私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
ま、いうても、予定より話進んでねぇでやんすけども。
青い海、白い砂浜、頬を撫でる潮風とギンギンに輝く太陽。それと、ふわりと浮かんだカラフルなボール。
「はぁぁぁぁ!!ニコちゃん108の必殺技!!」
夏の定番をこれでもかと詰め込んだそこで、私は渾身の力を以て空に浮かんだボールに、振りかぶったその手を叩きつけた。
「エクセレントスーパーギャラクシーメガトンライトニングスペシャルストロンガーアトミックバーンスパイク!!」
ボールは高速回転しながら真っ直ぐに落ちる。
狙いを定めたように、つんつん赤髪くんの顔面に向かって。
「ごっぱっ!!?」
物の見事に顔面で受けきった赤髪は地に伏せ、ボールは明後日のほうへと飛んでいく。フォローに走った地味顔の努力虚しく、ボールは砂を弾いた。
「ゲームセット。勝者、緑谷さんチーム」
終了をつげる百の声に、私は同じチームメイトお茶子と手を打ち合わせる。いえーい。
「緑谷ぁ!ちっとは手加減しろよ!なんだよ最後のスパイク!?軽く走馬灯見えたぞ!」
お茶子と勝利の余韻に浸っていると、切島が文句垂れてきた。賭けビーチバレーなのだから、本気でやって何が悪いというのか。
「勝負事は本気でやんないと面白くないでしょ?それよか負けたんだからジュースととうもろこし買ってこーい」
「くそぅ、ぐうの音もでねぇ」
とぼとぼと隣の砂浜にある海の家へ買い出しにいった、二人の負け犬の背中を眺めながら私は思った。
焼きそばも欲しいなと。
「負け犬ぅぅぅ!!焼きそばも買ってきてぇぇぇ!」
「負け犬とかいうなぁ!!・・・・てか焼きそばもかよ!少しは遠慮しろぅ!」
負け犬達に手を振りながら思う。
海いいねぇ!と。
お茶子と耳郎ちゃんの水着選びに熱中する事一時間。
ようやく二人を着替えさせた私らは砂浜に向かった。
砂浜に辿り着くと、丁度男連中が用意しておいた浮き輪とかを膨らませている所だった。
「おまたー」
私の声に作業してた男連中の手が止まり、こちらに振り返る。
私達の姿を見て男子達が固まったのが分かった。そしてその視線の先に何があるかも。
チラッと後ろの女子ーずを見れば私でも目がいくものがある。ビキニに着替えさせたられたお茶子を始め、あしどん、百、私を含めた四人の強調されし胸の谷間ははっきり言って凶器だろう。宝剣、童貞殺しだ。
勿論他の女子ーずも良い感じではある。
梅雨ちゃんは独特のエロチックさがあるし、チューブトップタイプの水着を着させられた耳郎ちゃんは肩ヒモが無いせいか肩のラインが矢鱈とセクシーだし━━━━あ、いや、葉隠はどうだろう。私は良いと思うけども、水着が浮いてるようにしか見えないから・・・・まぁ人によるよね?
男子の視線に気づいたお茶子がそっと胸を隠す中、あしどんがズンズンと男連中に近寄っていく。
童貞達には刺激が強かったのか酷く狼狽えている。
「待たせてごめんねー!さっ、遊ぼ遊ぼ!」
そう無邪気に笑うあしどんのおっぱいが動きと共に揺れる。面白いくらい男連中の視線がつられて動く。
なにあれ、超面白い。
ぎこちない男連中も交えて遊び始めたあしどん達を他所に、私は早速かっちゃんの元に向かった。
パラソルの下でレジャーシートを敷き横になってたかっちゃんは、私を見かけると面倒臭そうな顔をしながらも体を起こした。
「ほらほら、みてみて!どうよ!」
「・・・そもそも俺が選んだやつだろうが。つか、一回見たわ」
それはそうなんだけども。
そこはそうじゃないでしょ。
「分かってないなぁ、かっちゃんは!海で見るのと、試着室で見るのは違うでしょーが!このギンギラギンの太陽の下で見る良さってのがあるでしょ!」
「どこで見ても変わんねぇわ」
そう言うとかっちゃんはそっぽを向いてしまった。
一言くらい褒めてくれると思ったので少し残念。
「ま、いっか。それよりオイル塗ってぇー」
「あ?ああ、面倒臭せぇな。ほら貸せ・・・・はぁ!?オイルだ!?」
私からサンオイルを渡されたかっちゃんは目を見開いた。どうせツッコむなら渡される前にして欲しい。心臓に悪いわ。この流れはやりますよの流れでしょ。
「丸顔にでも頼めや!」
「まぁまぁ」
「まぁまぁじゃねぇ!━━━っぶは!!」
