私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~   作:はくびしん

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眠たい、疲れた。
明日から、頑張る・・・(+.+)(-.-)(__)..zzZZ


そんな目で見てくるなよぉ、意地悪したくなるぅ。あれだ、物凄く陰湿な悪戯したくなるだろうがぁ。抹茶アイスの抹茶部分を練りわさびと入れ換えるとか、なんかそういう感じの事がしたくなるぅ。やっていい?の巻き

「そのまま真っ直ぐ。あ、余所見はしないようにね?」

 

緑谷双虎に誘導されるまま、俺は人混みを歩いた。

間の抜けたような声に従うのは我慢ならないが、状況が状況だ。余計な事は言わず従う。

 

ただ、それでも馬鹿正直に従うつもりはない。

歩きながら後ろのそいつにバレないよう、出来るうる限りの行動を行う。

と言っても監視された状況。下手には動けない。

 

出来るのは精々状況を把握する為に、情報を集める事くらいだ。

 

手始めに背中に突きつけられた物を道行く所にあるガラスや鏡を使い確認しようとした━━━が、どうも巧みに隠していて見えない。形状や持ち方。対処する為にも一つでも情報が多い方がいいのだが、中々に嫌らしい事をする。

 

当たってる感触からナイフのような鋭さがあるもので無いことは分かっている。それならば安全ではないかと言いたいが、それが言えないのが今の社会だ。手に入れようと思えば、大抵の物を手に入れる事は出来る。スタンガン程度であれば良いが、もっと強力な武器も存在する。やはり見るまでは油断出来ない。

 

「どこに連れてくつもりだよ」

 

ある程度周囲の状況と、後ろについた緑谷双虎の様子を把握した俺は声をかけた。言葉の揺さぶりに掛かるとは思えないが。しかし、駄目元ではあったが思いの他効いたのか、僅かに背中に当てられたそれが揺れる。

 

「答える必要ある?」

「・・・そりゃあな。俺も行き先は気になる」

 

俺も馬鹿じゃない。

少しずつ人混みの少ない場所に向かっているのは気づいてる。ただそれが、背中に突きつけたそれを使う為なのか、こいつの仲間がてぐすね引いて待っている場所に行く為なのか判断がつかない。

だが、このまま言いなりに動く事は悪手でしかない。

 

直接的な言葉を避け、俺は辺りを目だけで見渡しながら言葉を掛ける。

 

「なぁ、妙だと思わないか」

 

背中に当てられた揺れを感じながら歩く。

返事が返ってこないが、そのまま続けた。

 

「どいつもこいつも、ヘラヘラヘラヘラ。おかしくないか?いつ誰が個性を振りかざしてもおかしくないのに、何でこいつら笑って群れてる?」

「法だってあるし、モラルもあるからでしょ」

 

返事が返ってきた。

 

「ああ、そうだな。個々人のモラルが前提だ。けどな、それってさ『するわけねぇ』と思い込んでるだけだろ。実際どうだよ。皆が守るのか?そんな訳ねぇよな?だってのに、なんだってこいつら、揃いも揃ってバカ面下げていられるんだろうな?笑えてこねぇ?」

「全然。そんな事で笑えるなんて幸せだね?どんな風に景色見えてるの?全部ピンクいろ?それこそ笑える」

 

言葉とは裏腹に、押し付けるそれが揺れる。

 

俺はその揺れを感じながら、勘違いしていた可能性に思い至る。さっきこいつの目を見た時、俺はこちら側に近い奴の者だと思った。・・・けど、違う。

こちら側に足を踏み込んでいる割りには、あまりにもやり方が温い。

 

まず脅すなんて事はしない。

余程の理由がなければ、最初の一撃を優先する。

急所にさえ当たらなければ殺さずに動きを制限させられる。これを逃す手はない。目立つ事を嫌った。ない理由ではないが、違和感を感じる。

なら、どうして。

 

「なぁ、なんで声をかけた」

「はぁ?」

「不意打ちかますチャンスを棒に振って、なにがしたかったのかって話だ」

「・・・ああ、そういう話?私はあんたと違って犯罪者じゃないもん。出来れば穏便に済ませたい派なの。━━てか、私がそのつもりで近づけば気づいたでしょ」

 

