが。

 

「その聖杯とは何だ?」

「聖杯とは何だ、だと?」

「願望器だ。願いを叶えると吹聴している事からしてそうなのであろう」

 

 突然聞こえてきた声にセイバー達が振り向く。そこには腹部の傷を負ったままのアーチャーが立っていた。しかし、その表情はどこか愉しそうに笑っている。

 

「だから何だと言うのだ!」

「ふん、征服王は気付き出しているようだぞ」

「何?」

「ライダー、どういう事か分かるのですか?」

「……アンリマユはこの世全ての悪。その魂が聖杯へ宿った時、願いを告げたような状態になったのではないか? つまり、この世全ての悪であれと」

「さすがライダー。そう、その通りだ。つまり、聖杯はその時に変化したのだ。全ての願いを悪に染める、そういうものへとな」

 

 アサシンのまとめに誰もが言葉を失っていた。聖杯は名前の通りではなく、汚れてしまっていたと理解したのだ。と、その時、アーチャーがアサシンへ視線を向けて口の端を歪めた。

 

―――そして、貴様がその”この世全ての悪”とやらか。

 

 告げられた内容にその場の誰もが一斉にアサシンへ目をやる。今まで喋っていたアサシンへ。そのアサシンは―――嗤っていた。その邪悪な笑みにウェイバーは背筋が震えるのを覚え、ケイネスでさえも悪寒が走った程だ。アサシンから流れる気配が代わり、辺りを重苦しい空気が包む。

 

「さすが英雄王。いつ気付いた?」

「ふん、あの耳障りな声を出さなかった時からだ。我は本来のアサシンと話をした事がある。奴め、止めろと我が言ったのにも関わらず、これだけは止められぬと言って聞かなかったのだ」

 

 その指摘に誰もが小さく声を漏らす。そして同時に気付くのだ。では本来のアサシンはどうしたのかと。それをアンリマユも察したのだろう。邪悪な笑みを浮かべて告げる。

 

―――俺が喰った。

 

 その瞬間、弾かれるようにランサーが動いた。その神速に届かん速度で突き出された槍がアンリマユを貫き、その勢いのまま後ろへと突き飛ばした。が、アンリマユは何事もなかったかのようにゆらりと起き上がったのだ。腹部に槍による穴を開けたままで。

 

「どうやら奴だけはあの厄介な能力がなさそうだ」

「つまり、私達の相手はアレと言う訳ですね」

「では、周りのは余が相手をするか。英雄王よ、そちらはどうする?」

「知れた事。この世全ての悪とほざく愚か者を誅するのみよ」

「ならば……」

 

 アーチャーの言葉を聞き、ランサーはその手にしたゲイ・ボウをその場で折ってみせた。それと共にセイバーの傷も消える。

 

「ランサー……」

「報酬の前渡しだ、セイバー。この意味、分かっているな?」

「……承知した。必ずや後悔させぬ」

「分かっておろうな。奴のとどめは我に譲れ」

「そうしたくば自力で掴め、英雄王よ」

「そうとも。生前のようにな」

「ふんっ、よかろう。ならば精々我のために尽くすがいい」

 

 三騎士が揃って同じ相手へと挑む。そんな聖杯戦争始まって以来の事態が起きる中、ケイネスとウェイバーはある事に気付いて頭を抱えたくなっていた。

 

「あの、これって聖杯戦争の勝者が出たとしてもその願いはそいつの望む形にはならないって事ですよね?」

「そうなるな。そして、それは我々では修正出来ないだろう」

「根本が呪われてるんじゃ手の出しようが……」

「……いっそ、これを破壊する方がいいのかもしれん。そうすればこの世全ての悪は宿る物を失い、あるべき場所へ戻るはずだ」

「で、でもそんな事をしたら」

「そもそもこの聖杯戦争というのはおかしいと思っていたのだ。何故こんな辺境の島国で行われるのか。これは、おそらく間桐とアインツベルン、この二つの家が勢力争いに負けたか何かでここへ来たのではないか? だが、現地の協力者を得ても儀式の成功には遠かった。そこで外部の者を巻き込む形で何とか形にさせた儀式なのだろう」

 

