ひねくれた魔術師共と禁忌教典。   作:鈴ー風

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 どうもお久しぶりまたは初めまして、鈴ー風です。
 ということでね、本編の第一話ですよ。拙いながらも何とか書き上げられたので、良ければお付き合いくださいませ。
 では第一話、どうぞ!


第一章 アルザーノ帝国魔術学園編
第一話『その男、ひねくれにつき』


 朝。それはどこにいても、誰にでも平等に訪れるものである。それは、例え異世界であろうと変わらない。素晴らしい一日になるかどうかは朝の目覚めにかかっていると言っても過言ではない……と思う。つまり、何が言いたいかというと、無理に決まった時間に起きなくても自分が気持ち良く起きれる時間に起きればいいんじゃないか?ってことだ。つまり、まだ眠いから俺は快適な朝を目指してもう一度寝る。お休み…

 

「さ、朝よ!起きなさい、ハチ(・・)!」

 

 寝ると宣言した直後に、被っていた毛布を勢いよくひっぺがされる。その勢いで愛しのベッドから地面にダイブ、同時に全身を寒気が覆い、体が自然と縮こまる。痛いと寒いのダブルパンチだ。俺はその原因を作り出した者へ、恨みがましい視線を向ける。

 

「…お前さぁ、男のベッドに乗り込んでくるとか嫁入り前の女としてどうよ、それ」

「今更あんた相手にそんなこと考えもしないわよ。それより早く起きる!」

「へーい…」

 

 こうなったら抵抗しても無駄だということはもう理解している。朝からピシッとした制服に身を包み、いつもながら頭のカチューシャが耳に見えて仕方ない、この白髪の少女には抵抗など無駄なのだ。

 

「……おはよう、白猫」

「白猫って言うな!」

 

 この白猫こと、システィーナ=フィーベルには。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう、二人共」

「おはよう、システィ、ハチ君」

「おはよう、ルミア、母さん」

「うす」

「あはは……ハチ君眠そうだね?」

「おう、遅くまで魔導書読んでたんだよ。もう一眠りしようとしてたところを白猫に叩き起こされた」

 

 目の前で苦笑いを浮かべる少女は、ルミア=ティンジェル。立場的には俺と同じ居候のようなものらしいのだが、俺よりもずっと前からここにいるらしい。大きなリボンの似合う金髪は素人目でも可愛く綺麗で、ルミア自身の魅力を良く引き出している。

 そして、厨房に立って朝飯の準備をしているらしい白猫の母親、フィリアナさん。俺と同年代くらいの子供がいるとは思えないほど若々しい。平塚先生以上に若く見えるかも知れん。人妻なのに。

 

「どうせ起こされるならルミアが良かった」

「何よハチ、ちゃんと起こしてあげてるだけでも感謝しなさいよ」

「お前は乱暴なんだよ。『ハチ君、起きて』くらい言えんのか」

「うわ、キモッ!」

「マジのトーンは止めてくれません?朝から俺泣いちゃうよ?」

「そもそも、起こすだけなんだから私でもルミアでも一緒でしょ?」

「ルミアは可愛い、お前は生意気。そこには天と地程の差がある」

「ムキイィィ───!」

「あはは……」

 

 俺の言葉を真に受けて顔を真っ赤にする白猫。苦笑いを浮かべるルミア。それを楽しそうに見つめているフィリアナさん。

 あの日、魔獣に襲われていた俺を助けてくれたレナードさんが、そしてこのフィーベル家が俺を受け入れてくれてからそろそろ一年。最初こそ色々あったが、ここに居候するようになってから毎日、こんな調子が続いている。やかましくも楽しく、退屈しない時間に、言葉にはできないが本当に感謝している。時々異世界だということを忘れてしまいそうになるくらいだ。……まさか、もう他人と関わるのを諦めかけていたあの頃の俺がこんな風に思える日が来るなんざ、夢にも思わなかったけどな。

 そんな俺達の様子を微笑ましそうな顔で見ていたフィリアナさんは、その笑顔を変えることなく朝飯を運んでくる。

 

「二人共、仲が良いのは分かるけど、早くご飯食べちゃいなさい」

「「仲良くない!」」

「あははは……」

 

 

 

 

「…ねぇ、そういえばヒューイ先生の件ってどうなったんだろうね?」

「んぁ?」

 

