私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
そんな訳で今回は生き抜き回なのかもしれない。
かも、知れない。
拘束野郎と戦い始めて暫く。
戦闘許可が降りたのは良かったが、事態はあまり好転していなかった。
それというのも拘束野郎の個性が思った以上に厄介だったからだ。
「爆豪!!」
クソ紅白の指示に従い後ろに下がれば、氷の壁が目の前に現れ拘束野郎から伸ばされた歯の刃を食い止めた。
腹の立つ話だが拘束野郎の歯の個性と、俺の個性との相性は最悪。一定距離を保ったまま手数のある攻撃が出来る拘束野郎と比べて、俺は中遠距離の攻撃は単発しか出来ない。加えて周りが木々に囲まれている為、迂闊に使うわけにもいかないときてる。
どうにも痒い所に手が伸びない、そんな腹の立つ戦いだ。
「不用意に突っ込むんじゃねぇ」
「るっせぇわ!!」
氷の壁を避け拘束野郎に向かって駆けようとしたが、氷の壁に止められた刃から俺の進行を妨害するように枝分かれの刃が飛び出してきた。反応は出来たが、体を逸らすのが遅れ前髪数本が宙に散る。
その様子を見たクソ紅白が氷柱で拘束野郎を牽制。
拘束野郎は個性を引っ込め飛び退いた。
「地形と個性の使い方がうめぇ」
態々クソ紅白がそんな事をほざきやがった。
んな事、言われんでもわかってると言うのにだ。
俺は全ての元凶へと視線を向けた。
伸びる歯をまるで手足のように使い闊歩するそいつを。
「見るからにザコのひょろガリのくせしやがって、んの野郎・・・!」
文句は出るが、その戦い方は目を見張るものがあった。
経験や練度、踏んだ場数の違いをまざまざと見せつけられてる気分だ。オールマイトと闘う前なら、クソジジィと会ってなかったら、無茶苦茶やるしかなかったくれぇの差がある。
だが、今の俺なら突破口が見える。
「おい、クソ紅白。てめぇ氷はどこまで扱えんだ」
「なんだ、いきなり?」
「良いから答えろや。てめぇは馬鹿の一つ覚えみてぇに、ただの氷しかだせねぇのか。それとも、ある程度は氷の質、形、変えられんのか」
視線を向ければクソ紅白は少し考えた後「厚さと形なら、ある程度は」と真剣な目で言ってきた。
それを聞ければ十分。
頭ん中にグラントリノの教えが過る。
『プロの世界に出りゃぁ、いつも万全で戦える訳じゃぁねぇ。環境が、地形が、時間が、空気が、果ては自然が敵になる時がある。だからな、よく考えておけ爆発小僧。そういう不利な時にこそ勝てるように。その無駄に働くおつむ使ってよぉ』
「上等だっつんだよ・・・!!」
見てやがれグラントリノ。
オールマイト。
俺は先に進むぞ。
こいつをぶちのめして━━━先に。
「一回しか言わねぇぞ!!クソ紅白!!聞いとけやぁ!!」
「爆豪。声がでけぇ、作戦なら静かに話せ」
「るっせぇ!黙って聞いとれや!!」
◇◇◇
「はいよーーー!!レッドライオン号!!」
秘術『先生トイレ』でこっそり宿舎を抜け出した私は、そこら辺でテキトーに捕まえた野良馬に股がり、一人と一頭で森を駆けていた。
赤いツンツンヘッドを手綱にし、もっと速く走れと腹を蹴る。馬は嘶き、更に加速した。
「いや待て緑谷!!誰が馬だ!!んで、レッドライオン号って何!?微妙にヒーローネームに被るから止めろぉ!!」
おやおや、このお馬さんお喋りなさる。
それになんか文句言ってるな。
餌かな?餌が足りなかったのかな?
「ごめんね、レッドライオン号。今は食べ物持ってないの。そこら辺になってる変な色の果実とか、丸々太った虫とか、1UPしそうなキノコならあるけど・・・どう?」
「いや、いらねぇわ!撫でんな撫でんな!てか食べ物要求してねぇーわ!!んで、碌なもん食わそうとしねぇな!お前は!!」
「えへへ」
「なんで照れたの!?」
レッドライオン号とそんな話をしてると爆発音が聞こえた。手綱をとるまでもなくレッドライオン号は体の向きをそこへと向け加速する。
「━━緑谷、ありがとな」
急にお礼を言われて双虎にゃん混乱。
いきなりどうしたのかな?この駄馬は。
「ん?どした、外を走れて楽しいのかな?暫く小屋に入れっぱなしだったから」
「馬ネタを引っ張るなよ!どんだけだ!どんだけ俺を馬にしときたいの!?流石に泣くぜ!!」
泣くの?まじで?
