鉄板屋「龍驤」   作:餅煎餅

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04話

 いつもの昼下がり、工廠から逃げ出した明石が奥の席でチュインチュインと何らかの作業をしていた。だからなんでここですんねん。環境的にも向こうの方がええやろが。

 

 

「龍驤さん、屋台をやりましょう」

「デジャウ」

「今なんて?」

「却下」

「却下ですか?」

「当たり前や、店あるし」

「残念、既に作ってあります」

「お前えらい準備早いな!?」

「当然ですが海上でも開けるよう、海上用の屋台も存在します」

「誰が"当然ですが"って決めたんやボケ」

「今回は変形機構のあるロマン型ではありませんが、その分特化していますので問題ありません」

「今回はってなんやねん、以前もあったみたいな言い方やめーや」

 

 いやーな予感がして店の外を見に行くとになんかでっかいものがあった。無視や無視、勝手に作ったうえにココに持ってくるなアホ。

 

「戦意をなくすためのマイナスイオン発生装置も取り付けてありますので深海棲艦と遭遇しても安心です」

「マイナスイオンってそういうモンやないと思う」

「まぁまぁ騙されたと思ってやってみましょうよ」

「騙されて戦闘になったら終わりなんやけど。ウチの戦闘能力はもうガタガタなんやけど」

「海上屋台と言うだけで客引き効果も期待できますよ? たとえば、オリョール前のゴーヤさんとかオリョール帰りのゴーヤさん、オリョール中のゴーヤさんですね」

「対象がゴーヤだけやないかい、そんなんでよう客引きなんて言えるわ」 

「そうだ、龍驤さん、弟子を作ってその人に屋台を営業させましょう」

「弟子は取らん」

「なんでですか?」

「ウチもまだ修行の身や。師匠なんてガラやない」

「24回連続で第二鎮守府で最も師匠と呼びたい艦娘ランキング一位のあなたが!?」

「なんやそのランキング! いつの間にやってたんや!」

「しかも25連覇目前ですよ!?」

「現行かい! あとウチ昔に引退した身やろが!」

「いやぁ、教官層からの支持がぶ厚くて」

「教官より生徒の方が多いやろが! どうなってるんや!」

「1人何票とか決めていませんので。私が龍驤さんの票を8割くらい持ってます」

「投票しすぎやドアホが!」

「2位が実質1位なので心配しなくていいですよ」

「もう殿堂入りさせろや……」

「自ら殿堂入りを願うなんてホント傲慢ですね、それとも強欲ですか?」

「誰のせいやと思ってんねん!!」

 

 

 

 

 

 翌日。魚市場。

 今日は飲み会の日なのでその準備をしに魚市場へとやってきた。龍田はいつもの竜田揚げを持ってくるやろうし、電は分からん。おっちゃんがホタテを仕入れているはずなので、ホタテの刺身やな。あとは、鉄板の機構をちょいといじれば炭火焼になるから、それを利用してのしょうゆ焼きやな。

 

 まぁそれはそれとして。

 

「ウニィィ!!」「うにだー!」

「うにー!!」「誰だ栗投げた奴!」

 

 今日も今日とてレ級がウニを人に向かって投げていた。超危ないんやけど。

 ちなみに、元から高級食材だったウニは超高級と化している。初見の人は高級食材の惨状に気絶待った無しだ。慣れてへんと卒倒してまう魚市場とかイヤや。

 

「……おっちゃん、説明」

「レっちゃんがウニ祭り」

「そらそうやろなぁ」

 

 おっちゃんの一言しかない説明で大抵把握してしまうウチも、この混沌極まる魚市場に染まってもうたんやなぁとしみじみ思う。次は何の市場価格を荒らすんやろなぁ。

 

「あ、おっちゃん、ホタテ。あとついでにタコも」

「おう、準備してるぜ。お代はこんくらいだな」

「なんや、随分まけてくれるんやな」

「相場が落ち着いてきたみたいだからな」

「……アレか? レっちゃんがやったんかいな?」

「いやいや、レっちゃんは関係ない。他所でも養殖を再開し始めたそうだ。まぁここら辺は相当前から再開してたけどな! レっちゃん様々だぜ」

「そか。あ、これお代や」

「まいどー。次も頼むぜー」

 

 おっちゃんのところから離れ、適当に見て回る。レ級が(市場的な意味で)暴れているせいか、最初に来たときよりいろいろ価格が下がってきているようだ。変わってないのはサザエ等の一部貝類とか、ワカメ等の海藻類、サケ・マスとかイクラ。この流れだとカツオも欲しいけど、そっちはレ級の毒牙に掛かっているみたいで、下がっているようだ。哀れカツオ。ひどいやレーさーんってか。

 話は変わるが、ツマミにさきいかはどうやろかと考えていると、ウニもったアイツが現れた。レ級だ。説明不要である。

 

「オイウニ喰ワネェカ」 

「パイぶつける構えとんなや、顔面ウニとか凶悪すぎるわ」

 

 わかってねえなあというようなジェスチャーを取ったレ級は、尻尾の口から黄色い何かが入っているタッパーを取り出した。ウニである。

 

「コチラガウニヲ開イタモノニナリマース。当然塩漬ナンテスルワケナイカラ3000円」

「安すぎるわ相場崩壊も甚だしい」

「ウニハヤベェゾ。ナマヲ食ベチマウトミョウバン漬ケノ世界ニ戻レナクナル……」

「どういうことや」

「店売リ……トイウカ、開キタテ以外受ケ付ケナイ体ニナル」

「いや、今の時代、店にウニとか置いてへんやろ。超高級やで」

「セヤナー」

「せやなー」

「ソヤナー」

「ストップ」

「ソレハソウト、リュッチ、新シイ技ヲ見テクレ」

「ええで」

 

