私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
「わーたーしーがー!!」
私はその声を聞いた瞬間走った。
恐らく開くであろう、黒板側の入り口へ。
「普通に━━━」
バチん。
開いた瞬間、閉じてやった。
そして流れるようにパクっておいた鍵で戸締まりする。
後に残ったのは、静寂。
私は皆へと振り返り一つの答えを伝える。
「今日のヒーロー基礎学、自習!!」
「いや!普通に授業するから!!」
普通に後ろのドアから入ってきた。
ちっ。
「なんでいきなり閉めちゃうかな緑谷少女!?先生びっくりしたよ!生涯でこれ程ないくらいにびっくりしたよ!心臓バクバクだよ、もう!」
「そのまま果てれば良かったのに」
「不吉過ぎる事を言わないでっ、おじさん耐えられないよ!」
オールさんと話してるとかっちゃんが凄い形相で睨んできた。私に怒ってるのかと思ったけど、どうにもオールさんを見てる気がする。
その時ふとかっちゃんがこのオールさんのファンだった事を思い出した。ああ、成る程。
「オールさん、オールさん」
「緑谷少女、わたしオールマイトなんだけど」
「サイン頂戴」
「えっ!?」
オールさんが滅茶苦茶びっくりしてる。
さっきの比じゃない程だ。どうした。
「え?サイン?わたしの?本当に?借金の借用書?」
「いえ、普通に紙とかで良いですよ。ノートは勿体ないんで、この期限切れのポイントカードの裏でお願いします。借用書はないし」
「借用書があったら、そこに書かせる気なのか・・・。しかし、もっとこう、良い紙なかったのかな?色紙とまではいかなくてもさ。それにしても急にどういう風の吹き回しなんだい?君がサインを欲しがるなんて」
ちょっと照れてるガチムチが気持ち悪かったので、二歩下がった。そしたらガチムチが捨てられた子犬みたいな顔をしたのでもう一歩ひいたら「分かった、そこまでにして」と泣きそうな顔になったので勘弁してあげる。
「えーと、実はですね、あそこでこっちを見てる子がいるじゃないですか?」
「ああ・・・ってあれはヘドロ事件の時の子じゃないか」
「あの子、ガチムチのガチファンなんですけど、性格があれなんで素直にサイン貰えないんですよ。だから、ほら、あんな凄い顔で」
「いや、あれは別の理由だと思うんだけど・・・」
ガチムチはかっちゃんの顔を見ながらそんな事を言った。おいおい、他の理由なんてないって。はっ、もしかしてホモ疑惑再燃!?愛してるガチムチと私が仲良さそうに話してるから、嫉妬の炎が燃え上がってるとか!?
きゃー禁断の花園が開園するぅー。
ここは幼馴染として一肌脱いじゃいますか!(割りと本気)
「・・・名前もいれる?」
「かっちゃんでお願いします。爆豪かっちゃんへって。愛してるってついでに入れて下さい」
「変わった名前だね。そして愛してるってのは君が言いなさい。絶対にわたしが伝えちゃいけないワードだ」
「ははは、心にもないことは言えませんよ」
「爆豪少年・・・」
改めて思うと爆豪かっちゃんって、変わった名前だなぁ。・・・あ、違った、かつきだった。漢字忘れたけど。
「えーごほん。なんか色々と気が削がれちゃったけど、ヒーロー基礎学の時間だ!!ヒーローの素地をつくる為、様々な訓練を行うのがこの課目!!厳しいぞ!」
教壇前でムキムキしながら叫ぶオールさんに皆注目してる。私に背中をつつかれまくるかっちゃんも、この時ばかりは私を無視である。
いつまで無視していられるか、見物である。
「早速だが、今日はコレ!!戦闘訓練!!!」
「戦闘・・・・・・」
「訓練・・・!」
皆が驚く中、私はその手を弛めない。
段々とかっちゃんの首が私の方を向きそうになってる。
凄い面白い。本気で葛藤する人って初めて見たかもしれん。
「そしてそいつらに伴って・・・こちら!!」
教室の壁が動き始めた。
埋め込み式の収納boxになってるみたいで、なんか入ってる。カラクリ屋敷みたい。
これかくれんぼとかしたら、最高に面白いだろうな、この建物。
てか、かっちゃん耐えるなぁ。
「入学前に送ってもらった『個性届け』と『要望』に沿ってあつらえた・・・戦闘服(コスチューム)!!!」
「「「おおお!!!!」」」
「うぉぉぉぉぉぉ!?」
男達の熱い歓声より熱い、かっちゃんの大声が教室に響き渡った。瞬間的にオールさんより注目を集めるかっちゃん。スター性抜群だね。流石未来のすーぱーひーろー。
「何しやがんだ!?てめぇ!!」
「えぇぇー?何って別にー?」
「今、耳に何かしたろぉ!!」
「してない、してない。ふっ、てしただけだぉー」
「それを言ってんだよぉ、クソが!!!つか、それだけじゃねぇだろ!?」
「ぺろってしたこと?」
「それ以外何があんだ、この糞ビッチが!!!」
「誰が糞ビッチだぁ!!処女だっつってんだよ、私はぁぁぁぁ!!」
「━━━ん、どうした、瀬呂。そんな前屈みになって」
「いや、その、左の席がやべぇ。俺この学校に入って良かったわ、切島」
「・・・何を見たんだよ」
「はぁーい、いい加減にしようか!君達!おじさん、怒るときは怒るぞー!」
◇◇◇
グラウンドβで待つこと暫く、着替えてきた生徒達がちらほらと見えてきた。
まだまだ服に着られてるヒヨコ達の姿に、わたしは昔の自分を思い出す。師に見いだされ、ヒーローの道を駆け出したあの青春の日々を。