 食事中、ルミアが話を振ってくる。その内容は、数日前に忽然と姿を消した俺達のクラスの担任教師、ヒューイ=ルイセンのことだった。

 あれから俺はレナードさんの計らいもあり、魔術の訓練の一環としてこの世界の学校───アルザーノ帝国魔術学園に白猫達と一緒に通っている。まあ、編入扱いだったからついこの間から通い始めた訳なのだが、まあいい。そのヒューイ先生とはザ・優男といった感じの教師で、分かりやすい授業と人当たりのいい性格で生徒達からの評判も良かった。だからこそ、急にいなくなったのにはクラスがざわついたっけか。

 

「そろそろ代わりの教師が来るとは言われてるけど、どんな人が来るのかしら。ヒューイ先生の十分の一でもできる人ならいいんだけど……」

「んなこと言ったら大抵の先生アウトじゃねえか」

 

 高望みが過ぎる白猫を諌めつつ、サラダを頬張る。……ん、うまい。

 

「まあ、ヒューイ先生みたいな分かりやすい授業ができる先生は少ないかもね」

「ま、俺は誰でもいいや。どうせそれで何が変わるでもねえし」

 

 自分でもドライだと思う返答をすると、二人はそれ以上追求することなく会話を続ける。

 俺がヒューイ先生に対して興味を示さないのにはちゃんと理由がある。何も難しいことじゃない、あの人は信用できない(・・・・・・・・・・)。ただそれだけだ。

 ……あの日、こっちの世界に迷い混んでから、俺は人の「心」が見えるようになった。といっても、考えてることが分かるとか、そういうのじゃない。「心の色」とでも言えばいいのか、そんなものが見えるようになった。落ち込んでいる人は灰色に見えるし、楽しい気分の人はオレンジとか赤っぽい色ってな具合で。それが何故かは分からないし、誰のでも見えるわけでなければ魔術の類いでもない。ただ、ヒューイ先生の「心」はどす黒く淀んで見えた(・・・・・・・・・・)。だから信用できない、それだけだ。

 

「おい白猫。お前タンドリー鳥食わねえの?」

 

 ふと、白猫の目の前の皿に盛られたタンドリー鳥が減ってないことに気づいた。勿体ないな、旨いのに。

 

「ええ、朝からはちょっと…ハチ、食べる?」

「おう、貰うわ。しっかし白猫、お前はもうちょっと肉を食べた方がいいぞ。栄養が足りないからルミアみたいに大きくならな……すまん、何でもないわ」

「ど う い う 意 味 よ !」

「あはははは……」

 

 ふう、料理が旨い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪かったって、そろそろ機嫌直してくれよ」

「つーん」

 

 学園に向かう途中、白猫に許しを請うが、無下にあしらわれ続けている。流石に白猫のコンプレックスをいじったのは失策だった。完全にへそを曲げてしまったらしい。しかし、つーんって…あざといなこいつ。しょうがない、今日の予定は……特に何もないな。

 

「悪かったって。お詫びに今日の放課後、お前の頼み聞いてやるから」

「え、本当!?」

「お、おう」

 

 途端に笑顔になる白猫。何処の世界でも、人間とはかくも現金な生き物である。隣で苦笑いを浮かべるルミアだけが唯一の癒しだ。

 

「前から気になってた服を見に行って、アクセサリーも見たいわね。あ、新しくできた喫茶店にも行きたいわ。それとそれと───」

 

 ……頑張れ、俺のSP(サイフポイント)

 

「じゃ、じゃあ今日の放課後───」

 

「どけどけどけえぇぇぇ───!!」

 

 そんな会話をしながら中央広場に差し掛かった辺りで突然、後方から叫び声が響く。反射的に声のする方へ振り向くと、鬼のような形相の男が全力疾走中だった。

 こっちに向かって。

 

「どけえぇ───!てめえら───!」

「──っ!おい、危な───」

「お、《大いなる風よ》───!」

「ぎゃああぁぁぁ──!」

「うおぉぉぉぉ──!」

 

 時既に遅し。俺の制止が届く前に白猫が反射的に放ったであろう黒魔【ゲイル・ブロウ】によって、男を空中に舞き上げていった……俺を巻き込んで。

 ゆっくりと浮遊感に抗って落ちていく中、驚き目を見開くルミアと、「やっちゃった」と言わんばかりの白猫の顔だけが、やけに印象的だった。

 

 

 

 

 

 

 

「ご、ごめんハチ……」

「いや、別にいいけどよ……」

 

 あれからのことは凄まじかった。噴水に着水して助かったかと思えば、男は即座に復活してからも色々やらかして、最終的に嵐のように去っていった。主にルミアへのセクハラとかセクハラとか。何だったんだあいつ……

