私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
やべーな。
色々あった二日目の夜も終わり、迎えた三日目の昼。
その日も朝から訓練に次ぐ訓練祭り。
美貌とちょこっと体力に自信のある私でもクラっとするくらいヘビィな訓練メニュー。それまで何とか堪えていた私の頑張りパラメーターも、いよいよ限界を迎えんとしていた。
「包帯先生ぇぇぇぇ!!もう、むりぃぃぃぃ!!」
私の声に補習組を指導していた包帯先生がこちらへと顔を向ける。
「石の数を減らせと言ったろ馬鹿。六つも七つも飛ばすんじゃない」
確かに今私の周りには七つのニコちゃんストーンが飛び交っている。伝説のあれにあやかってそれぞれ数字も書き込んでたりする、最早お気に入りの訓練アイテムだ。
減らせば楽なのは分かる、分かるんだけど・・・。
「あたい!昨日の自分に負けたくないのぉぉぉ!!」
「じゃぁ、ずっとやってろ」
「酷い!!こう、上手く誘導して!!先生じゃん!」
「はぁ、飴くれてやる・・・休め」
私は全ての石を落とした。
そして包帯先生の元へとダッシュする。
呆れ顔の包帯先生の前に辿り着き、さっと手を伸ばすと本当に飴をくれた。
「あざーす!!」
「飴が欲しかっただけだな、お前」
「まっさかー頂きまーす」
訓練二日目。
出された課題よりちょっぴり多目に石を飛ばしてたら、なんか知らないけど飴をくれたのだ。しかもその飴の美味しさといったらなかった。具体的にどうとは言えないけど、すごい旨かったのだ。
「ん?なんか昨日のと違くないですか?」
貰ったそれに違和感。
昨日のは宝石みたいに綺麗な鼈甲色だったのに、今日のはなんか黒い。しかもどす黒い。食べちゃいけない色してる。
「昨日のも元々貰い物だからな。あれは誰だったか・・・ミッドナイトさんかマイクだとは思うが。まぁ、なんでもいい」
「全然良くないんですけど・・・」
ラジオ先生だった場合、かなり危険な気がする。
マブダチのミッドナイト先生なら好みとかも知ってるし、センスのあるお菓子屋とか紹介されたから信用出来る。昨日のあれもミッドナイト先生からというなら納得だ。
けど、ラジオ先生である場合は信用ゼロといっていい。
何故なら、ラジオ先生は確かに包帯先生の友達だけど、その付き合い方は悪友そのもの。悪戯でワケわからない物を渡してる可能性が非常に高い。
「名前とか分からないんですか?」
「名前・・・ん?待て、確かそれはマイクからだったな。サルミアッキだ」
私は個性が届く範囲にいたかっちゃんの口目掛けて、その飴を躊躇する事なく引き寄せる個性で飛ばした。
唸りをあげながら宙をかけた飴はかっちゃんの口にINする。あまりに一瞬の事。何が起きてるか把握出来なかったかっちゃんは目を丸くしたけど、直ぐに口に含まれてる物の味を感じ苦しそうにえづいた。
「緑谷・・・食べ物を粗末に扱うな」
「包帯先生!!舌馬鹿なんじゃないですか!!?あんなもん食いもんじゃないですからねぇぇぇ!!タイヤですよ、タイヤ!!」
「誰が舌馬鹿だ。旨いだろ、サルミアッキ」
まじか、この人マジか!!
マジで言ってるのか!!
