私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
いきてぇなぁ、温泉。
夕御飯という名の戦場を後にした私達A組女子ーずが次に目指したのは温泉という名のパラダイスだった。
山奥にある施設。正直ドラム風呂程度を想像していただけに興奮マックスである。
よもや、学校の合宿で温泉に浸かれるとはな!
正直雄英来て良かったと、今ほど思った事はない・・・え?いや、そんな訳ないよ?ジョーダンだってば、あはは。本当はお茶子達と出会えた事が一番さ!本当だよ?疑わないで!そんな目で見ないでぇぇぇ!!
そんなこんなでさっさと入浴セットを準備して皆でお風呂に向かうと、同じように入浴セットを持った童貞達に遭遇した。かっちゃんと轟の姿はない。
「やや、あんたらも?」
私の声に切島が手をあげた。
「おう!まぁな。今日は流石に疲れたしよ、さっさと風呂入って寝るに限るわ」
「それには同意だわ。てか、かっちゃん達は?」
「ああ、ちっと遅れるってよ。それで待ってたん・・・あ、来た来た」
切島と話してると遅れてきた轟と話すかっちゃんの姿が目に入った。普通に話してる・・・珍しい。
物珍しさからじっと見つめていると、かっちゃんと目が合った。
「おっすー」
「・・・あ?んで、てめぇが?女子は時間ずれてんじゃねぇのかよ」
「ずれてないみたいだよ?」
「あぁ?」
怪訝そうなかっちゃんをよそに、轟が片手をあげた。
「緑谷達も風呂か?」
「まぁね」
ふと轟の手元を見ると、着替えらしき甚兵衛が抱えられていた。基本的に寝巻きに指定はなかったけど、またモロに和だなぁ。
「パジャマ?」
「まぁな。どうせなら落ち着く格好をと思ってな・・・変か?」
変かと言われれば別に?
ちょっと想像してみたけど、おかしくはない。
しっくりくる感じだ。
というか、割と和服似合うのかも。
頭の中でちょっと想像・・・馬鹿殿みたいなちょんまげした紅白饅頭の和装。多分良いとこの跡取り息子。のぼーっとした顔して刀を腰に提げて歩く紅白饅頭、そこに御付きの眼鏡がついて回ってて・・・。
「ぷっ」
御付きの眼鏡に『若っ!』とかいって注意される姿が浮かんで、思わず笑ってしまう。
「何かおかしかったか?」
「ふふ、ごめん、ちょっと想像しちゃって」
「よく分からねぇが・・・良かった。お前が楽しそうで」
そう言うと紅白饅頭は柔らかい笑顔を向けてきた。
最近よくこういう顔をするんだけど、どうにもこの顔で見られると背中がむず痒い。
顔を合わせるのがちょっとあれなので視線を逸らしておく。すると不機嫌そうなかっちゃんが視界に入った。
そして、さっき紅白饅頭にしてた事をかっちゃんで想像してしまう。
━━━うん、絶対チンピラだ。派手な羽織着てる姿が容易に浮かぶ。賭博場とかに絶対いる。それも時代劇なら主人公にばっさりいかれるタイプの輩だよ。
「━━━ぷっ、あははは、うけるぅー!」
「人の顔見て勝手にウケてんじゃねぇぞ、こら」
女子ーずが不思議そうにしてたので、私が想像した事を教えたらかっちゃん見て皆顔を附せてプルプルする。紅白饅頭のやつも教えると、耳郎ちゃんが吹き出していた。
「おい、さっきからなんだ!!」
「皆逃げろー!かっちゃんの助がご乱心だぞー!えっちな事されるぞー!」
「するかボケぇ!!あ、こら、待ちやがれ!!」
逃げるように皆で女子風呂の暖簾を潜る。
オコなかっちゃんでも理性はしっかりしてるようで、脱衣場内までは追い掛けて来なかった。
暖簾越しに吠えてるけど、それは無視しておく。
備え付けの籠に脱いだ服を置いて、お風呂セット片手に温泉への戸を引く。むあっとする熱気と共に目の前に現れたのは、石造りの本格的な温泉だった。
思わず感嘆の声が漏れてしまう。
これは凄いにゃー。
「ほんまの温泉や!あ、後で、入浴料とか取られんやろか・・・」
隣にいたお茶子から悲しい呟きが聞こえてくる。
流石にそれはないでしょ。
ないよね?
