私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
はくびしん「はいはい、待ってくださいね。今ハンコを━━━貴様っ!!逃げろ!ギャグ!!狩殺され━━ぎゃーーー!!」
ギャグ「はくびしん!!くそっ、はくびしんの敵、いずれ!!」
シリアス「ふはははは!!我が世の春がきたーー!」
はい、そんな茶番とともにシリアスです。
すまんな。
ぐぅぅぅと、お腹から音が聞こえてきた。
お昼から今まで何も食べてないから、凄くお腹が空いた。パー子さえいなかったら今頃夕御飯を食べていたかと思うと、あの能天気な顔を思い出して腹が立つ。
パー子から逃げ切って暫く。
僕はひみつきちで時間を潰していた。
少し前まで個性訓練をしてたけど、お腹が減ってやる気が出ないからもう止めた。パパがそういう時はちゃんと休んだ方が良いって、そう言ってたから。
本当は直ぐに帰りたかったけど、炊事場にまだ明かりがついてた。ひみつきちは高台にあるから、合宿場がよく見える。今帰ったらパー子がいると思うから、まだ帰る訳にはいかない。
見つかったら絶対弄られるし。
またぐぅぅぅと、音が鳴る。
お腹減った。
パー子許すまじ。
・・・でも、なんか久しぶりな気がする。
パパとママ、それとあいつ以外の事で、こんなに考えたのは。
「そう言えば、パー子、何も言わなかったなぁ・・・」
もしかしたら何も知らなかったのかも知れない。
でも、何となく知ってて言わなかったような気がする。どうしてなのかは、分からないけど。
皆聞いてきた、パパとママの事。
それでいつも同じ事を言う。
立派だって、偉いんだって。だから、僕には胸を張っていろって。泣くことないんだって。
そう、勝手な事ばっかり。
「パパ、ママ」
僕にはもう、誰もいないのに。
「いやだよ」
褒められなくていい。
「パパ」
また肩車して欲しい。
「ママ」
また一緒におやつを作りたい。
ただいまって、遅くなってごめんって。
帰ってきて欲しい。
そう考えるのはダメな事なの?
『洸太』
その日、パパとママの帰りを待っていた僕の前に現れたのは、悲しそうな顔をした親戚のマンダレイだった。
パパとママについていったヒーローイベントで何度か顔を合わせていたから、僕にとっては身近な人だったけど、いきなり訪ねてくる人でもなくて少し不思議に思った。
そうしてる内によく分からないまま抱き締められて、よく分からないまま病院に連れてかれた。
そして、そこで僕は見た。
ベッドに眠るパパとママを。
啜り泣くような声が聞こえた。
僕じゃなくて、周りの人の。
見たことある人が沢山いた。
パパとママの仕事を手伝ってるおじさん達。
事務所にいくとお菓子をくれたお姉さん達。
皆がパパとママを見て、泣いていた。
最初は分からなかったけど、少しして分かった。
いつもと違う青ざめた肌、生々しい傷跡、少しも動かないその様子を見て。テレビで何度も見た、ヒーローの死んじゃったっていうお話。
そしたら目から涙が出て来て、いつもは怒られても直ぐに止まるのに、その日はずっと止まらなくて、不思議だった。
『こ、洸太!大丈夫だから!私が━━━━━』
マンダレイの声が聞こえて、体が温かくなった。
また抱き締められたんだって分かった。
なのに、僕は寒くて仕方なかった。
寒くて、怖くて。
目の前が真っ暗になって、それで━━━━。
『洸太』
優しい声が聞こえた。
頭を何か温かいものが撫でてる。
てのひらだって、直ぐに分かった。
だっていつも、眠れない時ママがそうしてくれていたから。
でも、ずっとこうしてなかった気がする。
いつからだった、ちゃんと覚えてない。
