もし、あの戦いでほんの少し変わっていたら?


これはサモンナイト―生贄の花嫁―の超番外編です。
まさに作者が気分転換に書いた作品です。
気楽な気持ちでどうか鑑賞してください。


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片道誓約者(イーリス編)

 もしあの日、俺が最後の最後まで諦めなかったら…。

 無謀ではなく、本当の勇気をもっていたら何か変わっていたのかも知れない。

 

 膨大な悪霊が体を貫く、俺の体は破裂寸前だった。

 だが、諦めなかった、死の予告を思い出しても最後の最後まで諦めようとしなかった。

 召喚術を発動させる、残りカスの魔力を全身より吐き出させて解放させる。

 

「俺は―――!!」

 

 だが無謀にも少年の…、ハヤトの姿はそこで四散し粒子へと変化してゆく。

 肉体は滅んでしまった。だがその時、偶然にも奇跡が起こったのだ…。

 召喚術と呼ばれる力は世界を穿つ、その力は彼から魂をはじき出し遥かな彼方へと誘う。

 異世界を、別の時間軸を超えてハヤトは次元の果てへと旅立ってゆく。

 その魂の行方はメイメイでもエルゴでも捉えることは出来ない、遥かな…遥かな彼方へと彼は送り出された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 1回目の冒険

 

「勇者よ、よくぞ参った!わしはこの国の王、ヴィクターである」

「?」

 

 自分が目をを覚ますと同時に理解できない光景が目の前に広がる。

 真っ赤な絨毯に立ちこちらを見る国王の姿、ヴィクター王、そうヴィクター王だ。

 そして自分は国のお触れを見て腕試し目的にここに来た剣士ハヤトだ。

 だったらこの記憶は何だ?自分の心に刻み込まれたもう一人のハヤトの記憶は…。

 那岐宮、リィンバウム、そしてクラレット、決して偽りではない記憶が自分に刻み込まれてた。

 

「癒しの鉢植えは半日に一度癒しの草を生み出す幻の品だ。大事に使うのだぞ」

 

 王様からとても軽い鉢植えを手渡された。

 それには草が生えており、いつでも使えるようだ。

 しかし、こんな鉢植えが幻の品なのか…。

 

「うむ、辛い旅になるだろうハヤトよ…。魔王討伐を成し、世界を救うのだ!わしもここを離れる、いずれ会うかも知れん、さあ行くのだハヤトよ!」

 

 ヴィクター王は俺の前から一瞬で消えてなくなる、瞬間移動の類だと理解できた。

 とりあえず王様から貰ったアイテムを貰いながら自分は城から出て東へと向かいながら考える。

 現状を確認しよう、自分は新堂勇人……ではなく剣士ハヤトだ。

 腕試しで魔王を倒すべくこの国に訪れた剣士だ。だが自分には二つの記憶がある。

 剣士ハヤトとして生きた自分と異世界で学生をしていた俺だ。

 どっちも大事な自身という事は分かる、幸い身内もいない、

 魔王を倒し闇の浸食を止めたらリィンバウムに行く方法を考えよう。

 さて、さっそくアイテムを閉まって本腰を入れよう、鞄を開―――。

 

「やっほー!初めま―――」

 

 鞄を閉まった。

 

『ちょっとー!開けてよー!!』

 

 鞄を開けるとそこには緑の髪をした虫が入っていた。

 

「虫じゃないから!妖精!妖精イーリス!」

 

 どうやら妖精の様だが、自分の知ってる妖精とは少し違うようだ。

 ここは異世界リィンバウムとは異なる世界という事を実感できた。

 

「そういえばヴィクター王、私の紹介し忘れてたよね。はぁ~嫌になっちゃうな、じゃあ改めまして私はイーリス、貴方をサポートする為に作られた人工妖精イーリスだよ!よろしくね!まあ私以外の妖精なんていないから気軽にヨーセーさんって呼んでいいからね」

 

 目の前の虫……いや妖精はイーリスという名前らしい。

 自分をサポートする為に王様作った人工の妖精だそうだ。

 自分の知っている妖精と確かに結構違う部分が沢山ある、ほとんど別の生き物の様だ。

 

「私以外に妖精にあったことあるの?」

 

 イーリスに俺は遠い場所であったと伝えた、君と違って大きく強力な力を持っていたりすると伝える。

 

「な、なんかそれは遠回しに役立たずって言われてる気がするんだけどなぁ。まだ何もしてないのに…」

 

 ところでイーリスは何が出来るのか?サポートと言っていたがもしかして中々強力なモノを持っているのかもしれない。

 俺は期待しながらイーリスに尋ねてみることにした。

 

「直接的に何かは出来ないんだけど、色んな事を知ってるから教えることは出来るよ!冒険に役立つことは何でも知ってるんだから、あと好感度を教えられるかな?」

 

 好感度?好感度と言ったか?

 言っている意味がよく分からない、他人との繋がりが見えるという事なのか?

 

「えっと…雰囲気とか表情とかで何とか」

 

 どうやら使えない妖精だったようだ、返品しよう。

 

「いやいや!どこに返品するの!?あれ見てよ!」

 

 俺とイーリスが後ろを見ると巨大な闇の放流に先ほどいた城が飲み込まれて行くのが見える。

 悲鳴と怒号が聞こえるがやがてそれが収まり闇から逃げようとしてる人たちも飲まれてゆくのが見えた。

 あれが俺が止めるべき闇、魔王を倒せば止まると言ってはいたが…。

 

「ヴィクター王の話じゃ、魔王を倒せば止まるって行ったのは聞いたよね?魔王はどこにいるか分からないし闇から逃げながら色んな所に向かうんだからそれをサポートするのが私って訳なの、だからいらない子じゃないからね!」

 

 なるほど、ガイドのような者だという事か、それなら納得できる。

 こくりとハヤトが頷くとほっと安心したのかイーリスが俺の肩に乗る。

 

「私達はこれからパートナーになるんだから力を合わせて頑張ろうよ!」

 

 パートナー…、パートナーか、遠いリィンバウムの記憶、確か護衛獣というものがあったはずだ。

 俺はイーリスの体を両手で掴むとかつて新堂勇人だった時に得た魔力の力を用いて誓約を発動させる。

 

「え!?ちょっと何!?ハヤト何しようとしてるの!?ギャァァーーーー!!」

 

 イーリスは淡い光に包まれる、ハヤトの中で何かがイーリスと繋がり合うとハヤトはイーリスを手放した。

 

「いや、今の何?なんか今までより元気になってるんだけど、あれ?理力が補充されてる…」

 

 理力とは何かは分からないが、イーリスと誓約を交わしたことを教えた。

 誓約は一度交わすと互いに繋がりが生まれる、あと召喚術でどこに居ようと呼び出すことが出来る。

 

「へー、便利なんだね。っていうかさ、それ一言言ってくれれば嬉しいんだけど、すごい心臓に悪いんだけどさ」

 

 口下手なモノで。

 

「ま、まあそこらへんサポートするのもパートナーの仕事だよね。じゃあ改めてよろしくねハヤト!魔王を倒す旅の出発だよ!!」

 

 そういうとイーリスが宙を舞い自身を導いてゆく、

 西からは闇が迫りつつある、俺達はそれから逃げる為に東へと進む、

 こうして俺とイーリスの長い片道の物語が始まった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 草原を駆ける、目の前に何か落ちている事に気づき手を伸ばした。

 それは皮の盾、レザーシールドだった。

 なんでこんなところにこんなものが落ちているのか?

 早速イーリスに聞いてみよう。

 

「え?なんで物が落ちてるのかって?もちろん闇に飛ばされてきたからだよ。台風なんて目じゃないほど凄いからね。剣も鎧も色々飛ばされてるんだよ」

 

 なるほど、つまり逃げながらこれらを集めて魔王に挑めばいいという事か。

 早速レザーシールドを装備する、それなりの耐久度はあるようだから長く使えそうだ。

 そして道なき道を走っていると視界に何かが映る、白く四足で走る獣、野犬だ。

 なんだ野犬か、そう思い通り過ぎようとしたらイーリスが騒ぎ始めた。

 

「何そっぽ向いてるの!?あれ魔物だよ!わぁー!こっちきたぁー!!」

 

 魔物と言われて野犬の方を向き直すと明らかに普通じゃない犬だった。

 なんか妙にデカイ、普通の倍はあるかもしれないし何より速い。

 だがこちらも剣士なのだ、食いつこうとする野犬を盾で防ぐとショートブレイドで斬り裂く。

 鮮血が舞うが筋肉が凄まじく強化されてるのか一撃で倒せなかった。

 再び野犬がこちらへと攻めてくるが、それを躱して隙だらけになった首に向かって必殺の一撃を叩き込む。

 

 強打!

 

 自身が震える全力の一撃だ、おまけに勇人の記憶にある魔力を用いた更なる一撃。

 首にぶつけたそれはやすやすと野犬の首を吹き飛ばし、ドシャリと野犬を肉片へと変えた。

 

「えっぐ……てか本当に強いね。まさか野犬を一撃で倒すなんて、あれって騎士でも苦戦するような相手なんだよ?」

 

 そうなのか、じゃあ城の騎士は怠慢って事だな。

 

「えぇー、それってどうなのかな……、まあとにかく闇も迫ってるし急ごう!」

 

 こくりと頷く、すると何かの気配を感じて空を見ると野犬と同じように巨大化したカラスやこうもりが迫ってくる。

 どうやらそう簡単に先に進ませてくれないと理解した俺は剣と盾を持つ手に力を入れてそれらに立ち向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 草原を走破し、山を越え、雪原を進み、火山地帯に辿り着いたハヤトとイーリス。

 約一週間歩き続けたハヤト、その容姿は大きく変わっていた。

 頼りないレザーシールドは鱗が付いたスケイルシールドに変わり、

 ショートブレイドはロングブレイドに変わっている、もちろん旅人の服もチェインメイルに変わっていた。

 イーリスに話を聞くと既に400kmも歩いたそうだ。

 だが魔王の姿は影も形も見せない、もしかして魔王は闇の中から世界を壊そうとしているのかと考えてしまう。

 そう不安が過ぎるが、野営地に通りかかるとそこに居る兵士からある情報が届けられた。

 

「勇者殿!ここら辺に魔王らしきものの姿が確認されたそうです!それと勇者殿に刺激された者たちが集まりつつあるそうです!」

 

 どうやら自分が旅に出た影響なのか同じように魔王を倒そうと考える人々が出て来たそうだ。

 ところでイーリスは今まで何人の人が魔王を倒しに旅だったのか知っているのか?

 

「う~ん、詳しくは知らないけど、凄く強い騎士とか旅立ったみたいだけど結局勝てなかったって聞いてる。正直普通の人が集まっても魔王には敵わないかもね」

 

 そう考えるとその人たちを魔王に立ち向かわせるのは無謀かもしれない。

 

「でも、人海戦術で挑めば勝てるんじゃない?いくら魔王でも数が多ければ勝てるよ!」

 

 そうイーリスが答えるが正直な話、数を揃えても勝てない気がする。

 なぜなら数がそろって倒せるなら既に倒されてるはずだからだ。

 きっと魔王にはどうあがいても勝てない何かがあるんじゃないかと自分は考える。

 

「心配性だねハヤトは、大丈夫大丈夫。ハヤトなら勝てるって!」

 

 まじか、でも自分の強さを見続けたイーリスは自信満々に答えた。

 だが俺はどうしても慎重にならざる負えない、リィンバウムで死んだ記憶がそれを考えさせてしまうのだ。

 勝算も無く無謀な戦いをすればきっと取り返しのつかない何かにぶつかってしまうからだ。

 不安を感じながらもハヤトは魔王に向けて歩き続けた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 火山地帯が終わりに近づき始めた頃、ハヤトは強力な存在を感じ取る。

 視線の先から高速で迫る黒衣の人影、それは後方から迫る闇と同じ雰囲気を放っていた。

 

「来た!来たよ!魔王だよ!」

 

 イーリスは魔王を直で見て先程言った言葉を訂正したくなった。

 アレは超常の存在、只人が勝てるはずがないとイーリスは理解する。

 だがハヤトは臆さず剣を抜き放つ、そして剣士に備わった能力を発動させた!

 

 ベルセルク!

