私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
もう普通のタイトルにしようかなと思うこの頃。
でもやっぱりそれはやだなと思うこの頃。
がんばるもん( *・ω・)ノ
磨く前からダイヤモンド。
美しさの結晶的な存在である私は雄英高校一年生、緑谷双虎16歳。
ついこの間、誕生日がやってきたピカピカでピチピチな穢れを知らない超弩級美少女だ。
誕生日プレゼントは現金のみで向こう一ヶ月は受け付け予定の私は、夏祭り当日というその日、少しの緊張と共に行きつけの美容院を訪れていた。
「緑谷さんは~今日は~例の彼氏くんとデートですか?羨ましいですねぇ・・・ハゼレバイイノニ」
「いや、その例のがかっちゃんの事だとしたら、やつは彼氏じゃないですから・・・てか、なんか最後に呪いの言葉吐きませんでした?」
私の指摘にお姉さんは表情一つ変えないで、尚も楽しそうに髪を弄る。
「あら?照れ隠し?ふふ、隠さなくてもいいのに。あんなに━━イチャイチャ━━仲良くしてる癖に~。お姉さん、そんな嘘に騙されないんだから!・・・バクハツシサンシタライイノニ」
「さっきっからちょいちょい、捨て台詞みたいに呪い吐かないでくれます?!違うって言ってるじゃん!」
「なに!?当て付け!?この間振られた私への当て付け!?ほんと、はぜれば良いのにぃ!!」
「普通に言えば許されるとか、そういうのもないですからね!?ていうか、私の話を聞けぇ!」
今日は浴衣にあう髪型にして貰いにきたのだけど、運悪くお姉さんが振られた直後みたいで、面倒くさい絡みをしてきた。死ぬほど面倒くさい。
「良いなぁ!良いなぁ!緑谷さんは彼氏と一緒に夏祭りデート!それに比べて私はっ?はっ!仕事ですよ!こうして髪を結ってる訳ですよ!へっ!やってやれませんわぁ!!」
「やってよってば!?私お客様なんですけどぉ!?」
「何が悲しくて人の応援ばっかりしなきゃなんないのよ!元はと言えば━━━━あ、私悪くないや!!聞いてよぉ緑谷さん!彼ったらねぇ!」
「髪を結ってってば!?それは後で聞くからさ!間に合わなくなるじゃん!」
私の言葉にお姉さんは時間を確認してテヘペロしてきた。おい、28歳。そろそろキツい年頃でしょうが。
「いっけね、それもそうね。それより髪型どうしようか?いつもみたいに上げちゃう?それとも下ろしてみる?」
「それを相談する為に来てるんですけ━━━いいや、文句言う体力が勿体ない。えっとね、着てるのに合わせてぇ」
「着てるのにねぇ・・・」
お姉さんは一通り私の姿を眺めた後、髪型のカタログを取り出す。
「定番だけど、シニヨンとか良いんじゃないの?緑谷さん髪長いし、可愛く纏めてみちゃう?」
「シニヨンかぁ・・・でも、いつもと変わんなくない?」
「あらあら、いつもと違う感じにしたいの?・・・サカリツイテンジャナイヨ」
だからボソッと呪いの言葉を吐くなってよぅ!
背筋がぞわってするでしょーが!
