全てのボマーを捕まえた翌日。
部屋には新アイテムが設置されていた。
みんなに貰った誕生日プレゼントだ。
「……部屋が狭い」
2人くらいが座れそうなソファが2つ、ベッドと併せてテーブルを囲むように置かれている。
おかげで部屋のスペースがかなり埋まった感じだ。
最初からこうなることを想定していたのか、テーブルは高さ調整できるものであったため、ベッドかソファーに座ってちょうどいいくらいの高さまで引き上げられた。
寮の1階のフロントまで受け取りに行って、部屋に搬入するまでの間にひと悶着あったわけだが、まあそれはいいか。
健が手伝ってくれなかったら詰んでいた可能性が高い。
絨毯の上に直接座ったり、クッションを使ったりしてテーブルを囲んでいたのが、今後はソファーかベッドに腰掛けることになる。
オレへの誕生日プレゼントという名目で、部屋の備品が更新された感じだ。
「何か不満でも?」
「いや、いいんだが……ただ部屋が……」
まあいいか。せっかくの誕生日プレゼントにケチをつけても仕方ない。
早速というわけでもないけど、ソファーを使って勉強会が行われていた。
クラス主催の勉強会は、1部が16時~18時で堀北が指導役。
部活生に向けた2部が20時~22時で平田が指導役。
櫛田と松下はどちらにも参加し、堀北や平田の手が回らないところを担当している。
1部の勉強会に参加後、佐倉と堀北と一緒にオレの部屋に移動して、延長戦が始まった。
といっても、堀北は対Dクラスに出題するテスト問題を製作中で、オレと佐倉が1対1で勉強しているというか、佐倉に教えている感じだ。
「愛里、そこの前のところで計算が間違っている」
「あう……」
数学の勉強で佐倉が詰まったところをチェックして、教える。
緊張しているのか、単純な計算ミスをしてその先がおかしくなっていた。
「少し休むか?」
「ううん、もうちょっと頑張る」
時刻は19時過ぎ。
ボチボチ夕食には丁度よさそうな感じだが、佐倉はやる気十分らしい。
もうひと踏ん張り付き合うことにしよう。
と、気合を入れ直したところでインターホンが鳴った。
「……誰もいないぞ」
「じゃあ、私が今話してるのは誰なの。いいから開けてよ」
軽い冗談だ。
ドアを開けると佐藤が待ち構えていた。
観念して部屋に上げる。
「今日は来ないんじゃなかったのか」
「軽井沢さん達との食事が早く終わったから」
佐藤は、勉強会の後にクラスの女子と夕飯を食べに行っていたらしい。
勉強会の初回からプチ打ち上げなんだろうか。
女子のやることは分からん。
楽しみがなければ勉強に張り合いが出てこないから、そんなもんなのかもしれない。
「お邪魔しま──って、なんで佐倉さん全裸なの!?」
「あうっ……」
気づいてしまったか。
そう、佐倉は今までずっと全裸で勉強と向き合っていた。すっぽんぽんだ。
「テスト対策だ」
「綾小路くんってたまに変なこと言うよね」
「いや、真面目なヤツ」
「そうなの?」
別に好き好んで佐倉を脱がして楽しんでいたわけじゃない。
佐倉に全裸になってもらったのには、しっかりとした理由がある。
「あのね……私がテスト当日に緊張しちゃって、本番で失敗するから、勉強に集中しにくい状況でも集中できるようにしろって清隆くんが考えてくれて」
「……へー、そうなんだ」
佐倉の本番に弱いという弱点を改善するためのものだ。
落ち着いてやれば、佐倉は問題ないレベルの学力がある。だが、本番で力を発揮できなければ何の意味もない。
日ごろからプレッシャーの中で勉強をして、どうにか克服できないかという試みだ。
「効果はありそうなの?」
「脱ぐのが癖になりそう」
「ダメじゃん」
ちょっと待て。
どっかの家族麻雀でお小遣いを巻き上げられていた魔王みたいに、常日頃の力を発揮するには脱ぐしかないみたいな癖はいらない。