返されたオイルをかっちゃんの顔面に押し付け、私はかっちゃんの隣でうつ伏せになる。やり易いようにヒモも外しておく。
「っ!おまっ、なにいそいそ準備してやがんだ!?やんねぇぞ!こら!」
「まぁまぁ、そこを何とか」
「まぁまぁとか言っとけば、俺がやると思ったら大間違いだからな!!てめぇ!」
中々やってくれない、強情な。
中学の頃はもっとすんなりやってくれたのに。
「やってよぉー。かっちゃんにやって貰うと、なんか良い感じなんだもん。光己さんにやって貰った時ほどじゃないけど、日焼け跡酷くならないんだよね」
「あぁ?なんだそりゃ・・・あ?まて、どっかで聞いた━━━ババァか。まさかババァみてぇな効果まであんのか・・・?」
じっと自分の掌を見て嫌そうな顔するかっちゃん。
かっちゃん的には美容効果とか微妙らしい。
こっちとしては羨ましい限りなのに。本当にあったらの話だけど。
「まぁ、そんな訳でさ、やってやって」
「━━━はぁ、今回だけだからな」
そう言うとかっちゃんはオイルを手に馴染ませ始めた。
いきなりぶっかけられるかと思ってたけど、こういう所は相変わらず丁寧なんだなぁと改めてかっちゃんの完璧っぷりに感心する。
「おい、触るぞ」
驚かさない為か、かっちゃんが声を掛けてくる。
私がそれに頷くとほんのり人肌に温められたオイルがそっと塗られ始めた。
かっちゃんの手は朝と変わらずゴツゴツだけど、その触り方は優しいのになっていて嫌いではない。寧ろちょっと心地好い。腰の上辺りから塗り始められたそれは段々と上に向かっていく。
「ひぅっ、ぅん」
背筋を撫でられのがくすぐったくて、思わず変な声が漏れてしまう。それと同時にかっちゃんの手が止まった。
どうしたのかと思ってちょっと顔を向ければ、かっちゃんが空を眺めていた。
「どしたの?」
「・・・っせぇ。んでもねぇわ」
「?そう?」
何でもないならと顔を楽な方向に向け直す。
するとかっちゃんの手がまた動き始めた。
かっちゃんの手つきはエロくないんだけど、どうも肩甲骨辺りはくすぐったくて仕方ない。変な声が出そうになる。てか、何回か出してしまった。その度にかっちゃんが手を止めるので、中々終わらなくて本当にまいった。くすぐったくて仕方ないから一思いにやって欲しいのに。
「━━━終わったぞ」
長きに渡るくすぐり地獄が終わり、かっちゃんの手が離れた。解放された私は起き上がろうとしたんだけど、何故だか背中を押されて倒された。
触れた感触からかっちゃんが押し倒してきたのは分かるけど、何だってんだいこらー。
「ヒモ縛れ、馬鹿が!」
「あ、忘れてた」
オイル塗って貰う為に解いてたんだった。
早速寝転んだまま直そうとしたけど上手くいかない。縛れるは縛れるけど、ぐちゃっとしてしまう。気に入らぬ。
なので近くいる手の空いてる人を使う事にした。
「縛ってぇ」
「てめぇでやれや!!」
今日一番の怒鳴り声。
かっちゃんはこんな時でも元気だねぇ。
でもそんなに全力で断られても困る。何故なら私はヒモを縛る程度のことに労力を割きたくないからだ。今の私は遊ぶこと以外、少しも頑張りたくないのだ。
上目遣いでお願いすればなんとかなるだろ、と思っていると「緑谷」と声が掛かった。視線をそこへと向けると紅白饅頭の姿があった。
「・・・・」
無言の紅白饅頭からは何か得体の知れないオーラが出ていた。何となく困ってる私を助けにきてくれたのは分かるけど、そこまで気を張るようなピンチではないし、何よりこっちを見る目が怖かったので本気でご遠慮願いたい。
「何か━━━」
「おら、縛ったぞ」
紅白饅頭が何か言おうとしたが、かっちゃんの声に遮られてそれも聞こえなくなる。
ぎゅっと縛られたヒモの感触にほっとした。
紅白饅頭を見るとちょっとシュンとしてる。
・・・ああ、うん、ありがとね。
気持ちだけは受け取っておく。
私はかっちゃんが塗ってくれなかった部分にサンオイルを塗りこみ、ビーチバレーし始めた皆の元に戻った。
かっちゃんも誘ったけど「面倒臭せぇ」との事で断られ、一応紅白饅頭の事も誘ったけど「わりぃ、今はいい」との事で断られた。
水着美少女の誘いを断るとは、なんて贅沢な奴等だろうか。
ふたこにゃん、久方ぶりのぷんすこぉぉぉぉである。
この怒り、何処にぶつけてくれようかぁぁぁ!