 

 ハヤトの全身から力が迸り、それに合わせてハヤトの魔力も全身に流れる。

 

「理力とは違う、不思議な力を操るのだな」

 

 余裕の表れか魔王はそう語り、腰に携えたエストックを抜いて構える。

 そこからは一瞬だ。瞬きした瞬間魔王の姿は消えてハヤトの懐に現れた。

 だがハヤトも負けてはいない、突き出されるエストックを弾いて魔王に斬りかかる。

 しかし再び魔王が一瞬で後ろに下がりハヤトの斬撃を回避した。

 

「ね、ねえ!一人で魔王と戦わない方がいいよ!みんなが来るまで逃げよう!」

 

 カバンから見ていたイーリスから悲鳴に似た提案が出された。

 確かに遠くからこちらに何人か近づいてくる気配を感じる、だがそれには賛成できなかった。

 この強さの魔王だ、もし自分以外の戦士を向かわせれば死体の山が出来るだけだと確信した。

 なら自分が出来る事は魔王に傷を負わせてそこを全員で袋叩きできる状態を作る事だけだ。

 

「それは…そうだけど」

「私に傷を負わすだと?随分と余裕の様だな勇者よ!」

 

 魔王が再びエストックを突き出すが、ハヤトはその剣を軽く躱す。

 そして腰を深く構えて周辺に衝撃波を放つように剣を振るい放つ!

 

 大激震!

 

「ッ!」

 

 マントで顔を隠し衝撃から身を守る魔王、

 その隙をハヤトは逃さなかった。

 ロングブレイドに魔力を流し込み、全身より力を籠め、魔王の胸を穿つ。

 

 強打!

 

 まさに必殺の全力の一撃、カバンの中で応援していたイーリスもこれにはガッツポーズだ。

 だがそんな二人に信じられない現象が視界に映り込んだ。

 

「中々の一撃だ。しかしこの結界がある限りその様な攻撃は効かん」

 

 結界、透明の障壁が魔王と自身の剣の間に生まれハヤト攻撃を完全に無効化していた。

 そうかこれだったのか、これが魔王の力の秘密、こんなものがあるなら絶対に勝つ事は出来ない。

 

「ヤバイ!ヤバイヤバイヤバイよ!!」

 

 壊れたように同じ言葉を繰り返すイーリス、

 魔王から離れる殺気に怯む形で俺は後ろに下がる。

 だがそれは悪手だった、魔王の両手に強力な理力が収束し自分を狙ってたから。

 そして魔王からどうあがこうと決して逃れられない爆炎が撃ち放たれた!

 

「炎弾!」

 

 躱すすべはない、スケイルシールドで到底防げる規模ではない。

 爆炎に包まれながら自分は後悔した、イーリスの言葉を聞いて素直に逃げていれば。

 だがすべて後の祭りだ、俺は何の約束も果たすことが出来ずに命を落とす。

 肉が焼ける音を聞きながらふと魔王の方を見ると魔王はどうしようもなく悲しい顔をしているのが見えた。

 何故魔王は悲しそうな顔をしていたのか、今の俺にはきっとわからないだろう。

 こうして俺の1回目の冒険が終わったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 2回目の冒険

 

「勇者よ、よくぞ参った!わしはこの国の王、ヴィクターである」

「………!」

 

 魔王の爆炎に包まれたこの体がいつの間にか戻ってる事にハヤトは驚いた。

 ……いや元通りではない、記憶が少しばかり異なるのだ。つまりハヤトはもう一度記憶を継承したという事だろう。

 もぞもぞと荷物入れが動いている、何時も間にか入り込んでいたイーリスの仕業だとハヤトは気付いた。

 ハヤトはイーリスが落ち着くように袋越しに撫でるとイーリスは落ち着いた様に動かなくなる。

 

「―――わしからの説明は以上だ」

 

 ヴィクター王の話が終わりハヤトは城の出口へと足を進める、

 前回は草原だったが今回は山脈地帯の様だ。

 やがて落ち着いたであろうイーリスが荷物から出るとハヤトに問いかけた。

 

「…………ねえ、私達死んだよね?」

 

 イーリスの問いにハヤトは頷いだ。自分達は魔王の爆炎に包まれて焼死したはずだった。

 

「ならなんで生きてるの?訳が分からないよ!」

 

 その答えを自分は知っていた。

 そして恐らく予測ではあるがイーリスがなぜここにいるのかもだ。

 ハヤトは語る、リィンバウムの出来事を、自分がなぜかこの世界のハヤトに憑りついたのかを、

 そして自分の目的が魔王を倒した後にリィンバウムに帰還する事だという事を。

 一気に話されてイーリスは混乱してた様子だったが落ち着きハヤトに問いかけた。

 

「それでどうして私まで巻き込まれてるの?」

 

 それは恐らく誓約によるものだとハヤトは考えた。

 あれは魂レベルで契約を交わす代物だ。

 ならイーリスと誓約を交わした事で俺の死にイーリスが引っ張られる形でついて来たのではないかと答えた。

 ふむふむと納得するイーリス、もしいやなら誓約を解除することも出来ると聞くが彼女は断った。

 

「でもそれって何度でもやり直すことが出来るってことだよね?それなら私達でも魔王を倒せるって事だよね!」

 

 そういう簡単な話じゃないと思うけど、現に前回は草原だったのに今回は山脈地帯に変わっている。

 自分達が先ほどまでいた世界は闇に呑まれて滅んだと考えた方がいいだろう。

 

「そっか…じゃどうする?旅やめる?」

 

 身内が居ればそう考えるかもしれないがこの世界のハヤトも天涯孤独の様だ。

 なら俺は魔王を倒してリィンバウムに帰る手段を探そうと思っている。

 そうイーリスに伝えると少しばかり悩んだようだったがイーリスは答えを出してくれた。

 

「だったら私も協力するよ。だって私は魔王を倒すために生まれたんだからね!」

 

 そう答えるイーリス、どうやら孤独な旅をしなくていいと内心ほっとした。

 自分は無口だが別に一人が好きなわけじゃない、イーリスの元気さに少し救われた。

 

「じゃあ、魔王を倒す旅に改めてレッツゴー!」

 

 こうして俺とイーリスは魔王を倒すべく再び東へと進んでゆくのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 前回の俺とイーリスは脇目も見ずに真っ直ぐと魔王の行くへを探していた。

 しかし魔王は自分から俺達の方に来るとわかっている、ならば今は力を溜めるのが優先だ。

 大量の野犬や狼が住み着いた通称犬小屋、昔の砦を利用したダンジョン。

 そこに集めてある、多くのアイテムを入手し、街で買い物をし、敵を倒してレベルを上げてゆく。

 レベルという概念は相変わらず不思議なものだが強くなるならそれで構わなかった。

 お陰で今なら魔王に勝てる気がする、そう思っていた。

 だがそう世の中甘くはない、つまりどういう事かと言うと。

 

「ウワァー!!ギャァァーーー!!」

 

 イーリスが泣き叫んでいる、それは仕方ない、周辺は既に人の死体の山だ。

 俺とイーリスは徒党を組んで魔王に挑んだ。多くの人が倒れようと俺達は戦う事を止めなかった。

 火炎アンプルなどを投擲すると魔王に確かなダメージを与えていたが致命には届かない。

 背後に回って強打を叩き込もうと結界で完全に防がれる。

 あまりの実力差に絶望しか得られなかった、だがそれでももう止まれないのだ。

 

 魔王の脳天にグランドブレイドを振り下ろすがそれすら効果がない。

 魔王を倒すすべはないのか?そう考えてしまうがその考えも途中で止められる。

 自身の胸から鮮血が流れている、魔王のエストックが俺の心臓を貫いたのだ。

 

「中々だったが残念だったようだな。普通の武器でこの結界を破る事は出来ん」

 

 普通の武器…?

 じゃあ魔王を傷つけられる武器が存在するのか?

 遠のく意識の中、俺はその武器を手に入れるしか魔王に勝つ術はないと理解した。

 視線の先で魔王に斬り裂かれたイーリスが見える、彼女には悪い事をしてしまった。

 だが次こそは必ず、必ず魔王を……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 3回目の冒険

 

「……………………」

 

 イーリスが何も言わなくなった、自分とは違い戦う力を持たない彼女は死の免疫に強くないのかも知れない。

 自分と別れれば少なくとも魔王に襲われることはないと伝えるが彼女は首を振った。

 とりあえず今回は魔王を倒せる武器の存在を探す旅に出ようと思う、きっと何か手があるはずだ。

 早速ヴィクター王に話を聞くが王は何も知らないと言っていた、仕方ないので城を出て先へと進んでゆく。

 今回は雪原でとても寒かったがそれでも何とかなりそうだった。

 出てくる敵は野犬ばかり、この程度なら問題なく先へ進める、そう思っていたのが間違いだった。

 雪景色に紛れて白く巨大な物体が突然襲ってきたのだ。

 

「あ……うあぁ………!」

 

 吹き飛ばされて荷物からこぼれ出たイーリスが恐怖で顔を染める。

 イーリスの目の前には雪原熊の姿があったのだ。

 俺はすぐさまイーリスを守る為に強打を叩き込んだ、だが僅かに怯ませるしか効果がなく雪原熊の剛腕は俺の首をへし折る。

 

「いやぁ!ハヤト!!」

 

 情けない、魔王にも出会わずにこんなにすぐに敗れてしまうなんて、

 とにかくイーリスは逃げてくれと思うがイーリスは俺に泣きついて逃げようとしない、

 そのまま雪原熊が近づいてくる、そして俺とイーリスを……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 4回目の冒険

 

 冒険に出て3日目、イーリスは完全に何もしゃべらなくなった。

 雪原熊に食い殺される、言葉にしただけでもおぞましい行為だろう。

 しかも噛み殺されたにも関わらず何が気に入らなかったのか吐き捨てられていた。

 それでも自分について来ようとしてる所を見ると旅をやめる気はないようだった。

 例えそれが自分の作られた目的だとしてもなぜここまでイーリスが拘るのか、自分は知らない。

 どうすればイーリスを元気づけられるのか、どうすればまた喧しくなってくれるのかそれを考えていた。

 そして冒険に出て5日目、その機会は訪れた。

 

「…………?」

 

 トサリと荷物が降ろされる、イーリスは何事かと外の様子を覗くと……。

 

「ふごぉぉーーー!!」

「あ……あぁ……!?」

 

 ハヤトの目の前に熊が姿を表した。

 獰猛な様子を決して隠そうとしない、こちらを餌として認識している。

 ガタガタとイーリスが恐怖で震える、なぜ自分がこんなに恐怖するのか分からなかった。

 ハヤトはそんな熊相手にロングブレイドを抜くと鉄板を盾に熊と対峙する。

 逃げて!そうイーリスが口を出そうとするがイーリスは声を発することも出来なかった。

 やがて熊がこちらに攻撃を仕掛けてくる。

 

「ぶおぉぉぉぉーーーッッ!!」

「ひっ!?」

 

 言葉にならない悲鳴が発せられる、だがハヤトは熊の単調な攻撃を避けて、その胸に一撃を叩き込んだ。

 

 強打!

 

 ドゴン!と衝撃が発せられて熊の胸から夥しい鮮血が舞う、

 あまりの痛みに熊はその場から逃げようと翻すがそれを逃すハヤトではなかった。

 狩人の弓と木の矢を構えてそのまま熊を射抜いたのだ。

 2.3発撃ちこまれた熊はやがてよろよろとよろめいて倒れ伏す、そして二度と動く事はなかった。

 

「勝っちゃった…」

 

 戦いが終わり、イーリスが袋からこちらを覗き込む。

 準備が整えば自分なら熊程度楽勝だとハヤトは答えた。

 あの時は城から出たばかりでしかもこの熊より強いであろう雪原熊、

 今ならまだ戦えるが当時なら手も足もでない。

 つまりあの段階であったのはたんに運が悪かっただけだった。

 ハヤトはイーリスに向けて笑顔を向けるとイーリスは顔をもにもに揉むとこちらに向けて笑顔で応えたのだった。

 

「ハヤトは強いね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 上手く近くの街に辿り着いたハヤトとイーリスは食事を取りながら休憩をしていた。

 闇はすぐそこまで迫っている、食事を終えたらすぐにでも街を出なくては行けなかった。

 そんな時、ハヤトはイーリスに聞いた、なぜ熊にあそこまで怯えていたのかを。

 

「私ね。王様に作られてる時、色んな事があったんだ」

 

 イーリスは自身をイーリス4と言われていたそうだ。

 他に何人かの姉妹がいたが、それぞれが何時の間にか消えてしまったと言っていた。

 自分はその中での成功体だったそうで、勇者をサポートするために生み出されたのだという。

 

「夢を見たの。自分ではない誰かが色んな事をしてるのを、薄い黄緑色の女の子と過ごしてるのを…」

 

 そういえば昔クラレットが夢は記憶の整理と言っていたことがあった。

 もしかしてその自分ではない誰かというのはイーリスの前世なのかもしれない。

 

「それでね、その女の子と外に出た時に熊に襲われたんだ。何時もなら熊ぐらい倒せるはずだったのに私は倒せなかった。私もその女の子も熊にやられて…」

 

 イーリスは自分で私ではない誰かを私と称している。

 たぶん気が付いてないだけで本能的に理解はしているのだろう。

 

「だからこの前、熊にハヤトが殺された時、どうしようもなく怖かった。また昔みたいに殺されて何も分からなくなるんじゃないかって……怖くて…怖くて…!」

 

 ……確かにそれは恐怖だろう。

 自分が殺された原因にもう一度殺されてしまったのだから。

 だけど俺はもう熊に負けたりはしない、準備さえ整えば必ず勝てる相手なんだから。

 

「……うん、そうだね!」

 

 笑顔で笑うイーリスは虹の様だった。

 それとイーリスに伝えなければいけない事がある。

 多分だけどそのイーリスの自分ではない誰かとは前世の自分の事だと思う。

 

「え?どういう事?」

 

 前にクラレットが教えてくれたが、この世の生命には必ず魂が存在する。

 人工生命体のイーリスにも魂があるのは誓約を交わした時にはっきりしている、

 つまりイーリスはその自分ではない誰かの魂の欠片を使い生み出された存在なのだ。

 

「そっか……じゃああの女の子も……?」

 

 それは分からない、もしかしたらイーリスと同じように妖精になっているのかも知れない。

 何か思い出せないか?イーリス。

 

「あんまり、ぼやけてるみたいに顔は見えなくて……だけど城で出会った気がするんだけど……なんか死ぬたびに思い出してる気がするんだよねぇ」

 

 じゃあ死んでみるか?

