■注意■
この物語は前話に名前が出てきた村上兄妹にまつわる物語で毛色の違うハードシリアスです。
始末する艦娘は名前を出さずに艦種のみの表記とします。
撃沈表現あり。艦娘同士の戦闘あり。
飛ばしたい方はこちらへ
一かけ、二かけ、三かけて、
仕掛けて、殺して、日が暮れて、
橋の欄干腰下ろし、遥か向うを眺むれば、
この世は辛~い事ばかり・・・
「それで今日は、どこのどいつを殺ってくれとおっしゃるんで?」
Capture1~結成~
2018年大晦日から日付が変わった頃
浜松鎮守府ではとある兄妹が埠頭に腰掛けて海を眺めていた。
「兄様、高菜二佐にメール送りましたわ」
「そうか、ありがとう。……久しぶりに彼にも会ってみたいね」
「そうですね……」
この物語はそんな兄妹の物語………。
――――――――
その兄妹が育って来た環境は最悪なものだった。
両親の仲は冷え切っていた。
そして、兄妹の2歳年下の妹の方は外人の愛人との間に生まれた子供だった。
右目が黒、左目が青い瞳を持って、栗色の毛の特殊な体質。
兄は両親に愛されたが、妹は両親から疎まれて育ってきた。
「お前は生まれてくるべきではなかった」
その呪詛の言葉を子守唄に育った。
妹は常に学校でもいじめの対象だった。それでも、兄は妹を守り続けてきた。
結果、兄も両親に嫌われるようになった。学校でもいじめを受けるようになっていた。
兄・村上浩助は公明正大で、曲がったことや嫌いな男になった。そして悪を過剰に憎むようになった。
妹・村上有紀はシニカルで露悪趣味なところがあった。そして兄に依存するようになった。
兄妹は兄が高校を卒業した時に共に家を出た。
そして、二人共選んだ進路は防衛大学校だった。
食べるために、自衛官を志したのだ。そこで、兄妹共に首席で卒業した。
彼らは志願と適正により、情報保全隊に配属となって、カウンタースパイに辣腕を振るっていた。
そんなある日2011年3月11日、人々から『
突如世界中の海に、『深海棲艦』と呼ばれる
その化物は、
日本はもう終わりか?そう誰もが思ったその時、
海上自衛隊は、その
陸海空三自衛隊自衛官の中から、艦娘と親和性のある人材。
つまりは、艦娘と共に顕れた妖精さんたちが見える存在を選抜し、「
その戦争が始まって、もう7年弱が経過していた
提督と艦娘には『自由裁量』を与えて、法整備が追いつくまで自由を与えていた。
その間に、グレーゾーンが拡大して立法が追いつかなくなって行った……。
そこで、その自由に枠をはめるために大本営に警務隊を設置した。
その責任者たる警務隊長には足立昭彦一等陸佐を充てた。
彼の人となりは常識人、堅苦しく『常識が服を着て歩く』男に皆苦手意識を持っていた。
だが、常に中立公平、上司には忠実だし、部下には公平。規範とルールという枠を聖典に常に綱紀粛正を図っている男。
大本営の総責任者となった大本営幕僚総監たる大貫悟空将は、彼の誠実かつ実直、公明正大な人柄に警務隊の責任者として自ら彼のもとに赴いて就任を依頼したくらいである。
そんな大本営警務隊は実質は憲兵隊となっていた。
全員が司法警察員の資格を持ち、度を越したり、法令を破る提督や艦娘を掣肘するのだ。
それだけでは限界もあった。
特に捨て艦戦法を今の法律で裁くことはできない。ただの作戦失敗だからである。
一度殺人罪で告訴もしてみたが、司法の壁に阻まれた。
まだ、戦争開始してから数年間しか経っていない艦娘黎明期なのだ。
そんな中大貫悟空将は村上兄妹を大本営に呼び寄せた。
情報保全隊で勤務していた彼らは、大本営の幕僚総監執務室に出頭命令を受けていた。
「兄様、私達に艦娘本部の大ボスが何の用かしら」
「分からんが、空将閣下直々による出頭命令だ、
「お汚れ仕事なら、私らしくて良いですわね」
自虐的に笑う有紀を見て困った顔をする浩助。
「相変わらずの露悪趣味だな。そんなことでは嫁の貰い手がなくなるぞ」
「良いです、兄様さえいれば。それがおかしい事くらい分かってます。そこまではマトモですが、私はそこから先が歪んでるんですから、ふふ」
