鉄板屋「龍驤」   作:餅煎餅

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08話

 

 

 海上屋台してから数日後。今日も今日とていつもの魚市場行こうとしたら、ガレージの前に誰か分からないけど人らしき影と角ばった小さなナニカがいた。いつもの奴等は今の時間来ないし、一体誰やろなと思って近づくと、足音に気づいた人影がこちらを振り向く。頭に鍋を被り、その隙間からワカメが垂れている。昔から着ていた制服は土だらけで、甲子園球児を髣髴とさせる。いつかレ級に引っ張られていった連装砲ちゃんを引き連れた彼女は、古参の中で唯一現役でフリーランスの艦娘である響だった。やってることは島風と似通ってるけどね。

 

「響お前そんな格好でどないしたんや」

「ちょっと道に迷ってね」

「キュイッ!」

「迷ったレベルの惨状やないでコレ」

「奴から連装砲ちゃんを渡されてから直行したはずなんだが」

「蛇行にも程があるわ、シャワー貸すから体洗ってき」

「スパシーバ」

「いやいや1人で行くなウチの店が惨状になる」

「どうして信用されないんだい?」

「自分の格好鏡で見てからもう一度言えや」

 

 駆逐艦、響。古参組の一人であり、極度の方向音痴である。

 

 

 

 

 

 シャワーを浴び終えた響にはウチの赤いジャージを貸しておいた。うんうん、ウチの予想通りサイズぴったりや。あ、余計なこと考えた奴は屋台で轢くからな。

 ちなみに連装砲ちゃんは島風にでも呼ばれたのか、いつの間にか消えていた。アイツもニンジャの類なんか。

 

「スパシーバ」

「ええでええで」

「連装砲ちゃんがいなかったらもっと迷ってた」

「案内された上で迷うってどういうことや」

「それはそうと、これから市場かい?」

「……まぁそうやな」

「じゃあ私もついてっていいだろうか」

「ここに残す方がマズイから来てほしいんやけど」

「相変わらず信用されないね」

「仕事せえへん時は信用できひんからな」

 

 響は仕事においては方向音痴ではない。仕事中の彼女の勘に従うと、なぜか資材を補給できるポイントにたどり着いてしまうような頼れる存在なんやけど、仕事でないとその反動なのか見当違いなところに行ってまうんよな。執務室から自室に帰ろうとしたら演習場にたどり着いてたって時もあった。一旦外でないと行けへんぞそこ。

 

 ガレージの軽トラに乗り込んでエンジンを掛けていざ出発や。ちょっと出遅れたけどそこまで問題はないやろ。

 

「そこ右に曲がらないか?」

「断る……あ、赤や、別の道通ろか」

「じゃあここは左だな」

「元に戻ってどうすんねん……あれ、右に曲がったはずなのに知らん道に出た」

「マジか」

「マジや……なんでや? こんな道あったか?」

「私に聞かれても困る」

「迷うのはアカンからおとなしくUターンしよか……」

 

 

 

 

 

 

 

 やってきました魚市場。かなりの時間が経過しており、それなりに商売が終わった区域もあるようだ。そんな中、いつものおっちゃんはやってきたウチと響を見て一言。

 

「龍さん彼女連れかい?」

 

 開口一番これである。ウチは女やぞ。

 

「そないなわけないやん」

「違ったのか、彼女できた記念にオマケしてやろうと思ったのに」

「彼女や」

「龍驤手のひら返すの早いね」

「彼女さん俺と釣り行かない?」

「丁重にお断りさせてもらうよ」

「クッソガードが固いな」

「奥さんに報告したろか。それはそれとして本日のオススメはなんや?」

「脂が乗りすぎたサバを干したの」

「どんなものだい?」

「干したのに煮物にしないとやってられない脂のくどさが売り」

「買って欲しいと思えへん説明やな」

「レっちゃんが試験的に作ってばらまいた奴。なお本日の我が家の食卓に並ぶため非売品」

「なぜオススメしたんや」

「売り切れてこれしかねえからな」

「普通に売り切れって言えや」

「イヤだ面白くない」

「ちょっとまってくれレっちゃんってどんな人だい?」

「ここのアイドル」

「異議ありや」

「とりあえず却下する」

「どこにいるんだい?」

「少し離れた倉庫付近で作業してるよ」

 