だって、あの日もその前の日も、パパもママもお仕事で忙しくて、僕の知らない時に帰ってきたから。いつも面倒を見てくれてたおばさんが教えてくれなかったら、僕はいつ帰ってきたのかも分からなかったと思う。
「ママ」
そっとてのひらに触ると、優しく掴んでくれた。
そしてポンポンと胸の所をゆっくり叩いてくれる。
『怖くないよ、大丈夫』
昔してくれたみたいにポンポンとてのひらが落ちる。
それは心地よくて、ウトウトしてしまう。
『やーれん、そーらん、そーらん━━━』
なんか聞き覚えのない歌が聞こえてきた。
なんだろうこれ。
いつもの歌じゃない。
『沖の鴎に潮どき問えばぁーわたしゃ立つ鳥ぃ波に聞け、チョイヤサッエエヤンサノ、ドッコイショー』
なんだろうこれ。
眠れないんだけど。
こぶしっていうんだっけ?パパがこんな歌うたってたような・・・。
『はぁぁぁぁードッコイショードッコイショー!!』
「妙にいい声で歌うなぁぁぁ!!」
声をあげた瞬間、はっとした。
眠ってたんだって何となく分かった。
目の前の景色が変わった。
そこにあったのは病院でもママでもなくて、きょとんとしたパー子の顔。
「おぅ?起きちゃったか、甘えん坊」
パー子はそう言うとポンポンと胸の所を叩いてきた。
状況が分からなくて周りを見ると、パー子に膝枕されて寝てた事が分かった・・・分かってしまった。
嫌な予感がしてパー子を見ると、ニッと厭らしい笑顔が返ってくる。
「ママじゃなくて、ごめんねぇ?ぷふっ」
うわぁぁぁぁぁぁ!!?
わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?
顔が凄く熱い。
見なくても赤くなってるのが分かる。
起き上がって離れようとしたけど、直ぐに捕まって今度はパー子の膝の上に座らされた。がっちり掴まれて身動きが取れない。背中に何か柔らかい物がぶつかってて、なんかいい匂いもする・・・。
━━━は!?パー子だぞ!?しっかりしろ!
「な、離せよ!なんで、お前が!!」
「んー?ああ、ご飯も食べないでふらついてるって聞いたから、お夕飯持ってきてあげたの」
そう言われてパー子達が作ってたカレーを思い出した。
別に食べる気はなかったけど、あのいい匂いを思い出すと持ってきたっていった物が気になった。
「・・・なんだよ、カレーか」
「いや、おにぎり。握ってきた」
「なんで素直にカレー持ってこないんだよ!!」
「大丈夫、大丈夫。具はカレーだから」
「だから素直に持ってこいよ!」
差し出されたそれは本当におにぎり。
それも見るからに固そうな。
パー子はおにぎりを包んであるラップを剥がす。
「はい、あーん。口開いてぇー」
「いらねぇよ!!」
「まぁ、まぁ」
パー子は馬鹿力で口元に押し付けてきた。
その強さにおにぎりが口の中へと捩じ込まれる。
予想通りめちゃめちゃ固い。そして中身が本当にカレーだった。正直に言うとカレーは美味しいけど・・・ご飯の固さが目立って美味しく感じない。
「うまい?」
「どうやったら、こんなくそ不味いもん作れんだよ」
「ツンデレ?」
「食ってみろよ!!」
パー子は僕の言うとおり一かじりして、顔をしかめた。「固っ」とか文句垂れてる。
「おにぎりって難しいんだねぇ。おっかしいなぁ」
「おかしいのはお前の頭だろ。本当馬鹿だろ、お前。どうやったら、そんな固いおにぎり作れんだよ」
パー子はおにぎりをラップで包み直すと、また僕を抱き締めてきた。
それも何とか抜け出そうとしたけど、パー子の腕力は並みではなくて全然抜けられない。暫く頑張ったけど、どうしてもダメだったので僕は色々と諦めた。
僕が逃げるのを諦めるとパー子が僕の頭の上に顎を置いてきた。地味に重い。
「こんな所で寝てると猪にかじられちゃうぞ?アホなのかな?洸太きゅんは━━━━アホなのかなぁ?」
