私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
だからと言って、特別な力は身に付かなかったぞぉー!
特に良いことも、なかったぞー!
でも、そこそこ楽しいからいいや( *・ω・)ノ
読んでくれてる皆、ありがとやで。
これからも宜しくや。
『残り時間、あと五分さね』
スピーカーから流れるリカバリーガールの声に、私も手元の時計を確認した。確かに残り時間は五分切っている。時間を確認したあと直ぐに辺りを確認するが、見えるのは私の拳でボロボロになった道路と建物だけ。人影はない。
「ただの一度も襲撃なし・・・これは少し予想外だったかな」
緑谷少女や爆豪少年の性格を考えれば早い内に襲撃してくると思っていただけに、内心では驚き、どこか落胆していた。
鉄は熱い内に叩けというが・・・この場合は少し違うか?いやしかし、やはり私を攻めるのであれば、爆豪少年が頑張りを見せた直後他ならないだろう。
受けたダメージ。立ち上る煙幕。戦いに高揚し思慮に余裕がなくなった状態ならば、正に攻め時だろう。
しかし、緑谷少女達は姿を現さなかった。
その気配すらも。
まさかとは思うが、また拗れたのか・・・。
「だとすると、少し不味いなぁ・・・」
仲直りとまではいかなくても、あの行動で何かしら変わったのではないかと思っていた。
いや、思いたかったというのが本音か。
彼女達に関係性を改めさせるのが一番ではあったが、少しでも歩み寄ればそれでも良いと思っていた。
それだけに、関係が壊れてしまうというのは少し・・・というか、とても宜しくない。
教師としてと、いち大人としてもだ。
二人の関係へ余計な茶々を入れたのではないかと後悔し始めた頃、私の耳に女性の泣き声が聞こえてきた。
聞き覚えのある声。
そう、緑谷少女の声だ。
声に視線を移せば建物の影から緑谷少女の姿が見えた。
顔を覆いとぼとぼとこちらに向かって歩いてくる。
どう見ても上手くいかなかった感じだ。
「ガチムチぃぃぃ、かっちゃんがぁぁぁ」
どうしよう。
試験中ではあるけど、本当にどうしよう。
思わず抱き止めそうになったが、流石にそういう訳にはいかない。試験中であることもそうだが、教師としてもどうかと思う。普段の緑谷少女ならセクハラと叫ぶに違いないし。
どうしようかと迷っていると、こちらに歩いてくる緑谷の手元からキラキラと光る滴が地面に落ちていくのが見えた。どう見ても号泣だった。
罪悪感で胸が押し潰されそうだ。
「ガチムチぃぃぃ」
「緑谷少女!分かった!話しは後でちゃんと聞く!取り敢えず今は試験中だからね!そこで止まろうか!」
私の制止の声が聞こえないのか、緑谷少女は尚も歩いてくる。顔を覆った手元から、涙がこぼれ落ちていく。
胸が痛い、凄く痛い。
すすり泣く声に可哀想になり、緑谷少女にそっと手を伸ばした。
その時、演習場に置いてあるスピーカーからひび割れ音と共に怒鳴り声が響いてきた。
『このバカたれ!!オールマイト!!今は試験中だよ!!!』
リカバリーガールの声に呆けていると、トンと私の胸に緑谷少女の頭がぶつかった。余程泣いていたのか、緑谷少女がぶつかったそこが冷たく濡れる。
「緑谷少女━━━」
「━━━いやいや。りかばぁ、それは反則でしょ」
小さな声が聞こえた。
さっきまで泣いていたとは思えない、酷く冷静でしっかりした緑谷少女の声が。
「痛い所は、ついていかないとね?」
そっと、緑谷少女の顔から掌が離れる。
その下に隠れていた緑谷少女の顔は満点の笑顔だった。
やられたと思った直後、緑谷少女の遥か背後に爆炎があがった。視線を向ければ爆豪少年が地面を爆破する姿が見える。
一瞬疑問が頭に浮かんだが、直ぐに理解した。
爆豪少年が放った爆炎を起点に、私に向かって連鎖的に爆発していく地面を見れば嫌でも。
先程緑谷少女が流していたのは涙ではない。
どうやったかは知らないが、落としていたのは爆豪少年の汗だ。
