私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
はくびしん「お付き合いからお願いします」
ギャグ「!?なによ!浮気!?」
はくびしん「!?ち、違うんだ!つい!」
ギャグ「つい!?」
ごめんやで、今日もシリアスなんや。
眼前に膨れ上がった赤い塊が見えた。
束ねられた繊維が何十本も集まったようなそれは、ダサマスクの動きに合わせて伸縮し、その異様な見た目に反する事ない得体の知れない破壊力を目の前に叩きつけてきた。
視界の中、大地に刻まれた幾十もの傷痕が映る。
それを作り出したダサマスクも。
「ははっ!速ぇな!!初撃をかわしたのもそうだがっ、俺の速度にここまでついてこれたのは、てめぇが初めてだぜ!!」
そうがなったダサマスクは膝を曲げた。
脚部の筋肉が膨れ上がるのが見える。
ダサマスクの視線、体の向き、姿勢から飛び込んでくるルートを予測。
安全地帯に向けて、思いきり体を引っこ抜く。
風切り音が鳴る。
振り抜かれた豪腕が鼻先を通り過ぎる。
ダサマスクは勢いを圧し殺せず、そのまま岩壁へと拳を叩きつけた。轟音が鳴り、粉塵が舞う。深々と岩肌に突き刺さる腕が見える。
普通なら自滅物の凄惨たる結果だが、ダサマスクにダメージは見られない。余裕の笑みを浮かべたまま突き刺さった腕を横に動かし、チーズのように岩肌をくり抜き腕を脱出させてくる。
それは直撃した時の破壊力を嫌でも脳裏に過らせた。
「いまいちテンションあがんねぇな。なぁ、一発くらい当たっとこうぜ?ヒーローだろ?なぁ?そうしたらよ、もっとノレんだよなぁ」
「うっさいわ。そんなに当てたかったら、自分の腹でもパンチしてろ。そんで勝手に自滅しろ。ドMハゲ」
「ぶわっははは!!今度はドMハゲかよ!よくまぁ、色々思い付くなぁ、お前!!いや、面白ぇよ本当!!はははは!!」
腕を回しながらそう言うダサマスク。
恐らく言葉に嘘はない。
本当にノレてないのだと思う。
気分屋の人間はそういう些細な理由で本気を出さない。━━━というより、出せない。本当にこの手の連中は気分で動いているのだ。利益や理性、論理的な理由は一切なく、気の持ちようで力を十全に発揮しないのである。
・・・私も似たような時があるので分かる。超分かる。一人で勉強とか、マジで無理ぽよだもん。あれはノレない。
「━━━ボーッとしてる余裕があるなんてなぁ、心外だぜ、俺ァっよ!!」
飛び込んでこようとするダサマスクの前へ炎を吹く。
溜めなしの目眩まし。
威力はない。
引き寄せる個性で横に飛ぶ。
もしダサマスクが何の考えなしに突っ込んだら崖下にまっ逆さま。洸太がまだ近くにいる可能性がある以上、それは望ましくはないけど━━━━問題はないと思う。
その豪脚をもって地面を蹴ったのか、けたたましい轟音が鳴る。音が聞こえた瞬間には炎を突き破りダサマスクが現れるが━━━その目は予想通り私の姿を捉えていた。
「ははっ!だよなっ!!」
空中で体の向きを強引に変えたダサマスクは、崖っぷちぎりぎりでに踏みとどまった。
そして、一瞬の迷いもなく私に飛び込む。
けれど、それは私も読んでいた事。
さっきダサマスクが突っ込んだ壁に向け体を引っこ抜く。ダサマスクの攻撃範囲から離脱。
加えて飛び込んでくるダサマスクの顔面と足下の地面を対象に引き寄せる個性をフルスロットル発動。空中でまともに動けないダサマスクの間抜けな面を、思いきり地面に叩きつけてやる。地面を容易く抉る驚異的な踏み込み、そこから生まれる加速と破壊力が全てダサマスクの顔面に集中。けたたましい音を鳴らし、地面を抉り飛ばしながら顔面をもみじおろしする姿は正直トラウマ物である。
「━━━っ!!」
流石に死んだかな?と心配したけど、ダサマスクは直ぐに起き上がってきた。削れたと思った顔面も赤い繊維が覆って守っている。
「・・・個性が二つだっては聞いてたけど、それよりなにより上手いなぁ、お前。ああ?使い方だよ、使い方。本当に学生か?どう?つーの?それに入ってるぜ」
顔を覆っていた赤い繊維を体の中に戻し、ダサマスクは首を鳴らした。赤い繊維の下の顔はほぼ無傷。余裕は崩れない。
「どうなってんのそれ?筋肉みたいに見えるけど」
「ぷっ、ははは!聞くか普通よ!?でもまぁ良いぜ!面白いもんでねぇけど教えてやるよ!俺ばっか知ってんのはフェアじゃねぇもんなぁ!!ははははは!!」
ダサマスクは腕を前に突き出した。
