私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
ちょっも終わりまでシリアスですまんな( *・ω・)ノ
次回から漸く短い夏休み編開幕。
終業式だったりとか、まだちょいやらないかん事あるから、いきなり夏休みにはならんけども。
そんで、映画の都合で夏休み、本当に短いけども。
実際何日あんのかなぁ。
描写的に一週間・・・あるかなぁ。ない気がする。
いや、ある事にしよう。そうしよう。
狭い個室の中。
白い壁に覆われたそこで、私は安っぽい椅子に座らされていた。テーブルを挟んだ向こう側にはネクタイを締めた男の人が一人。
その男の人は資料を眺めながらウンウンと頷く。
「・・・言いたい事は色々あるけど、取り敢えずそうだね。ここは大人としてこう言っておこう。━━━なんて無茶をするんだ大馬鹿者!!ってね」
そういって笑ったのはガチムチの自称お友達である塚内くん。通称ツカッチー。警察のオジサンだ。
そうここはお警察様のお城、警察署である。
今回の件で最も手マンの情報を知る私は、警察さん家でお話する事になってしまったのだ。他の皆はその場で帰された。かっちゃんも付いてくると食い下がったけど、ツカッチーはそれを断り帰していた。今ごろお家にいることだろう。
そして今私がいるのはドラマの刑事さんが犯人を追い詰める取調室。窓に格子とかついてたり、鏡があったり・・・しない。電気スタンドとか、湯飲みとか、カツ丼とかあったり・・・しない。
ちょっとワクワクした私の気持ちを返して欲しい。
「・・・ツカッチー」
「ツカッチー・・・初めて言われたよ。君、あんまり反省してないね?それでどうしたのかな?」
「自腹きるんで、カツ丼をお願いします」
「お腹減ったのかい?」
ツカッチーは不思議そうに首を傾げた後、「ああ」と合点がいったという顔をした。
「ここ取調室だもんね?ごめんね、気がつかなかった。と言うより、別に取り調べしてる訳じゃないんだから、普通に言ってくれれば軽食の一つも出したのに」
「いや、別にお腹減ってません。そういう事ならお菓子が良いです」
「・・・ああ、取り調べ受けたかったのか。ドラマみたいな。もしかして、電気スタンドで顔とか照らされたかった?」
「わ、私はやってない!!ってやりたかったです」
私がそう言うとツカッチーは大爆笑してきた。
なんて失礼なやつだ。乙女の純情を笑い者にするとは。
許さんぜよ。
「━━━はぁーまったく。君は仕方ないな。それにしてもよく考えた物だ。立場的に誉める訳にはいかないけど、君達が迅速に動いてくれたから特に被害もなく、その上多くの情報が集まった。彼の素顔と個性について詳しい映像は今後の捜査参考になるよ」
「でしょ?誉めて誉めて。奢ってくれてもいいよ?」
「調子に乗らない。・・・いや、でもまぁ。彼と接触する前。感知系個性を持つお友達に協力をあおいで事前に単独である事を調べたり、警備と連繋してお客さんの誘導したり。よくまぁやるよ。君がヒーロー資格を持っていれば手放しに感謝していたよ」
手マンを見掛けた時、本当は直ぐ向かおうと思ったんだけど、かっちゃんの姿を思い出した私は直ぐに連絡した。かっちゃんとの相談の結果、今回の計画が練られた。私が接触する前、阿修羅さんや耳郎ちゃんといった感知系の個性や、動物を操り探索できるお口チャックの個性で周辺を捜査。他に不審な行動をとっている者がいないか、悪巧みをしていないか、手マンが単独なのかを調べた。結果一人だったので次の作戦に。
当初は遠目からそのまま監視大作戦だけだったのだけど、手マンに勘づかれないように行っていた客の誘導が上手くいかず、警察なりヒーローが到着した時、手マンが人質とったりとかして被害が出そうだったので、予備作戦であった客払いを済ませた場所に力業で移動させる大作戦を決行するに至った。
かっちゃんからせめて二人でと言われたけど、戦力差がありすぎると手マンがリスク関係なしに暴れそうだったので、あえて一人で誘導した。表面上は。実は近くにマッパ葉隠が不測の事態に備えて待機してたりしてた。