 ケイネスの推測は外れてはいなかった。たしかにこの聖杯戦争はマキリとアインツベルンの二家が発起人であり、遠坂は場所を提供した地主である。更に言えば、令呪と呼ばれるものも第三次から導入されたのであり、それまでは完全にサーヴァントを制御する術なく行われていた。そこからもこの聖杯戦争がいかに杜撰なものか分かるというものだ。

 

「あの、考察は凄く気になるけど、今はそれどころじゃ」

「そうだったな。とにかく、現状のままでは聖杯戦争など続ける訳にはいかん。ウェイバー・ベルベット、君はアーチャーのマスターと接触し事情を説明しろ。向こうはおそらくだがこの事を知らん。それを告げ、一時休戦を提案しろ。私はセイバーのマスターと接触し、事態の打開かもしくは改善策を考える」

「わ、分かりました」

 

 繰り広げられる戦闘を避けるように移動するウェイバーとケイネス。彼らは洞窟の外へと向かい、柳洞寺の方へと移動、そのまま山門を下り出したところで疲れたように歩く時臣と出会った。

 

「なっ、君達は……」

「アーチャーのマスターか。丁度いい。後は任せたぞウェイバー君」

「は、はい」

 

 時臣の横を通り過ぎて階段を下りていくケイネス。それを見送るように見つめる時臣へ、ウェイバーが意を決して声を掛けた。

 

「き、聞いてくれ! 実は大変な事が分かったんだ!」

 

 

 

 アンリマユと戦う三騎士だが、その状況はお世辞にも有利とは言えなかった。斬っても、貫いても、穿っても、それを意に介さずアンリマユは立ち上がるのだ。アサシンの体を使っているため、アンリマユに滅びは来ない。更にステータス最弱だったアサシンと違い、今のアンリマユは間違いなくこの世全ての悪として顕現している。故にその力はどのサーヴァントよりも上であった。

 

「くっ、厄介だな。突いても薙いでもまるで意味がない」

「おそらくですが、宝具を使ったところで無意味でしょう」

「おのれぇ……我が財さえ通じぬとは……アサシンの分際でっ!」

 

 憤りをぶつけるようにアーチャーの攻撃がアンリマユを襲う。その聖剣や魔剣などが雨のようにアンリマユへ降り注ぐも、その土煙が晴れた後にはそれらを体へ突き刺したままで笑みを浮かべて佇む姿があるだけ。

 

「無駄だ。そちらの攻撃はこちらには通用しない」

 

 三人の事を嘲笑うかのような声にセイバー達はそれぞれ拳を握り締める。どこかで彼らも分かっているのだ。例え倒せたとしても、アサシンの体を使っている以上何度でも再生可能であり、その度に同じ事を繰り返させられるのだろうと。

 

「観念するのだな。どう足掻いてもそちらに勝ち目はない」

「それはどうかな?」

 

 場の空気を変えるような言葉が全員の耳に届く。それはアサシンを全て片付けたライダーのものだった。

 

「どういう意味だ?」

「気付かんのか? 自分の周囲をよく見てみろ」

「…………っ!? これは!?」

 

 自身の周囲を確認し、アンリマユは思わず驚いた。そう、アサシンの補充が止まっているのである。

 

「ど、どういう事だ!? 何故」

「お前がいるから、と言っておったぞ」

「何?」

「最後のアサシンを倒す時、奴はこう言っておった。アンリマユ様がいる限り、貴様らに勝ち目などない。例え自分達が倒れても、とな」

 

 その瞬間、アーチャーが何かを思い出したように笑い出す。セイバー達だけでなくアンリマユさえもアーチャーへ目を向ける中、彼は心の底から愉快とばかりに高笑いを続けた。

 

「ええい! 何がおかしい!」

「思い出したのよ。アサシンの奴が我に言った事をな。奴らは生前組織に属し、そこの最下層の地位だったそうだ。故に数は途方もない程多い。が、奴らを使役する怪物がいたらしく、それと帯同する時は、必ず邪魔をする存在が現れ、アサシン達はその者に蹴散らされて終わりだそうだ。後の事をその怪物へ託して、な」

「……つまり、今のアサシンにとってアンリマユはその怪物であり」

「我らが邪魔をする存在とみなされた?」

「だろうよ。ちなみにその存在の名は、ライダーと言うらしい」

 

