私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
毎日更新はここらが打ち止めや。
書きあがりしだいあげてくさかい、次回はのんびり待ってやで。
かっちゃん達の無事を確認した私は、次に状況の確認を行った。そして分かった事は差し向けられた敵は一人のみで、それ以降接触してきた敵はいないとの事だった。
この時点で火傷っさんの言葉がかなり疑わしくなった。混乱させる為、嫌がらせの為、注意をそらす為。なんの為にあの言葉を吐いたのか、他にも色々な可能性が思い付くけど、どれも決め手に欠けるので何とも言えない。
だからかっちゃんと話し合った結果、下手に予想せず何が起きても対応出きるようフラットに構えておく事になった。
ダサマスクの言葉を信じるなら生徒を拐うのが本命っぽいけど・・・あれもどうだか。
途中から絶対殺しに来てたしねぇ。
しかし・・・かっちゃんと話してる間、轟の視線に気になる物があったけど、あれもなんなんだか。
どしたの、轟?ん?んん?
「━━━それはそうとお前。その怪我、また無茶しやがったな」
「うぉっ!?まさかのお説教タイム!?」
「してやりてぇ所だが・・・生憎んな事やってる場合じゃねぇ。だからな━━━」
パチン、とオデコを指で弾かれた。
かっちゃんの本気デコピン、威力は言うまでもない必殺級。私は確信する。今デコピンを受けた場所に穴が空いたと。
「ぐぅぬぅぅぅぅあああぁぁぁぁ」
「きたねぇ苦痛の声あげてんじゃねぇ。今はこれで勘弁してやる」
「まだ、おやりになるんですかぁ?!」
「帰ったらな」
猛烈に帰りたくなくなってきたな。
比較的庇ってくれる轟に視線を向けたけど、今回は助けてくれる様子はなかった。何故だか目も逸らされてしまう。何故だ、まいべすとふれんど!
そうこうしてると周囲の様子を窺いに行った三人組が戻ってきた。その表情を見れば特に成果はなさそう。
━━━え?さっき見捨てなかったかって?
助けたよ、お茶子と梅雨ちゃんは。引き寄せて減速させて着陸させたよ。
・・・・切島は、まぁ、ね!
「緑谷!取り敢えずこっちは問題ねぇ!」
「敵の姿もないし、近くに要救助者も見当たらんかったよ」
切島とお茶子がそう声をあげる。
梅雨ちゃんはと言えば、何かを気にして辺りを見回していた。
「梅雨ちゃん、どしたの?」
「けろっ、なんだか嫌な感じがするのよ。上手く言葉には出来ないのだけど・・・見られてるみたいな」
ただの心配性からくる言葉だったら良いのだけど、生憎それは私も感じてたりする。
ここに来てからどうにも居心地が悪かったのだ。
梅雨ちゃんの言葉を聞いて切島が顔をしかめた。
「マジかよ?あ、いや、疑ってんじゃねぇけどよ、俺はそんなの全然感じなかったから━━━」
「切島なら仕方ないね」
「━━━おい。どういう意味だ、緑谷」
そのままの意味だ、レッドライオン号。
お世辞にも切島は頭使う奴じゃないし、そういうのに鈍いから気づかなくても仕方ない━━━それ以上でもそれ以下でもない、そういう事だ。
いちいち教えてやらないけども。
不満そうな切島はおいておいて、かっちゃんに視線を向ければ頷いてきた。どうやらかっちゃんも何か違和感を感じてたみたい。
「カエル女の勘が当たってるか知らねぇが、ここまで騒いでて誰もこねぇのは腑に落ちねぇ。ヴィラン共だけじゃねぇ、クソプロ連中も含めてだ。双虎の話通りなら、クソ担任はクソプロと合流してる。テレパス飛んだのが証拠だ。それからかなり時間が立ってるが、俺達の所にも、丸顔ん所にも助けはきてねぇ。そうだな?━━━なら恐らく妨害してる奴がいる」
「おぉ、久々のクール爆豪」
「うっせぇ、クソ髪。俺はいつでもクールだろうが、ぶっ殺すぞ」
「そういうとこな」
無駄口を叩いた切島を一瞥し、かっちゃんは続けた。
「クソ担任に加えてクソプロを妨害するとなりゃ、それなりの用意がいる。USJん時みてぇな規格外の化け物か、有象無象集めて時間稼ぎか━━━この際方法は何でも構わねえ。兎に角、そういう計画を立てて、尚且つ実行出来る頭を持った奴がいるって事だ」
