私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
おでんの具だと何が好き?私は断然卵ですわ。大根も好きだけどね?選べってなったら卵なんだよね。所でおっさん誰やン?の巻
「シンリンカムイだ!!」
不意にそんな声が聞こえてきた。
声につられて視線をあげれば、やたらとデカいトカゲ男と、手から木らしき物を生やしたタイツ男が見えた。
シンリンカムイとか言うのは職業ヒーローで、トカゲ男はきっと犯罪者なんだろうと予想。
この糞忙しい朝っぱらから駅前で暴れるのはマジで勘弁して欲しい所なので、どっちもさっさと去れと、割りと本気で思う。
そんな私は花も恥じらう女子中学生。
姓を緑谷、名を
何処にでもいる"個性"を持った、ナイスバデーでポニーテールな超弩級美少女である。
ぼやぁっと眺めていると近くいるおっさんが「おっ、嬢ちゃん随分と熱心に見てるな!」と声を掛けられた。
「は?いや、別に」
「隠すな隠すな!おれには分かるぜ!嬢ちゃんもヒーロー志望だろ!応援してるぜぇ!」
「はぁ」
勝手に納得するおっさんはどうでも良いが、ヒーロー志望というのは聞き捨てならない。心外過ぎる。
何故なら私はヒーローに憧れた事は欠片だってないのだから。
超人時代、きっと私みたいなのは少数派だろう。
大体の奴等が子供の時にヒーローの活躍する映像やらなんやらを見て憧れを抱く事だろう。
けれど私は違った。
初めて見たヒーローの姿は今もナンバーワンヒーローの・・・なんとかさんの救出映像だったが、見ててゾッとしたのを今も覚えている。
倒壊したビルに突っ込んでいくその行動に、私は狂気を感じて異常だと心底恐れた。だって普通は怖いものだろう。死ぬかも知れない所に突っ込むの。怪我したら痛い、これは真理だから。頭おかしいわってなるわ。
更に気になったのはそのヒーローが浮かべていた笑顔だ。これがまた気色悪かった。多分、ヒーローが笑顔でいることで周りに安心感を与えようとか、そんな感じなんだろうけど・・・・。それを差し引いても無理だわ。うん。
そんなヒーローに憧れないひねくれた子供を、気味悪がる事なく育ててくれた両親には感謝感激の雨霰だ。
年々デブっていく母の怠惰な所と、少ないお小遣い以外文句のつけようもない良い両親だと本当に思う。
よし、後で痩せるように母様の腹を揉んでやろう。父は・・・別にいいだろ。猫なで声で擦りつけばそれがご褒美だ。たとえそれが、ただでさえ少ない小遣いから金を出させる汚い手段だったとしても、だ。
そうこうしてる内にデカいチャンネーがトカゲ男に跳び蹴りを決め事件は終息した。
聞いた感じだと新人らしい。パイオツがワンダーランドになってるから人気でそう。
とか思ってたら、早速いかにもオタクらしき連中がパネェって言いながら写真とっていた。こわっ。
ベランのせいで電車が遅れました、という最終兵器な言い訳を搭載した私だったが、流石に3時限までサボったのは許されず放課後に反省文を山と書くことが決定。なんとか食い下がったが、十枚の反省文を書く事は確定されてしまい、腹いせに幼馴染の弁当を早弁してやった。旨かったとだけは言っておこう。
そんな事をすれば、ただでさえ切れた幼馴染は更におブチ切れなされて突っ掛かってくる訳なのだが、まぁ何も用事なくても突っ掛かってくる奴なので、それはそれと言うわけで。
「くらぁ!!糞ビッチ!!てめぇ、何俺の弁当食ってやがんだァァァ!!」
「そらきた」
振り返ればそこには我が幼馴染が額に血管を浮かび上がらせて凄い形相をしていた。
彼の名前は爆豪勝己。幼稚園児以来の腐れ縁を持った、ちょっとクレイジーな幼馴染である。
「腹いせがしたくて、御馳走でした」
「なんでそれが俺の弁当を食い散らかす理由になんだっていってんだよ!!ああん!?ぶっ殺すぞてめぇ!!」
「おっ?なんだやるか?おら、掛かってこいよ。久し振りに拳で語り合ってやろうじゃないか。ん?」
「死ねこらぁ!!」
爆発の個性を上手く使った高速の拳。
普通の人間なら当たるだろうが、こいつの癖を知ってる私から言わせれば蝿が止まるようなしょっぱい攻撃である。