 そこで誰もが全てを理解した。アサシンの無限復活は彼らしかいない時のみの現象であり、彼らを管理もしくは抑え付ける事の出来る存在がいる時はその限りではないと。更に、天敵とも言えるライダーとの名を持つ者がいる事でそれは完全なものとなる。

 

「ば、バカな……」

「なるほどなるほど。要するに余がアサシンの天敵となっておったのか」

「だからライダーにはあの能力が通じなかったのですね」

「そして、アンリマユという怪物が現れ、ライダーと対峙した事で、アサシン達は後事を託して散って行ったと」

「ふん、そいつは知らず自分で自分の首を絞めたのだ。救いがたい愚か者だな」

 

 四騎のサーヴァント達から立ち上る闘志と覇気。それにアンリマユがたじろいた。そう、完全に流れは決まっていた。隠されていた謎を解明され、無敵でなくなった怪人と、反撃に移ろうとするヒーロー達という、完璧なまでの展開だ。

 

 この後の事は、最早語るまでもあるまい。いくらアンリマユがこの世全ての悪とはいえ、宿った体はアサシンのものである。お約束な状況となった以上、もうアンリマユさえもあの宿命からは逃げられない。

 

―――こ、こんなバカなぁぁぁぁぁっ!!

 

 四騎のサーヴァントによる一斉攻撃。それによってこの世全ての悪は倒された。最後の爆発は凄まじく、大聖杯ごと洞窟を崩壊させる程の規模であり、セイバー達はその場から素早く脱出。アーチャーをライダーが担ぎ、ランサーとセイバーが崩れてくる岩などを除去しながらライダーの道を切り開いて。

 

 四騎が外に出たのを合図にするように、洞窟は完全に崩落し大聖杯までの道は閉ざされた。

 

「……終わった、のですね」

「そのようだ」

「やれやれ、とんだ結末になったわ」

「まったくだ。まぁ、我の財に入れる価値もない物であったので良しとしよう」

 

 そのアーチャーの負け惜しみのようにも聞こえる言葉にライダー達が笑う。それを笑うなと言わず、アーチャーはやや憮然とした顔で聞いていたが、最後に小さく笑みを零す。

 

 そこへ、ゆっくりと明るい光が差し込み始めると共に現れる者がいた。

 

「王よ、そして他の者達も無事で何より」

「バーサーカー、いやランスロットも無事でよかった」

「何? バーサーカーだと? それにしては普通に会話しておるが……」

「アサシンの影響だろう。こう考えると、場合によっては有用だったのだな」

 

 ランサーの言葉にライダーが納得するように頷き、彼らは揃って同じ方へ顔を向ける。そこには、燃えるような朝日があった。

 

「……夜明けか」

「おう、綺麗なものだ」

「まさしくあのアサシンを討ち取った日に相応しい」

「ええ、勝利の余韻を感じさせてくれます」

「勝利、か。本当にそうと言えるのか?」

「英雄王、言いたい事は分かるが、もう少し空気を読め」

「ふん、何故我が貴様らの事を考えてやらねばならん」

「ライダー、いいのです。アーチャーはこれでこそアーチャーなのでしょうから」

「ふっ、違いない」

 

 昇り行く朝日を浴びながら五騎のサーヴァントはしばしその場にとどまり、やがて誰ともなくその場から去っていく。これが、第四次聖杯戦争唯一の激戦であり、その幕切れの始まりだった。

 

 この後、ウェイバーから事態の説明を受けた時臣へ切嗣と共に現れたアイリもその補足をする事により、聖杯戦争は休戦へと追い込まれた。更に大聖杯がダメージを受けた影響なのか、サーヴァント達も次々に現界出来なくなっていき、なし崩しに聖杯戦争は終結させられる事となる。

 

 しかもその魂は聖杯へ行く事なく座へ戻り、切嗣やアイリが心配していた事は起きなかった。これも根本である大聖杯が機能を停止、あるいは破壊されたためと思われた。

 

「では、もう聖杯戦争は起きないと?」

「まだ確証はない。だが、その可能性は高いと見る」

「臓硯もどうやら諦めたみたいだ。それぐらい想定外の事だったんだろ」

 