服を着せるべきか。
いや、もうちょっとこのまま追い込んで様子を見よう。
勉強に集中しきれていないのは、事実だ。
「佐倉さんが脱いでる理由は分かったけど」
とりあえず佐藤は納得してくれたらしい。
「なんで堀北さんも全裸なの?」
気づいてしまったか。
寮に最初から備わっている机と向き合っている堀北は、佐倉と同様全裸だった。
俺が佐倉に脱いでみないか? と提案した時になぜか堀北も脱ぎだした。
俺は、見なかったことにした。
堀北が全裸でいることが、それはそれで佐倉にプレッシャーになっていたから。
けっして、触れるのが怖かったからではない。
「愚問ね」
愚問らしいぞ。
あの堀北が一体全体何を言い出すのか。
「この部屋のルールに従っているだけよ」
「そんなルールはねえよ!」
勝手に作るな、けしからん。
つーか、俺が衣服を着てる時点で、そんなルールは存在しない。
須藤が遊びに来た時に玄関で脱ぎだしたら、2秒で叩き出す。
「綾小路くん。あなたが言ったのよ」
どこの綾小路だ。
「佐倉さんに、これからこの部屋で勉強する時は服を脱げって」
「……ぐぬぬ」
身に覚えがありすぎる指摘だ。
いや、待て、誰も堀北に対しては言ってねえし、この部屋のルールにしたつもりはねえ。
「佐藤さん、あなたいつまで服を着ているの?」
「ルールの定着化をはかろうとするな」
「綾小路くん。ルールは家主よりも優先されるのよ」
「ルールを作るのが家主だろうが」
「つまりルールを作ったことを認めるのね」
その思考をもっと特別試験に活かしてくれませんかね。
堀北のやつ、全裸になっているせいか活き活きしてやがる。やはり駄犬には服は不要なのか。
「服を脱ぐっておかしいでしょ」
いいぞ、佐藤。もっと抵抗しろ。
「佐藤さん。よく周りを見てみなさい。今服を着ているのは、あなただけ。多数決で言えばおかしいのはあなたよ」
「…………」
「この部屋のルールを守れないのなら、帰って」
「脱げばいいのね。分かった脱ぐから」
佐藤陥落。よええよ。佐藤さんちょっとチョロ過ぎませんか。
「いや、堀北の冗談だから。佐藤脱がなくていいぞ」
「私は本気よ」
「お前の存在が冗談なんだ」
「そうね。冗談のような本当の話。それが実在したのが私」
なんだよこの生物。いったい誰が堀北をこんな奴にしやがった。
全裸でドヤ顔になるなよ。頭が痛い。
「愛里、堀北になんかいってやてくれ」
「私も誇れる全裸になりたい」
「そっちにはいかないでくれ、ガチで頼む」
人選ミスった。
誇れる全裸ってなんだ。
「やっぱり……私なんかの裸じゃ」
「愛里の全裸は素晴らしいだろうが!!!」
佐倉愛理グラビアアイドル。
その破壊力はすさまじいわけで、否定するわけにはいかない。
だが、ここで認めてしまうと誇れる全裸まで認めるという悲しい方向へ。
「佐倉さん。あなたは誇っていいわ」
「話をややこしくするな」
「やっぱり私なんかじゃ」
「愛里……裸を誇っていい」
いいんだ、愛里。
愛里の裸は最高なんだから。
「私も誇っていい?」
「佐藤は、我慢しろ」
「ひどい」
だって佐藤だし。これ以上ややこしくするな。
恥じらいを忘れないで欲しい。
まあいい。佐藤はともかく、愛里が自分に自信を持つのはいいことだろう。
それがテストの成績にも繋がるはずだ。自信がないから焦ってしまう。もしかしたら堀北はそこまで見据えて……そんなわけないな。
全裸でソファーを移動させ始める堀北を見て、判断を改めた。
「何やってるんだ」
「準備よ」
「私も手伝う」
「えっと……こうやって……」
テーブルをどけてスペースを作ると、堀北、佐倉、佐藤の3人が2つの分かれていたソファーをくっつけだした。
そのまま背もたれの部分を押すと2つのソファーがくっついて、ベッドに早変わりだ。