 

「冗談はヤメテ!自殺して転生できなかったらどうするの!?」

 

 冗談だ冗談、本気にしないでくれ。

 

「真顔で言われたらどっちか分からないわよ…」

 

 軽く笑いながらイーリスが残りのご飯を食べる。

 その体格に信じられないほど入るがハヤトは特に気にしなかった。

 荷物をまとめ、街の外へと出るとハヤトはイーリスに応えた。

 やる事がもう一つ出来た。世界を救ったらイーリスの前世探しもやろうと。

 それにイーリスはハヤトと同じように笑顔で応えた。

 

「えへへ!よろしくね!ハヤト!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 その次の日、ハヤトとイーリスは魔王と戦った。

 だが、やはりどう足掻こうと魔王の結界を破る術が存在しなかった為、二人は敗北してしまった。

 血に倒れ伏し、鮮血を流し続けるハヤト、もう一度やり直す事になるのかと少し鬱になっていた。

 

「今楽にしてやる」

 

 魔王がエストックを握りしめて近づいてくる。

 あのエストックで止めを刺されるのだろうとハヤトは理解した。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

「……なんだ?」

「自分だけそんな結界を張ってズルいじゃない!冥土の土産にその結界を破る術を教えなさいよ!」

 

 なんと、イーリスはこの状況を利用して魔王の弱点を聞き出そうとしているのだ。

 それを聞いた魔王はやや怪訝な表情を浮かべる。

 

「お前、自分の弱点をわざわざ教えると思っているのか?」

「う……そうだけどさぁ」

「まあいい、貴様らの強さは中々楽しめた、教えてやろう」

 

 魔王は案外優しいのではないか?

 とにかく魔王の弱点を知られるのは奇跡にも等しい。

 

「私の持つ結界は闇の力を利用したものだ。それを破るには聖なる武具の力が必要になる」

「聖なる…武具?」

「古に生み出された闇を払う伝説の武器だ。私を倒したければそれを握るしかない」

 

 そんな武器があったのか……聖なる武具、それを手に入れることが出来れば魔王に対抗できる。

 魔王の両手に理力が集中し始める、おそらく炎で俺達を焼き払うつもりらしい。

 

「これで満足か?では死ぬがいい!炎弾!!」

 

 魔王の放つ爆炎がハヤトとイーリスを包み込む。

 肉が焼け眼球が溶け髪が燃える激痛が二人に走る。

 だが二人の表情は浮かばれていた、何せ二人は希望を手にしたのだから。

 この世界は救えなかったが、必ず次の世界は救って見せる、その次を得る為にも二人は次なる世界へと旅立つのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 5回目の冒険

 

「やったー!やったー!」

 

 年甲斐もなく……イーリスは何歳なんだ?

 まあそんな事はともかくイーリスが喜んでいる。

 理由は間違いなく聖なる武具の情報を得たからだろう。

 

「これで魔王が倒せるよね!やっとあのむかつく結界を破れると思うと…!」

 

 確かにあの結界には何度も苦戦させられた。

 それを破る情報を手に入れたのはまさにイーリスが機転を利かせたからだろう。

 

「そうそう!だからもっと褒めてもいいんだからね!」

 

 だが忘れていないか?聖なる武具の話を自分達はまだ一度も聞いたことない事を。

 

「……アレ?」

 

 色んな街を渡り歩いたが、聖なる武具の話を聞いた事がないのだ。

 もしかしたら現存する武器ではないのかもしれない可能性がある。

 

「嘘!?じゃあなんで私勇気を出して聞き出したの!?」

 

 だが今はそれに頼るしかないのは事実だ。

 それを信じて旅に出るしかない。

 自分はイーリスを置き去りに城から出てゆく、今日は雪原地帯の様だ。

 今、雪原熊に出会ってしまえば詰むこと間違いなしだろう。

 

「ちょ、ちょっと置いてかないでよぉ!」

 

 イーリスが自分にしがみ付く、全くと思いながら視線を向けると視界に何か映った。

 

「ふごぉぉぉぉーーーーッッ!!」

「ギャーー!!熊だぁーーー!!」

 

 全力でハヤトは走り始める、自分から望んで死ぬのは勘弁だからだ。

 

「待ってよー!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 6回目の冒険

 

 まさか目の前から再び雪原熊が現れるとは思わなかった。

 だが一つ分かった事がある、泣き喚くイーリスを振った時、涙が掛かった熊が怯んだのだ。

 前に熊に食われて吐き出された時気が付いたがイーリスの体液は魔物にとって毒の様だ。

 これに気づけたのは大手柄だ!

 

「あのさぁ、それ最初に私に聞くべきだよね?てかなんで私を振り回したのよ!」

 

 ショートブレイドがへし折られたので。

 

「それで妖精ぶん回すってどうなの!?私そんなに固くないよ!?」

 

 そんなイーリスを置いてハヤトは城から出発する、今回は砂漠地帯の様だ。

 確か出てくるのは……イーリス、砂漠にはどんな魔物が?

 

「まあいいですけど……、えっと砂漠は狼とか鳥人とかがいるかな、大した相手じゃないよ?あとサボテンの肉が美味しいって」

 

 なるほど、サボテンの肉か。それは楽しみだ。

 

「楽しみって、旅の目的覚えてる?」

 

 この世の美食を追求する旅だろ?

 

「違うよ!魔王を倒すの!聖なる武器を探すの!」

 

 冗談だ。

 

「ホントにわかってるのかなぁ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 7回目の冒険

 

 まことに残念なことに何の成果も挙げられませんでした!

 

「そんなこと言ったって、どうしようもないっていうか」

 

 イーリスも半分諦めモードだ。

 だが魔王は聖なる武器があると言っていたのだ、つまり必ず存在するはず。

 ハヤトはグッと意識を高め、今回こそ手に入れて見せると覚悟を決める。

 

「そうだよね!諦めちゃお終いだからね!安西先生もそう言ってたんだよね!」

 

 そう、安西先生もそう言っていた。

 偉人の言葉を信じなければ奇跡は叶わない。

 ふとハヤトが前を見ると、女神像らしきものが見えてくる。

 女神像に願えば不思議な力で手助けしてくれるはずだ。

 ハヤトが女神像にダッシュで近づくと突然女神像が変化してハヤトの意識が飛ばされた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 8回目の冒険

 

 どうやら自分はゴーレムと呼ばれる怪物に倒されたそうだ。

 火山地帯や女神像が変化して生まれる岩石生命体。

 女神像が変化してハヤトを潰してしまったとイーリスは語った。

 ちなみにイーリスは自分が死んでしばらくすると意識が飛ぶように死んでしまうそうだ。

 

「なんか最近サクって死んでない?」

 

 そんな事はない、長い冒険の果てに僅かな油断で起きてしまう事故だ。

 熊に追い込められて死亡、熊に挟まれて死亡、熊軍団から逃げて女神像で死亡、後魔王。

 

「たいてい熊なんだ……なんか熊にやられてばっかりだね」

 

 熊は最強生物だからな、ドラゴンの方が優しい気がする。

 

「ドラゴンにも会った事ないのに……あ、これ美味しい」

 

 ハヤトとイーリスが今いるのは城から出て約一週間の大きな街、

 そろそろ魔王が現れる頃だと二人は判断しているが今は聖なる武具の話を得るのが先だった。

 その為の腹ごしらえなのだが、正直心が摩耗し始めてるので少し栄養補給していた。

 そんな折だ、イーリスが巨大ミートボールと格闘してる姿を見ていたハヤトの視界に誰かが移る。

 

「アンタらかい?聖なる武具ってのを嗅ぎまわってるのは」

 

 黒ずくめの男がハヤトとイーリスに話しかけてきた。

 

「あなたは誰?」

「俺の事なんかはどうでもいい、本当に聖なる武具を探してるのか?」

 

 ハヤトはこくりとうなずく、それを見た男がニヤリと笑い「付いてきな」と言って離れていった。

 ついに手に入れた手掛かり、ハヤトは立ち上がると男についてゆく、

 それを見て焦ったイーリスがミートボールを両手にハヤトを追いかけた。

 

「ちょ、ちょっと待ってよー!なんか最近置いて行かれてばっかりなんですけどー!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 街の端までついてったハヤト、男は背負っていた巨大なかばんを下すとその場に広げた。

 見た事のない許可書、何か分からないくすり、そしてその中で淡い光を放っている金属。

 

「俺は暗黒旅商人、普通じゃ取り扱っていない道具を売っている。少し値が張るがアンタらが捜してるのはこれだろ?」

 

 商人が取り出したのは金属の物体、何かの欠片のようにも見えるが…。

 

「ちょっと!私達が捜してるのは聖なる武具なの、それただの金属じゃない!」

「落ち着きな、これは聖なる短剣のかけら、アンタらが捜してる武具の一部さ」

 

 聖なる短剣のかけら、ついに見つけた、探していた伝説の武具、そのかけらを。

 だが欠片という事はそのままでは意味がないのではないか?

 

「そう思うだろ?これを手に入れた時知ったんだが、全部で3つの欠片を合わせると聖なる短剣に変化するみたいだ。つまりこれはその一部だ」

「じゃあ、それをあと二つ手に入れればその聖なる短剣に変わるんだね?」

「ご名答ってね」

 

 男がニヤリと笑う、自分とイーリスはこくりと頷くと聖なる短剣のかけらに手を伸ばした。

 しかしそれは男の手で防がれてしまう。

 

「おいおい、まさかタダで手に入ると思ってるのか?闇に飲まれてようと世の中これだぜ?」

 

 男が指をシルバの形に変える、やはりお金というわけなのか。

 

「世界が危機なのに…それでいくらなの?」

「そうだな……5000シルバってとこか?」

「5000!?高過ぎじゃない!欠片でしょ!?」

「おいおい、これでも良心価格だぜ?何なら物々交換でもいいさ」

 

 仕方がない、そう思った自分は荷物から癒しの鉢植えを出す、しかし3000シルバほどの価値しかない。

 武器や防具は渡せないし草や実は安いらしい、何か珍しいモノ………。

 

「え?なに?」

 

 ギュッとイーリスを握るとそれを暗黒旅商人に差し出した、世界でただ一人の妖精高いぞ?

 

「ギャー!何やってるのー!」

 

 これも世界を救う為だ。イーリス、今は従者としてその身を犠牲にするんだ。

 

「従者じゃなくてパートナー!ってかマジでやめてぇー!!」

「妖精か……確かに珍しいが、金にはならなさそうだな。高く見積もっても500シルバだ」

 

 イーリス安いな。

 

「なにそれ!助かったけどなんかすごく理不尽なんだけど!?」

 

 でも500なら他のを売れば届きそうだ。

 

「助かってなかったー!?」

 

 このままではイーリスは売られてしまう!

 何とかこの場から逃げようとイーリスは飛び立つがその瞬間異変が起きた。

 外壁が溶解して爆炎がハヤト達を襲ったのだ。そして運が悪かったのは外壁に背中越しに立っていた暗黒旅商人だった。

 

「「ギャー!?」」

 

 イーリスと暗黒旅商人が爆炎に呑まれてしまう。

 ハヤトはすかさず剣を抜いて壁の向こうの何か意識を向ける。

 

「ふん、なかなか来ないからこちらから来てやったぞ、勇者よ」

 

 黒衣の人物、魔王がそこに立っていた。

 まさか街中まで襲いに来るなんて予想してなかった。

 どうする?今このまま挑んでも今までと同じで勝てるはずはない。

 そう覚悟したハヤトだったが、魔王の足元、暗黒旅商人の遺体付近がもぞりと動くのを見た。

 イーリスだ、イーリスは無事だったのだ。

 運よく暗黒旅商人が盾になってくれたおかげでイーリスは炎の直撃を受けずに済んだのだ。

 

「これで終わりにしてやろう、勇者!!むっ!?」

 

 魔王が理力を開放して攻めてくる瞬間、ハヤトはグルグル巻きにした草を投げつけた。

 それを切り裂いた、その瞬間草がバラバラになりながら魔王の体に絡みついたのだ!