まったくもう。
ジロッと見てやればお姉さんが肩を竦めた。
そのオーバーアクションと浮かべた表情がむかつく。
「こほん、えーとね、シニヨンっていっても色々あるし、雰囲気は変わると思うわよ?流しても良いけど、やっぱり浴衣っていったら首筋のラインを見せた方が綺麗に見えるの」
「そっかぁ、じゃぁそれで良いや。後はお姉さんに任せる」
「簡単に決めるわね。ま、こっちは楽で良いけど」
お姉さんは慣れた手つきで髪をとかし束ね始めた。流石に勤続年数五年生。普通に上手であっという間に結っていく。
「前髪は流すとして、他は軽く巻いとこうか?」
「巻くの?」
「すこーしよ。全体的にふわっと仕上げようと思ってねぇ。そうしたらもっと可愛くなると思うわよ。━━━それに、あんまり普段のイメージから変えすぎるのもあれなんでしょ?」
「え?うーん、まぁ」
「そうだと思った」
お姉さんは幾つかカタログの写真を見せ、大体の完成像を教えてくれる。特に問題もなかったのでそれで進めて貰った。
「それにしても難しいわよねぇ、女って」
「いきなりどした、女の子28年目」
「緑谷さん、どつくわよ。━━━いやね、髪型変えたいっていっても、まるっきり変えたくないないとか、男には分からないだろうなってねぇ。前カレがそうだったんだけど、髪切っても気づかないのよ、全然」
かっちゃんは気づきそうだけど。
まぁ、でも言われた事はないかなぁ。
「正直ね、髪型変えてみたいって聞いて驚いたわよ。いつも同じ髪型だし、なにか拘りがあるのは分かるからねぇ。やっぱり彼は特別な訳だ?」
「そーでもないと思うけど・・・」
「どーでも良いやつの為に美容院にきてまで髪型セットしないわよ」
そう言われると何をしてるのか不思議な気分になってきた。今更ながらなんでこんな事してるのだろうか、私は。まぁ、かといってキャンセルするつもりもないんだけど。どうせなら可愛く仕上げて貰いたい。
「━━━ねぇ、緑谷さん。ポニーにしてるのって、もしかして彼氏の好み?」
「だから彼氏じゃ・・・はぁ、もういいや。どうせ聞いてくれないし。そんなじゃないですよ?これは・・・・・・んん?」
そう言えばポニーにし始めたのっていつからなんだろ。
思い返すと小学生低学年くらいの時は色々な髪型にしてた気がする。
髪を結われながら思い出していくと、ふと思い出した。
「確か━━━━あれ?」
かっちゃんじゃね。
「どうしたの?」
「え?あ。いや?ん?いやぁ?ええぇ?」
「本当にどうしたの?」
「のーこめんとで」
思い出した、というよりなんで今まで忘却してたのか。
そう言えばそうだった。
『けっ、い、良いんじゃねぇの。知らねぇけど』
ポニーにした時、初めてかっちゃんが褒めてくれたんだったか。普段悪口とか生意気な事しか言わないのに、急に褒められたから嬉しくて・・・ガキか私は。やばい、超恥ずかしいんですけど。
事実は少し違うけど、大まかな所は後ろの失恋モンスターの言うとおりになんですけど。ヤバイんですけど。
ふと鏡を見た。
いつもと違う髪型。
ちっちゃい頃のかっちゃんの顔が頭に浮かんだ。その直ぐ後に、今のかっちゃんの顔も。
「・・・可愛いかなぁ、これ」
「ん?どうした、どうした。若者。可愛いから大丈夫よ。馬鹿男メロメロよメロメロ。彼氏くんもいちころでしょ。顔だけは良いんだから」
「そうかなぁ・・・?って顔だけって言わなかった?28歳こら」
またテヘペロした28歳から目を逸らし鏡をみた。
そこに映るのは普段と違う姿。
急に変えて、かっちゃんに笑われないだろうか。
いや、可愛いのは分かるんだけど。私超弩級美少女だし?うん。何をしてても可愛いし、美しいし?うん。
・・・・・・・。
でも相手はかっちゃんだしなぁ。
常識とか蹴飛ばしてきそう。
「褒めてくれたらいいなぁ・・・」
「・・・これが男のいる女と私の乙女力の差か。私には一生その言葉は出ないわ」
「・・・へ?ああ、いやいや、彼氏じゃないし」
