私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
長かったで(*´ω`*)
「やぁ、皆元気にしてるかな。校長な私は今日も好調さ!」
最強につまらない言葉から始まったのは雄英高校1学期最後のイベントにして最高の居眠りポイント。
終業式における我らがネズミー校長のお話だ。
そしてそれは、私にとって今学期最大の敵との開戦の合図でもあった。長きに渡る、私の戦いの。
校長のお話し。
それは就寝時間がイコールな、眠るのが当たり前の時間だ。
何故なら大体において校長の話は内容がないようぉ、な物だからだ。
稀にためになる話をする人もいるが、そんなのは一握り。大体決まった事を時事ネタを交ぜて言うだけで、定型文の集まりでしかない。一回でも聞いておけば十分なレベルの話だ。
そしてそれはウチの校長にも言える事で、授業だと割と真面目に話すのに、こういう時に限ってツマラナイ駄洒落をぶちこんでくる駄洒落系校長という凶悪な愉快犯と化す。襲ってくる眠気はまさに究極。意識を保つのがやっというレベルの口撃を放ってくる。
なので私はあの手この手を使って回避し続けてきた。時に音楽聞いたり、スマホ弄ったり、読書したり、いっそバックレたり。
事実今日もバックレるつもりだったのだが・・・結果として今回は大人しく列に並んでいる。というのも、逃げようとしたら包帯先生に捕縛され、ついでに「夏休みいらないのか?」と割と本気トーンで言われたのでどうする事も出来なかったのだ。スマホは取り上げられた。
大人は本当に汚いなり。
夏休みくれるって言ったじゃないですかぁ。
さっきの発言で1学年から3学年生徒までほぼ全員が凍りつく中、ネズミー校長は手応えありと言わんばかりの顔で話を続ける。
「今期は皆さんにとって特別な学期となったでしょう。施設内へのヴィラン襲撃を始め、多くの問題が本校に訪れました━━━━ん?マイクの調子が悪いな、音ズレるなぁ」
ネズミー校長の二発目の口撃。途端に私の体は静かにスリープモードへと以降した。これは最早私の意思は介在していない、反射による行動。
止めようのない眠気に、前に立つかっちゃんに凭れ掛かった。
「おい、馬鹿。開始一分もしねぇ内から寝ようとすんじゃねぇ」
声を殺して注意してくるかっちゃん。
今はその声すら子守唄に聞こえる私は、目を瞑りかっちゃんから聞こえる心音をBGMに意識を沈める。
すやぁ・・・。
「すやぁ、じゃねぇ!」
「ったぁ!?」
オデコにデコピンを叩き込まれ、私の意識は辛うじて現世に戻ってきた。可愛いおでこが赤くなってないかちょっぴり心配だが、今は起こしてくれた事に感謝すべきだろう。ありがとかっちゃん。そして、覚えておけよ。このおでこの痛み、きっちり返してやるからな。
痛むおでこを擦りながら、私は元の位置へと戻りネズミー校長の話を聞く事を再開する。
「昨今、歴史上稀に見る犯罪者ステイン氏の逮捕がありましたね。本校に在籍するオールマイトの活躍によりこの国は平和を取り戻しましたが、未だこの超常時代は不安定な世の中。さきの事件の犯人のように個性をもて余す者は多く、またそれは危険が身近にある事も意味しています。常に注意深く、軽率な行動は控えるようにして下さい」
おふざけのないお話。
これはこれで地味に体力が削られる。
一瞬成りを潜めていた眠気が『さっきぶり』と手を振ってくる幻が見えた。
「一ヶ月以上の長期休暇。羽目を外す気持ちも分かりますが、雄英校生である事を忘れず学生らしい行動をとるようにお願いします━━━━そうそう、忘れるといけないのでこれも一つ。最近、学生による水難事故がありましたね。川で溺れたというものです。これは他人事ではありません。暑くなるにつれてそういった水辺へのレジャーをする者がいる事でしょう。行くなとは言いません。ですが、十分注意はするように。海にしろ川にしろ、事故が起きてしまえば楽しい休みに水を差すことになります。水難事故だけに」
長い前ぶりの後、溜め込まれた一発の口撃が眠気様の背中を押した。襲いかかる眠気に負けて、後ろに立つ百に寄り掛かった。おっぱい枕フカフカに頭がフィット。
本来なら私の後ろは峰田だけど、色々とアレだからあいつは先頭に立たされている。こういう時、私の直ぐ後は百なのだ。
「み、緑谷さん!?どうかなさいまして?!」
焦る百の声を聞きながら、再びのすやぁ・・・。
「・・・・」
「いたたたたたた」
眠ろうとしたら頬っぺたをつねられた。
百の無言の見下ろし睨みが怖い。
そっと体勢を立て直すと、百が頬っぺたから手を離してくれた。
「ご、ごめんなさい」
「ええ、許します。ですから、キチンと校長先生のお話をお聞き下さい」
聞いたらまた寝ちゃうんだけど。
そう思ったけど、百がめちゃ睨んでくるから何も言えず、大人しく前を向いた。ふと時間を確認すると校長のは話が始まって5分経過している事が分かった。
校長の話は大体20分。後、15分・・・!