その証拠に爆炎が走っているのは、緑谷少女が歩いてきたその道だけ。
気がつけば緑谷少女はビルの方へと飛び去り、残ったのは私に向かって大蛇のように迫る爆炎のみ。
当たった所でどうという事もないと言いたい所だが、先程緑谷少女に胸の所を何かで濡らされている。恐らくこれも爆豪少年の汗だろう。
点々と落としていたあの量でこの爆発。濡れた範囲を考えれば楽観視して良いものではない。
飛んでかわそうかと思ったが、それは大きなロスだ。
爆豪少年の爆速ターボ、緑谷少女の引き寄せる個性での空中移動の速度を考えれば、十分にゲートを潜る余裕を与える事になってしまう。
なので、私に選べたのは、それだった。
「真っ向から、捩じ伏せる!!」
拳を振り抜く。
拳圧は私に迫っていた爆炎と共に、爆発の連鎖産み出していた地面ごと消し飛ばした。
爆豪少年の位置を確認するために起点となったそこへと視線を向ける。
「オールマイト!!!」
視線を向けた先には、怒号をあげ駆ける爆豪少年の姿が目に映った。
構えていたその籠手も。
「また真正面からとは!!二度も同じ手が通じると思わぬ事だ!!」
今日二度目となる灼熱が吹き荒れた。
先程と同じように地面を抉り土の壁を作ろうとしたが━━━作れない事に直ぐに気づいた。
直前で吹き飛ばしたせいで、地面は既に捲り上がってしまっている。位置を変えれば可能だが、そのステップを踏む余裕がない。重りがなければと思うが、そんな泣き言を言うわけにはいかない。
抉り飛ばした先を更に抉る事も出来るが、それはやるわけにはいかない。それをやる為には、ある程度本気を出さねばならないからだ。
相対する爆豪少年を大怪我させてしまう可能性が非常に高い。勿論それは怪我が前提の試験でもやり過ぎのレベルだ。
ならば━━━。
「カロライナァスマッシュ!!」
クロスチョップの風圧で灼熱を切り裂く。
四つに裂かれた爆炎が私の横を通りすぎていく。
コン。
爆豪少年の攻撃を防ぎきった私の耳に、不意にそんな音が聞こえた。音は私の後ろから聞こえる。
振り向きそれを確認すれば、ピンの抜かれた手榴弾がそこにあった。
急速に冷えていく思考。
積み重なった事実が答えを告げた。
演技をして近づいた緑谷少女。
体に付着した爆豪少年の汗。
地面に伝う爆炎。
声をあげて駆ける爆豪少年。
それはなんの為に。
「━━━成る程、これか緑谷少女・・・!!」
今までの緑谷少女なら、私に爆豪少年の汗を染み込ませた直後、自身の火を吹く個性で爆破させただろう。それが一番隙もなく確実にダメージを与えられる方法だった。仮に倒せなかったとしても隙はつくれる。その時間は爆豪少年がゲートを突破する程度の余裕を生んだ筈だ。
だがそれは、自身の身すら犠牲にした特攻。諸刃の刃的な手段。褒められる事のない選択。
だが今回は違う。
これは己の身の安全も考慮した上で、確実に私に爆撃を当てる為に考え出されたそれだ。
態々あんな派手な連鎖爆発を見せたのは視覚的な脅威を必要以上にアピールする為。幾十と爆発するそれは、胸に染みた爆豪少年の汗を嫌でも意識させる。
そしてその事に意識を集中してしまえば、目の前の緑谷少女の行動に対して対応が遅れる。流石に腕にハンドカフスを付けられる程の隙は与えないが、殺気もなく離れていくものに反応出来ない。
一連の流れはただ勝つだけではない。
犠牲なく、かつ確実に。
与えられた条件や私の性格までの利用して、私に勝つためだけに練り上げられた物だ。
時間ギリギリまで粘られたのも問題だった。
マッスルフォーム発動限界は目前。
ここでまた必殺技を放とう物なら、確実に試験中の維持は不可能。体力を使い果たす。
故に必殺技未満の拳圧で手榴弾を排除する事が最も好ましいが━━━━それでは間に合わないのだ。その為の余裕がない。
「やってくれるな、緑谷少女!!君はっ━━━」
人が嫌がる事をやらせたら、ピカイチだな!!