「二回も言うな。別に寝たくて寝たんじゃない」
「まぁ、そりゃそうか。今日もお手伝い頑張ってたもんねぇ。偉い偉い。私が洸太きゅんくらいの時は、ずっと遊んでたから、本当そう思うよ」
パー子が掴んだ僕の手をもにゅもにゅ触ってくる。
くすぐったいし、なんか恥ずかしい。
止めろって言おうと思ったけど、なんか倍くらいの文句になって返ってきそうだから止めておいた。
それより、どうしてパー子がここにいるか気になる。
「ここにどうやって来たんだ・・・マンダレイにも教えてないのに」
「んー?そこはね、うちのびっくりどっきり同級生が力を貸してくれたのよ。友達の友達に鼻が利くやつがいてね、ちょっと洸太きゅんの匂いを追って貰ったの。ああ、その毛むくじゃらは帰しておいたから大丈夫。ひみつきちに来たのは私だけ」
毛むくじゃらと聞いて一人の姿が頭に浮かんだ。
昼間虎にしごかれていた奴等の中にそんな奴がいた気がしたから。
「個性かよ」
「個性だよ・・・個性は嫌い?」
パー子の声にふざけてる様子はない。
ちゃんと聞いてきてるのが分かる。
「嫌いだ」
「そっか、なら私と一緒だ」
「はぁ?」
意外な言葉に振り返ると、優しい目をしたパー子の顔があった。パー子は姿勢を正して話す。
「私は怖いもん、個性。殆どの人が持ってるけど、どれもバラバラ。くだらない物もあるけど、人を傷つける物も沢山あるでしょ?それを誰が持っているか分からない。だから、私は嫌いだし怖いよ?ね、一緒」
「じゃ、なんで━━━なんで、ヒーローなんて目指すんだよ」
嘘をついてるようには見えなかった。
だから余計に気になった。
本気でそう言えるなら、どうしてって。
少し考えた後、パー子はそっと口を開く。
「私は別にヒーローになりたい訳じゃないよ?ヒーローというか、個性使用の許可書が欲しいだけー」
「なんでそんなの・・・」
「守りたい人がいるんだぁ」
そう言いながらパー子が頭を撫でてきた。
ママみたいに優しく。
「母様、友達、知り合い。私はね、沢山を守る気はない。守れる気もしないし。だからね、せめて私の手の届く、私の大切な人達を守りたいの。その為にはね、どうしても力がいる。個性は怖くても、個性しか守ってくれないから止める訳にはいかない」
「そんなの、ヒーローに任せておけばいいじゃん━━━」
死ぬことが立派だって言う、僕のパパやママみたいなヒーロー達に━━━そう言おうとして胸が苦しくなった。
そんな事言うつもりなんてないのに、そんな事嫌なのに、当たり前みたいにみんなが言うそれを言いそうになってる。それが堪らなく嫌だった。
嫌な気持ちになってたらパー子がぎゅっと抱き締めてきた。
「━━そうだねぇ。でもね、私は見てるだけじゃいられなかったんだ。誰かに任せるのも真っ平ごめんだって思った。見守るのも・・・出来なかった」
「だからね、私はここにいるの」
背中が温かかった。
パー子の心臓の音が聞こえてくる。
「━━それじゃ答えにならないかな?」
少しの嘘もない言葉。
何を返していいか分からなかった。
納得なんてしないけど、でも否定も出来なかった。
何も言えないまま時間だけが過ぎていく。
パー子の温かさを感じていたら、何となくその言葉が頭に浮かんできた。
言うつもりなんてなかった言葉。
「僕のパパとママ、ヒーローだったんだ」
パー子は何も言わない。
ただ黙って僕に凭れかかってきた。
それが聞いてるよと言われてるみたいで、僕はそのまま続けた。
「ヴィランに殺された。でも人を助けたんだって。お礼も言われた。皆から凄いって言われた━━━でも、嫌だった」
分からなかった。
「凄くなくて良かった」
何が凄いの?
「褒められなくて良かった」
何が立派なの?
「お礼なんて言って欲しくない」
なんで感謝なんてするの?