気づいたかも知れないな。

けど、それよりだ。

穏便にというのは妙に思った。

 

それなら顔を出さずに尾行でも何でもすればいい。安全な所から通報すれば、こうして態々自らの身を危険に晒すようなマネをする必要はない。

殊勝な考えで犯罪者を野放しに出来なかったとか、そういう馬鹿みたいな理由でそうしたのなら納得は出来なくても理解は出来る。不合理も人の性だ。

けど、それとも違う。

 

そうする理由。

深く考え過ぎるな。

こいつは複雑に見えるがシンプルだ。

 

こいつは・・・そうだ。

 

初めて会った時からそうだった。

こいつは軽口をよく叩く。

けど、その目はいつも笑ってない。USJの時もそうだ。

 

あれは怒りや冷酷さだったりから来るものだと思っていたが━━━少し違うな。

こいつの場合は、そう。

 

「━━━そんなに俺の事、怖いのか」

「・・・は?なに?冗談?笑えないけど?馬鹿なの?死ぬの?手アクセつけてないと馬鹿4割増しなの?」

 

軽い口調。挑発するような。

けど、その手は正直だ。

 

「少しだけ、お前を好きになれる気がするよ。健気だな、ほんと。何がお前にそうさせるんだ。なぁ」

「さっきから━━━」

「なぁ、お前は何をぶっ壊してやったら、俺の事ぶっ殺す気になるんだ?偽善者」

 

瞬間、雰囲気が変わった。

初めから感じていたのは気のせいではなかった。

どうしてこうもチグハグなのかは知らないが・・・先生が面白いと言った理由が分かった。

 

そっと視線を後ろに向ければ、さっき見せた目が俺を見つめていた。

 

「そう怖い顔するなよ━━━ぶっ壊したくなるだろ」

 

俺は前に視線を戻しながら辺りを見る。

やはりだ、さっきより人が少なくなってきてる。

それも不自然なまでに。

 

歩むペースを落とすと背中に強く何かを当てられた。

けれど進む必要はない。足を止める。

当てられてるそれは、恐らく殺傷能力が低い物。

例えば、鍵。ペン。アクセサリー。

そういう類い。

 

こいつは俺を殺すつもりはない。

少なくとも今は。

 

「なぁ、俺はさ、まぁ、大体何でも気に入らないんだけどさ。今一番腹が立つのはヒーロー殺しさ。ニュースとかでもなんでも良いけどさ、知ってるよな?」

 

言葉は返ってこない。

けど、背中に触れるそれの揺れだけで十分。

 

「ムカツクんだよ、あいつ。俺と同じ事やってるのに、まるでダークヒーロー気取りでさ。社会の為に?は?何言ってんの?気に入らない奴、ぶっ殺しただけじゃん」

 

人の気配が遠い。

攻撃射程内には、もう俺の後ろにいる緑谷双虎のみ。

 

「なのにさ、誰も俺を見ないんだよ。同じように人をぶっ殺したヒーロー殺しが持て囃されて、なんで俺は名前すらあがらない。やってる事は同じだろう。何が違う」

 

━━━先生と。

 

「もっと殺せば良いのか?なら誰を壊せば、誰を殺せば、何を消せば良い?教えてくれよ」

 

どうしたら、俺を見る。

 

「ムカツクんだよなぁ。なにもかもさ。どいつもこいつも。ヘラヘラ、ヘラヘラ、ヘラヘラとさ」

 

まるで、俺がいないみたいじゃないか。

まるで、俺に何も起きなかったみたいじゃないか。

まるで、俺が見たものが嘘みたいじゃないか。

 

フザケルナ。

 

フザケルナ フザケルナ フザケルナ フザケルナ フザケルナ フザケルナ フザケルナ フザケルナ フザケルナ フザケルナ フザケルナ フザケルナ フザケルナ フザケルナ フザケルナ フザケルナ フザケルナ フザケルナ フザケルナ フザケルナ フザケルナ フザケルナ フザケルナ フザケルナ フザケルナ フザケルナ フザケルナ━━━!!!!!

