タネが切れたので営業を終えて帰宅。掃除等メンテナンスを終わらせると既に夕方。さっさと夜の準備をせねばなるまい。準備しようと動いた矢先、固定電話が鳴り響いた。一体誰からやろかと電話の液晶を見てみると、そこには「電ちゃん」の文字。ガチャッと受話器を取り、耳に当てる。
「ウチや、どないした?」
『あ、やっと繋がったのです。私です、電です』
「おう、久しぶりやな」
『お久しぶりなのです』
「どないしたんや」
『また龍驤さんのお店で呑まないかというお話なのです』
「あ、もうそないな時期なんか」
『はい』
月2回ほど、古参組で呑み会を行っている。全員が全員参加しとる訳やないけどな。前々回なんか皆用事あってウチと電ちゃんの2人だけやったわ。古参組(2人)とは一体なんなん?
「今回の参加者はどないなっとるん?」
『はい、今回は私と龍田さんです。古鷹さんは仕事次第とおっしゃっていました』
「そか、青葉に忠告しとくで」
『ありがとうございます』
「それで、開催はいつになるん?」
『3日後を予定しているのです』
「3日後な、りょーかいや」
電話を切り、あさっては準備で忙しくなるなぁと思いながら、夜の部の営業準備を始める。言うても、材料の在庫と今日出せるメニューの確認位なんやけどな。夜のメニューは種類が多いが、全て出せるとは言ってへん。だからこそ日替わりやな。困ったときはそれ来月からなんですよと言えばええわ。出鼻くじいたる。飲食店としてはアカンけど、来るのは基本艦娘やから問題あらへん。そこ、意識低いとか言うなや。
今日出せるものを確認したら再び点火。夕方ではあるが別に開店してしまっても構わないだろう。外に出しておいた出張中の看板を取り、暖簾をかける。そのままあたりを確認してみると、伊58が外の椅子に座っていた。
「ただいまでち、これお土産の燃料だよ」
「おおきに、っちゅーても今のところ余っとるから無理せんでもええで」
「無理はしてないよ? でも大型建造するらしいからフル稼働状態だよ!」
「なんやまた大型に手ぇ出すんか」
「上からの指令なんだって」
「お疲れさんや。今からまたオリョクルかいな?」
「そうだよ! じゃあ行って来るね!」
「ほどほどにしとけやー」
「もちろんでち!」
燃料をウチに渡したゴーヤは海の方角へと走っていく。あとは潜って回収してついでに敵艦隊全滅させてくるのだろう。今思えばゴーヤは着任したときからこんなもんやったなぁ、とにかく資源回収に追われてるっちゅうかなんちゅうか。憑いてるんとちゃうんか?
余談だが、伊58は鎮守府分割前からの艦娘で、分割後はどちらにも属していない珍しい艦娘である。伊58の
★
夜の部の鉄板屋は夜11時くらいまで営業する。第二鎮守府の教官達が来るため、わりと遅い時間まで営業するのだ。なんや? 別に遅くないって? 朝起きて魚市場いかなアカン以上、この時間でも遅めなんや。艦娘にも睡眠時間は大事やからな。閉店後の清掃はウチがやらなアカンけど、洗浄とかは自動でやってくれる。神様仏様明石様や。感謝はしとるけど絶対本人の前では言わん。
今日の面子は古鷹、瑞鳳のようだ。とりあえずお好み焼きを出しておく。瑞鳳は鎮守府が少し大きくなったあと、最初に着任した艦娘である。今は第二鎮守府で軽空母艦娘の教官を担当している。鎮守府の拡大が始まるまでは古参の6人でやっとったから、瑞鳳が来て手が増えたのは嬉しかったわ。
「青葉が仕事ほったらかしにしてるんですよ」
「大丈夫? 玉子焼き食べる?」
「いつも持ち歩いてるんかそれ……」
瑞鳳は持ってきていたカバンから玉子焼きの入った大きな弁当箱を取り出すと、皆が手を伸ばせる位置に置いた。ちなみに瑞鳳の玉子焼きの持ち込みは許可している。
「あ~お~ば~が~~」
「なんやホンマ大変そうやな」
「らいじょうふ? たまおやひぃたべひゅ?」
「全部飲み込んでから言えや、一個貰うで」
「ん……今回の出来はまぁまぁね」
「いや、十分うまいんやけど」
「焼き加減が微妙なのよ」
「そうですか?」
「もうちょっと火を通すべきね」
「言うて人の好みは千差万別やろ」
「それでも誰もがおいしいと言ってくれる物が作りたいのよ」
「よう言うた」
「それはそうと龍ちゃん、お好み焼きちょっと火を通しすぎじゃない?」
「マジか、焼きなおすわ」
「古鷹にはよくわかりません……おいしいです……」
「それはそれでええんよ? あと今日ホンマ大丈夫か?」
「それはそうと、ちょっと聞いてよ龍ちゃん」
「どないしたん?」
「私ね、軽空母艦娘の教官してるじゃない」
「せやな」
「ついでに正規空母艦娘の教官もしてるのよ」
「マジでか」
「マジよマジ。指導する艦娘が減ってきたから担当が増えたの」
「それでどないしたん?」
「その正規空母艦娘の指導も終わりかけなのよ」
「そか」
「このまま行くと事務になるじゃない」
