コルダ・ダンブルドアと豊穣の杖   作:ショート・カット

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コルダの両親はマグルです。
1話に明記するのを忘れたので改稿します。
いやあ、書いていると忘れるもんですね…。


豊穣、あるいは災厄の杖

 コルダとアルバスの出会いから3日後、アルバスは約束通りにコルダの部屋を訪れていた。

 コルダの持ち物は肩にかかったポーチだけ、というごくごく簡素なものだ。

 

 「ごきげんようコルダ。出立の準備はできたかの?」

 「ばっちりやで。何しろ整理する財産なんかほとんどあらへんからな!」

 「お主の財産はこれから創れば良いのじゃ、金銭のみならずな。そしてコルダよ、わしは既にお主の教師じゃよ?」

 「ばっちりですダンブルドア先生!」

 「うむ」

 

 コルダの返答にアルバスはにっこりと微笑む。

 コルダは育ての親となる人物がおらず窃盗で糧を得てきた割には、心根が素直で物分かりが良い。そのことにアルバスは安心した。

 

 (トムとは大違いじゃな)

 

 かつての教え子トム・リドルもまた物心つく頃には両親のいない孤児であったが、その思想は極めて差別主義的で後にはスリザリンの純血主義に傾倒していった。

 30年程前にホグワーツの秘密の部屋が開き1人の女子生徒が死亡したという事件も、トム・リドルが関わっていた可能性が高いとアルバスは睨んでいた。

 

 「それではコルダ、そろそろ参るとしようぞ。わしの手に掴まっておれ」

 「はい先生、でもなんでなんですか」

 「ほほ、今にわかる」

 

 ダンブルドアの手に掴まったコルダだったが、視界が反転したと思ったら目の前にパブが現れて動転した。

 

 「え!? 何が起こったん、今うちらはうちの部屋にいたはずや!」

 「ほっほっほ、これも魔法じゃよコルダ。姿現しと言っての、遠く離れた場所に一瞬で移動する魔法なのじゃ」

 「ほえーそんな魔法もあるんですかい。うちにもできるんですかね?」

 「お主はまだ無理じゃな。この姿現しは便利な一方で危険での、使い方を誤れば体がバラバラになってしまうこともありうる。17歳になると姿現しを会得するための試験が受けられる。それまで待ちなさい」

 「ちぇー、なかなか思い通りにはいかんな」

 

 そんな会話をしつつ、コルダとアルバスは薄汚れたパブの中へと入っていった。

 

 店のバーテンがアルバスの顔見知りらしく2人に話しかけてきた。

 

 「やや、ダンブルドア校長。ここに姿を見せるとはお珍しい。一体どうしましたかな?」

 「なに、今年ホグワーツに入学する生徒をダイアゴン横丁に案内するところでの。良い機会じゃし様々な場所を見せようと思ったのじゃよ」

 「それは光栄なことで。そちらの可愛らしいお嬢さんがそうですかな? ようこそ魔法界へ」

 

 人当たりの良い笑顔を浮かべたバーテンにコルダも挨拶する。

 

 「こんにちはバーテンのおっさん。うちはコルダ・ダンブルドアって言うねん。よろしゅう」

 

 コルダの名乗った名前を聞いてバーテンは驚きをあらわにしたが、同時に納得もした。

 目の前の少女は身なりから考えて今まではマグルの世界で暮らしていたのだろう。

 そういう生徒を迎えに行くのはホグワーツの教師な訳だが、校長であるアルバスが直々にそれを担当するのが意外であったのだ。

 しかしその子がアルバスの親族なら不思議なことではないと思ったのだ。

 おそらくアルバスの一族のだれかの隠し子がなんらかの理由でマグルの世界に放逐され自分が魔法使いだとは知らずに生きてきたのをアルバスが迎えに行った、などというストーリーが組み上げられた。

 

 「なんと、ダンブルドア校長の親類の方でしたか! いやはやこれまでさぞ苦労されたのでしょうな」

 「そのことなんじゃがの、別にこの子はわしの親族という訳でもないのじゃ」

 「え」

 