 

「なっ!?く、くそ!!」

 

 顔を赤めながら体中をはい回る草、触手の草に困惑する魔王。

 自分はイーリスの名を呼ぶと、魔王の足元からイーリスが飛び出してくる。

 

「うわぁー!怖かったよぉー!」

 

 泣き喚きながらその手には確りと聖なる短剣の欠片が握られている。

 いまなら逃げ切る事も可能だ、すかさずハヤトとイーリスが魔王から背を向けて逃走した。

 

「逃がすか!」

 

 触手を全て千切ったのか憤怒の表情でこちらに攻め入る魔王、

 すかさずハヤトは荷物から何かを取り出して魔王に投げつける。

 

「そんなもの二度も効くと思っているのか!火炎!!」

 

 魔王のエストックから火炎が放たれて何かにぶつかる、その瞬間。

 

「ギャァァーーーーッッ!?」

 

 爆音と爆炎、そして衝撃が二人の背中を押した。

 溜まらずイーリスが叫び声を上げる。そう、ハヤトが投げたのは触手の草ではない、エルザイト爆弾だったのだ。

 爆弾は魔王の火炎で爆発して周囲の建物ごと魔王を吹き飛ばす。

 だが、この程度で結界を持つ魔王を倒せるわけがない、単純に怒らせた事ぐらいだろう。

 

「何があった!?」

「魔物の襲撃か!?」

 

 衛兵がこの事態に気づいたのかこちらに近づいてくる。

 

「ど、どうしよう…!私達も色々してたよね…」

 

 魔王です!全て魔王の仕業です!

 

「何!魔王だと!?」

「おのれ!この街に攻めて来たのか!直ぐに兵を集めるんだ!」

「自然な流れで全部魔王のせいにしちゃったよこの人…」

 

 元はと言えば全て魔王のせいなのだから何も問題はない。

 そう自信満々で語るハヤトだったがある事を思い出す、そう魔王だ。

 

「逃がさん!逃がさんぞぉ!!」

「うわぁぁーーー!?あの怒り様ヤバいよぉーー!!!」

 

 今は逃げるしかない、聖なる武具を手に入れなければならないのだから。

 ハヤトはそう言って魔王から背を向けて走り出す、今戦っても絶対に勝てない事を理解してるからだ。

 涙目のイーリスも聖なる短剣の欠片をしっかりと抱きしめてハヤトに追従する。

 

「くっ!逃がすか勇「魔王!覚悟!!」じゃまだ!炎弾!!」

 

 魔王の放った爆炎が衛兵を消し炭に変えてしまう。

 ハヤトとイーリスはその光景を目の当たりにして確信した、魔王はいまだ本気を出してなかった事を…。

 そして自分達はなぜか魔王を本気にしてしまった事を。

 

「こうなったらこの街ごと…!!」

 

 魔王の両手から膨大な理力が収束し始める、今までで感じた事のないパワーだ。

 ハヤトはイーリスを捕まえて全力でその場から走り抜けようとする、しかしそれは無駄な行いだった。

 

「超火炎!!!」

 

 魔王の放った爆炎は炎の柱と化して街を飲み込んでゆく。

 これがたった一人の人が為せる力だというのか…?

 幸いな事に……本当に幸いなことに雪原地帯で手に入れた氷の結晶のお陰で自分は助かった。

 イーリスは気絶してるようだ、流石にあの衝撃を耐えきる事は出来なかったようだ。

 

「ぜぇ……ぜぇ……………情けない事をしてしまった」

 

 なんか萎えたのか魔王がしょんぼりしている。

 もしかしたら結界も今なら消しているのかも知れない。

 自分は剣に力を籠めると一気に飛び出して魔王の背後に攻撃を仕掛けた!

 

 強打!ギィン!

 

「………言いたい事はあるか?」

 

 ………今気づいたんですけど、女性だったんですね。

 

「炎弾!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 9回目の冒険

 

 魔王は女性だった、まる。

 

「まる。じゃないわよ!!」

 

 コツンとイーリスが金属を俺の頭に投げつける。

 今はレベル1で撃たれ弱いんだから止めてほしい。

 

「女性相手に触手の草ぶつけて、それ利用して爆弾ぶつけて逃げればそれりゃ怒るよ!普通に怒るよ!」

 

 普通に怒って街を廃墟にするって魔王ってやっぱり恐ろしい、

 俺は更なる覚悟を決めて遥か東の地へと歩み始めた。

 

「カッコよく締めようとしないで!もうこの馬鹿!」

 

 そんなこと言ったってあの状況はどうしようもないと思う、

 何せ聖なる短剣の欠片を死守しなければならなかったのだ。

 ある程度の駆け引きは受け入れてほしかった。

 

「忘そうだけどさぁ。その短剣だって私達が死んだらそこでお終いなんだよ?せっかく手に入れたのに……あんな真似して……」

「あの~」

 

 何か見覚えのある兵士が自分達に声をかけてくる、

 この人なんだったかな…声を聞く感じ男性か女性かも良く分からない。

 

「あ、兵士Dさん」

 

 どうやらイーリスは知り合いの様だった。この人は誰なんだ?

 

「うん、カリスマ判定兵士って言って人の魅力を調べてくれる人だよ」

 

 魅力とかステータス見れば基本分かるものじゃないか?

 

「それは私が教えてるんでしょ、普通の人は分からないの!」

 

 遠回しに自分が優秀だと語るイーリス、ハヤトは滑稽だなと微笑した。

 

「私は優秀なサポートの人工妖精なの!滑稽じゃない!」

「ちなみにあなたの魅力は0ですね。とてもついて行く気になりません」

 

 なんと!自分に魅力はないそうだ。

 それなのについてくるイーリスは物好きだと思う。

 

「だーかーらー!お仕事でついて行ってるの!魅力とかどうでもいいの!それに魅力なんて相手の内面を示すような物じゃないんだから気にしないでよ!私はお仕事があるけどハヤトが好きでついて行ってるんだから!」

 

 イーリスはどうやら自分の事が好きの様だ。

 自分もイーリスの事は好きだぞ。

 

「はいはい」

 

 なんか態度が悪い気がする。

 

「好きな人をショートブレイド代わりに振り回す人はいないからねぇー」

 

 あの事、まだ気にしてたのか…。しつこい女だ。

 

「しつこくなくても気にするわよ!」

「あのーよろしいですか?」

「ああ、そうだったね。それでなに?兵士Dさん」

「先ほどこれを落としたみたいなんですけど気づいてないみたいですから」

 

 兵士Dの掌には金属の物体が握られている。

 自分には聖なる短剣の欠片の様に見える。

 

「み、見えるじゃなくてこれ聖なる短剣の欠片だよ!えぇー!なんでー!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 なんでかは分からないが聖なる短剣の欠片が失われなかったのだ。

 それ以外は旅人の服、ショートブレイド、イーリスぐらいしか残っていない。

 

「ちょっと、さりげなく所有物に入れないでくれないかなぁ」

 

 それはともかく、問題は聖なる短剣の欠片だ。

 何故今までほとんどのアイテムを失ったのにこのアイテムだけ残ったのか…。

 聖なる短剣の欠片を触りながらハヤトは考えていた。

 見かけはただの鉄だ。自身の魔力を含んでいるぐらいだろう………自身の魔力?

 そうだ、あの時イーリスを抱えながら魔力を全身に流したんだ。

 イーリスもだが聖なる短剣の欠片にも多くの魔力を含んでいたはずだ。

 これを失いたくない、そんな気持ちも思っていた。

 それに気づいたハヤトは聖なる短剣の欠片を胸に持っていくと魔力を集中させてみる。

 すると光の粒子に聖なる短剣の欠片が変化してハヤトの体内へと吸い込まれた。

 

「え……えぇーーーー!?どうなってるのそれ!?」

 

 相変わらずイーリスが喧しいが、この現象を理解しようとしても良く分からないのが事実だ。

 とりあえず他の物でも出来ないかと、ショートブレイドにも魔力を通して取り込もうとする。

 が、何も反応することなくただ魔力を垂れ流すだけだった。

 

「何も起きないねぇ…、でもホントに不思議、理力とは違う力かぁ…魔力だっけ?」

 

 確か…魔力は生き物なら必ず持つ魂のエネルギーとかクラレットが言っていた気がする。

 空気中にもマナとして多く漂っているって、理力は何というか……超能力みたいな感じか?

 

「超能力?」

 

 その人しか出来ない力みたいな感じだとハヤトは思っている。

 魔力は全ての人が必ず持っている力だからだ、ちなみにイーリスにも確りと魔力は存在している。

 

「じゃあ私もハヤトみたいな事が出来るの!?」

 

 イーリスは喜ぶがハヤトは肉体強化しか魔力を行使できない、

 今回の物質の粒子化もどういう原理で発動するのかは謎のままなのだ。

 それをイーリスに説明すると、路線がズレてた事に気が付いて修正させた。

 

「そういえば仕舞ったんだから出す事は出来ないの?」

 

 そう言われたハヤトは再び意識を集中して聖なる短剣の欠片を思い浮かべると、欠片が現れる。

 次にショートブレイドを先ほどの様に集中するとショートブレイドがハヤトに取り込まれた。

 そして聖なる短剣の欠片を取り込もうとするが今度は取り込めなかった。

 つまり仕舞えるのは一つだけで取り出すのに少し時間が掛かるという事が判明した。

 

「ん~、なんか使えるのか使えないのか分からないね」

 

 そんな事はない、とても重い道具などなら仕舞う事が出来るのはかなり有利になる。

 まあ、事故で失うのが一番怖いから今は聖なる短剣の欠片を仕舞っておくんだけど。

 と、なればやる事は決まった。

 

「うん、一回の冒険であと二つ集めればいいんだよね!」

 

 少なくとも一回の冒険で3つ集めるのに比べればかなり楽になったと言える。

 自身の不思議な能力に本当に感謝しなくては行けなかった。

 

「それじゃぁ、出発進行ー!」

 

 元気よくイーリスが手を空に向けて飛んでゆく、

 それを見て笑顔を浮かべるハヤト、その顔には希望が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 10回目の冒険。

 

 残念な事に前回の冒険では聖なる短剣の欠片を見つける事は出来なかった。

 そのまま一週間、最後に魔王と戦い殺されてしまった。

 ちなみに女性なのか?と聞いた所「そうだが貴様には関係のない事だ」と言って消し炭にされた。

 その後、イーリスに怒られたが真面目には戦った。

 いざ本番の時に魔王の動きを見切れなければ勝てないからだ。

 ちなみに今回の冒険は暗黒旅商人から再び聖なる短剣の欠片を買い取った。

 あと一つと気合を入れるが、残念ながら魔王の襲撃に会い再び敗北、次こそは必ず……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 11回目の冒険。

 

 死ぬ間際に聖なる短剣の欠片を二つ持ちこめないかと行動を起こすが失敗してしまった。

 やはり持ち運べるのは一つが限度の様だ。

 今回は森ばかりで少しがくりとしてしまった。

 イーリスに聞くと歩き続けても1週間は森が続くと言っている。

 恐らくそういう世界なのだろう。

 ちなみに敗因は、突然スケルトンナイトの軍団に襲われて背後を攻撃されて敗北した。

 死んでないのだがイーリスが殺されてしまった所から暫くすると意識が遠のいて死んでいた。

 恐らくイーリスがやられても死んでしまうのだろう。

 次こそは必ず聖なる短剣の欠片を三つ揃えて見せる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 12回目の冒険。

 

 熊だ、熊の軍団に襲われた。

 雪原を歩いていたら突然3匹の熊に襲われた。

 逃げ出して建物に逃げ込むと牛頭の巨人が現れて挟み撃ち、そして死亡。

 熊は本当に嫌いだ、イーリスは凹むし、硬いし強いし本当に嫌いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 13回目の冒険

 

 ボウグゥーボウグゥー!イェヤッハァー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 14回目の冒険。

 

 熊。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 15回目の冒険。

 

 魔王はいてない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 16回目の冒険。

 

 ボウグゥー!。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 17回目の冒険。

 熊。

 18回目の冒険。

 魔王。

 19回目の冒険。

 熊。

 20回目の冒.