 

何一つ。

何一つも変わっちゃいない。

俺の手元には何一つ残ってないんだから。

 

あの赤く染まった手も。

ただ一つ残った手も。

差し伸べられた手も。

 

なにも、何一つも。

俺のそれは変わってない。

 

「誰だよ、誰がこんなクソみたいな世界にしたのは」

 

俺を否定するな。

 

「誰が、あのクソ共にあんな顔させる」

 

俺はここにいる。

 

「ヘラヘラ、ヘラヘラ笑うなよ」

 

俺を忘れるな。

 

 

 

 

「なぁ、教えてくれよ、緑谷双虎。誰が━━━━」

 

 

 

 

視線を向けた先、白い靴底が見えた。

個性で塵に変えてやるつもりだったが腕があがらない。

目の前にいる女の個性である事は直ぐに理解し、首だけを捻って白の一閃をかわす。

 

隙だらけになったそいつのもう一つの軸足を狙い、全体重をかけた足払いを放つ。

当たる寸前、その軸足が浮いた。

 

かわされた。

その直後腕への負担が消えた。

個性が解除されたのだろう。

 

腕から視線をあげたが、そこに身構える緑谷双虎の姿はなかった。見えたのは俺に背を向けて走る、情けない緑谷双虎の姿。

 

直ぐに追い掛けようとしたが、足が動かなかった。

視線を落とせば黒い塊が足裏にへばりついている。

 

「チクショー!!緑谷!!お前ぇ!これでオイラがしょっぴかれたら、恨むからなぁ!!おっぱいの一つも触らせろぉぉぉ!!」

 

叫び声に視線を向ければ、A組の資料に載っていた捕縛系の個性を持つチンチクリンの姿が建物の物陰に見えた。

 

「手マン!!何教えて貰いたいか知らないけど、一つだけ教えといてあげる!!━━━━って誰が教えるか!!バーカバーカ!ぶっ壊したくなるだろうが?中二も大概にしろー!!笑うの耐える私の身にもなれよぉ!!わはは!頭沸いてんじゃないのプギャーーーー!!!」

 

そう言って緑谷双虎が走り去った先に見たことのある男がいた。雄英体育祭の一年の部優勝者、爆豪勝己。

それだけじゃない。辺りをよくよく見返してみれば、見た事ある顔触れがそこにいた。エンデヴァーの息子の姿もある。

 

爆発音が鳴り、俺はそこへと視線を向けた。

 

「生憎、個性の無断使用は禁じられてっからよ。てめぇを直接ぶっ飛ばしてやれねぇが、それでも出来る事はあんだよ」

「そうだ!そうだ!スデゴロとかな!」

「黙ってろ馬鹿女!!」

 

遠くからサイレンの音が聞こえる。

通報されていたという事だろう。

やけに喋るとは思っていたが時間潰しか。

 

どうするか考えていると、爆豪が火花を散らしながら凄んできた。無断使用だとしても、俺を止める為なら個性を使うとアピールするように。

そしてそれは、恐らく本気だろう。

 

「直、警察とヒーローが駆けつけんぞ。てめぇらが一番ビビってる、オールマイトも含めてなァ!!」

 

気に入らない名前だ。

けれど、良いこと聞いた。

流石に単独で相手出来る奴じゃない。

 

俺は手を地面につけ個性を発動した。

音を立てて地面が崩れていく。

散歩する場所の地形くらいは把握している。

ここからなら、下水道に降りれる。

 

驚く餓鬼共。何人か捕縛しようと動いたが、結局誰も手を出してくる者はいなかった。元々、そのつもりだったのかも知れない。

その中でただ一人驚く事もせず油断なく俺を見つめる緑谷双虎を見ながら、俺は地下の闇へと体を沈めた。

 

「━━━また会おう、緑谷双虎」

 

一瞬で霧散したあの気配。

俺は演技とは思っていない。

 

「今度は邪魔の入らない所でゆっくり話をしよう。お互い気味の悪い笑顔を外して━━━━」

 

闇へと沈みきる寸前、緑谷双虎の瞳は確かにあの時と同じ色に輝いていた。思い出すと笑ってしまうくらい背筋が寒くなった、あの時の同じようなその色に。

 

 


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