長いなぁ・・・!
スマホで弄れるなら時間潰しも楽なんだけど、そう思ってチラッと職員が並ぶそこを見る。案の定怒髪天を衝きそうな包帯先生がこっちを見てた。
・・・て、もう怒ってますやん。
やばい、寝てたの見られた?いやいや、そんな訳ないよね。こんな遠くから・・・いや、もう、これは見られたと思って良いだろう。だって怒ってるもん。激怒だもん。ヤバイよあれ。私このイベ終わったら廊下に五時間くらい立たされるんじゃないの?水の入ったバケツ持たされるんじゃないの?・・・まぁ、今までやらされた事ないけどさ。
じっと包帯先生を見てると口が動いた。
賢い私は授業で習った読唇術を思いだし、何を言ってるか直ぐに察する。
『シュウギョウシキオワッタラ・カクゴシトケ・ミドリヤ』
成る程、成る程。
これは本格的にオコですね。
分かります。
でも誰に対してかは・・・・名指し!?
あまりの事にかっちゃんに聞いて貰いたくて、背中をトントンしまくる。なのに全然こっち向いてくれない。うわぁ!ヤバイよ!もっと怒った!!━━━あ、またなんか言ってる。
「うわぁぁ、かっちゃんかっちゃん!やばい!怒ってる、包帯先生がマジで怒ってるぅ!」
「っせぇ、背中叩くな」
「『バクゴウモカクゴシトケ』って!」
「っんでだ!?」
思わずこっちを振り向いたかっちゃん。
その様子に包帯先生が眉を吊り上げる。あちゃー。
かっちゃんは私の顔色が変わったのを見て、私と同じ所に視線を向けた。そしてゲンナリした顔をする。
「てめぇ、ふざけんな。何巻き込んでんだ、こら」
「またまたぁ」
「何がまたまただ、こら」
静かにぶちきれたかっちゃんがコメカミをグリグリしてくる。痛い、めちゃ痛い。目がさえる。
「━━━ちっ、後少しだ。なんとか耐えやがれボケ」
そういって私から手を離したかっちゃんは再び前を向いた。態度はあれだけど話を聞こうとするその姿勢は良い子ちゃんそのもの。普段不良みたいな態度の癖に、こういう時優等生過ぎるよ。かっちゃん。
大人しく前を見ると、校長の話が丁度昔話に入った所で迷走してる状況だった。そっと見渡してみれば、私以外にもウトウトし始めた奴等が現れている。
長ったるい話を眠気と闘いながら頑張って聞いてると、ネズミー校長は何かに気づいたようにハッとした。
「私が若い頃は━━━━と、少し話が逸れ過ぎたかな。恥ずかしい。つい熱チュウしてしまった。いつもそうなんだけど、私はネズミ時代の話するとどうしても熱チュウしてしまう所があってね。話をチュウ断してすまない。以降チュウ意するよ。ネズミだけに」
・・・・・・はっ!?危ない!気を失うかと思ったわ。
てか、チュウチュウうるっさいんだよ!!
つまんないんだよ!寝るかと思ったわ!!
いや、一瞬寝たわ!
