愛はお互いを見つめ合うことではなく、ともに同じ方向を見つめることである。
―――サン=テグジュペリ―――
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今回は中学生提督日記第7話の裏話です(https://syosetu.org/novel/162326/7.html)
『先生ぇ、お金貸してください』
「はぁ?」
愛弟子である、笹野 愛特任三佐から電話が来たのが、五月中旬である。
「何だって、そんな事になったんだ………?」
『話せば涙、聞けば涙の物語なんですが、花梨さんの恋が実りまして、お相手は土佐鎮守府の郷里三佐でして……』
「郷里三佐か、意外だねえ。この間はゆっくり話はできなかったけど、前にも話したとおり、私は彼のことを知っていてね。防大の三つ後輩で、猛獣男と云う異名で有名だったからねえ」
『どうも、花梨さんはファザコン気質があったようで。父性が強い郷里三佐に惚れてしまって。真正面から叱ってくれた相手に陥落、と』
「やはり、羽佐間一佐への態度は、ファザコンの裏返しだったのか。しかしそうなると、生きているうちの一佐との和解は難しそう……或いは不可能だねぇ」
今日も哨戒をサボっている電が、紅茶を淹れてそこにブランデーを多めに入れて、直哉の前に差し出す。
「お茶なのです」
「ああ、ありがとう」
『ですよね……それで、事の顛末が書かれた顛末書を提出されたんですが……今そちらに送りましたけど………』
FAXが音を立てて動き出し、紙を印刷する。
電が、内容に目を通す。
「どれどれ……?『飲酒の勢いで小官を好きだと告白され、その後羽佐間三尉が自分が庶子だと涙ながらに語り、仕方なしに父親の家に転がり込んだものの、父親の女性への態度は変わらず、生んでもらった恩はあるが感じたくないし、育ててもらった恩はない、と言い切った。父親への反感から笹野三佐が失敗して、自分も戦死することを望んでいると言った為、叱責した結果三尉を泣かせてしまった。その後宥めたあと、三尉の望みでホテルに入り……』ちょっと、これ以上は口に出して読めないのです」
そう言って、FAXを渡す。直哉も目を通すと、内容に溜め息を吐いた。
「ああ、もしもし。それで、朝まで計十数回戦して……」
『先生、それ以上はいけない』
要約して読み上げようとするのを、愛が止める。
「面白そうだから、羽佐間一佐のコメントでも求めようかね?」
『それで面白がってたら、花梨さんが泣いてしまって。宥める為に《回転しない》寿司屋に連れて行ったら、ウニトロ赤貝等と高いのばっかり食べられまして……領収書で六桁とか、初めて見ましたよ』
「なるほど……昇進祝いで10万ほど送るから、それで何とか食い繋いでくれ」
『有難うございます。 ところで、一つ気懸かりなことがありまして………その羽佐間一佐のことなんですけど。ストッパー役がいなくて大丈夫なんですか?』
直哉は、愛の質問に大きな溜め息を吐いた。
「大丈夫じゃなかったさ。先日も、ちょっとした大騒動があってね……」
――――――――
数日前の事だった。
慎の彼女である、ギャルズが揃ってやって来たのは。
「高菜せんせー。ちょっと相談があるんですけどぉ?」
「電ちゃん。最近夜の性活どう?」
「激しい感じ?」
ツッコミ不在の恐怖である。入ってくるなり、どっかりソファに座り込んで、相談があると切り出す。
一応、彼女達にも入構許可証を与えてるのだが、あまり礼儀がよろしくない。
「ふむ……相談ねぇ……」
直哉は、奈緒子と櫻子を表面上無視して、対面のソファに座り直す。
とうとう応接室を廃止して、壁をぶち抜いて広い執務室にしてしまったのだ。
番長と愉快な仲間達が、勉強や遊びに来る為にこうなったのだが、慎なしで相談に来るとは、珍しいことである。
そして電は、奈緒子と櫻子に対し、
「そりゃあもう、毎日激しくやってるのです」