私は母譲りの"引き寄せる"個性で拳の着弾位置をずらし、空振りしたそこを見計らいクロスカウンターを顔面へと放る。
拳を顔面で受け止めた幼馴染は机やら椅子を巻き込み教室の床に背中を叩きつけた。
「きゃぁ!」
「うわっ!大丈夫か爆豪!」
幼馴染を心配したクラスメートが集まる様子を見て、彼等があとはどうとでもするだろうと放置した。
それにしてもらしくないな。爆豪は死ぬほど短気だけど、人前ではこういった荒事で個性を使う事なんてないのに。学校内だからある程度目を瞑ってくれる所もあるけど、ヒーロー志望の爆豪が個性の無断使用でパクられない心配をしない筈がないのだし。
昼飯を買いに購買にいこうと教室のドアに手を掛けた所で「待てこらぁ!」と幼馴染からの再びのラブコールが掛かる。うんざりしながら見ると足をガクガク揺らしながらも立ち上がって此方を睨みつけてきていた。
あらやだ。
爆豪きゅん、めっさタフネス。
睨みつけてくる幼馴染に違和感を感じて眺めていると、眉間にしわを寄せながら忌々しげに口を開いてきた。
「てめぇ、進路希望は何処にしたんだよ!!」
あんまりにもいきなりな言葉。
我が幼馴染が私の進路を気にするとは。
あれだな、明日槍が降るな。
「まだ決めてないけど、多分近場?」
「はぁ!?てめぇふざけるな!!この俺様に勝っておいて、んで糞雑魚共と群れようとしてんだぁ!!てめぇも雄英に来やがれ!!そこで完膚なきまでにぶっ倒してやるからよ!!」
どうやら我等が幼馴染は私が偏差値低い所にいく事が我慢ならないらしい。やたらと高いプライドも玉に瑕だよね。ほっとけば良いのに。倍率あがるんだよ?わかってるぅ?
「あほくさ。私はパスだわ」
「ああ!?待てこらぁ!!」
喚く幼馴染をクラスメートにポイして私は購買へと向かった。求めしジャムマーガリンパンと焼きそばパンがあったら良いな。メンチカツパンでも可。
放課後、反省文という難敵を撲殺した私は、頑張ったご褒美としてコンビニおでんを摘まみながら下校していた。
するとドロドロのおっさんとエンカウントしてしまう。
おうまいがぁ。
「良いミノ発見」とかほざきながら接近してきたドロドロのおっさんは、あろう事か私のおでんに体液をぶちまけきた。しかもおっさんがぶつかってきたせいで、楽しみにしていたたった一つの卵が地面に落ちてしまう。
この瞬間、私はこの場限りにおいてボランになる覚悟を決め息を吸い込む。
そして飛び掛かってくるドロドロのおっさんに向けて、父譲り"火を吹く"個性で焼き尽くしてやった。焼き尽くしたと言ったが、それは気持ち的な問題でホントに焼き尽くした訳ではない。精々火傷の痛みでのたうち回り、気を失わせる程度の一撃だ。
卵の犠牲を考えれば慈悲ですらある。
殺していいならとっくに殺してるのだから。
倒れたドロドロのおっさんに余ったおでんの汁をぶちまけて追い討ちを掛けていると「君、ちょっと良いかな」と野太い声が掛かった。
視線を向ければガチムチのおっさんがいた。私の直感が、ホモだと告げる。
「私は女ですが」
危険を回避しようとそう口にしたが、ガチムチは首を傾げた。こいつまさかのバイか。
「いや、君がおでんの汁を掛けてるソイツなんだけどね、私が追っていたヴィランなんだ。身柄を拘束したいのだけれど、良いかな?」
「いいっすよ。別に━━━━ん?」
あれ、もしかしてこの人━━━
「あの第45回、国際ボディビルダー選手権特別グランプリに輝いた━━━」
「人違いだ!それは私ではないぞっ!」
人違いだったか。
こんな感じのガチムチだったんだけどな。あ、そう言えばあの人は禿げてたな。
「私がきた。こう言えば、分かるかな?」
私がきた?何処かで聞いた覚えがあるような・・・ないような。
思い出そうと悩んでいると「私も大概に有名人だと、思っていたんだがなぁ」と前置きを入れから歯を見せつける程の笑顔で言ってきた。
「オールマイト、それが私の名だ。お嬢さん」
それが全ての始まりだった。
不本意ながらヒーローを目指す事になる、私の最悪の物語。
私のヒーローアカデミアの。