「けろ・・・合宿だから期待してなかったけれど、雄英ってやっぱり凄いのね。お夕飯も美味しかったし、お風呂も凄いし、お部屋もちゃんとしてたもの。それに明日からは実技訓練を行うと聞いてるわ。それ相応の場所がある筈よ。普通の学校なら、ここまでの環境は揃ってないでしょうね」
「ねぇー。頑張って雄英入って良かったわぁ」
そんな二人の後に百がきた。
百は興味深そうに温泉を見つめキョトンとする。
「少し、狭いですわね?まぁ、学校の合宿場ですし、そう考えればおかしくはありませんが・・・」
その言葉に百以外の全員が固まる。
嫌みかな?とも思ったけど、百の顔を見れば本気で言っているのが分かった。ガチだった。
「・・・な、なにか?私、何か間違った事を?」
不安そうな百、悪気は欠片も見えない。
私達は百が傷つかないよう細心の注意を払い、出来るだけ優しく伝える事に。
説明を始めて五分後。
そこには顔を両手で塞ぎ踞る百の姿があった。
うん、強く生きるんだよ。百。
「はぁ・・・私ったら、恥ずかしい限りですわ」
体もすっかり洗い終わり、皆がお湯に浸かり始めた頃。
百は重い溜息と共にそんな事を言った。
「どした、百。おっぱいまた大きくなった?」
「なんでですの?!そういう話はしてませんわ、緑谷さん!」
「おっぱい大きいのを下品と恥じらう、昔ながらの大和撫子的なあれかと」
「緑谷さん、授業は碌に聞いてませんのに、なんでそういう事は知ってますの?」
「時代劇好きだし?」
「緑谷さんの趣味は、相変わらず脈絡ありませんわね」
相撲も嫌いじゃないしねぇ。
あんまり詳しくないけど。
どすこーーい!
「━━で、どしたの?」
「いえ、その、自分の価値観がこれほど皆さんとズレているなんて思わなくて・・・それで、私ったら、はぁ」
「そういう事ね。気にしなくて良いのに」
「そうは言いますが・・・」
百の表情は少し暗い。
気にするような事じゃないんだけどね。
なにより今更だし。
「まぁ、そりゃあさ?ご飯とか一緒にいくとき、割り勘なのに馬鹿高いもの頼まれたら『うわぁ』って思うよ?」
「そ、そんな事はしません!ちゃんと━━━」
「あはは。例えだってば、例え」
「━━━もう!」
プリプリ怒る百は私に膨れっ面を見せてきた。
こういう顔をみると大分私らに毒されてきたのが分かる。その顔が面白くて笑ってると、もっと怒った顔になっていった。
「緑谷さん!」
「ごめんってば。でもさ、やっぱり気にしなくて大丈夫だって。無理して直さなくてもさ。私らそういう百が好きだし?」
皆の顔を見てみれば、私の言葉に否定的な表情を見せる人はいなかった。百はその皆の様子に頬を赤らめる。
「人なんて皆違うしさ、それも百らしさって事で良いじゃん。そういう百に教えて貰う事もあるし、逆もあるだろうしね。ちょっと話違うけど、この間は百のお陰で海もいけたし?━━━それにさ、皆が皆一緒じゃつまんないでしょ?だから大丈夫だよ?」
「・・・はぁ、緑谷さんはこういう時ばかりズルいですわ。普段はお馬鹿さんなのに」
「なんだとぅ!?」
百は自分の顔を軽く叩く。
そして皆の顔を見た。
「皆さん、あの、先程はご不快な思いを━━━━」
「もう、水臭いなぁ!態々何言うつもり、ヤオモモ。気にしない気にしない!寧ろいつもありがとね!」
「困った事があったら葉隠お姉さんに言うんだよ!」
「ヤオモモ、葉隠が勉強も教えるってさ」
「っうぇ!?響香ちゃん意地悪ー!」
「ご不快な思いはしとらんから平気だよー。凄いなぁーって思うただけやし」
「けろっ、そうね。というより、百ちゃんの知ってる温泉の話聞きたいわ。どんな所なの?」
皆の言葉に百は最初は困ったような顔をしてたけど、直ぐに表情を緩めた。
「ふふふ、皆さん一辺に話されても、私分かりませんわ。聖徳太子ではありませんのよ?」
そう楽しそうに話し始めた百の様子を微笑ましく眺めていると、隣の男子風呂から聞き慣れた変態の声が聞こえてきた。
よく聞き取れなかったけど「求められてる」とか何とか・・・何言ってんだ、あの変態。
壁に耳を当てて見たけど聞こえない。
ノックして確認してみれば、反響音が聞こえた。
壁の向こうが空洞になってるのが分かる。
男子風呂との間の仕切りは一枚の壁だけだと思ったけど、どうやら二枚らしい。
耳郎ちゃんに聞いて貰おうかなぁと思ってると、眼鏡の怒鳴り声が聞こえてきた。明らかにブドウを注意してる内容だ。
それは他の皆にも聞こえたらしく、女子ーず全員が警戒態勢を取ってる。
「壁とは越える為にある!!Plus Ultra!!!」
騒ぐ男子達、構える女子達。
私は静かに桶キャノン(水入り)を用意。
全員の緊張が限界まで高まったその時。
見たことある赤い帽子が壁から生えてきた。
後ろ姿から洸太きゅんである事が分かる。
洸太きゅんはそのまま男子風呂を見下ろしながら、何かを押すように左手を突きだした。
「ヒーロー以前に、ヒトのあれこれから学び直せ」