と、平然と答える。
「まあそれは、後ほど女子同士でゆっくり話してくれ。それで相談ってのは?」
「あたしのニ個上のパイセンなんだけどぉ。子供を孕まされちゃって……」
望が真面目な顔をして答えると――口調は真面目に見えないが――直哉も真面目な顔になる。
「そりゃあ、君等の先輩だったら遊び捲ってるんだろうから。でも、君達もそうだけど、きちんと避妊してるよね?」
「当たり前じゃん。だって傷つくのは女の子の方だよ。慎くんとだってちゃんとゴム付けて、ピルも飲んで、子供だけは出来ないようにしてるもん」
「いや……そういう問題では……まあ良いか」
望の主張は、何かズレてる気がするが、直哉は敢えてツッコまないことにした。
「それで、私のところに相談に来たってことは、自衛隊の隊員か……」
「そうなの。岩沼鎮守府のハザマっておじさんなんだけど、ナンパされて、食事に行って、そしたらホテルに、ってことになるじゃん?」
「少なくとも、中高生が言うセリフじゃないことは、よく判ったよ」
とうとう、頭に頭痛鉢巻を巻いた直哉は、こめかみを押さえながらツッコんだ。
そんな時に、バタンと扉を開けて圭一と史絵が入って来た。圭一は激怒である。
「おい、師匠よぉ」
「あの……圭一……落ち着いて……」
「どうしたんだ?ちょっと今、慎ガールズの相談を聞いてるから後に……」
「こっちも緊急の用件なんだよ!自衛隊のハザマっておっさんが、史絵を強引に口説こうとしやがったんだ!」
「……圭一、私は怒ってないし、圭一が助けてくれたからもう……」
「良くねえよ!おれが助けに入った途端『なんだ彼氏がいるのか?この坊主に飽きたら連絡を』って、連絡先渡して来やがったんだ!」
その圭一の憤怒に、ギャルズ達も直哉も電も固まった。
「普通中学生なんか、いいおっさんがナンパするか?ちょっと九ミリ拳銃貸してくれ、そいつぶっ殺してくる」
「良いわけ無いだろ、アホか?」
「そうです。圭一も、いい加減に落ち着きなさい」
呆れた顔をする直哉と、少し怒った顔の史絵が諌めると、圭一も大人しくなる。
「……で、話を整理すると、
そして、再び扉が開かれた。大石家の二人である。
「はいはい。ちょっと今、多忙なんで後に……」
「高菜二佐、聞いてください。泰子が不倫をやらかしてしまって……ああ、離婚とかはしないんで。僕はそれでも泰子を愛してるんで。ただ、その相手に苦情を言いたくて」
「ごめんなさい……実は仙台の方で高校の友達と食事に行ったら、自衛隊のハザマって方に、ナンパされて……二人共ホテルに……あ、友達の方は独身なんですけど、私は夫がいますと言ったんですが……上手く乗せられてしまって……ごめんなさい」
泰子さんは憔悴しきっているが、勉さんはその泰子さんを支えるように抱いている。
「またハザマなのですか?」
「はぁ……取り敢えず、どっか空いてるテーブルの椅子に座ってください」
圭一と史絵、それに大石夫妻を、勉強用テーブルの椅子に座らせる。
「次はないだろうねえ?」
そしてその言葉の直後、笹野麻衣がやって来た時に、直哉は応接テーブルに突っ伏した。
「……で、笹野先生の所の看護師が、仙台で自衛隊のハザマと云う人にナンパに遇ったと。それで、避妊もせずに10回戦ほどして、モーニングアフターピルを処方したと」
「はい、ちょっと酷くありません?外にって言ったのに、全部中に……いや、抑々医療者として、避妊くらいしっかりなさい、ときつく叱ったのですが」
笹野先生は、頭痛鉢巻でこめかみに手を当てつつの説明である。
直哉もげっそりしている。
来客の度にお茶を出す電も、もう次はないだろう、と口にする。
そしてやって来たのは、はぴはぴほえほえ娘の優花と寛太と慎である。
番長と愉快な仲間達が総結集してしまった。
「………で、優花ちゃんのお姉さんの
「そうなのぉ。お姉ちゃん、そのハザマって人に他に女の人いるの知ってて付き合ってるから、良いんだけどぉ」