 その後コルダがダンブルドアを名乗り始めた経緯を説明してバーテンは納得したようだった。

 アルバスはこれ以後何回同じ受け答えをすれば良いのか、ということを考えて少しだけ気が滅入った。

 ちなみにアルバス自らコルダを迎えに行ったのは、たまたまアルバスだけが暇だったからにすぎない。

 

 「なあなあダンブルドア先生。うちらはこれから入学に必要な道具を買いに行くんですよね? こんなとこで一体何を買うつもりなんや?」

 「これこれ」

 

 店主の前でパブをこんなとこ呼ばわりするコルダをアルバスは嗜めたが、バーテンは気にした様子はなく笑った。

 

 「お嬢さん、確かにうちで売っているのはもっぱら酒ですがね。まあ裏庭に行けば分かりますよ」

 「ほん?」

 

 コルダは訝しがりながらも、バーテンに言われた通りアルバスとパブの裏庭に出た。

 

 「何もないやん」

 

 すると突然アルバスが煉瓦の壁を数回叩きだした。

 最初は何やってんだこいつ、という視線のコルダだったが壁がアーチ状へ形を変えるとコルダの度肝を抜いた。

 アーチの先には様々な店が並び、いかにも魔法使いという風貌の人間たちで賑わっていた。

 目を見張るコルダにアルバスは微笑む。

 

 「ようこそダイアゴン横丁へ」

 

 

 

 

 グリンゴッツでアルバスが必要な分だけお金を引き出した後、コルダたちは服飾店や本屋などで制服や教科書などを買い揃えた。

 

 「後は杖だけじゃな」

 「杖というといかにも魔法使いっぽいな!……ですよね!」

 

 2人がやってきたのは一際年季の入った店だった。

 店名はかなり読みづらくなっていたものの、かろうじて『オリバンダーの店』と書いてあるのがわかった。

 中に入ってコルダが目にしたのは積み上がった箱の山と老人の姿・

 

 「いらっしゃいませ。ダンブルドア校長先生にお嬢さん」

 「おおオリバンダー。元気かね? この子はコルダと言っての、今日はこの子の杖を買いに来たのじゃ」

 「左様ですか。ではお嬢さん、ささこちらへ」

 「オリバンダーさんか。今日はよろしく頼むで」

 「ふふ、お任せを。杖腕はどちらですかな?」

 「杖腕…? 利き手ならうちは左利きやな」

 「それでは腕を伸ばして。ちょっと失礼」

 

 そう言ってオリバンダーはコルダの体のあちこちの寸法を取り始めた。

 

 「ん? 杖選ぶだけなのに採寸する必要とかあるんか?」

 「もちろんですともお嬢さん。杖はただの木の棒ではございません。1本ごとにその芯の素材は異なっており、それぞれが個性を持っている。こうしてお嬢さんと最も相性の良い杖を探すのです」

 「ふーん、そうなんか。てっきりうちはあんたがいたいけな少年少女の体のあちこちを触って喜ぶ困った趣味の持ち主だと思ってしまったわ。すまんな!」

 「なっ……、こほん、なかなか元気のいいお嬢さんですな」

 

 こんな言われ方をされたのは珍しかったようでオリバンダーは少し動揺したようだ。

 確かにコルダと同じ感想を抱いたとしても、独特な不気味さを漂わせるオリバンダーにここまで明け透けな物言いをする11歳の方が少ないだろうが。

 

 「ではお嬢さん、まずはこれをお試しください。ポプラの木に不死鳥の尾羽根。28センチ、よくしなる」

 

 コルダが杖を手に持って振ると、間髪を容れずに近くの箱の山が吹っ飛んだ。

 すぐに新たな杖をコルダに渡す。

 

 「イチイの木にグリフィンのたてがみ。23センチ、極めて丈夫」

 

 今度は手にした瞬間杖の先から花火のように火花が噴出。これはと思ったオリバンダーであったが間も無く爆発し床に大穴を開けた。

 

 「ふむ、では次にこれを。りんごの木にドラゴンの心臓の琴線。37センチ、大振りで強力」

 

 手渡されたコルダは今度こそという思いで杖を振るが、なんと目の前のオリバンダーが吹っ飛んで箱の山を一気に3つほどぶち抜いてしまった。

 

