鉄板屋「龍驤」   作:モチセ

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 え? もう覚えてへんって? 今すぐ読み直してこいや。
 安心せえウチも忘れてる。



11話

 

 

 あれから数日後。夜明け頃。朝日が昇り始めた開店前のウチの店に、いつもの客メンツに加えて新顔が一人増えていた。

 本来はゴーヤにだけ紹介するつもりだったのが、早番である青葉とテンションが妙に高い明石もついてきた。ついてくんな。

 

「紹介するで、新入りの江風や」

「よろしく頼ンます!」

「元気があってよろしいでち」

 

 元々いた鎮守府において、解体済み扱いされているために帰る場所のない江風を店員第一号として雇うことになってもうて。

 鎮守府で匿えられればよかったのだが、現在の軍紀では艦娘の管理が非常に徹底されており、"いつの間にか増えました"が通る世界ではなくなっており不可能である。解体済みはある意味抜け道。

 そこで江風の受け入れ先として候補に挙がったのがウチの店である。鉄板屋「龍驤」は引退した艦娘が経営してるってだけで鎮守府ではないから受け入れられるっちゅうことやねん。

 まぁウチとしても話が来た時点で覚悟はしとったからええんやけど。問題はカウンター席でぴーちくぱーちく騒ぐ客共である。

 

「龍驤さぁぁん! 弟子は作らないって私の前で誓ったじゃないですかぁぁ!!」

「言うたけど誓ってへんしコイツは弟子ないで明石」

「でも実質弟子ですよね? これはもう仕事放って新聞書くしかありませ」

「江風最初の仕事やこのクズを鎮守府の古鷹のところへ連れてけや手段は一任するで」

「わかりましたァ!」

「ハッ、たかが知れてる練度の駆逐艦が横須賀の古株たるこの青葉に対し何ができるというんですか」

「ゴーヤパイセンよろしくお願いしまァス!」

「請け負ったでち」

「それは禁じ手ですっていや待ってそんなおっきな魚雷入らないですよゴーヤ先輩ワレアオバですワレア"オ"ア"ア"ア"ア"ア"!!!!!」

 

 

 

 

 

 ゴーヤが腹パンならぬ腹魚雷で気絶させた青葉を引きずり、ついでに明石を追い出し開店準備に取り掛かる。テンション高い様子見るに徹夜しとったから放るとカウンターで爆睡しかねない。ワレの部屋で寝ろや。

 今まではウチひとりでやってたけど今後は江風とやらなアカン。指示を出す頭も動かさねばならない。

 

「龍驤さン、これからどこへ行くンで?」

「まずは買い出しや、近場の魚市場にいこか。運転はウチやけどそのうち任せるかもしれんから道は覚えとき」

「了解しましたァ!」

「ああそうやあと一つ言わなアカンことがあった」

「なンでしょうか?」

「魚市場では一切の常識を捨てるんや」

「どういうことですか龍驤さァン!?」

「話すより見たほうが早いな、習うより慣れろや」

「使い方間違えてまセン?」

 

 とりあえずシートベルト締めろやと江風に注意して軽トラのキーをまわしていつもの魚市場へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 到着しましたヤツの出没する魚市場。

 中に入り真っ先に目に付いたのはヤツとは違う銀髪の少女。そこそこ年の行った漁師からなにやら魚の入ったバケツを押し付けられている様子。

 

「いいから持ってけ響ちゃん」

「いやこんなに食べられないのだが……」

「だってあのクソ泥棒共を海の藻屑にしてやったんだろ? 俺らからしたらこのくらい安いもんだ!」

「いや沈めてはいないし価格の問題でもないのだが……」

「ウチの知らぬ間に仲良くなりおってまぁ」

「ちょっと待ってください龍驤さン」

「なんや」

「あそこにおられる方は今もなお現役の生ける伝説駆逐艦響ですかね?」

「生けるポンコツ方向音痴の間違いやないの?」

「ひどいいいようだね、龍驤」

 

 結局ワカメを受け取ってしまった響がこちらへとやってきた。

 バケツにはワカメが大量に入っていた。艦娘パゥワーでごまかしてるとはいえかなり重いだろう。

 

「ちゅうかあの時屋台にいた響やで、見覚えはあるやろ?」

「なンと言いますか今初めてきづいたンですよ」

「仕方ないさ龍驤、あの時の江風はいっぱいいっぱいだったんだ。私は気にしないよ」

 

 

 それはそうとその大量のワカメどうするん? と聞こうとしたところにヤツのうれしそうな声が聞こえてきた。

 

「ア! リュッチダー! オーイ!!」

 