「くそガキィィィィィィィィ!!?」
男子風呂の方でドッパーンと音が鳴る。
その直ぐ後、爆発音と冷気が空へ立ち上った。
色々と察した私はブドウの冥福を取り敢えず祈っておく。
「ありがと洸太くーん!」
変態の始末を請け負った洸太きゅんにあしどんが親指を立てて声を掛けた。声に何となく振り返った洸太きゅんは、私達の姿を見て酷く驚き大きく仰け反る。
きっと百のおっぱいのせいだと思う。
百のおっぱいのせいでバランスを崩した洸太きゅん。
男子風呂の方に落ちそうになっていたので、私は引き寄せる個性で洸太きゅんを軽く引き寄せ落ちないようにした。
バランスをとる時間になればーと思ったけど、洸太きゅんは何故か立ち直らない。ぐったりしてる。
そのまま引き寄せてキャッチしようと思ったけど、それより早く梅雨ちゃんの舌が洸太きゅんを掴まえる。
そして梅雨ちゃんはぐったりした洸太きゅんをそのままゆっくり石畳の上に置いた。
私は直ぐに側にいって息と脈を確認する。
うん、生きとる。
「百、動かして大丈夫かな?」
「何処かにぶつけた様子はありませんでしたし、大丈夫だと思います」
「んじゃ、取り敢えずマンダレイとこ運んでおこっか?持病とかで倒れたんだとしたらヤバイし」
「ええ、直ぐに準備しますわ」
私と百は皆と別れ洸太きゅんをマンダレイの所に運ぶ事に。皆付いてくると言ったのだが、皆でいっても仕方ないのでゆっくり風呂に入って置くように言っとく。
寧ろ、この後来るであろうB組女子達にブドウというヤバイやつが生息してる事を伝えるよう伝言を頼んでおいた。
これ大事。
髪を乾かしてる時間は無いので、さっさと体だけ拭いて着替える。雑に拭いたせいで着替えが全体的にしっとりである。
水も滴る美少女、ここに。
そんなこんなで洸太きゅんをマンダレイの元にお届け。
マンダレイは洸太きゅんを診察し、失神してるだけで大した事ないのを教えてくれた。
良かった、良かった。
眠る洸太きゅんの頬っぺたをツンツンして遊んでるとピクシーボブがお茶を持ってやってきた。
私達の分もあるのかカップが四つだ。
何故か威嚇してくるピクシーボブを無視して、持ってきて貰ったお茶を飲んだ。緑茶か。普通。
それから適当に世間話していると洸太きゅんの話になった。どうやら洸太きゅんはヒーローが嫌いであり、ちょっと訳ありのようだ。デリケートな話だから詳しくは聞かないでおいたけど、二人の表情を見れば何か重い話だという事は分かった。
「━━━━もしかしたら、ヒーロー目指してる君達に当たる事があるかも知れないけど、その時は許してあげて欲しい。虫のいい話なんだけどさ」
そう寂しげな顔をするマンダレイ。
百は静かに頷いた。
「やだ」
私は断るけど。
マンダレイとピクシーボブ、それと百が微妙な顔をした。言いたい事は分かるけど、それとこれとは別だ。
「私はやられたらやり返す主義なので」
「緑谷さん・・・!」
「事情は知りたいとは思いませんし、変に踏み込むつもりはありません。だから私は同情しません。間違ってたら間違ってるって叱ります。正しかったらそうだねって頷いてあげます。それは駄目ですか?」
そう尋ねるとマンダレイは首を横に振った。
「そうだね。本当はそれが一番だよね」
「マンダレイ」
マンダレイの様子にピクシーボブが心配そうな顔をする。マンダレイはピクシーボブに「大丈夫」と一言いうと、私に視線を戻した。
「でもね、そんなに簡単な問題じゃないの。お願い、どうかこの子を責めないであげて。この子がこうなったのは、私達大人のせいなの。文句は幾らでも私が受けるから」
頭を下げたマンダレイは何だか弱々しく見えた。
とてもじゃないけど、三十路ネタでおちょくって良いとは思えない状態だ。流石に私も気を使う。
「緑谷さん・・・」
説得するような百の声に、私の口から溜息が溢れる。
「はぁ、やですってば。私は洸太きゅんと仲良くしたいんで。そういうのは"ちゃんとした大人"に言って下さいよ━━━━━さ、いこ百。洸太きゅんは大丈夫みたいだし」
言いたい事言い切った私は百を誘って部屋出る事にした。百は少し渋ったけど、私の顔を見ると頷いてくれる。
部屋を出るとき呼び止められた。
勿論それは華麗にスルーしておく。話長くなりそうだし、それに聞くだけ無駄だと思うし。
部屋に帰る途中、百が尋ねてきた。
どうしてそんなに怖い顔をしてるのかと。
私は自分の顔を触り確認してみる。
ふむ、少し強ばってる?
「よし、もう大丈夫」
「ですけど・・・」
「心配かけてごめんね、たはは」
別に怒ってた訳じゃ━━━いや、少しは怒ってたかも知れない。
最初に見たとき洸太はかっちゃんに似てると思った。
でも接してみて全然違う事を知った。
かっちゃんと違ってあの子は━━━━。
「はぁ・・・さて、どうしたもんかなぁ」
私は明日からはどうやって洸太きゅんと仲良くなっていこうか考えながら、百と二人部屋へ向かった。