私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
え?愛で地球を救わないかって?
救わないで。
それはね、原作にないからとか、そんな理由じゃなくて、愛がなかったからやらない。
「オールマイト、やはり今回林間合宿。君の参加は認められないさ」
校長から告げられた言葉に、私は憤りを覚えた。
「しかし、あのような事件に首を突っ込んだ以上、彼等にヴィラン連合な何かしらが接触する可能性もあり得ます。相手の戦力が大きいとはいいませんが、脳無と呼ばれたヴィランのように逸脱した力を持つ者がいるのも事実。やはり私が出ねば━━━━!!」
子供達が短い夏休みに入り、私達教師陣は夏の林間合宿について話をまとめていた。そして今日校長に告げられたそれは、私が認める事の出来ない決であった。
林間合宿にて、私の参加を認めないという、決である。
校長は私の話に首を振る。
拒絶するように、横に。
「出来ないよ、オールマイト。相手方の目的ははっきりしないけど言動を考えれば、その中に君の存在が含まれている事は明白。そして私達は、君こそが狙われているのだと思っているからね」
校長の話は間違ってはいない。
私が教師として入る以前、ヴィランの襲撃などただの一つもなかった。つまりはそういう事。
「生徒達の安全を考慮するなら、君を外すことが最も有効性が高いと私達は判断した。もどかしい気持ちは理解するが、頷いてくれないかな?」
「しかし・・・!!」
「勿論、安全確保には万全を尽くすさ。君だけがヒーローという訳じゃないんだ。どうか信じて欲しい」
分かってはいるのだ。
校長の話に一理がある事も。
けれど、頷けなかった。
「・・・・・」
「オールマイト。気持ちが分かる、とは言わないさ。けれどね、全てを救う事が出来ないのは君が一番分かっている事だろう?これから先、ずっと君が彼等を守り続けるのかい?現実的に考えてそれは出来ない筈だ」
「それは、分かっています」
「・・・それでも納得出来ない、そういう事だね?はぁ、君は強情だよ。でもね、今回は納得して欲しい。生徒達の為にも、君自身の為にも」
溜息をついた校長はそこで話を切り上げた。
そして会議は終わり、林間合宿は私の不参加が決定した。
会議室を終えてから少し。
私は一人中庭で溜息を溢した。
「守ると言ったのだが、中々上手くいかないものだ」
USJでは手遅れ寸前。
ヒーロー殺しの時は蚊帳の外。
ショッピングモールでは間に合わず。
今回何が起こると決まった訳ではないが、もし何か起こるとしたら居合わせる事すら出来ない。
「私ってば、本当、もぅ・・・」
おかしいな、こんな筈ではなかったのだけど。
まぁ、そうは言っても今回は校長の言葉に一理ある。
一連の事件は私を中心に起こっているのだから、私が離れるのが一番なのだろう・・・なのだろうけどなぁ。
「・・・ん?」
不意に胸元から着信音が流れてきた。
『電話がきた!』という私がとある企画で録音した有料の着信ボイスである。因みにお値段は100円だ。
着信の名前を見ると、彼女の名前が表示されていた。
何かあったのかと電話に出れば大きな声が鼓膜に響いてきた。
『ひぃぃぃぃぃぃまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
キンキンする耳から電話を離し、耳鳴りが治まるのを待つ。びっくりした。凄くびっくりした。二つの意味で。
取り敢えず何もなさそうなのでホッとしたが・・・。
耳鳴りが治まった所で電話に耳を当てなおす。
「・・・緑谷少女。どうかしたのかい?と聞いた方が良いかな?もう用件はわかっちゃったんだけど」
『私の用件が分かるんですか!?きゃーー変態ーーー!!ガチムチのストーカーー!!どこから監視してるんですか!?訴えてやるぅぅぅぅ!!』
「監視もストーカーもしてないよ。だって、さっきの一言が全部だろう?」
『分からないじゃないですか!聞くまで!!そういう決めつけが子供の教育にどれだけ悪影響を与えるか、分かりますか!?決めつけダメ、絶対!!』
緑谷少女の言葉は間違ってはいない。
何事も決めつけて行動することは良くない事だ。
だが、今回に関しては決めつけてもいい気がする。
「それじゃ、どうしたのかな?」
念のためにそう聞いてみる。
すると、緑谷少女は待ってましたと言わんばかりに声をあげた。
『超、暇なんですけど!』
うん、そうだと思ったよ。
それ以外ないもんねぇ。
「私にどうしろと言うんだい?一応、私も仕事をしてるんだけど」
『えぇ!?先生なのに、仕事してるんですか!?夏休みなのに!?』
「そうだよ。色々とやらなければならない事があるんだ。先生って意外と大変なんだよ」
『えぇぇぇ、ガチムチが暇なら買い物にいこうと思ったのにぃ・・・ガチムチの奢りで』
「人のお金を宛にしないの」
ぶーたれる緑谷少女の声にさっきまでモヤモヤしていた物が晴れるような気がしてくる。悩んでいたのが馬鹿みたいだ。
「友達と遊びにいけば良いじゃないか?」
『はぁ・・・それが出来れば良いですけど、皆、なんだっけ?えき、えき・・・えきぽん?とかいうのに行くみたいで、その準備とかで忙しいって』
「えきぽん?」
えきぽんって何だろうか・・・?