ぐぅぅぅ、しかし効いたなぁ。
まるで母様のボディブローのようだ。
いや、あれは速効性アリだったっけか。
どっちにせよ、ネズミーめぇぇぇぇ。
「緑谷、だっけ?大丈夫・・・?」
聞き慣れない声に顔を向けるとB組の女子がこっちを見てた。手の位置がお化けっぽい子だ。話した事はない。
「・・・あ、いきなりごめん。・・・私、柳レイ子。物間がアレだから勘違いされるかも知れないけど・・・別になにかしようって訳じゃないの。ただ、さっきからフラフラしてたから気になって・・・」
なんか心配してくれたみたいだ。
気持ちが嬉しかったのでサムズアップして返事をしておく。
「ありがと。心配してくれてサンクス。でも大丈夫だから」
「大丈夫なら・・・良いけど」
「柳、緑谷の事はほっといて前見とけ」
お化けっ子と話してるとB組最後尾にいる目付きの悪い奴が割り込んできた。名前は知らない。見たことない。誰だろ。
「鱗。でも、体調悪そうだったから」
「ブラド先生に怒られんぞ」
お化けっ子と話しているのだからB組なのは間違いなだろうけど・・・?不思議に思って首をかしげてみると、目付きの悪い奴がムッとした。
「おまっ、忘れてんのかよ!?俺の事!体育祭の時、戦ったろ!」
「体育祭・・・いた?」
「こ、このやろう・・・!欠片も覚えてねぇ」
だって知らんもん。
「・・・・ああ、小学生の時、隣町に引っ越した」
「体育祭って言ってますけど!?ちっ、ほら!あれだ、お前らに、その、捕縛網に捕まえられた━━━って、このやろう、全然心当たりねぇって顔しやがって!」
頑張って考えて、ふと思い出した。
「毛むくじゃらの上に乗ってた奴?発目にやられた?」
「うぐっ、そ、そうだよ」
漸く思い出してすっきりした私は校長のつまらない話を聞く為に前を向いたのだが━━━「おい」と呼び止めるような声が掛かってきた。さっきの目付き悪い奴なのは分かるけど、私的に用はないので放っておく。
「なんでそっち向いた。話は終わってないぞ」
無駄話はいけない。
百からの視線も鋭くなってきたので、振り向かずに黙っておく。
「おい、緑谷。いいか、よく聞いとけ。あの時は俺も宍田も負けたけどな、二度目はねぇ。次に戦う時があったら覚悟しとけよ。今度勝つのは俺達━━━━がっ」
突然止まった声。
気になってちょっと覗いてみると、赤いヒーロースーツを着たB組の担任が目付き悪い奴をアイアンクローしていた。
「━━━校長先生のお話し中だ。鱗。他所のクラスに何ちょっかい掛けてんだ、お前は。話がある、ちょっとこい」
引き摺られるように連れてかれた目付き悪い奴の冥福をお化けっ子と祈り、私は校長のつまらない話に今度こそ戻る。
それからの校長の話も大概につまらなかったけど、私は何とか乗り切った。途中何度も記憶が飛んでて、何度もかっちゃんの背中で居眠り未遂したけど。
「さて、もう時間だね。長々と話してしまってすまなかったね。そろそろ幕引きとしよう」
「色々と言ったけれど、今学期はいつもより多くの出来事が起きた時だった。それを受け私達教師陣は多くを学び、また生徒諸君も普段は体験出来ぬ貴重な経験をした事だろう」
「今回の経験で多くの者は前進し、中には後退してしまった者もいたかも知れない━━━が、焦る事はないさ。それは一時。これから長い人生の中でまた多くを学び、今期の経験は必ず力に変わる筈さ」
「超常時代を生きる若者達、よく今期を頑張り尽くした。一ヶ月と少しの夏休み、体を休めるもよし、多いに遊ぶもよし、学ぶも鍛えるもよし。自分が納得するやり方で満喫し、二学期という新な戦いに備えて欲しい。それで最後は言葉で締めるとしよう」
「明日を生きてく君達へ『Plus Ultra』さ!!」
ネズミー校長の声に続くようにプルスウルトラの声があがった。
主に2・3年生の声で1年はまだ慣れてない感じがする。私?私は勿論言ったよ。全力だよ。だってこれ言ったら終わりだからね。
そうしてネズミー校長の話は終わり、終業式は終わりを迎えた。
無事居眠りせずに乗り切った私だったが、その後包帯先生にしこたま怒られたのは言うまでもない。
かっちゃんと一緒に・・・・!