ホタテの管理方法が間違ってたので修正
青葉が猛ダッシュで出て行った後、本日貸切の掛札をかけて準備に入る。今回のウチが使う食材はタコとホタテ、ついでにウニだ。
ウニは処理する必要がないし、タコは慣れてるからええとして、問題はホタテや。まだ生きとるし、刺身でいただくことも可能なんよ。そのためには殻開いて中身を取らなアカンけどな。
ここには漁師の人が使うような細い両刃ナイフなんてない。つまり、包丁でやることになる。殻が開いたところで包丁を入れて殻と身を切りはなすんやけど、ホタテが全力で抵抗するんよ。おかげで殻に挟まれる包丁が進まないのなんの。これが細いナイフやったら、殻を閉じる力の影響を受けにくいから全然スルスルいけるんや。開いたところ見たことあるから分かるで。
慣れた手つきでタコをシメ、たこ焼き用のサイズにカットする。あとはいつものようにタネを作って寝かせておく。刺身用ホタテとウニは冷蔵庫にシュートした。クーラーボックスで氷の上に鎮座している焼く予定のホタテ共には保冷剤をくれてやるわ。
そういった準備が終わる頃には、夕方から夜になりかけの時間帯だった。そろそろ電ちゃんと龍田が来るかなと思い、清掃しておく。"全力全快殺菌消毒"妖精さんお手製の空気清浄機清掃が終わり、今か今かと待ち望んでいると、勢いよく扉が開かれた。しかし、扉を開いた人物は想像とは違っていた。
「あれ、私が一番のり?みんなおっそーーい!!」
「本日は古参組で飲み会のため本店は貸切でございます。ご了承ついでにはよ出て行けや」
「いや私も古参組なんですけど!?」
「開店日にやらかした食い逃げを忘れてへんからな」
店に飛び込んできたのは薄い色合いの金髪と黒いウサミミっぽいリボン。"私が社長です"と達筆で書かれている白いシャツに、快活さを感じる青いジャージ。露出度が減り、代わりにイロモノ感が増した彼女は島風。一応古参の1人である。
「まーそれはそれとして」
「"それ"にすんなアホ」
「急遽仕事が楽になったので飛び入り参加するね」
「それはええけどはよ金かえせ」
「ちょーっと余裕がありません!」
「嘘つくな社長」
「金の切れ目が縁の切れ目って言うよね?」
「言わんわ」
「返したらりゅーさんに捨てられないか怖いんだよ」
「お前ウチをなんやと思っとんねん」
「鬼畜」
「はったおすで」
「それでりゅーさん、おみやげがあるんだけど」
「唐突に話変えるなアホ」
「ポン酒持ってきましたー!」
「これ大吟醸鉄底海峡ってちょい待ちこれクソ高いやつやん、どこから盗ってきたんや」
「盗ってきてないよ!? 買ったんだよ!?」
「買う金あるんならはよ返せや」
「イヤ!」
「イヤやないわドアホ!!」
「じゃあこれあげない!」
「スマンかったウチが悪うござんした」
「ゆるさぬ! だんじてゆるさぬぞ!」
「んなつれへんこと言わんといてな社長様」
島風はダサTに書かれている"私が社長です"の文字のとおり、社長である。民間の海上警備会社で、艤装でもある連装砲ちゃんを使い、鎮守府に頼むほどでもないちょっとした警備を請け負っているそうだ。たとえば、釣りの護衛だとか漁の護衛だとか。経営は順調らしく、たまに現れてはこうしてお高いものを置いていく。そのたびに食い逃げのときの
「何かにぎやかだな~て思ったら~、しまちゃんじゃな~い、おひさ~」
「お久しぶりなのです! 飛び入りですか?」
「うん! だって私は速いから!」
「速さは関係ないやろ」
そうこうしているうちに龍田と電ちゃんが来たので焼く準備を始める。
……なんや古鷹が来ないなぁ?