「歳をとったのだな、わたしも。これ程までに、懐かしく思ってしまうなんてな」
あの頃は良かった。
しがらみも何もない。ただ、平和を願って走り続けるだけで良かった。背負うものは無かった。背負うだけの力が無かったから。
けれど今は違う。
師匠に力を譲り受け、その力で築いてきた。
積み上げてきた平和の石垣は、既に世界に影響を与えている。
わたしは自らの望んでいた平和の象徴になったのだ。
けして負ける事が出来ない、逃げる事すら出来ない。
もはや、わたしの敗北はつまるところ正義の敗北に等しい。
重圧に押し潰されそうになりながらも、それでも懸命に走り続けてきた。重たい荷を背負い、傷ついた体を引きずり、命を削って・・・・。
けれど、もうそれも限界にきている。
あのヘドロ事件の一件以来、わたしのマッスルフォーム時の継続時間は更に減ってしまった。このままヒーロー活動を続けていけば、その時間は更に減っていく事になるだろう。いつしか、変身すらままならなくなる。
だから、そうなる前に後継を見つけなくてはならない。
新たな平和の象徴足り得る、後継を。
出来ることなら背負わせたくない。
平和の象徴は一人の肩へ背負わせるにはあまりに重すぎる。
だがそれでも、平和の象徴を失わせる事だけは出来ない。
この世界はまだ平和の象徴を必要としているのだから。
「彼女しか、いないと思うのだがな・・・」
相澤君に言われて、いかに自分の視野が狭くなっていたか思い知った。確かに彼女は一度も望んでいない。そんな彼女にわたしは第二のわたしになるレールを敷いた。
それがどれだけ独り善がりだったか、考えれば考えるほど自分が嫌になる。
けれど、あの時、爆豪少年を助けに飛び出した、あの瞬間、わたしは確信したのだ。
彼女こそが、わたしの求めていた後継であると。
彼女は誰よりも恐れている。
個性があるこの世界を。
ヒーローが成立してしまう時代を。
だが、それでも、彼女は走った。
都合の良い個性を持っていたから、そうしたのではない。周りから称賛されたくてやったのではない。得られる見返りなんてありはしない。
目の前で苦しむ彼を、ただ助けたかったから走ったのだ。
自らが抱いている恐怖を圧し殺し、震える手足を振った。自らを奮い立たせる為に笑顔をつくり、少年を安心させる為に軽口を叩いた。
あるヒーローはふざけていると彼女に言ったが、冗談ではない。女子中学生というまだ幼さが残る子供が、大の大人、しかも犯罪者に立ち向かっていく事など冗談で行える訳がないのだから。
わたしだけが知っている━━━いや、もしかしたら、側にいた彼も気づいてるかも知れない。
あの場で誰よりもヴィランに恐怖していたのが、誰だったのか。
「━━━しかし、遅いなぁ」
考え事をしながら皆の到着を待っていたが、一人の姿が一向に現れない。
誰かって、緑谷少女しかいないだろう。
「えー、と、麗日少女」
「は、はい!」
緑谷少女と話していた彼女ならば何か分かるかも知れないと声を掛けた。
「緑谷少女はどうしたのかな?」
「えっ、あ、双虎ちゃんは今着替えてます!なんか手違いがあったみたいで『B系の服じゃないんですけどー』って文句言って帰ろうとしたんですけど、皆で説得して、いま頑張って着替えとります!」
「帰ろうとしたのか・・・。しかし、B系の服って。ヒーローとしてそれはどうなんだ」
緑谷少女、普段着を注文する感覚で要望を出したな。
まったく困ったものだ。
その時、グラウンドβへ向かってくる足音が聞こえてきた。その足取りの重さから緑谷少女だろうと思う。
音の方へと顔を向ければそこには、確かに緑谷少女の姿があった。
だが、わたしは、その姿に心臓を掴まれたような感覚に陥る。
魅力的だったからではない。
衣装の奇抜さに目を奪われた訳ではない。
何故ならそれは━━━
「・・・・・・お師匠っ!」
━━━わたしのお師匠『志村菜奈』のヒーロースーツによく似た服を着た、緑谷少女の姿があったから。
少しずつ違ってはいるが、遠目から見たそれは、お師匠の姿そのものだった。
脳裏に過るお師匠の姿と緑谷少女が嫌に被る。
「あ、そう言えば、先生」
麗日少女の声に正気を取り戻したわたしはなんとか返事を返す。
すると、麗日少女から一枚のカードが手渡された。
「さっき双虎ちゃんから預かってたんです。なんか、説明書とは別にスーツ入ってた箱の中にあったらしくて?」
「メッセージカード?」
カードにはただ一文が綴られていた。
『皆は一人の為に』
「━━━━!!!」
全身に鳥肌がたった。
最悪の光景が脳裏を過る。
なぜという思いが駆け巡り、直ぐに緑谷少女のスーツに目がいった。
「授業を一時中断する!!緑谷少女以外はその場で待機するように!!」
咄嗟に出たわたしの大声に生徒達が肩を揺らす。
不満が出てもおかしくないが、わたしの態度に何か感じたのか何も言わないでいてくれたようだ。
わたしは緑谷少女を両腕に抱えると直ぐ様校舎へと走った。
腕の中で緑谷少女が「痴漢」だの「変態」だの騒いでいるがそれどころではない。
もし奴からの贈り物であるなら、何が仕込まれててもおかしくない。
「なぜ、なぜ今更奴が出てくる━━━!」
わたしが倒した、いや、わたしが殺した。
ワンフォーオールと因縁を持つ災厄。
お師匠を殺した仇。
超人時代、最悪のヴィラン。
オールフォーワンの名が。