私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~   作:はくびしん

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はくび神「かっちゃんよ、君にかけた『一人称俺様化』の呪いを解いてあげよう」
かっちゃん「まじか!?キャラのかき分けはいいのか、クソびしん!」
はくび神「このシリアスに、俺様は笑っちゃうからね。特別さ」
かっちゃん「そんな理由かよ!!こらぁ!」


そんな訳で呪いが解けるよ。
(恐らく今回限定)



それは、あいつとわたしの、二人のおなはし。の巻き

最初に俺がそれに気づいたのは、幼稚園の時。

あいつとつるむようになって暫くした頃だ。

 

何処かの馬鹿が遊具を占拠して、そのせいで遊べないどっかのガキがべそかいてる。図体のデカさや腕力の強さで差がつく幼稚園では、よく見るような光景だった。

あいつは掴んでた俺の手を離して、そこへと向かっていった。理由は『わたしがあそこであそびたいから』だったか。兎に角あいつは馬鹿を蹴散らして、気がつけばべそかいてたガキと遊んでやがった。

 

それが多分、最初だった。

 

勝手に約束してからは、その姿がもっとよく目につくようになった。それは些細な事が多かった。自分より小さいガキから玩具を取り上げた馬鹿を殴り飛ばしたり、転んで泣くガキをあやしてたり、いじめなんざくだらない事してる馬鹿共の所に割って入り逆に馬鹿共を悪口でいびり倒したり・・・そうした理由は本当に様々で身勝手なもんばかり。暴力的な解決もあったから褒められたもんじゃねぇ。けれど、どれも誰かを助ける為のもんだった。

どうしてそこまで助けるという行為に別の理由を立てたかは分からない。けど、そうせずにはいられない奴なのだということは嫌でも理解していった。

 

その頃の俺はその姿をなんとなしに見ているだけだった。俺にとってそれは当たり前だと思ってたから、あいつがなんでそんな事するか分からなかった。

弱い奴が泣かされんのも、馬鹿にされんのも、いじめられんのも。そいつが弱いのが悪いと思ってた。だから助けなかったし、気にしなかった。悔しかったら努力すればいい。今より強くなって、自分で見返せばいい。それが出来ないなら、そのままつまんねぇ人生歩きゃいい。

そう思ってたから。

 

でもある時気づいた。

あいつの姿を見て、あいつの周りに集まる連中の顔を見て、ようやく気づいた。

 

ただ強ければいいと思っていた自分が、どんだけちっぽけだったのかって事を。

守ってやる筈だったやつの方が、俺よりずっと誰かを守ってた事を。

ヒーローに相応しいかって事を。

 

そして必然的にそれにも気づいた。

誰かを助けるあいつが、誰よりも傷ついていってる事を。

守るって決めた俺が、それに気づく事もなく、何もしなかった事を。

 

 

それに気づいたのは、あいつと出会ってからずっと経った後だった。

あいつが一人で駆け出して、俺が後からそれを知るようになるのが、当たり前で当然と思えるくらい後になって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━かっちゃん!!」

 

朦朧としていた意識がはっきりしていく。

聞き慣れた声に顔をあげれば、やっぱりあいつの顔があった。温かさに目を向ければ、情けなく肩を貸されていた。

 

振り払おうとしたが、思うように力がでない。

オールマイトにぶつけられた拳圧の一撃。

空中できりもみに吹き飛ばされたのは、体よりも脳に効いていた。

 

「放せやっ・・・」

 

ようやく絞り出した声にあいつは視線すら向けなかった。

 

されるがまま引きずられビルの室内へと連れ込まれた。

演習場内の建物は一部を除いてハリボテと思えるくらい中身がない。そこもその例外に外れる事なく、何もない場所だった。

 

俺を床においたあいつは足早に階段を駆け上がっていく。恐らくオールマイトの様子を確認しにいったんだろう。馬鹿の癖にやたら頭が回る奴だから間違いねぇ。

 

少しすればあいつが戻ってきた。

 

「取り敢えず近くにはいない。ガチムチの性格だから、細々建物を調べるとは思えない。多分、出口付近に陣取ってると思う」

 

的確な言葉にイラついた。

あいつの分析は間違った事じゃねぇ。

けど、さっきの俺の言葉が無視されたような気がして、気に入らなかった。

 

未だ動かしずらい体を持ち上げて座る。

そしてそれが口から溢れてった。

 

「なんで、戻ってきてんだ。てめぇは」

 