「僕達が心配になって、ここに来たんです」
「ちょっと、そのハザマって人、まともじゃねえよ」
優花の姉に彼氏ができたという話に寛太が不安を覚えて、優花を連れてここに来たのだ。慎はついでにここに従いて来た。
「マジで、慎もハザマ騒動に関わってたんだ。マジウケる」
望がケラケラ笑うと、慎が頭を抱える。
「まさかとは思うけど、望に奈緒子に櫻子は、ハザマとか言うおじさんと、ホテルに行ったりしてないだろうね?」
「待って!!心外だよ!!確かに今まではビッチだったし、ナンパもされたけどさ。今は、慎のアレ以外満足できない身体にされちゃってぇ、断ったよ!!」
「それな」
「うん」
「いや、そんな事は聞いてねえよ。恥ずかしいから、そう言うことを公衆の面前で言うな。ってか、ナンパされたんかい?」
大きな溜め息を吐いてツッコむ慎に、もうティーカップが足りずに、紙コップでお茶を出し始める電。
「では、話を整理すると。のんちゃんの先輩がハザマってやつに子供を孕まされて、史絵ちゃんがハザマってやつにナンパされて、大石さんの奥さんが既婚者だと知った上で、ハザマってやつにナンパされてホテルに行って、笹野先生の看護師がハザマってやつにナンパされてホテルに行って、モーニングアフターピルを飲む羽目になった。それで、優花ちゃんのお姉さんがハザマってやつとお付き合いしてると。ついでに、ギャルズがナンパされて断ったと」
その言葉に、全員が頷いた。
「取り敢えず、望さんの先輩は、うちに来てくれれば処置はします」
笹野先生が、渋い渋い顔で言う。
「よろー、あいたっ!何すんのよぉ!?」
望が軽い調子でお願いすると、頭を叩いた慎に抗議口調で文句を言う。
「よろしくお願いします。だろう?」
「よろしくお願いします~」
望は、ペコリと頭を下げた。
―――――――
「………という訳なんですが、お心当たりは?」
翌日、岩沼鎮守府に赴いた直哉は、応接室で宮戸島で起こっている騒動について、問い質した。
「一々覚えてなぞいない」
「………でしょうねぇ」
態とらしく、大きな溜め息を吐いた直哉は、
「花梨さんは、そういったトラブルの後始末をして、いい娘だとは思わなかったんですか?」
「いい娘さ。養育費が掛からなかったからな」
「今後の慰謝料に加算されるかもしれませんから、覚悟しておくんですな」
悪びれずに言う羽佐間一佐に、強烈な皮肉をぶつける。
「さて、真面目な話をしましょう。貴方は何を埋めたいんですか?」
「何だと?」
「艦娘達がいる。全員嫁にしている。他にも女がいる。貴方は戦場にも出ている。破滅を望んでいるんじゃあないですかね?」
「…………」
睨み付け合って一触即発の雰囲気の中、妙高が口を開く。
「高菜二佐、私達はそれでも眞一郎を愛しています」
「………」
「話を戻しますと、花梨さんに手を差し伸べるのは、親であるあなたの責務なんじゃないですかね?」
「貴官に何がわかる?」
「分りたくないですね、そんなくだらないこと」
「金持ちのボンボンだった、貴官には分からんだろうよ」
再び一触即発になる。妙高は、悲しそうな顔をして二人を見る。
「高菜二佐、そろそろ今日の会見の《真の目的》を聞かせてもらおうか?」
「では、遠慮なく。羽佐間一佐、いい加減にしろ」
「何だと?」
「貴官は上官だし、よその鎮守府のことだ、と今まで見て見ぬふりをして来たが、正直迷惑だ」
「………」
「いい加減、自分を偽るのはやめたらいかがですか?」
「………」
羽佐間一佐は、何も語らない。
「妙高を始め、こんなにいい娘がいるのに……」
「それは否定しないな。私も、良い娘達だと思っている」
「なら何故………」
「愛してもいない女を抱くには、人生は短すぎるだろうな」
「ええ」
「愛してもない男に抱かれるにも、人生は短すぎるだろうよ」
「でしょうね。貴方を埋めるのは真実の愛、と言うことですか……」