・・・
たこ焼きの焼ける匂いが充満する中、各々が持ち込んだ食べ物を皆でいただく。ウチはたこ焼きを焼いているので後からやけどな。
「電ちゃんは~今回おでん~?」
「なのです」
「電ちゃんのおでん……お電ちゃん……」
「今なんと言ったのです?」
「なんでもあらへんわ」
「お電ちゃんだって」
「島風ワレェ!」
「そうですか……龍驤さんも相変わらず鉄板みたいなのです」
「今なんて言うた?」
「龍驤さんも鉄板ですね、と言ったのです」
「私のセリフが取られた!」
「しまちゃんのセリフじゃないよね~?」
「あ、手が滑ってカラシが出てもうたー、どないしよー」
「今も出てるよ!? どんどんたこ焼きの中に入っていくよ!?」
「ロシアン~?」
「大量のカラシをたこ焼き1つだけに収める技量はさすがなのです」
「いやいやそれほどでもないで?」
「褒められてもカラシがとまらないんだけど!?」
「大丈夫よ~、しまちゃん食べるんでしょ?」
「一言も言ってないよ!?」
「おのこしは許しまへんのです!」
「カンベンして欲しいんだけど!?」
「冗談や冗談、使い所はもう決まってるしな」
「何に使うの!?」
「あー、社長、依頼があるんやけど」
「はいなんでございましょうか!?」
「このたこ焼きを横須賀第二鎮守府の青葉っていう艦娘の口にぶち込んで欲しいんやけど」
「なぜ!?」
「古鷹が来ぇへんのや」
「そういえば来てないのです、仕事ですか?」
「しまちゃんの登場ですっかり忘れてたわ~」
「青葉がサボるから古鷹は仕事なんよね」
「ゴーなのです。無慈悲に叩き込んでいいのです」
「あと3個ほど作らないかしら~?」
「1個で十分や。青葉が倒れて古鷹の負担が増えたら本末転倒やからな」
「私怨お断りって言いたいんだけど今回は特別にやっちゃうよ」
島風が指をパチンと鳴らすと店の扉がゆっくり開かれる。しかし、あけた人の姿は見えず、代わりに連装砲ちゃんがいた。彼こそが島風の会社の秘書にして長年の相棒、連装砲ちゃん(大)である。
連装砲ちゃん(大)は島風からたこ焼きを弾のように装填してもらうと、猛ダッシュで第二鎮守府へと向かっていった。トコトコ猛ダッシュである。
「アプローチ変えたのです?」
「うん、こっちの方がかっこいいかなって思って」
「かっこいいというよりかわいいけどね~?」
☆
「ハァ、なんとか抜け出すことに成功しました……」
――キュイ
「それにしても、今日の龍さんの様子ちょっとおかしかったですねぇ」
――キュキュキュ
「これは店に言って様子を……って、連装砲ちゃんですか、どうしてここに」
――パスッ
「ふがっ!? なんれすこへ、はこ焼き…………からぁぁぁああぁぁぁぁ!?」
「あ~お~ば~? ここにいたの? 仕事にぃ戻って、ね?」
自らが大声を上げてしまったことにより発見されてしまった青葉は、口の中で暴れまわる辛さで動けず、抵抗することもなく古鷹に捕まる。普段、青葉は見つかったとしてもまた逃げるのだが、口を押さえて「み、みず……」と某世紀末救世主の如くうめいている様子を見て、古鷹は青葉がサボっていたことを忘れ、心配の声をかける。
「どうしたの青葉? 大丈夫?」
「たこ、やきが、カラシ」
「たこ焼き? あっ、そういえば今日は飲み会だった!」
「の、飲み、会?」
「もう始まってそうだし、仕事を早く終わらせないと!」
「ちょ、ふるたか、みず」
「青葉も早く戻ってきてね!」
「いや、ちょ、待って」
猛スピードで事務室へと戻る古鷹。置いてけぼりにされる青葉。水を求めて立ち上がった青葉は、一旦思考を整理して給湯室へと向かった。
(それにしても連装砲ちゃんがなぜココに? 島風はこの鎮守府にはいないはずですが……まるゆさんにでも訊いてみましょうか)
☆