 熊

 26回目の。

 ボウグゥー!。

 34回。

 熊。

 40。

 熊。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 50回目の冒険………。

 

「わしもここを離れる、いずれ会うかも知れん、さあ行くのだハヤトよ!………聞いておるか?」

「「こくり」」

 

 ふらふらとハヤトとイーリスは城から出てゆく。

 その姿はどこか浮いているように感じる……実際にイーリスは浮いていたが。

 

「……だめかもしれんな」

 

 そう答えるとヴィクター王が転移してその場から消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ハヤトとイーリスはひたすら道を歩く、途中で野犬が襲ってくるがズバッとハヤトが切り裂いて終わる。

 なんかすごく洗練された動きだったハヤト、それに対してイーリスは何も言わない。

 そのまま歩き続けるとハヤトとイーリスの視界に何か移り込む。

 

「「?」」

 

 きらりと輝く金属の物体、それを目にしたとき二人は走り始めた!

 

「ウキャァァーーーー!!!!」

 

 奇声をあげながらイーリスが走る、飛ぶのではなく走っている。

 そしてビーチスラッグの様にズサー!と二人してそれにダイブする姿は滑稽だが

 

「ウキャ!キャキャキャ!!!」

 

 落ち着けイーリス、バグっているぞ。

 

「………………え?ああ、ごめんね」

 

 自分は一体何をしてたんだろうと少し自傷気味になるが、手元の金属を見て笑みが零れ落ちる。

 そう、その金属とはまさに聖なる短剣の欠片だったのだ!

 

「やったー!今日一日目だよ!?魔王が来るのは一週間だからまだ五日もあるんだよ!これは勝ったね!負ける要素が全然ないよ!」

 

 物凄い勢いでイーリスがフラグを乱立させるが確かにこんなに早く聖なる短剣の欠片が手に入る事はなかった。

 自分はイーリスからそれを受け取ると大事に荷物の中にしまう、少しナユタの実に刺さったが気にしない。

 あとは聖なる短剣の欠片を一つ手に入れるだけだ。

 

「そうそう!あと一個だよ!さあ行こうハヤト!」

 

 ピューっとイーリスが飛んでゆく姿を眺める。

 ふと嫌な予感をしてハヤトは後ろに振り向いた。

 

「ふごぉぉぉぉーーー!!!」

「ギャー!熊だー!」

 

 そのまま逃げてゆくイーリス、自分も全力で走り始めた。

 ここで死ぬわけには行かない!またあの何度も死ぬ輪廻が待っていると考えると恐怖でやばい。

 ハヤトは走る、やがてハヤトはまるで時を止めているが如く超スピードに至る。

 そして気が付くとイーリスを遥か彼方へと置いていった。

 

「おいてかないでよぉー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ハヤトとイーリスが熊から逃げ出して早五日、二人は大洞窟内に居た。

 ハヤトは大洞窟は初めてなのでイーリスに説明を求める。

 

「ジメジメしてて私はこういう所嫌だなぁ…。あ、大洞窟の説明だよね。スケルトン系が結構出るね。あとやっぱり暗いから視界が悪いかな。一応つるはしとかあれば地面とか掘れるけど…あれって全然攻撃が当たらないんだよねぇ、持ってる?」

 

 ハヤトは先程拾ったつるはしを取り出す。

 確かに思いが大洞窟内では役立ちそうだった。

 

「うん、それじゃ行こう!あ、あと洞窟内じゃ地図は役に立たないから気を付けてね?って雪原とか森の中でもあんまり地図が役立つ訳じゃないけどねぇ…」

 

 ゲームとかじゃないんだから自動マッピングなんてある訳がないからな。

 

「だよねー、とりあえずしらみつぶしに探そう、もうすぐ魔王が来るからね」

 

 そう、魔王が来るまであと二日、徹底的に聖なる短剣の欠片を探しつくさねばならなかった。

 ハヤトとイーリスは暗い大洞窟内へと足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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 お腹がすいた…。

 ギュルググゥィイイイグボボボとイーリスの腹から音が鳴り響く。

 喋る以外にも喧しいとハヤトは思った。

 

「いやいや!私お腹鳴って無いから!捏造しないでね!」

 

 やはりバレるか、とりあえず最後のナユタの実を食べ……黒ずんでる。

 ハヤトは覚悟を決めてナユタの実にむしゃぶりついた。

 口の中一杯に広がる甘味、体中が蕩けそうになる。そして……。

 

「あぁ~あ、食中毒になっちゃった」

 

 お腹が痛く激痛でまともに歩けない、だが食べなければ死んでしまう。

 自分の行いに後悔しつつハヤトは歩み始めた。

 途中で現れるスケルトンに八つ当たりの強打を噛ましつつハヤトは歩んでゆく。

 やがて腹の具合が良くなるが再び空腹で元気がなくなってきた。

 

「ハヤト…大丈夫?(もぐもぐ」

 

 横目で見るとイーリスが草を食べてる、スノークリスタル草のきれっぱしだ。

 こいつ体小さいから食べる容量も小さくていいらしいのだが、食堂では結構食べてたりする。

 そこらへんどうなのか問い詰めてみた。

 

「お、女の子に食べ物の聞くのは良くないよ!」

 

 女の子……?イーリスは女の子だったのか。

 性別イーリスとかだと思っていたがやっぱり女の子だったのか。

 

「な!?どっからどう見ても女の子でしょ!?」

 

 世界でたった一人の人工妖精、性別は現状存在しないのでは?

 

「うぇ!?それはそうだけど…心は女の子だって思ってるし…」

 

 心は乙女って事か、よくわかった。

 

「なんかわかってる気がしないんだけど…とにかく女神像が見えたから食べ物願おう!」

 

 ハヤトとイーリスの視界に女神像の姿が確認できた。

 女神像に願えばレベルと引き換えに大抵の願いを叶えてくれる。

 ハヤトは食べ物を願おうと女神像に近づくと女神像に異変が起きた。

 突然膨れ上がると巨大なゴーレムへと姿を変えたのだ!

 

「わぁわぁあぁー!?ゴーレム!?」

 

 ハヤトはロングブレイドを構えてゴーレムへと斬りかかる。

 

 強打!

 

 バギィンと衝撃が走るがゴーレムはいまだ無事だった。

 一歩後ろに下がったハヤトが構えるとロングブレイドは根元から折れていた。

 

「折れてるよ!どうするのー!?」

 

 喚き散らすイーリス、だがそんな事に気を配る余裕はない。

 ゴーレムは周りの岩を削りながらハヤトへと手を伸ばす、

 よく考える、そして考えた結果ハヤトはつるはしを持ち出した。

 つるはしを大きく振りかぶり、ハヤトはゴーレムの胸にそれをたたき込んだ。

 つるはしの一撃がゴーレムの核を砕き土くれに変えてゆく。ハヤトの勝利だ!

 

「あーびっくりした」

 

 ほっと一息つくハヤトとイーリス、イーリスは完全に驚いてただけだったがハヤトは気にしない。

 戦う力を持たないイーリスにそこまで求めたら酷だからと思った。

 お腹が減り倦怠感がハヤトを襲う中イーリスはゴーレムへと近づいてアイテムがないか探った。

 

「あ!宝石とか色々あるね。あとは………ふえっ!?」

 

 イーリスが変な声を出すのに気が付きハヤトがそちらに視線を移す。

 

「ハヤトー!これこれ!聖なる短剣の欠片だよ!最後の一つ、ついに見つけたね!」

 

 ぶんぶんと欠片をもって振り回すイーリス、その喜びを身をもって表現していた。

 ハヤトはそんなイーリスを見て何だか和んでいた、だが忘れてはいないか?

 そう、ここはダンジョン。一寸先は闇という世界なのだという事を……。

 

「ふごぉぉぉーーー!!!」

「え?」

 

 メキと何かがひしゃげる音が響き、イーリスが自分のすぐ傍の壁に叩きつけられる。

「イーリス!!」ハヤトは叫んだ。イーリスをすぐに気遣うがイーリスの右手が折れていた。

 恐らく先程の攻撃をまともに受けてしまったのだ。

 ハヤトはイーリスを攻撃したであろう敵の方に視線を向ける。

 

「ふごぉっ…!!」

 

 牛頭の重装兵士!?

 ハヤトは見上げるほどの巨大な敵がそこにいた。

 その手に握られたグランドブレイドが彼の強さの証だろう。

 倒されたゴーレムに気づいたのか警戒してジリジリとハヤトに近づいていた。

 

「……ト、これ……」

 

 意識を朦朧としていたイーリスがハヤトに向けて聖なる短剣の欠片を渡そうとする。

 ハヤトはそんな事より自分の心配をしろとイーリスに怒るがイーリスは笑顔を向ける。

 

「ハヤトなら……勝てるよ……」

「ふごぉぉぉぉぉーーーっっ!!!」

 

 敵は待ってはくれない、痺れを切らした牛頭の重装兵士が突っ込んでくる。

 ハヤトはイーリスの聖なる短剣の欠片を受け取ると牛頭の重装兵士に向けて突っ込んだ。

 聖なる短剣の欠片を握りしめたハヤト、聖なる短剣の欠片は光り輝きハヤトの手にはショートブレイドが握られている。

 これこそ魔王を討つ聖武具の一角、聖なる短剣だった。

 光の軌跡を描き、閃光が牛頭の重装兵士の腕を沿った、まるで紙を切るような感覚だった。

 しかしその効果は絶大だった。グランドブレイドを握りしめた腕が吹き飛んでいったのだ。

 

「ふごぉぉぉーーー?!」

 

 ハヤトの脳裏に傷ついたイーリスの姿が過る。

 その怒りを剣に込めてハヤトは牛頭の重装兵士の胴へと聖なる短剣振るった。

 光の軌跡を描いた剣、その輝きがやむと牛頭の重装兵士の胴は真っ二つに両断され絶命する。

 ハヤトはあまりの威力に驚いた。これが聖武具、伝説の武器なのかと。

 

「ハヤトは……強いね……」

 

 まさしく勇者が起こした奇跡を目の当たりにしたイーリス。

 それを見届けた瞬間、イーリスの意識は急に途切れたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「んぅ……うん……?」

 

 次にイーリスが目を覚ましたのは屋内だった。

 窓から外を見ると暗くなっていた恐らく夜だろうと思う。

 何時もの様に動こうとするイーリスだったが、痛みが右手に走る。

 自分の右手を見るとナユタの実のヘタで固定し癒しのアンプルで湿らせた布でグルグル巻きにあった。

 自身の傷は乱暴だが他人の傷は気にするハヤトの性格の表れにイーリスがくすりと笑う。

 

「あ……」

 

 イーリスは壁に立てかけたグランドブレイドを見て自分のあの光景は夢ではない事を悟る。

 自分達は生き残り聖なる短剣を手に入れる事が出来たのだと。

 そう思った直後、部屋の扉が開くとご飯を持ったハヤトが入ってきた。

 

「ハヤト、おはよう!」

 

 元気な様子のイーリスを見てハヤトはほっと一息ついた。

 痛みはないかとハヤトが心配そうに聞くとイーリスは笑顔で答える。

 

「ちょっと痛いけど平気平気!羽は無事だから空を飛ぶ事も出来るからね!」

 

 イーリスが飛び立とうとするがハヤトが片手でそれを制した。

 病み上がりなんだから無理をするなとイーリスに伝えるとイーリスは頷いた。

 イーリスはほぼ一日寝ており、街に着いた時はもう朝だったそうだ。

 その後街で準備をしつつ、イーリスが元気になるのを待っていた。

 時間的には明日魔王が来るかもしれないとハヤトは予想している。

 聖なる短剣も手に入れた、武器や防具もほぼ準備できている。

 それを聞いたイーリスはホッと一息ついた、流石に50回も冒険を繰り返せばイーリスが居なくてもハヤトは大抵のことを行えるようになっていた。

 

「…………」

 

 ふとイーリスは思う事があった。自分は役に立っているのか?

