私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
短い夏休み編、たぶんここで終わりや。
いっこ閑話はさんで、いよいよ林間合宿スタートするで。
原作一切関係なしの話、付きおうてくれてさんくすすやで。
祭り囃子を耳にしながら、私とお茶子は人で賑わう神社への道を進んだ。掻き分けるという程ではない人混みを縫うようにトットコする。━━━けど思ったより人がいて思うように進めない。待ち合わせ時間、微妙に間に合わなそう。
浴衣に合わせて履いた下駄が石畳とぶつかりカランカランと音を立てる。煩いこともあれなんだけど、凄く走りにくくて仕方ない。履きなれてないこともあって、ちょっと擦れた感じもある。痛くないけど、そのうち痛くなりそ。
調子にのって履き物まで揃えなきゃ良かったなぁ。
下駄走りずらい、もうサンダル欲しい。
泣き言言った所でどうにもならないので我慢して待ち合わせ場所にいくと、今日も今日とて元気に喧嘩するかっちゃん達の姿があった。通行人にめちゃ写メられてる。
「かっちゃん、轟!」
そう手を振って声をかけると、二人の視線がこちらを向いた。
「ごめんね、ちょっと遅れて。こんなに混んでると思わなくてさ・・・」
例年と違ってちょっとしたイベントがある事は母様から聞いてる。だから混むかもしれないとは思ったけど、ここまでとは流石に思わなかった。1.5倍はいると思う・・・いや、正確な所は知らないけどさ。
可愛く謝ってうやむやにしようとしたけど、期待していた二人からの『許す』という返事がない。気になって下げた頭を持ち上げ様子を窺ったら━━━━二人とも何故か固まっていた。
すわっ、ゴーゴンかな!?と、周囲を見渡してみたけどそんな奴はいなかった。おおん?
「かっちゃん?轟?どした?」
もう一度声を掛けると二人ともハッとしたような顔をした。
そして次に、かっちゃんから顰めっ面と「けっ」との返事を貰う。
「おっせぇぞ!てめぇは時間も守れねぇのか!」
「いや、だから、ごめんて━━━」
言いたいだけ文句を垂れたかっちゃんはそっぽを向く。この野郎・・・美少女の中の美少女、ベスト美少女たる私が謝ってるんだから許せよなぁ。・・・はぁ。
そんなかっちゃんとは反対に轟は柔らかい表情を浮かべてくれた。
「気にするな。それより、慌ててきて転んだりしてねぇか?」
「あはは、なにそれ。子供じゃないんだからさ」
「そうか、良かった」
かっちゃん、こういう感じだよ?学んで、こういう感じ。美少女がね、謝ってるの。頭を下げてるの。だから許せよ。二秒で許せよ。
じっとかっちゃんを見てやったけど、完全に無視してきた。後で殴る事を心に決める。
「それより、緑谷━━━」
ムカつきMAXでかっちゃんを見てたら轟が何か言いたげに声をかけてきた。なんじゃろと振り向けば、なんだか熱っぽい色違いの目と視線がぶつかる。
「━━━━浴衣、よく似合ってる。綺麗だ」
綺麗だとか可愛いとか、ぶっちゃけよく言われるけど、轟から言われたそれは凄くムズムズした。
真っ直ぐに見てくる轟の目がこそばゆかったので、近くのお茶子を間に挟んでおく。
「ニコちゃん。褒められたのが恥ずかしいからて、盾にせんといてよ」
「?麗日も似合ってるぞ・・・?」
「ほう?轟くん、なにかな、喧嘩売りに来てたりする?買おうか?」
お茶子の姉御が轟に女心について説教し終えた所で、私達はそう長くない階段を上り屋台が並ぶ境内へと入った。
境内に並ぶ出店は毎年同じなのだが、今年は少し多いような気がする。隙間なくギュウギュウといった感じだ。
それに伴ってか人も沢山いるように思う。
「祭りなんて、子供の時以来だな」
ぼそっとそんな言葉を溢した轟に、お茶子は首を傾げる。
「友達とかと、一緒に行かへんかったの?」