えきぽん、えきぽん・・・えき、ぽ・・・もしかしてエキスポの事じゃないよね?いや、そう言えば、今年はIアイランドが日本海域でエキスポを開くって聞いていたな。
「もしかしてエキスポの事かな?」
『えぇー?そんなんだっけ?えきぽんだった気がする』
「君の何がえきぽんを推させるの?エキスポだよきっと。友達ってA組の子達だろ?ヒーローを目指すものなら、今回のエキスポは外せないイベントだろうからね。個性についての研究発表、最新技術で作られたヒーローアイテムの展示。他にも色々あるよ」
『へぇぇーー』
「興味なさそうだなぁ・・・あ、そう言えば、一昨日爆豪少年もヒーローコスを取りに来ていたよ?島内では個性使用も可能だし、ヒーローコスの着用も許されているからね」
『あー、それならそうかも』
どうやら納得してくれたみたいだ。
それにしても緑谷少女の口ぶりからだと、前回の体育祭優勝者にエキスポの招待があった事を知らなかった訳ではないらしい。ならば、何故彼女は爆豪少年と共にいかなかったのだろう。
「爆豪少年といかなかったのかい?」
『んー?誘われたけど、めんどいから断った。だってえきぽん頭使いそうなんだもん。勉強きらーい』
「ははは、とても期末の筆記テストでクラス三位になった子とは思えないな」
『一位狙ったんだけどねぇ』
普段碌に授業受けてないで三位なら、十分凄いと思うんだけどなぁ。というか、一位狙ってたのか。
『はぁーーー、こんな暇になるなら行っとけば良かった。今ごろ皆でえきぽんかぁ』
「いや、えきぽん自体はまだ始まっていないよ。プレオープンも明日からだしね。島内は他にも観光施設あるし、それ目当てで前のりしてるんじゃないかな?」
『そうなんだ?てか、えきぽんって何?エキスポじゃないの?』
「のってあげれば、これだ。まったく君は・・・」
それから緑谷少女と他愛のない話をし、私の休み時間は終わりを迎えた。
残した仕事を片付けに職員室に戻り自分の席につく。
書類整理の為スリープ状態のパソコンを起動させると、メール通知に目が留まった。履歴を見ると一昨日にきていた事が分かる。色々忙しくて見逃していたらしい。
私のメールアドレスを知ってるものは少ない。
だから塚内かな?と思いながらメールをクリックすると、懐かしい名前がそこに載っていた。
「メリッサ・・・また懐かしいなぁ」
そこにあったのはアメリカで活動していた時代、相棒であった男の愛娘の名前だった。
最後に見た彼女の姿を思い、思わず笑みが溢れる。
「そうか、もう高校生になるのか。早いものだな時間というのは・・・」
メールの内容に目を通すとメリッサの近況の報告が綴られていた。Iアイランドで学校に通っている事。ヒーローアイテムの作成を行っている事。
それと、相棒であり親友であるメリッサの父親、デイブの事も。
『招待状を送るので、パパに会いに来て』
その一文で今朝届いていた封筒を思い出した。
「あれか!?えーと確か・・・鞄に」
出掛け前に見つけ後で見ようと鞄に突っ込んでいたそれを探してみる。すると書類に埋もれそれが見つかった。幸いな事に折れ曲がったりはしていない。
封を解いて中身を見れば、女の子特有の可愛らしい文字で綴られたメッセージカードと二枚のチケットが入っていた。
「うん?二枚?『Please come☆important people』か。・・・塚内くんでも誘ってみようかな」
無理かな。
塚内くん忙しいし。
「一人で行くのもなぁ・・・」
少しだけ相澤くんの顔が浮かんだけど、断られる事は目に見えてるし、何より相澤くんと出掛ける程親しくないし。
その時、ふとさっき暇だと電話を寄越してきた緑谷少女の顔が浮かんだ。
そして『行っとけば良かった』という後悔の言葉も。
彼女であれば体の事情も知ってるし、そこそこ親しい間柄だ。出掛けるのに誘われるくらいであれば問題も・・・。
そうは言っても男女だからなぁ。
親御さんがまず許さないか。
それでも他に誘う人もいなかった私は電話を手に取った。よっぽど暇なのかワンコール出た緑谷少女は声を踊らせて『どうしたんですかー!?暇なんですかー?!』と訊ねてくる。
「いやね、今、知り合いからエキスポのチケットを貰ったんだ。爆豪少年達の行ってる、Iアイランドのやつさ。出発は明日の朝でかなり急になっちゃうんだけど、行ってみ━━━━」
『いくーーーー!!準備してくる!明日ね!明日!りょーかいしましたー!!緑谷双虎三等兵、準備して参ります!!あっ、あれだよね!航空機でいくんでしょ!?朝ご飯は空港のレストランとか!?奢り!?やっほーー!あ、でねでね、かっちゃんが言ってたんだけど━━━━』
大声が聞こえる電話から耳を離し、私は誘って大丈夫だったのかなぁと少しだけ後悔した。
やけにやる気に満ちた声に、何か起きそうな気してたまらなかったのだ。
まぁ、それでも、その楽しそうな声を聞いてると笑みが溢れてしまう。
「ヒーローコスは私が用意しておくよ。親御さんにはちゃんと伝えておくようにね」
『はいはーい!迎えはー?』
「え?いるの?」
そうしてドタバタしながら始まった私の休暇。
懐かしい旧友と過ごすよい休みになると、その時の私は信じていた━━━━━。
今回はどにゅーのみで終わりやで。
映画版はまたこんどや( *・ω・)ノ