「せやな」
「来てください」
「落ち着け古鷹」
「そうなると玉子焼きの研究の時間が減るのよ」
「そんなこと言わず来てください」
「落ち着け古鷹」
「ちょっとだけでいいんです」
「1時間なら余裕は作れるけど」
「それで構いません」
「え? 1時間でいいの?」
「はいそれでいいです」
「乗せられとるで古鷹、一旦頭冷やせや、ちゃんと瑞鳳の顔見ろや」
「ねぇーりゅーちゃーん」
「はぁ、瑞鳳もタチの悪い冗談言うなや」
「ばれてた?」
「あたりまえやろが」
「え、あれ、冗談ですか?」
「冗談やで古鷹、とりあえず青葉に一撃いれたるから落ち着け」
「ここまでとは結構深刻な問題ね……」
今日も鉄板屋の夜は更けていく。
後日、手が空いたときは瑞鳳が手伝うようになって、さらに青葉がサボるようになったとかなんとか。あとで会ったらぶっ飛ばしたろか。
★
翌日。
青葉が出たら一発かましたるわと意気込みながら、魚市場へと向かう。魚市場に青葉は出現せえへんけどな。
「お
「待テト言ワレテ待ツノハ愚カ者ナリィィィ!!」
「今回待て言ってねえぞおおおお!!」
「止マルンジャネエゾォォ!!」
「止まれやこのクソガキャァァアア!!」
今日も今日とて包丁持ったおじいさんがレ級を追いかけていた。いつもよりおじいさんの口が悪い。しかも今日持ってる包丁は一目で分かるほどの業物である刺身包丁だ。ガチだ、ガチで行ってるこれ。レ級の尻尾を見てみるとまるで捌きたてのマグロのサクがくわえられていた。ああ、そらガチだわ。
マグロは深海棲艦が現れてから漁獲量が激減した魚であり、その希少価値はおそらく最高峰。
「マグロがあるなんて珍しいな」
「龍驤ちゃんも慣れてきたね」
「深海棲艦より怖い奴がおるからな」
「違いねえ、おっかねえぜアレは」
さて問題や、怨念に塗れた形相でこちらに砲撃で攻撃してくる深海棲艦、憤怒の形相で業物の包丁を持って高速で走ってくるおじいさん。どっちが怖い? いや、どっちも怖いんやけど、滅多に見ないおじいさんの方が怖い。
それはそうと、ここは大きくない魚市場だ、マグロ漁船なんて来るわけない。というか、マグロ漁は今の情勢では危険すぎるので禁止されているはずだ。どこかの鎮守府は運営費稼ぎのために獲ってるとか聞いたことあるけど。
「……ちょいまて、なんでここにマグロがおんねん」
「レっちゃんが獲ってきた」
「もうアイツ深海棲艦やなくて漁師でええんやないかな」
「何言ってんだ、アイドルだろ」
「アイドルがマグロ獲るんか」
「結構昔のアイドルは無人島開拓していたらしいぞ、マグロ獲ってもおかしくないだろ」
「アイドルってなんやねん……」
あたりを見回してみると、まだ解体されていないマグロが2匹おった。既に解体されていたのも含めて3匹いたことになる。希少価値とは一体。
「……せや、ちょい頼んでみよか」
「どうしたんだ?」
「ああ、明後日にウチで呑み会するんや、なんやええモンないやろか思ってな」
「そうなのか。そう言えば、そろそろホタテがいい具合になる時期だな。くれてやろうではないか」
「ええんか?」
「その代わり今日も買っていけよ?」
おじちゃんのところでタコとイカを多めに買うと、逃げ切ったのだろうレ級がマグロのサク片手にやってきた。既にかじられた跡がある。
「ラッシャーセーリュッチー」
「手、手づかみで食うんか」
「ン? アタシ体温ナイカラ鮮度ニ問題ナイアルヨ」
「そういう問題やないんやけど」
「ウチガ獲ッタモンヤシ? 別ニエエジャナイカエエジャナイカ!」
「希少価値高いんやでソレ」
「ソレハソウトイツモゴ利用アリガトーゴザイマス! コレアゲルワヨ!」
「食いかけやないか」
「鮮度ニ問題ナシ!」
「衛生的にあかんやろ」
「ワタクシ海ノ者、コレ、海ノ物、同ジ存在ダカラ問題ナッシン!」
「精神衛生的にあかんやろ」
「レッチャンノ食ベ残シト言ウ希少価値ダヨ?」
「希少価値に希少価値が合わさって残念になっとるわ」
「シカタネーヤローダナ、コレクレテヤルワ、感謝シナ」
レ級は尻尾の口から密封された冷凍マグロのサクを取り出してウチに渡してきた。いや、精神衛生ホンマよろしくないんやけど……。でもありがたく受け取るんやけどな。
「冷凍サセネート寄生虫ガオッカナイカラナ!」
「誰か当たったん?」
「ネーガ腹壊シテテ草ハエタ」
「ネーってネ級か、深海棲艦も寄生虫には無力なんか……」
「寄生虫モマタ海ノ物、アタイノ前デハ無力ダケドネ!」
「耐性違うんか……」
「ああ、せや、レっちゃん」
「ドナイセッチューネン!」
「まだウチ何も言ってないんやけど!?」
「ホタテノ黒イ部分ハ貝毒マミレダカラ食ウナヨ!」
「あの会話聞いてたんか!? そしてそれマジか!?」
「ソマ! ブチ抜イテ捨テヤガレ!」
ウチ食ってたんやけど……。
息抜き完了したので次回の更新は未定です