「やれやれ、困った妹だ」
妹には甘い彼、有紀に押し倒される形で関係をすでに持っており、同じ部署でカウンタースパイの任務をしている関係上、相互監視の意味で同居も認められていた。
そのカウンタースパイとは他国だけではない。情報保全隊では深海棲艦側のスパイがいるのではないかと疑っていた。
その情報は情報保全隊だけにとどめて、艦娘本部たる大本営ですら知っているのは大貫悟空将だけである。
その結果が神谷二佐の作戦立案、防衛大臣持ち込みという混乱を招くことになるのだが、それはまた後の話である。
神谷二佐にとって不幸なことは、高菜二佐に叩き潰されなくても大貫の手により廃案になってたことだろうということだが、それもこの時点ではまた後の話である。
そんな二人が揃って大本営に呼び出されたとあってはやはり
幕僚総監室は防音設備が整っている部屋で、限られた人物しか入れない。
そんな彼の部屋をノックすると、扉が自動的に開く。
扉の上には防犯カメラが設置されており、大貫自身が遠隔操作で扉を開けたのだろう。
「村上浩助三佐入ります」
「村上有紀一尉入ります」
「うむ」
彼らが部屋に入ると再び扉が閉まる。
大本営幕僚総監たる大貫悟は執務を行っていたが、村上兄妹が敬礼を行うと、答礼を行った。
その机の上には『小人』達が執務の手伝いをしており、二人が敬礼すると作業の手を休めて答礼を行った。
「まあ、可愛い小人さんですこと」
「噂に聞く妖精でしょうか、ところで閣下、我々に御用ということは
そんな兄妹の言葉に満足そうな表情を浮かべた大貫空将は執務机の前においてある椅子を指して
「まあ掛けたまえ」
そう席を勧めると、二人共失礼しますと椅子に腰掛けた。
「早速だが、君たちに辞令を発布する。村上三佐を本日より浜松鎮守府の司令官に任ずる。また村上一尉を同副官を命じる」
その言葉に二人はキョトンとなった。
「お言葉ですが、わざわざ情報保全隊から引き抜いて提督になれとおっしゃるのですか?」
「表向きはな」
浩助が疑義を述べると大貫空将がにやりと笑った。
「提督と艦娘には『自由裁量』というものが認められている。政治家共の不手際を現場に押し付ける形でな。そこではやはり不正や艦娘への不当な扱いが問題となっておる。特に関西方面では『いてまえ作戦』としていわゆる捨て艦戦法が根付いてしまっている。実に嘆かわしいことだ」
「閣下、それと私達が呼ばれたことになにか関係があるのでしょうか」
今度は有紀が大貫空将に質問した。
「DS案件と絡んでくるが、捨て艦戦法が多い関西で深海棲艦の攻撃が激しい、逆に善良な提督が揃っている東北、特に宮城エリアには深海棲艦の攻撃は比較的ゆるい。これは、背後に深海棲艦の指揮官がいて操っている、かつ沈んだ艦娘は深海棲艦になるという仮定に沿ったものであると考えている。また、提督だけではなく、艦娘自身が鎮守府を乗っ取って運営している場合もあり得ることだ。私は艦娘という存在を頼りにはしているが、絶対的な信頼はしていない。彼女らも感情を持つ者たちだ、悪と呼ばれる個体も存在しうるだろう」
そういうと、大貫空将は一息ついた
「DS案件は引き続き情報保全隊に任せるとして、私はその自由裁量を逆手に取って「裏の警務隊」を作りたいと思ってきた。そこで、数年掛けて人選を進めてきた。表の警務隊は足立に任せておけばいいだろう。だが彼だけでは限界がある。そこで、ちょうど浜松で提督の空席ができている。艦娘達に性的暴行を働いた連中だ。それに艦娘への給与横領。全員逮捕してある」
その言葉で有紀はニヤリと笑った。
「浜松は隣接鎮守府でカバーをする。私達には提督業の傍ら、『必殺仕事人』のようなことをやれと言うことですね」
「そのとおり、足立の追求すら逃げおおせている奴らや、反逆を企む艦娘を始末してほしい。私が元締め且つ頼み人だ。晴らせぬ艦娘達や提督たちの恨みを晴らしてほしい」
「うふふ、私にお似合いのお汚れ仕事がやって来ましたわ、兄様」
「いずれにせよ、法秩序を守るために手を汚すなら私も異存はありません」