じーと顔を覗けば「信じんな!」とツッコミされた。
「そうじゃねぇよ・・・その、俺がついてくんの許してくれてありがとなって話だ」
「そういう話?いや、助かったよ?私的にもさ。ぶっちゃけもう一回走る元気はなかったから、どうしようかと思ってたもん」
「はは、それでよくもう一回外に抜け出したな。お前やっぱりすげぇよ」
話しながら走るのキツそうだから止めればいいのに、息を切らしながらもレッドライオン号は続けた。
「俺さ、正直迷ってたんだ。先生に止められて、ヴィラン見てビビった!━━━けど、お前みたら、マジで恥ずかしくなった!お前行くって決めたら全然迷わねぇの!ボロボロなのによ!」
「褒められるような事してる覚えはないけど?手のひらクルンクルンさせてるし?」
「まぁ、そうだな。でもそれもちゃんと考えた上でだろ?流されてそうしてんじゃねぇ。・・・だからよ、そういうの自分で考えて、動かなきゃいけない時にちゃんと動ける奴ってのは凄いと思うんだよ。俺はさ」
染々そう言ったレッドライオン号。
何か言った方が良いのか悩んだけど、特に思い付かなかったのでカチカチのハードヘアを撫でといた。
手触り最悪だからすぐ止めたけど。
「・・・緑谷、頼むからそういうの爆豪の前ではやんなよ。俺は死にたくねぇ。おんぶしてんのだってアレなのによ」
「何が?」
「・・・いや、何でもねぇ。俺が犠牲になりゃ良いだけの事だしなぁ、ははは」
それから暫くレッドライオン号を走らせていると人影が見えてきた。かっちゃん達の所に着くにしては早いかな?と思って目を凝らせばお茶子と梅雨ちゃんだった。
そしてその二人に対峙する犯罪者臭プンプンさせた女子高生的なのも見えた。
「レッドライオン号!!硬化してあっちの変なのに突撃ぃ!!」
「いいのか!?敵なのか分かんなくねぇか!?」
「敵に決まってんでしょ!!お茶子達の顔見て分かんないかな!?腕も怪我してるっぽいし!」
「目良すぎだろ!そんなにくっきり見えねぇわ!!でも分かった。信じんぞ!!」
切島が硬化したのを確認し、私は引き寄せる個性を発動させる。てきとーに二本の木を対象にし、パチンコの要領で思いきり飛ぶ。
犯罪者臭プンプンさせた女子高生はこっちに気づき避けようとしたけど、そうはさせないのが出来る女の双虎ちゃん。引き寄せる個性で女子高生の体をこちらに引っこ抜く。下手に抵抗されてもあれなので、手足は引っこ抜いた反対方向に引き寄せ自由も奪ってあげる。
「わっわわ!?」
可愛いらしい声が聞こえたけど関係ない。
お茶子の敵なら殲滅あるのみ。
ニコちゃん108の必殺技。
レッドライオン号騎乗中のスペシャルバージョン。
「暴走レッドライオン号、悪夢の人身接触事故!!」
鈍い音と共に女子高生が空を舞った。
鋼鉄並みに固くなってる切島が高速でぶつかったのだ。普通に痛い事だろう・・・痛いで済むかな?