「なかったな。・・・誘われた事もあったと思うが、行く気にならなかったしな」
まぁ、お祭りに行くようなタイプに見えないし、納得は出来るけどね。うんうん。
「━━それじゃ、今日はよく来たね?あれかなぁ?美少女双虎にゃんに会いたくなっちゃったのかな?ふふ!」
「ああ、まぁな」
「ふふーふー!正直なやつよ!ういうい!よーし、気分がいいからりんご飴奢っちゃうぞー!・・・かっちゃんが」
「てめぇで買えや!!」
文句を言うかっちゃんの手をとっていつものオジサンの所にいく。声をかければヤクザ顔でりんご飴を補充してたオジサンがヤクザスマイルを返してくれる。
「今年もきたな、じゃじゃ馬。今日は随分とめかしこんで来たじゃねぇか?色気づきやがってよ。たく。おう、坊主!ちゃんと手綱握っとけ」
「きたよー、ってそれはどういう意味だ」
「そういう意味だよ。ほれ、2本だろ。300円にまけといてやる」
かっちゃんは顰めっ面で財布から300円を取りだしオジサンに渡した。私はそれと同時にさっと差し出された2本のりんご飴を受けとる。
いつもならこれで足りるけど、今日ちょっと足りない。
「後2本ちょーだいよ」
「あ?んだ、今日はダチと一緒か。んじゃもう300円」
本来1本300円の所、4本買って600円か。
オジサン今年は大奮発だな。
「今年は良いことでもあったの?」
「ああ?いや、別にねぇな・・・ああ、祝い代わりだ。雄英行ったんだろ、お前ら?頑張ってたの見たぞ」
「ああ、そういう事か。━━それじゃいっそタダにしてよ」
「図々しいにも程があらぁな、金払って散れ」
しっしっと犬のように追い払われてしまった。
安くしてくれた以上文句はないのでお茶子達の元にりんご飴を持って帰る。
私達の様子を見てた人達が便乗しようとして「2本だな、600円。文句あんのか、ああん?」との無情の言葉を叩きつけられたのは見なかった事にしておいた。
世の中は理不尽なものなのだ。少年達。
買ってきたそれを二人に手渡すと嬉しそうにしてくれた。甘いものあんまり好きじゃないと言ってた轟も大切に食べるとの事。大切にしなくていいから、腐る前にさっさと食えよ、あほ饅頭。
それから四人で屋台をブラブラする。
毎年来てるせいか殆ど顔見知りで、雄英体育祭の話をしてはオマケしてくれた。元々その美貌のおかげでオマケして貰ってたけど、今年は例年よりオマケが豪華だった。
かっちゃんと轟の手が食べ物を入れた袋で塞がる頃、私はこれまたいきつけである射的屋に辿り着いた。挨拶しようと覗いてみると、今年は髭面のおっちゃんではなく若いあんちゃんが店番してる。
「━━━?あ、ど、どうかした?もしかしてやってく?!」
あんちゃんが私に気づいて尋ねてきた。
何となくあんちゃんの雰囲気がおっちゃんと違いやる気が削がれたので断ったのだが、お茶子と私の一回分をタダにしてくれるというのでやることにした。
「あ、や、やり方分かるかなぁ?」
「大丈夫」
コルク玉を銃口にギュッと詰め込み、私は台に肘を乗せ構えた。
「狙い目はね━━━━」
パァン、という音と共に狙った人形が台から落ちる。
我が腕前に鈍りなし。
「上手だねぇ。でもそうそう━━━━」
パァン、という音と共に狙ったお菓子が台から落ちる。
あんちゃん、ちょっとどこうか。邪魔だ。
「すげぇな、緑谷」
「・・・ここいらで屋台出す奴に、『荒し双虎』をしらねぇやつはいねぇからな」
「ニコちゃん、なにしてん?」
お茶子に教えながら景品を落としまくっていると、顔を青くさせたあんちゃんの後ろの方から身震いするような覇気を感じた。
「━━━きたな、じゃじゃ馬」
「おっちゃん・・・!」
髭面のおっちゃんが私に向けニヤリと笑い、あんちゃんにアイアンクローをかます。
「━━━で、なんだ、この様はぁ!!てめぇは店番も出来ねぇのか!?」