元々歪んでいた有紀はともかく、浩助も高校までの生活と情報保全隊での任務、そして有紀との関係で歪んだところがあるのだ。
普段は公明正大な正義感を持ちながら、『悪』への憎悪が異常なまでに強い。
「浜松の所属艦娘は最上、三隈、それに卯月だ」
プロフィールを妖精さんが運んでくれる。
有紀は妖精さんの頭を撫でている間に浩助はプロフィールに目を通している。
「了解いたしました。本日より浜松鎮守府司令官及び『裏の警務隊長』の任務仰せつかります」
「よろしく頼む。差し当たっては最上と三隈と卯月を鍛え直してやってくれ。練度的には卯月以外は改装を行っており、他の生き残った艦娘はすでに他の鎮守府で引き取ってもらった。来月には高梨宮湊子内親王殿下が浜松に視察にお見えになる。新規艦隊司令官の着任の儀式のようなものだ。それまでに鎮守府の体裁を整えてもらいたい」
「「かしこまりました」」
二人は立ち上がり敬礼をした。
それから数日後、彼らは浜松の地にやって来た。
浜松鎮守府は他の鎮守府に比べ広くなっていた。
大貫空将から渡された足立一佐の報告書を見るに、地下営倉まであって艦娘を縛っておくのにはうってつけの施設に改造されていた。
これも自由裁量のうちの一つだが、長年横領してきた金銭でコツコツここまでやっていたのかと思うと
浩助も有紀も怖気がする思いだった。
「まずは、艦娘達に会おう」
「そうですね」
鎮守府の庁舎に入ると執務室には3人の艦娘が立っていた。
一人は二人の艦娘の後ろに隠れており怯えきった顔をしている。
「新しく司令官に着任した村上浩助三佐だ」
「同副官の村上有紀一尉です」
敬礼をすると、艦娘達もおどおどと答礼する。
「最上だよ、階級は三曹」
「ご、ごきげんよう提督、三隈です、同じく三曹」
「う……卯月だぴょん……一士」
「ここに明言しておこう、君たちを苦しめて辱めたクソッタレはもうここには帰ってこない」
浩助の物言いに重巡の二人は安堵した表情を浮かべるが、卯月だけは怯えきって前に出てはくれない。
「では、最上、三隈ちょっと地下まで来てもらえるか?」
地下という言葉にビクッとなる二人だが、浩助に従って地下に向かっていく。
その間に有紀に卯月の相手をさせるのだ。
地下営倉にやってくると浩助は振り向いて二人をまっすぐ見た
「まずは君たちに苦しい思いをさせた、自衛隊を代表して心から侘びたい、申し訳ない」
頭を下げたのだ。
艦娘達は戸惑いの表情を浮かべていた。
「そこで、君たちに私の計画に協力してもらいたい。卯月には残酷すぎるからね」
「どういう、こと?」
最上が躊躇いがちに聞くと
「
そう笑みを浮かべて言い放った。
「「悪者退治?深海棲艦ではなく?」」
二人はキョトンとした顔をしていた。
「うん、君たちを傷つけたクソッタレ共は、逮捕された。でも、自由裁量を隠れ蓑にもっと酷いところが必ずある。私達はそれらを発見し、撃滅する」
「………なんか『必殺仕事人』みたいだね」
「そうね」
二人の例えが、妹と同じ喩えにくくっと笑うと
「我らは法秩序を守るために手を汚す。協力してくれるかな?」
「「もちろんです」」
彼女らも既に歪んでいたのかもしれない。虐待を受け続け、人間に対する憎しみをこの『仕事人』として晴らしたかったのかもしれない。
「それでは、早速訓練だ。深海棲艦との戦いの主任務も忘れてはいけないからね。ところで、卯月は私に対して怯えていたね。やはり男性恐怖症かい?」
その問いに二人は悲しそうに頷いた。
「ボクの力不足で卯月を守れなかったんだ……」
「モガミンのせいじゃないです、三隈が力不足で……」
「そうか……有紀が上手くやってくれると良いが……」
一方その頃
「お姉さんたちに何をするぴょん」
浩助達が去った後に開口一番問われたのはその言葉だった。
「あら、何もしませんよ。兄様に、そんな甲斐性は無いですわ、うふふ」
その笑みに卯月は寒気を感じていた。
「こ、怖いぴょん……」
「あら、怖がらせる気はなかったのですけど……」
困惑した有紀におずおずと近づく卯月。
「うーちゃん、海に出れなくなっちゃったぴょん……」
「海に出るのがトラウマですの?」