地面にどっちゃりと落ちる女子高生を確認しながら、レッドライオン号を引き寄せる個性で減速させてゆっくり止める。いきなり止めたら反動がつおいからね。
一瞬きょとんとしてたお茶子達。
直ぐ私達に気づいて、緊張で強張っていたその顔を破顔させた。
「ニコちゃん!それに切島くん!良かった!二人とも無事やったんや━━━ってなんで切島くん?」
首を傾げたお茶子をよそに、梅雨ちゃんも口を開いた。
「けろっ、助かったわ。どうして切島ちゃんがいるのか気になるけど、今はそれどころじゃ無いものね。避難しましょう・・・と言いたい所なんだけど、あれ大丈夫かしら」
梅雨ちゃんの視線の先を追えばぐったりと倒れてる女子高生の姿が。ピクピクしてるから死んではなさそう。
「取り敢えず、切島は後で署に出頭するとして、何かで縛っておく?」
「縛れる物がないわ」
「あ、それやったら、あの子の装備使えんかな?ヒモみたいなのあったし」
「━━━まてまて!何でしれっと俺が出頭する話で纏まってんの!?出頭するの!?俺だけ!?」
切島の焦った声に、お茶子と梅雨ちゃんの視線が私に向けられる。
「状況を考えれば、ニコちゃんも行った方がええかな?」
「けろっ。付き添った方が良いわね。ちゃんと正当防衛だった事伝えて貰わないと」
「そだね、分かった。ちゃんと切島の無実を証明してくるよ」
「なんで全部おっかぶせようとしてんの!?マジで言ってる!?ねぇ!?どっちかって言うと、悪いの緑谷だろ!!」
切島の事は取り敢えずおいておいて、私は二人に事情を話した。かっちゃんが狙われてるかも知れないという話だ。
状況から考えてかなり胡散臭いけど、もし本当ならガチガチに策を練られてる可能性があり、かっちゃんが危ないかも知れない事を伝える。
その話してる間、棒立ちで話したりなんて無駄な事は勿論しない。話しながら倒れてる女子高生の装備を全部拝借。尚且つ装備の一つであるチューブを使って木に縛り上げておく。お茶子に頼んで女子高生の顔写メをとっておくのも忘れない。
「状況は理解したわ。それなら、私達も緑谷ちゃんと行くわ。良いかしらお茶子ちゃん?」
「うん!勿論!皆で固まって動いた方が出来る事多いし!それに安全だしね!」
まさか賛成されるとは思わず、びっくりである。
優等生っぽい梅雨ちゃんなら絶対止めると思ってた。
「ん?良いの?梅雨ちゃんだったら施設に向かうと思ったのに」
「そうね、それが一番なのかも知れないわね。けれど、緑谷ちゃんは爆豪ちゃんの所に行くんでしょ?ヴィランが集まってるかも知れない場所に、その怪我で」
心配そうな梅雨ちゃんの視線と目があった。
「本当なら力づくでも止めたいのだけど━━━」
「待ってくれ、梅雨ちゃん!緑谷は・・・!」
「切島ちゃん、少し静かにして」
「お、おう」
割り込んだ切島を一刀に切り伏せ、梅雨ちゃんは続けた。
「━━━━本当は止めたいけど、でも、緑谷ちゃんは絶対に行くんでしょ?それこそ、私達を押し退けても。違うかしら?」
「まっさかー。大丈夫、押し退けないよ?」
「押し退ける必要もないのね?」
えっおう。
梅雨ちゃんは勘が良すぎるね。
「実力に開きがあるのは分かってるわ。緑谷ちゃん一人でも出来る事が多いのも。一人の方がかえって良いことがあるのも」
「でもね、それでも一緒に行かせて頂戴。そして私にも見極めさせて欲しいの。その必要があるのか、どうか」
その言葉の意味が分からないほど、私もお馬鹿さんではない。多分梅雨ちゃんは私が思ってるより私の事を見てるんだと思う。もしもの時、私がどう動くか。
多分ここにいる誰より。
「私ね、初めて梅雨ちゃんを見た時、仲良くなれるか微妙かなって思ってた。すごい優等生っぽかったから」
「奇遇ね、私もよ。緑谷ちゃん、凄く不真面目なんですもの」
梅雨ちゃんが笑顔を見せてくれた。
つられて笑い返していると、赤いツンツン髪が揺れてるのが見えた。
「・・・おーい、そろそろ、いこーぜ」
馬が待ちきれないみたい。急がねば。
そういう訳でお茶子の個性で皆を軽くし、切島━━━またの名をレッドライオン号に騎乗。
騎馬一、騎手三という前代未聞の騎馬モードである。
「飛びます!」
「またかよ!?てか、また個性使って大丈夫なのか?疲れてんだろ?」
「大丈夫ー!」
全快とはいかないまでも大分回復してる。
レッドライオン号の背中で少しでも休めたのが大きかったみたい。無理は禁物だけど、まだいける。
「緑谷ちゃん、飛ぶなら私が舌で飛ばすわ。緑谷ちゃんは着地の際に個性を使って」
「そう?じゃ、お任せするね」
「けろっ」
切島に硬化の個性を準備させてから、梅雨ちゃんの舌による原始的投擲で空へ飛んだ。
氷が連なり、爆発音がするそこへ向けて━━━━。