たこ焼きを食べ、おでんちゃんを味わい、竜田揚げに舌鼓を打つ。そして呑むは大吟醸鉄底海峡。このお酒は本当にレアもので、売られるときには店に長蛇の列ができ、たどり着いても売り切れです、申し訳ありませんが次回の販売をお待ちください、と釣られた猫のTシャツを着た看板娘に言われるまでがテンプレと化している。
「すみません! 遅くなりました!」
「まだ大丈夫やで」
「おっそーい!!」
「え!? うそ、島ちゃん!? 来てたの?」
「当然! だって私速いもん!」
「速さは関係ないわよね~?」
「さて、これで全員集合したな?」
「龍驤さん、何か隠し玉でもあるのですか?」
「魚市場のおっちゃんからホタテ買うてな?」
「ええ!? ホタテですか!?」
「天然もの~?」
「いや、残念ながら養殖や」
「養殖再開してたの? はっやーい……あ、そういえば」
「島風さんどうしたのですか?」
「最近養殖地域の防衛が増えたなって思ったらそれだった」
「なんや防衛って、泥棒でもおるんか?」
「たまーにいるんだよね」
「そうなのですか」
「随分と面倒ねぇ~」
刺身は〆にしたいので、焼く用のホタテをクーラーボックスから取り出し、ボタンを押して金網と化した鉄板の上に乗っける。しばらく焼いて殻が開いたらひっくり返し、殻を外してからバター醤油を希望した人数分のバターをのせてしょうゆをかけ、外した殻を戻して蒸し焼きの状態にする。あとは適当に焼けるまで待つだけだ。最初に殻は開へんのかい、やて? これが唯一知ってるやり方なんよ。
「できたで」
「いただきまーす!」
「あ、黒い部分は貝毒あるから気ぃつけぇや」
「え!? 食べちゃったんだけど!?」
「龍ちゃん忠告遅かったわよ~?」
「すぐ腹壊すわけやないから別にええか」
「別に問題ないのです」
「いや、問題ありますよ!? 島ちゃん大丈夫ですか!?」
「大丈夫やって、ダメって分からん奴ら皆食べとるしな」
「赤信号も皆でわたれば怖くないわよ~?」
「渡った先が貝毒なんだけど!? というか何で私がツッコミしてるの!? 速いから!?」
「いつもウチはツッコミ側やからな、たまには休みたいねん」
「嘘だっ!!」
「話の流れなのです」
「そうね~、しまちゃんだし~?」
「え、あ、あの、私が代わりましょうか?」
「大丈夫だよ!」
「そうですか……」
「おい島風ワレェ! なに古鷹泣かせとんねや!」
「なんでぇぇ!?」
「いえ、泣いてないですよ龍驤さん」
「あ、そか」
「分かってたよね! 絶対分かってたよね!!」
「せやな」
「絶対許さない! もう二度とこの店に来ないもん!」
「ホタテの刺身があるで」
「許す」
「ちょろいのです」
「ちょろいわねぇ~」
食べ終わった後、最後の〆であるホタテの刺身と生ウニを準備する。島風の分は多めにしておこう。
大吟醸鉄底海峡がきれたので、店においてある適当な酒を飲み、それぞれの近況を訊き合って夜は更けていった。
☆
「りゅーじょーさーん、これ燃料でちー……なんでちかこの死屍累々な地獄は……」
「あ? ごーやかいな? ええよええよその辺においておいてー」
「意識あったんだ……あ、そういえば、りゅーじょーは明石が海上用屋台を開発したのはご存知だよね?」
「せやな~」
「利用したいから明日オリョールで開いて欲しいんだよね」
「ええで~」
「言質は取ったでちよ?」
「ええでええで~……いや、ちょっち待ってゴーヤ」
「キャンセルはないでちよ~、さらばでち~」
「…………アカン、やってもうた」
「ホタテを刺身にしたりバター醤油焼きにするときに水道水で洗うと味が数ランク落ちるので気をつけましょう。私の知ってる方は基本洗いませんが、洗いたいときは海水と同じ塩分濃度の塩水を使うこと。これはホタテ以外の海産物にも言える事です。ただし、塩蔵ワカメは絶対に水洗いしてください」
ッテジーチャンガ言ッテタ!
レーノ出番ネェカラココデ出ルシカネェンダヨ! 察セ!
アトコノ発言ニハ責任取ラネーカラナ!!