 最初の頃は役立ってたかもしれない、だけど何度も繰り返して気が付くとハヤトは独り立ちしていた。

 ある程度繰り返してからイーリスも前世の夢を見なくなってしまった。

 自分がハヤトに協力する意味はあるのか?役に立っているのかイーリスは考えてしまう。

 

「ねえ……私って役に立っているのかな?」

 

 自分は足手まといだ。

 ハヤトと誓約を交わしてるデメリットでどっちかが死ぬと転生してしまう。

 戦う力もほぼ持たず敵の攻撃に直撃でもすれば散ってしまう安い命。

 今回は運がよかっただけだった。

 もし牛頭の重装兵士が初撃で殺しに掛かっていれば聖なる短剣も完成せずに二人は死んでいた。

 自分が油断したから、自分があまりに弱いから、そんな自責の念がイーリスを蝕んでいた。

 

「私ってホントに弱いから…何の役にも立たなくて足引っ張って、それで……」

 

 イーリスの目から大粒の涙が落ちる、恐怖ではない罪悪感でイーリスの胸が一杯だった。

 持ち前の明るい性格のおかげでひた隠しにしていたものが死にかけて生き延びたおかげ出てしまう。

 

「ハヤトはもう一人前の勇者だよ。魔王との戦いで足手まといになるぐらいなら私との誓約を―――!?」

 

 ハヤトはイーリスをギュッと抱きしめた。

 その小さな体を傷つけないように優しく抱きしめた。

 今までそんなことされた事のないイーリスは目を大きくして驚いた。

 

 ―――生きていてくれてありがとう。

 

 ハヤトがそう答えるとイーリスは片手でハヤトを抱きしめる。

 ハヤトは語る、一人だったらきっとどこかで折れていたかも知れない。

 イーリスが居てくれたからここまでこれた、イーリスの騒がしさは自分を人間であり続けさせてくれた。

 ただ魔王を、敵を倒す機械にさせないでくれたのだ。

 だから言わせてくれ、自分と一緒に居てくれて、ありがとうイーリス。

 

「ハヤト……私…!私…!」

 

 自分を望んでくれた。自分は足手まといじゃないと証明してくれた。

 繰り返す度に全てが初対面だったらきっとハヤトは折れていただろう。

 だがそんな彼にはイーリスが居てくれた。騒がしく喧しい相棒がいてくれたのだ。

 天涯孤独で、その上異世界の記憶を持ってしまったハヤトをイーリスは支えてくれた。

 それこそハヤトにとって戦う以上に最も大切なモノだったのだ。

 だからイーリスをハヤトは決して手放そうとは思わなかった。

 例えイーリスのせいで全てが最初からになろうときっとハヤトは笑って許すだろう。

 なぜならハヤトにとってイーリスはまさに生死を共にする相棒なのだから……。

 

「う……ぐぅ……うぅぅ~~~!!」

 

 必死に堪えようと涙を我慢するがイーリスは全く抑えられなかった。

 ハヤトはそんなイーリスに微笑み答えた。

 

 ―――これからもよろしく頼むイーリス。

 

「うん…!うん…!」

 

 今この日、恐らく二人は本当の相棒になったのだろう。

 夜は更けてゆく、明日は魔王との決戦になるだろう。

 例え次があるとしても、ハヤトとイーリスは必ず勝利しようと心に誓いあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ------------------------------

 

 草原に沢山の人々が集まっている。

 ハヤトにとって何人か見知った顔が居た、

 だがそれはハヤトにとってだ彼らにとってハヤトは初対面だろう。

 ここにいる全員が魔王を討つ為に集まった勇士たちだ。

 魔王という超常の存在には恐らく対抗できない、だがそれでも戦おうと思った戦士だった。

 

「そろそろだね…」

 

 右手に添え木をしてるイーリスがハヤトの肩に止まり答えた。

 周りの何人かは心配してたがイーリスはハヤトの相棒なのだ、逃げるわけには行かなかった。

 やがてハヤトが何かに気づき空を見上げると空から黒衣の人影が降り立つ、

 薄い金髪に深紅の瞳、長く伸びた耳、そしてその敵意まさしく魔王だ。

 

「随分と数を揃えたようだが所詮は烏合の衆にすぎん」

 

 そう答える魔王にハヤトは剣を抜く、ハヤトが身に纏うのはギガントプレート、

 そしてその手にはヘヴィシールドに牛頭の重装兵士が握っていたグランドブレイド。

 僅か一週間で手に入れた今までで一番の武装だ。そしてハヤトは決して油断しない。

 

 ベルセルク!

 

 全身の気力と魔力を滾らせて常人を超えた力を解き放つ!

 ハヤトは駆け出す、魔王に向けてその一撃を繰り出した!

 魔王もただ受け身ではなかった、腰からエストックを抜き放ちハヤトの攻撃をいなす。

 

「火炎!」

 

 空いた片手で魔王が火炎を放ってくる。

 炎弾と違い威力はないがほぼノーモーションで放ってくるあたり規格外だった。

 ハヤトはヘヴィシールドで火炎を防ぐとそのまま魔王に向けて盾を突き出す。

 しかし魔王にぶつかる直前見えない障壁に阻まれて弾かれてしまった。

 

「無駄だ!この結界がある限り、貴様らの攻撃は効かん!」

 

 周りの戦士たちはその光景を見てハヤトが事前に説明した事が事実だと理解する。

 魔王にはあらゆる攻撃を阻む結界がある、自分達がそれを破るからその瞬間を狙えと。

 後方に下がるハヤト、魔王はそんなハヤトに向けて理力を高め始めた。

 何度も戦ったからこそ理解できる、アレは魔王が最も得意とする理力だ。

 

「炎弾!!」

 

 放たれた爆炎を前にハヤトはヘヴィシールドを投げ飛ばす。

 ぶつかり合う鉄と炎の塊、ハヤトは腰を深くして魔王の足元から斬撃を放つ!

 

「無駄な事を―――」

「今だよ!!!」

 

 何時の間にか離れていたイーリスは戦士たちに指示を出す。

 何故このタイミングでと魔王は思考するがすぐにその原因を理解した。

 ハヤトの左手に握られた光り輝く短剣、そこから放たれる光は魔王の結界を紙の様に斬り裂いたのだ!

 

「なっ!?」

 

 今まで感じなかった痛みが魔王に走る。

 僅かに反応が早かったためか魔王に致命の一撃は与えられなかったが傷は負わせた。

 その瞬間、魔王に向けて武器の山が殺到したのだ!

 大きな石、ショートブレイド、投げナイフ、呪われた骨。

 他にも多くの武器が一斉に魔王に殺到する!

 

「くっ!!」

 

 魔王はコートに理力を流し込んで脱ぎ放つと攻撃全てを弾き飛ばした。

 ハヤトは目を開く、この不意打ちに対応できるとは思わなかった。結界だよりではなかったのか。

 魔王の体は女性らしい体つきをしてはいたがそこに意識を向けることはハヤトにはなかった。

 魔王は自身の腕を見る、バッサリと切り裂かれた切り口から鮮血が滴っていた。

 

「聖武具か」

 

 ハヤトの手に視線を移す魔王、その手に握られた聖なる短剣に最大の警戒を向けた。

 

「手加減はしない、全力で行かせてもらうぞ!!」

 

 魔王の理力が開放される、背後に迫る闇の力が魔王に注がれて魔王の力ははるかに増す。

 以前街一つ滅ぼした時と同じだ。あの力がハヤト一個人に向けられていた。

 

「大丈夫だよ」

 

 ハヤトの肩に降りたイーリスが答える。

 

「ハヤトなら勝てるよ!」

 

 イーリスは疑わなかった、ハヤトなら勝てる、そう信じていた。

 同じ土俵に持ち込んだんだ、ならばハヤトならきっと勝てる。

 こくりと頷くハヤト、ハヤトはイーリスと共に魔王に向かい合う。

 

「行くぞ!勇者よ!!」

 

 魔王は宙を舞い、ハヤトに向けて突貫してきた。

 ハヤトはグランドブレイドを握りしめてそれに向かって立ち向かう。

 勇者と魔王の戦いは佳境を迎えようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ------------------------------

 

 結果を見ればハヤトは全く魔王に対抗出来ていなかった。

 魔王が有利に立つ理由、それは浮遊だ。

 宙を自在に飛び回る魔王にハヤト達は全く対抗できなかったのだ。

 また一人、一人と戦士たちが倒れてゆく、そんな中ハヤトだけは魔王に決して引くことはなかった。

 

「後ろからくるよ!」

「炎弾!」

 

 イーリスの声に反応してハヤトが横に跳び炎弾の直撃を避ける。

 イーリスはハヤトの目となっていた。魔王の動きを決して見逃さずハヤトに伝えたのだ。

 

「もうすぐ降りるよ、走って!」

 

 強打!

 

「くっ!?」

 

 浮遊の効果が切れ、地面に降り立とうとする魔王にハヤトは強打を繰り出す。

 かろうじてエストックで防ぐが、魔王は弾き飛ばされてゆく。

 だがそのまま再び浮遊を発動させて魔王が天高く上昇してゆく。

 ハヤトはこのままではマズいと理解する、ベルセルクには時間制限がある。

 魔力を用いて発動させたベルセルクは本来よりはるかに長く続くがそれでも限界は存在する。

 イーリスはその事に気づいていたがそれでもこの状況を打破する作戦を思いつかなかった。

 

「どうしよう、ハヤトも飛べればいいんだけど…」

 

 以前、噂に聞いた浮遊の薬があればいいんだろうがあの薬は見たことがなかった。

 何より慣れない空中戦、もしうかつに飛び出せばそのまま嬲り殺しにされるのは目に見えるだろう。

 作戦は地上に降り立った瞬間を狙うしかない、だがそれを一番警戒してるのは魔王だろう。

 ハヤトはどうにかしてそれを為さなければいけなかった。

 

「勇者殿!ここは我々に!」

「私達が隙を作ります!あとはお願いします!」

 

 引退した傭兵と勇敢な兵士が魔王に向けて駆けだす。

 ハヤトはそれを止めようとするが、イーリスがそれを制した。

 

「駄目だよハヤト!このままじゃ絶対に負ける、あの人たちを信じて!」

 

 ギリッ!と歯を噛みしめるハヤト、しかし作り出される僅かな隙を決して見逃すわけには行かない。

 やがて魔王が降り立つとき、二人の戦士は魔王に向けて攻撃を仕掛けた。

 

「「魔王覚悟!!」」

「ふん!雑魚の分際で調子に乗るな!」

 

 魔王は引退した傭兵の心臓をエストックで貫く!

 カハッ!と血を吐く傭兵だったがそのまま魔王に組み付いた!

 

「ッ!?」

「最後が魔王とは言え女の胸の中とはな生き恥を晒してよかったものよ。……私ごとやれぇぇ!!!」

「うおおぉぉぉぉーーーッッ!!!」

 

 兵士が投げた火炎アンプルが傭兵の体にぶつかる、

 その瞬間、衝撃と共に爆音が響いた。エルザイト爆弾だ。傭兵はエルザイト爆弾を抱え込んでいたのだ。

 近くに居た兵士は爆発の衝撃で吹き飛ばされる、だが一番の重傷は魔王だった。

 理力で防御したにもかかわらず全身に火傷が走っており明らかに重傷だったのだ。

 

「ぐ、迂闊だった…!?」

 

 傷を負い目を僅かに閉じていた魔王の目の前にはハヤトがいた。

 ハヤトは剣を振るう、グランドブレイドの一撃が魔王に向けて放たれた!

 

 強打!

 

「が、があああぁぁーーーっ!?」

 

 躱された、魔王の中心を狙ったが僅かに体勢をずらしハヤトの剣は右腕に突き刺さったのだ。

 だが明らかに重傷、だらりと右腕が下がりエストックが地面に落ちる。

 魔王は武器を失った、いまなら勝てるハヤトは確信した。

 だが…。

 

「なめるなぁぁーーーッッ!!!」

 

 魔王の左手に炎が宿る、アレは炎弾の前触れ、今この場で避ける事は出来なかった。

 そしてハヤトは自身の肩に乗っているイーリスを思い出す、このままではイーリスはやられてしまう。

 

「ハヤトっ!?」

 

 ハヤトはイーリスを庇い爆炎をその身に受けた。

 幸いギガントプレートは炎に耐性がある為、ある程度は耐え抜けたがそれでも重傷だった。

 地面に倒れ伏したハヤト、それを肩から息をしながら魔王が見下ろしていた。

 

「ここまで……追い詰めるとはな……だが……」

 

 魔王の手に再び炎が宿る、周りの戦士たちは魔王の威圧に震えて動けなかった。

 ハヤトは立ち上がろうとするが、体に力が入らない。

 

「これで終わりだ!」

「やらせない!!絶対に!!」

 

 イーリスが魔王に向けて突っ込んだ。

 何も考えはなかった、ただハヤトに生きてほしいそれだけを想っていた。

 突然の行動に魔王は驚きイーリスの体当たりを受けてしまう。

 だが何の力を持たないイーリスは魔王を怯ませる事しか出来なかった。

 

「邪魔だ!」

「ギャァッ!?」

 

 悲鳴を上げてイーリスが弾き飛ばされる姿が見える、魔王はイーリスの方を見た。

 まさかその炎をイーリスに向けて放つのか?俺じゃなくイーリスを…相棒を狙うのか?

 

「貴様から殺してやろう!炎弾!!」

 

 放たれた爆炎がイーリスに向けて突き進む、

 イーリスはこのまま自分が死んだら何も意味がないと悔しがった。

 だがだがハヤトは全く別の事を考えていた。

 イーリスに死んでほしくないと…生きていてほしいと…。

 そしてその時、ハヤトの中の新堂勇人の魂の欠片がハヤトの心を押した。

 友達を死なせるな!仲間を死なせるな!大切な人を死なせるな!そして……。

 

 ―――俺の家族を死なせてたまるかぁぁぁーーーッッ!!!