 

  

 

 

 

 レっちゃんの居場所を聞いてからスタスタと歩き出した響についていって外へと出る。あたりを見回して見ると探すまでもなく奴がいた。奴の周りには木の枠に張られた網の上で、しらすがたくさん横たわっている。干しているんだろうか。

 

 奴は砂漠で空から襲ってきそうなしかめっ面の太陽のお面を被り、「らむなんとかてんてぃりす」と書かれた30cm平方の小さいピラミッドの上で、背筋を伸ばし体をYの字にしながらぐるぐる回っていた。尻尾の顔の部分は白くペイントされ、その上で赤い線が複雑に、それでいて神々しく描かれている。

 

「タイヨォォォォォ!!!」

 

 

 太陽混ぜすぎやろ。 

 

「………………」

「どうしたんや響」

「なぜここに深海棲艦がいるんだい?」

「んなもんウチが聞きたい」

「しかもこいつは」

「オ、リュッチジャネーカ」

「瞬間移動してくるなうっとおしい」

「連レハ彼女サンカ?」

「なんやここの人間はウチが誰か連れてると彼女扱いするんか」

「ワシ人間ジャナイワイ」

 

 

 しかし、砲身を向けられてゐレ級はやれやれと言わんばかりに肩をすくめている。

 

「なんで密漁者がここにいるんだい」

「シラス干シテンダヨ見レバワカンダロ」

「これも密漁かい?」

「ッチ、説明スンノモ面倒ダナ」

「貴様を密漁の罪で連行する、何か言い残すことはないかい? 30秒あたり78円だよ」

「国際電話かい!」

「ンー……ウシロウシロ」

「後ろ? 一体なんだい――――」

 

 いつの間に来ていたのだろう。響がレ級から目を離さない程度に横を向くと、目に留まらぬ速さで響がレ級に向けていた砲身が何者かにつかまれる。

 なんやなんやと掴んでいる人物を見てみると、レ級を追いかけているじっちゃんが無表情で響を見下ろしていた。

 

「お前さんや、ここは魚市場だべ、ンなあぶねえモン取り出してんでねぇ」

 

 響は抑えられていた砲塔を手放して体を回転させ、敵と認識した背後の人物に裏拳で対応する。

 

「おっと」

 

 じっちゃんは突然飛んできた裏拳を受け止め、掴んだまま響を組み伏せようとする。対応が素早かったためか響は抵抗することもできず、地面に押さえられてしまった。

 

「ぐぅっ……!」

「レ級、こいつであってっぺか?」

「ソイツデ合ッテルヨジッチャン」

「……あれ、今何が起きたん」

 

 一応艦娘の力は一般男性よりも強いはずなんやけど、それを老いてるはずのじっちゃんが受け止めたことが衝撃的過ぎて、ウチの理解が追いつかない。

 

「くっ、ここは敵の本拠地だったか……!」

「敵かどうかは話を聞いてから判断すっぺす」

「イヤ、ジッチャン、私ッテ艦娘ノ敵ヨ? 深海棲艦ヨ?」

「だな、すっかり忘れてたべ」

「ねえさっきからウチ置いてきぼりなんやけど」

「おい龍さん、嬢ちゃんの名前はなんだべが」

「えっ、あっ、響って言うんやけど」

「イヤジッチャン、コノ子ハ別府チャンダヨ」

「ほんだら別府ちゃんだべな」

「ウチに聞いた意味ィ!」

「んで別府ちゃん、お前さんが見てぇもんはこれだべす。レ級」

「コチラガ完成シタモノニナリマス」

「これは……漁業許可証?」

「んだ。許可が出ているこいつは密漁者でばねぇ」

「密漁者ではない、という意味だろうか?」

「ゴメンナ別府、ジッチャンバ方言ガ抜ゲネンダ」

「お前もうつっとるやないかい」

「偽造ではないのか?」

「んだば今まで出してきた許可証全部見っぺか?」

「…………いや、いい、信じよう」

 