手榴弾が炸裂し、爆炎が私の体を包む。
そして直ぐに、二度目の爆発音が衝撃と共に辺りに響いた。
◇◇◇
手榴弾のしょっぱい爆発音の後、直ぐに続いた大きな爆発音が鼓膜を更に揺らした。
視線を向ければ爆煙が立ち上っている。
それを確認した私はかっちゃんと一緒に駆け出す。
ある確信と共に。
「んんんんっ、あああ!!まだだ!!少年少女!!」
怒号と共に爆煙が吹き飛ばされる。
そこには胸の部分がはだけたガチムチの姿が見えた。
予想通り力を温存する方を選んだようだ。
「かっちゃん!やっぱりだよ!」
「言われんでも分かるわ!!」
時間や今日のガチムチの振るった技の数々を考えれば、ガチムチに残されたのは必殺技が一撃程度。
こうなったら二手に分かれて的を絞らせず、ゲート通過を狙った方が良い━━━けど。
かっちゃんに視線を遅ればやる気満々っていう顔をしていた。
「やっぱり止めない!?って言ったら聞いてくれる!?」
「ここまで疲弊させて、それでも勝てねぇなら!!プロなんざ目指せるか!!」
「それでも、ガチムチはガチムチだよ!!」
「っせぇ!!問答なんざすんな!!出来んのか出来ねぇのか!どっちだ!」
そう言われてしまえば、もう答えは決まってる。
ガチムチのハンデの影響。
残りの体力。
「多分、二発分あれば!!」
「なら押し込むぞ!!合わせろ双虎!!」
かっちゃんが爆破で高く飛び上がる。
そして更に爆発で加速しながら、弾丸のような回転を加えていく。
私はかっちゃんが頑張って燃料を溜めた籠手キャノンの照準をガチムチに合わせ、かっちゃんの準備が終わる瞬間を待つ。
私たちの様子にガチムチが割り込む様子は見てとれない。余裕がないのが分かる。
幾らポンコツなガチムチだって、見え見えの必殺技を真正面から受け止めるほどお人好しじゃない。試験である事を考えた元気なガチムチなら、間違いなく妨害の一つや二つしてくる。
「双虎!!」
かっちゃんから合図がきた。
私はガチムチに向けた籠手キャノンのピンを引き抜く。
肩に、体全体に。
発射の反動が、衝撃が走る。
骨や筋肉が軋む。
灼熱の爆炎が空気を焼きながらガチムチに迫る。
「ハウザーァァァッ、インパクトッォ!!!」
かっちゃんの掌にから放たれた回転を加えられた爆炎が、私の放った灼熱を巻き込んでいく。
火力は更に高く、勢いは更に加速する。
現状で出来る、私達の最高の威力の攻撃。
迎え撃つガチムチは笑顔を浮かべた。
「嬉しいじゃぁないか!!信じてくれるか、私を!!!なら、見せよう!!本調子ではないが!!私の力を!!━━━デトロイトスマッシュ!!!」
引き絞られたガチムチの拳が振り抜かれた。
全力で放った私とかっちゃんの一撃が一瞬で霧散する。
近くにあったビルが半壊し、拳から生まれた爆風が轟音と共に街並みを崩していく。
私は一瞬だけスパイクで踏みとどまれたんだけど、飛んできたかっちゃんにぶつかってあえなく飛ばされた。
試験が終わった時、かっちゃんを4回は殴ってやる事を決意する。
嵐のような風が治まった後、節々の痛みと煙たさに耐えながら顔をあげるとガリヒョロなガチムチがいた。
「残り時間一分を切った所さ」
「際ですか」
「見た感じ二人とも動けないようだね?」
頑張って辺りを見渡せば気絶したのか、ピクリともしないかっちゃんの姿が見えた。
「このまま何もしなければ私の勝ちだ。けれどね、こうして私は戦う姿ですらいられなくなった」
どっしりとヒョロガリなガチムチが私の前に座り、そっと両腕を差し出した。そこには最初に取り付けていた重りが無くなっている。
「最後の瞬間、力み過ぎて重りのベルトが外れてしまった。これはルール違反だ。━━━だから、君達の勝ちだ」
そう言って笑うガチムチ。
そんなガチムチの言葉にかっちゃんの顰めっ面が過った。
「かっちゃんなら、納得しなさそう」
「確かにな・・・ククク」
一頻り笑ったガチムチは真剣な顔になって、そっと尋ねてきた。いつか聞いたそれを。
「この力が欲しくないか?君ならきっと正しく使える」
「これは誰かの為にと紡がれてきた力だ。君のような子にこそ、相応しい力だ」
「私のように救わなくてもいい。平和の象徴でなくていい。君のやり方で歩んで構わない」
「だから、緑谷少女。私の後を継いでくれないか」
そっと伸ばされた手。
私はそれに手を伸ばした。
カチリ。
そんな音と共にヒョロガリなガチムチの腕に、それはお洒落なハンドカフスが装着された。
きょとんとするヒョロガリムチに笑顔を返しておく。
「し・つ・こ・い♪」
私の答えにヒョロガリムチが大声あげて笑った。
とても楽しそうに。
『報告だよ。条件達成。爆豪・緑谷チーム』
りかばぁの放送が演習場に響き渡った。
私達の勝利を告げるそれが。