腕が膨れ上がり出し、ついには皮膚が耐えきれなくなったかの様に裂ける。そしてそこから赤い繊維が溢れ出していく。蠢きながら腕に絡みつき、脈打つように躍動する。
「俺の個性"筋肉増強"。言葉の通り、筋肉を増やして強化する、それだけの個性だ。見ての通り増やし過ぎっと皮下から飛び出ちまうデメリットもある━━━ま、それだけだな。他には特にねぇ。本当にそれだけの個性なんだよ。なぁ、面白くねぇだろ?」
そう言って笑うダサマスクに少なからず苛立ちを覚える。ダサマスクは笑ってそれだけと言うが、それこそが死ぬほど厄介なのだから。
単純な強化系の個性、それは単純であるが故にあらゆる場面で力を発揮する万能性のある個性だ。勿論鍛えが足りなかったり、個性使用に関するデメリットが大きかったり、個性自体の出力が低ければ話は変わるが━━━平均的に見ても強化系個性が強個性である事に変わりはない。
「そう怖い顔で睨むなよなァ。俺こうみえて繊細だからよぉ、傷ついちまうぜぇ!!」
ダサマスクが地面を叩いた。
粉塵が巻き起こり、蜘蛛の巣状のひび割れが私の足下まで届く。
ギアが上がったのを感じ、私は引き寄せる個性と脚の筋肉をフル動員してその場を飛び退く。
飛び退いた直後、大きな影が私のいた場所を通り抜ける。
粉塵が吹き飛ばされ、拳を振り抜いた様子のダサマスクがそこに見えた。
「これもかわすか!!面白ぇ!!けどな━━━━」
片腕だけだき巻き付いて筋肉が両腕を包む。
ダサマスクの目の色が変わる。
「━━━そろそろ、血ぐらい見せろやぁ!!!!」
爆発的な加速。
一気に距離を詰められる。
引き寄せる個性で更に飛び退き、攻撃の射程外へ。
けど、ダサマスクは岩壁を豪腕で掴み、腕力に言わせて体を引っこ抜く。空中を更に加速。開いた距離を詰めてきた。
「まずはァ、一発!!」
振りかぶったダサマスク。
私は振り抜かれるより速く力一杯引き寄せた。
自分の体をダサマスクの頭へと。
急速に加速する体は飛ぶ。
ダサマスクの攻撃射程内、その不可侵たる奥へと。
拳の打ち所を見失い目を見開いたダサマスク。
引き寄せる個性を拳とダサマスクの顔面に発動。
全身の体重を乗せ、限界まで加速させた拳を間抜け面へと叩きつける。
感触はいまいち。
確かに当たったけど、やはり増強させた筋肉が盾になっていた。だが、無駄ではない。顔面への攻撃に面喰らったダサマスクが失速したから。
そのまま引き寄せる個性で側の岩壁に飛ぶ。
壁に着地した後は引き寄せる個性を発動し続ける。長い時間は無理だけど、少しの間は張り付いていられる。
そのまま落ちていくダサマスクへ視線を移し、限界まで溜めた炎を吹き付けた。
灼熱の蒼炎がうねりをあげて落ちる。
「━━━はっ!!すげぇじゃねぇかよ!!」
そう笑ったダサマスクが炎に包まれた。
火だるまのまま地面に落ち、周囲へと火の粉を散らす。
本来なら人に使うような火力じゃなかった。
けど、確信する。
この程度、足止めが良いところだと。
「はははっ!!っちぃなぁ!!」
火の塊から赤い腕が生えたかと思えば、豪風が吹き荒れダサマスクを焼いていた炎が消し飛んだ。
多少の火傷は見えるけど、致命傷とは程遠いらしい。
元気そう。
そのまま壁に張り付いてもいられないので個性を切る。
着地後を狙われる可能性も考慮してダサマスクから目を離さないようにする。
予想に反してダサマスクは私が着地するまで何もしなかった。ただ、楽しそうに笑うだけで。
着地して態勢を整えると、ダサマスクが嬉しそうに口を開いた。
「つぇーよ、お前。パワーはねぇが、その分速ぇ。それより何より、その判断力と行動力、失敗した時の切り替えの早さ。一級品だ。本当に面白ぇ━━━だからよ、止めだ」
ダサマスクは左目を掴み、その目を取り出した。
やや、スプラッターかな!と思ったけど血は出ていない。よく見れば変な目だなぁと思っていたそれは義眼だったようだ。道理で視線が動かない訳だ。
「手加減は止めだ、止め」
ダサマスクは取り外したそれを地面に捨て、左手をポケットに突っ込む。
そしてなにかを探すようにガチャガチャと探り始めた。
「殺さねぇように加減してたけどよ。でもよ、大丈夫だよな、お前ならよ」
ボロボロとポケットから義眼が落ちていく。
どれも模様だったり飾りだったりが騒がしい奴ばかり。なんかファッション義眼らしい。
おしゃれ義眼とかコア過ぎるよ。
何処で売ってんの、あれ。
・・・は!しまった!そんな事気にしてる場合じゃなかった!