「パパもママも死んじゃったのに・・・おかしいよ」
おかしい。
おかしいんだよ、みんな。
いかれてる。
みんな、みんな、みんな。
みんなおかしいんだよ・・・。
「━━━━何が凄いんだよ、どこが立派なんだよ。死んじゃったのに・・・!褒めるなよ!!僕はっ、もう、何も言って貰えないのに!!なんで、お礼なんて言うんだよ!!死んじゃったのに!!死んじゃったんだよ!!なんで、なにがそんなに嬉しいんだよ!!」
だってそれじゃ、当たり前みたい。
正しいみたい。
「僕は死んでほしくなかったのに!!みんな、それで良いって言うんだ!!ヒーローだからって!なんだよそれ!!ヒーローじゃない!!死んじゃったのは━━━」
知らない、みんななんて知らない。
だって、二人は僕の━━━
「━━━━僕のパパとママなのに」
「大丈夫だよ、洸太」
パー子の声が聞こえた。
優しい声が。
「洸太は間違ってない」
ぎゅっと、手が握られた。
「洸太はおかしくないよ」
それが温かくて、あの時みたいに涙が出てきた。
「だから、悲しくていいよ」
みんなが立派だって言うのに?
「だから、泣いても大丈夫だよ」
みんなに褒められたのに?
「だから、沢山、沢山、文句言っていいよ。嫌だって言っていいよ。ちゃんと聞いてあげるから。ちゃんと私が聞いてあげるから━━━━」
気がついたら声がもれていた。
僕自身なにを言ってるのか、分からないくらい沢山。
気持ちもぐちゃぐちゃで。
でも、パー子は黙って聞いてくれた。
ずっと、抱き締めてくれた。
ずっと。
『洸太、あんたのパパとママ・・・ウォーターホースはね、確かにあんたを遺して逝ってしまった。でもね、そのおかげで守られた命が確かにあるんだ』
わかってる。
『あんたもいつかきっと出会う時がくる。そしたら分かる』
わかってるんだ。
『命をとしてあんたを救う』
パパとママがなにをしたのか。
『あんたにとっての━━━━』
聞いたから、みんなから沢山。
パパとママが命がけで人を助けた事。
沢山、助けた事。
それで沢山の人が幸せだって事。
わかってるんだ。
ヒーローとして、パパとママがどれだけ凄い事したかなんて。
お葬式と時、沢山の人が来てくれた。
みんな悲しんでくれた。
だから、わかってるんだ。
でも、じゃぁ僕は・・・?
そんなつもりでみんなが僕にパパとママの事教えてくれたんじゃない事、ちゃんと分かってる。
でも、どうしても思っちゃう。
だって、僕は一人ぼっちになっちゃったから。
みんなパパもママもいるのに、僕は一人だから。
「いやだっ!パパ!ママ!ぼくは、いやだっ、いやだよぉ!おおきくなったら、いっしょに仕事するって、約束したのに!なんでっ━━━なんでっ!」
ヒーローじゃなくていい。
「こんどの休み、たくさん遊んでくれるって言ったのに!!」
ヒーローじゃなくていいんだ。
「いい子にしてたら、早く帰ってくれるって言ったのに!!」
ヒーローなんかじゃなくて良かったんだ。
「パパぁ、ママぁ・・・・」
僕は、僕はただ━━━。
「会いたいよ」
おかえりって、そう言いたかったんだ。
◇◇◇
「疼く・・・疼くぞ・・・・、早く行こうぜ!」
せっかちな声が耳に響いた。
新入りの一人のそいつは確かに腕は立つが、頭のネジが何処かにいっちまったイカれ野郎だ。あの人の矜持に従うならぶっ殺しておくべきなんだろうが・・・今は俺も"あいつ"の部下の一人。無闇に殺すのは道理に反する。
「まだ尚早。それに派手なことはしなくていいって言ってなかった?━━━ね、荼毘」
妙ちきりんなマスクを被ったガキが制止を促し、俺に尋ねてきた。
だが、その言葉は恐らく保身からくるもの。
忠義なんてもの欠片も感じない。
まぁ、かく言う俺も、そいつらと大差ないが。
「ああ、急にボス面始めやがってな」
馬鹿共から視線をそこへと落とす。
山奥の森の中、一つだけ明かりが灯ったそこへと。
その景色を見るとあいつの言葉を思い出す。
自信満々に語る、あいつの言葉を。
『これは始まりだ、荼毘』
「・・・今回はあくまで狼煙だ」
『ここから全てが始まる』
「虚にまみれた英雄たちが」
『お前が、その一手を打て』
「地に堕ちる」
『堕落しきった社会の、その歯車をぶち壊す。その最初の一手をな』
「その輝かしい未来の為のな」
風が鳴る。
開戦を待ちきれないと、騒ぐように。