思わず出た言葉にあいつの肩が揺れた。

酷い事を言ってる自覚はある。

本来なら感謝すらしなきゃなんねぇ場面だった。

でも、俺の口は止まらなかった。

 

「邪魔なんだよ。うろつくな」

 

てめぇで側に呼んどいて、俺は何を言ってんだ。

今更過ぎんだろが。

 

「めざわりなんだって、言ったろ」

 

こんなつもりじゃなかった。

今度こそ守ってやるんだってよ、そう思ってた。

 

「気が散るんだよ」

 

けどよ、駄目なんだよ。

俺じゃ無理なんだよ。

 

「てめぇがいると、調子が狂うんだよ」

 

俺はてめぇが言う程強くねぇんだ。

言葉も態度も、それしか出来なかったからだ。

てめぇに好きだなんて言ってもらえるほど、立派じゃねぇんだ。

俺は━━━━━━

 

 

 

 

「俺の前から、失せ━━━━っ!!?」

 

 

 

 

右頬に衝撃が走った。

座ってた体が浮き上がり床を転がる。

何をされたか一瞬分からなかったが、視線をあげて直ぐに分かった。

 

そこにあいつの拳骨があったから。

 

何をすんだと声をあげようとしたが出なかった。

拳の先にある、あいつの顔を見ちまったから。

あいつは自分の顔を乱暴に手でふき、口をひらいた。

 

「私はかっちゃんに守られて生きるつもりはない!!」

 

そんな事は言われなくても知ってる。

何よりそれは、俺が勝手に決めた事だ。

目の前のこいつには関係ねぇ。

 

「・・・でも、心配掛けたの悪かったと思ってる。だからごめんなさい」

 

なのに、あいつはそう言って頭を下げた。

冗談やからかってる訳じゃないのは見れば分かる。

こいつは本気で俺に謝ってきてた。

 

「そんなに心配掛けるなんて思わなかった。だってかっちゃんだけは、ただ大丈夫かって言わなかったから。かっちゃんはいつも、呆れた顔して馬鹿にしてきて、怒鳴り散らしながら頭叩いてきて・・・隣にいてくれたから。だから信じてくれるんだって思ってた」

 

あいつの顔は見えない。

俯いちまったから。

 

「でも、かっちゃんの頑張る姿見て、母様を見て分かった。信じてても、分かってても、心配しない訳ないって。だって大切だから。大切なものが傷だらけになるのは、辛くて苦しいって。それで思い出した。私がそうだった事」

 

「どうして今更って思う。きっと私も自分の事ばっかりだったんだと思う」

 

「轟とか、飯田に偉そうにいって、そんな資格ないのに、私だって全然だった・・・」

 

 

そっと顔をあげたあいつの顔は涙で濡れていた。

それはずっと前に見た、あの勝手に約束した時のような、不安に満ちた一番見たくなかった物だった。

 

「・・・謝る。許してくれるまで、ちゃんと謝る。もう無茶しないから。気に入らないんだったら、もうヒーロー科だって止めてもいいから。だから━━━━」

 

ボロボロ落ちる涙が、すすり泣く声が、くしゃくしゃになった泣き顔が。

耳に響いて、目に映った。

 

 

 

 

「━━━━邪魔って言わないでよ、かっちゃん」

 

 

 

 

 

そうしてやっと思い出した。

あいつの弱さを。

 

びびりだって事。

苦手な事が沢山ある奴だって事。

どうしようもない奴だって事。

 

 

 

 

そういう顔させない為に、ヒーローになりたかった事。

 

 

 

『爆発小僧。おめぇな、ちと気張りすぎだ』

 

グラントリノの言葉が今更になって頭に響いてきた。

 

『守りてぇ気持ちは分かる。おれぁな、てめぇのそういう真っ直ぐで馬鹿な所が気に入ってんだからな。けどなぁ、今出来る事は焦っても増えやしねぇ。経験、練度、自信。そういうもんの積み重ねがよ、強さってもんになんだ』

 

あの時、気に入らなかった言葉。

誤魔化してるんだと思った。俺の弱さを。

 

『だから、心だけは間違うな。強さは後からついてくる。おめぇなら間違いなく一流になれる。きっと守りてぇもん守れるようになる。だから、忘れんな。なんの為に、誰の為に、何をしてぇのか。何になりてぇのか』

 

『それさえ間違わなきゃ、おめぇはきっと、おめぇの求めるヒーローってもんになれる。それまではな、周りに頼れ。俺が若い頃と違ってそれが出来る環境だ。使いまくってやれ』