そこまで聞いて、かっちゃんが何を言いたいのか全員が気づいた。皆プロヒーローとしての包帯先生の実力はよく分かっている。プッシーキャッツのそれはこの合宿中に肌で知っている。だからこそ、そこに思い至るのだ。
どんな形であれ、包帯先生とプッシーキャッツを出し抜くヴィラン達が、ここにいるという事実に。
「二度は言わねぇ。いいか、これから宿舎に向けて双虎が通ってきた道で撤退する。その際、些細な事でも何か見つけりゃ声あげろ。警戒心を最大限にあげとけ。何か起こる事を大前提に移動しろ、良いな?」
皆が緊張から喉を鳴らす中、轟だけは「いいか?」と声をあげる。
「撤退する際、緑谷の配置について少し意見があるんだが━━━つっても、爆豪ならもう懸念してんだろうが」
「分かってんなら黙っとれや」
「悪かった。一応確認しておきたか━━━━」
轟の言葉を遮るように地鳴りが響いた。
そこへと視線を向ければ木々を凪ぎ払いながら、砂埃を巻き上げながら、何かが真っ直ぐこちらに向かってきている━━━嵐のような激しさを持って。
「━━━━爆豪!!轟!!どちらでも良い!!光をっ!!止めてくれ!!」
聞き覚えのある声に視線を向ければ、嵐の如きその前を阿修羅さんがダッシュしていた。普段クールな阿修羅さんに似つかわしくない酷く焦った声。珍しくて思わず二度見してしまう。
すると、阿修羅さんが何に追われているのかに気づいた。僅かに拓けた木々の隙間から、巨大な黒い化け物が顔を覗かせたのだ。
「ダークシャドウちゃんよ!!」
梅雨ちゃんが悲鳴のような声をあげれば、かっちゃんと轟が構えた。頼まれていないけど勿論私も。
「暴レ足リネェゾ!!邪魔スンナァァァァ!!!」
ビリビリと響くダークシャドウの絶叫を聞きながら、私は炎を吹くために大きく息を吸い込み━━━━━その声を聞いた。
直ぐ後ろ。
背後からかけられた。
あまりにも場違いなソレを。
「さぁ、楽しいショーも幕引きの時間だ。お姫様」
あまりに軽い声。
敵意の一つも感じない抜けた声。
けれど、はっきりと感じた。
私達とは違う、異質な雰囲気を。
背中に何かが触れた瞬間、視界が闇に包まれた。
一欠片の光もない、闇に。
◇◇◇
手にしたソレを手に俺は宙を舞う。
エンターテイナーとして最高の舞台。
化け物が退治され、お姫様は本来あるべき場所へと帰る。
クライマックスでの自分の活躍に胸が踊る。
枝を伝い更に上へ。
木の天辺についた俺は視線を落とした。
呆然と見上げる事しか出来ない、憐れな憐れなナイト達へと。
「レディース&ジェントルメン━━━と言うには、些か幼い少年少女達!!今宵はMr.コンプレスの世紀のマジックショーへようこそ!!」
そう声をあげれば、死柄木から忠告されていた通り爆発頭の少年、爆豪くんが動いた。
「んだてめぇは!!何しやがった!!」
何しやがった。
この言葉は正直驚きだ。
実際俺の声に反応したのはターゲットだった緑谷双虎のみ。他の連中の視線は確かに影を操る彼に向いていた筈だ。彼女を圧縮し手に納めたのも、誰にも見られていないのは俺が一番知っている事実。
━━━にも関わらず、彼は既に状況を理解し、確信すらしてる様子。側にいない彼女の事も。そしてその状況を作った犯人が俺である事も。
頭の回転が恐ろしく早い。
やはり影の個性を持つ彼を引っ張ってきて正解だったようだ。
警戒心を全開にした彼等から彼女を奪うのは、骨が折れると思っていたんだ。
俺は余裕を取り繕い帽子を被り直す。
マジシャンは常に冷静でなくてはいけない。
「いやぁ、あまりに隙だらけだったもんでさぁ~つい、俺のマジックで貰っちゃったよ」
そう手にした珠を見せ語り掛けると、爆発頭の少年が手元を小さく何度も爆発させる。威嚇するようなそれに少し腰が引ける。戦闘能力皆無な俺にとって、ここにいる彼等は脅威過ぎる。マスキュラーやムーンフィッシュのようなゴリゴリの武闘派と違い、俺は優しい優しい平和主義者。よってたかって虐められたらたまったものではない。
「どういう個性か知らねぇが、さっさと返せや!!」
