私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
無機質な音が鳴り響く暗く淀んだ部屋の一室。
僕はお気に入りのレコードを聞きながら、椅子にもたれ掛かっていた。
点滴の刺さっている腕が疼く。
煩わしく思ったが、今のこの体ではそれを外す訳にもいかない。それすらも叶わない、脆弱な体なのだ。
彼に敗北した己れの不甲斐なさの結果であるこの姿。もう受け入れてはいるが、彼の事を思い出すとやはり気分の良いことではない。
カチャ。
そういう金属音と共に部屋に気配が一つ入ってきた。
感知した反応通りの人物であれば、彼だ。
「やぁ、ドクター。どうかな、調子は」
僕の言葉にドクターは眉をしかめた。
「それは皮肉かな、先生」
「とんでもない。僕はただドクターの体調を心配しただけさ。他意はないよ」
「だと良いんだがな。調子は相変わらずだ。まだ、先生の体を治すめどは立たんよ」
「なら、あれはどうしたかな?上手くいったかい?」
「ああ、あれか。混ざる前に死んだよ。前例があるとはいえ、無茶な話だ」
ドクターは近くにあった椅子に身を沈めた。
「個性を複数持たせる事は可能。が、そこからが上手くいかん。個性を混ぜ合わせる。言葉では簡単だが、これが中々どうにもな」
「だが、僕の弟は上手くやった」
「それが特別だった、と思いたいがな」
カルテを読んでいたドクターは溜息を落とす。
酷く疲れているように感じる。
「なら、諦めるかい?」
「馬鹿を言うな、先生。こんな面白い事、止められるものか。何より、この技術が確立出来れば私は━━━いや、この話は止めておくか。取らぬ狸のなんとやらというからなぁ」
「それは良かった。ドクターほどの協力者がいなくなると、僕も困ってしまうからね」
「言い寄るわ。怪我さえなければ、そうも思うまいよ」
乾いた笑い声をあげたドクターは何かを思い出したように表情を固めた。
「そういえば、アレは届けておいたぞ」
「ああ、忘れてたよ。無事に彼女の元に?」
「雄英も大した事はない。所詮はただの教育機関の一つだ。贈り物の一つも止められないのだからな」
「あそこに期待し過ぎてはいけないよ、ドクター。いやぁ、いまや何処もかしこも同じかな?酷く温く、酷く臭い。つまらない時代になった。」
「あんたが勝ってれば違ったか、先生?」
面白い事をいう。そんな事、当然だろう。
けれど現実はこの様。
もはやそれを口にする資格は僕にはない。
「例え話は嫌いなんだ。それは次代の彼に任せるよ。」
「その彼は上手くやれるのか?」
「やれるとも」
その為に育てた。
それだけの為に育てたのだから。
「彼は僕になる大切な大切な、僕の生徒だよ。必ず、僕になってくれるさ」
そして、オールマイトの作ったくだらない時代を終わらせてくれる。僕の全てを奪った彼から、今度は僕が全てを奪いさる。
「ふふふ、楽しみだなぁ」
僕は音楽を嗜んだ。
無惨に血の池に沈む彼の姿を想像しながら、苦悩に歪む彼の顔を想像しながら、みすぼらしく死んでいく彼の姿を想像しながら。
僕は音楽を嗜んだ。
彼を思って。
彼に選ばれた少女を思って。
「━━━プレゼント、喜んでくれたかなぁ。ねぇ、緑谷双虎ちゃん」