 レ級が手を振りながら勢いよく走ってきて察した。笑顔でゆるやかに手を振るハイタッチしたげな上半身と比べ、下半身は力強く踏み込んでいる。この走り方は駆け寄るような走り方ではなく、何かの予備動作であると。

 艦娘であったころの経験が騒ぐ。この構えはドロップキックの構え――いや待てどんな経験したんやウチ。とりあえずウチもハイタッチの構えを取り、同時に回避しようとレ級の動きに集中する。

 

「ワイワイヘッヘー!?」

「甘い」

 

 ウチのところにたどり着く寸前で跳ねるレ級。その瞬間半歩右にずれるウチ。レ級のドロップキックは悲しくも宙を切り、そのままビターンと地面に激突した。

 

「貴様が最近の流行に便乗することくらいお見通しや」

「マサカ、レッチャンノネタノ提供元ガ割レタダト?」

「いや嘘や。そんな気がしたから避けただけやな……というか流行なんかソレ」

「流行リ間違イナク流行リ」

「ええ怖……」

 

 そして江風の方を向くと案の定固まっていた。常識の一切を捨てろって言うたのに、いやこれはウチが毒されすぎか。

 

「放心シチャッテルヨドウシテクレンノサ龍驤サン」

「間違いなくお前のせいやろが」

「ビッキチャンハスグ適応シタッテイウノニ」

「例外やで?」

「あれを適応というのか?」

「チナミニ龍驤ハ瞬ク間ニ艦載機全展開シテタゾ」

「マジか」

「ナゼニリュッチガ驚ク」

「いやそらウチにそこまでした記憶がないから無意識でやってたっちゅうことやからな」

「できても不思議じゃないな」

「ワチキ実際ニ見タモン」

 

 ぶりっ子ぶるレ級を余所目に江風を見てみるとなにやらぶつぶつつぶやいていた。

 

「え、レ級、え? 深海棲艦? なンで? 江風ここで沈むンで?」

「海鮮ノ海ニ沈メタルサカイ先制雷撃ジャイ!」

 

 レ級が江風の口にワカメを突っ込む。突っ込まれた江風は静かに咀嚼そして飲み込む。

 

「なンと言うか思ったより弾力がある」

「フム、良好ダナ……生ノ時期ハ生ニ限ル」

「しかし驚くほどに味がないなー」

「食卓ニ米トワカメシカ並ベラレナイ地獄ヲ知ッタ上デホザクカ貴様! マヨ醤油デ米進メナアカンノヤゾ!!」

「なンといいますかすンませン」

「知ッテルカ貴様。ワカメハ買ウモノデハナイ、貰ウモノナノダ、腐ルホドナ。ヨク覚エテオケ」

「わかりました胸に刻ンでおきます」

「刻むほどのことでもないと思うんやけど」

「龍驤これを見ても同じ事を言えるかい? 実はあと1つあるんだ」

「すまんかった」

 

「そういや聞きそびれたんやけど響はなんでここにおんねん」

「事後処理だよ。詳しいことは言えないよ」

「真実ハ昨日魚市場デ酔イツブレタビッキーヲ保護シタカラダゾ、嘘ツクナコノオマヌケメ」

「ああ、そうだね、そういうことにしておこうか」

「本当かウソか分からん話にせんでもらえる?」

 

 

 

 

 

 鉄板屋へと帰宅。響からバケツワカメを渡されるのを拒否してタコのおっちゃんのところに行ったらバケツワカメをオマケでプレゼントされた。青葉に食わせるか。

 

「んでなんであんたらまで来てるんや」

「ヤル事全部終ワッテ暇ダカラ」

「次の任務待ちで暇だからだよ」

「いやバケツワカメ3つになってもうたけどどうするんこれ」

「地獄ノワカメオンリーシャブシャブ」

「味噌汁」

「あれこれ江風も提案する奴かい?」

「まずは鎮守府におすそ分けする、むしろせんとアカンな」

「輸送なら島風にお任せー! だって速いもん!」

  

 突如店の扉が開き、"スーパーCEO"と書かれたTシャツとジャージを来たどこぞの社長である島風が現れた。

 

「なんでおんねん貴様」

「だって速いから」

「理由になってへんよ?」

「コレニハ訳ガアルンダリュッチ」

「ほう聞かせてもらおうやないの」

「ワテクシガ商談デ社長ヲ呼ンダノヨ」

「島風呼ばれました!」

「ソシタラココデ話シタイト帰ッテキタモンデ」

「だって島風速いもん!」

「ソレ言えば大概のこと許されるって思ってへんかワレ」

 

 レ級って島風と接点あったんかという驚愕を他所に島風はレ級の隣に座る。

 ちらっと響の方を見てみるとウチと同じような顔をしていた。そりゃあ追ってた奴が仲間の知り合いだってわかったらそうなるか。

 