「じゃじゃーん、元のベッドじゃ手薄になってたでしょ、だからみんなでお金を出しあったんだ」
新たに誕生したベッドは、元の備え付けのベッドの倍近いサイズになっている。
おまけにソファーだけあってクッション性が高い。
「綾小路くん、誕生日おめでとう」
「おめでとう」
「改めておめでとう」
「……お、おう」
勉強会はどこに行ったんだ。
まあ、いいか。佐藤の登場で、佐倉の集中力も切れたみたいだし、切り上げるとしよう。
佐藤め、余計なタイミングで現れやがって。
せっかく貰った誕生日プレゼントだ。
使い心地を確かめなければ。
「堀北、愛里、佐藤」
「ご主人様」
「清隆くん」
「綾小路くん」
「「綾小路ティーーレーーーーーックス」」
誕生日プレゼントは最高だった。
部屋が狭くなったが、それ以上のリターンがあったと自信をもって言える。
◇◇◇
「今日は長谷部も着たんだな」
「国語とかがちょっと苦手だしね」
「なるほど、特定科目の対策か」
クラスが主催している勉強会は、全体的な引き上げを目的としている。
苦手科目のフォローとかは少数精鋭の方がやりやすい。
というので、長谷部が俺の部屋の勉強会に参加したのは納得できる。
「で、なぜ脱いだ?」
「そういうルールって聞いたから? あんま見ないでよ」
「見ないでって言われても見るだろ、そりゃ」
佐倉と並んで全裸でテーブルと向き合っている。
長谷部と言えば、グラビアアイドルの佐倉に負けず劣らずのおっぱいの持ち主だ。
脱いでいたら見る。それこそ自然の摂理。
その脇には佐藤がいて、やはり脱いでいた。
佐藤の裸は別に見る必要ない。これもまた真理。
「脱ぐのは愛里だけのルールだったんだが」
「愛里だけ恥ずかしい思いさせるわけにはいかないし」
友達想いなのはいいことだと思うが、目的は佐倉にプレッシャーをかけることだ。
みんなで脱げば怖くないというわけじゃないけど、これで意味があるんだろうか。
佐倉を楽にしてどうする、と言いたい。
だが、眼福なのも事実だ。このままでいいことにしよう。
全裸であるというところを無視すれば、勉強をすることは悪くないはずだ。
しばらく真面目に3人と向き合う。
「……愛里、そこはこの公式を使って」
「あう」
「佐藤、またそこが抜けてる」
「あ、そっか」
「長谷部は、どうしてその答えになった」
「なんとなく……間違ってた?」
三者三様の進捗状況って感じだ。
佐倉は、普段から真面目に勉強しているらしく得意不得意なく全教科そこそこ出来る。
とはいえ、応用問題や引っかけ問題を苦手としており、少し難易度の高い問題に挑戦してもらっている。ある程度こなれてくればそのうち解けるようになっていくはずだ。
コツコツ積み上げて行けるのは大きな強みで、放っておいてもある程度安心できる。
長谷部は、好き嫌いが激しいのか得意不得意の差が大きい。
理系科目は、佐倉よりも上だが文系科目は佐倉に劣る。トータルでは文系科目が足を引っ張り佐倉よりもやや下くらいか。
科目別に退学ルールが設けられている学校では、やや不安が残る。
理系が出来るということは、ある程度論理力は備わっているはずだが、文系科目を感覚で解く悪癖がある。文系科目の解き方が分かっていないのかもしれない。
感覚ではなく論理的に解けるようになれば、どうにかなりそうだからそこを教え込もう。
集中力にも波があるタイプで、飽きさせないような工夫が必要になってくる。
佐藤は、全体的に悪い。
中学時代に遊んでいたと白状した通りの成績って感じで、全体的に足りていない。
教えれば理解は出来るので、時間が掛かりそうだが、クラスの平均からやや下くらいまでは引き上げたいところだ。
ただ、勉強に対する集中力が高くないので、ある程度目を離さずに見ていないといけない。