乱暴な言葉だ。
まるで彼女を自分の物であるかのような・・・いや、まぁ、おじさんも経験それなりにあるし?彼がどんなつもりでそう言ってるのか、分からない事もないんだけどね?くくく。
「返せとは・・・エゴイストだねぇ、爆豪くん。それじゃ女の子に嫌われるよ?」
「っせぇわ!!関係ねぇ!!」
若いなぁ、本当に。
遠慮なしの爆撃。
足場にしてた木が根本から倒れていく。
「随分と乱暴だなぁ、ヒーローの卵達。俺は、ただ彼女をディナーに招待したいだけだぜ?」
直ぐに飛び次の足場へ━━━と思ったけど、そこには俺の行き先を塞ぐように氷柱が現れた。
誰がやったかなんて見るまでもない。
エンデヴァーの息子轟くんだ。
ふと視線を落とせばまるで仕留めたような顔。
そうはいかない。
「悪いね俺ぁ、逃げ足と欺くことだけが、取り柄でよ!」
冷静に氷柱を見れば、表面に凹凸が多い事に気づく。
持っていた杖をその凹凸に嵌め、腕力と体のバネを使い棒高跳びの要領で飛び越える。歳のせいか背骨がバキバキと不吉な音がする。おじさんなのに頑張ってるなぁ、と染々と思ってしまう。
俺の様子に轟くんの表情が変わったのが見えた。
やはりこう時は胸が踊る。愉快極まりない。
人を驚かせてのエンターテイナーだ。
奇術師はそうあれかしと、だ。
轟くんの追撃が放たれる。
さっきより遥かに規模の大きい氷柱が、まるで波のように押し寄せる。とても恐ろしい光景だ。だが、これは頂けない攻撃。俺にではなく、君達にとって。
何せこの攻撃は俺を死角に潜り込ませてしまうし、何より仲間である爆豪くんの最短ルートを潰してしまう。
熱くなるのは大変結構。
それも若さ故。
けれど、それだけでは駄目だ。
迂闊に皮膚が氷に触れようものなら、一瞬で氷づけにされるだろう。靴なら多少はましだろうが、最悪を想定するなら出来るだけ触れない方がいい。故に接触面積が最も小さい杖を足としてステップを踏ませて貰う。
さっきもそうだけど、先端に緩衝材としてスプリング入れといて良かったと本気で思う。伝わる衝撃ハンパじゃないもんね。
普通の棒でやったら肩外れてるわ。これ。
死角に潜り込んだ所で個性を使って氷を圧縮。
二つの珠を作りポケットへ、中にしまっていた珠は口の中へとしまう。これを奪われるような事があれば多少は見込みありだが、そうはならないだろう。
所詮はヒーローごっこする子供達。
詰めの甘さは確認済みだ。
回収地点を一度確認し、俺は耳につけたそれのボタンを押す。
「開闢行動隊!目標回収達成だ!短い間だったがこれにて幕引き!!予定通りこの通信後5分以内に"回収地点"へ向かえ!」
返事はないが、これで全員が動き始めた筈だ。
後は、彼等を撒くだけ━━━━っ!!
振り向けば直ぐ側に拳を構える爆豪くんがいた。
ほぼ無音だった為に驚いたが、こういう修羅場は何度も乗り越えている。備えはある。
妨害用に圧縮しておいた珠を彼に投げつける。
個性の力から解放されたそれは土塊へと変わり爆豪くんを襲うが、やはり容易く爆破されてしまう。
だが、これが思った以上に効果があった。
爆豪くんはあろう事か自らの爆破の反動で後ろへと大きく飛んでいったのだ。開いた距離を眺めながらどうしてか考えれば、先程の集団の中に麗日さんという重力を操作する少女がいる事を思い出した。
「成る程、彼女の個性で、か」
無音で近づいた方法が分かった。
爆豪くん十八番の爆破による移動ではなく、無重力を利用したより原始的な投擲などによる移動。幸いな事に腕力のありそうな少年も、カエルの個性を持った彼女もいる。
「麗日ァ!!個性解けや!!後は、俺でやる!!」
その声を切っ掛けに爆豪くんが重力に従い落ちる。
氷の足場に降りた爆豪くんは俺の位置を確認すると、ボンボンと掌を爆破させて笑う。
「逃げられると、思ってんじゃねぇぞ。クソ仮面」
まったく、そのまま彼女の個性でアホみたいに飛んでくれてれば、やりようもあったと言うのに・・・。
「こりゃ、骨が折れそうだね」
おじさんにはちと荷が重いぜ。
誰か助けてくれよ。