「商売上のお付き合いがあるからね! 早速だけど本題に入るよレッチャン!」

「さらっと思考を読むんやない」

「アイヤ待タレイコイツガ漁獲量ヲ纏メタ書類デヤンス」

「ほうほうなるほど見せてもらうね」

 

 そこそこ厚い書類の束をばらばらーとめくっていく島風。それ確認できてるん……って聞くと"だって速いから"って帰ってきそうだから茶化すのはやめておいた。

 確かに思考の回転は速いし動体視力も現役時は鎮守府2位だったし、不可能ではないかもしれんな。ちなみに堂々の1位はゴーヤである。

 

「ついていけない、助けてくれ龍驤」

「江風でも分かるレベルの伝説の艦娘が2人もいるなンて……」

「私たちを伝説というなら目の前の龍驤だってその枠だよ?」

「…………まさかあの立場なんて関係ない軽空母で有名なあの?」

「いやそれは初耳だな」

「ちょっち待て江風その話詳しく教えろや店長命令」

「"適材適所、全ての艦娘には役割がある"っていう言葉がありまして、単純に生かしきれていない貴様が悪いって視察先のよろしくない提督の襟掴んでいい放っ」

「青葉ァァァア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!」

 

 そのとき、ウチの中で何かがキレた。

 

「一瞬で青葉が犯人って分かってるねアレ」

「そういえば龍驤そんなことやらかしてたねー」

「ということは本物なンすか……」

「普通ニヤバナイ?」

「龍驤以外だったら許されない案件だったねアレは」

「龍田も許されそうじゃないか?」

「ああ確かに許されそう……というかあのときにやってなかった? ほら、視察に来たときの」

「そういえばやっていたね、気絶させられて前後の記憶が吹き飛んでたらしいよ」

「いったいどうなってンすか伝説組……」

 

 

☆ 

 

 

 

「敵艦見ゆ! 鉄板屋方面から"鬼"が来ています!!」

「誰だアイツをキレさせたド阿呆は!!」

「提督! 青葉の姿が見当たりません!」

「やっぱりアイツかこんちくしょうもう腹くくるしかねえ!!」

「司令官! これはいったい何の騒ぎ」

「いい所に来たな伝説と演習するいい機会だぞお前ら全力で当たって砕けて来い!!」

「やっぱり砕ける前提なんですね!?」

「第一艦隊から第三艦隊は至急出撃、鉄板屋方面から来る"鬼"にあたれ! 第四艦隊及び古鷹は青葉の捜索をしろ! 他の全艦娘は見て学べ! 全てだ!!」

「青葉発見しました! 現在太平洋に逃走中!!」

「第四艦隊は青葉確保に出撃! 手段は問わん、どうせアイツ沈まないから多少痛めつけてもかまわん!」

「え!? 轟沈させてしまったらどうするんですか!?」

「"鬼"が本気出しても中破で済ますような奴だぞ!? どうせ応急修理要員勝手に持ち出してるから安心しろ!」

「ゴーヤさんと連絡取れました、現在地オリョールです!!」

「全艦隊出撃準備できました提督!!」

「いいかお前らゴーヤが帰ってくるか青葉を捕まえるまでの辛抱だ! 深海棲鬼が笑えるレベルの辛い戦闘になると思うが鎮守府を守るためだ! 気張っていけ!」

 

 

 その日、横須賀鎮守府を襲った"鬼"による襲撃は、オリョールを廻る者が引きずりながら連れてきた小破状態の戦犯に全力の重い一撃を入れたことで収束。

 横須賀鎮守府の被害は戦犯が沈んでないのが不思議といえるレベルの大破、その他交戦した艦娘全てが小破という結果に。

 MVPである戦艦の艦娘は「比叡が"龍さんは近接戦闘仕掛けた時が最も恐ろしいですよ"って言ってたのは本当だったんだネー」と涙をこぼしていた。

 

 余談だが、戦犯の確保に向かった第四艦隊の艦娘は口をそろえてこう語る。

 

「そりゃあ"鬼"からあんな殴られ方してたらタフくなりますって。小破させたのもゴーヤさんですし、私たちは何もできませんでした」と。

 

 





1年振リダナ! エ、コノ間何シテタカッテ? ニコデ実況動画アゲテタワヨ!
知リタクテモ知リタクナクテモヒントヲオイテイクゼ! "コノオマヌケメ"ダ!
オレノ動画カ? 見タケリャ見セテヤル! 探セィ! 一年ノ全テソコニ置イテキタ!

コレニ関スル報告ハ別ニイラン、シカシ鉄板屋ノ感想ハ置イテケ。規約的ナ意味デダ。

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