そんな私達の作戦は思った通り手マンに深読みさせた。お陰で私の誘導に面白いくらいに手マンが動く動く。
正直笑いが止まらなかったなり。
移動中、手マンの意識はほぼ私に釘づけだったので、こっそり通りに忍ばせておいた盗撮隊には気づかず、顔写真だったり、声だったり、映像だったりを撮り放題祭り。もうあれだ、お天道様の下で歩けないな。
最終的に逃げられたけど、かなりの情報は得られたと思う。
「・・・これはね、あくまで個人としての言葉だと思ってくれ。協力に感謝するよ緑谷さん。でもね、危ないマネはよしてくれ。確かに怪我人はでなかったけど、君が飛び込んでは意味がない。君を心配する者達の為にも、避けられる危険は避けなさい。まだ君は誰かを助ける義務のない一般人だ。ヒーローの卵であったとしてもね」
それはもう分かってる。
かっちゃんや母様に教えられた。
素直に頭を下げると、ツカッチーに頭を撫でられた。
「さ、そろそろ迎えがくる時間だ。長々と話をさせて済まなかったね。帰ろうか」
部屋を出ると手マンがいなくなった後、直ぐに駆けつけたガチムチがそこにいた。
すっかりヒロョガリモードでベンチに腰掛けていたガチムチは私の顔を見ると立ち上がりこちらに向かってきた。
「ガチムチー」
「緑谷少女!!」
聞いたことのないガチムチの怒鳴り声に心臓がビックってした。びっくりした。
「君はまったく!どうして私の到着を待てなかった!!そんなに信用されないか私は!!」
「別にそういう訳じゃないけど・・・」
「ならば待ちなさい!!態々危険に飛び込むようなマネをして!どれだけ私の肝が冷えたか!!」
そういうガチムチの目は母様と同じだった。
なんだか物凄く悪い事した気分になる。
顔を合わせるのがちょっと気まずくなって顔を伏せると、ガチムチの手があがったのを感じた。チョップ、もしくは拳骨でも来るかと思って身構えたけど、いつまでたっても衝撃がこない。
ちょっとだけ顔をあげて様子を見ようかとしたら、ポンと頭に手を置かれた。
「━━━けどね、一人で頑張ろうとせず、私や友達に頼ってくれたのは嬉しかった。危ない事をしたのは許せないが、いち教師として君の成長は喜ばしく思うよ。本当に無事で良かった」
ガチムチはそう言って頭を撫でてきた。
ツカッチーといいガチムチといい何なのか。
女子の頭に触れるのはそれだけで大罪だぞ。
文句の一つも言いたかったけど、撫でてくるその手が優しくて止めろと言うのに躊躇を覚えた。それに心配させたのは分かってる。
だからこそばゆい物を感じながらガチムチの気が済むまで撫でさせてあげる事にした。
後でこの撫で撫で分は奢って貰おうと思う。
それから少して、母様が爆豪家の皆も引き連れてやってきた。かっちゃんパパの車で来たんだろう。てか、かっちゃんもいた。
母様は警察職員に案内され私の前までやってくると、ボディへ一発。加えてアイアンクローで頭を潰しに掛かってきた。愛情たっぷりに包容でもしてくるのかと思っていただけに、油断していた私は全攻撃クリティカルヒットである。
警察職員が止めに入ってくれたお陰でコンボは繋がらなかったけど、危うくダウン取られる所まで追い詰められた。こんなピンチはいつ以来だっか・・・怖かった。
何とか落ち着きを取り戻した母様に猫掴みされた私は、ツカッチーとガチムチにさよならバイバイしその場を後にした。帰り道、母様だけではなく爆豪家みんなにやんわり怒られたのはちょっと予想外だった。誉めてくれると思ってたかっちゃんパパにさえ、「駄目だよ?」と怒られたのは衝撃でちゃんと謝っておいた。
因みに隣の席に座るかっちゃんは何も言ってこない。
珍しい事にただ黙って外を眺めているだけ。
いつもなら何か言ってくるのに、今日はなにも言ってこない━━━━けど。
視線を落とした先。
私の手に重ねるようかっちゃんの手がある。
重ねられた部分が温い。それはなんか心地よくて、凄く安心出来た。気のせいかも知れないけど、かっちゃんの気持ちが分かるような気もした。
そっと、かっちゃんの肩に頭を預ける。
「心配かけてごめんね。・・・でも、信じてくれてありがと」
「っせぇ。たまたま上手くいったくらいで調子のんな。次はやらねぇぞ」