 「これうちにぴったりの杖が見つかる前にこの店壊れるんちゃう? ていうか、採寸して杖選んどる割にここまで相性悪すぎやろ…」

 「こ、こんなはずでは…」

 

 これまでの自らの経験に全く合致しない相手。これはとんでもなく難しい客だ、と思うオリバンダー。

 

 一方で惨状を傍観しているアルバスは思考に耽っていた。

 

 (選ばれた杖がことごとく暴発しておる。これはオリバンダーというよりコルダの方が問題なのじゃろう。この子は魔法を学ぶ前から雑に魔法を使っているせいで、人一倍そのねじが外れやすくなっておる。杖を振るという動作に合わせて無意識に魔力を出してしまっておるのじゃ)

 

 三者三様に悩んでいると、オリバンダーが吹き飛んだときに崩れた箱の山の一つが激しく揺れ始めた。

 

 「え、なんなん!? ポルターガイストっちゅうやつか?」

 「ポルターガイストではないじゃろう。ホグワーツならともかくこの店にはおるまい。これは杖が揺れておるのか…?」

 「も、もしや…!」

 

 慌てたオリバンダーが山をかき分けて取り出したのは、かなりの年季を感じさせる焦げ茶色の箱。

 その箱がブルブルと激しく振動している。

 

 「まさかこの杖がうごめくとは…実に164年ぶりのことじゃ…」

 「その箱に入っている杖がどうしたん?」

 

 尋ねるコルダに対して、オリバンダーは箱から杖を取り出す。

 その杖は入っていた箱の外見と同じく、暗い色をしており不思議な雰囲気を纏っていた。

 

 「お嬢さん、とりあえずこれを持ってみなさい」

 「わかったで」

 

 その杖を握ると鮮烈な快感が全身を駆け巡った。

 空間が自分の支配下にあるような昂揚感。

 衝動に任せて杖を振ると、店の床に幾輪もの花が咲き誇った。

 

 「おー、花が咲いた…」

 「やはりお嬢さんは選ばれたようですな…。これもまた運命ということか…」

 「この杖なんなん? なんか普通の杖とは違うようやけど」

 

 オリバンダーは頷いて答える。

 

 「その杖は『豊穣の杖』と呼ばれるものです。1000年も前から何人もの手に渡ってはやがて離れていったのです。そしてそれにはまことしやかに伝わる言い伝えがある…」

 「ほうほう、教えてくれ」

 「はい。それでは…」

 

 

 

 

 昔々、イギリスの各地を旅する魔法使いの男がいた。

 彼は優秀な魔法使いだったが、当時はマグルの魔法使いに対する迫害は厳しくたとえ捕まってもどうということはなかったが、彼は自身の力を隠して旅をしていた。

 

 そんな彼がとある農村を通りかかった時のことである。

 そこで魔法使いは、畑の中で懸命に働く1人の少女に出会った。

 

 その村はもう何年も不作に見舞われており、更には正体不明の疫病が発生したために働き手も減っていた。

 そんな中で少女は自ら大人たちの代わりを務めようとし、年下の者の面倒を見ながら熱心に働いていたのだ。

 

 昼夜を問わず働きながらも笑顔を絶やさない少女の姿に、だんだんと魔法使いは惹かれていった。

 やがて旅をするのも忘れて少女の姿を遠目に見ることしかしなくなっていった。

 

 そんな生活をして数年経った年の秋、その村を過去に類に見ないほどの凶作が襲った。

 次々と村の者が倒れる中、それでも少女は懸命に働いた。

 

 しかしある夜、魔法使いは少女が家からこっそり抜け出すのを目撃した。

 少女の行動パターンを完全に把握していた魔法使いはこれを訝しんで追いかけた。

 

 少女を追って魔法使いは森に辿り着いた。

 そこで彼女は泣いていた。

 それは、村のためにどんなに働いても貧困と病で死んでいく村人を救えない自分の無力さを嘆くものであった。

 

 嘆き悲しむ少女の前に、魔法使いは初めてその姿を見せることを決意した。

 魔法使いは近くにあった樫の木を削り取り、その中に遥か東の地に住んでいると言われている聖獣の毛の束を一握り収めて、少女の願いを叶えることを祈って一本の杖を作った。

 