すると程よく目の前にボールが飛んできた。
ので、大きく手を振りかぶり━━━━。
「割り込みスパイク!!」
「━━ぶがっ!?」
「瀬呂!?」
◇━◇
皆の元に向かった緑谷を眺めながら、何をしてるのかと自分が情けなくなり溜息が溢れた。
意識する前と同じように普通に振る舞う。
それだけの事なのに、当たり前に出来ていたことが今は無理だった。
飯田に色々と相談に乗ってもらい、あまつさえ協力までさせてしまっているのに、話す所か若干引かれるという状況。本当に何をしてるのか。
俺は行き場のない気持ちと共に爆豪の隣に腰掛けた。
「・・・んで、俺の隣に座ってんだ。てめぇは」
「わりぃ・・・少しこのまま居させてくれ」
「わりぃと思ってんなら、失せろや」
そう荒い言葉で責めてくるが、爆豪が暴力を振るってくる事はなかった。ただ人を殺さんばかりの視線をぶつけてくるだけで。
「優しいな、おまえは」
「気持ちわりぃ事言ってんなボケ!!!本気でぶっ飛ばすぞ!!」
殺気を感じた。
これは多分本気のやつだ。
何か不味い事を言ってしまったようだ。
反省した俺は口を閉じ、海を眺める事にした。
波の音がどこか心地よかった。
朝から感じていたモヤモヤとした何かが、うっすらと晴れていく気分になる。
暫くぼーっとした後、何となしにに爆豪に尋ねてみる気になった。
「爆豪」
「・・・話し掛けんな」
「お前、緑谷の事好きだよな?」
「━━━ぶっ!?」
丁度飲み物を口にしていた爆豪が噴き出す。
変に気管に入ったのか噎せかえり、そして酷く咳き込んだ。
驚かせてしまったようだ。
少し悪いとは思ったが気になったそれを忘れられない為、そのままこちらを睨む爆豪に続けた。
「少し前までな、俺はお前らが仲の良い幼馴染なんだと思ってた。向ける好意とか、家族に向けるみたいなもんだと」
「・・・・・・」
「けどな、ようやく自分の気持ちが分かって気がついた。お前が緑谷に向けてるのが、そうじゃねぇって事」
それだけに思う。
よくこいつは平気な顔してあいつに接してられるなって。
「俺には出来ねぇ・・・どうしても、色々気になっちまうからよ」
そう溢した言葉に、隣から溜息が漏れた。
「━━━━別に、簡単な訳じゃねぇ。けどな、あいつが━━━━」
そこから先の言葉はなかった。
ただ、ばつの悪そうな爆豪の顔をみれば、何を言おうとしたのかは分かる。
「はぁぁぁぁ!!ニコちゃん108の必殺技!!」
ビーチバレーしてた皆の方から緑谷の元気な声が響いてきた。矢鱈と長い必殺技名を叫びボールを叩く緑谷は本当に楽しそうで、見ているこちらも楽しくなってくる。
「気持ちを伝えるのは大切だと思う。そのお陰で、俺はお母さんとまた話せた。・・・けどよ、それだけじゃ駄目なんだろうな」
「俺に言うな。ぶっ飛ばすぞ」
楽しそうにはしゃぐ緑谷から海に視線を戻し、俺は大きく息を吐いた。そしてまた大きく息を吸い込む。
上擦っていた気持ちを抑える為に。
「少し楽になった。━━━爆豪、行くか」
「はぁ?何言ってんだ、てめぇ」
「お前が別にいいなら、俺は一人でいくぞ?」
「・・・ああ?」
そう言うと爆豪は顰めっ面で立ち上がり俺の前を進んだ。ポケットに手を突っ込み、いつものように。
「素直じゃねぇな・・・」
爆豪の態度に呆れながら、俺もその背中に続いた。
緑谷達の所へ向かって。