「やってたって、この子が凄すぎんだっての!なんで落とせんの?!あれをさ!」
「馬鹿野郎!泣き言ほざくなぁ!それを上手くやんのが、てめぇの仕事だろうが!」
おっちゃんはあんちゃんを投げ捨てると、私の前に立ちはだかった。
「じゃじゃ馬、今年はもう落とさせねぇぞ」
「いや、今年も勝たせて貰うよ」
「上等だ。やれるもんならやってみな!!」
賞品台に携帯ゲーム機が置かれた。
しかも最新のやつだ。
「オヤジ!それは見せ物だって!」
「うるせぇ!!男にはな!やらなきゃなんねぇ勝負ってもんがあるんだ!!見とけぇ!!」
私は少ないお小遣いからコルク弾を追加購入する。
こればかりはかっちゃんのお金でやる訳にはいかない。
これはおっちゃんと私の真剣勝負なのだ。
「じゃじゃ馬・・・貴様にPS○を落とされたあの日から、俺はいつか貴様に吠え面をかかせたいと、そう思って生きてきた」
「あのPS○は母様のDVDプレイヤーになってるよ。ブルーレイが再生出来ないって、この間意味もなく叩かれてた。物理的に。コンロ使える癖に、母様わりと機械音痴だから・・・」
「畜生ぅが!!PS○!!俺が情けないばかりにぃ」
私は静かに銃を構える。
その姿を見て、おっちゃんが腕を組んだ。
「もう、これ以上は勝たせん!!今日の為に用意した、この鉄壁の守りにて貴様をうつ!!」
おっちゃんの掛け声と同時に景品棚が変形していく。
ゲーム機がベルトコンベアのような物に運ばれていき、一番奥にセットされた。そしてそこまでの道程を遮るように扇のような物をもったロボットの手が何本も現れる。
「これこそが!俺達、東日本射的クラブ会が総力を懸けて作り上げた、対じゃじゃ馬決戦兵器『絶対とらせないもん君36号』だ!!とれるもんなら、とって見やがれ!!」
「そうこなくっちゃね!!うっしゃぁ!燃えてきたぁ!!」
こうして私達の熱い戦いの火蓋が、今切られたのだった。
「絶対アホや!」
「珍しくまともな事言うなや、丸顔」
「すげぇな」
意気込んではみたものの、決戦自体は十分程度で終わった。勿論今年も私の勝利で終わりだ。かっちゃんの手に新たに提げられたゲーム機の入った袋がその証拠。
おっちゃんから「来年こそ、貴様を討つ!」との言葉を貰いに、私達はその場を後にした。
その勝利を手始めに他の屋台も寄っていった。
輪投げ、ヨーヨー釣り、金魚掬い。
尽く勝利を重ね、かっちゃんの手荷物はどんどん増えていく。一応獲った景品から厳選はしてるんだけど、それでもかなりの量になってしまった。
ごめんね、かっちゃん。んで、さんきゅー。
あ、金魚はいらないから全部返した。
一通り遊び終えた後は、境内に設置された飲食コーナーにいく。テーブルと椅子が適当に並べられた場所で、使用は自由なので毎回ありがたく使わせて貰ってる。食べ歩きもいいけど、お好み焼きとか焼きそばとかは座ってのんびり食べたいからね。
空いてそうなテーブルに適当につき、買ってきたそれを広げる。思ったより沢山買ってたみたいで、並べたら凄い事になった。多っ。
「また凄い量。全部は無理やろ」
「確かにね。余りそうだから、被ってるのお茶子持ち帰っていいよ?」
「え?!ええの!?━━━あ、いや、ええよ」
そんな気持ちよく食いついてきて、どの口が遠慮を口にするのか。
「そうはいっても、これ全部食べきらないでしょ。全部開けてもね?ほら、無駄になっちゃうしさ?」
「ま、まぁ、そうかもしれんけど・・・」
チラッとお茶子が男二人を見る。
かっちゃんは「好きにしろや」と興味なさそうに、轟は「俺は持って帰っても誰も食わねぇしな」との事。
それならばと、お茶子は二つの袋に食べ物を入れていった。ホクホク顔だ。超可愛い。
お茶子が持ち帰らない物をテキトーにあけ、皆で分けながら食べていく。食べながら思ったのは、オマケ貰い過ぎたなという事。可愛いというのも考えものだね!ね!
