鉄板屋「龍驤」   作:餅煎餅

2 / 11
やっぱりウチはコレがないとな。


02話

 

 ウチの鉄板屋は昼営業、夜営業でメニューが変わる。昼はたこ焼き・お好み焼きの2種で、夜営業はもんじゃやら鉄板焼きやらありとあらゆる鉄板モノを日替わりで扱う。昼時間はたまに鎮守府まで出張営業もする。ガレージにもう一台ある営業用の移動販売車がそれだ。

 まぁ今回は店舗で通常営業なんだけどさ。珍しくいつもの面子が集まったんやしな。明石に青葉、伊58(ゴーヤ)が三人並んで座っている。ゴーヤは奥の広めの席で爆睡しとるけどな。

 

「今回はゴーヤさんが寝ているので改修できませんね」

「寝てても寝てなくても改修すんなや邪魔や」

「いいじゃないですか、どうせ今の時間帯はお客さんこないんですし」

「来ないからいいって訳やないやろが」

「じゃあ龍驤さんのおごりでお好み焼き1つ」

「お前もう帰れや」

「冗談です冗談、たこ焼きでお願いします」

「やっぱお前もう帰れや」

「落ち着いてください龍さん。青葉が払いますから」

「青葉さんが出してくれるそうなのでお願いしますね」

「明石お前ホンマ図々しいな」

「それほどでもないですよぅ」

「普通に非難されてますよ明石さん」

 

 仕方がないのでたこ焼きを焼き始める。食べるものがないのはなんか嫌やからな。片面をたこ焼きプレートにし、そのすべてに油をしいてからタネを入れる。全面は流石にウチひとりやと間に合わないので片面だけだ。たこもいれて焼きあがり次第、ピックを使ってひっくり返していく。

 

「よし、龍驤さんが作り始めました!」

「新聞を書くなら今ですねぇ!」

「お前ら黙るでち」

 

 いつの間にか起きていたゴーヤが2人の頭を掴んでいた。掴まれていた2人は何かを察したかのごとく顔を蒼くして冷や汗をかいている。オリョクーラーとも呼ばれるゴーヤは横須賀鎮守府、いや、おそらく全艦娘の中でも特に練度が高い。なぜなら、いつも勝手にオリョールに出撃しているからだ。朝起きてオリョクルして顔洗ってオリョクルして以下略と、某ドイツの出撃狂並みの出撃頻度である。命令ではなく好きでやっていることなので止めづらく、提督も「もう勝手にさせておけばいいんじゃね」と匙を投げている。それと比べ、明石はそれほど出撃しておらず、青葉もまた同様だ。つまりな、今の明石と青葉は練度的にゴーヤに対抗する力がない。ちゃうか、ゴーヤの練度がアホみたいに高いだけや。現役の頃のウチでも無理やろな。あれ? ゴーヤってもしかしてレ級レベルなんとちゃう?

 

「い、いつの間に起きていたんですか? ふだんは起きないのに……」

「たこ焼きを焼く音で起きたでち。決してお前らの声で起きたわけじゃないよ」

「い、いつになく口が悪いですねぇ……」

「それは無理やり起こされたらこうなるでち」

「やっぱり私達じゃないですか! やだー!」

 

 ゴーヤは2人の頭を掴んだままテーブルに叩きつける。テーブルも明石によって改造を受けているため、どんな力で叩きつけられても壊れない素敵仕様である。叩きつけられた2人は気絶し、店の中は静かになった。ホンマ2人が黙ると快適空間やな。

 

「じゃあ龍驤さん、たこ焼きくだち!」

「切り替え早いな」

「と思ったけど、体がうずいてるからオリョールいってくるでち!」

「いつ頃帰ってくるん?」

「だいたい1時間程度でまた来るでち」

「ホンマ驚異的な早さやなぁ」

 

 ゴーヤはじゃーねーと手を振りながら店を出て走り去っていく。オリョールまで相当距離があるけどゴーヤなら1時間で物資回収して帰ってこれる。艦娘だからできることとはいえ、普通なら半日かかるものなのだが、そこはもうゴーヤだと思考停止するしかあるまい。考えても仕方ない連中はおるんや、どっかのレ級みたいにな。

 

「せや、たこ焼きどないしよか……アカンなぁ……」

 

 明石も青葉も気絶した今、たこ焼きを消費する面子がウチしかいない。仕方がないので鎮守府に持っていくことにしよう。この店に来るのは基本艦娘、たまに提督や引退した艦娘たちだ。別に店を開けても構わないのである。

 当然、明石と青葉はここにおいていく。いるだけ邪魔やからな。

 

 のれんを片付け、出張中の看板を入口に立ててから、たこ焼きのタネとたこ、その他もろもろをガレージにおいてある軽トラではない派手な塗装の車に乗せる。移動販売車、鉄板屋龍驤だ。