前途多難だ。
それぞれの性格が、そのまま勉強にも表れている感じか。
それに合わせるためには、こうやって少人数での勉強会の方が理にかなっている。
試験までは、この3人をベースにして勉強会をやっていこう。
「……ふぅ」
「うーん、頭使ってるって感じ」
「もう終わりでいいでしょ、終わろうよ」
19時30分。
寮で異性の部屋への滞在が認めらているのは、20時までだ。
それ以降に出入りしているのを見られたら、めんどくさいことになる。
あと30分頑張れ、と言いたいところだが、佐藤の集中力が限界に来ていた。
まあ、こんなもんか。
「分かった。ここまでにしよう」
といった瞬間、佐倉がソファーをベッドに変形し始めた。
長谷部も苦笑いしながら手伝っている。
佐藤が何かを期待してこっちを見ていた。
勉強で疲れた後は、リフレッシュタイムも必要ってことか。
「愛里、長谷部、佐藤」
「清隆くん」
「あやのん」
「綾小路くん」
「「綾小路ティーーレーーーーーックス」」
20時を過ぎての退出になってしまった。
勉強会は、正当な理由として認められるはず……だ。
◇◇◇
こんな感じで日々は続く。
休日に、部活を終えた小野寺が参加したり。
小野寺とはいえば、運動能力女子ナンバー1だが、別に勉強が出来ないタイプじゃない。
勉強よりも身体を動かす方が好きで、部活を優先させているだけだ。
つーわけで、勉強後は身体を動かさなければ。
「小野寺」
「綾小路くん」
「「綾小路ティーーレーーーーーックス」」
ある時は、松下も参加したり。
松下は、小野寺に続いて勉強中は全裸にならなかった。服を着た女性がいるってだけで、どこかホッとする俺がいた。
どうやら連日のクラスの勉強会の指導役でお疲れのようだ。労わってあげなければ。
「松下」
「綾小路くん」
「「綾小路ティーーレーーーーーックス」」
ある日は、須藤の勉強を教えたり。
幸村に鍛え上げられてメキメキとレベルアップしている。佐藤よりもひどい小学生レベルからのスタートだったが、油断したら佐藤が追い抜かれそうな感じだ。
当たり前だが、須藤は服を着ていた。
脱いでいたら怖い。
「清隆、悪いけど脱がしていいか?」
と思っていたら、須藤がとんでもないことを言い出した。
お前が脱がないと思ったら脱がす側なんかい!
というツッコミを入れる余裕はない。
「ま、待て、早まるな健」
「もう我慢できねえよ」
どうにか静止しようとしたが、須藤は止まらない。
「ふー、さっきから消しゴムが使い難かったんだよなぁ。借りてるやつで悪いけど、剥いだからな」
「ッ!? そ、そうか。消しゴムか。消しゴムなら別にいい」
な、なんだよ。驚かせやがって。
須藤が脱がせたのは、擦り減ってスリーブ*1内に隠れるようになった消しゴムを使いやすくするため、スリーブを破り捨てたらしい。
オレの消しゴムになんてことをっていう感情より、脱がされたのが消しゴムで良かったという気持ちの方が強い。
豆知識だが、消しゴムがスリーブに隠れて使いにくくなった時は、スリーブの後ろ側をハサミとかで切るのが正解らしい。上というか前側は、消しゴムが食い込みにくいように処理がしてあることが多いので、切るのは後ろ側だ。
破り捨てた須藤は、間違っている。
ふーーー、一人で勝手にドキドキしてしまった。
午前中にジムで一之瀬と一緒に汗を流したのが失敗だったのかもしれない。
その時にピンク脳が伝染してきたのかもしれない。
あと、勉強会とTレックスがセットになっているのが悪い。調子に乗りすぎだ。少し控えよう。
「健」
「清隆」
「あや──まりがあるぞ、ここ」
「うぉ、マジか。解きなおすわ」
うん、ギリセーフ。危ない危ない。
ある日は、篠原が一人で来たり。
篠原の復習に付き合う。