昔かっちゃんパパが同僚から北欧のお土産としてサルミアッキを貰った事があった。当時からお菓子大好きだった私は当然初めて見るそれに興味津々。止められたもののなんとか分けて貰って食べた事がある。・・・だから知っている。あれは食べ物じゃなくて、タイヤのゴムなのだと。誰がなんと言おうと、あれはタイヤのゴムなのだと言うことを。
本気で言ってるのか確かめる為にじぃっと見つめていたら、何を思ったのか包帯先生は溜息をつきながらポケットから第二のサルミアッキを取り出し━━━━また私の掌の上に乗せてきた。
「もうやらんぞ」
私は迷う事なく個性がギリギリ届く範囲にいる轟の口目掛けて、引き寄せる個性を使って飴を飛ばした。
唸りをあげて宙を舞う飴は轟の口にINする。
そしてやっぱりえづいた。
「緑谷・・・」
「いやいや!見てくださいよ!!包帯先生!!ほら!二人ともえづいてんじゃないですか!!まっずいんすよ!!それ!!人間の食い物じゃないですよ、それ!!」
「人間の食い物に決まってるだろ。北欧では定番のお菓子だぞ」
「北欧じゃないですもぉぉん!ここ日本ですもぉぉん!」
全力で否定すると包帯先生はまた溜息をついた。
そして「十分休憩したら再開しろ」といって補習組の元に戻っていく。
のんびり休憩しながら皆を眺めていると、お茶子と外国人が包帯先生に絡まれ出した。耳を澄ませてみれば、お茶子達は赤点ギリギリだったそうだ。びっくりするお茶子可愛い。
「━━とまぁ、麗日と青山に言ったが、他の皆も気を抜くなよ。ダラダラやるな」
周囲に聞こえるように包帯先生が声を張った。
大事な事を伝えようとしてるのは察したので、囃し立てずに黙って眺めておく。
「何をするにも原点を常に意識しとけ。向上ってのはそういうもんだ。何の為に汗をかいて、何の為にこうしてグチグチ言われるか、常に頭に置いておけ」
原点・・・ねぇ。
休憩を満喫する為に横に寝転ぶ。
今日も陽射しが強い。凄く眩しい。
日焼け止め塗ってるけど、何処まで効果あるか。
そんな事をぼんやり考えながら包帯先生に言われた事を頭の中でもリピートしてると、「ねこねこねこ」という無理在りすぎる口癖を聞いた。
起き上がってそこへと視線を向ければいきおくれ━━━ピクシーボブがそこにいた。
「皆頑張るねぇ~!そんな皆に朗報だよ!今日の晩はねぇ・・・クラス対抗胆試しを決行するよ!しっかり訓練した後はしっかり楽しい事がある!そう!ザッ、アメとムチ!」
頑張った後のご褒美、確かに必要だ。
適度にそういうイベントぶっこんでいかないと、草臥れてシオシオんなっちゃうもんね。
ピクシーボブみたいに。
「なんか言った、緑谷さん!!?ねぇ!!なんか言ったでしょ!!ねぇ!!!」
うわっ、こわっ。
思っただけで、何も言ってないのに。
エスパーにゃ?
てきとーに「何も言ってないにょ?」と言うとかなり怪訝そうな顔してきたけど納得したのか私から視線を外してくれた。日に日に荒んできてるピクシーボブに合掌。
「・・・まぁ、ちょっと話は逸れたけど、そういう訳!!今は全力で励むのだぁ!!!」
取り直したピクシーボブの号令にイエッサの返事が木霊した。
訓練終了後、また再びの悪夢の時間がやってきた。
そうお夕飯作りの時間である。
またいらない子扱いされるのかと思っていたら、今日は百から火付け係りを任命された。まさかの大抜擢に双虎にゃん大興奮。やる気120パーセントUP。
何ならキャンプファイヤー並みの凄いやつを用意しようかと材料を集めに森に行こうとしたんだけど━━━それは止められた。竈に火を用意すればいいとの事。
なんとつまらん。
遠くからかっちゃんの包丁捌きを褒めるお茶子の声を聞きながら、私は面白味のない薪を竈に並べる。
なんてつまらん作業。
キャンプファイヤー良いじゃんね?キャンプファイヤーで煮たら良いじゃんね?ね?