その言葉に、妙高はどこか決意を秘めて、口を開いた。
「私達の愛では不足ですか?今までは、眞一郎が良かれと思って何も言って来ませんでしたが。私達だって嫉妬もします。もし、眞一郎に何かあったら、私達は後を追うでしょう」
「……あなたの負けですよ。まあ、どうせ女癖は死んでも治らないでしょうがね?」
「そのようだな」
直哉は、そう言うと立ち上がる。
「高菜二佐、この埋め合わせはいずれしよう」
「期待していますよ、准将補殿」
直哉がニヤッと笑うと、羽佐間一佐は拍子抜けした顔をした。
「何だ、知っていたのか。勿体ぶって黙っていたのに」
「東の羽佐間、西の坂本と、新設される准将補になる面子は予想は付きますよ」
―――――
「……と言うことがあってね」
『それじゃあ、花梨さんは一生許すことができなさそうですね?』
「或いは、三尉が人間的な成長を迎えた時だろうねぇ。はてさて、その時に墓石と仲直り、と言った事にならなければいいがね?」
『先生ぇ、縁起でもないことを』
「人はいつか死ぬ。それがいつかは、誰にも判らないのさ」
ふふっと笑うと、紅茶を啜る。ブランデーの香りと味が、頬を緩める。
昼から、しかも執務中に飲酒である。
「まだ愛ちゃんには難しい話だと思うよ?ただ、艦娘達は抑えていた嫉妬を開放したようで、毎晩放してくれない、と羽佐間一佐が私に愚痴っていたがね」
「聞いてください、愛ちゃん。直哉ったら、最近岩沼鎮守府との電話ばかりで、執務を放ったらかしなのです」
秘書艦執務机で、執務をしていた電も会話に混ざる。スピーカーフォンで会話しているのだ。
『何してるんですか?先生ぇ』
「いやあ。同じ艦娘達に愛される者同士で、語り合いたい話もある訳さ」
『そうなんですね……』
「さて、そろそろ愛ちゃんも執務があるだろうし、失礼するよ」
『はい、了解です』
――――――
「……という訳で、三尉は自分で壁をこじ開けたようですね?」
岩沼鎮守府の近くのバーで、羽佐間陸准将補……今日は昇進祝いの飲み会である。
気仙沼と宮戸島鎮守府合同でバーを貸し切って、艦娘達はテーブル席で親交を温めている。
因みに、優花の姉の紗花は、優花以上の天然でヤンデレ気質がある為、直哉と優花と寛太の三人で、十数時間に及ぶ根気強い説得の末、納得させて別れることになった。
カウンターに招かれた直哉と元に戻った奈々海、そして羽佐間准将補、それに正妻の妙高が並んで座っている所で、
件の郷里三佐の顛末書を見せた。
「ほぉ………あの男がか。確かに、粗にして野だが、卑ではない男だ。花梨の父親役には打って付けだろう」
「まぁ……ずいぶん激しくなさったのですね?」
羽佐間准将補はニヤッと笑って、妙高は口元に手を当ててうふふっと笑う。
「そんな有様では、人間的に成長した三尉が、先に手を差し伸べそうですね。こうやって赤子を抱いて、『あんたの孫ですよ、お祖父ちゃん』と言ってね。精々、それまで墓石にならないように生き残ってくださいね?」
「大丈夫です。私達が、眞一郎を絶対に死なせません」
そんな直哉の、皮肉の籠った言葉に、自信に満ちた言葉で答える妙高。
「どれどれ、わぉ。羽佐間三尉もずいぶん過激ですねぇ。このままだと、お祖父ちゃんになるのもそう遠くないですねぇ?」
奈々海も面白がって、顛末書を取り上げて目を通すと、ニヤニヤし始める。
後に本人の与り知らぬところで、奈々海に渡った顛末書は、南三陸の武藤提督の手に渡り、最終的に南三陸鎮守府に査察に入った、大本営副長の兼任と共に陸将補に昇進した、足立警務隊長の手によってシュレッダー破棄された。
「全く、困ったものだ」
この顛末書流出の元凶である愛と直哉の師弟は、足立陸将補に説教されたのは言うまでもない。
花梨は、この官能小説として出してもおかしくない顛末書が、宮城の各提督、ましてや父親に流出していることは未だ知らない。
本日のお題「岩沼鎮守府の騒動(toshi-tomiyamaさん提供)」