 その言葉を聞いたじっちゃんは押さえていた響から離れる。響は立ち上がって体をほぐすように腕をぶんぶん振っていた。

 

「誤解ガ解ケタ所デ本題ト行キヤショウゼ、ジッチャン」

「お前さんにレ級の確保を依頼したのは誰だべが」

「……言えない」

「ヘェ、コノ状況デモソンナ事言ッテラレルンダァ」

「レ級、アレ持ってこいアレ」

「ヘイ大将」

 

 レ級はそのあたりにおいてあったクーラーボックスを開け、そこから何かを取り出す。茶色の殻に覆われたそいつはまごうことなくホタテそのものであった。

 

「アカン」

「い、いったい何なんだ龍驤」

「アレを口にしてもうたら一生戻れなくなるで響」

「ところで龍驤はそれから私を助ける気はないのかい?」

「ない、同じ沼に浸かろうや、なぁ響」

「くっ、龍驤も洗脳されていたとは……!」

 

 ウチらはあの飲み会のとき食ってもうたせいで、もう新鮮なホタテ以外を受け付けない体になってしまったんや。あれは悪魔や……全てのホタテを過去にしてまう悪魔の食べ物や……。

 レ級はどこかからナイフを取り出し、貝殻の隙間に差し込んでぐりぐりすると貝のふたが開く。そこからまだ動いているホタテが現れた。

 

「本日持ッテキタホタテデース! 当然ウチ産ヤデェ!」

「これ……は、白ではない!?」

「何いってんだ、ホタテは白でばなぐ肌色だべ」

「気をつけえや響、ウチらの味覚を破壊した兵器や……!」

「リュッチ助ケル気皆無デ草」

「いやなんやもうええかなって」

「サテ、依頼者ノ事吐カナイナラコイツヲ焼イテ食ワスゾ」

「ぐっ……」

「デモ吐イタラ刺身デ食ワセルゾ、ドウスル」

「…………」

「"シーグース"は聞き覚えあっぺか?」

「!」

 

 なんやそれ。聞き覚えはないけど、響が反応したってことはなんや響と関係あるんやないやろか。

 ウチが首をかしげていると、じっちゃんがいつもの様子とは打って変わって、レ級を追っかけているときのような雰囲気をかもし出した。圧がすごい。

 

「……龍驤、こいつは"信頼に足る"か?」

「なんや、どういうことや」

「正しいことは正しい、間違いは間違いと立場かかわらず言える艦娘か?」

 

 え、訛らずに言葉話せるんか。失礼だけども、そんなことを思い浮かべてしまった。いやいやマジメに考えよう、今はおふざけは許されへんわ。

 じっちゃんの言葉は立場に左右されず自身の信念を貫けるかってことやろか。もしそうなら。

 

「信じてええよ」

「……んだば信じてみっか、とりあえず場所変えるべ。別府ちゃんや、あべ」

「あべって何のことだい」

「一緒ニ行コウッテ意味ダッタハズ……ア、リュッチハドスル?」

「来んな。この件には関係ねえべ」

 

 じっちゃんは話が終わると一人でどこかへと歩き出す。ウチには事実上の戦力外通告。ここまで話を聞かせておいて放置するとか。

 

「……生殺しされた気分やで」

「無関係者ハ巻キ込ミタクナイッテイウ考エナンダヨ、ジッチャンツンデレナンダヨ分カレヨ」

「分かるか」

 

 

 





明日と明後日も更新でち。
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