 

 その瞬間、ハヤトの意識が加速する。

 周りの光景がまるで時が止まったようにハヤトは感じた。

 痛みがなくなった、疲労が消えた、ハヤトは駆け出した。

 そのまま炎に巻かれる寸前だったイーリスを救い出しハヤトは距離を取った。

 

「な…に…?」

 

 魔王はハヤトの動きを全く見切れなかった。

 ハヤトはイーリスをゆっくりと地面に寝かす、イーリスも何が起こったか理解できなかった。

 ハヤトは左半身が既に焼けており、まともに動くことが出来ないはずだ。

 だが目の前の男は間違いなく自分の脅威となると理解した魔王は闇の力で無理矢理右手を治すとエストックを構えた。

 

「来い!」

 

 そう言い放った瞬間、ハヤトの姿が消えた。

 

「なっ…ぐっ!?」

 

 肩が斬り裂かれる、腕が斬り裂かれる、足が斬り裂かれる、全身がハヤトの刃に斬り裂かれた。

 

「ぐああああぁぁぁーーーッッ!?」

 

 魔王は叫ぶしかなかった、それほどハヤトの動きは早かったのだ。

 この技に名前を付けるなら覚醒としか言えない、まさに常人を超えた強さだった。

 魔王はただ耐え抜くしかなかった、一撃一撃がハヤトが重傷な為、軽いがそれでも剣による一撃だ。

 それは間違いなく魔王の命を削ってはいたが同時に……。

 

「このままじゃ…」

 

 イーリスは誓約、ハヤトとの繋がりからハヤトの命が持たない事を理解した。

 あの技は命を削る、恐らくもうすぐ覚醒は止まりハヤトは倒れてしまう。

 自分が動かないと…自分が助けないと…、そう思ったイーリスは行動を起こした。

 視界にある地面に突き刺さる剣を見て想う、覚悟を決めろイーリスと、自分の大切な相棒の為にと!

 

「火炎!火炎!」

 

 我武者羅に魔王が炎を放ちハヤトを止めようとするが今のハヤトにそれは当たらない。

 魔王は覚悟を決める、もし今あれを放てば命はなくなるかもしれない、だが死ぬ気でやってやると。

 そう、死ぬ覚悟で戦わなければ意味がないのだ!と。

 魔王は全身から理力を解き放ちそれを両手に集中させる、それこそかつて街一つ消した技だった。

 それを見たハヤトが魔王を止めようとするが、その時ハヤトに限界が訪れた。

 全身の激痛と共に体が動かなくなる、覚醒が止まりベルセルクが切れた。

 おびただしい血を吐き出しながらハヤトは魔王を睨む。

 

「限界の様だな……ここまで追い詰められるとは思わなかったぞ…!だがこれで終わりだ!!」

 

 膨大な理力がハヤトに向けられる瞬間、イーリスが飛び出す。

 ボタボタと血を流しながらイーリスが握っているのは自身の右手、

 それを魔王に向けてイーリスは投げつけた!

 

「食らえ!魔王ぉぉーーー!!」

 

 完全な不意打ち、そして理解できない行動、腕一本投げつけて何になる?

 魔王はそう考えた、だがハヤトは違う、ハヤトは理解した。

 余程の覚悟を用いて腕を斬り捨ててイーリスが何をしようとしたのかを、

 それがどういう事に繋がるか、イーリスの事を知っていたハヤトだからこそ気づいた事だった。

 べちゃりと魔王の顔に当たるイーリスの斬り刻まれた右手、その瞬間。

 

「うぐっ!?ああああぁぁーーーッッ!?」

 

 激痛が魔王の顔に走る、そうイーリスの体液は魔物にとって猛毒なのだ。

 人間でもある程度痺れるぐらいだ、汗でも痛みが走るほどだ、

 それが血液ならどれ程の痛みが魔王を襲ったか理解できるだろう。

 そしてハヤトはその隙を絶対に逃さない、ハヤトは左手に握られた聖なる短剣を投擲した!

 聖なる短剣はハヤトが投げた瞬間、五つに別れ魔王に向けて流星が如く突き進んだ。

 

「が!?あぁっ!?」

 

 顔をやられ、痛みに悶える魔王はそれを避ける事は出来なかった。

 五つの流星が魔王を貫いて光の中に消えてゆく、ついに魔王を倒せた!そう周りが思う中ハヤトは既に行動していた。

 ヒビの入ったグランドブレイドを握りしめてハヤトが魔王に向けて走る、

 魔王はまだ生きている、これが最後のチャンスだとハヤトは理解していた。

 

「!!」

 

 魔王の手が上がってゆく、それがハヤトに向けられた瞬間、イーリスが魔王の腕に体当たりした。

 力がほとんど籠っていない腕が下に下がりその手から爆炎が放たれ地面を焼く、

 もしイーリスが止めていなければ魔王の炎はハヤトを焼き尽くしていただろう。

 

 ―――うおぉぉぉぉぉーーーッッ!!

 

 ハヤトは叫ぶ、その一撃を魔王に叩き込む為に叫んだ。

 そしてついにハヤトの刃が魔王の胸を穿つ、魔王の胸に収まる宝石を砕き鮮血で染め上げた。

 魔王に体を押し付けたハヤトは魔王の顔を見ると魔王は笑っていた。

 

「わたしの……かち……だ……!」

 

 魔王のもう一つの手に宿った炎弾がハヤトに向けられる。

 ハヤトは覚悟した、もうダメか!と、だが何時まで待とうと最後の一撃は来なかったのだ。

 再びハヤトが魔王の顔を確かめると魔王は事切れていた……。

 

「勝ったの…?」

 

 千切れた右腕の傷口を気にかけながらイーリスは問う。

 ハヤトは握られたグランドブレイドを手放すと魔王は仰向けに倒れた。

 その衝撃で剣が抜け落ちると、魔王を中心に血が流れて魔王は血塗れに染まってゆく。

 その光景を見て誰もが確信した、魔王は倒されたのだと。

 

「やった!やったぞ!勇者様が魔王を倒したぞぉぉぉーー!!」

「見ろ闇が止まっている!やはり魔王を倒せば闇が止まるのは本当だったんだ!」

「ばんざーい!ばんざーい!」

 

 大きな歓声が沸き起こる、喜ぶ者、泣く者、怒る者、悲しむ者など様々だ。

 ハヤトは視線を闇へと向けると動きがそこで止まっていたのだ。

 もう、世界が食われる事はなくなったのだとハヤトは確信した。

 ハヤトは耐え切れずにその場で崩れ落ちた、傷つき何日も歩き続けた体は限界を迎えたのだ。

 イーリスも同じようにハヤトの胸に落ちて来た。

 その腕は周りの誰かが治療してくれたのか癒しのアンプルを含んだ布で抑えられていた。

 

「ねえ、ハヤト……私役に立ったかな?」

 

 イーリスは嬉しさと疲れが混ざったような顔で聞いてくる、それをハヤトは笑顔を浮かべて答えた。

 

「当然だろ?ありがとな、相棒」

「えへへ…お疲れ様、相棒」

 

 傷つき倒れた二人は安心して眠りについた。

 目が覚めたら新しい冒険が待っている、魔王を倒す旅ではなく、

 次の冒険はきっと楽しいモノに変わると二人は信じていた。

 だからどうかその時まで、二人にはしばしの休息を―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ハヤトとイーリスはその後、新しい冒険に出ていた。

 闇の影響か、いまだに凶暴な魔物が跋扈していたが二人にはもう敵ではなかった。・

 無論戦っているのはハヤトなのだが、イーリスもハヤトの手助けをしていた。

 

「ねえハヤト、そろそろ聞いてた場所だよ?」

 

 こくりとハヤトがうなずく、ハヤトの背には大きな棺桶があった。

 

「でも本当に意外だね。魔王の為に墓を探すなんてさ」

 

 そう、棺桶の中身はなんと魔王なのだ。

 あの後、ハヤトは魔王を誰も届かないところに魔王を埋葬すると人々を言い説き伏せたのだ。

 魔王との戦いに最も貢献した勇者に誰も言えなかった。

 

「そういえば、あれだけ殺し合ったのにどうして埋葬するなんて言ったの?その場で燃やしちゃえばよかったのに…」

 

 イーリスの言葉は確かに理解できる。

 魔王とは何度も殺し合った、だがだからこそ理解できた事があったのだ。

 魔王はいい奴じゃないかと?

 

「えぇ!?」

 

 魔王と何度も戦っているが、魔王は本気で戦ってはいたがどこか罪悪感のようなものを感じた。

 ずっとそれが気になっていたのだが、それが確信したのは魔王の最後の言葉だった。

 

 ―――わたしの……かち……だ……!

 

 あの時、魔王は自分は勝ったと言った。

 あの絶望的な状況で魔王は勝ちと言い放ったのだ。

 ハヤトは思った、もしかして魔王は闇を止める為に死ななければいけなかったのではないかと。

 

「えぇぇーーー!?だって闇を呼び出したの魔王だよ!?なんでその魔王が闇を止めるの!?」

 

 残った左手をぶんぶん振り回してイーリスが叫ぶ、ハヤトはそれには自分なりの考えがあると答えた。

 前にある召喚獣の暴走を止める為にその人物を殺すか召喚獣を倒すしかない状況があったのだ。

 つまり魔王はそれと同じで自分で自分を殺すしかなかったのではないかと。

 

「だったら自殺とかしてくれればいいんじゃないの?」

 

 それは違う、リィンバウムだとはぐれ召喚獣という存在がいるのだ。

 召喚師が死んでしまうと召喚獣が元の世界に還れずに暴走してしまうのだ。

 もし闇が魔王が呼び出した召喚獣ならば、魔王は誰かに止めて貰わなければいけなかったのではないかと?

 

「……よくそこまで思いつくね、私全然わからないんだけど」

 

 これはあくまで自分の予測だ、魔王と何度も殺し合いをしたからなんか理解できるような気がするだけだ。

 それにもうこの考えは意味がないと自分では思っている、なぜなら闇も魔王ももういないのだから。

 

「そうだね……魔王はもういないんだよね……」

 

 魔王の入った棺桶を見ていたイーリスは理解する、

 自分達があれだけ倒そうと思った魔王はもういないのだと。

 何となくぽっかりとイーリスの胸に穴が開いた気がしていた。

 そんな事を考えているとハヤトとイーリスは目的の場所に辿り着いた。

 

「わぁ…!」

 

 そこは一面に広がる花畑だった。

 見上げるほどの高い山々、その中腹に位置する知る人が知る秘境、ハヤトとイーリスはそこにいた。

 普通ではたどり着けないであろうその場所には単純に浮遊の薬を用いて来ただけだった。

 帰りはとぶクスリを用いれば問題はない。

 魔王は世界から狙われていた。なら眠りにつくならば誰も知られずにさせてほしいのではないかとハヤトは思う。

 

「そうだね。ハヤトの言ってることが正しいなら魔王だってゆっくりしたいもんね」

 

 イーリスもそれには同意と言ってくれた。

 ハヤトは花が咲いていない箇所の地面を掘るとその中に棺桶を置いて再び埋める。

 そして周りから花を集めてその場所を隠した。時間がたてば誰にも気づかれる事はないだろう。

 ハヤトは両手を合わせて、イーリスは片手だけなのでお辞儀をしてその場で祈った。

 どうか安らかにお眠りくださいと…。

 そして二人は顔を合わせると、イーリスがハヤトの肩に乗りハヤトはとぶクスリを服用して空の彼方へと飛んで行った。

 

「………」

 

 誰も居なくなったはずの花畑が生い茂る秘境、そこに金髪の青年が一人立っていた。

 魔王が眠っている場所をその青年はジッと見ている。その目はまるで家族を見る目だった。

 

「ご苦労だったな。次は私に任せてくれ、その後は……存分に語り合おう」

 

 そう答える青年、彼の気持ちは恐らくこの星で誰も理解出来ないものなのだろう。

 今ここで眠る、魔王以外には………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ハヤトとイーリスはすぐに冒険には出なかった。

 疲れた心を、傷ついた体を癒す為に落ち着ける場所を探したのだ。

 そして南の方にある美食の街で安い家を借り、その街の事を知りながら、穏やかな時間を過ごしていた。

 50回にも数えられる冒険の日々、とにかく今は休みたかった。

 

「これ美味しいねぇー」

 

 最初は片手で不器用に生活していたイーリスだがひと月過ぎたころには既に手慣れたものだ。

 魔力操作も大体理解したのかデカいフォークでご飯を食べる姿はある意味驚きだ。最近は料理すら覚えた。

 ハヤトは左半身の火傷が酷く、気遣いながらの生活だったがそれでも時と共に感じさせることはなくなった。

 

「今日お祭りがあるんだって!楽しみだね!」

 

 ある日、街で祭りが開かれた。

 それは世界が救われたことを祝う祭りだった。

 それを知ったイーリスは、笑いながら。

 

「私達が世界を救ったって言ったらどうなるんだろうね?」

 