 彼は少女の前に現れ、その杖を少女に渡した。

 杖を渡した瞬間、魔法使いは霞のように消えてしまった。

 彼は杖に自らの存在そのものとも言えるほどの祈りを込めたために、残った体が消失してしまったのだ。

 

 その後少女は杖を携えて村に戻ったのだが、しばらくすると嘘のように畑は一面黄金色に覆われ病人は治癒したという。

 少女は降って湧いた幸運に感謝し、荒廃しかけた村を立て直すためより一層働くようになる。

 見知らぬ男から与えられた杖は、豊穣の杖と呼ばれたいそう敬われたという。

 

 しかし豊穣の杖が少女の手に渡ってから数年も経つと少女は別人のようにだれきってしまっていた。

 特に手入れせずとも毎年豊富に実る麦畑や全く寄り付かない病魔に満足して、勤勉に働くということを忘れてしまったのだ。

 

 そんな彼女に豊穣の杖は厳しく応えた。

 

 ある年に全く麦が実らなくなったのである。

 同時にたまたま疫病が村に蔓延し、治癒することなく次々と村人は倒れた。

 少女は焦って豊穣の杖に働きかけるも、ついぞ反応することはなかった。

 

 結局少女のいた村は次の年には全滅し、廃村になったという。

 同時に少女が持っていたその杖は行方不明となった。杖の思いを汲んでくれる持ち主を探す旅へ…。

 

 

 

 

 「これ以後も豊穣の杖は度々人の手に渡っては一度は繁栄をもたらすものの、後に必ず破滅を引き起こしました。それゆえ災厄の杖とも呼ばれております…」

 「…気持ち悪っ!! そもそもその魔法使い、とんでもない重さのストーカーやん! 勝手に杖あげといて気に入らなくなったら災いをもたらすとかヤバすぎるやろ!」

 「そうですな。実際これまでその杖に選ばれた人は皆、心根が素直で天真爛漫な少女でしたからな…。正にお嬢さんはピッタリその条件と一致してしまわれたのでしょう…」

 「ふざけんな、チェンジやチェンジ! こんなストーカーの怨念のこもった杖なんぞ使えるか!」

 「残念ながらお嬢さん、一度気に入るとその杖はどこまでもその相手を追いかけてゆきます。たとえお嬢さんの入学するホグワーツ城といえど、それは例外ではございますまい…」

 「そ、そんなぁ…」

 

 コルダは助けを求めるかのようにアルバスの方を向く。

 アルバスは慈愛のこもった目をしている。

 

 「コルダよ、ものは考えようじゃよ。その杖が持ち主に悪しきを及ぼすのは、その持ち主が与えられる栄光に満足し自分の手で努力することを忘れた時じゃ。そうならないように意識しておれば良いのじゃよ」

 

 期待を裏切るアルバスの答えにコルダは絶望する。

 

 「むしろ喜んでもいいのではないかの? 少なくとも現時点のお主は、くだんの魔法使いに認められるような精神性の持ち主じゃということじゃ。それを誇りに思い勉学に励めば良いではないか」

 

 あんまりなアルバスの屁理屈に、コルダは額に青筋を浮かべる。

 ストーカーに気質を気に入られて喜ぶやつがどこにいるというのだろうか。

 豊穣の杖が触れている左手を介して熱視線をコルダに送っているような感触を覚えて、その怒りはさらに倍増だ。

 

 「いや、めでたい! このような強力な杖に見初められるとは、これからのコルダの行き先が楽しみじゃのう」

 「全くですな! 私からもお祝い申し上げましょう」

 (このジジイども…!)

 

 いけしゃあしゃあと抜かす2人に対して内心でコルダは毒づく。

 というかつい先日心の恩人と言っていたアルバスをジジイ呼ばわりするなどコルダも大概ではある。

 

 「ああ、ちなみにその杖のお代は結構です。以前の持ち主の遺族がこの店に預けて以来保管していたのですが、こちらとしても持ち余していたので…」

 (体のいい厄介払いか!)

 「なんと。オリバンダーの杖は通常は最低5ガリオンはするものじゃ。コルダよ、お得な買い物じゃったの?」

 (うっさいわボケぇ…!)

 

 こうしてコルダは豊穣、あるいは災厄の杖を手に入れた。

 

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