 で、巻き添えで全身ずぶ濡れになった俺は着替えなければならなくなり、今はジャージ姿である。目立って仕方ないのを除けば概ね問題無しだ。ちなみに、俺の席は白猫とルミアの後ろ。近いから話しやすい。

 

「それにしても、一体何だったのよあいつ……」

「さあな…それはこっちが聞きたい」

「あはは……不思議な人だったね」

 

 レナードさんから白猫達のことを任されている以上、少なくともルミアにセクハラ紛いを働いたことだけでも後悔させてやりたい。まあ、名前も知らん以上会うことはもう無いだろうが……

 

「よおハチ。朝から大変だったらしいな」

「ん…どうってことねえよ」

 

 ジャージをパタパタしていると、クラスメートの一人、カッシュ=ウィンガーに声を掛けられる。気前の良さそうな豪快な笑顔で話しかけてくるこいつは、転入初日からこんな感じだ。少し大人しくなってっべーっべー言わなくなった戸部みたいなやつ……誰だよそれ。戸部要素0じゃん。タイプ的には葉山に近い筈なんだが、あいつみたく腹が立たんのは何故だろうな。イケメンじゃないからか……そうかもな。

 

「なあハチ、今すっげえ失礼なこと考えてなかったか?」

「気のせいだ」

 

 どうであれ、二年次に転入してきてからそう日が経っていない現在において、ウィンガーのように気さくに話しかけてくるやつはありがたい。元ぼっちとしては俺が孤立する分には構わんが、白猫達に余計な心配をかけるのは御免だからな。未だに俺を警戒してるやつは多いし。今だって遠巻きに見てるやつはそれなりにいる。

 

「それより、そろそろ授業時間だろ。席についとけよ」

「そうだな。んじゃ、また後でな」

「へいへい」

 

 席に戻るウィンガーを見送って、俺は席に突っ伏して目を閉じる。何故って?寝るためだ。

 

 

 

 

 

「……ハチ、ちょっと」

「んぁ……?」

 

 惰眠を貪っていたところを、白猫の声で目を覚ます。もう授業終わったのか?

 

「何だよ…もう授業終わったのか?」

「まだよ。寝てることについても言いたいことはあるけど、それよりも。授業、終わるどころか始まってすらないわよ」

「あん?」

 

 そう言われて、ポケットから取り出した時計を見る。そろそろ授業時間の半分を切ろうとしている。しかし、顔を上げても教壇の上に人の姿は見えない。それはつまり、教師の不在を意味していた。

 

「……どういうことだ?」

「遅刻ってことだよね?何かあったのかな?」

「仮にどんな事情があったにせよ、遅刻してくるなんてこの学園の教師たる自覚が足りないわ!来たら早速問い詰めないと……」

「うへぇ……」

 

 いかにも怒ってます、と言わんばかりの白猫とは対照的に、俺を含めクラスの気分が萎えていくのが手に取るように分かる。実はこの白猫、《真銀(ミスリル)の妖精》などという大層な異名をとっている。この世界で異名をとっている者自体は珍しくないらしいが、この異名は「真銀(ミスリル)の様に扱いづらい」という厄介じみた意味が隠されている。故に、正義感からこの白猫が遅れてきた教師に口煩く噛み付くのは火を見るより明らかなわけだ。そりゃあ気分も滅入る。

 と、そんな話をしていたら教室の扉が開く音がした。漸く教師が到着したらしい。

 

「やっと来た!ちょっと貴方、三十分も遅刻してくるなんて教師としての自覚が────」

「ふぃーやっと着いたか……ったく、教師なんてめんどい仕事押し付けやがって……あーめんどくせぇ」

 

 入ってきて早々、反省の欠片もないようなことを口走る新任教師とやらを見て、俺は言葉がでなかった。ボサボサの黒髪、だるそうに丸まった背中、若干乾ききってない服。

 それは、もう会うこともないと思っていた、今朝遭遇したばかりの男だったのだから。

 

「な……あ、あなた──────」

「……あ?」

「今朝の変態!?」

 

 




 はい、ということで元祖「ロクでなし」の登場となります。さぁハチが入ったことでどのような変化があるのか……それは作者にしか分かりません!(おい)
 ちなみに書き忘れてましたが、この物語は基本的に原作順守です。それと、所々アンチが入るので、苦手な方はご注意下さい。
 では、また第二話で。

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