少し疲れた私はそのままかっちゃんの肩を借りて眠った。
昼間に感じた、嫌な気持ちを忘れて。
◇◇◇
警察とヒーローの連中を振り切って黒霧のバーに帰ると、テレビを眺めていた黒霧が俺を見て驚くような素振りを見せた。
「死柄木弔!!心配しましたよ、問題はありませんでしたか?」
「だからこうしてここにいるんだろ。つけられてない。そんなヘマするかよ・・・」
カウンター前のいつもの席に座り、飲み物を一つ頼む。
黒霧は困惑を隠せないままコップをテーブルに置いた。
「テレビは貴方の事で持ちきりです。素顔について報道されてませんが・・・」
「時間の問題だな。あの女が手抜かりする筈もない。多分バレてるだろ。まぁ、別にいい。外に出ることなんて殆どないしな」
注がれたそれを飲み干し、カウンターに肘をついた。
「それより、この間のあいつらに連絡しろ。使ってやる」
「それは、本当ですか?」
「嘘つく理由なんてないだろ」
そう俺が言うと黒霧はブローカーへと連絡を取り始めた。俺はその様子からニュースへと視線を向ける。
『ヴィラン連合』
画面に映ったその文字を眺めながら、俺は何をするべきか考えた。これから何をどうする為に、何をしなくちゃいけないのか。そういう事だ。
連絡を終えた黒霧は俺の前に酒とツマミのつもりかナッツが盛られた皿をおいた。
俺はあまりアルコールが好きではない。
先生に教えられ嗜めない事もないけど、どうも好きになれなかった。
「なんのつもりだよ」
「あまりアルコールがお好きでない事は承知しておりますが、景気づけというものです」
「景気づけね・・・」
グラスを手に取り口をつけた。
甘ったるさと独特の辛味が喉を焼く。
飲めたものではない。
「死柄木弔。お顔を見れば分かります。何かお決まりになったのでしょう」
同じ色の酒が入ったグラスを手にした黒霧が、俺に興味深そうな視線をぶつけてくる。むかつく視線。思わずぶっ殺したくなるが、その気持ちは心の底へと沈めておいた。利用するべきだ。こいつも、そしてあのムカつくヒーロー殺しも。
「オールマイトを━━━━」
「違う」
否定の言葉に黒霧が固まる。
恐らく俺がオールマイトを殺す算段でもつけたのだと思ったのだろう。だが、それは違う。
「では何を・・・」
「オールマイトは殺す。それは変わらない。けど、それがゴールじゃない」
ようやく分かったのだ。
俺が本当にやらなくちゃいけない事を。
「俺が壊さないといけないのは、この社会に蔓延る安穏とした空気。平和の象徴に支えられた、腐ったこの社会制度そのものだ」
オールマイトは殺す。
他のヒーローも殺す。
邪魔する奴は、全員殺す。
安穏と笑うあいつらがその表情を失うまで、支えになる全てをこの手で壊す。そして知らしめる。ヒーローという存在の脆弱さ。いかに頼りない存在が、お前達の支えであったのかを。
そして俺を忘れようとしていた社会に、俺を刻み付ける。
先生のように。
「黒霧、人を集めろ。有象無象はいらない。個性も頭の中もとびきりの奴だけでいい」
「━━━はい。承知致しました、死柄木弔」
景気づけにもう一度グラスに口をつけた。
やはり口に合わない。
「黒霧、水」
「そこはそのままでないと格好がつきませんよ」
「格好をつける必要はないだろ。結果だけが全てだ。泥臭かろうが、恥辱にまみれてようが関係ない。最後そこに、バカ面してた連中の悲嘆にくれる顔があればいい」
俺がそう言うと黒霧は冷蔵庫から水を取り出した。
何も言わず俺のグラスへとそれを注ぎ入れる。
注がれたそれらはついには溢れ、テーブルを、床を濡らしていった。
「この一杯のように、変えていきましょう。我々の手で。貴方が望む世界へと」
アルコールも碌に残っていないそれを手に飲み干した。
さっきまであった甘ったるさも辛さもない。
面白味もない一杯。
だがそれは俺がねじまげたが故の結果。
「楽しみだな。何が残るだろうな。俺が歩んだ先、何が残るんだろうなぁ・・・くくく、くははは!!なぁ、オールマイト!ヒーロー殺し!」
可哀想な連中を思い、俺は笑った。
気が済むまで、いつまでも。
いつまでも。