その問いに卯月はコクリと頷いた。
「兄様は怖い、私が怖いのは私が悪いとして……海に出られない……とりあえず、副官手伝いでもやってもらいましょうか」
「ぴょん?」
「私と一緒に書類をしまったり出したり、送ったりしてもらうお仕事ですわ」
「分かったぴょん……」
「いい子いい子」
卯月の頭を優しく撫でると漸く卯月から怯える顔が消えた。
こうして、新生・浜松鎮守府はスタートした。
やってくる湊子内親王の視察に備えて、重巡姉妹は哨戒に出て戦闘して練度を積み上げる。
浩助はモーターボートで陣頭指揮を取る。
防大主席卒とはいえ指揮官としての経験はまだまだ無いため、戦術戦略の実地訓練も兼ねている。
有紀は卯月と一緒に書類整理をしていた。卯月に書類整理を任せられるようになったら、有紀は時折大貫の紹介で「東富士の魔王」と呼ばれる教導隊長のもとで白兵戦技を更に洗練させていた。これは浩助も同様だった。
浩助も有紀もまだまだ新米『仕事人』なのである。
その間に、大貫の手配で、明石から最新の装備や、特殊兵装などが次々と送られてくる。
そんな中、高梨宮湊子内親王が視察にやって来た。
一種の観艦式でもある。
新しい司令官になった時に湊子は視察にできるだけ訪れるのが通例となっている。
卯月と村上姉妹は陸で、重巡姉妹は海でお出迎えをすることになった。
「湊子内親王殿下、小官は浜松鎮守に司令官として着任しました村上浩助三三等陸佐であります」
「同副官、村上有紀一等陸尉であります」
「同補佐、駆逐艦卯月一士だぴょん……」
「艦隊旗艦重巡洋艦最上です」
「副旗艦三隈です」
湊子は陸上にいる卯月が気がかりになっていた。
「村上三佐、そちらの卯月は何故海に出ていないのですか?」
「……」
びくっと怯える顔になる卯月に困惑する湊子
「あの、
「内親王殿下、小官から説明させていただいてもよろしいでしょうか。男性に聞かせたくないのでお側に寄らせて頂くのをご許可願います」
「構いませんわ。
有紀は湊子に、前司令官の元で虐待を受け、性的暴力を加えられたトラウマで海に出られないため補佐として手伝わせていることを耳打ちした。
その報告に湊子は悲痛な顔をしてしばし考えた。
「ふむ……そうですわね、村上一尉、卯月を
「えっ?」
驚いた顔をする有紀に、湊子は悪戯をする子供のような顔をした。
「こんなに可愛い娘なら、差し当たり
「……小官の一存では決めかねます。上の許可をとってください」
その言葉には浩助が拒絶した。
「大貫空将には許可をいただきます」
その場で電話をかけ、大貫空将に電話をかけ始める。フットワークの軽い皇族である。
「え、あの……」
二人共困惑しているままに、スピーカーフォンにされて大貫の声で
「言うとおりにしたまえ」
との指示に、湊子の無茶な提案に従うことになった。
「かしこまりました。本日より卯月は湊子内親王殿下にお預けいたします」
「私もそのほうが良いと思いますわ、卯月」
「……わかったぴょん。湊子内親王殿下、よろしくお願いするぴょん」
ペコリと頭を下げた卯月の頭を優しく撫でる湊子。
こうして卯月は湊子と共に浜松の地を後にした。
内親王殿下の視察という一大イベントを終えて打ち上げと言う名の夕食会をしてから4人は埠頭に腰掛け海を眺めていた。
「まあ、これでよかったんだと思う。あの子には手を汚してほしくないな」
「そうですわね」
「そうだね」
「ええ」
4人の願いはみんな一緒だった。
願わくば、優しい提督の元で幸せになってほしいと。
「宮戸島には私の同期がいてね」
「高菜先輩ですか?」
「そうそう、高菜君。宮戸島の英雄だとか言ってたかな。彼も正義の人だからああいう人のところで幸せになってもらいたいよ」
「武藤提督も良いですわね。根っからの善人ですもの。善人過ぎて困ったと言う噂ですわ」
「うん、武藤提督はボクも聞いたことある」
「高菜提督はなんでも、お気楽な提督だとか」
「いずれにせよ、そういう提督の元で幸せに暮らしてもらいたいね」
夜の星空を見上げながらその日は卯月の幸せを願って夜更けまで語り合った。