 遠坂家で行われている御三家での話し合い。そこで明かされた意外な事実。何と臓硯は雁夜から大聖杯に起きた事を聞かされ、あまりの衝撃に無気力状態となってしまったのだ。何せ聖杯戦争のシステムの根幹はある一人の魔術師が必要不可欠。その人物亡き今、もう臓硯に聖杯戦争を存続させるだけの力も意欲もなかったのだ。

 

 そして、それが意味する事は……

 

「お茶をどうぞ」

「ありがとうございます、奥様」

「ありがとう、葵さん」

「葵、凛はどうしている?」

「桜と公園へ行きました。舞弥さんが付き添ってくれています」

 

 髪の色が変わってしまったが、間桐桜が再び遠坂桜となって実家へと戻れたという事だった。臓硯という実質の当主が力を無くし、表向きの家主であるその息子が雁夜へ強く出られる訳もなく、時臣の尽力もあって養子縁組は白紙となったという訳だ。

 

「お姉ちゃん、これかえさなくていいの?」

「もちろんよ。私があげるって言ったんだから大事に持ってなさい」

 

 シーソーで遊びながら話す幼い姉妹。それを見つめ、舞弥は小さく微笑む。近い内にここ冬木へアイリの娘であるイリヤも来る事になっているのだ。理由は一つ。聖杯戦争の本来の目的を明らかにし、今後の魔術の発展に役立てるため、ケイネスが主体となり調査を行うためだ。

 

 その後援者にアインツベルンが名を連ねており、しばらく冬木を離れられない両親がイリヤを呼び寄せたと言う訳である。いずれ、アインツベルンの城は賑やかになるだろう。そこが当面の調査隊の宿舎となるからだ。ケイネスとウェイバー、それにソラウが住まい、凛と桜という同性の友人も得られるかもしれないのだから、イリヤにとっては色々と目新しい事の連続となる。

 

「……こんな結末を誰が予想出来たでしょうね?」

 

 どこか楽しそうに呟いて舞弥は空を見上げた。そこには、雲一つない青空が広がっている。まるで、今後の行く末を暗示するような、どこまでも澄み渡る青空が。

 

 こうして聖杯戦争は終わりを告げた。この世全ての悪に利用され、世界を混乱に陥れようとしたショッカーの企みはライダー達の活躍によって打ち砕かれた。ありがとう、ライダー。ありがとう、サーヴァント達。

 

 

 

「で、お前はどうするのだ綺礼」

「はい、今度の事で分かりました。私は、どうやら生まれながらにして貧乏くじを引くタイプのようです」

「……それで?」

「もう一度勉強をし直します。ここを受け継げるよう、そして自身の歪みと向き合うためにも」

「そうか。だが忘れるな我が息子よ。歪みというのは、言い換えれば誰にでもあるものだ。それを無理に矯正しようとすれば、その者にとってはとても辛く苦しい事になるやもしれん。それを乗り越えられる者はいいが、乗り越えられぬと思った時は正直に言うのだ。その時は……」

「その時は?」

「……共に考えよう。乗り越えられる方法や、上手く折り合っていく道を。私達は家族であり親子なのだから」

「…………はい」

 

 言峰綺礼のその後は、特に大きな事もなく無事に司祭となれる資格を得、父の跡を継いて教会を守り抜いたという。その傍らには、綺麗な銀髪の少女がいたとかいなかったとか。彼は、終生その歪みを克服する事は出来なかったが、それと向き合い続ける事こそが主の与えた試練と思い、その強靭な信仰心で付き合い続けた。

 

 それは、どこかでアサシンの事を聞いた事も影響していたのかもしれない。悪になったら、あの仲間としてどこかで召喚されるかもと冗談半分で時臣が話したのだ。

 

―――絶対に私はイーッなどと叫ばんぞ……。

 

 絶対悪の素質を持った男は、絶対悪と出会った事でその道を死んでも行くものかと決意した。それもまた、絶対悪がもたらした結末の一つ……。




うん、なんだこれ? 自分でも書き終わった後で首を傾げてしまった。でも、こうなるしかないと思っています。ショッカー戦闘員が関わり、ライダーと名の付く存在がいて、この世全て悪なんて大層なものがいるのなら、こうなるしかないと。

楽しんでもらえたら幸い。少しでも笑えたら幸せ。感想もらえたら感激です。
ご拝読、本当にありがとうございました。拙作製造機の次回作には、期待しないでください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。