 目指すは徒歩1分の横須賀第二鎮守府。超近いけどな。

 

 

 

 

 横須賀鎮守府。横須賀鎮守府は正確には第一と第二で2つあり、それぞれ別の提督が運用している。

 ウチが来たんは第二鎮守府。こっちは主に支援や教育、訓練を主に行う鎮守府や。最初は1つの鎮守府やったんやけど、大きくなるにつれ教育が間にあわんくなってな。前線や遠征を担当する第一鎮守府と、支援や教育を担当する第二鎮守府に分かれたんや。ちなみに第一鎮守府はここから車で30分程度のところにあるで。第一で営業しとうないからこっちに来とる。第一いくと空母がすぐやってきて買い占めるからな。

 

 到着したウチはまず開店準備。メニューを近くに立てかけ、窓を開けてついでに小さな台も置いておく。艦娘の中には窓に届かないちっさい奴もおるからな。あとは先ほどの作り置きを再加熱し、適当にソースや青海苔他をかけてパックにいれておく。

 今現在11時。まだ訓練時間中やな。でも暇を持て余した教官あたりは来るやろ。

 と思っていたら早速本日のお客1号が走ってやってきたようだ。水色ではなく黒っぽい色のセーラー服を着て、中には黒いインナー。こげ茶のショートヘアに、昼の間でも光っている左目。あのごっつい艤装はしていないが、確実に古鷹である。この様子やと青葉が何かしよったな。

 近づいてきた古鷹は全力疾走していたであろうにも関わらず、そんなに息を切らしていないようだった。

 

「すみません龍驤さん! 青葉を見ませんでしたか!?」

「アイツならウチの店で寝とるで」

「ありがとうございます! ちょっと行ってきますね!」

 

 古鷹は再び走り出し、ウチの店の方角へと消えていく。心の中で青葉に合掌……いや、親指さげておこか。

 古鷹は鎮守府の中でも古参、というかウチと同期であり、今は第二鎮守府で教官をしている。ガタが早く来てしまったウチや電とは違い、今でも前線に行ける艦娘である。古鷹が頑張っていないっちゅうわけやなくて、古鷹がタフすぎるんやけどな。でも、ここ数年で自身の衰えを感じたらしく、今では前線から引いて教官をしている。動きを見る限り衰えてないけども、本人が感じるならそうなのだろう。

 ちなみに青葉は教官と言うわけではなく、広報や通信などを担当している。ウチに入り浸る癖がついとるけどな。

 

 それからしばらくして昼休憩になったのか、ぞろぞろと艦娘たちがやってくる。第二鎮守府は基本的に駆逐艦が多い。そもそも駆逐艦の絶対数が多い以上、仕方のないことだ。ただ、駆逐艦の割合が多いだけで戦艦や空母がいないという訳ではない。

 つまり言いたいことは、真っ先に来るのは餓えたそいつらであって――――。

 

「すみません先輩! お姉様が先輩のたこ焼きを2つご所望です!」

「千円頂戴するでー」

「はいっ! おつりはいりませんのでそれでは!」

「ずいぶん気前ええな……ってぴったりやないかーい!」

 

 本日のお客様第一号は戦艦教官の比叡だった。

 え? 明石? 青葉? あれはノーカンやノーカン。

 

 

「1つおねがいしまーす!」

「あいよー」

「2つお願いする」

「あいよー」

「鮭を所望するクマ」

「川いって獲ってこいや」

「すみません、1つお願いします」

「あいよ」

「青葉も1つお願いしますねぇ」

「あいよって生きとったんかワレ」

「脳天に一撃貰っただけですよ」

「あの古鷹がキレるってお前一体何したんや……」

「嫌ですねぇ、軽いスキンシップですよ」

「軽かったら古鷹キレんやろ」

「私はたこ焼き要らないので改修の許可をください」

「お前何のためにならんだんや」

「熊を所望するクマ」

「共食いやめーや」

「共食いじゃないクマ、球磨は熊じゃないクマ」

「次のお客さんええでー」

「あ、ちょっと、普通に1つちょうだいクマ」

「龍驤さん、大丈夫ですか? 手伝いますか?」

「古鷹か、スマンがソースやらかつおぶしやら青海苔やらかけてくれへんやろか」

「分かりました!」

「そういやいったい青葉が何をしたんや?」

「それはその、秘密です」

 

 タネが切れるまでひたすら焼いてはパックに詰めていく。それに古鷹がソースや青海苔、その他もろもろをかけて提供していく。ここまで混雑するのはそれほど珍しいわけではなく、混雑するたびに古鷹が手伝ってくれる。流石に教官としての仕事があるのでピーク終了までついてくれるわけではないのが残念である。古鷹が引退したら絶対雇うわぁ……。

 

 今日も元気に鉄板屋龍驤は営業中。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。