 

『そんで最後は、おめぇが守れ。━━━守りたいもんがあんだろが。おめぇはよ』

 

 

 

 

くそったれだ、俺は。

 

 

 

 

俺は思いっきりてめぇの顔面をぶん殴ってやった。

自分殴るなんてやった事ねぇから、盛大に口ん中ぶちきれた。血がダラダラ落ちやがる。

 

馬鹿女はそんな俺に驚いていた。

余程驚いたのか、涙もすっかり止まってやがる。

 

「・・・かっちゃん?」

 

キョトンとするそいつの顔を見ていられなくて、俺は馬鹿女を引き寄せ肩に抱いた。

あいつの温かさを感じながら、俺は何をしたかったかもう一度考えた。

 

オールマイトに勝つ事が必要なのか。

今すぐ誰よりも強くなる事が必要なのか。

それはこいつを傷つけてまで、手に入れなきゃなんねぇもんなのか。

 

それは考えるまでもなかった。

 

「━━━出来ねぇ事、口にすんな馬鹿が。・・・悪かった。俺が」

 

そっと吐いた俺の言葉に、肩に押し付けといたあいつの頭が頷くように動いた。

そしてその直ぐ後に、ボディに捩じ込むような一撃が突き刺さった。思わず潰れたカエルみたいな変な声が出る。ボディへの一撃の威力が重く、思わず片膝が落ちた。

 

「そうでしょう!!そうでしょうとも!!私は一切悪くない!!私が悪いわけがない!!全部大体、かっちゃんが悪い!!━━てか、なにいきなり抱いてくんだ、このセクハラ野郎ぅ!!天誅だぞ、おおん!?」

 

痛みに耐えて顔をあげれば、目尻に赤さは残っているがいつもみたいなムカツク顔してあいつがいた。見下すような目がうっとうしい。

 

それでも、その方がずっとましだった。

 

「てめぇ!いきなり、何しやがるこらぁ!!」

「うるっさいわ!散々私の事いらないとか邪魔だとかほざきやがって!!その癖やられそうになってるし━━━笑うわ!!バーカ、バーカ!」

「んだと!!?てめぇ、言わせておけば!!」

 

怒りと気合いと根性で立ち上がり、馬鹿女を真正面から睨み付ける。

馬鹿女も同様に鋭い視線を返してきた。

 

「喧嘩売ってんなら、今すぐ買ってやんぞ。馬鹿女」

「おう?やんのか、私とやるってか?!上等だ━━━と言いたい所だけど」

 

馬鹿女の視線が外に向けられた。

視線の先は壁だが、馬鹿女が本当に見ている先がそこでない事はわかっている。

 

「喧嘩の前に、片付けなきゃなんない事があるでしょ?」

「けっ、面倒臭ぇ。五分でぶちのめすぞ」

「またそういう事言う」

「うっせぇ。出来っだろうが」

 

そう言って馬鹿女を見れば、見るからに悪そうな笑みを浮かべた。それはさっきとは比べ物にならないほど、嬉しそうに見えた。

 

「かっちゃんが、ちゃんと手を貸してくれるなら。なんか考えるけど?」

 

楽しげに語られた言葉に轟の言葉を思い出した。

 

『あいつは、お前の後ろじゃなくて、隣が良いんだろ』

 

納得は出来ねぇ。

それをさせたくないから、俺は力が欲しかった。

けど、馬鹿の顔見ているとそうは言えなかった。

それにまだ言う資格がねぇ。

 

まだ、足らねぇ。

オールマイトの言うとおりだ。

足らねぇんだ。

 

俺にはようやく隣に並べる程度の力しかねぇ。

 

一人で守るなんて、言ってやれねぇんだ。

今こいつを守る為に、誰かの力借りなきゃいけねぇ事は痛いほど分かった。

 

だからせめてその時まで━━━こいつの隣で。

 

「手なんざ幾らでも貸してやる。ぶっ潰すぞ、双虎」

 

その悔しさも歯痒さも、俺は噛み締める。

今日じゃない、明日の為に糧にする。

いつか胸張ってその言葉が言えるまで、この気持ちも言葉も二度と外に出さねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でもな。

それでもな。

いつかその時がきて。

 

それでもお前が俺の隣が良いって言うなら。

その時は居させてやる。

 

お前が馬鹿やっても、無茶やって、守ってやる。

こんなやり方じゃねぇ。

 

ちゃんと、笑っていられるように。

 

 


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