「篠原」
「綾小路くん」
「「綾小路ティーーレーーーーーックス」」
その翌日もまた、篠原が来たり。
「え、なんで佐藤さんが脱いでるの!?」
俺が知りたい。
佐藤単独で来てたんだから脱ぐ理由なんかなかった。
いや、単独じゃなくても脱ぐ理由なかないんだが、部屋に入ると同時に脱ぎだした。
佐藤の中でルールが定着化している。
「篠原、佐藤」
「綾小路くん」
「「綾小路ティーーレーーーーーックス」」
なんだかんだ佐藤と篠原で仲良くなりました。
またある日は橘先輩が、指導に着てくれたり。
みんなで勉強会だ。
「ローションにまだそんな使い方があったとは」
「綾小路くん。指導するのはやぶさかではないんですけど」
「どうかしましたか?」
「ちょっと生徒が多すぎません?」
「いいじゃないですか。ローション文化を引き継ごうと必死に学んでる最中なんです」
「あとなんでみんな全裸なんですか」
「ローションだからです」
「理由になってませんって言いたいけど、微妙に理由になってるのが腹立たしいですね」
保健体育は、期末テストの対象外だがたまには実技も学ばなければ。
「橘先輩、その他大勢」
「綾小路くん×5」
「「綾小路ティーーレーーーーーックス」」
だいたいいつものメンバーだ。誰が参加したいのかは察して欲しい。
◇◇◇
こんな感じで月日は流れ、問題提出の締め切り日がやってきた。
「現代文の問題だ」
「採用するのかどうかは、問題を見てから決めさせてもらうわ」
「好きにしてくれ」
仲のいいメンバーを中心に、勉強会を開催して学力の引き上げを行った。
それなりに手ごたえを感じている。が、それだけでは足りないかもしれない。
グループのメンバーが成績を上げても、クラス全体でどこまで戦えるのか。
転ばぬ先の杖というほどでもないが、試験に勝つために問題制作にも手を貸すことに決めた。
思いのほか、勉強会が順調に進んで、途中からは自習の割合が増えて手持無沙汰になったというのもある。
「綾小路くん。難しい問題を押しつける試験だって分かってる?」
「当然だ」
「それで、授業で習ったばかりの『こころ』を選ぶ理由は?」
「解けば分かる」
「そう……」
夏目漱石の『こころ』は、2学期に国語の授業で取り扱われた題材だった。
特に印象的な、3部の『下 先生と遺書』を使って、先生が孤独や罪悪感を抱えた理由を丁寧に教わっていた。
池とか山内が「バカだ、僕はバカだ」と作中の言葉を使ってはしゃいでいたのを、クラス中が「その通り」と思ったのも記憶に新しい。
「先生は何に不安を抱えていたのか」
「裏切り、人間不信、自己嫌悪、まとめるとキーワードはこの3つね」
堀北らしい『こころ』という作品の要点を的確に捉えた模範解答だった。
だが、残念ながら不正解だ。
「違う。結婚を申し込んでトントン拍子に決まったことだ」
「え?」
「堀北、問題分をしっかり読め。どこに裏切りや自己嫌悪が出てきた」
「それは……『こころ』はそういう作品よ」
「これは現代文のテストだ。作品の本質とかどうでもいい。次の文章を読んで最も適切な答えを探さなければならない」
出題文として、大胆にカットされた本文。
恣意的に、作品の本質を歪めて作り上げた問題文だ。
本来の作品と出題文のズレに惑わされることなく、あくまでも論理的に答えを構築できるのかがこの問題の攻略のカギとなる。
「綾小路くん……兄さんより性格が悪い問題よ」
「悪かったな」
堀北が敬愛する兄よりも上だという評価。
それは、堀北にとって最上級の評価だ。どうやら採用されるらしい。
堀北が引っかかったということは、それなりに効果がありそうだ。
この最後の悪あがきをもって、ペーパーシャッフル試験に向けた準備が終わった。
あとは試験を終えて、結果を待つだけだ。