「緑谷、それ積みすぎだ」
声に振り返ってみると轟がいた。
なんか鍋持ってる。
「轟は何してんの、遊び?鍋に水いれる遊び?」
「聞いた事ねぇ遊びだな。汁物作るのに使う水運んでんだ」
「そっか。で、どうよ、この並べは!ペキカンじゃない?」
「だから積みすぎだって言ったろ。面白くしようとすんな」
そう言うと轟は鍋を置いて私のピラミッド型に並べた薪を崩してきた。なんてやつ。
「見損なった!!私はお前を心底見損なった!!」
「薪並べ直しただけで、こうも見損なわれるとは流石に思わなかったな。でもな、こうしねぇと金網おけねぇだろ」
「百にピラミッド型でおっけーな金網作って貰えば良いじゃん」
「そんなの作っていつ使うんだ。無駄になんだから八百万に変な事させんな」
黙々と並べ直す轟はあまりに冷たい。
きっとこやつには、芸術というものは当分分からないのだろう。残念なやつだ。
「・・・それはそうと、昨日は何処に行ってたんだ?」
脈絡のない言葉。
だけどそれが何を指しているのか直ぐに分かった。
何せ昨日帰ってから皆に同じ事を聞かれてるから。
「教えたいのは山々なんだけど、洸太きゅんのプライバシーに関わるからねぇ」
「コウタ?・・・ああ、爆豪みたいな子供か」
「それかっちゃんに言ったら怒られるよ?」
「大丈夫だ。もう怒鳴られた」
いや、それは大丈夫とは言わない。
轟は私の視線を軽くスルーした。
そして薪を積み始める。
「・・・また、ちょっかい掛けにいったのか。俺ん時みたいに」
「ちょっかいって。なんか人聞き悪いなぁ、その言い方。まるで私が悪戯しにいったみたいな」
「そうは言ってねぇ。けど、本当の事だろ。お前は頼まれてもいねぇのに直ぐ首突っこむ。無神経というか、遠慮がねぇというか」
「あ、もしかして喧嘩売ってる?」
「そうじゃねぇ」
轟は手を止めて私の目を見てきた。
じっと、いつもみたいな真剣な目で。
「・・・ふぅ。いや、どうせ言っても聞かねぇんだろうから、余計な事は言わないでおく。━━━けどな、これだけは覚えておいてくれ、俺はお前の味方だからな。困ったら呼んでくれ、力になるからよ」
「ぷっ、何それ?」
「覚えてくれてりゃいい、今は」
そう言い切ると轟は残りをさっさと積んで去っていった━━━━鍋を忘れて。
「轟ぃー鍋ぇぇぇーー!!」
「わりぃ」
お前は何をしに来たんじゃー。
まったく。
轟が去った後、積み終わったそれに火を点け私のお仕事は取り敢えず終了。
後は消えないように様子を見ながら火の番をするだけだ。
皆がワイワイとやってる姿を何となしに眺めていると洸太きゅんの姿がない事に気づいた。
訓練の時、少しも顔を見せないから何処かで仕事でも手伝っているのかと思っていたけど・・・まさかね。
「緑谷さん」
声の方へと視線をやるとマンダレイがいた。
探るような視線に洸太の事かな?と予想。
試しに「洸太きゅんですか?」と尋ねて見れば、少し驚いた顔を見せた後苦笑いを浮かべた。
「うん、まぁ。その様子だと見てない・・・よね?」
「マンダレイに預けた後はどうしたんですか?」
「ああ、別に行方不明とかじゃないのよ?行き先は知ってるの。いつもの場所だとは思うんだけど・・・様子が少し変だったから、それで緑谷さんが何か知らないかと思ってね」
ふぅ、と息を吐いたマンダレイの横顔はどこか心配そう。火の番をのんびり眺めているとマンダレイが私の顔をじろりんちょしてくる。
「なんですか?」
「ううん、別にね。ま、知らないなら構わないわ。ごめんね時間とらせて」
そう言って立ち去ろうとしたマンダレイだったけど、何かを思い出したように振り返ってきた。
「改めて言わせて、昨日は洸太のことありがとうね」
「どー致しまして?」
私の言葉に満足したのかマンダレイは去っていった。
何処と無く足取り軽く。
「ニコちゃん!火は大丈夫ーー?そろそろ鍋持ってくけどーー!」
「かもーーん!燃やし尽くしてやんよー!」
「尽くさんといて」