 と、言っていたが街の人は俺達の事を誰一人として知らない。

 仮に話そうときっと冗談にしか聞こえないだろう。だけど自分はそれでいいと思う。

 英雄なんて勇者なんて自分とイーリスには平時では必要の無いモノなのだから…。

 だから自分達は一人の人としてその祭りに参加した。

 誰もが笑顔で誰もが楽しんでいる、その光景を見るとあの地獄のような戦いにも意味があったと嬉しく思えた。

 すると主催の男が人々を前に、何やら声高に叫んでいるところだった。

 

「世界を飲み込み続けていた闇は止まり、この街は救われました!今この街が、そしてこの世界があるのも、世界を救った勇者のおかげなのです!これまで耐えた立派な市民たちよ!どうか彼らの栄光をたたえてください!きっと彼らの耳にも届くはずです!さあ!今もどこかにいるであろう、世界を救った偉大なる勇者に大きな拍手を!!」

 

 聴衆から大きな拍手が上がる。

 自分達の戦いは無駄ではなかった、少なくとも多くの人を救えた。

 

「なんか嬉しいね」

 

 イーリスが恥ずかしがりながらも嬉しそうに笑っていた。

 俺も同じように笑う、悪い気はしないなと言うとイーリスは。

 

「ハヤトは恥ずかしがり屋だねぇ」

 

 それはイーリスも同じだろ?そう自分はいい、二人は大きく笑った。

 誰も気づかないだろう、傷ついた妖精と大やけどをした男、どう見ても勇者ではなくただの人なのだから。

 

 祭りを楽しんだ次の日、

 ハヤトとイーリスは冒険の準備をして借り家を引き払う。

 もう、十分に休息した。自分達には目的がある。

 ハヤトはリィンバウムへと、イーリスは前世の記憶を、

 それらを手に入れる為に二人は再び旅立つことにした。そして明朝、門番に見送られて街を出た。

 

「これからどこに行こうか?」

 

 イーリスが問う、どこかなんて決まっていない。

 ただ風が向くまま気が向くままにハヤトは歩んでゆくと伝えた。

 

「そうだね!」

 

 それだけ伝えるとイーリスは納得したのか肩から飛び上がりハヤトの前を進む。

 今日の夜明けは美しかった。自分達が守ったこの世界を、空を、大地、そして人々をハヤトは思い返した。

 きっとこの先も果てしない世界が自分達を待っている。生きていれば大きな試練に挑むだろう。

 

「ハヤト―!早くいこー!」

 

 遠くでイーリスが呼んでいる、

 さあ行こう、自分達の夢に、未来に向かって……。

 

 




どうも、ハヤクラ派です。
なんかスランプ気味でどうしよっかなぁと考えてたところ、片道勇者2α版が出たと。
まあ自分は出来なかったんですけどね。それで思い抱いたことが。

「片道勇者プラス、クリアしてなくね?」

そう私、次元回廊クリアしてないんです。
さっそくクリアしてそのまま何度もプレイして、アルバート冒険記見て、開発日記買って、
まあそんなこんなでモチベーション上がったんで小説書こうかなと気分転換で書きました。
まさかの33000文字、サイズは70キロバイト、調子乗って書きすぎたわ…。
設定難易度は優しいですけど、ゲームと大きく異なる世界感なので実際の難易度はバカ高いです。
そのおかげで50回は転生しなおす事に、ちなみにクラスは基本剣士です。元が彼なので。
まあ長々と説明してもあれ何で、多分気になる点は解説したいと思います。
それでも気になるところは感想でお聞きください、それではよろしくお願いします。








※剣士ハヤト(新堂ハヤト)

異世界リィンバウムのハヤトの魂の欠片を受け取った異世界間の同一人物。
スターシステムみたいな感じだと思ってください。
そのほとんどが天涯孤独の身で腕自慢の傭兵剣士のような人物。
無口だが不愛想ではない、新堂勇人の影響で少し喋るようにはなってる。
魔力と呼ばれる理力とは違う力を操れる能力を有しており実はかなり希少な存在。
魔力はこの世界に存在はするが操れるモノは皆無、実は闇などはこの魔力に近い性質を持つ。
元々、ハヤトが持つ転生する能力と、新堂勇人の魂が混じり合い記憶を一切失わずに転生できる能力を得た。
(実はある程度は覚えていられるが、その多くを本来は失ってしまう)
その為、事実上繰り返せば繰り返すほど彼は経験で強くなれる。
だが、記憶の全てを継承してるせいで魂が摩耗しやすくなっており回数制限が実はある。
あまり繰り返すと新堂勇人の記憶を全て消耗してしまうだろう。

技能は強打とベルセルク、そして覚醒。
強打とベルセルクは魔力を複合させて強化されており、
強打による武器の消耗は変わらないが威力が三倍に上がっている(本来は2.2倍)
ベルセルクは最大50ターン発動時間が伸びている(本来は15ターン)
ただベルセルクをフルで使うと、その後動けなくなるデメリットがある。
覚醒はハヤトが本来持っていないこの世界のハヤトの技能でぶっちゃけ時を止める程の超スピード。
事実、ゲーム内でのイーリスは時を止めると言っており、今回はそれぐらい早くなるという設定。
ただ、反動は予想道理かなり大きく、肉体の負荷も尋常ではない。

次元倉庫(ハヤト)
本来、次元倉庫の番人が持つ希少技能だが、実はハヤトは少し違う。
破損したハヤトの魂の隙間に入れてる為、個数が一つだけなのだ。
よく似た全く別の技能な為、後々次元倉庫の番人に指摘されている。
ちなみに現在の中身は魔王のエストック。

召喚術(ハヤト)
召喚術は一応使用可能だが、世界が離れすぎてるためリィンバウムの召喚獣は呼べない。
イーリスは召喚できるのだが、いつも隣にいるせいで召喚する意味がない、実質死にスキル。


※人工妖精イーリス

とある人間を素体に生み出された人工妖精、明るく元気で喧しく煩い、皆に好かれる妖精。
ヴィクター王が勇者をサポートする為に生み出した人工の妖精で(普通の妖精が居るかは不明)
実は色々な能力を兼ね備えた優秀なサポーターなのだ。

能力1意識共有化。
沢山のイーリスは沢山の勇者候補者に渡し世界中で連絡を取れるシステム。
ただしイーリスが一体しか出来なかった為、死にスキルと化した。

能力2あらゆる情報を調べる能力。
土地、好感度、敵の情報、武器や防具などのアイテムの情報、
ありとあらゆる知識をイーリスは持っておりそれらを勇者に伝えて支える能力、
しかし、転生しまくるハヤトにはそのうち教える事が無くなり死にスキルと化す。

能力3おしゃべり上手。
元々の素体の人間の性格もあるが、どんな性格の人間にも好かれる様にヴィクター王から教わった喋り方。
基本喧しいが、決して嫌悪感はなく、親しみ溢れる喋り方。
ただ、ハヤト自身、あんまり人の喋り方を気にする性格じゃないため死にスキルになってしまった。

能力4誓約転生。
ハヤトと初めて出会った時にハヤトと誓約を交わして一緒に転生するようになった能力。
このおかげで一時期情緒不安定になり、かなりへこんだりもしたが今は結構平気。
実はイーリスのお陰でハヤトは自身を保てたりしてるので一番役立っている能力。
それとイーリスの理力を補充する事ができ、ハヤトが生きてる限りイーリスは寿命では実は死なない。
唯一の欠点はハヤトとイーリスのどちらかが死ぬと強制転生を受けてしまう事だ。

能力5体液猛毒。
実はイーリスの体液は闇に対して猛毒であり、闇に関わってる存在には激痛が走る。
(ゲームでは所かまわずだったがTRPGの挿絵で温泉入ってるのでこういう設定)
涙や汗などはもちろん、唾液や血液もかなりの強力だ。
特に血液はまともに被れば皮膚からでも激痛が走り相手の動きが制限されるのは違いない。
ちなみにハヤトの魔力も闇に近い性質がある為か、少しピリピリしたりする。
今回の魔王戦に対するイーリスの決め手だ。

元々はただのサポート予定のキャラだったが気が付くとヒロインに昇格していた。
ただ恋愛とかそういうのではなく、まさしく相棒や家族といった関係性であったりする。
容姿は原作ではなくどちらかと言うとTRPGのイーリスだったりする。(モタさん絵いいわぁ)
割と原作より動き回ってるせいか、敵の攻撃を受けて傷ついたりするケースが多く、そこら辺をハヤトに怒られている。
何度も転生を繰り返すハヤトの役に立ちたいと覚悟を決めて自分が戦う方法を模索したりしている。
その結果が弓矢ではなく、アドバイスや自分を傷つけてでも戦う覚悟だったりする。
悲鳴は「キャー!」とかではなく「ギャー!!」よりで割とドスが聞いてる。
固定の位置は鞄ではなくハヤトの肩、曰く同じ目線で世界を見たいらしい。
結構悲惨な目に会っても笑顔を忘れない今回のメインヒロインイーリスなのでした。


※魔王

今回のラスボスで一番の規格外。
今回の冒険で実質ハヤトを15回殺した魔王(残りは事故や熊)
空を駆け最大火力で街を消し飛ばせるなどまさに規格外の化身だったりする。
普段は分厚い黒衣のコートを着ていて気付きにくいが実は女性らしい体つきをしている。
(普段は原作版の服だがコートを脱ぐとTRPG版の服に変わる仕様)
その最大の特徴は結界、理力以外を完全に防ぐ絶対障壁だ。
(原作ではクリティカルで貫通できるがクリティカルなんてない世界なので貫通できない)
これはありとあらゆる攻撃を弾く結界で魔王は事実上無敵が約束されてたりする、
ちなみに理力は貫通できるが理力は超能力に近い類な為、無視できるがハヤトはそもそも理力が使えない。
結界は闇の力で生み出されてる為、闇に特攻のイーリスの体液は実は効果が抜群という裏設定がある。
つまりイーリスをバラシて魔王に浴びせれば実は勝利出来ていた(その場合BADEND)
ハヤトの予想通り、実は悪い人物ではなく理由があるのだがここでは話さないことで、
ちなみにハヤトが救えなかった世界は魔王が別の方法で闇を止めた為、一応は救われている。

火炎、炎弾、超火炎。
魔王が持つ3つの理力、火炎はそのまま炎を放つ理力、
炎弾は実は原作では火弾なので名称変更した技、
単に文字が小さくて作者が読み間違えただけだったりする、
気になる人は心の中で火弾と呼んでください。
超火炎は原作で使える最大の理力、この作品では拡散版と収束版の二つある。
拡散は街を包むほどの一撃、シルフェイド幻想譚で炎嵐という全体理力があるがそれの強化版とでも。
ちなみに収束はレーザー。イーリスが割り込まなければ消し炭どころではなかったりする。

浮遊。
空を飛ぶ、それだけだがそれだけでかなりの優位が取れる。
ちなみに空を飛んでると他の理力が使えないのでどうしても地面に降りなければいけない。
(空から超火炎連発してれば終わるとかちょっと・・・ちなみに低空なら使えたりする)

魔王のエストック
軽く重く固い剣、闇で強化されてる魔王はまさしく強敵だがハヤトが正面から戦える時点でハヤトはわりと規格外。
ハヤトが剛なら魔王は柔、素早く受け流すのが得意、そのせいで結界が無くなっても苦戦を強いられた。
討伐後、ハヤトは自身の中にこの剣を仕舞い、大切に保管している。





























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51回目の冒険

「勇者よ、よくぞ参った!わしはこの国の王、ヴィクターである」
「「!?」」

ハヤトとイーリスが気が付くと二人はヴィクター王の前に立っていた。
この光景には見覚えがあった、何度も何度も転生して最初に見た王様の前だったからだ。
イーリスは鞄の中ではなく今回はハヤトの肩に座っていた。イーリスが自分に何が起こったのか理解できていない。
自分達は半年近く旅を続けており、そして宿で眠りについたばかりだった。
自分達は死んでしまったのか?いや自分達は死んだわけではないはず、その疑問だけが膨れ上がっていた。

「それでは世界を頼んだぞ!勇者よ!」

気が付くとヴィクター王は転移で消えてしまう、とりあえず二人はどうするか悩んだが城から出る事にした。

「やっぱり闇がある世界なんだね」

遥か西の方から巨大な闇が迫りつつある、間違いないここは自分達が救ってない世界だと理解した。

「ねえハヤト、どうする?」

イーリスが問いかける、そんなものは決まっているだろ?とハヤトは伝えた。
それを聞くとイーリスはニッコリ笑顔になってハヤトの肩から飛び出した。

「じゃあ、世界を救いに行こっか!」

まだ見ぬ試練がきっとあるだろう、前回とは大きく異なる冒険が待っているだろう。
そして気づくことがなかった世界の真実が恐らくあるだろう。
ハヤトとイーリスの旅は続く、世界の真実を暴き、真の意味で世界を救うその時まで続く。
願わくは、彼らが真の勝利者になる事を、今ここで願おう―――。


片道誓約者【完】


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