 レ級はどこからともなくサバと味噌を取り出すと、それを自分の尻尾の口の中に強引にねじ込んだ。

 

「えぇ……」

「マズ原料ト調味料ヲイタダキマス」

 

 さらに砂糖やら味噌なんやらを尻尾にねじ込んでいく。材料だけでなく包装ごとねじ込むあたり何が起きるか全然分からない。

 

「最後ニボーキサイトと鋼材ヲイレマス」

 

 容量なんかしったこっちゃねえといわんばかりのペースで、ボーキサイトをねじ込まれるレ級の尻尾は、心なしか表情が悲しみを携えたように見えてきた。ちゅうかなんでここにボーキあんねん。

 

「コレデ缶詰ガ完成シマス」

「全然分からんわボケ」

 

 口をあけた尻尾の中には何の変哲もない缶詰が何個も積み重なっていた。この間数秒である。

 

「当然加熱殺菌ハ済マセテアルノデ安心」

「どのタイミングで加熱したんや」

「企業秘密ダゾ☆」

「そもそも理解できんからやっぱええわ」

「缶詰ノ次ハ干物ダ!」

「そかー」

「長期保存デキル物ガ今売レ行キイインデナ」

「売るんか……販売許可とか大丈夫なん?」

「"ばなな"ッテ言イナガラ許可出シテクレタゾ」

「何が起きたんや」

 

 

 

 

 

 昼。自宅兼鉄板屋。誰の胸が鉄板じゃい。いつもいじりおってコンニャロメ。

 今日は夜の仕込み――そんなに多くないけど――もあるので、販売車で外には行かない。明石は今回工廠でなにかしているようで、ここにはきていない。サボリの青葉だけだ。

 

「青葉お前出禁や、ハウス」

「青葉が、青葉が何をしたっていうんですかぁ! 何もしてないのに!」

「何もせえへんっちゅうのが問題なんやドアホ、なんで昼なのにここにおんねん」

「逃げるために決まっているでしょう!」

「お前古鷹の負担考えとる?」

「瑞鳳さんが古鷹を手伝っているので大丈夫ですとも!」

「もうこいつクビでええんやないかな」

「そういうわけにもいかんでち」

「ゴーヤさん!」

「青葉はあの鎮守府で唯一まるゆネットワークに接続できる艦娘でち」

「なんやそれ聞いたことないんやけど」

「まるゆネットワークというのはですね、世界各地のまるゆさんが情報を集めてそれらをアップロードしているネットワークのことですよ」

「え、世界中にまるゆがおるん? なんで?」

「まるゆネットワークに接続できるということは、海の全ての情報を持っているといっても過言ではないでち」

「スルーせんでお願いやから」

「深海棲艦の大量出現位置から超高級食材の位置まで、まるゆネットワークはなんでもござれでち」

「まるゆ高性能すぎひん?」

「噂によると、一部の深海棲艦も利用しているよ」

「なんや心当たりあるんやけど」

「最近は食材の位置ばかり聞いてるらしいでち」

「心当たりが確定したんやけど」

「それはそうと、漂っているまるゆさんを見つけたら保護してあげましょう。漂っているということはケガをしている証拠ですから」

「ケガが治るまで保護したら海に帰してあげるでち」

「まさかの野生動物扱いに涙を禁じ得ないんやけど」

「保護すると幸運を上げてくれるかもしれないまるゆシールをくれます。これをまるゆの恩返しといいます」

「鶴どこいった鶴」

「鶴姉妹なら第一鎮守府ですよ?」

「そっちの鶴やないわボケ」

「保護してもケガが治る前にまるゆさんに何らかの不都合を働いてしまうと、どこからともなくウニが顔目掛けてとんできて7.7mm機銃に刺され運貨筒に転がされドラム缶に潰されます」

「数年前にどこぞのブラック鎮守府がやらかした事例でちね」

「これをくろまる合戦といいます」

「流石にかわいそうだと思った朧さんのペットのカニさんが仲裁したことで有名でち」

「ツッコミがおいつかんわボケ」

 

 

 

・・・

 

 

 ゴーヤが再びオリョールに戻り、青葉がスマホをいじりだした頃。そろそろ下準備をしようかと思った矢先、忘れていたことを思い出す。

 今日の飲み会は電ちゃんに龍田、古鷹だ。そう、仕事が忙しい古鷹がいるのだ。そして忙しくなる原因である青葉がここにいる。ゴーヤの登場ですっかり頭から抜けていた。アカンわ。

 

「青葉、今すぐ帰って仕事せえ」

「イヤです仕事したくないです」

「ドタマぶちぬかれたいか」

「なんか随分と過激ですね!?」

「なら連れてったるか? 今なら拳で運ぶで?」

「鎮守府まで殴り飛ばされるんですかぁ!? ここから結構距離ありますよぉ!?」

「大丈夫大丈夫、先っちょだけや」

「先っちょだけで殴り飛ばされるんですね分かりますともぉ!!」

「ええからはよいけや、ホンマにやってもええんか?」

「わかりましたよわかりましたぁっ! お願いですから殺気を放つのだけはやめてくださいよぅ!」

 

 ダッシュで第二鎮守府へと向かう青葉。それを見送るウチ。いいことしたあとはスッキリ爽快や。古鷹来れるとええなぁ。

 

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