「せや、イベントがあるゆーとったけど、あれなんなん?」
口周りのソースを拭ったお茶子が思い出したように尋ねてきた。事実、今思い出したのだろうと思う。
「花火やるんだって」
「花火って・・・花火?」
「そうそう。空に打ち上げるやつ」
去年・・・というか、もうずっと花火やってない。
というのも、私が小学生くらいの頃、夏祭りの花火で事故があったらしい。そのせいで夏祭りの花火はずっと中止してきたらしいのだけど、今年になって復活する事になったとかなんとか。
まぁ、今年だけで終わる可能性もあるらしいけど。
「へぇ、そしたら私ええタイミングで来たんやなぁ」
「なくても楽しいけどね?」
「そら、あんだけ自由にやっとったら楽しいわ」
ふと、男二人を見ると相変わらず席が遠い。
また喧嘩してるのかと思ったけど、そうでもなさそう。
「爆豪。たこ焼き、食うか?」
「構うな、ぶっ飛ばすぞ。つか、勝手に食ってろ」
「掛かってるソースが辛くてな。好きじゃねぇ」
「っせぇわ!じゃ置いとけや!!」
ん、いや、大丈夫そうだ。
仲良いわ。
それからお喋りしながらご飯を済ませ、花火を見るために場所とりに向かう事になった。
といっても、何処が見やすいのかと分からない。
何せ数年ぶりの花火。他の人達も同じなのかウロウロ場所探ししてる。
どうしようかと思ってると手を引かれた。
掴まれる筈のない手に少しだけびっくりしたけど、さっき荷物の大半を処理したのを思いだし、片手が空いたのかと遅まきながら気づく。
「━━で、どしたの、かっちゃん?」
「こっち来い、多分前と変わんねぇ」
かっちゃんに連れられて行くと、子供の頃よく来ていた遊び場についた。懐かしさに辺りを見渡すと、子供の頃つけたキズが木の幹についてたりする。
林の中にあるその場所は何故だか開けた空間になっていて、相変わらず空がよく見える場所だった。
「花火があがんなら、向こうだろ。あっち見てろや」
それだけ言うとかっちゃんは何も言わず、ただ遠くの空を見つめた。
私もかっちゃんにつられて空を眺める。
「━━━ああ、と、そうだ!飲み物!私飲み物買ってるね!時間まだあるし!一人だと持ってこれないからー、あ、轟くん付きおうてくれる?」
「?ああ、別に良いぞ。緑谷、何飲む?爆豪は炭酸でいいか?」
「なんで俺だけ決まってんだ、こらぁ!!」
そんな文句を言いながら、かっちゃんはコーラを頼んだ。私はラムネを頼んでおく。てか、私も一緒に行こうとしたけど、お茶子に足を指差され止められた。
休めとの事。
飲み物を買いに行った二人を見おくると、かっちゃんがポケットからハンカチを取り出して地面に放った。頭がおかしくなったのかな?と思ったら「座れ」と脅された。紳士の皮を被った暴君かな?
「ふふ、ま、ありがと」
「けっ」
遠慮してヘソを曲げられてもメンドイので大人しく座っておいた。足も痛かったし、正直言うと助かる。
どかっと、かっちゃんも隣に座ってきた。勢いが良すぎたのか荷物が音をたてる。ゲーム機壊れてないと良いけど。
そのまま特に話す事もなくぼーっと空を眺めてると、ふいに空が光った。眩しさをこらえて見た先に光の花が咲いていた。
少し遅れて聞こえてくるドーンという花火の音。
懐かしい気がする。
「━━━おい」
かっちゃんの声が聞こえたので視線を向けると、凄く何か言いたげな顔をしたかっちゃんがいた。
なに?と聞きたかったけど、そうしたら変に意地になって黙る気がしたので何も言わないで待つ。
少しして、二つ目の花火の音が鳴る。
パラパラと光が落ちる音も。
「━━━━ほらよ」
ようやく出た言葉。
それと差し出されたそれに目がいく。
この間見た、かっちゃんの机にしまってあった物だから。
「渡せなかったの?」
「はぁ?なんの話だ。━━━いま、だから渡してんだろが」
そう照れ臭そうに頭をかくかっちゃんの姿に、これが私への誕生日プレゼントであることに気づかされた。
「ぷっ、似合わない」
「っせぇ!いらねぇなら捨てろや!」
乱暴に押し付けられたそれ。
私はその箱を指でなぞった。
「開けてもいい?」
かっちゃんは何も言わなかったけど、小さく頷いてくれた。
包みをとって開けてみる。包みの下の箱は包みと違ってシンプルなモノトーンで、なんだかかっちゃんぽい。
そのまま箱を開いてみると銀色のブレスレットが入っていた。
手にとって見てみる。
チェーンタイプのブレスレットは装飾が少ないシンプルな物で、唯一ついてるリングのチャームも内側に私の名前が彫ってあるだけの物だった。
「これ高かったんじゃないの?」
「ああ?・・・知るか」
「かっちゃんが知らなかったら誰が知ってるの。まぁ、良いけどさ」
早速つけてみると、やはり私と思うくらい似合ってた。
かっちゃんに見せびらかして見たら、そっぽ向かれた。
ういやつ、ういやつ。
「ありがと、大切にする」
「・・・ああ」
「ニコちゃーん!」
花火に負けないようなお茶子の大声が聞こえてきた。
振り返ると私のラムネが振られていた。
手だけにしてよぉ!
そんな事を思ってると、また空に大きな光の花が咲いた。ドーンという大きな音も。
パラパラと光が落ちる音も。
「浴衣、似合ってんじゃねぇのか。しらねぇけど」
そして、ひねくれたかっちゃんの声も。
「えへへ、でしょ?」
また空に花火があがった。