あんまりにもツッコミ要素満載だったからつい!
視線を落ちてる義眼からダサマスクに戻す。
すると丁度一つの義眼を目に嵌める所だった。
「本気の義眼だ・・・やろうぜ、緑谷ァ!!」
腕だけを覆っていた筋肉が全身を包む。
唯一肌を露出させた顔面もその殆どが筋肉の鎧に覆われていた。
一見すると肉団子みたいな不格好な姿。
いつもなら笑っている所だけど、その時は全身が震えた。そして頭の中を嫌な予感が何度も過っていく。
地面が爆発した。
咄嗟に高い所の岩肌へと体を引っこいた私は、宙を跳びながらそれを見下ろす。
ダサマスクが拳を叩きつけたそこには大きなひび割れが起こり、安全だった足場は大きく崩れ崖下へと落ちていく。その様子に洸太の事が頭を過るが、あれから大分時間が経っている。子供の足でもとっくに施設についてる程に。
だから、直ぐに思慮を切り替える。
目の前の化け物へと。
そしてダサマスクの視線が私の視線と交差した。
「そこか、緑谷ァ!!!」
一息すらつかず、ダサマスクは私に向かって真っ直ぐ飛ぶ。引き寄せる個性で体を引っこ抜き攻撃範囲から避けたけど、その突進の余波に吹き飛ばされた。視界が回る。轟音が聞こえる。
何とか着地し顔をあげれば、 壁に拳を突き刺すダサマスクが見えた。さっきの比じゃない。肩まで深々とめり込んでいる。そして筋肉を増強し過ぎたのか、筋肉が詰まっちゃって最初の時のように直ぐに復帰できなくなってた。なにあれ、超ザマァ。
恐ろしい程の超パワー、圧倒的なダッシュ力、筋繊維による防御力。
まともに戦ったら勝ちはないだろう。
なら、まともに戦わなければ良いだけの事。
見張らしいいここで戦う必要はない。
幸いな事に少しいけば視界を塞ぐ木々がある。身を隠しながら持久戦に持ち込めば、如何にも燃費の悪そうなダサマスク、勝機はまだまだあるだろう。
いざとなれば隠れて逃げてしまうのもアリだ。プロ様を巻き込んで戦っても良いのだ。
━━━そう思ってた。
少なくとも自分の後ろを見るまでは。
「━━━━っ、なんで!?」
森への最短の道。
このひみつきちの入り口に当たるそこに赤い帽子を被った子供の姿を見てしまった。
時間は稼いだ、逃げ切れるだけの。
本来ならとっくに保護されてる筈だ。
なのに、まだそこに洸太の姿が見えた。
思わず怒鳴り散りそうになったけど、結局その声は出なかった。
洸太の浮かべていた表情が見えてしまったから。
涙と鼻水でぐしゃぐしゃにし、心配そうにこちらを見つめるその顔が。
ガラガラと石か何かが崩れるような音が聞こえる。
軋むような音も、男の荒い息遣いも。
「よそ見すんなよ!なぁ!俺と遊ぼうぜ!!」
ダサマスクが踏み込む音が聞こえた瞬間、私は飛んだ。
多くを選べる余裕はない。
選択は選べて一つ。
私は腕を伸ばした。
馬鹿でお人好しな、人一倍優しいその子に━━━━━。