「彼氏くん不憫ねぇ」
それから数十分。
髪を綺麗に結って貰い外に出ると、今日のお祭りに付き添ってくれるお茶子が目を輝かせて待っていた。
お茶子は私の髪型を見ると「おぉ」と感嘆の声をあげる。
「可愛く仕上がったねぇ!━━って、それこの間あげたゴム?」
「そう、折角だからつけて貰っちゃった」
今の髪型を作るのに幾つか髪留めゴムを使っているのだけど、その内の一本はお茶子から誕生日プレゼントで貰ったやつである。だんでたいがーとかいうヒマワリモチーフの虎のキャラクターで、腑抜けた顔が可愛いやつなのだ。
「気持ちは嬉しいんやけど・・・合わないんちゃうかなぁ?私ももっとちゃうの買うとけば良かった」
「いいの、いいの。そういう気分なんだから。それに可愛いよ、これ?」
「ふふ、そう?まぁ、本人が喜んでくれてんならええか」
そう笑うお茶子の姿を眺めた。
また随分と気の抜けたファッション。
最近になって気がついたけど、お茶子は割と男らしい所がある。部屋の感じとか、男子への態度とか、眼鏡と熱い友情かましてる所とか、正にそうだ。
「かといって半袖短パンはなしでしょ」
「え、ええやん!別段変やないやろ?普通でええの!それにしゃーないやん!だって浴衣とか着ると思わなかったから、実家から持ってきてへんねんもん!」
「浴衣着ろとは言わないけど・・・もっと何かあったんじゃないかなぁと、思わなくもない」
「ええの!・・・洗濯とか面倒やし」
本音が溢れてるぞ、お茶子。
待ち合わせ時間まで少しあった為、私達は近くの公園で休む事にした。公園前には夏祭りにいくのか浴衣姿の人が何人も通るが見える。
そんな光景をぼんやり眺めながら飲み物片手に話しているとクラスメイト達の話になった。
「はぁーでも残念やったね。皆来れれば良かったのに」
「まぁ、そうはいっても、いつもいつも時間が合う訳じゃないしねぇ」
「そら、そうやけど」
そう、今日の夏祭り、A組の参加者は私を含めて四人だけなのだ。あしどんは地元の友達と遊びに夢の国。葉隠も中学の時の友達と動物園。百は家の関係でパーチーに出なくちゃいけないらしくお高いホテルにinしてるとか。梅雨ちゃんは弟達の面倒をみないといけないので無理。耳郎ちゃんも家族関係で用事があっていけない。
男連中がどうなってるか知らないけど、取り敢えず来るのはかっちゃんと轟だけだ。
「飯田くんも来てくれたら良かったんやけど・・・」
お茶子の呟きに私の鋭い恋愛センサーが警報を鳴らす。
これはきましたわー。
「ほほう?気になっちゃうお年頃?」
「ニコちゃんが何を考えてるか何となく分かるけど、それやないよ。全然ちゃう。はぁ、一人でなんとか出来るやろか・・・」
何をするんだろ、お茶子。
お茶子の動向が気にしてると、突然手提げから爆撃音が響いてきた。かっちゃんからの電話だ。普段は別の曲にしてるけど、今日は夏祭りという騒がしい場所にいくので元気な着信音に変えておいたのだ。
「なんなん!?」
「電話、かっちゃんから」
「まんまやないの!?」
お茶子のツッコミを聞きながら電話に出ると、こちらからも元気な声が響いてきた。
『こらぁぁ!!てめぇ、何処にいやがる!』
時間を見れば待ち合わせ時間五分前だ。
まだ大丈夫な筈なのになんなのか。
「っさいなぁ。もう着くから待っててよ」
『はよこいや!いつまでも、アホ紅白と待たせんじゃねぇ!!』
そっちか。
我慢出来なかったの、そっちか。
『爆豪、それ緑谷に繋がってんのか?』
かっちゃんの声に紛れて紅白饅頭の声が聞こえてきた。
『っせぇわ!!勝手に反応してんじゃねぇ!!寄るな!!ぶっ飛ばすぞ!!』
『緑谷、慌てなくていい。ゆっくりこい』
『てめぇ!?なに勝手に話してんだ!!おい!』
わちゃわちゃと何か聞こえた後、電話がぷっつり切れた。
なんとなしに隣のお茶子を見れば苦笑いしてる。
「出来るだけ、はよいってあげよっか?」
「そうだねぇ、いこか」
少しだけ小走りで、私達は待ち合わせ場所に向かった。